ふむ、護衛依頼ですか……。
少し長めになりました。書いてたら楽しくなってきたので切るのを忘れて続けてしまいました。
狭いながらも俺を挟んで川の字を作って一夜を過ごした。
昨日は二人を相手にしていたが記憶もはっきりしている。
2回目だから、とかじゃなくて二人のことをちゃんと最後まで可愛がってあげたかったからなんだと思いたい。
朝、幸せそうな寝顔をしている二人を見ながら起床する。最近は二人もすぐに起きるのだがいつも俺の方がちょっとだけ早い。二人の可愛い寝顔を俺だけが独占できる。少しだけ優越感を覚えるな。
俺が着替え終わると、二人も起き始めたようだ。
起き始めの二人にキスをする。
元の世界のことを思うと考えられないな。
「んっ、ごしゅ、っじんさまぁ、んっ」
シアは自分から俺の首に手を回して俺を求めて来る。朝から少し大胆だな。
「……ちゅっ」
エフィーはどこか気恥ずかしそうにしながらもキスした後は嬉しそうだ。
二人の反応はどこか対称的だったが、どちらも幸せそうな顔をしてくれるということにおいては同じだ。
改めて俺はしっかりしないとと思う。
その後、朝の訓練を終え、朝食を済ませると、俺たちは昨日決めた通り依頼を受けにギルドに向かった。
シアは2回目と言うこともあり見たところ何とも無さそうだったが、エフィーは少し歩きづらそうだった。
俺が「無理するなよ?」と言うと、「これは私にとってとても幸せな痛みなのです。ですから私はこの痛みを大変嬉しいことだと思っています。どうぞご心配なさらずに」と返された。
まぁ本人がそう言うなら大丈夫なのだろう。
しかしあんまり無茶させるのもあれだし今日は依頼は軽いやつの方がいいな。
俺たちは掲示板を見て手ごろな依頼がないかを探す。
今回は討伐系は無しだ。それ以外でとなるとなかなか見つからないな。
俺たちが依頼を探していると職員の男の人が話しかけてきた。
「ちょっといい、君たち依頼を探しているのかい?」
それ以外の何かに見えるのか?と聞きたい。
「ええ、討伐系以外のものを探しています」
「それはちょうどよかった!実は今護衛の依頼を受けられるパーティーを探しているんだよ。複数のパーティーで受けてもらうものなんだけど急に一つ穴ができちゃってね。だからよければ受けてほしいんだけど」
急な話だな。
「それは受けたら今すぐ向かわなければいけないものですか?」
「いや、出発は明日の8時、集合は町の北門前。依頼内容は商人がここから北のナギラの街に行くのをDランク以上の3つのパーティーで護衛して欲しいというものだよ。4日~5日位を見てもらった方がいいかな。報酬は4000ピンス、途中モンスター等現れた場合は別途考えるそうだ。君たちDランク以上だよね?」
「ええ。ですが明日出発なんでしたら別に今すぐ私達だと決めてしまわなくてもいいんじゃないんですか?」
「それがね、本来昨日までに3つパーティーをそろえないといけないんだけど1つにドタキャンされたからね。だから急いでもう1つ見つけて依頼主に報告しないとダメなんだよ」
「はぁ。なるほど。……メンバーと相談してもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
俺は後ろで控えている二人にどうするか尋ねる。
「……そうですね、いいんじゃないでしょうか。急とはいえ今日1日準備する期間もありますし」
「はい、私もシアさんと同じです。護衛の依頼ですからまだ未経験なわけですし、これを機に1度どんなものか経験しておくのもいいことかと」
ふむ、二人とも賛成か。
ナギラの街に行くということだけどこれを機に拠点を移すというのもアリだな。
本来であれば俺のスキルのこともあるし団体行動になるのは避けたいが、そう言って避けてきた結果がこれだからな。まぁいい機会だしスキルを隠しながら戦う訓練でもしてみようかな。
急だけど1日準備期間があるんだし大丈夫か。
「わかった、じゃあ受けるか」
「「はい」」
「お待たせしました。依頼ですが、受けさせていただきます」
「そうか、いやー、助かるよ!これで依頼主への面目が保てる。じゃあ、そういうことで依頼主に連絡しとくよ?」
「はい、よろしくお願いします」
職員は慌ただしく去って行った。
明日からの準備やエフィーの体調のこともあるし今日は他の依頼は受けないようにするか。
そうして、俺たちはその日は護衛の依頼の準備や体調を整えることに充てた。
翌日
俺たちは準備を整え、北門前に足を運んだ。
そこには既に他の2つのパーティーがそろっていた。
1つは男が4人集まったむさ苦しそうなもの。
もう1つは真逆で女性だけで4人の花のあるチーム。
うん、対称的だな。
「おう、お前らが新しく加わった3組めか?」
男のパーティーのリーダーと思われるゴリラの生まれ変わりのようなオッサンが話しかけてくる。
……言っておくが一切の誇張は無い。うっかり「ゴリラさん」と呼んでしまいそうなくらいゴリラなのだ!……いきなり「ウホッ!」とか言わないよな、この人。
「はい、そうです。ゴ、……あなたもこの依頼を受けたパーティーの方ですか?」
「ああ、そうだ、俺はクラン『破壊の御手』のゴリーだ、後ろにいる奴等は俺のパーティーメンバーだ。お前みたいなガキが一緒なんて面倒この上ないが、受ける以上は嫌でも協力しなければいけなくなる。足を引っ張るんじゃねぇぞ」
言葉を聴くと、シアとエフィーはむっ、として彼に突っかかろうとするが、俺はそれを抑えた。
二人は不満そうだったが、俺は今それどころじゃない。
「ゴリー」って何だよ!何なの、狙ってるの!?
