お頭暴走してんなぁ・・・。
※今回の話には残酷と思われる描写があります。
苦手な方等は閲覧をお控えください。
俺は今階段を静かに降りている。
下からは男のものと思われる声が聞こえてくる。
恐らくお頭だろう。
何かを話しているようだ
だが一方的なもので捕まってる娘の声は一切聞こえない。
俺は20ポイント使って『隠密』を取得する。
やはり最初の特典の時より必要なポイントが高い。
俺は感づかれないよう足音を殺し、階段を下りていく。
階段を降り切ると俺は壁に身を潜めながら様子を窺う。
『隠密』のおかげか自分がまるで空気に溶け込んだかのように感じる。
・・・・決して俺の存在感が元から薄いということではない。
お頭が牢屋内の女の子の顎を持ち挙げている。
キスでもするところなのか。
女の子は抵抗する様子はない。
うわぁー、あれにキスされんのか。
人の面言えるほど俺もイケメンじゃないがあれは嫌だわぁ。
「おい、どうした?俺様とキスできるんだぞ、もっと喜んだらどうだ。」
「・・・・・・・・。」
「おい、何とか言ったらどうだ?」
「・・・・・・・・。」
「この女ぁ!何かしゃべれって言ってんだよ、ほら、『命令』だ!」
「・・・、殺して、下さい。」
「へっ、命令してしゃべった言葉が殺して、か。はははっ、安心しろよ。
たっぷり今夜から可愛がってやる。俺が飽きるまで死なせはしねぇからよ。
なんなら自殺でもしてみるか?ははっ、つってもお前はできないんだったな。
なんたって『奴隷』だからな!」
お頭は高笑いしている。
お頭こんなキャラだったっけ?
なんかキャラブレてない?
それにしても今回連れてこられた娘は『奴隷』らしい。
奴隷は所有者の物だから基本所有者の下を離れることはない。
それが盗賊によって連れ去られたということでも
所有者が替わるということはない。
奴隷には所有者に服従させるための魔法がかけられている。
その効力を引き出すために『命令』を念じつつ実際に命令する。
奴隷に自害を命じるなどの極端なものでない限り『命令』には効力が付与される。
だから所有者以外の『命令』に服すことはないはず。
でもお頭の言った『命令』に彼女が服従したということは
所有者が変更された、つまり今の彼女の所有者はお頭ということになる。
恐らく元の所有者は殺されたのだろう・・・。
基本は所有者が死ぬとその人の財産は相続という形で誰か、基本はその子供に受け継がれる。
奴隷も物なので相続の対象となるはず。
だが、対象とするにはそういった正式な手続きを踏まなくてはならない。
基本は奴隷契約をする際にこの手続きを踏むが、
後からでもこの手続きを踏むことは可能である。
ちなみにこの手続きの際に奴隷をその身分から解放する、ということも決めれるらしい。
所有者のいない奴隷は奴隷商に戻されるのが基本だが、
初めに見つけた人が所有する、と観念すれば
その人の物にすることもできる。
全てライルさんからの受け売りだ。
状況を整理するに、元の所有者は死んだ際に奴隷の女の子を
どうするかについて何も決めていなかった。
その状況でお頭に殺されたから女の子の所有者が
いなくなり、お頭が自分の物にしようと思ったから
今の女の子の所有者はお頭ということになるんだろう。
さて、どうするか・・・。
普通の一般民、つまり奴隷以外を想定していたんだが・・・。
もちろん奴隷だからと言って助けないとか狭量なことを言うつもりはない。
だが奴隷だと助ける方法に制限がかかる。
最初はお頭を無力化さえできればいいと思っていたが、
お頭が女の子の所有者となるとただ無力化するだけでは駄目だ。
助けた後でも、お頭が生きていれば奴隷の束縛から逃れられない。
・・・・やはり、殺すことになるか。
相手が誰であろうと人を殺すことにはやっぱり抵抗がある。
死刑の執行官であっても死刑執行のボタンを押す際には
心の中で葛藤があるはずだ。
俺にはそんな社会正義の実現という大義名分すらない。
この世界で物として扱われている人を助けるために
人を殺す。
相手は盗賊なんだ、奴隷だろうと人を助けるためなんだ、
と自分を叱咤するもやはり気分は晴れない。
当たり前だ、理由があっても人を殺すんだ。
気分が晴れるなんてあるわけが、いや、
あってはいけないんだ。
そこを間違えると俺はただの殺人狂になってしまう。
俺は人殺しだ。人助けだとか言って言い訳や逃げ道を作ってはいけない。
真正面からその事実と向き合って、それを一生背負っていかなければならないんだ。
人の一生を強引に終わらせるということはそういうことなんだ。
俺は背負っていくと覚悟を決めた。
後は助けるだけだ。
俺は今の状況を確認する。
俺には今隠密もある。
お頭に探索なんかの索敵系スキルはなかったはず。
そのこともあってお頭は今、俺の存在に気づいていない。
つまりは不意打ちが可能。
できれば一撃で仕留めるのが理想。
だが流石にお頭となると不意を突いても一撃で仕留めれるかは何とも言えん。
となると2撃以上放つことを想定して進めないといかんな。
2撃以上となると盗賊特有の素早さが邪魔になってくるな。
風魔法で足に一撃目を入れるか、
土魔法で足ごと埋めて動けなくするか・・・。
前者だと確実に動けなくできるか不安だな。
よし、土魔法で行くか!
