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会わせたい人?

私情で毎度毎度遅くなってしまい本当に申し訳ないです。

今年だけは『バレンタイン』? 

……マジで忘れてた、というレベルでした。


月曜の朝の情報番組でその特集見てようやく思い出した次第です。


それはそれとして、貰った人が許されるかと言ったらそれはまた別の話です!!

作者だって、バレンタインなんか関係なく這いつくばって生きているんです、怒りませんから、貰った人は正直に申告しましょう(「怒らないから、どうしてそんなことしたの?」のノリです)!!


さて、今回は前回の予告通り多分大きく話が変わってる、かと思います。

その部分まで進めるために、やはり文字数一杯に…………


長いので作者も好きなブルーベリーヨーグルトとかを食べながら気楽に読んでいただいた方が良いかもしれませんね(回し者じゃないですよ)。


とても簡単なあらすじ(内容を完全に忘れた方は前話の前書きをご覧ください):カイト君→ランド君が姉と一線超えたヤバい奴だと思ってる。ランド君→カイト君がホモで男にしか興味ないこれまたヤバい奴だと思ってる。


お互い相手に会って欲しい人がいる(カイト君はフィオムに、ランド君はアイリさんやエンリさん達に)けど……→今回のお話


「アンタが、俺に? ――…………それは、男、か?」


相手と言葉が被り、お互い二言目を発するのには少々の間を要した。

そして最初に二の句を告げたのはランドの方であったわけだが……


…………え?


男かどうかってそこまで重要?

「それは誰だ?」とかなら普通聴いてもおかしくないだろうけど……


だが、ランドにとっては相当な関心事らしい。

『男』と口にする際奇妙な間が空いていたし、それに何だか声が上ずっていた。


ん~~~、何だろう。

男とのコミュニケーションがあまり得意ではないのだろうか。


俺はむしろ男性の方がまだマシだけどなぁ。

だって女性と話すとか普通緊張しない?


いつ怜悧な瞳で「はぁ? っつうかキモ」ってマジトーンで言われるか分からないもん。

アイツ等は知らないんだ、同年代の女子にキモいとか言われて男子がどれだけのトラウマを抱えるかを…………



あ、あと「臭い」もダメね。

アイツ等本当に容赦ないよな。

自分達は制汗スプレーなり香水なりバンバン使って俺達の鼻曲げてくるくせに……



【忠告】俗に『3K』と言われる『臭い』『キモい』『嫌い』――これらの言葉は君達が同年代の男子、兄弟若しくはお父さんに発するだけで、その心に癒えない傷を刻み込む鋭利な刃物へとその姿を変質させます。

決して不用意に口にはしないよう、女子諸君は気を付けて下さい!!




「男……の見た目をしてはいるが、俺は女性として接している」


何とも玉虫色みたいな回答だな。


だって、うん、フィオムってどう言えば良いんだろうね。

社会一般としては男性なんだろうが、真実は女性だしな……


まあでも俺の言ってることはだから間違っちゃいないはず。

なのに――


「男の見た目!? しかも女性として接している!?――くっ!!」


ランドは男と聞いた途端目を剥く。

そして何とも忌々しそうに声を漏らして俺を睨みつける。



……え、そんなに男と会うの嫌?

一応フィオム本人は女性なんだけど……


「一つ、聞くが……」


未だ憎々しげに声に棘を含ませてランドは尋ねてきた。


「ん、何だ?」


「……清楚で見目麗しい他人である女性とそいつがアンタの目の前にいたとする」


えーっと…………ん?


それは何の例えなんだ?


フィオムと綺麗な女性がいたとする?

ランド本人は一応真面目に質問している様子。


まあ良いけど……


「アンタはどちらに先に話しかける?」


…………ああ、そうか!!


分かったぞ、奴の意図が!!

あれだな、騎士としての誠実さを見抜きたいんだな。


綺麗な女性に現を抜かして知人を蔑ろにするような奴は騎士としてダメだ――そう言いたいんだろう。


フフッ、甘いな。

その程度の心理戦など、俺は日常茶飯事でこなしてきたのだ。



~過去の壮絶な心理戦の一幕~


「谷本君ってぇ~広美ひろみ円花まどか、どっちが可愛いと思う~?」


クラスの化粧濃い女子に何気ない感じでそう尋ねられて、単純なバカは回答を渋る。

だが「お願い!! 今クラスの男子全員に聴いて回ってて、どっちが上か勝負してるんだ!! だから、答えてもらっても全然角立たないから」


奴等はそんな甘い言葉を囁いて回答を迫る。

そうして「そういうことなら……」と奴等を敵に回すのを恐れ、無難にどちらか片方の名を挙げることだろう。



――しかしこれは典型的なトラップである。



ここで「うーん、川島さん、かな?」若しくは「えっと、多分、三井さん」、どちらの名前を挙げたとしても、奴等は嬉々としてリバースカードをオープンする。



――リバースカード、オープン!!【女子の下の名前で言われても、ちゃんと誰だか把握している男子、キモい!!】を発動!!


