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エフィーの魔法を何とかできないか?

今日も早朝の訓練は欠かさない。

二人がまだ寝ている時間に俺は一人で汗を流す。

最も今日はいつになく体の動きは鈍いが。


俺は睡眠不足で朝を迎えた。

いやー、寝れんかった!

もうね、こういった我慢はするもんじゃないんだけどね、実際は。

でもなんか相手はわかんないけど何かに勝った気はするから良しとするか、……眠いことに変わりはないが。

いつものメニューを消化し終え、俺は掻いた汗を処理しながら思考に入る。


さて、エフィーを迎えて1日目。

どうするかの方針を立てないといけないんだが、魔法を使えるか使えないかによってどうすべきかは変わってくる。魔法が使えるようなら練習させて使えるようにさせてやりたい。使えないのなら気の毒ではあるが早急にあきらめて弓に特化させた方がいいだろう。それに伴って、エフィーの魔法について考えねばならん。


ふむ、問題となっているのは職業とスキルとの関係か。

俺自身が体験したことじゃないから確かなことは言えんが、パヴロの話が間違っていなければエフィーが弓使いである以上弓使い以外のジョブのスキルは使えない。


この関係が絶対的ならここをどうこうするというのは無理だということになる。確かに俺の『パーティ恩恵(リーダー)』はこれの例外に位置するからこの関係に抜け道があることは確かなんだろう。だがこのスキルはスキルポイントでは取得できない。そしてそもそも奴隷がリーダーになることはできないのだ。というのも奴隷から主人にパーティー申請自体ができない。だから『パーティ恩恵(リーダー)』を利用して何とかするということはできない。


『パーティ恩恵(リーダー)』以外にもこういったスキル上の抜け道はあるかもしれんがあったとしても恐らくかなりのレアスキル。時間的に若干余裕があるとはいえ見つけられるかはかなり怪しい。それをするくらいなら弓使いとして専念させ、俺達全体としての能力を上げた方が効率がいい。


であるから、考えるとしたらスキルではなく、ハーフエルフが職業を変更できない、というところをあたった方がいい。


昨日宿で一人分の追加を頼んだとき水晶を使った。その時エフィーにもちゃんと反応した。パヴロの話では『ギルドでの変更』ができないということだった。確かにギルドと宿屋での水晶は性能が違うが本質においては同じものだ。ということはただ単にギルドの水晶にだけ特別な細工を施していてハーフエルフが転職できないようになっているということになる。まあこれはギルドに言って受付の人にでも確認すればわかることだ。


それを確認した後俺の考えている案を試してみても遅くはないだろう。


俺は部屋に戻る。

二人は既に起きていたようで着替えなどの身支度は済んでいるようだ。


「おはよう、二人とも。もう起きてたのか」

「ご主人様、おはようございます。30分程前に起床しました」

エフィーが挨拶してくれる。

「おはようございます、ご主人様。既に支度は済んでおります。……ところで、少々顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」


シアが心配そうに尋ねてくる。


「ご主人様、昨晩はあまりお休みになられなかったのですか?」


エフィーも気遣ってくれる。

2人の可愛さに寝れなかったなんて言えない。


「少し考え事をしていたら時間が経ってしまっただけだ。特に気にするほど疲労がたまってるわけでもないし大丈夫だ。それと、朝食の時にでも話そうと思っていたがしばらくは依頼をうけることは控える。エフィーの魔法について何とかするまでは一先ずお休みだ。だから多少眠れてなくても危険ということはない。安心してくれ」

「……わかりました、具体的にはどう動かれるのですか?」

シアは少し不満げだが納得してくれた。

「そうだな、とりあえず一回ギルドに行くがそれ以外はこれと言って何かするということはない。基本また俺のスキルで何とかできないか試してみるということになる。だから二人には申し訳ないが今日はお休みだな」


そう言うとシアはこの世の終わりみたいな顔をする。そんなに落ち込むことか!?

