暗い暗い闇の中……
キャラの名前がぁぁ……。
誰が誰だったっけ……。
カイト君、出てきません。
悪しからず。
===== ????視点 =====
「いかがですか、気分の程は」
何時振りだろうか。
誰かの声を聞いたのは。
そう思って久しく動かしていなかった顔を上げる。
「…………なんだ」
そこにいたのは、普通のどこにでもいそうな人族の男。
しかし、この地下深くに作られた、誰もが立ち入れるわけではない場所にいるということが、この男の正体を物語っていた。
ワタシのその態度に、男は顏をしかめる。
この男にとって、ワタシは、同胞を殺した憎き相手らしい。
「……まあ、良いでしょう」
――といっても、ワタシにその認識はない。
殺さなければいけない相手がいたから、殺した。
そして殺した相手が後で、魔人の一人だとわかった。
それだけだった。
「…………」
魔人の男は、牢の前に置かれていた質素な椅子に腰かけた。
そして黙ってしまう。
……まあ、別にワタシも、話したいとは思わない。
魔人も魔人で、ワタシと話していると、良くイラつく。
どちらにとってもこの方が都合がいい。
「…………」
ワタシもいつものように何もせず、いつでも引きちぎれる鎖に繋がれたままでいる。
その方が、ワタシにとって、都合がいいから。
何もしない、無機質な時間が過ぎていく。
あの時と同じ。
もう慣れている。
時々、先生やネム達と一緒に過ごした時間が、あまりにも眩しい思い出が、ワタシを陽だまりへと連れ出そうとする。
『ヨミ……一緒にのんびり。日向ぼっこ、しよ?』
ネムの柔らかい笑顔が、瞼の裏に浮かんではスゥっと消える。
――でも、ワタシにはやっぱりこれがお似合いだ。
何にも期待せず、何にも頼らないで、ワタシ独りで、辛さも、苦しさも、全てを受け入れる。
日の当たらない影の中で、ワタシは生きていく。
丁度今のように。
ギィィ――
…………あれからどれくらい経っただろうか。
また、扉が開く音が聞こえた。
今度は、誰だ。
「……ようやく来ましたか」
「すいません。時間を忘れてしまうくらいに、楽しい時を過ごすことができたので」
「……あなたにしては珍しいですね、カトレア」
男が立ち上がり、入ってきた女を出迎える。
……なんだ、また魔人の一人か。
「ええ。それはもう、極上の相手に出会えたので――ところで」
女の方がこちらを向いた。
先ほどの蕩けるような表情からは打って変わって、厳しい目つき。
「様子はどうです? 例の“アレ”をどうしたか、話しましたか?」
「……いえ、私が来てからもずっとこうです。ダンマリ、ですね」
そうして二人揃って呆れたような表情を向けてくる。
……そんな視線を向けられても、何かが変わるわけでもないし、ワタシにはどうしようもない。
――だって、ワタシの手元にはもう、無いんだから。
まあ、それを言ってやる義理もない。
――だって、その方が、ワタシにとって都合がいいから。
「カトレア。あなたの【色欲】の能力――どれくらい欲望は貯まりましたか?」
「……あともう少し。確実に支配したいのであれば後2~3か所分は」
目の前でワタシをどうするのかという話がなされている。
別にそれで恐怖感が沸き起こってくるとか、焦燥感に駆られるとか、そんなことはない。
「ふむ……まあ、良いでしょう――カトレア。あの場所はどうなりました?」
「……あそこはもうダメですね。帝国内にも幾つかあったはずです。そちらは?」
男はそこで初めて、ワタシ以外のことで、苦い顔をして見せた。
「……あまり芳しくありません。内部にも私の駒はいくつも忍ばせていたのですが、ソルテールには勘のいい強者がいるようです」
「……ですか。そそりませんね」
「既に2つ、潰されています。“ゼル―スト”は今、3人目の勇者探しで動けません――当分は私たち二人でやるしかありませんね」
3人目の勇者……。
こいつ等は勇者を探しているのか。
魔人が、魔王をなんとしてもこの世から消し去りたい、ということは知っている。