その効果により、可愛いと名前を挙げた方からは「うっわっ、最悪ぅ」と嫌悪の情を直接目の前で叩き込まれ、聴いてきた女子、そして呼ばれなかった方の女子二人からは「ドンマイ、まだ人生この先良いことあるって(笑)」「そうだよ広美ぃ、まだ、渡辺君に聴いてないんだから」と聞きたくも無かった事実を知らされることになるぜ!!



――そう、奴等はただ単に渡辺の野郎から意見を引きずり出すための下地作りをしているに過ぎないのだ。

奴等からしたら「クラスの男子皆に聴いたんだから、渡辺君もちゃんと答えてよね!! べっ、別に渡辺君の意見が聴きたいがために他の男子にも聴いてるわけじゃないんだからね!!」てなところだろう。




つまり、有象無象の男子達の心の傷を生贄に捧げ、渡辺の意見(☆8)を召喚!!


と言うわけだ。



そんな儚く散って行った男子どうし達の想いを背負い、俺は渡辺の前に、先の質問についてこう答えてやったのだ――




「えーっと……二人とも可愛いと思うよ?」


「「「は?」」」




~過去の心理戦の氷山の一角 完~




「いや、お前にそこまでの意見求めてねぇよ」と言わんが如くのマジトーンでの「は?」ありがとうございました。


いや、いいんだ……



丁度今トイレに行きたくなっただけだから――と何食わぬ顔で席を立とうとしたところに男子どうし達からも「あいつ、自分がイケメンか何かと勘違いしてんじゃね?」と団結されたヒソヒソ声で追い打ちを掛けられても……



いいじゃん、クラス皆が団結できて。

男子どうし諸君もこれで傷が幾らか癒えたことだろう。




【結論】あく タイプでダメージ2倍って案外根拠のある設定だったんだな、と実感しました(誰かポ〇モンの首脳陣の中には追い打ちをかけられた経験ある人でもいるのだろうか……)。




うん、兎に角、ランドの質問に対して「女性の方」と答える選択肢は今回は無いな。


そもそも女性とか、どれだけ見目麗しくても他人だとどういう人物か分からんし。

内面がドロドロしているなんて、女性にはありがちなことだ。


それに引き替え、フィオムは外見こそ社会的にはあんな感じだが、実際は物語の中に出て来そうなお姫様に違わぬ美しさを持っている。


にも関わらず、懸命に生きている小さな女の子だ。


どちらに話しかけるかなど迷う余地すらない!!


「そんなもの、考えるまでも無い――俺がお前に会って欲しい人に決まっている」




これで相手も満足できたか、それに騎士としての誠実さもアピールできただろう――そう思って自信満々にランドの表情を窺い見る。



すると――




「くっ、やっぱり!!」




あれ?



何だろう、まるで親の仇でも見るかのような目をして俺を睨んでいる。

なのにそのセリフは俺がどう答えるかを予想していたかのようだ。



…………よく分からん。



あれかな、本当は認めたくはないけど、俺がどう答えるかはある程度予測はできてた、のかな。

要するにあれか、「ぐへへへ、そんなこと言いつつ、体は正直――!!」「嫌なのに!! 嫌なはずなのに!! どうして!?」……違うか。



取りあえず、ランドからの質問には答えたので、今度は俺が疑問を質す番だ。

流石に会って欲しい人がいるという頼みが被ったので、聞きたいことは色々とあるんだが……



「今度は俺から聞かせてもらう」


「……チッ、何だよ」



…………やめろ、舌打ちすんな。



くっそ、この野郎、人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって。

ちょっと、俺よりも顔が良いからって――ゴメン、盛った。


大分、だな。




まあいいさ。


それなら俺も突っ込んだこと訊いてやる。



「お前は……団長のことをどう思ってるんだ?」


「ああん? 団長、だと?」


この質問には色んな意味が込められている。


こういう聴き方をすることによって、暗にお前と団長代理をしているフレアとの繋がりを見抜いているんだぞ、と告げることができる。


そしてあわよくばコイツから真実――本当に姉と一線超えちゃってるのかを確かめることが出来るかも。



さて、何と答えるか――『団長』と言う単語を耳にした途端、雰囲気に真剣さをより含ませたことからも、コイツにとって大事な話であるということは確かだと思うが…………






「――大好きに決まってんだろ」


「……………………え?」


「愛してるって言ってんだよ。団長の可愛さを一番理解しているのは俺だ」



……コイツナニイッテンノ。カイト、ムズカシイコト、ヨクワカンナイ。



「確かに、世間一般で言えばあの人は正確には『団長』では無い。でも、俺はあの人が団長であると信じている」



うわー、聴いてないことまで説明してくれるよー、とっても親切だねー(棒読み)。








――コイツ、真正のシスコンだった!!


団長云々の話はあれだ、アイリさんが本来『イフリートの炎爪』の団長で、フレアは今はその『代理』だけれど、ランド本人はそれでも自分の姉が団長として世間に恥じない存在だと主張したいんだ!!


しかも姉ではなく『団長』と言う事によって、普段の公私の分別はつけてますよと言外にアピールまでするとは……




うわ~。

これは酷い重病シスコンだ。


何この子、おはようからお休みまでお姉さんとの暮らしだけを見つめちゃってんの?

