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夢を……

このお話の後、130部分のお話をもう一度お読みいただくと、より一層お話をお楽しみいただけると思います。

……ユウさん、ドンマイ。



=====  ????視点  =====

夢を、見ていた。

幼い頃、まだ自分が何者で、相手が誰なのかなんて考えなかった、考えずに済んでいた頃の。

淡く、薄っすらと光る、今の自分を照らしてくれる――そんな夢を。


『フレア、怖いです。止めましょう?』


自分とそれほど背丈は変わらないはずなのに、色んなものにおびえ、しかし一方で同じくらいに好奇心を示した少女。


『フィオムは怖がりさんだなぁ。魔物が出るところに行くわけじゃあるまいし。単なる王都の探検じゃん』


そんな少女に、同じくらい世間を知らなかった私は、笑いかけ、その手をとる。

そして王都の中心街へと引いていった。


1年に一度しか顔を合わせられないんだ、周りのお祭り騒ぎに乗じて、お姫様を独占したって罰は当たらない――そんな気持ちで当時はフィオムを振り回していたっけ。

フィオムもフィオムで、最初は不安そうにその足取りが重いものの、周りの活気に充てられてか、すぐに花が咲いたような笑顔を浮かべては私との時間を楽しんでくれる――それが毎年のことだった。


『わぁぁ……民はこんなおいしいものを毎日食べているんですか!!』


商区の出店で買った串焼きを目を輝かせて食べたり――


『フレアフレア、あれは何ですか? ああいった武器を騎士が使っているところを見たことがありません!!』


『あれは冒険者が使う奴じゃないかな。見た目なんかよりも実用性を重視した冒険者が使いそうだし』


出歩くとすぐにお転婆に様変わりするフィオムに武具の説明をしたり――


『……フレア、騎士に届け出ましょう!! きっと事件です!! こんなところで衣服をはぎ取られて意識を失った人が――』


『…………ごめん、信じられないかもしれませんが、これはうちの父です』


……路地の裏に入ったところで単に酔っ払いつぶれている父を見つけて、変な空気に包まれたり――




私たちは色んな時を共に過ごした。


『わぁぁぁ……あれ、お姫様、だよね。フィオムと同じ』


中でも特に強く輝く思い出。


『おめでとうございます!』


『最年少騎士団長の誕生に、ばんざぁぁぁい!!』


『リューミラル王国に、栄光あれ!!』


口々に回りの市民たちが誇らし気に祝福の声を上げる。

私もフィオムが連れてきてくれた秘密の特等席に座って、目の前の光景に感嘆の声を漏らしていた。


幼いながらも肌で実感できる。

気高く、美しく、凛と立つその佇まい。

その姿を思い出すたびに、今でも胸が高鳴るくらいだ。


隣に座っていたフィオムは、いつもは見せないような誇らしさを隠そうともしない表情で、私に力強く頷いた。

それだけで、彼女がどれだけあの人のことを大事に思っているか、誇りに思っているかが感じ取れた。


『はい……シオン姉さまは私の、私たちみんなの自慢です』


そしてその後、『他の人には言っちゃだめですよ? お姫様の特権を乱用します!!』と言い出した時は何事かと大層驚いたが――


『ん? フィオムか。そっちは……フィオムの友達か? ――私はこれから忙しくなる。大切な妹なんだ。仲良くしてやってくれ』


短くそれだけ言って、優しく撫でてもらった。



そんな色褪せない記憶の数々が、苦い味に変わってしまったのは、いつからだろうか。

……いや、具体的な日時はともかく、原因ははっきりしている。


当時仕方なかったとはいえ、約束の日に、王都に行けなかったのだ。

そこからフィオムに対する申し訳なさが募り、北の帝国領内に生活の拠点を移してから、更に顔を会わせるのが怖くなっていったんだ。


形的にはフィオムの親類が治める国とは別の国で生活を送っているのだ。

それすらもまたフィオムを裏切っているような気がして。


そんな申し訳なさが、募りに募って…………


『フレア……フレア……』


ああ……フィオムが私のことを呼んでいる。

やっぱり怒られるだろうか。


絶交かもしれない。

折角また会えたのに、いやだなぁ……。


『フレア!! 起きてください!!』


何度も何度も呼ばれる。

……あれ?