親も酷すぎだろ!この世界にゴリラがいないとしても流石に「ゴリー」はないだろう!
それに彼の後ろに控えているメンバーも何だか一癖も二癖もありそうな顔だし!
挙句全員シアやエフィー、女性パーティーのこと見て「デュへへへへへ……」みたいなこと言ってるし!!
もう何なの、変態で気持ち悪いか顔おかしいかでキャラ統一しろや!お前等みたいなやつ需要無いんだよ、誰が得すんだよ!
……駄目だ、いかに俺がポーカーフェイスといえどもこれは強敵だ。
何とか顔に出なければいいが……。
ゴリーが去った後、女性パーティーの恐らくリーダーが近寄ってきた。
「どうも、私はクラン『イフリートの炎爪』のエンリです。人族ですが魔法剣士をしています。私たちは女性だけでパーティーを編成していますが、彼らのように敵対的になるつもりはありません。よろしくお願いしますね」
ニコッと笑顔を向けてくれる。綺麗な人だな。
「はい、私はカイトと言います。よろしくお願いします」
頭を下げておく。ふぅ、コミュ障の俺でも最近は挨拶位はできるのだ。
ステータスを鑑定したところ、野郎共は戦士が2人、剣士が1人、ゴリラが1人、……色々と間違えた。ゴリーは格闘家だった。
『イフリートの炎爪』はエンリさんは言っていた通り魔法剣士、戦士が1人、弓使いが1人、魔法使いが1人だった。
二人の下に戻ると、どういうことか二人がちょっと拗ねていた。
「どうしたんだ、二人とも?」
「……ご主人様、あの女の方と話しているとき嬉しそうでした」
「……デレデレなさってました」
おおぅ、何だか怒ってらっしゃる!?
「いや、別に嬉しくもなかったしデレデレもしてなかったと思うけど……」
「嘘です、デレデレしていらっしゃいました!……やっぱり私は魅力が無いのでしょうか?」
「ご主人様、奴隷の私が申し上げるのも何ですが、余所の女性に懸想されるのはご主人様も男性ですし仕方ないところもありますが、シアさんを悲しませるようなことは……」
「あーもう、悪かった!シアとエフィーを不安にさせてしまった。俺はちゃんとシアとエフィーのことが好きだから安心してくれ」
「ご主人様……」
ふぅ、とりあえず収まってくれたか。
そう思っていると、女性の一人がこちらに来て話しかけてきた。
「エフィー?エフィーだよね!?」
「……えっ、その声はゼノ?」
「やっぱりそうだ!エフィー久しぶり、元気にしてた?」
「はい、驚きました、ゼノも元気そうですね!」
「もちろんだよ。こんなところでまた会えるなんてね。……私が買われた時はとっても心配だったけど、どうやらいいご主人様に買ってもらえたんだね」
「……はい。最高で大好きなご主人様です!」
二人はどうやら奴隷商館にいた頃の知り合いのようだ。
二人が盛り上がっていると、『イフリートの炎爪』の他の人々も集まってきた。
「あら、ゼノ、知り合いなの?」
「はい、エンリ様。この子はエフィーと言って私が奴隷商館にいた頃の友達なんです」
「そう、あなたがよく言っていたハーフエルフの子?」
!?、……エンリさんはエフィーがハーフエルフだということを知っている?
