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また、彼女たちに、会う、か……。

皆さん、温かく迎えてくださって、ありがとうございます。

ゆっくりじっくりですが、書いていくので、またお楽しみいただければ幸いです。

「……え? フレア、どうして、“カイト君”のことを――」



一番驚くべき場面で、一番驚くべき人物は多分、俺、のはずだった。

しかし――



「……フィオム、それそれ。普通に“カイト君”って言っちゃってるから」


「……あ」


フィオムェェ……。


フィオムは、やってしまったといったように、さぁっと顔を青ざめさせ、口を手で覆う。

……いや、まあ、多分フィオムのせいではないんだろうけどね。

既に何か勘付いてたっぽいし。



「……ってか私もビックリなんだけど。フィオムとカイト・タニモト、いつからそんな親しくなってるの?」


先の言葉が帯びていた張り詰めた雰囲気を自らも嫌ったという感じで、フレアはどちらということもなく尋ねてきた。


……心なしかその目は呆れ気味。


「カ、カイト君とは、その、色々あった仲といいますか、これから色々とあったらいいな、という仲と言いますか……」


両手の人差し指をツンツンと合わせて、フィオムは何だか要領を得ない回答をする。


「…………」


それを受けて、フレアは視線を俺に向けてきた。

……ジト度50%増しで。


……そんなに湿気を帯びて、どうしたのだろうか。

潤いを求める程年齢を重ね過ぎてもいないだろうに。


あれか、周りが気になるお年頃か。


大丈夫大丈夫!! ちゃんと綺麗な肌してるゾッ☆

プロアクテ〇ブもいらないくらいプルンプルンじゃん♪

肌のお手入れ、きちんとできてる、自信を持って!!

フレ―フレー、フレア!!

頑張れ頑張れフレア!!

フ~~~!!



おおう、“フレーフレー”と“フレア”がかかってる!!

中々センスあるんじゃね、俺!?






「――あ゛ん゛? 何かどうでもいいこと考えてた?」


「い、いや、何も!」



ちょ、そういうドスの効いた声で睨みつけるのやめて!!


ってか感鋭すぎない!?

最近の美少女たち、直感が働きすぎな件について!!


「ま、まあまあ」


「……」


宥めにかかったフィオムを、フレアは再び疑わしそうな視線で見る。


「な、なんですか?」


「な~んか、フィオム、カイト・タニモトの肩ばかり持たない?」


「ギクッ!?」


“ギクッ”とか言葉で言う奴、久しぶりに見た気がする。

フィオムは下手な口笛を吹きながら、フレアの追及の視線を逃れるためにあらぬ方向を向く。


「ちょ、ちょっとフレアが何言ってるかわかりません――あ、そうだ!! この前、王都で鼻血を出した大道芸人が貴族の鼻毛を指摘して――」


「いや、確かに気になる話題だけど、それは今はいいや」


明らかな話題逸らしも通じず、フィオムが視線を右へ左へとしているのを見て、フレアは深いため息をついた。


「……まあ、いいや。大方やらかしてるのは、カイト・タニモトだろうし」


「ぐっ……」


とうとう矛先が俺の方へと向いた。

……まあ仕方ない。



今までのフィオムとフレアのやり取りも、少しは俺に考える時間を、とのフレアなりの配慮だろう。

いきなり尋ねられたということもあるし。


フィオムと失った時間を取り戻す間を、俺に有効に使え、と、そういうことだったのだと思う。


……多分。












「――さっきの話だが……」



俺は色んな事情を考え、そして、一つだけ、質問をする。




「――会うこと自体を、否定はしない。ただ……それは今直ぐに、か?」



懸念というか、疑問というか。

それも勿論あるし、何より。



状況が二重の意味で変わってしまった。



 


もう騎士団が冒険者としての俺を追いかけることはない、と分かったこと。

一番執拗に俺のことを追っていたはずのオルゲール……だったか?――そいつも目の前で首になってた。


だから障害はないといえばない。



そこが先ず、第一の変化と言えた。



俺はこれだけなら、この提案に、喜んで頷いただろう。



アイリさんやエンリさんのお母さんの問題に、俺は一つの解決を提示した。

その内容は、俺が未熟だったり、至らなかった部分も沢山あったかもしれない。


それでも、彼女たちはそれを元に既に新しい道を歩き始めているはずだ。

俺も俺で、今は別にやることがあって、そうして今、ここにいる。



そんな中ちょっとばつが悪いような感じで会いに行って、そうしたら、彼女たちは……。



再会を喜んでくれるかもしれない。

あるいは怒られるのかもしれない。


そんな未来を想像してしまうくらいには、俺も彼女たちと共に過ごした時間を悪くはなかったと思っている。




ただ、ここで、二つ目の状況の変化がある。





魔人なんて存在が出てきた。

明らかにおっかない奴らだ。


騎士に追われることは無くなったが、今度は変態に目をつけられてしまった。

ただでさえ、ヨミさんが見つかっていない現在、俺が誰かに気軽に、積極的に、会っていいものなのか?


