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これがあなたの目指したものですか・・・、ライルさん。

滅茶苦茶長くなってしまいました。


私としましては大好きな展開なのですがその分うまく書けているか

とても心配です。



事件は朝、酒場が始まる前に起こった。

俺はその日、酒場に泊まらせてもらっていた。

寝起きで、朝食を開店前の酒場でいただき、今日はどうしようかと

考えていたところ、なんだか外が騒がしくなってきた。

まだ酒場の開店には早い。

何だろう?


俺は、開店準備をしていたリアさんとルアさん、

シア、それにライルさん達が助けた彼女達と

共に外の様子を窺いに行った。




外に出ると、俺は驚愕した。


外には溢れんばかりの人、人、人。

数えるなんてことは叶わない。

なんだこれは!?


この町の人全員いるんじゃないかとも思える位人が集まってる。

しかもこんな朝早くに、だ。


これはただ事じゃない。


俺は偶々近くにいたターニャを見つけ、

「ターニャ!これは一体何事だ?」と問う。

すると、

「あっ、カイトさん!よかった、カイトさんに会えて・・・。

実はですね、ライルさんが目覚めないことを心配して町の皆さんが集まったんです。

ライルさんの様子を一目でも見ようと・・・。」

「・・・そうか。わかった、ありがとう。」


「こんなにもか・・・。」


俺はターニャの返答を聞いて誰に言うでもなくそう一人ごちる。


この町の人という人がライルさんを心配して

酒場前に集まっている。


これが今までライルさんが見返りを求めずにやってきたことの

結果なんだ。


改めて俺はライルさんという一人の人間を尊敬し、

そんな人の親友であることをとても誇りに思った。



ルアさん達が出てきたのを見つけた大衆は

口ぐちにライルさんのことを心配する言葉を

発する。


「おい、ルアちゃん!ライルは無事なのか!?」

「ライルさんはいつ目覚めるの?」

「リア、ライル様は?ライル様は無事なの?」

「従業員の姉ちゃん、ライルの坊主は大丈夫なのか?」



俺が聞き取れただけでもこれだけの人々が

ライルさんのことを大切に思っているんだ。


他の声に混じってしまってよく

分からなくなってしまった心配の

言葉の方が実際には圧倒的多数だ。


ライルさん、あなたは一体どれだけの人から愛されてるんですか・・・・・。


俺はつい不覚にもウルッと来てしまった。

年を取って、涙腺が緩んじまったか。



ルアさん達は必死に感謝の気持ちを述べながらも

ライルさんの現状を包み隠さず大衆に説明している。


大衆は説明を聴いているうちは静かに耳を

傾けていたが、ライルさんがいつ目覚めるかは

分からないということを聴くと落胆の声が出始め、

中には号泣する者まで出だした。


やはりいつ目覚めるかわからないという状況は

多くの人にとってショックなのだろう。


俺だって今までできるだけ考えないようにしていたが

かなりショックだ。

今だってこんなに大勢の人の前で崩れるわけには

いかないという、意地だけで何とかなってる

と言える部分も少なくない。


そのことを考えると少し立ちくらみがした。


シアはそれを見ていたようで近づいてきて

俺を心配そうな目で見てくる。


俺はシアの頭に手を乗せ、

「大丈夫だ、ちょっと俺の中のもう一人の俺を抑え込むのに手こずってるだけだ。

気にするな。」


と茶化してごまかすことにした。


それでもシアは心配そうに見てくる。


「ご主人様・・・・。」


とまだ何か言いたそうだった。


「・・・はぁ、わかった、今日はちゃんと休むことにする。

だから本当に心配するな。」


そう言ってやると、シアは笑顔を浮かべ、


「はい、わかりました!」

とうれしそうに答えた。



まぁ、今日くらいはいっか。

最近休みなく動き続けてたし。

周りを安心させるためにも今日は・・・。


俺はとりあえず今日は休むと決め、この状況にどう収拾をつけるか考えることにする。




だが、俺が収拾をつける前に大衆の中から不意にこんな声が挙がった。





「どうしてライルさんがこんな目にあったんだ?」






この言葉を聞いて誰かがまた声を挙げる。


「確か、今回の依頼でこうなっちゃったんだよな?」

言葉に反応して次々とまた新たな言葉が紡がれていく。

「ああ、依頼自体は成功だったらしいが、どうしてなんだろう?」


大衆はまたざわざわと騒ぎ出した。

大衆の中で「どうしてなんだ?」とか「なぜだ?」

という原因追及が始まった。


ヤバい、この流れは!