「……とても可愛らしいい、いい子じゃないですか。……エフィーちゃん、ゼノとこれからも仲良くして上げて下さいね」
「……あっ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
エフィーがぺこりと彼女たちに頭を下げる。
エンリさんの話を聴いていた他のメンバーも話に加わり出した。
「なぁんだ、ハーフエルフっていうからどんなのかと思ってたけどゼノの言う通り普通の可愛い女の子じゃん。警戒して損したぁ~」
「そうね、ハーフエルフってだけで騒いでる奴等がおかしいのよ」
エフィーが受け入れられている。俺とシアはその光景を見てお互いに微笑み合った。
良かった。やっぱりこの世界にもこういう貴重な人達も残ってたんだな。
エフィーと彼女たちが女性だからという面も恐らくはあるだろうが、今はそれでもいいんじゃないのかな。
少しずつでも歩みを止めなければいつかは目標の地へたどり着けると俺は思う。
……ライルさん、あなたもこうしてエフィーや他のハーフエルフ達を受け入れてくれますよね?
そうやって微笑ましい光景を眺めていると、野郎共が近づいてきた。むさい男臭でこの美しいものを壊すんじゃねえぞ!?
「おい、今、『ハーフエルフ』って聞こえてきたんだが気のせいか?ここに嫌われもんのハーフエルフがいんのか?」
「マジかよ!?勘弁してくれよ。俺たちの依頼の邪魔にしかならねえんじゃねえか」
「お前か?ハーフエルフは?」
そう言ってエフィーを睨み付ける男。
エフィーは委縮して声が出せないでいるがそれをゼノさんが庇うように前へ出る。
「お前に用はねえんだよ、俺達はそっちのハーフエルフに用があんだよ!」
「申し訳ありませんがエフィーは私の友達です。エフィーに何かあるなら私を通してください」
そう言ったゼノさんの体は振るえている。
「邪魔だ!お前みたいな女が俺達の前に立つんじゃねぇ!」
そう言ってゼノさんを腕で払いのけようとする。
パシッ
「おい、ガキ、この手は何だ?離せやコラ」
「……申し訳ありません、つい手が転んでしまって」
『転ぶ』ってなんだよ!?普通『滑る』じゃないのか?
俺は男の手を放してエフィー達に向き直る。
「エフィー、ゼノさん、ダメじゃないか!」
俺が二人を叱りつけると男達も含めて皆びっくりしたような顔をする。
そりゃそうか。
「あ、あの、カイト様、私は……」
「ご主人様……」
「二人とも、ダメじゃないか、あれは二人の友達か?二人のような賢くて超絶可愛い女の子があんな馬鹿で体がデカいだけしか取り柄が無い男共と友達なんて釣り合うはずないだろう。もっと友達はちゃんと選びなさい!いいかい、お父さんとの約束だぞ?」
俺がそう話すと二人はポカンとする。
そこへ
「……二人とも怖かっただろう?よく頑張ったな。後は俺に任しとけ!」
と言って頭を撫でてやる。
すると二人は安心したのか二人で抱き合い泣き出した。
俺は男達に向き直る。
「申し訳ありませんでした。うちの子達にもあなた達のように種族や身分でしか人の価値を測れないような馬鹿で愚かな人とは友達になるなとキツく言っておきますのでここは収めていただけませんでしょうか?」
俺の言葉を聞き、見る見る顔が真っ赤になっていく男達。
「おや、どうかなさいましたか?顔が真っ赤ですよ?」
「……この野郎ぉ、おい、覚悟はできてんだろうな?」
なんか前にもどこかで聞いたことがある言葉だな。
「覚悟ですか?面白いことをおっしゃいますね。馬鹿なだけではなく面白いことも言えるなんて。よかったですねぇ、履歴書に書けますよ。『私は馬鹿ですが面白い人間です』と」
「ふざけたことぬかしやがって!!」
ゴリラも含めた男たちは一斉に俺に襲い掛かってくる。
単純だな。
やっぱりコイツゴリラなんじゃね?