今、アイリさんやエンリさんたちとは客観的に見れば、関係が切れているような状態。

むしろ今の状態を保った方が、変に他の人に危険が飛び火しなくていいんじゃ……。



そういう思いがぐるぐる頭の中にあって、解決を見ない。


そんな俺の悩みをどこか感じ取ったのか、フィオムが助け船を出すように、フレアへと告げた。


「あの……フレア。カイト君を、騎士以外にも探し回ってる人がいるんです」


「……ふ~ん」


フレアはそれを聞くと、思案顔になって、フィオムに先を促す。


そういえばそうだった。

それ自体もフィオムから聞いたんだ。


「男女の二人組で、若い女性と、中年の男性です。どちらもカイト君は……」


「ああ、心当たりはない」


フィオムに顔を向けられて、その意図を読み取り、俺は頷く。


「そう……」


顎に手を当てて深く考え込んでいる様子のフレアは、少し自信無さ気に顔を上げる。


「それは……もしかしたら『シルフの風羽』の団長が、何か関係してるかもしれない」


「『シルフの風羽』……確か、“ヴィオラン”でしたか」


ああ、あの人か……。


「前、七大クランの団長会議で会った時、何か胡散臭かったから」


すんごいチャラそうに見えて、何か裏でコソコソやってるっぽいもんな。

俺も実際に接したことがあるから、そういわれれば何となく納得するところもある。



「……確かに。あれは胡散臭さの権化だな」


俺が同意するように頷くと、何かフレアの視線が刺さってくる。


「あの……何か?」


「その胡散臭さの権化に、『中々食えない奴』と言われてたけど? そこのところは本人としてどうなの?」


「は、はは……あれ、なんでだろうな」


あれれ~? おかしいなぁ?

俺が食えない奴だったら、世間一般皆がそうだと思うんだけどなぁ。


「カイト君……笑いが乾いてますよ?」


「この辺りの湿気は、全部彼女の目に吸い取られてるから」


フレアが未だにジトっとした目で俺を見てくるんだもん。

俺の声が乾いて聞こえるのも致し方なし。


「――まあ、そっちの事情も何となく分かる。さっきのなんか、ヤバそうな奴らにも、目をつけられたんでしょ?」


フレアは頭ごなしに会えと主張せず、俺の事情も慮ってくれる。

そこまでしてくれるのだ。

できるだけ、彼女には真摯に応えたい。


「ああ――それで、後……俺はまた今別個にやることがあるんだ」


話を戻すために、俺が今、最優先で当たっていることを告げておく。


「“ヨミ”さん……という冒険者を探している」


その名を口にしたとき、フレアの表情が何とも言えないものに変わった。


「……なるほど、だからそもそもここに来たってことか」


納得したように頷くが、その表情が和らぐことも、更に固くなるということもない。


「――これ、見て」


フレアは、懐から何かを取り出す。

それは緑色の厚紙のようなものに包まれていた。


それを開けると、一枚の古めかしいカードが。


「西の魔法国の技術で、重要な情報とかを伝える際に使われるの」


フィオムがひょいと前のめりになり、それをのぞき込む。


「ああぁ……何回か見たことあります。これ、でも結構値が張るんですよね? お父様が嘆いていたと耳にしたことが」


王族であるフィオムですら『何回か』というあたり、あまり世間一般に普及している物ではないことが窺える。


「うん。だからよっぽど大事なこととかじゃないと使われない――フンッ!!」


フレアが手に魔力を高めていく。

手に集まっていく魔力に呼応するようにして、カードが赤く光りだした。


「特定の魔力に反応するようにできる――だから、大事な情報の伝達に使われることも、稀にある」



その光が収まるまで、フレアがそのカードの説明をしてくれた。


ここから遥か西に生息する巨大なサソリのようなモンスター。

それの素材を元に作っているそうだ。


魔力を吸収する特性から討伐するのがかなり難しく、そして討伐したとしても。

更にそこから作るまでもひと手間かかるため、採算の関係で、一般に普及してはいない。


軍とか、国とか、そういう大きな単位でないと購入することが中々難しいようだ。





光の収束に伴い、驚くことに、カードに文字が浮かび上がってくる。

何かミステリなどで、水にぬらしたり、火で炙ったら文字が出てくる――丁度そんな感じで。







“『イフリートの炎爪』フレア殿――火急、故郷へ戻られたし。危機、迫る。事情故、助太刀できぬこと、許されたし――Sランク冒険者 ヨミ”







