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何それ、どういうこと?

俺は自分の耳を疑った。


『イフリートの炎爪』ってたしか女性だけで結成されてるクランだったよな!?

それに入らないかってことはつまり女になれってこと?

それとも何か含むところがあって「僕と契約して魔〇少女になってよ!」みたいなことでもあんのか!?


「……すいません、エンリさん、良く意味が分からなかったのですが。『イフリートの炎爪』って女性のクランですよね?それに入らないかってどういうことですか?」

「その、えっと、……あっ、カイトさんみたいなお優しい殿方に入っていただけたらクランも盛り上がるだろうなぁ、と思いまして」

「えっと、ですからその場合私は女として加入することになるのですか?」

「いえ、そんなことはございません、もちろんカイトさんには男性として『イフリートの炎爪』に来ていただきます!」

「ですが『イフリートの炎爪』は女性だけのクランなんでしょう?男の私が入るなんて団長であるお姉さんとか反対しないんですか?」


その言葉を聴いてエンリさんはうっ、と顔をしかめる。


「その、た、確かに姉は極度の男性嫌いです。ですから『イフリートの炎爪』発足当時より女性だけのクランということを貫いております……」

「でしたら私が『イフリートの炎爪』に加入することは無理でしょう」


そう言うと、エンリさんはテーブルから身を乗り出してくる。


「あ、姉は私が説得して見せます!そ、それにカイトさんがクランに入られればエフィーちゃんもゼノと近くにいることができます。ですから……」


うーん、エフィーのことを考えると入るってのもありかもしれん。

ハーフエルフ自体は難しいかもしれんがエフィー個人なら『イフリートの炎爪』の人々は受け入れてくれる人も多いだろう。


だが女性だけのクランに男の俺が入れるのかってのがそもそもの問題だろう。

エンリさんのお姉さんは極度の男性嫌いだって言うし。

いくら妹であるエンリさんが説得するって言ってもそういうことって感情的な部分が多いし厳しいんじゃないかな。


「すいません、二人と話させてもらってからでもいいですか?」

「……はい、もちろんです」


俺は許可を取ってシア、エフィーと話すことにする。


「シア、エフィー、どう思う?二人の考えを聴かせてくれないか?」


まずシアが答える。


「私はあまり積極的に賛成はできません。周りが女性だけという環境は私にとってご主人様にお仕えするためにはいろいろ都合がいいですが、そもそもエンリ様のお姉さまが賛成なさるかどうかわからないです。その段階で決めてしまうのは……」

「なるほど、エフィーは?」

「私もシアさんと同じで賛成しかねます。ゼノと一緒にいられることは嬉しいですがそれとこれとは別だと思います。今のところご主人様がクランに加入されるのはデメリットの方が多いかと」

「というと?」

「まずご主人様のスキルの点です。クランに入られたらクランの同じ団員の少なくない人達に知られることになります。同じ団員という点だけで公にしてしまうのは避けるべきかと」

「……ふむ、他にもデメリットはあるのか?」

「はい、私がハーフエルフだという点です。ご主人様とシアさんには受け入れて頂きましたが、『イフリートの炎爪』の団員全員に受け入れて頂けるとは限りません。仮に受け入れて頂けてもクランの内外問わず、クランの団員として動いていく中でも必ず私を目の敵にする者は現れます。その時、私を所有して下さっているご主人様に矛先が向き、クラン内でのお立場を悪くするでしょう。これら二つの理由から私は賛成しかねます」

「二つ目の点については気にしなくてもいいと思うんだが……、まぁとりあえずわかった、ありがとう、二人とも」


どちらの言うことももっともだ。シアが言ったことはそもそも入れるのかもわからない内から決めてしまうのは早計だ、ということだろう。

エフィーは入った後のことについてを説明してくれた。それにしてもエフィーは考え方だけで言ったらとても13歳とは思えん。自分がいることによるデメリットをあんなに淡々と理屈立てて話せるもんかね!?

俺が13歳の時ってどうだった?……うん、死にたい!


ま、俺としてもクランに入るってのはかなり消極的な考えだったからな。

クランに限らず俺は団体行動は嫌いなのだ。なぜ嫌なのに他の奴に合わせて行動せねばならん!

俺自身のためだけではなく団体としても俺みたいな奴がいることを良く思わない奴だって大勢出てくるだろう。

お互いが損する選択なんてただ不幸を生むだけだ。


それに団体に属してるってよりも自由に流離さすらう風来坊みたいな方が俺としては好きだ。

だって何かカッコよくない?


確かに組織の幹部とか副団長とかいう響きは悪くないけどさ、そもそも俺は肩書きとか名声とか基本興味ないし、組織に入るってなったらやっぱり規則に縛られることになる。ルール自体は秩序を維持するためにも必要だと思うが組織のそれは概して理屈だって説明できないような不必要なものが多い。そんなものに拘束されるなんてまっぴら御免だ。



二人が賛成だってんなら考え直さなくもなかったが、ふたりともが慎重論ならエンリさんには申し訳ないがこれは断る一択だな。


「エンリさん、大変ありがたいお話ではありますが女性のクランに男が入るというのはやはり憚られます。そして仮に今後その慣例が破られることがあったとしてもそれは私みたいな男では無いべきだと思います。ですからこの話は……」

「そんなことありません!」

いきなりエンリさんが大きな声を上げる。

「……えっ?」

「……そんなこと、ありません。カイトさんはとてもお優しい、人間的にもとても優れた方です。今回の件だけでも十分にカイトさんが魅力的な方だとわかりました。……ですから私はそんなカイトさんと一緒に……」