お姉ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ、ということなの?


恋は盲目って良く言うけれど、一日中同じことだけを見つめ続けるって疲れないかね。




――そんなんで、24時間戦えますか?

――セ〇ム、してますか?



【そんなあなたに、カイトの 悩める子羊に送る人生相談コーナー!!】

うん、すぐさま精神科に掛かるか、若しくはお巡りさんのお世話になることをお勧めするゾッ☆ 


君にとっての ラッキーパーソン は国外逃走を勧めてくる片言外国人!! 法律上許してくれる所へ愛の逃避行だ!!


逆に、君にとってのアンラッキーパーソン はご両親!! バレたら家族会議だけじゃ済まないゾッ!! また、お巡りさんにお世話になると、連鎖的に家族に話が行く可能性が!! お世話になる際はそこんとこも気を付けて考えよう!!



…………ごめん。



「…………そうか、それで、会わせたい人についてなんだが――」


呼ばれたら出ないと目玉をほじくられることで有名な某ジブリの黒い奴ら並にもう真っ黒だった。

もう一線なんて固いこと言わず、彼等はどこまでもどこまでも飛び越えて行けるのではないだろうか(白目)。


結論は出た(ランドくんがクロにきまりました。オシオキをカイシしたいところですがめんどうなのでショウリャクします)ので、話を先に進めようとした、まさにその時だった。





「――ギャウーン」

「グギャアアァァ!!」



ドラゴンの力なく叫ぶ声に続いて、轟く様な別の咆哮が町の外から届いてきた。




=====  ????視点  =====


思いもよらないところで言葉が被ってしまった。


チッ、面倒な。


奴はヘルムを被っており、どのような表情をしているか定かではないが…………

アイリさん達程の女性に見向きもしないようなホモ野郎だ、きっと色仕掛けされても眉一つ動かさない鉄面皮に違いない。


ったく、何でこんなホモが…………



――ん?



ちょっと待て。


「アンタが、俺に? ――…………それは、男、か?」


俺が質問すると、奴は考え込むように手を顎へと持って行く。


何だ、何故そこで悩む必要がある。

やましいことが無いのなら答えられるだろう。


即座に答えられないということはそれなりの理由があるんだ。


――恐らく、奴が俺に会わせたいのは男なのだ。


こんな男好きだ、碌に女性の知り合いがいる訳が無い。


要するにあれだろ。

この野郎は、俺に男と会って欲しい。

しかし、そいつは自分の唾付けた奴だから、必要以上に俺が興味を持って、そうして俺に手出しされるかも、ということを懸念しているんだろう。


だから正面切って俺に会って欲しいのは男だと告げるのに躊躇しているんだ。


フフン、我ながら完璧な推理だ。


安心しろ、心配しなくても誰も男に手出さねぇよ。



さて、こっちはもう既にアンタの手の内は見えてんだ。

どんな回答の仕方をしようが――



「男……の見た目をしてはいるが、俺は女性として接している」


「男の見た目!? しかも女性として接している!?――くっ!!」



予想をはるかに上回る回答だった!!


何だそれ!?


コイツは何が言いたいんだ!?


自分はいつも攻めで、相手の男に女として受け手役をやらせているとでも言いたいのか!?




くっ、流石にアイリさん達には見向きもしないホモなだけはある。

とてつもなく手強い。


いや、まだ、まだ確定したわけじゃない!!

まだ俺の早とちりという可能性も無きにしも…………


「一つ、聞くが……」


「ん、何だ?」


「……清楚で見目麗しい他人である女性とそいつがアンタの目の前にいたとする」


流石にこの選択肢で後者を取ることは無い、はずだ。



――…………いや、もう、俺も心のどこかでは分かっているんじゃないのか。



「アンタはどちらに先に話しかける?」



こう尋ねている今現在でも、俺はもうなんとなくコイツがどう答えるかが、薄らと予想できていた。

そう、コイツにとっては美女などそこら辺に落ちている石ころ同然なのだ。


コイツにとって価値あるものとは即ち男であるということ。


それが真正のホモというものなのだろう。



だが、一方で分かっていてもその予想を裏切って欲しいと思っている俺がいるのもまた確かだ。


頼む、外れてくれ――




「そんなもの、考えるまでも無い――俺がお前に会って欲しい人に決まっている」



――しかし、無慈悲にも奴の言葉が俺の想像に反することは無かった。



「くっ、やっぱり!!」


堪らずやり場のない思いを吐き捨てる。


俺の予想は当たっていた。


こんな展開本当は嫌なのに、嫌なはずなのに…………頭では否定しているが、心のどこかでは納得してしまっている。




くそっ、くそっ、くそっ!!




