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いっちょ気合い入れますか!

コッソリと投稿。


木を隠すなら森の中。

投稿を隠すなら投稿の中的発想です。


カトレアが肩まで右腕をそっと上げる。

すると、どこからともなくカトレアの周囲に霧のようなものが。

それは黒く、そして時として薄い桃色になって彼女を覆うように漂っていた。

不気味に感じるとともに、何か惹きつけられる――そんな霧とともに、奴は徐々に近づいてくる。


「……さぁ、私をそそらせてください」


そのまま腕をゆっくりと俺に向けてくる。

そうすると纏わりつくようにしていた不吉な霧が、まるで生き物のようにグニャグニャと形をもって俺に襲い掛かってきた。


これは!? っ!!


「くっ!!」


触れたらヤバい――何がまずいか、というのは言葉にはできないものの、直感的にそう感じた俺は剣で受けるようなことはせず、ステップをとり、時には魔法で障壁を張るようにして躱していく。

 

「ほぅ……避けますか――では、これなら、どうです?」

 

俺の対応を見てカトレアは面白い見世物に出会ったかのように好奇心を示す。

先ほどまでは生き物状であった変色する霧が、何の前触れもなく拡散する。


そして彼女が腕を天井に突き上げると同時に、もやがところどころ密集して丸い形を成していく。

それは雨粒と呼ぶには巨大すぎるボールとなって今にも俺やフィオムたちに降り注ごうとしていた。


マジか!? くそっ!!


ほんと、展開が急すぎる。

もうちょっと俺に親切設計にしてくれてもいいと思うんだけど――


「フィオムッ、そこの女性と一緒に伏せてろ!!」

「は、はい!!」

 

フィオムが俺の声に応えて、彼女を覆いかぶさるようにして庇う。 

 

「もっと、もっとそそらせてください……」


予告も何もなく、頭上の物体化した無数の球が俺たちめがけて加速し始める。

この攻撃だと範囲が広すぎて、避けることもままならないだろう。


俺は『闇魔法』を展開する。

それも、ただの『闇魔法』ではない。


精霊から貰った魔力を用いて使用する特大の威力を誇る『闇魔法』だ。


先の一件――ファイアドラゴンのニーナの傷を癒すためにも精霊の魔力を使わせてもらった。

そしてそこで『精霊魔法』の威力をこの目で見たのだ。


副作用は勿論あるだろうが、今は緊急事態である。

今までの常識が通じるかもわからない意味不明な相手である。

乗り切るためには出し惜しみなどしていられない。


躊躇して助けるべきフィオム達に何かあれば、それはもうただの間抜けの所業である。


「このビッチが!! 奇妙な恰好しやがって、リア充の仮装パーティーはお断りなんだよ!! ――何もかもを飲み込め、『ブラックホール』!!」


俺たちの頭上と、今にも降りかかってきそうな球体の間を隔てるように、空間に歪みが生じる。

クシャリとした紙のように宙に皺を刻むと、瞬間、その場の空気の重さが変わった。


物体、流体、その他別なく周囲のあらゆるものに過剰な重さを与えたどす黒く漂う。

 

――無を作り上げる可視化された黒い渦――自分が作り上げた魔法を見て、そんな感想が思い浮かんだ。




「っ!? こ、れは…………」

 

先ほどまで自分の世界に浸っていたであろうカトレアも、俺が生み出した魔法に声にならない声を発して、驚きを示した。

あの無数の球体も、伸び縮みする黒い渦にちょっとでも触れるとすべてが最初から何もなかったかのように吸い込まれて消えていく。

 

尤も、渦は飲み込むことを目的としているのではなく、ただアメーバのようにして規則なく広がっていく過程で、そのついでのごとくカトレアの攻撃を粉砕してしまった。

 

すべてを無に帰す――今回は相手の攻撃を防ぐ形で用いてみたが、これを攻撃として使った場合のことを考えると、自分ながらぞっとする思いになる。


俺は、攻撃すべてを防ぎ切ったことを見るや否や、発動された魔法を取り消すべく魔力の制御にかかる。


これも、もちろん規模が規模なので、発動するときと同じく、『精霊魔法』や『魔力操作』などを併用する。


 