「……私もこれがあって、ここに戻ってきた。騎士団は何となく信用できないし、ニーナとの思い出もある、大事な場所だから」


フレアは離れて翼を休めているドラゴン――ニーナに視線を送る。

彼女もこちらを向いて、それにこたえるように小さく喉を鳴らして答えた。


そしてフレアはこちらに向き直る。


「――ヨミさんには直接会ったわけじゃないけど、色々と助けてもらったから、私もそれは協力したい……でも」


そこで、彼女の表情が曇った。


「……そっちの様子だと、全然、手掛かり無しって感じ? 私も知ってることなんてたかが知れてる――フィオムは?」


水を向けられたフィオムは口元に手を持っていき、考え込む。

そして数秒沈黙が下りる。

視線を上げる。



「……シオン姉さまやフォオル達と同輩――クベル先生の門下であるということは聞き知ってます。ただ今現在どこにいるか、となると」


フィオムの言葉に、再び俺たちの間に沈黙が下りようとする。

しかし――


「ただ――」


フィオムはそこで、フレアの様子を窺うような視線を送る。


「えっと……何?」


「これは、聞いていいのかわかりませんが……」


何かフレアに対して聞き辛いことがあるらしい。

それを察してか、フレアも頷く。


「大丈夫。答えられないことならきちんとそういうから」


「そうですか……では、遠慮なく」


「うん、そうして」


二人の間に、今まで離れていたぎこちなさみたいなものは一切ない。

お互いを思い過ぎてすれ違う、ということも。




――ああ、この二人は、本当に、何というか、こう、理想的な関係なんだな、と思う。

俺も、もしかしたら、ライルさんと、こういう関係になる未来も、あったのかもしれない。


そう思うと、切なさや虚しさが押し寄せてくる。


だが、独りだけテンション下がって落ち込んでもいられない。

今後どうするかという話に集中する。



「フレア、確かさっき七大クランの会合があった、という話をしてましたよね?」


「ん? うん。確かに、言ったね」


それがどうしたのか、という顔をしたフレアと、そして俺に、フィオムは告げる。


「『オリジンの源剣』のメンバーの誰か――特にティアーナという冒険者と、知り合い・顔見知りだったりしませんか?」


「え? 『オリジンの源剣』? なんで?」


俺の疑問に、フレアも同意するように首を傾げる。


「『オリジンの源剣』って、あれ七大クランの一角だけど、実質少数精鋭だから、仮に知り合いでも渡りをつけるのってめっちゃムズイよ?」


フィオムはあらかた俺たち二人の疑問を聞き終えた後、それに頷く。

そして、その解答を教えるようにして、ゆっくりと話し出した。


「目的の対象は今言ったティアーナ――人族の女性冒険者です。他のメンバーでもいいといったのは、要は彼女とコンタクトをとるためですね」


「……まあどっちにしても、それだと俺は力になれそうにないが」


俺は横目でフレアを見た。

フレアは何とも言えない顔をする。


「うーん、前回会合があってまだ全然経ってないし、次いつ開かれるか――ってかそれこそ次の会合もまた私が代理で出席するかどうかすらわからないし」


フィオムはそれを聞いて少し気落ちしながらも、その提案をした意図を話す。


「そうですか……『時空魔法』のうち、『空間魔法』あるいは、『空術』と呼ばれる能力が解決に役立つかも、と思ったのですが」


「ああ……それでティアーナさん」


フレアもそれを聞いて納得顔だ。

俺はちょっと置いてけぼりになりかけたが、フィオムが説明してくれた。


要するに、『空間魔法』っていうえげつない能力があって、それをティアーナさんって冒険者が使える。


ちょっと応用になるが、フィオムの考える方法であれば、もしかしたら、ヨミさんの居場所の範囲を特定まではできないけれど、絞ることはできるかもしれない――ということだった。



なるほど……それを聞くと、誰も直接ティアーナさんと知己を得ていないことを恨めしく思う。





……ボッチでゴメンよ。

クソっ、こんな時、『オリジンの源剣』のメンバーの誰かと、知り合いの人が、俺の知人の中にいれば――











「――あの、ちょっとよろしくて?」



『――出会え出会えー!! 精霊さんのお通りだーー!』

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