やっぱり、無理、なのか…………




男好きに女性の気配があって欲しいと願うのは。






「今度は俺から聞かせてもらう」


「……チッ、何だよ」



まだ片付けが済んでいないゴチャゴチャした頭に、奴が更なる情報処理を要求してきた。

堪らずイライラして舌打ちしてしまうが、こんな男色野郎に気遣いなど不要だろう。



「お前は……団長のことをどう思ってるんだ?」


「ああん? 団長、だと?」


団長、と言ったらまあ俺達をひっくるめた『ノームの土髭』という意味でだろう。

それ以外に何を訊くんだということになるし。


とは言え、コイツは何を当たり前のことを訊いて来るんだろうか。

そんなもの、毎日朝が来て、そうして時が経てば夜が訪れ、再びまた朝になる――そのレベルで当然のことだと言うのに。


「――大好きに決まってんだろ」


「……………………え?」


「愛してるって言ってんだよ。団長の可愛さを一番理解しているのは俺だ」



ったく、当たり前のことを言わせんなや。

だと言うのに、奴はどこかキョトンとしている様子。


――…………ん?


おおっと、このままでは誤解を与えるな。

メンバー達なら俺のこの団長への愛を理解してくれているだろうが、赤の他人、しかも相手が生粋のホモとなると理解が及ばない部分も出て来るだろう。


当然だが、俺が敬愛して止まないのは団長である“クレイさん”であって、へなちょこ野郎の“テリム”ではない。


そこを勘違いしてもらっては困るから一応付言しておくか。


「確かに、世間一般で言えばあの人は正確には『団長』では無い。でも、俺はあの人が団長であると信じている」



本当に、何でテリムの野郎が団長の座に座ってんだか。

それじゃあ団長が帰って来られる場所を奪っているようなものじゃないか。


本人は「クレイさんが帰って来られるよう、クランを大きくする必要がある!!」とか「そのために団長の座を空席にしておくのはマズイ!!」とか言ってたが…………


本当は自分が団長になりたかっただけじゃないのか?






「…………そうか、それで、会わせたい人についてなんだが――」



そうして思考の海に潜っていると、奴が話を替えてきた。

むっ、折角団長愛についてこれから語ってやろうと思っていたのに……


まあ俺にも本題――つまりコイツをアイリさん達の前に引きずってでも連れて行くという目的がある。


その話に入るという事は望む所――




「――ギャウーン」

「グギャアアァァ!!」




――えっ!?


この声は…………ニーナ!?

それにキールまで!!



何で、って言うか、ニーナの声に力がなさ過ぎる。

こんなに弱弱しい鳴き声……初めて聞いた気がする。


それでも俺に声を届けようとあらん限りの力を振り絞って叫んだ――そんな鳴き声だった。


一体何が!?

って言うか姉貴は!?


二人とも、無事なのか!?



くそっ!!




俺は、目の前に突っ立っている男を尻目に、声の聞こえた方へとすぐさま駆け出した。




=====  ????視点終了  =====


◇■◇■◇■



「お、おい!!」


ドラゴンのものと思われる二つの咆哮を耳にするや否や、ランドは俺には目もくれずにその場を離れた。

表情には焦りの色が濃く、俺の静止は耳に届かないようだ。



何だかよく分からんがただ事ではなさそうなので、一先ず彼の後を追う事にする。



「何だろう、今の声…………えっと、あれ、今の人って――」


「さあ、何かあった様子ではありましたが――って、え? 先輩!?」


「二人とも、話は後だ」


待機してくれていたレンとヤクモを拾い、再び足を進め、後を追う。


二人も一先ず言葉を飲み込んで、付き従ってくれた。




昨日今日会ったばかりでこんなことを言うのもあれだが、今迄見たことも無い程にランドの様子はとにかく必死そのものだった。

他の者には目もくれず、声のした方へと一心不乱に駆けて行く。


それだけで、これから目にするであろうことがただ事では無いという想像を働かせる。



一体何が――



「先輩」


「あ? 何だ、説明は後って――」


「ああ、いえ、そうじゃなくてですね」


ヤクモは俺が早とちりすることを事前に分かっていたからか、即座に首を横に振る。


何なんだ、俺自身何が起きたか把握していないから頭を回すので忙しいのだが。

俺達と並走しているレンもヤクモが意図するところが分からず首を傾げている。


それとも、何か俺がいない間に気付いたことでもあったのだろうか。


「何か報告することでもあったのか!? なら今言っておいてくれ!!」


「え、でも、いいんですか?」


「ああ、遠慮するな!!」


転々とする事態を把握するには何よりも情報が必要だ。

俺の方の事情を説明するのはともかく、何か気付いた程度の報告であれば時間を食うことも無いだろう。

走りながらでも説明できるはず。


それに頭のまわるヤクモの気づきを頭に入れて置く余地はあると思う。

こうした小さなきっかけが繋がって全体像が浮かび上がってくるということも決して現実では少なくない。


そうですか、と言ってヤクモは走っていても乱れることの無い息を一度止め、そうして再び口を開いた。







「――先輩の鎧、ガシャガシャ言ってて結構うるさいですね」





ガシャッガシャッガシャッガシャッ…………




「「「…………」」」


3人の間に流れる沈黙なんて関係ない、空気は読むものではなく吸うものだと言わんばかりに、俺が動作をするたびに全身の鎧から金属同士がぶつかる音なんかが絶え間なく空気を振動させる。



いや、まあ、そうなんだけど…………



「それ…………今言う事?」


「いえ、ボクも今言うべきかちょっと悩んだんですが、ギャップに驚いたと言うんでしょうか。普段の先輩の影の薄さに反して鎧の音って結構大きいんだな、と」


え、何それ。


一人の人間の存在よりも、どこでもあるような事象の方が存在感が強いってこと?