ってか、今私って、寝てるんだよね?

いや、起きてるんだっけ……。


なんだかよくわかんなくなってきた。


また改まってフィオムと向きあうのも怖いし……このままよくわからない状況を継続――


『起きてください!! フレア!!』



――意識が強引に引き戻された。


そういえば、こういう、ここって時に強引なところ、あったなぁ……。


なんだか懐かしさを感じながら、私はゆっくりとその目を開けた。


=====  ????視点終了  =====


ちょっ、あの揺すられてる女の子、大丈夫!?

フィオムが体を揺らす度に首ががっくんがっくんしてんだけど!?


一応外傷は治してあるから、後は意識が戻るのを待つだけなんだが……。


「ぅ、ぅぅぅ……」


「あぁ!! 目が覚めました!! フレア、大丈夫ですか!?」


「フィオム? ……ってかちょっとうるさいんだけど」


「うるさいって何ですか!? だって全然起きないんですもの!! 心配したんですよ!!」


「それは……ありがたいけど……あとごめん。もう起きてるから、首グワングワン揺らさないで。このままだとフィオムとの再会を祝う前に、首が体とさようならしちゃうから。再び意識も体からさようならしちゃうから」


っていうか、やっぱり彼女、フレアっていう子だったんだね。

感動の再会がまさかこんなことになるとは思ってもいなかっただろうが、まあ一先ず本人たちの間によそよそしさというか、気まずさみたいなものがなさそうでよかった。


フレアも顔をプイっと逸らしているものの、頬が若干赤みを差している。

何だかんだ再会できたのが嬉しくて、照れ隠し的な態度をとっているのだろう。

あの姉弟仲良すぎて色々ヤっちゃってる疑惑あるランドの姉だというから、どんな奴かと思っていたが。


なんだ、案外可愛いところがあるじゃないか。


「――あ゛ん゛?」


「? どうかしましたか、フレア。そんな人を視線だけで射殺すような顔をして。声も裏世界にいるゴロツキの親分さんのような低さですよ?」


「……いや、何でもない。なんか失礼なことを考えている鎧野郎がいるような気配を感じたんだけど、気のせいだったみたい」


……あっぶねぇぇ。

いやどんだけピンポイントなんだよお前の直感。

俺は早々にその場を撤退する。


まっ、あれもあれでフィオムとの空いた時間を埋めるためのコミュニケーションに役立つんなら俺も本望だ。




さて、どうしよう。

そうほっこりして、世の中まだまだ捨てたもんじゃないな、なんて考えていた俺の目に飛び込んできたのは――




「――ハッハッハッハッ……」




――裸のオッサンが所謂『待て』の姿勢で舌を出し、息荒く呼吸していた光景だった。





「……」


「先輩、どうしたんですか? 『こんな世界、終わった方がいいんじゃないか』みたいな顔して」


隣にやってきたヤクモに、そんなピンポイントなツッコミを入れられる。


「…………俺、そんな顔してたか」


「はい。あれを見て、それはもう苦い顔を」


ヤクモはそう言って、自分は視界に入れないように、未だ待てを続けるオッサンを指さす。

ヘルムを装着している今、どんな顔をしているか物理的には見えないはずなのに、そう指摘されるということは、余程今目の前で繰り広げられている光景がシュールなのだとわかる。


「お兄ちゃん、ヤクモお姉ちゃん!」


そんな何とも言えない空気感が漂う中、一息ついたレンが駆けてくる。


「お疲れ様! ん? ヤクモお姉ちゃん、その指の先には何かあるの――」


「――レンは見ちゃいけません!」


危ない危ない。

何とかレンと危険人物との間に体を滑り込ませることに成功する。

あれは教育上非常によろしくない。


ヤクモもそこは同意してくれるようで、俺がレンの視界を狭めている間に「何でもないですよ~。ボクら健全な女子は他の事後処理に向かいましょうね~」と言ってフェードアウトしてくれた。


