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二人目の仲間か、どうしようか。 4

俺たちは部屋に戻る。


彼女は俯いたまま待っていた。

その姿は見た目以上に小さく、そして儚げに映った。


俺は彼女の対面に座って話し始める。


「お待たせしました。突然で申し訳ありませんが私達はあなたを買うことで大方意見が一致しています。

ですのであなたの意思の最終確認を行いたいのです。私達と来ていただけますか?」


彼女は俺の言葉を聴いて顔を上げ、ぽつぽつと話し始めた。


「……私を買っていただくのは大変ありがたいことだと思っています。ですが、私はハーフエルフ、です。私が一緒にいると色んなご迷惑をおかけすることになります。ですから……」


ふむ、やはり過去の経験がこの子の心の傷になってるんだろう。自分から両親を手放したのだ。しかも10歳で。多感な時期にそういったことがあればトラウマになったり心の傷になったりするということは俺にもよくわかるから、同情だけでなく共感もできる。


だがこの子の事情を別にしても今戦力を補強したいというのは事実なんだ。シアも仲良くできそうと言ってくれたし、このまま「はい、そうですか」と帰るわけにはいかない。



「なるほど、君の言いたいことはわかった。だが俺からも言わせてもらう。まず俺はハーフエルフがなぜ忌避されているかよく知らない。仮にハーフエルフが嫌われている理由が正当であるとしても俺は認識していないんだ。だから俺はその理由が無いものとして扱える」


この理屈はかなり荒いところがあるな。この子は賢いから恐らく粗に気づくだろう。まぁ今はそれでいい。


「……申し上げさせていただきますが、それは乱暴な理屈、です。それを認めてしまうと、何か悪いことをしても知らなかったから、ということで通せてしまいます」


ふむ、やはりこれでは駄目だったな。


「……私はこの国では嫌われ者のハーフエルフ、です。ですからその嫌われ者を連れて歩かれるのはいかがなものかと思います」

「ハーフエルフ全体が嫌われているからと言って君個人を見たときに君にその嫌われる理由が当てはまるということにはならないよ。俺からしたら人間という枠で考えれば醜い生き物だという感想を思い浮かべるけどだからといって俺が出会ってきたすべての人がそうだということにはならないんだ」


それを聴いて彼女は押し黙る。


「そうだな、だったら君が俺達と来て、ハーフエルフがどういうものか教えてくれればいい。ハーフエルフが嫌われているとしても何事にも例外はあるんだと君自身で示してくれればいい。そうすれば君もハーフエルフに対する正しい認識を広めれるし、俺達も仲間が増える。お互いが得するだろう?それとも君は自分がやったことが悪いことだったと思ってるのかい?俺はそうは思わないけどなぁ」


ここまで言うと、彼女の体が少しだが震えだした。



「辛かっただろうけど、君のやったことでご両親は助かったんだよ。ハーフエルフということが引き金だったとしてもそれで君のやったことが善から悪に変わるということは絶対にない。ハーフエルフであるという事実が君自信の中で大きな壁となって立ちふさがっているということはわかった。けれどもハーフエルフであることやそういったことも全部含めて俺が君をあきらめる理由にはなり得ないんだよ」


「わた、私、ああするしか、だ、だってそうしないと、お、お父さんとお母さんが、だ、だから……」


そう言葉にする彼女の声は体と共に震えている。やはり辛かったのだろう。よく今までこの小さい体で耐えてきたものだ。


「そうだね、そうしないとご両親を助けられなかった。だけども10歳という幼さで両親との縁を切るなんてことは簡単にできることじゃない。君のやったことはすごいことなんだよ。……その知恵とやさしさを今度は俺たちに貸してくれないか?君がいてくれると、俺たちはすごく助かるんだが……」



彼女は俺の言葉を聴き終わる前に泣き出した。今まで溜めに溜めたものをここで全て出すように。


俺は彼女が泣き止むのを待つことにする。



約10分後泣き止んだ彼女は顔を上げ、俺に尋ねてくる。


「……私はハーフとは言えエルフの血をひいています。ですが魔法を一つも使えません。それでもよろしいのですか?」

「そのことは確証はないけど何とかなるんじゃないかなと俺は思ってる。まあなんとかならなくても大丈夫じゃないかな。戦力補強としては最低ラインの弓使いというラインを君は超えていることだし」

