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これどういう状況?

俺たちはナギラの街への護衛依頼を開始した。


商人の馬車を真ん中として『イフリートの炎爪』、エンリさんのパーティーが左前、後から応援でやってきたパーティーが右前、そして俺たちが後ろについて進んでいる。


後から来たパーティーは剣士2人、戦士1人、魔法使い1人からなるチームだった。

魔法使いはそこそこ見かけるが治癒術師ってあんまりいないのか。



ナギラの街への道は最近冒険者がモンスターに襲われ帰ってこないことも少なくないと事前に言われていた。しかし、進み始めて3時間ほどしたが、特にモンスターに遭遇するといった事態はまだない。


途中、休憩を挟み、また進み始める。



1日目は出発自体は遅れてしまったものの、トラブルなく進めたので、予定とほぼ変わりない距離を移動できた。


夜は野営をして周囲を警戒する。3時間交代でそれぞれのパーティーが行うことになった。

最初は俺達のパーティーが担当した。


そこで問題が発生した。







俺以外全員女性だったことに今気づいた!

商人ですら女性だっていうこの状況。

そりゃ『イフリートの炎爪』の関係者だって話だしね!


みんな簡易テントの中で体を拭いてるのがシルエットで分かっちゃう!

どうすればいいの、俺は?覗けばいいの!?



俺が頭を抱えているとシアとエフィーが話しかけてくる。


「……ご主人様、何かお悩みですか?」

「私達でよければお話を伺います」



うーん、二人に、俺以外が女性で悶々としているとは言いづらい。

でもこのままだとまた二人は突拍子もないことに奔ってしまうかもしれん。

それとなく言ってみるか……


「その、な、俺以外皆女性だろ?だからその……」



ザザッ



そう言おうとした時、不意に何か音が聞こえた。


「……シア、エフィー、皆に警戒してって伝えてきて。俺が様子を見てくる」

「ご主人様、私も……」

「いや、大丈夫だ。二人は皆と待っててくれ」

「……はい、お気をつけて」

「ああ」




俺は音がした方へと向かう。

草むらから聞こえた音は次第に大きさを増していく。

手に生活魔法で火を灯し視界を照らす。



そこには手や顔がただれたいわゆるゾンビが6匹いた。


「ウァー」

「ヴォー」

「ボェー」


ゾンビ等は奇声を発して手を前に突出し前進してくる。

最後の奇声はなんか違うような気もするが、現実にゾンビを見るのは初めてだ。

正直ただれ具合がリアルで気持ち悪いが想定していた程のものではない。


とりあえず倒さなきゃならんが、ゾンビと言ったらゲーム等での正攻法がある。

試してみるか。


俺は治癒魔法を迫ってくるゾンビ達に放つ。


「ヒール!!」


魔法をくらったゾンビは目に見えてダメージを受けている。

苦しんでいるように見えるがゾンビに痛覚とかあんのかね?


回復系の魔法が通用することはわかった。

どんどん倒していこう!




「ヒール!!」


6体目のゾンビに魔法を浴びせ、弱ったところを切る。

ゾンビ特有の蘇生なんかは無いようだ。


俺は全てのゾンビを片づけ、周りに他のモンスターがいないか確認してから皆のところへ戻る。



シアやエフィー、『イフリートの炎爪』全員が武器を構えて待っていた。

俺の姿を確認すると、全員がどこかホッとした表情を浮かべる。


シアとエフィーが俺の下に駆けてくる。


「ご主人様!お怪我はありませんか?」

「ああ、とりあえず無事だ。皆も安心してくれ」

「それで、何かいたのですか?」

「ああ、ゾンビが6体こっちに近づいてきていた。全て倒した。周りを確認したがもう他のモンスターはいなかったはずだ」


俺の言葉を聞いて『イフリートの炎爪』の面々が驚いて声をあげる。


エンリさんが代表して俺に尋ねてくる。

「えっ!?ゾンビですか?この街道にアンデット系統のモンスターが生息していると言う話は聞いたことがありませんが……」

「ですが実際に私が見て戦闘したのは紛れもなくゾンビでしたよ」


俺の言葉を聞いて考え込むエンリさん。

そして、

「……もしかしたら最近街道でよく冒険者が襲われていることと何か関係しているのかもしれません」

「そうですね、この辺りに生息しないモンスターの出現のことを考えれば何か繋がりがあると考えるのが妥当ですね」

俺も賛成しておく。


「……ということです。皆さん、これからも何が起こるか分かりません。気を引き締めてください」

「「「「はい」」」」


エンリさんの言葉でその場は終わりとなった。



その後見張りを交代して次の日を迎えたが問題は起こらなかった。


2日目、途中何回かモンスターに襲われた。警戒していたこともあって『イフリートの炎爪』の人々と協力して迎撃できた。襲ってきたモンスターはここらでは目撃されたことのあるものであり、特に問題とはならなかった。


その日の夜も俺が一人悶々となったこと以外は再びゾンビが現れたということもなく無事終わった。


どういうことだったんだろう?一過性だったってわけでもないだろう。近づいてきて音がするまで全然わからなかった。いきなりその場に現れたって感じだったし。ゾンビにそんな気配を消そうとする知性があるかは疑わしいし、よしんばあったとしても、それを実行できる能力があるのか?