俺が危惧したように、大衆はどんどん勝手な憶測を

始め、あることないこと言い出した。


ルアさん達もどうしていいかわからず混乱している。


詳細については俺が話した人、つまりは

ギルド長とルアさん達しか知らない。


ルアさん達は大衆への説明にこのことは省いていた。

話してしまうとライルさんが庇った彼女が非難されてしまうからだ。


だから俺も話す人は限定したし、

話したとしても他言無用だとお願いした。



今はまだ勝手な推測だけで済んでいるが

いつ真実が露見するかわからん。




俺がどうするか悩んでいると突然大衆の中から一際大きな声が発せられた。




「何でも最近酒場で働きだした娘達が原因らしい!」




その声を聴いた途端、大衆の視線は応対していた彼女たちに向いた。

最早誰がその情報源か、というのは大衆にはどうでもいいらしい。

彼らにとっては最早「どうして」以外関心の的となり得ない。


彼女たちは大衆の視線に困惑している。


「どういうことだ!」

「説明しろ!」


と口々にはやし立てる大衆。



俺もどうするか迷っていると、


「待ってくれ!」


と大きな声が響いた。

ギルド長のものだった。


ギルド長は大衆の前に進み出ていきなり頭を下げた。


「皆、聴いてくれ。今回のことは彼女たちが悪いんじゃないんだ。

全て私が招いてしまったことなんだ。ライル君を

いつ目覚めるかわからない体にしてしまったのは

私の浅慮が原因なんだ!

皆、すまなかった!」


おお!オッサン、カッコいいぞ!!


俺はギルド長の対応に感謝する。


ギルド長には悪いが、これで収まるはず・・・・



「ギルド長、あんたが悪いわけがねぇ!

悪いのは全部あいつ等だろ!?」

「そうだよ、あいつ等さえいなければ

ライルさんがこんなことになることはなかったんだ!」

「全くだ!悪いのはあの女共だ。

あいつ等に違いない!ギルド長を脅してこんなことさせたのか、なんて奴等だ!」


ギルド長の対応は彼らを鎮静化させるどころか彼らの心を煽る結果にしかならなかった。


ギルド長は「待ってくれ、違うんだ!悪いのは私で・・・・」

と必死に説得しようとするも、

最早彼の言葉に耳を貸すものはいなかった。



大衆は言わば非難の的が欲しいんだ。

その的に誠実なギルド長は向かない、

と判断されたんだろう。

そして恰好の的として彼女たちが選ばれた。

この町に貢献してきたギルド長よりも何のつながりも持たない

よそ者の彼女達の方が非難しやすいのだろう。

もちろん意識的にそんなことをしている奴は

いないだろう。

彼らはただライルさんがいない心の隙間を

何かで埋めたいだけ。

その方法が今回は他者を非難するということだったに過ぎない。




彼らの追及が熱を帯びてきたころ、

こんなことを言うやつが出てきた。


「そもそも酒場で奴隷ということ自体がおかしいんだよ、

そいつらの維持費がかかるからライルが冒険者として金を稼がなければならないんだよ!」

「そうだそうだ、お前等奴隷がいるから

ライルがこんな目に合うんだ!」

「奴隷なんて消えちまえ!」



「「「そうだそうだ!」」」



大衆の熱は最早冷めない。

今度は奴隷の従業員さん達まで的としだした。

心無い言葉に彼女達だけでなく、従業員さん達まで泣き出した。


シアもうつむいて目に涙を浮かべ辛そうな顔をしている。

最後の言葉に傷ついたのだろう。


ルアさん達は怒って従業員さん達を背に庇っている。





最早理屈も何もあったものじゃない。

ただ悪い奴を決めつけ祀り上げるだけの魔女狩りだ、これは。


何なんだ、コイツ等は。

自分たちがやってることがどれだけ愚かなことなのか、なぜ気づかない。

お前たちだってライルさんに助けてもらっただろう。

その時にライルさんがこんな状態になったら自分だって

こうなるかもしれなかったんだぞ!


それに今やってることは結果としてライルさんが

彼女たちを助けたことを否定することになるんだぞ!?


