これは一体・・・、
俺たちは走り続けた。
行きの時のことを考えると
どんなに急いでもここを脱出するのに3分はいる。
もう既に洞窟が崩れ始めている。
頭上から小さいながらも色々落ちてきている。
急がないと・・・・。
「皆さん、頑張って下さい!
もう少しで外です。」
「そうだ、ここを出れば大丈夫だ、だから皆あきらめるな!」
俺とライルさんは彼女たちを励ましながら走る。
やはり体力的に厳しい様子。
外の光が見えてきて、もう少しというところで
彼女たちの内の一人が目に見えてペースが遅くなりだした。
彼女が膝に手をつき、呼吸を整えようとする。
今はそんな悠長なことしてる場合じゃないだろ!
「まずは出ることだけを考えて!休むのは脱出した後でもできます!」
「頑張れ、後ちょっとだ!」
彼女はだが、走り出さない。
ライルさんが彼女の下へ駆ける。
「カイト、先にいけ!俺は彼女を背負っていく!」
「わかりました、急いでください!」
ライルさんが彼女を背負おうとしゃがみこんだ。
その時、二人の頭上の岩が崩れ落ちてきた。
「ライルさん、危ない!」
俺が叫ぶと、ライルさんは彼女を突き飛ばした。
ガーンッ
彼女はライルさんのとっさの判断で回避できたものの、
ライルさんは直に岩の落下を受けてしまった。
「ライルさん!」
俺はライルさんの下に駆け寄る。
頭からの出血があるが、息はある。
「あなたは一人で行ってください、
私がライルさんを背負います!」
疲れ果てていた彼女もライルさんの緊急事態に慌てるが、
俺の激を受け、また走り出した。
俺はライルさんを背負い、再び出口へ走り出す。
途中、同じように落石があったが、
事前に察知してその悉くをかわした。
ようやく出口が見えた。
後ろから崩壊の足音が近づいてくる。
俺はライルさんを落とさないよう全力で駆けた。
そして、ようやく外に出れたようだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。
なんとか、脱出、できた。
そうだ、ライルさん、は?」
俺はライルさんをおろし、ステータスを確認する。
HPが1桁だった。
ヤバい、このままじゃライルさんが死んでしまう。
俺は迷わずアイテムボックスから上級ポーションを取り出した。
ライルさんにそれを飲ませる。
意識が無いのでマウストゥーマウスをしなければいけないかとも思ったが、
ライルさんの口に流すと自然に液体が喉の奥に入っていった。
すると、頭部が輝き、見る見る傷がふさがっていった。
俺はステータスを確認したが、HPはMAXまで回復していた。
ふぅ、これで先ずは一安心だな。
「皆さん、無事ですか?」
俺は全員を見渡す。
彼女たちはゼイゼイ息を荒げているが遅れた子を除いてケガとかは
無いようだ。
俺は一番遅れた子を診察する。
どうやら足をくじいたらしい。
俺はMPポーションを飲み、治癒魔法を使う。
上級ポーションを使うかどうか迷ったが
後々俺の治癒では回復できないケガをされるかもしれないので
取っておくことにした。
その後、シアの様子を見たが、息が少し荒いだけで
体の方は何ともないようだ。
俺が「おかしいところがあったら言えよ?」
と言うと、
「大丈夫です。それよりこれからどうしましょう、
ご主人様?」
と言われた。
確かにライルさんが目を覚まさない今俺が方針を決めるしかない。
「そうだね、皆もあまりここには長居したくないだろう。
息が整い次第離れたいところだね。
ライルさんは俺が背負うよ。」
「わかりました。
あの方たちにもそう伝えてきます。」
「ああ、頼むよ。」
そう言って、シアは休憩している彼女達のもとへ駆けていく。
いい娘だな、自分も疲れているだろうに率先して動いてくれる。
俺はすぐに離れられるよう準備する。
MPは全快するまでポーションを使った。