鑑定したときも特におかしな点はなかった。スキルも持っていなかった他のどこにでもいるモンスターと同程度のステータス。


ここまでくると考えられる可能性というのは限られてくる。

恐らく……




3日目、それは突如として起こった。



夜、エンリさん達のパーティーが見張りを担当していて、俺達が休んでいる際、いきなりゼノさんが俺達の下に駆けてきた。


「皆さん、敵です。既に囲まれています!」


出てきたか!

しかも既に囲まれている!?


俺達は直ぐに臨戦態勢に入り、問題の場所へ向かう。




エンリさん達は既に戦闘を始めている。

かなりの数だ。確かに退路を断つような形でモンスターが配置されている。

これはもう決まりだな。



第3者が裏で操っている。



実際にコイツ等を操作したのかどうかはわからんがモンスター達が自然に起こしたとするより誰かがこうなるよう仕組んだと考えた方が色々と都合がいい、というよりこれ以外だと説明できん。


見えるだけでゾンビ、ウルフ、グラスビーが大勢いる。

そして何よりも異様なのは他のモンスターとはサイズが全く異なるトロールが1匹いることだ。

討伐推奨ランクはBランク。

こんな時でなかったらトロールの鼻に何か突っ込んでやって「うわー、トロールの鼻くそだぁ!」ってボケをやってやりたいんだが、今はそれどころじゃない。



俺はモンスターの掃討に参加するべく可及的速やかに作戦をシアとエフィーに伝える。

そこへ、エンリさんの声が届く。

「カイトさん!!トロールは私達が何とかします、ですので他のモンスターをお願いできますか!?」

うぅむ、若干の作戦の補正は必要になってくるが仕方ないか。


俺も叫び返す。

「わかりましたぁ!そっちは任せました!」


俺の言葉を聞き、エンリさん達はトロールと対峙した。

もう一つのパーティーには商人を守ってもらうことにする。


「シア、エフィー、さっき伝えた作戦の中のゾンビだけを担当してくれればいい、他は俺が何とかする!」

「「かしこまりました!」」

「任せたぞ!」


俺はそう言ってすぐにモンスター狩りに向かった。




「スラストウィンド!!」


ザシュッ



「でりゃぁ!!」


ブシャ



「はぁ、はぁ、はぁ。」


戦い始めてから3分程経った。


俺はとりあえず近くにいる敵は剣で切り倒し、飛んでいたりすばしっこい奴は主に風魔法で迎撃していった。




今半分ってとこか。

これでもかなり頑張ったんだが。


もう半分倒したと考えるか、まだ半分しか倒せてないと考えるか……。


ちらっとエンリさん達の方を見る。

奮闘してはいるが少し押され気味と言ったところか。

助太刀したいが俺が雑魚を放っていくとその皺寄せが他の人に回る。

とりあえずは目の前のコイツ等に集中しないと……


そんなことを考えていると、体が光に包まれ、回復していくのを感じた。



「ご主人様、ご無事ですか!?」



シアが剣をこちらに向けていた。

魔法剣の魔法を解放してくれたのか。


エフィーもこちらに向かって駆けてきた。



「二人とも、もう終わったのか!?」

「はい、二人で協力して何とか」

「……シアさん一人の独壇場でした。私はほとんど何もできませんでした」

「えっ、そんなことなかったじゃないですか!エフィーだって……」



俺が二人に授けた作戦は実に単純なものだった。

シアの魔法剣に回復魔法を込めてゾンビをただひたすら切らせる。

HPが下がってきたら魔法を解放。エフィーに充填してもらう。

エフィーはMPが切れないよう注意しつつシアの援護。


……まぁエフィーの報告からすると俺の想像した通りただのシア無双に終わったのか。


「まぁとにかく二人ともよくやった。悪いがこっちを手伝ってくれるか?」

「「はい!」」


俺達のパーティーは残党の掃除を始めた。




さらに3分程して大体倒し終わった頃、俺はエンリさん達が戦っている方とは逆の方から一瞬だが何か気配を感じた。

今まで周りはモンスターばかりだったため他の気配などわからなかったが、今は周りに気を配る余裕ができた。



恐らく今回の黒幕だろう。

あまり気配を消すことには通じていないらしい。

どうやって探そうか迷っていたが手間が省けた。



俺達がモンスターを粗方倒したのを見ていた、商人を守っていたパーティーはエンリさん達の援護に回りだした。


よし、なら俺達は……


「シア、エフィー、俺達は今回の首謀者の方に回るぞ!」

「えっ、首謀者、ですか?」

「ああ、ついてくれば分かる」

「……わかりました。行きましょう、ご主人様!」

「そうですね、そうすればこの敵襲も止むでしょう」

「ああ、じゃあ行くぞ!」

「「はい!」」





俺は気配を感じた方に向かって進んで行った。

近づいていくと茂みの中がガサガサと揺れている。




あ!野生のジジイが飛び出してきた!

