色んな所で、精霊が鍵になるようです!!
「久しぶりですね……ディールさん」
人族の方の男性が、ディールさんに親し気に話しかけられました。
ディールさんに事前に聞いていたことからすると、このお二方が――
「ゴホッ……――こうして複数のSランク冒険者が一堂に会するのは珍しい」
やはり。
この人族の男性が『オリジンの源剣』の団長――“『千剣の使い手』ルーカス”。
「フンッ……別に、俺たちにとってはそう珍しくはないぞ? ――あんたがひっそり生き過ぎなんだ」
こちらのエルフの方も、Sランク冒険者。
一見私やユウさんと大きくは変わらない年に思えて。
でも、このグリードさんは100歳を超えていると聞きました。
「フフッ。まあそれも私の自由だからね……ところで、君たち、連れはいないのかい?」
ディールさんがチラッと、私とユウさんを視界に入れる。
そして『オリジンの源剣』の二人の後ろへと視線を投げた。
「うーんと、“クロエ”と“フロウラ”は別件でソルテールに行ってます。多分1か月は帰ってこないんじゃないかな……――ティアーナは?」
ルーカスさんが答えた後。
ディールさんから視線を外さず、グリードさんにそう尋ねた。
「あん? 元総隊長殿……今は騎士団長か――元騎士団長殿を連れて、西の魔法国に行ってる。いつもの“探し物”だろ?」
素っ気なく答えているように見えて、キチンと伝えるべきことは伝える。
……Sランク冒険者ですからね、そういう部分はしっかりしてらっしゃるんでしょう。
「なるほど……」
「――ディールさん。どうです? 以前お伝えした件、考えてくださいました?」
突然、頷いたディールさんにそう問いかけた。
その目は優し気に見えるのに、どこか油断できないような気迫が籠っている気がしました。
隣で控えるユウさんも、少し警戒感を強めています。
「……『オリジンの源剣』へのスカウトなら、以前も断ったと思うが?」
っ!?
ディールさんは、『オリジンの源剣』へ、スカウトされていた、んですか。
驚きました。
……ユウさんの方が私よりも動揺しているようですが。
「それでも、ですよ。貴方は一国とだって平気で喧嘩ができる。貴方が入ってくれれば、『オリジンの源剣』ができないことは無くなる」
その瞳は揺らがない。
本気でそう思っている。
それだけディールさんの力を欲しているということ。
ただ――
「はぁぁ……」
ディールさんは大きなため息をついた。
「本当にそうかい? ――じゃあ、君たちがやりたいことの核の部分はどうなんだい?」
その一言で、空気が一変する。
あの目が、更に鋭くなりました。
「…………」
グリードさんは口出ししません。
黙って成り行きを見守っています。
「……どこまで知ってるんです?」
ルーカスさんは静かに、ただそれだけ問うた。
その問いに、またディールさんは一度だけ、見せつけるように大きくため息を吐く。
「はぁぁぁぁ――君たちに、一つだけ忠告しておく」
ディールさんもまた、今までのものとは違う、とても研ぎ澄まされた空気を纏う。
……こんなディールさん、初めて見ます。
「――“オリジン”は君たちには呼び出せない。断言するよ」
その言葉に、しばらく誰も言葉を挟めませんでした。
ディールさんの言葉に、大きく目を見開いたルーカスさん。
「……俺たちに、“ヒノモト”は落とせない、と?」
余程衝撃だったのか、一瞬詰まって、何とかそう問い返した。
「ああ」
ディールさんは、一つも間を置かず、頷く。
「「…………」」
重苦しい雰囲気が、このフロアだけでなく、建物すべてを支配しているようで。
息をすることすら、難しい沈黙。
そんな中――
「――あん? 何だ……」
グリードさんが突然、その沈黙を破る。
えっと……誰と、話しているのでしょう。
「……ふぅぅ――グリード、誰だい?」
今のグリードさんの行動で、空気が弛緩する。
ディールさんも鋭さを収め、私達を見ました。
「……あれは『精霊魔法』さ。我々には見えないが、彼は精霊を使役しているんだよ」
「へ~。見たことはあるよ、ボク」
ユウさんは張り詰めた空気が消えたこと。
そして自分が分かる話題が出たことで笑顔が戻りました。
「仲間が一人、『精霊魔法』の使い手でさ! そういえば、彼女、誰か有名な人の親戚って言ってたけど……」
「――ちょっと席を外す」
グリードさんが何やら苦い表情で、そう告げた。
「……珍しい。姪っ子さんとは疎遠なんじゃなかったっけ?」
「……ああ、だが急に精霊をよこしてきた」
二人はその話題を聞かれても問題ないと思っているのか。
私達の前で普通に話しています。
「……何か、のっぴきならない用かな?」
それを聞かれると、グリードさんは更に苦りきったような表情に。
このように経験豊富でSランクと実績のある方が、こんな顔をされるとは。
それほど耳に入った情報が、驚くべきことだったのでしょうか。