最後の方は声が小さくなっていったから良く聴こえなかったが、べた褒めされたことはわかった。

エンリさんの顔は赤くなっている。

だが俺はエンリさんにそこまで褒めてもらえるようなできた人間じゃない。

俺は……


そこで、ゼノさんが進み出てくる。


「カイト様、私からもお願いします。確かに私もエフィーと一緒にいたいという気持ちもありますが、それだけではありません。私はカイト様がクランに入って下されば絶対にクランはいい方向に向かう、その確信があります。ですから私もカイト様にクランに入っていただきたいのです。それに……」


そう言ってゼノさんはエンリさんの方をちらっと見る。


「主人のために尽くすのが奴隷の役目です。エンリ様のためにも私はカイト様に来ていただきたいのです。」


ゼノさんの言葉を聴いてエンリさんが驚いている。


「ゼノ、あなた……」

「私はいいのです、エンリ様が幸せになっていただけるのであればそれが私の幸せです」

「ゼノ、……ゼノ!」


エンリさんは涙を流しながらゼノさんを抱きしめる。

うーん、感動的ないい絵だなぁ。

……俺達放っとかれてるけど。


「ゼノ、私、私……」

「いいのですよ、お気になさらないでください。私はエンリ様のことを応援します。今までお世話になったエンリ様に少しでも幸せになっていただきたいのです。ですから……」

ゼノさんも泣き出した。

「ぐすっ、ゼノ、ゼノー!」

「エンリ様ぁー!」


その後二人が泣き止むまで俺達は温かい目で見守ることにした。

……この場に本当に俺いる?



「エンリ様、大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫です。……ゼノ、私は決めました。このことに関しては主従の関係は無しです。二人で幸せになれる方法を考えましょう!」

「ええっ!?エ、エンリ様!?私はそ、その……」

「私はゼノにも幸せになって欲しいのです!ですから私だけが、というのはダメです。ゼノも一緒に、です!」

「それは、その……、う、嬉しいのですが、よ、よろしいのでしょうか?」

「いいんです!……きっと見つかるはずです。ですからあきらめるのはまだ早いですよ、ゼノ!二人で頑張りましょう!」

「……エンリ様、ありがとうございます。私も、あきらめなくていいんですね?」

「ええ、そうですよ。二人で頑張りましょう」

「はい、エンリ様と一緒にどこまでも!」

「フフフッ」

「フフフッ」


なんかようやく話が纏まったっぽい。





良かったぁー!

良い話そうではあるんだけど如何せん俺とは関係なさそうだったし、もう俺いらねえんじゃね?と思い始めてたところだったからな。



成り行きを見守っていたエフィーが雰囲気を察して話し始めた。


「恐らく良い話をしているところ申し訳ありませんがまだご主人様はクランに入るとは言っていません。そもそもご主人様をお誘いになられるのはエンリ様のお姉さまを説得なさってからの方がよろしいのでは?」


エフィーの言葉を聴いてやっと自分たちの世界から帰ってくる二人。


「ハッ、……申し訳ありませんでした。……確かにエフィーちゃんの言う通りですね。姉を説得しないことには始まりませんか……」

「うー、あの方を説得するのは困難を極めるでしょうね。エンリ様のお言葉でも聴いて下さるかどうか……」


どっちにしてもまずはエンリさんのお姉さんを説得しないと話が進まないよな。

じゃあまぁそこを妥協点にしとくか。


「じゃあとりあえずこうしませんか?エンリさんのお姉さんを説得できた時、まだ同じ気持ちでいて下さったのならまた誘ってくださいますか?その時には私達の気持ちも変わっているかもしれませんし」

「……そうですね。私もそのあたりが今は妥当なところだと思います。ですができるだけ私達はカイトさん達と一緒にいたいんです。ですからこの街に少しでも長く滞在していただければと思うのですが……」

「そうですね、先ほども申しました通りまだ当面の予定はありませんのでしばらくはここに滞在しますよ」


俺の返答にエンリさんは嬉しそうに微笑む。

ゼノさんが進み出る。


「それは良かったです!この街は色々と有名なものがありますから退屈もしないと思いますよ?」

ほう、それはいい。

「へー、それは初耳ですね!何があるんですか?」

「まず何と言っても月に1回行われるオークションでしょうね!」


おおー!月一のオークションか。面白そうだな。


「オークションですか、どんなものを扱うんですか?」

「それこそどんなものでも大抵のものは扱ってますよ!目玉はいつも優秀な戦闘奴隷や性奴隷ですけどね。カイト様も戦力補強されたいならぜひ行って見られることをお勧めします!」


へー、奴隷もオークションに出品されるのか。

まあ今は余裕が無いってわけでもないしお金が貯まって良い人材がいたらってところかな。



「他には七大クランの一角を担う『ノームの土髭』の本館があるのもこの街なんですよ!」


ほう、七大クランですか!?

そもそも『クラン』について俺はあまり知らんがそう聴くだけでなんか凄そうって思っちゃうな。

これを機会にクランについて知るのもアリか。



「後はですね、街の外にあるんですが『クウガーの遺跡』も有名ですね!」

おおっ、遺跡とな!?

冒険心をくすぐる単語が出てきたな!

「そうですか。楽しみになってきましたね」

「そうですか!楽しんでいただけそうですか!?」

「はい、この街での滞在が退屈せずに済みそうです」

エンリさんも嬉しそうだ。

「それは良かったです!ではこれから街でもよろしくお願いしますね?」

「ええ、よろしくお願いしますね、お二人とも」

「はい、よろしくお願いします、カイトさん!」

「よろしくお願いします、カイト様!」




その日から俺達はしばらくの間、ナギラの街に滞在することになった。




これにて第2章終了です。

第3章からは物語の核心的な部分が少しずつ出てくる予定です。

あくまで予定です。変更される可能性は無きにしも非ず、ですので予めご了承ください。

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