ふぅぅ。

立て続けに変な汗をかいたぜ。


俺は『鑑定』を用いて、目の前の大変な変態のステータスを確認する。


まあ予測通りというかなんというか……。


名前:ソードス・クロー

年齢:48歳

状態異常:誘惑


件のクロー侯爵で間違いないらしい。

一先ず治癒魔法を使って回復してやることにする。


「――……はっ!? わ、私は、一体……キャッ!! ってうわっ、なんじゃこりゃ!?」


我に返った侯爵は当初は気色悪い反応を見せたが、その後、更に自分の振る舞いを冷静に見つめ直したのか、素に戻った。


殆ど自我なく操られていたに等しかったとはいえ、48歳という歳であんな素っ裸で、しかも待てのポーズで、更に呼吸荒く控えていた自分を客観的に見つめ直したら――ダメだ、俺なら二度と人前に出られる自信がない。


「――おーい、中はどうだ!? 終わったか!?」


外を片付けていたはずのオルトさんが姿を見せてくれた。

彼女は装備一式に一つの傷や返り血などが見当たらない。

流石だな。


「ああ、こっちは一応何とか」


「そうか、それは何より――ってうわっ、何だこの男、なぜ真っ裸なんだ!?」


オルトさんは顔を赤らめるでもなく、初心な反応を見せるでもなく、純粋に「こいつ、頭大丈夫か」的なニュアンスを伴って疑問を口にした。


「「…………」」


俺と侯爵は立場は違えど、この時、どう返せばいいか答えに窮するという限られた意味では、心を通わせることができた。

…………どうでもいいけどね。


「――とにかく、外に出よう。ウォーレイやリュートも外で治療している」


彼女の話では幸いにも全員命に別条はないそうで、モンスターもランドと協力して一掃済み。

そうすると、やはり先ほどまで一番強そうな奴ら――魔人がいたここに留まるというのもなんだか気味が悪いというか、落ち着かないので、誰も彼女の提案に否はなかった。


俺自身は下に肌着と動きやすいが安っぽいズボンを履いていた。

なので、純粋にその格好で外に出すのは……という思いがあり、ヘルム以外の鎧を脱いで侯爵に差し出す。


「……何も着ないよりはましだろう」


そう言うと、侯爵も背に腹は代えられないとばかりに鎧を着……れない。

なんだか鎧一つを持ち上げるだけで物凄い苦労している。

……ああ。


「……手伝うから」


俺は自分が着ていた鎧がユウさんから渡された訓練用のものであることを思い出す。

自分自身はあまり気にしなかったが、そういえば脱いだから随分と体が軽い。

反対に、侯爵にとっては普通の鎧ですら重いのに、まして訓練用なんて、ということだろう。


だが、裸で外に出られるよりはましだ。

着た後は俺が負ぶってやってもいい。

何より一応このオッサン、重要参考人だし。


重い鎧を着てもらって身動きを封じる、という意味合いもある。


でも、オッサンが裸で着るのか……。

一応、これ、ユウさんのだけど……。




――ま、いっか。




どうせ俺が着てたんだし、返す時があったら、キチンとあっちでも掃除したりするだろう。

だって俺が着たやつを直に女の子が着るなんて、嫌だろうし。

きちんと清掃とかした後で使うはず。



うん、そう考えたら大丈夫だな。




「――いや~、それにしても、一時はどうなるかと思いましたけど、カイト君が来てくれて本当に嬉しかったです!」


鎧を装着し、身動きが取れないオッサンを背に負ぶったところで、フィオムとフレアが俺たちに合流する。

一緒に外に出ようということだろう。


一度オッサンの背負い具合を確かめた後、彼女たちに続くようにして足を動かした。


「まあ、間に合ってよかったよ」


「……ほらっ、フレアも」


フィオムが促すようにしてフレアを見る。

フレアは促されても最初は返事をしなかったが、二度三度それを繰り返したのち、小さな声ではあるが、言葉を発した。


「……ありがとう」


その声は、確かに聞こえたので、俺もキチンと頷いておく。


「ああ。だが気にすんな」


「……そう」


それだけ言うと、後はもう口を閉じてしまう。

俺も別にそこで何か言うでもなく。

一方のフィオムは、俺とフレアの間で、そんなやり取りを嬉しそうに見守っていた。





……ちなみに、その間侯爵は俺の背中で、歩く度に気色悪い声を上げていた。