「私がハーフエルフだということでお二人にご迷惑をおかけすることも出てくるでしょう。それでもいいのですか?」

「くどいな。人間生きてれば誰だって誰かに迷惑かけて生きてるもんだって。それを言うなら俺だって犯罪とはいかないまでも後ろめたいことを持っててそれで君にも迷惑をかけることになる。だからそこはお互い様だということだ」

「それは奴隷と主人との関係では話が変わってきます。奴隷は主人の所有物なのですから奴隷に迷惑をかけようがどうしようが気にする必要はないのです」

「うーん、そこまで形式に拘るのも……、まぁ君がかけようと思ってかけた迷惑でなければ俺は気にしない」

「ですが……」


まだ食い下がろうとする。そんなに俺の奴隷になるのが嫌かね!


どうしようか……


考え込んでいると、シアが前に進み出て「私に任せていただけますか?」と言う。

ここまで黙ってたシアがそう言ったことに内心少しびっくりしたが、女の子同士の方が分かることもあるだろうと思い、シアに任せてみる。



シアと彼女が話し始める。


「あなたもご主人様が大変お優しい方だということはよくわかったでしょう?」

「……はい」

「そんなご主人様にご迷惑をおかけしたくないという気持ちは私には良くわかります」

「えっ、そうなんですか?」

「はい、私はご主人様に助けていただき返そうと思っても返しきれないご恩をご主人様に感じています。ですので、ご主人様にご迷惑をおかけしたくないという気持ちは私もいつも感じていることなのです」

「でしたら……」

「ですが実際に全くご迷惑をおかけしないということは不可能なのです。私が生きている限り私の食事を与えて下さるのもご主人様ですし、寝床を確保してくださるのもご主人様なのです。ですから生きてご主人様にお仕えする限り大なり小なりご主人様にご迷惑をおかけすることは避け得ないのです」