戦闘できるのが今は俺だけだし、
ライルさんを庇いながらだから戦闘になったら基本魔法で戦うことになる。
出し惜しみはしない。
それで死んだら元も子もないからだ。
俺が準備を終えた頃、彼女達も息が整ったようだ、
こちらに歩いてきた。
「では、これから町に戻ります。
基本隊列は私を先頭にあなた方、シア
ということで進みます。
休憩が必要と思ったら遠慮せずにおっしゃって下さい。
基本は2時間程度毎に取りたいと思います。
戦闘になった場合は私から離れずに
いて下さい。
離れられると守れなくなります。
いいですか?」
俺が皆を見回すと、
「「「はい、よろしくお願いします。」」」
と返ってきた。
「では行きましょう。」
俺たちは町への帰路を歩き出した。
やはり行きよりはかなり時間がかかった。
休憩を2時間毎に4度挟んで、3度モンスターと遭遇して
どれも魔法で蹴散らした。
ライルさんがまだ目覚めないので
戦闘も休憩中の警戒もすべて俺が何とか対応した。
警戒中シアが俺を気遣って
「私が警戒しますので、ご主人様は
少しでもお休みください。」
と言ってくれたが、丁重に断った。
ライルさんがいない今俺が目を離したすきに何か起きたら対応できるかどうか
まったく自信が無かったし、
シアにだけ警戒させると変に彼女達も気を使うと思ったからだ。
だから、俺は休むことなく町への道を
ただひたすらライルさんを背負って歩いた。
そうしてリンカの町に着いた時にはもう空は真っ暗で
町の明かりだけが道しるべとなっていた。
背負われているライルさんを見て門番さんは
大層驚いていたが、
意識が無いだけで
命に別状はないというと
ホッとしていた。
まず町に着いて俺がしたことは
酒場へと向かうことだった。
酒場はもう閉める準備を始めていた。
ライルさんを背負っている俺を見て
従業員さん達も、
ルアさんやリアさんも
とても驚いた。
俺はとりあえず命に別状はないこと、そして念のため
医者に見せるよう話すとルアさんはすぐさまかかりつけの医者を
呼びに行った。
俺はその間にギルドに行って事の顛末を報告した。
もう結構な時間だというのにギルド長は残って書類と格闘していた。
俺の話を聞くギルド長の顔は話の終盤に差し掛かると険しいものとなっていった。
ケインに恩赦を出すことを決めたのはギルド長らしい。
話し終え、俺が立ち去ろうとするとギルド長は頭を下げ、
今回のことを謝罪した。
俺は「ライルさんが生きているんですから。
今はそれでいいんじゃないですか?
謝罪はまた後日ライルさんと揃ってお受けします。」
と言ってその場を後にした。
俺が酒場に戻ると、こんな夜にもかかわらずかかりつけの医者が
来ていてライルさんを診察していた。
これもライルさんの人徳だろう・・・。
医者が診察中に、従業員さんやルアさん達に今回の件について
説明した。
そしてライルさんが助けた彼女たちについてどうすべきかを
相談したところ、4人位なら酒場で雇ってもいいということで、
そのまま彼女たちは酒場で働くことになった。
色々大変じゃないかなぁ、などと俺が心配してもどうにもならないことを
考えていると、俺はふと今回の戦果を思い出し、ルアさん達にそれを
渡して使い道を提案する。
「これをルアさん達のお父さんに使っていただけませんか?」
「えっ、これって、上級ポーション、ですよね?
こんな高価なものいいんですか?」
「これは今回の依頼中に得たものです。
まだ1つありますから。
使っていただいた方が私もうれしいです。」
「ですが・・・。」
ルアさんもやっぱりライルさんの妹だけあって
強情だなぁ・・・。
「では、お父さんとライルさんが元気になったら、
ここを貸し切って、ご飯をいっぱいごちそうしてください。
それでチャラにしましょう。」
「カイトさん・・・・、はい、わかりました!