まあ俺も自分が目立ってない方が何かと動きやすくはあるんだけど、さぁ……


「何、お前が気づいたことって、俺の存在価値に疑問を投げかけることなの? 俺のメンタルにダメージ与えて芋虫みたく慎ましく生きろと理不尽に対する謀反の芽すら摘むことなの?」


「いや~、別にそこまで意図していたわけでは無いんですが。まあ結果的には目を逸らしていたかった事実を浮き彫りにしてしまったわけですか、申し訳ないです」


「お前謝るんならもっと申し訳なさ感出せよ。お前のやってることあれだからな、出るつもりの無い杭まで石橋を叩いて渡るが如く打ち付けてるようなもんだからな、まあ事実だけど」


「お兄ちゃん、事実なんだ…………」


いや、レン、そんな哀しい目をするなよ。

これでも兄は精一杯辛い日々を懸命に生きているんですよ。


別にね、路地裏とか歩いてたら「あなた、死相が見えます!!」とか飲食店で「あの、神の救済にご興味ありませんか?」とか言われたこと無いからね? …………あんまり。


…………給食中、粕汁かすじる飲んでただけで「うわ~、共食いだ!! カスが粕汁食ってる!!」とかも言われたこと無いから。



粕汁や神の救済なんて胡散臭いものにすら存在性が認められる昨今、一方で俺の存在価値は周りからすればかなり希薄に感じられるらしい。



…………うん、真実を見つめるためなら致し方なし。

大歓迎っすよ、千本ノック(涙)