挙句の果てにはライルさん達が家族のように接している従業員の人々のことまで

否定している。



ライルさん、これがあなたの目指したものなんですか・・・。




人間に与えられた『理性』を捨てたただの野獣だ、コイツ等は。


こんな奴等、もうどうなったっていい。

いっそ、まとめて殺すか。



俺がそんな思考を浮かべたとき、ふとライルさんの笑顔が浮かんだ。



ライルさんはそんなこと望んでない。

ただ、皆仲良く暮らしてほしいだけなんだ。

この町の人皆が。



そう思ったとき、俺はようやく自分が浮かべた思考の危うさに気づく。


危なかった、そんなことしたら俺もコイツ等と同じになる。


コイツ等だってライルさんが大切なだけで、

その大切な人が目覚めないというやりきれない思いを

何かにぶつけたいだけなんだ。

そうしないと心が耐えられないんだ。



そう思うとなんだか何かが心の中でストン、と落ちる感じがした。




ああ、そういうことか。なぁんだ、

あるじゃないか、皆がケンカせずに済む方法。




    


        神様ごめん、やっぱり約束、守れそうにないわ。









「フフフフフフフフ、アッハハハハハハハハ!」


いきなり大声で大爆笑しだした俺に皆の視線が突き刺さる。

シアやルアさん達も俺がいきなり笑い出したことに戸惑っている。


「なんだ、てめぇ!」

「てめぇ、笑ってんじゃねぇよ!」

「フフフ、いやぁー、すみません、こんなにも面白いものを

見せていただけるなんて。

喜劇でも見ているのかと勘違いしましたよ。」

「ふざけんじゃねぇ!何がおかしいってんだ!?」

「いえね、あまりにも私の計画通り、いや、計画した以上に

皆さんが動いてくださったので私も驚いているのですよ。」

「計画?おい、お前、どういうことだ?」

「そうだ、説明しやがれ!」

「まだ気づきませんか?

愚鈍な方たちです。まぁ、だから私の

思った通りに動いてくれたわけですがね。」

「この野郎ぅ、もったいぶらずにさっさと話しやがれ!」

「わかりませんかねぇ、都合がよすぎると思いませんか?

最近やってきたばかりの私がライルさんと仲良くなり、

私と共に今回の依頼を受けて、

そしてライルさんは今目を覚まさない。

これだけ言えばいくらあなたたちでもわかるでしょう?」

「・・・・・・まさか、お前が!」

「ハハハ、やっとお気づきですか。

遅すぎてこのまま逃げてやろうかと思ってしまいましたよ。

ただあなたたちが私の思っていた以上に愚かだったのでつい

見入ってしまいましたが。」

「この野郎ぅ、ふざけんな!

何が目的だ!」

「目的?そんなもの必要ですか?

この町の柱とも言えるライルさんが目を覚まさない

状況になって、あなたたちがどんな顔をするのか、

関係の無い人や奴隷達にどんなことを言ってその不満をぶちまけるのか、

それを見たかったこと以外に何かいりますか、目的が?」

「こいつ、頭がイカレてやがる!」

「そうですかねぇ?私は至って普通だと思っているのですが。

まぁそれはさておき、面白いものを見せていただきました。

あの自殺志願者にもお礼を言わないといけませんねぇ。」

ライルさん、ごめん!

「・・・・・・ライルさんのことかぁーーーーー!」

「ただの愉快犯なんかにライルさんはやられたってのか、畜生!」

「ハッハッハ、いいですね、それです、それが見たいんですよ、私は!」

「くそっ、おい皆!こんなクソ野郎ぶっ殺してライルの仇を取ってやろうぜ!」

「当たり前だ!こんなやつに、ライルさんが、ライルさんが・・・・」

「絶対に殺してやる、絶対に殺してやるからな!」

「許さない、絶対に許さないんだから!」

皆口々に俺を罵倒する。

中には呪詛みたいなものまで唱えている者もいる。



「おっと、バカな方々ですねぇ、

何の用意も無しに私が自分から犯人だと認めるわけがないでしょう!?