それに、3人目の勇者を何とか絡めたい、ということだろうか。
ワタシが先代の勇者を、殺した。
だから、魔人の動きが変わった、変わらざるを得なかった。
私は殺してばっかりだ。
勇者も殺した。
魔人も一人殺した。
そして今までに、数えきれない程を殺してきた。
そんな私が、どうして陽だまりにいられるだろうか。
『ヨミ……こっち来て。お日様ポカポカ、あったかいよ?』
……ネム。
今も眠りについているネムのことを思うと、なおさらワタシは日向になんか出られない。
ワタシにはワタシに、お似合いの場所があるんだ。
この真っ暗な闇の中だからこそ、ワタシはワタシを、保っていられる。
ワタシがここにいることこそが、意味あることなのだ。
じゃないと……
――全部、殺してしまうから。
===== ????視点 2 =====
~リューミラル王国より北方 ソルテール帝国首都 ソルス~
今日もまた、慌ただしい一日が始まる。
辛い。
辛すぎてもう仕事も責任も全部投げ捨てて宿舎に帰りたい。
でも流石にそれはできない。
やったら先生に迷惑がかかるから。
先生は凄い人だ。
若くして軍事の面では上が元帥しかいないという大将の座まで上り詰めた。
『私、あまり交友関係は広くないから』とは先生自身の言。
それが事実ならむしろ先生は自分の腕一本で皇帝陛下の信頼を勝ち取ったということだ。
まあそれも当然といえば当然といえた。
国の威信を賭けて攻略しようとしたが、なかなか落ちなかった“頑迷の館”攻略は今でも軍人たちの語り草だ。
風の大精霊シルフが住むと言われる“風の戯城”なんていうダンジョンを、先生は一人で見つけても平気な顔してるし。
確かあそこはゴドレさんが攻略に当たってたっけ。
契約に備えて、召喚士を何人も揃えるのは私たち先生門下の仕事。
まあ私担当じゃないが。
それでも、辛いものは辛い。
どれだけ先生が偉大な人でも、その事実は変わらないのだ。
はぁ……愚痴っててもしょうがない。
仕事……しよう。
切り替えて、私も仕事にかかろうとした、その時。
私にあてがわれた狭い仕事部屋の、ちゃっちい木製ドアが勢いよく開かれる。
……あ、また壊された。
「――レザンは!? レザンはいないか!?」
「……扉。普通に開けてもらえませんか。シグ大将」
「ええい、今はそんな細かいことを気にしてる場合じゃないんだ!! ノアよ!! レザンはどこだ!?」
「細かいことって……直すのは私になるんですから……」
私は大声で騒ぎ立てる老齢のこの人の横に向かい、壊されたドアを持ち上げる。
……また仕事が増えた。
「――先生は、今いませんよ?」
「何故だ!? どこだ!? あのアホうめはどこに行きおった!?」
シグさんに詰め寄られる。
……この人、私の話聞いてくれないから、あんまり得意じゃないんだよなぁ。
「分かりませんよ……。先生はいつもフラッとどっか行っちゃうんで」
「一番弟子のお前が知らねば、誰もあ奴の居場所が分らんことになる!! なんでもいい!! 思い出さんか!!」
いや、だから知らないって……。
それに私、別に一番弟子じゃないんだけどな……。
その話題は、私の胸がチクリと痛むからやめてほしい。
私は今でこそ、先生の御用聞きのように雑用でもなんでも色々させられて、周りから見ればそんな感じに見えるかもしれないが。
でも、私は、知っている。
先生は公式・非公式別なく弟子を沢山とっている。
他の人が知らない中に、先生がとても大事にしている弟子が、2人いたことを。
一人は確か、今でも弟子として先生の教えを受けているが、現在、帝国内にはいない。
確かなんかあってリューミラルに行ったはずだ。
とても火魔法の扱いがうまく、ドラゴンとも意思疎通ができる才能ある女の子だと聞いている。
訳アリだから、主だって師弟関係があるとは言えないそうだが。
そしてもう一人は……。
「……シグ先生。レザン様はいらっしゃらないご様子。また出直しましょう」
シグさん一人かと思っていたが、後ろにもう一人、背の小さな女の子が控えていた。
