表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/189

ここは……どこだ?

俺はどうなったんだ?

周りを見渡すもただ暗闇が続いているだけで今自分がどこにいるか分からない。


死んだのか?

ということはまたあの時みたいに意味の分からない空間にいるのか?

……わからない。


とりあえず何かしてみるか。


歩いたり声を出したりしてみるも何も起こらない、いや起こっているのかもしれないが自分ではどうなっているかの判断ができない。

歩いても進んでいるのか戻っているのか、声を出しても本当に空気を振動させて耳に届いたものか、ただ声を出そうと思っただけなのかすら全く判断ができないのだ。

そもそも上がどちらかとか今本当に立っているのかみたいな根本的なことすらわからない。




どれくらいそうしていただろう。時間の感覚なんかもおかしくなってきた。

3分位かもしれないし1日中そうしていたのかもしれない。



怖い


何もわからない


ただひたすら『無』




この空間には『何も無い』ということが『有る』だけだ。

このままだと壊れてしまう。

だがどうすることもできない。

まず考えることすらできない。

どうしようもない。




そうこうしていると『怖い』という感覚がどんなものかすらわからなくなってきた。


もう……わからない。




全てがもうどうでもいいと思って目を閉じた。








「カ……君、聞こ……かい?……ト君。僕……よ、……様だよ」




声が聞こえてきた、いや、頭の中に直接響いてきたのかも。わからんが。


とても懐かしい。……久しぶりに何かを感じることができた。



「君に……ことが……んだ」


ところどころノイズのようなものがかかって聞き取れない。


「だい……ぶかい?おーい、……えてる?おか……な、ちゃんと……のになぁ」


軽い口調で発せられる声が切れ切れながらも聞こえる。


少しずつ感覚が戻ってきている。

頭もさっきまでもやがかかっていた感じだったけど今は少しスッキリしてる。

若干怖い感覚も戻ってきたが今は特に気にしない。


「あのね、…り…えずもう話し……けど、君には……ことになってしまった」


肝心なところだけが聞こえない。これは恐らく俺のせいじゃない。


「カイ……君、……めんね、僕も君…のや…そく……もれないかも……ない」


何となく言いたいことはわかった。


とりあえずこちらから話しかけることはできないらしい。


「君の……を巻き込……かもしれない。君には……が無いよ」


「でも僕も……じゃ転……いよ、僕の……を全部してみる。君が命を……て守った……を僕は……からね」


ふむ、よくわからんがまた何かやらかしやがったらしい。

……ったく、何やってんだか。


「これか……そっちで色ん……とが…起…ると思う。これは……とのやく……を守……ことへのお詫びに……けど、また君に……を贈るよ。直ぐには……だろうけどきっと力に……てくれるよ!」


