シアにそんな過去が・・・・。
以前お話していましたヒロインの生い立ちについてです。
今まで悩みに悩みましたが、なんとか捻りだしたといった感じです。
もしかしたらまた矛盾しているかもしれません。
その際は是非ご指摘よろしくお願いします。
シアは泣き止むと、まず自分の一族について話し始めた。
「私の一族は、元々特に戦闘能力に秀でた者が集まって結成された
団体でした。それが功績を挙げるにつれ段々地盤を固めていきいつしか
戦闘のエリート一族として扱われるようになっていました。」
ふむ、いつの時代にもどこの世界でもエリートというのは存在するものだ。
彼らはよく非難や誹りを受けることがあるがそれは単にできない奴等からの
僻みや妬みであることが多い。
まあできない奴からしたらそりゃそうしたいわな。
感情としてはわからんでもないがエリートにもできないことはある。
それを知ってからは俺もそこまで彼らに嫉妬することも無くなった。
そうは言ってもイケメンリア充は基本俺の敵だけどな!
「ですが50年ほど前より一族は弱体化し始めました。原因は不明ですが
事態は一向に改善されませんでした。そこで15年前に一族に導入されたのが
『狼舞闘牙の儀式』です。」
ほう、『狼舞闘牙の儀式』とな!?
全く初耳だが儀式か。
普通儀式ってもっと昔からあって格式とか由緒とかあって近づきがたいイメージあんだけど
導入された沿革聞いたりできたのが最近っての聞けばなんか身近に感じんな。
「『狼舞闘牙の儀式』の導入により一族の者の戦闘はかつての栄光を取り戻したかのように
改善していきました。ですので今一族の者は10歳になったら
必ず『狼舞闘牙の儀式』を受けてから一人前になります。」
ふぅーん、どんなものか知らんが一定以上の効果はあるんだな。
でも儀式とか聞くと生贄とか供物とかそこら辺のことを連想してしまうんだけど、
シアはそこには触れないな。
もともとその儀式にはそういった物が必要ないのか、
それともシアがあえて触れないようにしているのか・・・・。
対価も無しに力が得られるなんてうまい話はないよな。
等価交換だっけか?
完全にその話ではないにしても何かを得ようとするならやっぱり何か犠牲は
必要なんだろう。
ということはやっぱりシアが意識的に触れないようにしてるのか。
だったらわざわざ俺から聞くなんて野暮なことはしない方がいいな。
「なるほどな、シアの一族の事情についてはわかった。続けてくれ。」
「はい、私はその一族の中で異物として扱われて育てられました。」
おぉぅ、いきなり重い話に飛ぶんだな!
「普通儀式を受けたあと一人前になるための狩りを行うために
小さいころから親や親戚の狩りについていくのですが、
私はどれだけ経ってもレベルが上がらないのです・・・・。」
そこでレベルが上がらないこと出てくるのか。
「それは先天的なことだったのか?」
「はい、生まれたときからレベルが上がりませんでした。
ですから、里の中でも呪いなんじゃないかとか悪魔が憑いてるんじゃないかとか
色々言われました。」
ちょっと待てよ、先ずはシアのレベルが上がらない原因が
俺の推測通りかを確かめねば何とも言えん。
俺は鑑定を使って『経験値蓄積』がどういうものか調べてみる。
経験値蓄積:入手した、レベルアップに必要な経験値を貯める。
貯めた経験値は『経験値解放』によって任意の数値を解放することができる。
なるほど、「貯めることができる」ではなく、「貯める」か。
しかもご丁寧に『経験値解放』がいるって出てる。
こいつが原因でほぼ確定だな。
それにしてもひどい話だよな。
レベル1で経験値蓄積があったらレベルを上げれない帰結として
当然スキルポイントも貯まらない。
『経験値解放』自体は5ポイントでとれるものだがレベル1の状態じゃ
取れるわけがない。
『経験値解放』なんてどういった修行すれば得られるかもわからん。
だがそうするとシアは生まれたときからレベルが上がらないと言ってるってことは
生まれたときからこのスキルを持ってるってことだよな?
で、レベルが上がらないことを恐れられたり怖がられたりしていたと。
なんかおかしくないか?