「――さて、ほっこりしたところでさっさと事態を解決させましょう」


「今のでほっこりしちゃうんだ」


「ヤクモの頭の中には“ほっこり”という言葉の定義が歪んで刻まれているらしいな」



とは言え、少々焦っていた頭の中は冷え込み、物事に冷静に対処できる準備は整ったと言える。


ヤクモは手段は兎も角、焦っても良いことは無い、いつも通りに事に当たろう、と言う意味でこうしたことを言ってくれたのだろう。


まあ、確かに冷静にはなれたけど……




こんな手法を繰り返していたら、いつも通りに戻るために毎回毎回犠牲者が必要になるのだが。

しかもその犠牲者は一人の特定の人物なのだが。

更にその特定の人物は犠牲に遭う度に過去のトラウマを掘り返しては何とも言えない気分になるのだが。



まあ別にこの様なことは今回に始まったことではないし、俺自身にも頭を一度冷却すると言う意味ではメリットがあることだし、良いんだけどね。


良いんだけど、良いんだけどさ……生きることって、何だか悲しいね。


◇■◇■◇■



「おいおい、こりゃあ酷い」


「どうしたことだ、まさかこんなになるまで……」


「フレアちゃんは一緒じゃないのか!?」


「誰でもいいから、今すぐ一っ走りしてヴィンセントさんとクーさんを呼んで来い!!」


「分かった!! 俺が――」


「ああ、待て、医者もだ!! ヴィンセントさんに言って王都でもどこでもいいから良い医者も呼んでもらえ!!」


「お前、医者って…………この怪我じゃ、着いた時には、もう――」


「バカ野郎!! 滅多なこと言いやがるんじゃねぇ!! 何が何でも治すんだよ!!」


「お母さん、ニーナ、いたいいたいなの?」


「……ええ」


「なおる、よね? ニーナ、元気になるよね?」


「…………ええ、大丈夫よ、きっと」



辿り着いた先には、既に先の声を聞き付けた住民であふれかえっていた。

俺達も声を聞いてから殆ど間が無くここに向かったはずだし、住民たちは皆、騎士おれたちを避けるために家の中に閉じこもっていたはずだ。


なのに、大勢の人だかりが二つの大きな存在を囲う様にしてできているという光景が俺達の目に飛び込んできた。


「先輩…………」


「お兄ちゃん…………」


「ああ……町の人達も皆集まっている様だな」


二人から漏れ出た圧倒されたような声に応える。

二人にしても今目にしている光景が驚くべきことであるのは確かなのだろう。



「――どいて、ごめん、どいてくれ!! 道をあけて!!」


ランドが人垣を分けて、中心地へと踏み込んで行く。


「ごめん、ちょっとごめんよ――ニーナ、キール!!」


『う、ぅぅぅ……ランド、君』


おせぇよ、相棒!! ――ニーナの姐さんがヤベェんだ!! 何とかなんないのか!?』


「悪い、キール、遅れた!!」


カノンの『モンスター言語』を介してドラゴン達の声が、俺の耳に理解できる言葉として流れてきた。


事態を把握するため、という意味もあるが、今ドラゴンの周りを囲っている住民達をかき分けて行っても悪化させるだけだろう。

俺はレンとヤクモと共に彼等から離れた位置で、しばし事態を見守ることにする。




「おお!! ランドのボウズか!!」


「おい、フレアちゃんは大丈夫なのかよ!?」


「ランドの兄ちゃん、何があったの?」


「フレアお姉ちゃんは? どうしてニーナと一緒じゃないの?」


「っ!! ――…………キール、ニーナ、何があった?」


問題の中心にいるランドの登場に、周りに集まっていた住民達のざわめきが増した。

しかし、ランドは彼等の問には答えない。


「そうだ!! ランド、フレアの嬢ちゃんはどうしたんだ!?」


「ニーナが一大事なのに、お嬢さんがいらっしゃらないなんて……」


「ほんとどうなってんのよ、フレアちゃんは、ニーナは大丈夫なの?」


「…………キール」


『お、俺にも良く分からねえよ。ニーナの姐さんが、こんな、ボロボロで、戻って来て…………』


『う、うぅぅ、ごめん、ね、ランド君、キール君』


ザワザワとした様子は今も続いているが、輪の外側にいる住民達に気を使ってか、一歩引いたところにいる俺達にも状況は伝わってきた。


ランドは『ドラゴン言語』というスキルのおかげで相棒たる地竜キールとのコミュニケーションを成り立たせている。


しかし、彼と情報を共有したいと切に想っているだろう住民達の声には頑なと言っても良い程に応えない。

そんなところに――




「「「――ランド!!」」」


「ランド、無事か!!」


「ランド、大丈夫!?」


「皆……」




ランドが所属するクラン『地竜の咆哮』のメンバー達が駆けつけてきた。

彼等も恐らくはドラゴン達の鳴き声を聞きつけてやってきたのだろう。


一番遅れてやってきた形となっているが、そもそも住民達が集まってきた早さが少々異常だったんだ。


「おい、ランド、大丈夫なのかよ?」


「ランド、大丈夫? 無理、しないでね」


「何があったかしらねぇけど、お姉さんはきっと無事だ」


口々にランドを心配する言葉を彼にかけてやる。

事情を知りたがっている住民達とは対照的に映るが、どちらが正しくてどちらが間違っている、と言うようなことではないとは思う。




「――先輩、“お姉さん”って、しかも“フレア”って今『イフリートの炎爪』で…………」


「“フレア”って、お兄ちゃん、確かアイリお姉ちゃんの…………」



俺の隣で事態を見守っていたヤクモとレンの二人が、どうやらランドと今話題に挙がっているフレアとの関係について朧気ながらも気づいたようだ。


俺はこの機に二人と情報を共有しておくべく、“ランド”と“フレア”が姉弟であること、そして“フィオム”とも恐らく決して小さくはない関係があることについて粗方説明した。


そこまで説明したら、大体今回の全体像がどういったものか察しがついたらしく、ヤクモがレンに対して補足の説明を入れている。




――そんなところに、一人の叫ぶような声が周囲の喧騒をかき消した。






「――大丈夫なんかじゃねえよ!!」




「…………ランド」


…………彼本人がこんな悲鳴とも取れる程の悲痛な声を上げたことに、周りは一言も発することができなかった。


そんな中で獣人の女の子だけが何か躊躇ったような仕草を見せた後、彼の名を一度呼んだ。



「姉貴とニーナはいつも一緒だって、一心同体の二人だってことは皆知ってんだろ!? それが、ニーナが、こんな見たことも無い位ボロボロな姿で、たった一人で帰ってきた――これがどれだけ異常か!!」