……本家と比べると全く可愛げがない飛び出し方だった。


「な、なんじゃ貴様ら!どうしてここにいる?モンスター共と戦闘しているはずじゃあ!?」


やはりこのジジイが黒幕らしい。

頭は禿げていて顔も皺が目立っていて、ボロボロのローブを着ている。

場所が場所だったら仙人か何かと間違えるかもしれん。


鑑定してみる。


名前:パルー

種族:人族

身分:平民

性別:男

職業:1.盗賊 2.召喚士

年齢:78歳



Lv.44

HP:88/88

MP:41/221

STR(筋力):43

DEF(防御力):45

INT(賢さ):101

AGI(素早さ):38

LUK(運):24



『召喚』




コイツ、召喚士だと!?



もしかしたら時空魔法で空間をいじってどうにかしたということも可能性としては考えていたがそうか、召喚士か、コイツ。だがこれでいきなりあの数のモンスター共が現れたことにも説明がつく。



召喚士といったら上級のジョブだからそれまでの下級のジョブのスキルを何一つ持っていないのとか盗賊のくせに能力値が偏り過ぎってのは気になるが今はスルーだ。



「爺さん、あんたが今までの襲撃の首謀者だな?」

「な、なんのことじゃ、わしゃあ全く知らんぞ!?」

「じゃあなんで俺達がモンスターと戦ってたって知ってたんだ?」

「そ、それは……」

「もういいだろう、あんたがやったんだろう、あいつ等を召喚して?」

「な、何故それを知ってるんじゃ!?」

「ほうら、やっぱりお前だ」

「ぐっ、」

「ゲームセットだ、爺さん、アンコールはねぇぜ」


俺が冷たい声でジジイを見下ろしている。

俺は剣を振り上げる。

ジジイ本人は恐れる程の強さではない。


俺が剣を振り下ろそうとするが、ジジイは俺を見て嘲り笑ってくる。


突然、悲鳴が聞こえてきた。


「キャー、ゼノ、エンリ!!」



何が起こったんだ!?

ジジイは笑っている。


「てめぇ、何しやがった?」

「ホッホッホ、ただトロールの契約を解除してやっただけじゃよ、今までワシの制御下におったモンスターが野生に戻ったのじゃ。……さて、どれほどの凶暴さが戻ったじゃろうな?」

「くそっ、つまんねえことしやがって!」


俺は止めていた手を再び動かす。

俺が止めを刺す前にジジイの体が光りだした。


ちっ、今度は何だ!?



俺達は直ぐにジジイから離れる。


光が収束するとそこに1体の巨大なモンスターが姿を現した。



オークだった。


「バカな、詠唱無しで召喚したのか!?」


ジジイはぐったりしてはいるものの、その顔から薄ら笑いは消えてはいなかった。

「ふぅ、ふぅ、どうやらうまくいったようじゃな。今まで奪ったものを売っぱらった金で買ったものじゃ。まぁMPはごっそり持って行かれたがな」


くそっ、面倒な!


「ちっ、シア、エフィー、やるぞ!」

「はい!」

「わかりました!」


俺達が迎え撃とうとすると、1人の女性が駆けてきた。


「た、助けてくれ、トロールがい、いきなり凶暴化して、それで、ゼノが、ゼノが、エンリを庇って、大怪我して、もう虫の息で、それで、ポーションはもう使い切ってて、今は何とか防いでるけどエンリも怪我してるし、このままじゃ押し切られる、頼む、助けてくれ!」



くそっ、あっちはそんなことに!

どうする!?


「ゼ、ゼノが!?ど、どうしよ」


エフィーはかなり動揺している。

そりゃそうだ。

大切な友達が危ないって聞かされたらそうなる。

なら……


「エフィー、これを持ってゼノさんのところへ行け!その時にエンリさんも魔法で治せ!」


俺はそう言ってアイテムボックスから上級ポーションを取り出してエフィーに投げる。

エフィーはキャッチはしたが戸惑っている。


「ご、ご主人様、こ、これは」

「いいから行け!このままじゃ友達を失うことになるぞ、それでもいいのか!?」

「それは、で、ですが……」

「くそっ、これ以上食い下がるようなら『命令』することになるぞ!」

「ご主人様……」

「さあ、行け!」

「……はい、ありがとうございます、ご主人様!」


そう言って駆けていくエフィー。その後を弓使いの女性がついていく。


「シア、エフィーの護衛をしろ!ついでにトロールも倒してこい!」

「ご主人様……」

「シアも時間をかけさせないでくれ、それとも俺を信用できないか?」

「……ご主人様はこの世界で最も私が信用させていただいているお方です。……直ぐに倒して戻ってきます!」

「ああ、戻ってくる頃には終わってるさ!……さあ、行け!」

「はい!」


シアもすぐに走ってエフィーを追う。



「爺さん、悪いが第2ラウンドは俺が相手してやるよ。そこのオークと一緒に纏めて引導渡してやるから安心しな。……行くぞ!!」



オークに向かって駆けだした。


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