ほう、またなんかくれるって。直ぐにどうこうできるものではないらしい。まぁくれるって言うんならもらっとこう。


「じゃあね、もしかしたらまた機会があるかもしれないから、今回はこれで。またね、海翔君……」


最後だけやけにしっかりと聞き取れた。


ああ、またな……


俺はそこで今まで全く感じなかった眩い光に包まれ、意識が途切れた。










「ここ、は?」

俺が目覚めると、そこには見慣れない天井があった。


記憶は少しモヤッとしているがさっきまでのことはなんとなく覚えてる。

神様あいつが何かやらかしてまた厄介なことになるかもってことで俺に接触してきた。

さっきのことが本当にあったのかどうか。

何か俺にくれたようだが今のところ何をもらったかもわからん。

どっちにしても今直ぐどうこうできるものじゃないってことだしとりあえず保留でいいか。




「ごしゅ、じん、様ぁ……」

「ごしゅじん、さま、いや、死な、ないで……」



声のする方に顔を向ける。

シアとエフィーがいた。


俺の寝ているベッドに体を預け、眠っているようだ。

目からは涙がこぼれている。



何となく状況はつかめた。


「うっ、うん、よい、っしょ」


俺はまだ少しダルい体を起こし、手で二人の涙を拭ってやる。


「……うーん、ん」


反応したシアはどうやら起きそうだ。

しまったな、もう少しゆっくりやればよかったか。



まだ頭が覚醒してないのかシアは眠たそうな顔でゆっくり体を起こす。


起きたシアは俺の方を見て目をパチパチさせている。


あっ、目があった。


「……おはよう、シア」


シアはポーっとしている。

何度も瞬きを繰り返している。


「……ごしゅ、じんさま?」

「ああ、恐らくシアのご主人様は俺だな」


その言葉を聴いたシアの目がやっと俺をしっかり捉える。

「主人様!!」

シアはすごい勢いで俺に飛び込んできた。

「おおっと」


抱き留めたシアは俺の胸に顔をすりつけてくる。

うれしいんだけど、俺汗臭くないかな。

「ご主人様、ご主人様、ご主人様……」

シアは泣きながら俺のことを呼び続ける。



「んーん……あ……れ」

どうやらエフィーもシアの声で起きたようだ。


「おはよう、エフィー」

「ごしゅ、じんさま……、ご主人様!!」


エフィーは直ぐに理解したようで俺に飛びついてきた。


シアのいる方とは逆だったためぶつかるようなことは無かった。

エフィーは俺の服をギュッと握りしめ、体が震えている。


「ひっく、ご主人様、よかった、です、ひっく、本当に、よかった、ひっく、です」



二人を宥めるように頭を撫でてやる。


「心配……かけたか」

俺が言うと、二人がそれぞれ反応する。


「ご主人様、5日も目を覚まされなかったから、私、ライル様のように、ご主人様もお目覚めにならないんじゃないかと、私、私……」


俺は5日も寝ていたのか。


シアは目を覚まさない俺をライルさんの時と重ねてしまったようだ……。

事件のその場にいて見知っていた分余計に不安になってしまったのだろう。



「わた、私、大好きな、ひっく、ご、ご主人様が、死んじゃうんじゃ、ないかって」


エフィーはまだ身近な人が少ないからそれを失うことが怖かったんだな。




二人をここまで心配させたのか……



「すまなかった、心配させたな……」


俺は二人が落ち着くまで胸を貸してやった。





その後、二人が落ち着くまでたっぷり時間を使った。

それから俺が倒れてしまった後のことについて聴いた。

回復魔法をかけても目を覚まさなかった俺や戦闘は無理だろうと判断されたエンリさんは馬車に乗り、2日かけてナギラの街へ到着したらしい。


その移動の間、エフィーは俺やエンリさんに付きっ切りになっていたため、俺達のパーティーの護衛はシア一人で何とかしたんだとか。「俺が目覚めない不安な中よく頑張ってくれたな」と褒めると、「ご主人様がお目覚めになった時に依頼をこなせていなかったら悲しまれると思いましたので」と言われた。


その時もずっと不安ではあったんだろう。ただライルさんの時の俺のように護衛に集中して不安になるようなことをできるだけ考えないようにしていたんだろう。


ナギラの街について依頼の達成報告をしてからはこの町にある『イフリートの炎爪』の支部、今俺達がいるここ、でお世話になっているということらしい。




話を聴き終え、俺が目覚めたことに安心し、再び泣き出しそうになるエフィーや自分がトロールを逃がさなければこんなことには、と自分を責めるシアを宥めていると、不意にノックの音が響き、ドアが開いた。


「失礼します。エフィーちゃん、シアさん、そろそろご飯でもどうですか?ちゃんと食べないと体が持ちま、せ……」


あ、エンリさんだ。

起きてる俺を見て驚いている。


「……カイトさん!お目覚めになられたんですね、よかったです、本当に、本当に良かったです……」


エンリさんは目からこぼれ出た涙を拭っている。


「エンリさん、ご心配をおかけしました。それに、私も含めてシアとエフィーがお世話になったようで、ありがとうございます」

「いえ……、お礼を言うのは私の方です。モンスターの襲撃もゼノのことも、私の怪我のこともカイトさんのおかげでどうにかなりました。……恐らく私達だけでは全滅していたはずです。私達が大切な人達を失わずに済んだのはカイトさんのおかげです。本当にありがとうございます」