「だったら、どうしたら……」

「ですので私はこう考えるようにしています。ご主人様にご迷惑をおかけした以上にご主人様のお役に立てるようにすればいい、と」

「ご迷惑をおかけした以上にお役に立つ……」

「はい、もちろんそれでご迷惑をおかけしたことが消えるわけではありません。

ですが、ご迷惑をおかけすることが不可避な以上何かしら別のことで穴を埋めるしかないのです」

「…………」

「あなたにこの考え方を強制するつもりはありませんが、少しでもご主人様のお優しさに報いたいなら私達と共に来ませんか?」

「……その、ありがとうございます。おかげで何だかスッキリしました」

「では一緒にきてくれますか?」

「はい」

「これからよろしくお願いしますね、私はシアです。一緒にご主人様のお役に立ちましょう」

「はい、私はエフィーです。これからよろしくお願いします、シアさん!」



どうやら話はまとまったようだ。やっぱり女の子のことは俺には良くわからん。

今後も女の子との交渉ごとは全部シアに任せようかな……。



「エフィーと申します。その、これからお二方には色々とご迷惑をおかけすると思いますが精一杯お役にたてるよう頑張らせていただきます。よろしくお願いします」

「ああ、改めて自己紹介しとくと俺はカイト。これからよろしく。

とりあえず話がまとまったからパヴロを呼ぶか」

「はい」





その後、戻ってきたパヴロと共に部屋を替え、奴隷契約に必要な書類の記入を済ませた。

エフィーの値段は今までの話の流れ上そこまでしないはずとは思っていたが、

実際には値引も含めて4万6000ピンスで済んだ。

ここまで来て足りない額提示されたりしたらシャレになんなかったな。


俺たちは奴隷契約に特有の魔法で契約を済ませて商館を後にした。



「これからどうしましょう、ご主人様?」

シアが尋ねてくる。

「そうだなぁ、とりあえずエフィーの必要なものでもそろえるか。衣類もそのままじゃなぁ」

「いえ、服はこのままでも大丈夫です。ただでさえ私を買われた後です。お金もかかりますし……」

とエフィーは遠慮してくる。

「そんなところで遠慮すんな。まだ全然余裕はある。」

「ですが……」

「わかった、ならシアの服も改めよう。そうすれば自分だけじゃないから構わんだろう?」

いきなり自分に話の矛先が向けられシアが驚く。

「ご主人様、私は今までにいくつも衣服を買っていただいています。

エフィーに買って上げて下さい」

そうやって遠慮しあうから二人に買おうって話なんだがな。

「じゃあさ、俺が二人の可愛い姿を見たいがために衣服を買う。俺のためにしてくれ。それなら文句ないでしょう?」


我ながら投げやりに言ったが案外これは効いてるようだ。


「ご、ご主人様のためでしたら」

シアはそう言って顔を赤めて納得する。

「……そうですね、ご主人様がそうおっしゃるなら」

エフィーも納得してくれたようだ。



その後、町の衣類を専門に扱っている店に行く。高いのから安いのまで大抵はここでそろっている。


俺が「とりあえず依頼を受けるときとかに着る用と普段のお休みのときとかに着るようを買うつもりだから自分の好きなやつ選んできて」と言って服選び自体は彼女たちに任せることにする。二人はすぐさま服を選びに向かった。二人で選んだ服を見せ合いながらああでもないこうでもないと夢中になっている。


こうしてみると何だか仲のいい姉妹みたいだな。





その時の俺は油断していたのだ。



まさか服選びにこんなに時間がかかるとは!



二人は服を俺に見せ「似合いますか?」といちいち尋ねてくる。

二人とも元がいいんだから大抵の物は似合うのだからそんなに気にしなくてもと思うのだが本人らは納得いく服がなかなか見つからないらしい。


結局全て選び終えるのに4時間はかかった。



その後も必要なものを買いそろえて宿に戻るころには夕方になっていた。


宿に戻って1人分追加をお願いしたらあっさりと終わった。この宿は種族とか身分には寛容なのかもしれん。



俺たちは夕食を食べるために食堂に向かった。

テーブルに着くと、エフィーは床に座ろうとする。

「エフィー、椅子に座ってくれ。一緒に食べよう」

「……ですが、奴隷の私がご主人様と同じ席で食事など……」

「はぁ、シアも一緒に座ってるだろう?俺は気にしない」

「ですが……」

「俺が一緒に食べたいんだ。いわば俺のわがまま。だから気にしなくていいんだ」

「……ありがとうございます」


そうして、エフィーもやっと納得して同じ席に座り、夕飯を一緒に食べた。



夕食後、部屋に戻る。

ゆっくりくつろぐことにする。

何気ないこういった時間ってのは大事だよなぁ。


だがシアがそこに爆弾を投下する。


「ご主人様、お風呂はどうなさいますか?」

おぅ、その話題来たか。

「風呂か、入るには入るが、今回はシアがエフィーに入り方を教えてやるといい。もうシアも入り方をマスターしたのだしな」

「お風呂?ご主人様はお風呂に入られるのですか?貴族などの位の高いものしか利用しないものだと本で読んだのですが……」

「ご主人様のふるさとではそういう習慣がおありになるそうですよ」

「なるほど、ですが湯はどうするのですか?ここにあるのは浴槽だけですよ?」

「それも問題ありません。ご主人様はお湯をお作りになられるのです!」


シアは自分のことのように誇らしげだ。


「まさか、ご主人様は魔法をお使いになられるのですか!?失礼ですがご主人様は人族でしたよね?」

「ああ、まぁ、そうなんだが。契約の前に言った通り俺には結構人には言えない秘密がある。だからこれは秘密にしてほしい」

「……はぁ、わかりました。ご主人様はすごい方なのですね。……それで、お風呂はどういたします?」

またそれに戻るか。

「うん、シアがエフィーを入れてやるといい。女の子同士ゆっくりする時間も欲しいだろう」

「私は久しぶりにご主人様のお体を洗って差し上げたいのですが……」

前に一緒に入った時は理性が飛んでしまった。今後もこういうことが続くと自分を律せるかどうか怪しくなってくる。それだけは避けねば……

「エフィーは風呂の入り方を知らんだろう。だから教えてやらねば……」

「私は入り方は本で読んで理解しています。お風呂は体を清めるために用いられるとか。ですからご主人様のお役に立つためにも私はシアさんと一緒にご主人様のお体を洗って差し上げたいです!」

「そうですね、良く言いました、エフィー。……ご主人様、お願いします!」

くそっ、エフィーめ、知ってやがった!

シアも良く言いました、じゃねぇよ!


どうしよう、ああ、俺の中の天使が「いいじゃねぇか、欲望に身を任せちまえよ!」とささやいてくる。悪魔が「それじゃあ考えることを放棄したただの獣だ、もっと考えろ!」と対抗している。

普通役割逆じゃね?とも思うのだが、今はそんな細かいことはいい。

入るべきか入らないべきか、それが問題だ。


このままじゃなし崩し的に入ることになってしまう。それは避けねばならん。どうする!?