その少女は通常の生活を送っていたら出会うことはない、極めて珍しい、透き通る羽が、背についていた。
それは、妖精だけが持つ、全ての者の目を惹きつける証。
「む!? ――そうか、イオよ」
「はい。宰相殿は、『いないならいないで良い』とおっしゃっておりました」
「そういえば……そうだったか?」
おいおい、シグさん、とうとうボケ始めたか……。
とか言いつつ、この人もこの人で、弟子の指導に関してはしっかりしている。
一番長く大将を務めているだけあって陛下からの信任も厚い。
……まあそれだけ下がきちんと支えている、ということも言えるが。
「まあ、いい。戻ったら一番にワシに伝えてくれ!!――では、次はブレイズのところだ!!」
一人でそう言って、部屋を出ると、ぐんぐんと歩いて行った。
……嵐のような人だな。
「……えっと、まだ、何か?」
シグさんは去っていったが、まだ何か言いたそうなイオさんが残っていた。
この人は私より背は随分低いけれども、私よりも10は年上だと聞いている。
階級も2つ上だ。
なので、私の方が腰は随分低くなる。
「……あの、その、レイナは」
私は、その名前を聞いて何とも言えない気分になる。
「……先生からは、何も聞いてません」
私がそれだけ言うと、イオさんはうつむき、一礼してから去っていった。
……なんだかな。
とりあえず、壊れた扉を直そうと持ち上げる。
はぁ……。
中々仕事を始められない。
今日ももしかしたら残業かな……。
「あの……姉弟子」
「ん?」
私のことを、そのような関係上の名称で呼ぶのは――
「――なんだレッドか。どうした?」
その名が示すように燃えるように赤い髪をした少女が私を見上げる。
いつの間に。
彼女は今のところは、先生の弟子たちの間の連絡係、まあ平たく言えば使い走りという名の下積みだ。
未だ8歳と、若いなんてもんじゃない年ごろだが、先生に直接頭を下げて、願い、弟子にしてもらった。
勿論、先生は才能がない、あるいは努力しないような者を弟子にはしないので、この子も相当将来性があるということだ。
一番最近入ってきた子なので、私との間に距離感があることは否めない。
ってか私もどう接すればいいか掴みかねてる。
そんなことを考えながら、話を促すと、彼女はおずおずと一枚の紙を差し出してきた。
私は「ありがとう」と丁寧に言い添えてそれを受け取る。
「……先生、から?」
その紙の表面には、先生のものであることを示す、特殊な魔法を使った、赤い■を四つ用いた判が押されていた。
何だろう……と不思議に思っていると、レッドがまたおずおずと口を開く。
「あの、これ、レザン先生が……」
「うん、先生が?」
中々言葉足らずになってしまっているが、私は辛抱強く待つ。
「シグ様が来た後に、姉弟子に、渡すようにって……」
「…………」
私は、レッドの言葉を聞いた瞬間、手紙を開封。
そこには――
『ノアへ 何やら暗躍する悪い奴らがいる……ゴメン、嘘ついた。いそうなので、見回りに行ってきます――ああ、怒らないでごめんなさい!! 違うの!! ちゃんと仕事はしてるの!! 2つくらい、そのアジトっぽいところも潰したんだよ!? なんかヤバそうな匂いしたから、普通の隊員たちじゃ危ないと思って!! そっ、そう!! これも大事な仕事なんです!! だ、だから……私が帰ってくるまでに、私の仕事、ちょっとしてくれてたら、嬉しいな、テヘッ! 後、シグのじいさんには上手いこと言っといて。お願いね!』
「…………」
「あ、姉弟子ぃ……」
「大丈夫。私は何も怒ってない、怒ってないよ、レッド」
「じ、自分……何も言ってません」
レッドは何をそんなに怯えているんだろう。
大丈夫、先生は凄い人だから。
そんな尊敬する先生に対して、私が怒るなんて、そんな大それたこと……。
フフッ、フフフッ……。
仕事が増えたぁぁぁぁぁぁあ!?
確信犯かあのサボりめぇぇぇぇぇ!!
また残業かぁぁぁぁぁぁ!!
===== ????視点終了 =====