私は今この町の中にとても高級な薬を隠しています。

私に何かあれば二度と見つけることはできません。

ですから下手なマネはなさらない方がライルさんのためですよ?」


嘘ではない。

俺は今アイテムボックスに上級ポーションを隠し持っている。

俺が死ねばアイテムボックスからそれを取りだすことは叶わない。

だから一応嘘ではない。


「くそう、頭がおかしい上に、卑怯な野郎ぅだ!」

「卑怯で結構です。では、下手なマネをされる前にこの町を

離れさせていただきましょうか、大変面白いものも見せていただきましたし。

せいぜい私が去った後にでも薬を頑張って探してください。」


俺はその場を去る。

大衆は憎らしげな眼を俺に向けながらも何もできずただ道を開けるしかできない。


ルアさん達が目に入った。

とても悲しそうな顔をしていた。

俺はできるだけそれを見ないようにした。

途中、ターニャが話しかけてこようとしたが、

無視した。



町の入り口まで来た。

もちろん見送ってくれるものなどいない。

俺は振り返らずその場を去ろうとした。


そこで不意に声がかかった。

「待ってくれ、カイト君!」

ギルド長だった。

「・・・・なんでしょう?」

「君には本当に申し訳ないことになってしまった。

あんなことをさせてしまって。

大人としても、ギルド長としても失格だ。

本当に申し訳ない!」

俺は何も答えずその場を後にしようとする。

「待ってくれ、後少しだけ、少しだけ待ってくれ!」

「・・・・何ですか、まだ何かあるんですか?」

「・・・・・そうだ!これを君に渡しておこう。」

と言って懐から袋を渡してくる。

「・・・・これは?」

「これだけでももらってくれないか?

いくら払っても君には払いきれないくらいなんだが。

大丈夫、これは私の私費だ。きれいな金だよ。

いきなり旅立つことになったんだ。

少しでも足しにしてくれ。」

「・・・・一応受け取らせていただきますが、

こんなことがしたいわけではないでしょう?」

「いや、それは、えーっと、何というか・・・・」

あまり要領を得ない。

何がしたいんだ、この人は。

「つまりだね、その・・・・・、あ、やっとか!」

彼がそう言うと、何やら駆けてくる音が聞こえてきた。


まさか、油断させて俺を捕まえる気か!?


そう思って慌てて腰にある剣に手を伸ばす。

が、それは杞憂だったようだ。





「ご主人様ぁ---!」



そう、走ってきたのはシアだった。


「・・・・どういうことですか?」

「いやね、君が町を出ていこうとした時に

彼女に、自分が宿に戻っていろんなものを取りに行くまで

君を足止めするよう頼まれたんだ。

あっ、でも謝罪とかに関しては本気だよ?

君に申し訳ないことをしたという気持ちは本当なんだ。」


そうこうしているうちにシアが俺たちの下にたどり着く。

「はぁ、はぁ、はぁ、ご主人、様。

私も、連れて行って、下さい。

私は、ご主人様の、奴隷です。

ですから、私も・・・」

「・・・・・、シア、酒場の前でも見ただろう。

俺と一緒にいても何もいいことなんてない。

それどころか辛いことの方が多いかもしれん。

それよりも酒場の人たちと一緒にいた方が

シアも幸せになれると俺は思う。

ちゃんと俺が死んだら解放されるように手続きはしておく。

だから・・・」

「この町にはいたくありません!

この町の人は酒場の方々や宿の方々を除いて皆

ご主人様を悪者にします!

そんなところに私はいたくありません!」

「シア・・・・・。」

「私は一度あきらめた人生をご主人様に救っていただきました。

このご恩は返そうと思っても返せるものではないと思っています。

ですから私はご主人様に一生お仕えしてこのご恩をお返ししたいのです!」


そこまで思ってくれていたのか・・・・。

だから今まで事あるごとに俺の役に立とうと・・・・。


「・・・・・俺についてくるとこんなことが何度もあるかもしれんぞ?

辛いことだって1度や2度じゃすまないかもしれないぞ?

それでも俺についていきたいか?」

「ハイ!お願いします、ご主人様!」

「・・・・・そうか、わかった。

じゃ、一緒に行くか、シア!」

そう言ってやると、シアは満面の笑みを浮かべる。

「ハイ、よろしくお願いします、ご主人様。」

やっぱりかわいいなぁ。


俺はギルド長に向き直る。


「色々とお世話になりました。

こんな形になってしまいましたけど

ここにいれたことはとても楽しかったです。

ライルさんのこと、よろしくお願いします。」

「ああ、確かにこの町のギルド長、ボルグが承った!

・・・・また君に会えることを祈っているよ、

カイト君。」

「そうなればいいんですがね。

・・・・では失礼します。」




そう言って、俺たちはリンカの町を後にした。




これにて第1章終了となります。


私が思っていた物の5倍の量となりました。

想像と現実は違うものですね。


この展開については賛否両論あると思います。

どちらが正しいというわけではないと思いますので

ご意見・ご感想をいただいても

変更するということは多分できないと思います。

ご了承ください。

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[気になる点] ライルさんの、その後が気になります。 後に、ライルさんのでる予定は、ありますか。
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