そう言って深々と頭を下げるエンリさん。


「私がしたことはそこまで大げさなことではありません。実際に色々動いてくれたのはシアとエフィーです。ですから私に対してそこまで畏まる必要はありませんよ?」

「もちろんシアさんとエフィーちゃんにもたくさん感謝しています。今はカイトさんにお礼を言いたいんです!」


ふむ、頑固ですな。

どうしよう、俺モンスター倒した後お荷物になっちゃったしお礼とか言われんの気が引けるんだけど。

うーむ……


グ~~~~~~ッ


どうしようか迷っていると、俺のお腹の虫が大きな音を奏でた。

恥ずかしっ!!


「……すいません、お腹がすいてしまいました」


申し訳なく頭を掻く。


「フフフ、5日も眠っていらしたんですからお腹が空くのは当然です。まずはご飯にしましょうか。ちょうどご飯の準備ができてシアさんとエフィーちゃんを呼びに来たところだったんです。お話の続きはその後にでも」


「はい、そうしていただけると助かります。……シア、エフィー、それでいいか?」

「はい。私も安心しましたらお腹が空いてきました」

「私も同じです」



その後、料理が運ばれてきたのだが、その時俺の起きている姿を見たゼノさんが感極まって泣き出してしまった。収拾するのに苦労した。




「ではいただきましょうか。どれもおいしそうですね」


俺は料理を見て素直な感想を漏らす。5日も食事をとっていないと大抵の物はうまそうに見える。……よくマンガ等で出てくるヒロインの作ったどうやったらそうなるんだ、という料理は除くが。



「はい、うちのクランは料理上手が多いですから。……ではカイトさん、あーん」


そう言って掬った料理を俺に差し出してくるエンリさん。

へ?どういうこと?


「……あの、エンリさん、これは?」

「……その、カイトさんは5日も寝ていらっしゃったんですしあまり力が入らないかと思いまして。ですから誰かが食べさせてあげませんと」


頬を染めながら言うエンリさん。

えっ、マジでどういうこと?

じゃんけんに負けた罰ゲーム!?

「嫌いな奴に好きって言って来い」みたいなやつ!?




……うわー、また嫌なトラウマ思い出しちゃった。

一時期じゃんけんで負けたやつが俺の髪の毛にタッチして帰ってくるっていうゲームがクラス内で流行ってたなぁ……。

くそっ、男子ならまだしもそれを女子にやられた時のリアクション程ダメージを受けるものは無い。


「い、い、行くよ!……えい、キャー、呪いがうつった~!」っていうの。


「~菌がついたー!」とかならわかるが(いやわかりたくはないが)、「呪い」ってなんだよ!?

触るだけでうつるってどんだけ俺すごい存在なんだよ!直ぐに手を洗いに行っても「呪い」だと取れねえだろ!しかもそのお祓いには俺と10秒間握手しないといけないっていう謎のルールもよくわからん!


「……ね、ねぇ、谷本君、10秒間、握手、してくれない?」


って何か物憂げな表情で女子に言われたときの俺の気持ちわかんのか!?

始め「えっ、もしかしてコイツ、俺に……」なんて思ってちょっとドキドキしたのに後でこのルール知った時の俺のやるせなさ!握手し終わった後、なんか犯されたみたいな顔して涙目で逃げてく女子を見て不思議に思ってたあの頃の俺を殴りたい!!


やられる方の身にもなれよ!?

ひと肌恋しい多感な時期に女子に触れられる機会なんか滅多にないから貴重なんだぞ!?それだってのにそれ罰ゲームでされるんだぞ!