「「「…………」」」


彼のこのような取り乱した姿を目にする機会が無かったのか、住民は勿論、クランのメンバーも含め皆呆然としている。


「もう頭ん中グチャグチャだ!! 姉貴は今どうしてんだよ!! 何で傷だらけのニーナ一人を放ってんだよ!! わけわかんねぇよ……」


『相棒…………』


『ランドくん、ゴメンね……でも、フレアちゃんを、責めないで、あげて……』


「ニーナ……クッソが!!」



今の地面に対する一蹴りには、多分色んな意味が込められているんだろう。

その気持ちが分かる、なんてことは言わないが。

だから推測にはなるが、少なくともやり場のない思いを何かにぶつけたいという気持ちは俺も経験したことがあった。



『お、おい、相棒!! お怒りの所悪いが、早く医者を、ニーナの姐さんを治してくれる奴を――』


「…………無理だ。この傷を、治すなんて」


「「「なっ!?」」」


彼の諦めの一言は、言葉を失って立ち尽くしていた彼等のざわめきに再び活気を与える。


「おい、ちょっと待てよ!!」


「そうだぞ、ボウズ!! お前が一番に諦めてどうすんだ!!」


「ニーナは家族だろうが!! これから嬢ちゃんとこ行くんだろう? ならニーナも一緒じゃないとダメだろうが!!」


『おいおい、お前、本当に言ってんのか? フレアの姐さんのことと併せて自暴自棄になってニーナの姐さんを見捨てるとかだったら、ぶっ飛ばすぞ!?』


やはり彼から出た言葉が相当衝撃的だったのだろう。

相棒である地竜にまであのようなことを言われている。


「…………自暴自棄でも、何でもないッスよ――リュン」


「ヒャ、ヒャイ!?」


呼びかけられたのは、先程一人だけ彼の名を口にした獣人の少女であった。

耳をビクッと振るわせて反応した姿からも想像できるるが、突然自分の名前が呼ばれたことに対する驚きで声が裏返っていた。


「イリスとニカをここに呼んで欲しい」


「う、うん、分かった――イリス!! ニカ!!」


獣人の女の子は、集まっていたクランのメンバーの中で、人族、そしてエルフ族の女性を連れて、再びランドの元へ。

その間、住民達は彼が何をするのか訝しみ、そしてドラゴンの様態を気にして焦っているようではあるが口を出さずに見守っている。


「二人とも、私情で申し訳ないが回復魔法をニーナにかけてやってくれないか? ――頼む、この通りだ」


「ラ、ランドさん!?」


「あ、頭を上げて下さいよ!!」


しかし、彼はその直角に曲がった体をピクリとも動かさない。


「頼む――」


「わ、分かりました」


「勿論、協力させていただきます」


二人は困惑こそすれ、端から協力するつもりだったのだろう。

腰を折っているランドから、体をボロボロにし、苦しげに伏せているドラゴンに目を向け、そうして詠唱を始める。


「「――癒しの力よ、集いて彼の者に安らぎを与えよ――」」


「「ヒール!!」」



白く眩い二つの強い光が重なって、ドラゴンの体を包み込む。

固唾を飲んで見守っていた住民達からはその光を見た途端、「おぉぉ!!」という歓声が上がる。


これでドラゴンの傷が癒える、そして傷が癒えたら、危機も脱して助かるはず。そうしたら一安心だ――







――そんな甘い考えは、光が収束した後も、前後で同じ写真を見せられているかの様に全く変化が無かったドラゴンの様態を見て吹き飛んだ。



「お、おい……」


「冗談、だろ……」


「お母さん、ニーナ、おけが、治らないの?」


「…………」


開いた口が塞がらない――住民達の心情を言葉にするなら正にこの言葉が当てはまるだろう。


俺の目からしても、あの二人の回復魔法の精度・威力は高いものだった。

普通の状況であれば、大抵の傷を癒すのにはあの魔法で十分だったと言える。



だが――


「…………こういうこと、なんだよ」


『…………何の冗談だよ、これは。何で、何で姐さんの傷が塞がらねえんだ!!』


地竜が吠えたのに合わせて、住民達もビクッと体を震わせるも納得いかないと言ったように声の主たるランドへと視線を向ける。


「二人の魔法は本来なら大きな怪我でも十分に回復できるだろうものだ」


「な、なら!!」


『そうだぜ!! なら、どうして――』


「……それは、ニーナが……ドラゴン、だからだ」



絞り出したようにランドはそう告げた。

中には何となく察する者もいたが、それでもピンとこない者もいるらしく、ランドの更なる説明を求めるように黙って彼の顔を見つめる。


「……回復魔法ってさ、モンスターに対しても、人に対しても関係なく使えちゃうものだから、普段気にしないし、念頭には上がらないことだけれど……」


彼は痛々しげな様子を見せるドラゴンを労わるようにその手で顎を撫でてやる。


「結構それって対象の体質に左右されるって言うかさ、モンスターと人との体の構造の違いによって大分変ってくるんだよ」



――そう、俺もそのことが念頭にあったので今迄動かずに事態を見守っていたのだ。


うちにもワイバーンがいたり、竜へと姿を変えるリゼルがいたりするからドラゴン相手にはかなり気を使う。

かすり傷や打ち身とかなら俺達人間と変わらず治癒することができるのは俺も実体験として知っている。



ただ、本来ドラゴンとはモンスターの中でも特に強い存在として分類される生き物である。

そもそもモンスター自体が人間よりも凶暴で体も大きく、それに伴って身体能力も比較するのはおかしい位に上なのである。


そしてドラゴンはその上位――つまり相当に優れた存在であると言える。


ドラゴンの体を覆っている鱗は総じて硬く、傷をつけるのにもそれ相応の苦労が伴う。

それを潜り抜けても、貫くことをまるで拒絶するかのような筋肉の山が待ち受けている。