「っ!!」


体に先ほどとは異なった虚脱感が襲ってきた。

副作用、か。


ただ、当初思っていよりは辛くはない。

二回目だから、最初程しんどくはならなかったのか、それとも発動から魔法の終わりまで迎えずに魔力の残滓を回収にかかってるからなのか――どちらかはわからん。


だがこのようなイレギュラーな状況下においては助かる。


「フッ、フフッ……」


何とか膝をつかずに、油断せずカトレアを睨みつけていたら、奴はそんな俺を見て薄く笑った。

そして――



「フフフッ!! アハッ、アハハハハハ!!」



聞くもの全てを蕩けさせるような甘く、そして耳の奥に直接響いてくるような高い声を上げて笑い出した。

その顔は狂気に染まったように目の焦点が合っていないにも関わらず、見るもの全てを惹きつけるような魅力を持っていた。


一瞬何が起こったのかと呆然とする。

しばらく笑い続けたカトレアは、スッと目を細め、まるで運命の人と巡り会えた喜びに浸るような笑みを浮かべた。


「良いです、良いです、最高です!! ここまでそそらせてくれるなんて!!」


頬に手を当てて今度はうっとりとした視線を俺に向けてくる。

……えぇ、さっきは狂ったみたいに笑ってたくせに、今度はトロリッチですか。


怖ぇよ。ちょー怖ぇぇよ。

なんだよ、情緒不安定かよこいつ。


絶世の美貌を持っていて『色欲』とかいう情報もあってさ。

男として大丈夫だろうかと戦闘に入ったときはちょっと懸念があったわけよ。

身に纏う装具なんかも際どいもので、露出を多くすることが第一、みたいなものなわけよ。


でも全然そんな懸念吹っ飛んだね!!

だってこいつちょー怖いもん!!


もうさっきから俺怖いしか言ってないくらい怖い。

いや、もう本当こいつの前に立ってみたらわかるって!!

性欲のせの字も出てこねぇよ。


これはあれだ、クラスで人当たりもよくて人格者だと知られている可愛い委員長がふとした時に見せる素顔を見てしまったときみたいな感じだ。


『はぁ……あいつらの相手ダルっ。ってか男ども頭弱過ぎ(笑)。頭弱過ぎ弱過ぎ君かっての。私の手のひらの上で踊り狂ってくることも知らずに“委員会活動変わるよ!! 御幸さん”っだって。草生えるw』


……俺はちゃんと全部胸の内にしまって墓場まで持っていきましたから、安心してください御幸さん。

あと、放課後誰もいないだろうと思って油断しないでね。

当番の女子から掃除を仕方なく引き受けた人格者のボッチが戻ってくるとも限らないから。

 

それを見た日の夜、俺もう怖くて電気つけたままじゃないと寝れなかったしね。

疲れてるのかもしれんが、本当気を付けてね!! 

ボッチの心にある意味消えない傷跡残すことになってるから!!


「そんなに良いんなら、見逃してくれない? そっちが逃げてくれるんなら、こっちも必要以上には追わないよ?」


何とか希望を込めてそんな提案をしてみる。

しかし、それが受け入れられることはなかった。


「見逃す?――フフッ、おかしなことを言いますね」


カトレアは本当におかしな冗談を聞いたというようにクスっと笑う。

それは恰も至福の時を楽しんでいる際の、なんでもない会話の一ページを楽しむという風に。


「こんな素敵な時間、終わらせるわけないじゃないですか!! ようやく、ようやく見つけたんです、私をここまで高揚させてくれる相手を…………」


そう言ってカトレアは愛しい者に触れえるようにして、そっと下腹部を撫でた。

舌なめずりまでしてうっとりした表情で俺を見つめる姿は傍目にはこの上なく淫靡な様子に映るのだろう。


……だが悲しいかな。

俺にはただの恐怖の権化が口を大きく開けて待ち構えているようにしか見えなかった。






――だってこいつ情緒不安定でコロコロ変わりすぎだろ!!