自分以外が自分のステータスを確認するということはあまり多くはない。
まず前提として自分のステータスは教会やギルド等にある水晶玉を通してなら確認できる。
そして、鑑定以外ではその水晶玉を使うときにのみ他人から、しかもその水晶玉の使用者にのみ
自分のステータスが明らかにされる。
宿屋での盗賊確認なんかがそうだ。
ちなみに自分の能力値、つまり
Lv.21
HP:93/72(+21)
MP:101/83(+18)
STR(筋力):44(+19)
DEF(防御力):32(+17)
INT(賢さ):38(+18)
AGI(素早さ):36(+17)
LUK(運):1(+5)
これだけならスキルや水晶玉無しでもいつでもわかる。
すこし逸れたが、要するにシアのスキルを確認できる機会は里の人たちには多くは無いにしても
そこそこあったはずなんだ。
なのに彼らは原因が分からないというような話しぶりだよな、シアの話からすると。
考え得るのは2つ。
1つ目は里の人々はシアがレベルが上がらないのはスキルのせいだとわかっていながら
シアをのけ者にしていた。
若しくは2つ目、シアのスキルに誰も気づかなかった。
前者の線は十分有り得るな。さっき考えていたことではないが、
スキルを生まれながらにして持っていたシアに嫉妬してのけ者にしていたと
考えればある程度筋は通る。
後者についてはどうだろう。誰も気づかないってことはあり得るのか?
いや、『経験値蓄積』自体は認識していたが
それがどういうものかが分からなかったということも・・・・。
語感でなんとなくはわかりそうな気もするんだが、それは鑑定を持ってる俺だから
言えることなのかもしれん。
どっちも無いことはないか。どちらも否定できる材料がない以上
どっちの方が蓋然性があるかで判断するしか・・・・。
まあどっちにしてもそのことがシアの心の傷になってるのか。
だがそれがどうシアがステータスについて話したくないことに繋がるんだ?
やはり里の人もスキルについて知っていてシアをのけ者にしたということか?
「シア、シアは自分が何でレベルが上がらないか知らないのか?」
「はい、私はわかりません。」
ふむ、となるとシア自身がのけ者にされていた理由がスキルだということはわかっていないことになる。
また振出か。
シア自身がスキルについて思い至ってないっていうのも不思議な話だよな。
レベルが上がらなくて経験値蓄積なんて語感のスキルがあったら気づきそうなもんだが。
それこそ自分のスキルが見えない人でもいない限り・・・・、
いや待てよ、そんなことあり得るのか!?
だってさっきだって部屋借りる前に水晶使ったぞ?
そん時も見えてなかったってことか?
「シア、正直に答えてくれ、シアは自分のステータスが見えないのか?」
「えっ、ご主人様、どうして、お分かりに!?」
シアは驚いた表情で手を口に当てた。
やっぱりか。言いづらいんじゃなかったんだ。
シアは自分のステータスを確認できないから言えなかったんだ。
そういうことか、だがなぜステータスが見えないかの説明がまだできない。
それを確認するにはもう少し知る必要があるな。
「シア、なぜわかったかはとりあえず置いといてくれ。
それよりスマンがいろいろ聞きたいことができた。
答えてくれるか?」
「はい、私にお答えできることでしたら。」
「じゃあまず、ステータスが見えなくなったのはいつ頃だ?」
「それは10歳ごろだったと思います。詳しい月日は覚えておりませんが。」
「わかった。じゃあ、次は儀式について聞きたい。儀式の前後でどういう風に
強くなったりするかわかるか?」
「ええっと、それはですね、あまりどうとは申せないのですが儀式が終わった後は
動きが見違えるように良くなったり儀式の前には持っていなかったスキルが使えるようになったり
するというのが儀式に関する言い伝えです。」
「わかった、ありがとう。話を戻してくれ。」
なるほど、そういうことか。
とりあえず原因は儀式で決まりだな!