後は動けないところを剣なり風魔法で始末すればいいか。
では、まだ気づかれてないうちに始めますか!
俺はお頭掃討作戦を開始する。
「せいぜい夜になるのを楽しみにしておくんだな!
ちゃんと可愛がって・・・・」
俺は土魔法を発動させる。
お頭の足下の土を柔らかくし、足を地中に埋めていく。
「な、何だこれは!?」
お頭も動揺しているようだ。
逃げ出そうと足を引き上げにかかる。
俺はすかさず土の硬度を変える。
コンクリート位の硬さとなるとまだ力不足で無理だが、抜け出せないくらいには
もう足がかなり深みにはまってるし、大丈夫だろう。
MPをほとんど使ってしまったようだ。忘れてたなぁ、剣で始末することになるかな・・・・。
お頭は何度も足を引き抜こうと試みるも、
全く変化が無い。
「くっ、何だ、どうなってやがる!?」
俺は剣を抜きお頭に近づいていく。
「なっ!誰だてめぇ、俺が誰だか知っててこんなことしてんのか?
イタズラならここらへんでやめとけ。
見逃してやるからよ。」
お頭はひきつった笑顔を浮かべている。
この状況で取り乱さないだけでも子分よりはマシか。
「ほう、見逃してもらえるのですか。
ありがたいことです。
あのたくさんいたやつらを殺したことも見逃してもらえるなんて。
あなたはお頭の鑑みたいな人ですね。」
俺はあえてお頭と問答することでお頭の怒りを
呼び起こすことにする。
相手が敵意むき出しの方が罪悪感がいくらかマシになると思ったからだ。
さっき決意したってのにまだ揺れてる部分が自分の中にある。
はぁ、人間なんてどうせ矛盾だらけな生き物なんだよ。
お頭の顔は見る見る青ざめていく。
「お前、まさか、あいつらを殺したのか?」
「はい、一人残らず。生きていたら部外者の私がここに来れるはずないでしょ。
・・・それを見逃してもらえるんですよね?」
お頭はプルプル震えだした。
・・・別に進化の前触れではない。
「ふざけんなぁー!この野郎ぅ、よくも、よくもぅあいつらをーー!
許さねぇぞ、絶対許さねぇ。」
・・・こいつも結局は同じか。
自分達のことは棚に上げて・・・。
・・・はぁ、もうこれ以上の思考は無駄だ。
「ふぅ、その状態で許すも許さないもないでしょう。
あなたはただ自分の行いを悔いながら私に殺される以外ないんですから。」
「首だけになってもお前ののど元に食らいついて必ず殺してやる!」
お前はどこかの武士か!それともどこかの山の狼か!
・・・そんなツッコミもコイツ相手だと虚しくなるだけだな。
「そうですか、なら首以外を切って殺して差し上げます。
痛みに苦しみながら自分の行いを悔いて死んでください。」
俺はそう言ってお頭の体を頭上からたたき切った。
全く宣言したこととは違った。
心のどこかですぐに楽にしてやりたいという思いがあったのかもしれない。
お頭はまさに鬼の形相を浮かべながら絶命していた。
俺はお頭の体を漁り、鍵を取り出す。
MPがもうない。
MPポーションを使ってもいいが節約できるんなら節約したい。
俺は牢屋の鍵を開ける。
中にいた女の子は俺を見て戸惑っていた。
「私は一応冒険者で盗賊についての依頼を任されここにいます。
私のことを信用しろとは言いません。
ですがこのままではあなたの救出を私に任せると言ってくれた
親友に顔向けできません。
ですからほんの少しの間で構わないので私に協力してくれませんか?
危害は加えないと約束しますから。」
俺の言葉を聞いてもまだ戸惑っているようだが、
顔を上げ俺を見て言葉を発した。
「・・・・私の今のご主人様はあなた様です。
奴隷はご主人様に従うものです。
ですから私はご主人様の言う通りにします。」
あれ?
俺がご主人様?
確かに所有者であるお頭を殺した今、初めて見つけたのは俺だけど、
俺はこの娘を所有したいとは思ってないぞ?
・・・・、あっそうか。
盗賊の盗品ってことになるのか。
で、盗品はその盗賊を倒した人の物になる。
なるほどなぁ~。
・・・・えっ、俺が所有者!?
そうして、俺はこの世界で初めて奴隷のご主人様になったのだった。
21話で隠密取得に25ポイントと記述している部分がある
とご指摘があったのですが正しくは20ポイントです。
訂正させていただきます。