それはもう女子という存在=トラウマの俺にとっては天敵以外の何物でもない。


優しい顔の裏に腹黒い本性あり。

ちょっと泣いていたと思って優しくしたら「キモッ」との言葉あり。

以前の経験から進んで当番を代ろうかと提案したら「あ、いや、うん、ありがとう……」と引き気味の感謝の言葉あり。




……「ちょっと困ってる時に“当番代わろっか”って言ってもらえたら凄く助かるよねぇ」ってテメェが当番誰か変われアピールしてたんだろうが、山下っ!!


なのにいざ俺が提案したらしたで「うっわぁ、谷本君に言われるのは予想外だったわぁ」って小声で言うな!!

聞こえてんだよ!!



――この様に、俺にとって百面相の如く変わるやつなど絶世の美女であろうが何だろうがもう恐怖の対象である。

腹の中に何を抱えてるかわかったもんじゃない。

敵だったのならなおさらなのだ。



「貴方には……一生、私の相手をしてしてもらいます――ずっと、私を、そそらせてください」


前に向かってカトレアが腕を突き出した。

――瞬間、俺の周囲にあの黒ともピンクとも定まらない霧が噴出した。


「私の相手だけをしてくれればいいんです。私のこと以外考えられないようになればいいんです」


こいつ、本当に言ってることヤべぇよ。


霧はこの部屋全体を埋め尽くさんばかりに一瞬にして広がる。

一息吸うだけで、頭の中がクラクラしてくる。


これは!?

マズイ。


未だクリアーな頭に、先ほどまであった懸念が再びよぎる。

『状態異常:誘惑』という文言がふっと浮かび上がった。


これになったら、アウトだ。

自分の意思を奪われてゲームオーバー。

何とかしなければ!!


霧は密度を狭め、俺を圧殺するかの如く迫ってきた。

そして、黒とピンクが入りまじる不気味な箱が作られる。


「『テンプテーション・ボックス』」


これは人の意思を奪い去る毒だ。

一度でも呼吸をするとやられると思え!!