前後での変化は恐らく儀式によりポイントの設定が蓄積から
自動振り分けに変わったんだ。
なぜ元々ポイントが蓄積の設定だったかは50年前に始まったといわれる
弱体化が大きく関わっているのだろう。
そして、その設定を切り替えるとたまっていたポイントが自動振り分けで消費され、
能力値が上がったり、持っていなかったスキルが得られる。
だがその代償とされるのが恐らく「ステータスを見ることができる力」だろう。
やはり儀式に代償はあったんだ。
それが元々持っていた力だけを奪うのなら何とかなるかもしれん。
しかし儀式以降で得たものについても絶対的に「ステータスを見ることができる力」
については奪われるんなら今はどうしようもないな。
里の人達もステータスを見ることができないから儀式によってどんな効果が得られたか
はっきり分からないし、儀式がただ強くなれるということくらいしかわからない。
里の全員がステータスを確認できない以上そういった物を確認する
水晶なんかも里には無いんだろう。
これがこの件についての全貌ってところか。
それにしてもその一族ってのは鎖国政策でもとってるのかな?
余所の町や里なんかとの交流が深ければこんな弊害も起きないだろうに・・・・。
そういえばレベルが上がったかどうかの確認ってどうしてたんだろうね、
やっぱ本人の自己申告か?
シアも律儀だな、誰も確認できないなら嘘ついてもバレないだろうに。
「ご主人様のおっしゃる通り私はステータスが見えません。
儀式を受けたのに私は一向に強くならず、やはりレベルも
一向に上がりませんでした。
一族の中で私はレベルも上がらず儀式でも強くなれない
落ちこぼれの役立たずでした。
ですから奴隷として売られたのです。」
そう言う経緯があったのか。
シアは何も悪くないのにな。
ただ運と時期が悪かっただけなんだろうに。
「そうか、辛かったんだな。」
「はい、私は体裁上は戦闘においてはエリートの一族として
売られたのですが、私が役に立たないとわかると何度も売り返されました。
ですからこのことをご主人様に知られてはまたそうなるんじゃないかと
怖くて言い出せませんでした。」
なるほど、色々頑張ってたのはただ単に恩返しがしたいというだけではなかったわけか。
戦闘で役に立たないことがバレれば捨てられるかもしれないからそれ以外のことで
何か役に立って自分の居場所を確保しときたかったのかも。
「シア、シアが話してくれて大体の事情は分かった。
シアにつらい過去があったことも今でもそのことで苦労していることも。
でも俺はシアが話してくれてうれしいよ。
これで俺もシアがなぜ辛いのか、なぜ言えなかったのか、
色んな事をシアと一緒に悩むことができる。
解決に向けて一緒に考えることができる。
シア、話してくれてありがとう。」
そうだ、シアが話してくれなければどうすることもできない。
原因について俺が思い至ることもなかった。
やはり誰かと思い出や辛い過去その他もろもろを共有するということは大事なことだ。
それが大切な人であるならなおさらだ。
シアがこの先そんな人を見つたとしても
このままでは自分に自信が持てず話そうと思えるかどうか・・・・。
「ごしゅ、ぐすっ、ごしゅじん、ぐすっ、さま。」
また泣き出しちゃった!
「し、シア、あのな、俺は別にシアが今まで黙ってたことを責めてるんじゃないぞ!?
シアが俺に話してくれたことがうれしいってだけで、他意はないからな!」
「はい、ぐすっ、はい、わかって、ぐすっ、います、
ただ、ぐすっ、うれしくて。」
そ、そうか。
うれし泣きか。
よかった。
ん?でもこれも俺のせいではあるのか?
それからまた泣き止むのに5分ほど要した。
俺は解決に向け、シアに提案する。
「シア、聞いて欲しいことがあるんだ。
俺のスキルを使えばもしかしたら何とかなるかもしれん。
だがあんまり期待はしないでくれ。俺も成功するか自信が無い。」
「そんなことが可能なのですか?今まで里の長老ですらわからなかったのに・・・・。」
「んー、俺もまだはっきりとできるとは言ってやれん。それでもいいか?」
「・・・・はい、ご主人様の思うままになさってください。」
「それと、仮に何とかなったとしてもこのことは誰にも
言わないでほしい。」
「はい、お約束します。」
「わかった、じゃあこれからそれを始めるぞ?」
「はい、よろしくお願いします。」
そうして、俺はシアのお悩み解決を始めるのだった。