エフィーもシア程ではないが落ち込んでいるようだ。


「……それは私達ではお役に立てないということでしょうか?」

「……そういうことになりますね。シアさん、仕方ありません。とても不本意ではありますが私達では今ご主人様の足を引っ張ることしかできません。……ご主人様他の何かでお役に立てることはありませんか?」


エフィーの言葉を聞いてシアは目に見えて落ち込んでいる。昨日のお姉さん然とした姿は今は見えない。

だが、エフィーはすでに切り替えているようだ。本当にこの子13歳か?


「そうだなぁ。今日は特にないけど明日からは頑張ってもらう予定だから、今日はしっかりと休日を満喫することかな?お小遣いは後で渡すよ」


俺はとりあえずエフィーの魔法の件については今日で決着をつけるつもりだ。解決するにしてもしないにしても明日からはエフィーに訓練してもらうことを想定している。

魔法が使えるなら魔法を、魔法がダメなら弓を。


だから今日くらいは二人に羽を伸ばしてもらおうという俺の気遣いだ。

まぁエフィーについては昨日来たばっかだけど。


俺の言葉を聞いてエフィーは驚いている。


「えっ?お小遣いですか!?私たちは奴隷なのですよ、奴隷個人に財産を所有させるなんて聞いたことがありません」

「そうなの?でもいいんじゃないの?二人とも女の子だし買いたいものもあるでしょう。お小遣いがあった方が何かと便利だぞ?」

「……それはそうなのですが」

「300ピンスあったら足りる?」

「そんなにいただけません!ご主人様のお気持ちは大変ありがたいですがそこまで寛大になられる必要はないと思います!」


エフィーは腰に手をあてて物おじせずに答えてくる。

小さい体で頑張ってる姿ってのは微笑ましい限りだ。


「そうか、じゃあ100ピンス位でいっか。余裕あるんだしそれくらいでいいだろ」

「まだ高い気がするんですが……」

「俺だって譲歩したのになぁ。これ以上は俺が虐待してるんじゃないかと疑われてしまう。これも今後頑張ってもらうために必要だと思ったから渡すんだよ。誰しも休みなしだとストレスがたまってここぞというときにいい動きができなくなる。だから休みのときは思いっきり休んで頑張る時は精一杯頑張る。それでいいんじゃないのか?」

「……そうですね、ご主人様のおっしゃる通りです。今日はしっかり休ませていただいて明日以降に備えさせていただきます」

「それでいいと思うぞ。……シアもそれでいいか?」


エフィーに了解を取った後俺はシアにも確認をとる。

しっかりしているエフィーを説得できたんだ。シアも了解してくれるだろう。



「…………」

「シア?」

「……ぐすっ」


シアは涙を流して隅っこで三角座りしていた。

えっ、何、どういうこと?どうしたの?


「シア、どうして泣いてるんだ!?何か俺がキツいことでも言ってしまったのか?」

「いえ、ぐすっ、ごじゅじんざまは、ぐすっ、何も悪く、ぐすっ、ございません」

「じゃ、じゃあどうして泣いてるんだ!?あっ、やっぱり100ピンスじゃ足りなかったか?」

「いえ、いえ、ぐすっ、悪いのは全部、ぐすっ、私です。私が全部ダメなんです」


ど、どういうことなんだ?誰か説明してくれ!

「あの、ご主人様」


エフィーが話しかけてくる。

お、そうだ、エフィーならなんかわかりそうだよな?女の子同士だし、賢いし。


「助けてー、エフィえもん!」

「え、エフィ?……そのご御主人様のおっしゃることは分かりかねますが、シアさんは恐らくご主人様にお休みを言い渡されたことがショックだったんじゃないでしょうか?」

「えっ、でもたった1日羽を伸ばしてって意味で言っただけなんだけど」

「それでもシアさんにとっては1日でもご主人様のお役に立てないということがショックなんですよ」


そうなのか?別にそこまで気にすることでも無いような気もするが……


「昨日、シアさんは私に言って下さいました。ご主人様にご迷惑をおかけすることが避け得ない以上ご主人様に報いさせていただくにはご迷惑をおかけした以上にお役に立てばいい、と。ですから1日でもご主人様のお役にたてないことはそのままご迷惑だけをおかけすることに繋がるのです。シアさんはそのことをお思いになられているのではないのでしょうか?」


俺は少し離れてたから聞こえてなかったが、そんな話を……。


シアが俺のために頑張ってくれるのは十分知っているが迷惑をかけられたと思ったことはないぞ?