奴等が掛かってくるが俺の目には止まって見える。……いや、魔眼的な何かとかじゃなくて。
やっぱりシアとの稽古が利いてるんだ。この世界ではステータスで能力等が決まるがそれがすべてではないんだ。こういった目に見えない経験なんかも重要になってくる。
俺は切りかかってくる男共をかわしては切り、受けては切って行った。
最後にゴリーが残った、いや、ゴリラが残った。
奴は俺の足を払おうとしてきたが、俺は自分の足に土魔法を使って硬い土の壁を作ってやった。
最早硬度はかなりの硬さまで生成可能となっていたのでそれを蹴った奴は足を抑えて悶絶している。
俺はそこへ近づき、剣を振り上げる。
彼は痛みに耐えながらも慌てて俺に謝罪してくる。
「お、俺達が悪かった、もうお前に刃向ったりしない。だからい、命だけは……」
コイツは何が悪かったのか全く分かってないらしい。
別に俺は誰に刃向われようが全く気にしない。
だって自分だってこんな奴、って思うもん。
俺が気に入らないのは……
「私はあなた達に命を奪われかけたのですよ?それなのに自分は助けてって、虫がいいと思いませんか?」
「いや、別にそういうつもりじゃなかったんだ、ただ少し頭にきただけで……」
「なるほど、頭に来てしまったのですか、それは仕方ない」
「だ、だろ?だったら……」
「では頭に来ていなかった、正常な状態で言ったハーフエルフに対する暴言は見逃さなくても構いませんね?」
「な、あ、あれは……」
「そうでしょう?正常な状態であれなら、もう救いようがないでしょう」
「ち、違うんだ、頼む、待ってくれ……」
「では、さようなら」
俺は剣を振り上げる。
だが、その剣を振り上げたとき、シアとエフィーの顔が見えた。
悲しそうな表情をしているように見える。……俺の見間違えかもしれない。
俺がここでコイツを殺してもハーフエルフへの偏見は変わらない。それどころか逆に変な尾ひれがついて彼らのことを辱めてしまうことになるかもしれない。
そんな思いから来た俺の幻覚だったとしても俺がコイツを殺すことはただの俺の私情だ。
怒る権利があるのはハーフエルフ達であって俺ではない。
そう思うとスーッと怒りが引いて行って残ったのはやるせなさと良くわからない気だるさだけだった。
俺は寸でのところで剣を振りとめる。
「……二度と俺たちの前に現れるな、それと次にまた同じようなことがあったら容赦しない。……消えろ」
奴は失禁しながら倒れていた奴等を放って逃げて行った。
……足は大丈夫なのか。
俺は彼女たちの下へ戻ると頭を下げた。
「すみませんでした。私一人のせいでパーティーが一つ欠けてしまいました」
俺が頭を下げると、エンリさんが俺の肩に手を置いて、
「……カイトさん、頭を上げて下さい。私達もあのような下賤な輩と一緒に依頼を受けることは本当に不本意でしたから今とってもスッキリしています」
「そうです、カイト様が助けて下さってとてもうれしかったです!」
ゼノさんもそう言ってくれる。
「しかし、パーティーが欠けてしまったのは事実です。私の責任です……」
「……カイトさんはとてもお優しいのですね。ご自分だけが非を被るように相手を挑発してお一人で対処なさるなんて……。とてもカッコよかったと思いますよ。パーティーの件については心配なさらなくても大丈夫だと思います。まず、今回の依頼主は『イフリートの炎爪』と関係している商人ですし、それに私が姉に掛け合って何とかしてみせます」
「お姉さん、ですか?」
「はい、姉はクランの団長をしているんです。ですから掛け合えば一つくらいパーティーを斡旋してくれると思います」
「でも、いいんですか?これでパーティーが抜けるの2度目ですし、私たちが受ける前にそうしていないってことは結構きついんじゃないんですか、そうするの」
「大丈夫です、うちのゼノを助けていただいたんですから、お礼がしたいんです。何より、カイトさんみたいなお優しい殿方のお力になりたいんです」
そう言うエンリさんの頬は少し赤い。
恐らくさっきの出来事で興奮気味なんだろう。
「……わかりました。では申し訳ありませんがお願いしてもよろしいですか?」
「はい、私に任せて下さい!」
そう言ってエンリさんはどこかに駆けていった。
「カイト様、本当にありがとうございました!私達を助けて下さった時のカイト様、とてもカッコよかったです」
それは暗に普段は冴えない駄目野郎ということを言ってるのか!?
ゼノさんも顔が少し赤い。泣いていたからそうなったんだろう。
「ご主人様、ありがとうございました、とてもうれしかったです」
「そうか、まぁご主人様の面目を保てて良かったよ」
エフィーの頭を撫でてやる。とてもうれしそうだ。
「あ、エフィー、ズルい!カイト様に撫で撫でしてもらって!」
「いいんです、私はご主人様の奴隷なんですから!」
そうやって二人は小規模な言い争いを始めた。
こういうところは年相応だな。
「ご主人様、やはりご主人様はとてもカッコ良くてすばらしいご主人様です」
シアが嬉しそうに尻尾を振りながらパタパタと駆けてきた。
「そうか、そう言ってくれるとうれしいよ。……惚れ直したか?」
「フフッ、私はいつでもご主人様にメロメロです」
おおぅ、『メロメロ』なんて表現ポ〇モン以外で久しぶりに聞いたわ!
その後、現れた商人に事情を話し、エンリさんを待った。
エンリさんはどうやったかは知らないがかなり遠方にいるお姉さんに連絡を取ってパーティーを要請したらしい。
1時間ほどして『イフリートの炎爪』のもう一つのパーティーがやってきた。
後で聞いたが『イフリートの炎爪』は女性だけでできているクランらしい。
当初より約2時間遅れでようやく俺たちはナギラの街へと出発したのだった。
※ゴリラ好きの方、大変申し訳ありませんでした。
ここで謝罪しておきます。
『クラン』については今後も出て来るのでここで説明はいたしません。
ご了承ください。