そうだ!

俺は瞬時に思いついたこの状況を打破する方法を策へと練り直す。



「シア、エフィー。それは魅力的な提案だが俺は二人に他にしてほしいことがあるんだ」

「……と言いますと?」

「あのな、今日服買っただろう?それを着てほしいんだ」

「それならお風呂に入った後でも……」

「いや、俺が言いたいのは風呂に入った綺麗な体で新品の服を着た可愛い二人を見たいんだ」

「ですからお風呂に一緒に入ってもそれは……」

「二人が俺のためにしてくれることに俺の手が加わるのは俺としても二人としても望ましいことではないだろう?」

「それはそうですが……」

「だから俺に可愛い姿を見せる準備として二人で風呂に入って欲しいんだ」

「ですが……」

「それとも二人は俺に可愛い姿を見せるのは嫌か?」


これでどうだ!?

自分で言ってて何だが、これだけ似合わんセリフもないな。

こんなん但しイケメンに限る、って前置きがつきそうなものだし。


二人は俺の言葉を聴き、納得してくれたようだ。


「わかりました。ご主人様のために頑張らせていただきます」

「私も、です。精一杯可愛くなります。ご主人様はお待ちになっていてくださいね?」

「ああ、二人とも期待しているよ」


話し終えると二人はそそくさと準備を始めた。

俺はその間にお湯を張った。


ふぅ、なんとか今回はかわせたか。

二人ともそのままでも可愛いんだから別にこんなこと必要ないんだけども。

しかしこれは今後も使えそうだな。応用も利きそうだ。



俺は二人が風呂から上がってくるまで今の状況を整理することにした。


今日の買い物で残金は16万6573ピンス。そこまで使わなかったな。とりあえずしばらくはこれだけでも大丈夫か。


できればエフィーの魔法を何とかするのに何日かは空けたい。すると自然依頼を受けれないし稼ぎも出ない。だからこれだけ残ってると結構安心ではある。




俺が今後どうするかについて思考していると、二人が風呂から上がって準備ができたようだ。

結構考え込んでたらしい。二人に近くから呼びかけられるまで気づかなかった。


「すまんすまん、つい考え事を……」


俺が振り返るとそこには天使と女神がいた……、いや間違えた、エフィーとシアだった。


エフィーは髪をおろしていた。ツインテールでもよく似合っていたが、髪をおろすと女の子としての魅力が増す。これはこれでアリだな。

エフィーの来ている服は白いワンピースだ。髪にはリボンをつけている。エフィーの可愛らしさとマッチしてなんだか病弱なお嬢様を想起させるような儚げな外貌ではあるが彼女が可愛いということには変わりない。


シアは胸を強調するよう胸元の開けた少し大胆な服、少し短めのスカート、後この世界でのニーソックスを履いている。

シアの美貌を最大限にまで引き出している。俺は別にニーソックス萌えではないがシアが相手だと他の人がニーソックスに熱狂するのもわかる気がした。


二人とも風呂上がりだからか顔が蒸気しているように見える。

それが何となく色っぽく感じる。


さっきそのままでもいいんじゃね?と思ってた俺を殴りたい。

滅茶苦茶可愛いじゃねえか!


「その、ご主人様、いかがでしょう?」

「……可愛く、無いでしょうか?」


二人とも俺の反応が無かったため心配そうな表情になっている。

いかんいかん、可愛すぎてつい呆然としてしまった。


「いや、すまん、あまりに二人が可愛かったからついボーっとしてしまった。

二人とも、似合ってるぞ」


そう言ってやると二人の表情は一気に明るくなった。


「よかったです、ご主人様に気に入っていただけて」

「はい、私もうれしいです」


二人ともうれしそうだ。




俺はその夜、二人の可愛い姿が頭から離れず眠ることができなかった。


主人公の行動について疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

少しだけ補足しますと、以前の経験上、主人公は欲望に溺れて理性を失ってしまうことを恐れています。それがたとえ相手からの好意が正当なものである、としてもです。ですので主人公は再び彼女達とお風呂に入ることを避けているのです。


まだ疑問は残ると思います。

今のところは、主人公が色んなものと戦ってるんだなということを分かっていただければそれで十分だと思います。

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