もう食べられないくらい一杯ご飯作ります!
私も、リアも、みーんなでカイトさんをおもてなしします。
もう無理ってくらい私はサービスしますからね、覚悟してくださいよ!」
ルアさんは目に涙を浮かべている。
だが顔はこれ以上ない位笑顔だった。
俺はその場を去る。
俺とシアは宿屋に向かう。
シアも宿の外観と中身の違いにはかなり驚いていた。
ターニャが迎えてくれた。
眠そうな目をこすりながらも俺の帰還を喜んでくれた。
と同時にシアを見ると何とも言えない表情を浮かべる。
俺は一人追加することを伝え、追加分のピンスを払い、
部屋へと向かう。
部屋はツインを選んだ、というよりそれしかなかった。
俺は最低限のことだけを済ませ、ベッドに飛び込んだ。
シアは何か遠慮していたが、
「使ってくれないと一人分無駄になっちゃうなぁ。」
と言うとしぶしぶながらもベッドで寝てくれたようだ。
盗賊の依頼から1週間が過ぎた。
だが、未だにライルさんが目を覚ますことはなかった。
一方でいいニュースもある。
ライルさんのお父さんが快復したことだ。
ライルさんを除く一家総出で感謝された。
もちろん奴隷の従業員さん達にも、だ。
感謝されることはうれしかったが、
その場にまだ俺の親友がいない。
俺は素直に喜べずにいた。
最初にライルさんを診察した医師は「専門外でわからない。」
と答えた。
そして、昨日専門の医師とやらがライルさんの状態を
診察したところ、結果が出た。
ライルさんの状態は「全くもって良好だ。」と言われた。
そりゃそうだ。上級ポーションを使ったんだから。
だが、「だからこそどうやったら彼が目覚めるかわからない。」
とも言われた。
頭部にできた傷や脳へのダメージもすべて上級ポーションで治っている。
だから本当は目が覚めてもおかしくないのにライルさんは目覚めない。
そして最後に、「もしかしたら彼はずっとこのままかもしれない。」
と言われた。
俺は彼に怒るのは筋違いとわかっていたのでその怒りを
なんとかライルさんのためになることへと昇華した。
まず、元の世界での人工透析器等、植物人間と化した人を
延命する物に当たる物はこの世界ではMPで動かせるらしく、
初期投資さえなんとかできれば一般家庭でも入手できるものらしかった。
俺は今回の報酬に別途盗賊討伐分を加えた俺個人の報酬全て、
約8万ピンス全てをつぎ込んでそれらを購入した。
そして、できるだけ困ってる人を助けた。
ライルさんの代わりなんて務まりはしないと自分でもわかっていた。
だが自分にできることというのはこれくらいしかなかった。
その間、シアは酒場の方で世話してもらった。
シアは俺の手伝いをしたがったが、「酒場でいろいろすることも立派な俺の手伝いだ。」
と言いくるめた。
ライルさんが目覚めない今、誰かに頼ってしまうと
そのまま自分が崩れ落ちてしまうんじゃないかと
怖かった。
ライルさんは生きている。
ただ、目覚めない。
この、元の世界でも説明がつかない魔法の力を使っても。
そのまま誰かを頼ることが、ライルさんが一生目覚めないことを
認めてしまうことに繋がるのではと思った。
それにシアのことも決めかねていた。
このまま酒場でお世話になった方が彼女は幸せになるんじゃないか。
俺についてきても何もしてあげられないのではないか。
色んな思いが自分の中で渦巻いていた。
俺はそれらをすべて忘れられるよう人助けに没頭していた。
そんなある日、事件は起こった。
次話は私個人としましては大好きな展開となっていますが、
好き嫌いの大きく分かれるところだと思います。
どのような反応がいただけるのかかなり不安ではありますが
同時に楽しみでもあります。