むしろそのリアクションを見せられる俺の方が罰ゲームだ!



……はぁ。かなり萎えてきた。


「エンリさん、私は自分で食べられますからご心配なく。そこまでエンリさんのお手を煩わせるわけにもいきません」

「ですが……」


まだ食い下がろうとする。

そこへ、

「でしたら私がご主人様にさせていただきます。私はご主人様の奴隷ですから。……ご主人様、あーん、して下さい」


とシアがスプーンを差し出してくる。


「シ、シア。だから俺は一人でも……」


断ろうとするもエンリさんの言葉に遮られる。

「シアさんはここ最近睡眠不足でお疲れでしょうし、ご自分のお腹もお空きでしょう。ですからこれは私が……」


シアも負けじと応戦する。

「いいえ、私はご主人様の奴隷です。他の方にご主人様のお世話をお任せするわけにはいきません。ですからこれは私が……」

「ぐっ、そうきましたか。ならば……」


シアとエンリさんの間に火花が散っているように見えるのは俺の錯覚か?


エフィーやゼノさんに助けを求めようとするもこっちはこっちで同じようにどっちが俺に食べさせるかで揉めている。

なぜ4人での対立ではなく1対1が2つと言う構造になったのかはよくわからん。





とりあえず無難に一人で食べとこう……。




その後、10分程して何とか話が纏まったらしい。


「……では交代で食べさせて差し上げる、それでいいですね?」

「ええ、仕方ありませんね。それで手を打ちましょう」


「ゼノ、抜け駆けはダメですからね?」

「エフィーこそちゃんと順番守ってよ?」


それぞれの話が相手のグループに聞こえたらしくようやくまだ敵がいたことをお互いが悟る。

また言い争いが始まった。



俺はせっせとその間に料理を平らげていった。





俺が粗方満腹になった頃にもう満腹だ、ということを伝えたら4人はとても残念そうな顔をした。

危なかったー、あのままだったら全員が満足するまで食わされてたな。

久しぶりに俺の危機管理センサーが光ったな!




その後全員が食べ終えた後、俺達は部屋でくつろいでいた。しばらくしてエンリさんとゼノさんがまた部屋を訪れた。さっきの話の続きをしに来たのだろう。



「では改めまして。……カイトさん。今回の件、本当にありがとうございました」

「私からも申し上げさせてください。本当にありがとうございました、カイト様!」


二人は深々と頭を下げる。


「さっきも申した通り私がしたことは大したことではありません。それに私自身『イフリートの炎爪』の方々に大変お世話になりました。ですからそこまで恩義に感じていただきたくはないのですが……」


俺の言葉を聴くと、エンリさんは頭を上げにっこりと微笑む。

「……カイトさんは本当にお優しい方なんですね。奴隷であるゼノに上級ポーションを与えて下さって。さらにはそのことを歯牙にもかけられないなんて」

「はい、カイト様はとてもお優しい方です。……エンリ様、ここはやはり……」

「……ええ、そうですね」


エンリさんはゼノさんの言葉を聞き、意を決して俺に向き直る。





「カイトさん、これからどうなさるのですか?」


いきなりだな。まだ起きてそんなに経ってないし、直ぐには決められないんだが……。


「そうですね、あまり具体的には決まっていませんが体を少し休めたいですし数日中はこの街に滞在するつもりです。……シアとエフィーもそれでいいか?」

「はい、ご主人様のお体が第一ですから」

「その通りです、ご主人様にはお体を休めていただきたいですし、ここに留まるのは賛成です」

「ありがとう。……ということです」

「そうですか。……スーハー、スーハー」


エンリさん何か深呼吸してる。

ゼノさんも「頑張って下さい、エンリ様!」って応援してるし。


何だ?何かあんのか?


エンリさんはまた俺に向き直る。何か決心したようだ。


そして再び口を開く。





「……でしたらカイトさん、私たちのクラン、『イフリートの炎爪』に入られませんか?」




……えっ?何ですって!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