それでもシアは1日休みを言い渡されただけでここまで……


「……シア、エフィーの言った通りなのか?」

「……はい」


そうか、ただ休んでほしいって意味で言った言葉がこれだけシアを不安にしてしまったのか。

もしかしたら過去のことも思い出してしまったのかもしれん。

俺の失態だな……。


「シア、俺はな、別に1日や2日、下手したらもっと長い期間シアが休んだとしても俺は迷惑だとは思わない。それに役に立ってないとも思わない。俺はいつだってシアが俺のために一所懸命に頑張ってくれているのを知ってる。だからそんなに落ち込む必要はないんだ」

「ご主人様、ですが……」

「シアは何だか直接的に俺の役に立たないとダメだと思ってないか?」

「……その、どういうことですか?」

「えーっと、そうだな、シア、何か苦手なこととかできないこととかないか?」

「……その、算術が苦手です」

「そうか、じゃあさ、これから少しずつでも練習すればいい。できるようになったら俺はシアに買い物を頼むことができるようになる。そうすればシアは俺の役に立てる」

「その、えっ?」

「だからな、シアができないことや苦手なことをできるようになることは直ぐには俺の役に立つという結果には繋がらないかもしれない。でも最終的に見ればちゃんと俺の役に立つことはできるんだ。たとえ1日休みになってその日直接的に俺の役に立てないとしても何か自分ができないことを練習したりすれば将来俺の思わぬところでそれが必要になった時にシアは役に立つことができるんだ。だから休みになることをそこまで悲観せずに前向きにとらえたらどうだ?」

「前向きに……」

「そう、お休みをもらえたから、自分の苦手を克服する時間に充てることができる、って」



俺の言葉を聴き、シアの目から流れる涙が止まっていく。

もう大丈夫そうかな?



「シア、今日はお休みにする。だから自分の好きなことをすればいい」

「……はい、ありがとうございます、ご主人様」


シアの顔はもうすっかりと笑顔に戻っている。

やっぱりシアは笑ってる方が可愛いな。


「流石ご主人様です」


エフィーに褒められた。

ふぅ、なんとか収まったようだ。



「よし、じゃあ100ピンスずつ渡しておく。無駄使いはしちゃダメだぞ?」

「えっ、一人ずつですか?」

「ああそうだが」

「二人で100ピンスと思ってましたが」

「……私もです」


二人に驚かれた。





朝食を済ませ、俺はギルド会館に向かった。

シアは直ぐに算術を勉強する道具を買いに行った。

エフィーは算術は得意らしくシアに自分の知っていること全てを教える、と息巻いていた。

「あんまり根詰めるなよ、本来の趣旨は息抜きなんだからな!」と一応釘を刺しておいたが、二人とも楽しそうだったので、どうやらちゃんとわかってくれてはいるようだ。



ギルド会館で俺はハーフエルフとギルドの水晶との関係について尋ねた。


曰く、最初は王国側の管理の簡便さのために最初の職業を全うさせるという趣旨の下ギルドでの転職を禁じてきたらしいが、最近は、転職を認めるとハーフエルフに自由に行動することを許し、結果的に反乱の力を蓄えさせることに繋がる、という論調に変わってきているらしい。


どっちにしてもハーフエルフに対する扱いと言うのはお世辞にも良いと言えるものではない。


とりあえずただ単に王国側はギルドを抑えれば転職は不可能と考えての措置だから他の方法には制限を加えていないんだと。「まぁそんな方法があれば、ですが」と言われたが。


もちろん王国内部、つまり騎士団や宮廷なんかにも転職できる方法は確立されているがそもそもそこにハーフエルフが雇用されるということ自体が観念できないからそこは何の措置もとられていないようだが。



まぁここまで聞けば俺の2つの案のうちの1つは十中八九成功すると思ったので、王国内部に侵入しに行くという危険極まりない案は当然却下される。



さて、一度帰ってから煮詰めるか。


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