俺は酸素を求めて水面から顔を出そうと藻掻くように必死になる。

キリキリと痛む頭をフルに働かせて、残り少ない酸素をすべて燃やしつくすようにして魔法を唱えた。


「くっ!! ――『ヒーリング・ダイス』!!」


奴が俺一人を閉じ込めたのが、魅了というなの箱ならば。

俺はこの館全てを覆いつくす癒しの正六面体を作り出した。


「ぐっ……すぅ――っ!?」


だが息の苦しさに耐え切れず、反射的に呼吸をしてしまう。

可視化された魅惑の毒が、体内に侵入。


――瞬間、俺の意識が一瞬にして奪われた。


「…………」


――と、ほぼ時を同じくして、癒しの空気が俺に沁み込んできた。

意識は即座に回復。


「…………まさか、ここまでとは」


一連の攻防を見たカトレアは、自信のあった攻撃を防がれ、初めて動揺した表情を浮かべた。


なんてことはない。

理屈としては単純に治癒魔法を使っただけだ。


ただ少し工夫はしたが。


よくゲームとかでターン制でバトルするものがある。

次のターン、相手の攻撃の方が先攻になり、その攻撃で仲間のHPが完全に削られることが分かっているとする。

仲間の防御力だとか、今まで攻撃されたときどれくらいダメージを受けたとかで。

その場合、別の仲間の一人に蘇生アイテムを使わせたりするだろう。


あれと同じだ。

今現段階では死んでない仲間に対して、蘇生アイテムを使用する。

それだけ見ればおかしいことだが、先を見越すと別に何もおかしくはない。

普通にやられることだ。


俺がやったのもそれと同じ。

ユーリとの契約のおかげで状態異常を治す効果がある俺の治癒魔法を、奴の後に使った。


順番としては:相手の攻撃発動→俺の魔法発動→『誘惑』の状態異常により、俺の意識が失われる→発動されていた俺の治癒魔法が状態異常を治癒


たったそれだけだ。


「ふぅぅ……」


まあ、そのために『精霊魔法』を使った。

『ブラックホール』と合わせて、回復魔法を使ったにもかかわらず疲労がひどい。


でもその甲斐あってか――



「先輩!!」


「お兄ちゃん!!」


俺を先に行かせるために残っていたヤクモとレンの二人が到着した。

二人は即座に状況を把握して、カトレアとフィオム・女性の間を遮るように動いた。


「そっちは片付いたか」


「はい!! あとはオルトさんが全部仕切ってくれてます」


問いかけたヤクモはカトレアを警戒しながらも大きくうなずいてくれた。

主にヤクモが二人の護衛を引き受けるような形を作る。


レンが槍を構え、俺の隣に。

加勢によって、カトレアに更なるプレッシャーを与える。


「お兄ちゃんだけじゃなくて、ボクも一緒に相手するよ?」


「さっ、どうする?」


願わくば引き揚げてほしい。

沈黙を保っていたカトレアは、一瞬だけ殺気の籠った視線を入ってきたレンやヤクモに向けた。


だがそれはすぐに納められる。

そして――



「――名前」


「……あ?」


最初、何を言ったのかわからなかった。


「あなたの、名前を、教えてください」


今度はちゃんと聞きとれた。

だがそうすると、次は意味が頭の中で紡がれるのに、少し時間を要した。


なんで……名前?

その疑問が通じたのかどうなのかカトレアは薄く笑みを浮かべる。


「フフッ。帰ってほしいのでしょう? あなたの名前。それさえ教えてもらえれば、今回は私が引きましょう」


……なんでそれが帰る対価になるんだよ。

もう怖ぇぇぇよコイツ。


普通の何でもない場面なら、女性に名前を聞かれるというだけで浮かれ上がるのかもしれないが……。


「……マーシュだ」


色々な考慮要素が頭の中を駆け巡ったが、もう兎に角、一刻も早くコイツに帰ってほしかったのが勝った。

俺は名前を口にする。


しかし、カトレアは小さく首を傾げて笑う。


「マーシュ? ――フフッ、いけない人です。こんなにもあなたを欲している相手に、本当の名前を教えてくださらないなんて」


流石にドキッとする。

いや、別に美人の微笑に見惚れたとか、そんなことはない。

コイツはもう俺の本能レベルで近寄りたくない相手だ。


そうではなくて。


なぜバレた。


というかヤバイ。

怒って第2ラウンド突入とかなったら嫌なんだけど……。


だが、そうはならず、カトレアは一つ頷いた後背を向ける。


「まあ、今回はいいでしょう。あなたを私の虜にして、私以外考えられないようにした後、あなたの口から聞かせてもらいます」


やめてくれ。

もういいから帰ってくれ……。


「折角見つけたまたとない極上の楽しみです。楽しみは後に取っておかないと……ではまた」


そう口にすると、カトレアの体が一瞬にして霧に変わる。

先ほどまで俺が対処していたあの黒とピンクの霧だ。


その霧は、最初こそカトレアの体の形を保っていたが、次第に空気中に広がるようにばらける。

そして最後はその場に何一つ痕跡を残さずに消え去っていた。


その後も数秒、あるいはもっと長い時間か、警戒を解かずにいたが、やがて完全に危機が去ったとわかる。


「「「はぁ~」」」


俺たちは皆同時に緊張を和らげ、安堵の溜息を吐いた。

加えて俺に残ったのは大きな大きな疲労感。


全く話が通じないどころかいきなり笑い出すわ、目つけられるわで良いことなんもない。


そう思うと段々と腹が立ってきた。





――だって(俺の話が通じた部分)0だったんだよ!? 悔しいじゃん!!

(認識の間に)差がすごいあるとか、(俺のコミュ力も)昔とは違うとか、そんなのどうでもいい!!

悔しい! やっぱり俺……悔しいんだよ。


徒労感半端ないんだよ。

頑張って追い払いはしたが、「ではまた」って言ってたし。


だが愚痴ばかりも言ってられない。


俺は気持ちに比例して重くなる足を何とか動かし、フィオムの元へと向かった。

お久しぶりです。

詳しくは活動報告にて記していますが、戻ってきました。


本当に久しぶりに書いてみたんですが、なんか今回は戦闘シーンばかりになってる……。

なのでお話的にはほとんど進んでない……。


いつもこんな感じだっけ?


正直自分でも探り探りです。

大体これだけで6000字前後らしいです。


もう少し短くてもいいのであれば投稿間隔は短くできるかも。


新しいのも投稿し始めたので、二つ並行となっております。

こちらも詳しくは活動報告をご覧ください。

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