「――……なんでも、人族で精霊を使役する奴がいる、一度会って欲しい、と」
「――な!? そ、それは本当か!?」
――初めて、その表情に動揺が走ったように見えました。
先程のディールさんとのやり取りでも、取り乱したようなことになるまでは、いかなかったのに。
「さあな……だが、俺と姪の関係はお前が言った通りのもんだ――嘘をつく、理由が分からん」
グリードさんがそう告げると、ルーカスさんが、息を飲んだ。
――興奮している。
何か探し物を見つけた、そう言っているように。
「分かった――ギルド本部には俺から言っておく。行ってくれ」
「ああ。悪いな――」
こちらへ来た時よりも少し足早に去っていく。
「……良かったね、どうやら“依り代”候補が見つかったようだ」
ディールさんがそう告げる。
しかし、しばらく呆然としたようになって、ルーカスさんは答えなかった。
「……確認するまで安心は、できませんがね」
ようやく口を開くも、いきなり目の前に飛び込んだ現実を受け入れられない、みたいな様子です。
「――それはそうと……あなたはやはり、全部知っているわけですね?」
今度はもう、その目に鋭さを宿すことはなく。
確認するように、ディールさんにそう尋ねた。
「ゴホッゴホッ……――どこかから遺物を偶然見つけ、君らはそれを改善したようだが。雛型はクベルの爺さんが考えたものだよ、それは」
ディールさんの言葉に、また大きく目を見開いた。
「え……」
ユウさんも隣で息を飲むのが、分かった。
「――……それはとんだ皮肉だ」
それだけ口にして、後は黙ってしまいました。
それからは会話をすることはなく。
通された部屋で、ギルド本部のマスターを待つことに。
細長い楕円形のテーブルで、ディールさんとルーカスさんは真反対に腰を下ろしました。
私とユウさんは付き人という立場なので、ディールさんの後ろに控え立っています。
どれくらい待ったでしょう。
次に誰かが来るのなら。
最初、私達とは同じ、重厚な扉をくぐって、部屋に入ってくるものだと思っていました。
ですが、次に現れた人は。
――扉を開くことなく、この部屋へと、入ってきたのです。
――部屋の空中に、大きな異空間を形成して。
「――っ!!」
私とユウさん二人が、即座に警戒。
ですが、ディールさんが片手を上げます。
「大丈夫だろう。私も実物を見るのは初めてだが――」
「――はぁぁ……やっと戻ってこれたわ。西は寒くて寒くて。やんなっちゃう」
「――君が薄着だからだ。何処にでも移動できるからと言って、気候に無頓着なのがいけない」
グニャグニャと不規則に伸び縮みする穴。
そこから、私より5つ位年上の綺麗な女性と。
銀髪を頭の後ろで縛っている、鎧姿をした男性が。
「――来たか、ティアーナ。フランさん」
===== シア視点終了 =====
「――あっ!! 見えてきたよ!!」
前に座っているレンが、大きく声を上げ、指を差す。
自由都市ルルスが見えてきた。
空からでも認識できるほどに大きく、六角形をイメージして都市が作られていることがわかる。
その中心に、一際大きな建物があった。
――あれが、ギルド本部か。
「――カイト・タニモトォ!! あっちぃ!!」
並んでドラゴンに乗り、滑走していたフレアが一際大声で叫ぶ。
手でメガホンを作って、その後、降下先を指さした。
「分かったぁぁ!!」
俺は飛行音を気にして、大げさに身振り手振りも大きくした。
フレアの後ろに乗っているヤクモも、そしてミレアも。
俺を向いて頷き返した。
「よし!!――じゃあ頼む」
俺は優しく背を撫でてやり、意図を伝える。
『分かりました! 着陸するまで、しっかり掴まっていてくださいね?』
返答があり、レンにもその旨伝える。
「うん、わかった!!」
そういって、レンは背中へと――つまり、俺へと体重を預けてきた。
「…………」
「えへへ……」
分かってやっとるな。
「……まあ、いいけど」
俺は落ちないよう、レンのお腹に手をまわして、落とさないようしっかり力を入れた。
「あっ、もうちょっと、優しく――」
こらっ、変な声出さない。
「――久しぶりだな、ミレア」
自由都市ルルアから2・3㎞は離れて着陸したはず。
――だが、俺たちが下りたそこには、待ち人がいた。
「……お久しぶりです、伯父様」
ミレアが恭しく頭を下げて、挨拶した。
相手もそんなミレアを見て、少しだけ眉尻を下げた。
……本当に、注意してみないと分からない程だったが。
その相手は、眼帯をしている方とは別の視線を、フレアに移した。
「……それに、“火竜姫フレア”まで一緒とはな」
「……会議以来ですね。“グリード”さん」
今回の来訪の目的の一人――Sランク冒険者のグリードは、訝るようにそう口にする。
フレアは鋭い眼差しを向けられて、一瞬ビクッとなっていた。
……お前、『イフリートの炎爪』の団長代理までやってんだろ。
何ビビってんだよ。
ミレアも言ってただろう?