「あっ、あっ、ダメ、もっと、もっと、優しく――イ、イヤァァァァアアアアア!?」






「えっと……」


「……重い鎧が、歩く度に食い込むらしい」


「……あっそう」


俺とフレアは同時にとても微妙な顔をしていた。



◇■◇■◇■



「ところで……何か、忘れてない?」


出口付近まで差し掛かったところで、唐突にフレアがそう口にした。


「? 何か忘れてましたっけ……カイト君」


可愛らしく小さな首をコテンと横にして、フィオムは俺に振ってくる。


「……何だろう」


確かに、なんか忘れている、というか、喉まで出かかっている何かがうまく出てこないというか。

俺たち3人は何かを思い出さないといけない、ということはわかっているのに、それが出てこないという状態を共有していた。


あれほどのことがあったのだ、そのような大事の前では小事は視界の端に置かれても仕方ない。

だが、何とか思い出せないだろうか……。


3人でああでもないこうでもないとうなっていると――


「――あ!! 姉貴!!」


入口の扉付近で待っていたランドが俺たちに気づいてかけてきた。

その顔には、姉であるフレアの無事を確認することができた安堵であふれていた。


「よかった……俺、今回はマジで心配したんだぞ」


「ゴメンゴメン……――ところでさ、ランド。なんか私、忘れてることってないかな?」


「あん? 忘れてること? ――んなもん……」


そこで、ランドの視線が、俺たちの間にいたフィオムに固定される。

ランドはそこで石化してしまったのではないかと思うぐらいに動かなくなった。


「……姉貴。こ、この、お方は?」


「? あんた何言ってんの? フィオムに決まってんじゃん。忘れたの? 昔一緒に遊んだことも――あっ、もしかして照れてるの?」


フレアは何を思ったか、からかう調子でニヤニヤする。


「フフフッ、そりゃフィオムは超絶美人さんに成長したからね~。ジョブが童貞のあんたが照れんのもわからんでも――」


「――いや、姉貴、そうじゃなくて」


からかわれているランドは、しかし、動じるでもなくなんだか冷や汗を流しながらフレアの言葉を遮る。


「確かに朧気ながらも、一緒に遊んでいただいたという記憶はある。けど……」


「何? もったいぶってないでさっさといいなよ」


話を遮られたからなのか、それとも中々口にしようとしないランドに焦れてか、フレアはイライラ気味に言う。


「……俺の記憶があやふやだからなのか、こんな質問すんのも、あれだけど――」



そして、ランドはいよいよ、決心したように口を開いた。






「――フィオム様って、女性、だったっけ? それとも、男性、だったっけ」



――今度は俺たちが冷や汗を流す番だった。


「「「それだッ!?」」」


俺たち3人はそろって同じ言葉を口にした。



「それだって……おいおい、ちゃんとしてくれよ姉貴。アイリさんに『イフリートの炎爪』任されてんだろ?」


「ま、まぁまぁ……フレアもついさっき目が覚めたばかりですし――ね、ねえカイト君!?」


何故か問題の中心地にいるはずのフィオムがフレアをフォローするというよくわからない構図になっていた。

しかし、それだけにとどまらず――



「――KAITO TANIMOTO!? それ“も”だ!?」


突如フレアは、何故か俺の名前を外人みたいなアクセントで、今度は一人で口にする。

そして頭を抱えてしまった。


「うがぁぁぁぁ……なんで私だけこんなに問題が……」


……色々と大変そうだ。


あんまり他の宣伝方法を使わないので、活動報告以外に、ここでも一応言及を。


これの他に、また別の小説も投稿し始めております。

この小説に負けず劣らずならぬ、勝てず勝らずに今のところなっているかもしれませんがスタンスはこの小説とそう変わりません。

主人公が何とかかんとか女の子助けていく話です。

お読みいただければ幸いです。

(注:勿論読まなくても問題ないです。作者の単なるわがままですので気にせず無視頂いてこの作品をお楽しみいただければ構いませんので)


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