見た目はともかく、案外気さくな人だって。
「――それで?」
おっ、その視線が俺に向いた。
一瞬レン、ヤクモにも向けたが、すぐさま俺の方へと戻ってくる。
「“火竜姫”は違うだろうな。人族ってのは……――ヘルムのコイツか」
クワッ!!とその片目が見開かれる。
――いや怖っ!!
え、何で目だけでそんな怖さを表現できるの!?
あと、その顔面の大きな傷跡どうにかできませんか!?
怖くて怖くて、気になって仕方ないんですが!!
「はい――あの、“マーシュ”さん」
ミレアが、俺に近寄ってきて、耳打ちした。
「申し訳ありません……何の手土産もないと会ってくれないと思いまして、その――」
「……条件か何かでもつけたか?」
俺が囁くと、ミレアは小さく頷いた。
「条件、という程仰々しくはないのですが……伯父様も精霊を使役しておりますので、『精霊魔法』には興味を持ってくださると思いまして」
それだけで納得する。
ああ、何だ。
要は精霊を見せてくれってことでしょ?
俺は頷いた。
怖いけど、ヘルム越しにグリードを見る。
グリードも、俺が何かするのを待っているというように、腕を組む。
「――……来い」
俺は、それだけを告げる。
でも、それだけでよかった。
――一陣の風が、吹いた。
『――カイトォォ、呼んだ~?』
『――呼ばれたからには、たとえお腹が減っていても参上せざるを得ない』
『――悪を倒すため、我らはどこでも駆け付ける!!』
『――泣いてる子はいねぇがぁぁぁ!?』
『――正義を振りかざすものに、日陰者の鉄槌を!!』
一頻り現れた精霊たち。
それぞれが名乗りを上げて行き――
『我ら――』
『『『『『精霊!!』』』』』
――いや、何か戦隊ものっぽくやってたじゃん!!
単なる“精霊”で纏めるのかよ!!
まあそもそも最初っからどういう方向性なのか全然分けわかんなかったけど!!
むしろ“精霊”で纏めてもらった方が分かりやすいけども!!
はぁぁぁ。
まあいいや。
とりあえず精霊たちがちゃんと来てくれた。
俺はそれを確認した後、グリードの方へと――って!?
「――な、な……」
――目がイッちゃってる!?
「――せ、精霊様方が……こ、こんなに沢山……」
――ヤバい!? 崩れるように跪き始めた!?
さっきまでの威厳ある姿が一瞬で崩壊してる!!
『ふふん……苦しゅうない』
『良きに図らえ』
『足を舐めよ』
バカ野郎!!
お前、親戚――ミレアが見てる真ん前だぞ!?
「――グ、グリード、これで、いいのか?」
精霊の一体の足へ近づいていったグリードを慌てて止める。
そして多少強引に立ち上がらせ、精霊たちを手で追い払った。
『ぶ~ぶ~!!』
『サービス悪いぞ~!!』
『カイトは、精霊たちへの愛情を持つべきだ~!!』
うっせえ!!
後で遊んでやるから黙ってろ!!
「――あ、ああ。十分だ」
幻から覚めたように、首を振る。
「改めて。自己紹介をしておこう――Sランク冒険者のグリードだ」
流石にSランク冒険者なだけあった。
切り替えた後のグリードの瞳は、全てを見透かすような、鋭さに満ちていた。
ご指摘いただき、確認したところ、最悪一から私が書き直す必要がある部分が出てきました(多分1000字前後くらいかな?)。
お知りか、または覚えている方はぜひお知らせくださいますようよろしくお願いします。
急募:『第14部分 いっちょ、訓練でもしますか。』のお話の後半部分が、修正の際にドジッてしまったのか、文字化け+消失してしまいました。
覚えている範囲で、薄っすらと、漠然とでも構いません。
こんな感じの話が描かれてたんじゃないかな、とうろ覚えでもいいので、お知らせくだされば幸いです。
申し訳ありませんが、この部分のお話、バックアップがありません。
ですので、なんとなくでもどういうお話が書いてあったかを集め、共通項を抽出して、また私が書き直すことになります。
勿論覚えてない場合は無理して捻りだそうとする必要はありません。
ご協力できる範囲で、よろしくお願いします。
11/8 解決しました!! ご協力下さった方々、本当にありがとうございました!!