要するに、ドラゴンが怪我をするという事はそれだけでも大事なのだ。

そして例え怪我をしたとしても、人間とは更に異なり、その自己治癒力も比較にならない程高い。


ドラゴンがその数が少ないのは勿論彼等の生命力が弱い、と言うわけでは無く餌や繁殖の問題が絡むためだ。


自分達よりも強い存在が現れて住む場所を追われる、或いは生存闘争に敗れるという事をドラゴンについて耳にすることは、俺がこの世界に来てからは無い。



だからこそ、今彼等の目の前にいるドラゴンが体中傷だらけな状態というのは異常なのだ。


俺も以前北のワープ先でダークドラゴンのお母さんが傷を負っているという状況に出くわしたことはあったが、あれは今回とは状況が異なるイレギュラーなケースである。



普通にワイバーンのヴィヴィアンや、ドラゴンに姿を変えたリゼルが怪我を負ったら、俺も回復魔法で治療する、ということは考える。


ただ極端な話、人間に対する回復魔法を想定していては、回復力が圧倒的に足りないのだ。

俺は治癒の属性を司るユニコーンたるユーリと契約して、一段階回復魔法の威力が上がっているし、純粋に魔法の威力自体も低くはないとは自負している。


であっても、魔法を使ってあのドラゴンの傷を治せるかどうか、全く自信が無かった――それ位にあのドラゴンの傷は深く、重傷なのだ。


もしかしたら幾らか効果は出るかもしれない。

だがそれでも延命程度になる可能性が大いにある。




回復力が、足りないのだ。




――ランドは、魔法を使ってもらう以前から、俺と同じく既にこのことに気付いていたのだろう。


魔法の後、特に取り乱すことなく冷静な顔をしていたしな。

ただ、それでも一度やってみないと分からない。

それに、やってみないと納得しない者が周りにいた。


そう言った事情が、分かっていても尚、自分の仲間たちに彼が頭を下げた要因なのだろう。



「……ここまでの傷を治せるのなんて、もうエリクサー位しか、俺には思いつかない」


『じゃあ……王都に行こうが、良い医者を見つけようが、姐さんはもう、治せないってか?』


「……医者や魔術師の良し悪しはこの際、関係ないんだよ。ここまで傷が深くって、それでもニーナは一向に自己治癒の兆しを見せない――人間の魔法レベルでは、ニーナは治せない」



ランドはとても悔しそうに歯噛みし、だがあくまでドラゴンを撫でてやる手つきにそれは感じさせない。

本人もさぞ悔しいのだろう。

冷静にあのドラゴンを救う方法を見つめて、自分の知恵と言う知恵を振り絞って考えたからこそ、それが見つからなかった時の絶望感も決して小さくないものとしている。



「……先輩」


「……お兄ちゃん」


ヤクモとレンが不安げに、しかし何かしらの希望があるのではないかという眼差しで二人して俺を見つめていた。


……むぅ。


「……俺の魔法でも、あれは多分、回復力が足りない」


「……そう、ですか」


「……やっぱり、仕方、ないのかな」


ヤクモは仕事柄こういう場面に良く出くわすからか、その表情に明らかな落胆は無い。

一方でレンは目の前の光景から目を逸らさぬようにはしているが、いつもの天真爛漫さは鳴りを潜めている。



…………誤解しないで貰いたいが、俺も助けられるのなら助けたい。

それは別に人助け精神なんて尊い、俺とはかけ離れたものからとは言わない。


恐らくあのドラゴンが一番問題の中心地にいるはずなのだ。

という事は事情を聴くのはあのドラゴンからが一番効率はいい。


今満足に話せる状態でないのは誰の目から見ても明らかだし、仮にランドの協力を仰ぐことができなくても、俺が翻訳できる。


それに魔法を使う事によって起こるデメリット――要するに俺が『マーシュ』として活動するうえで不利益だということも、まあ最悪バレテもいい。



今回の問題はそこではないのだ。


純粋に魔法の力が足りない。


単純に考えて、俺の魔法の威力が後2~3倍位にはならないと話にならない。

それは俺レベルの魔法使いを後2~3人集める、と言う話では無い。


う~ん、極端な例だが、数学で70点取れる奴を3人集めたからと言って100点取れると言う話にはならない。

微積分ができたら70点取れる、というテストだとして、それができる奴が3人集まればそれよりも3倍難しい問題を解けるか、と言ったらそりゃ多分無理だという話になるだろう。



一分で1ℓの水を出す蛇口を3つ集めたら、そりゃ1分で3ℓの水を集めることはできる。

だが必要とされているのは要するに一分で3ℓ出せる一つの蛇口なのだ。

微積分よりも3倍難しい問題を解ける者が今必要とされているんだ。


それは水圧だとか、読解力とか言われる部分で、今回目の前で苦しんでいるドラゴンを救うのに必要とされているのは、即ち回復の勢いが2倍3倍ある者なのである。



普通に人間2~3人の怪我を治すのなら回復魔法を使える人間を3人集めればそれで済む。

だが今回は人間よりも遥かに丈夫なはずなのにもかかわらず重症を負ってしまっているドラゴンなのだ。

これが単純なかすり傷とかならば問題は無かった。


しかし今回は翼には所々に穴が開き、体の各所に深い切り傷引っ掻き傷が存在するドラゴン。


この傷を治すのには……人の魔法の威力では、限界がある、のだ。



ふぅ……俺も、先程ヤクモ達との掛け合いで冷静さを備えていたからこそ、今こうして現状を把握できている。


でないと、多分、頭に血が上ってまともに考えていられなかったかもしれない。



『カイトー、ドラゴンさん、助けられないの?』


『ドラゴンさん、イタイイタイなの!!』


『助けてあげたいのー!!』



何人かの精霊達が俺の周りで心配そうに事の次第を見ていた。

俺も勿論できるならばそうしたい。


だが、足りないのだ……力が。


最小でも、後多分2,3倍の力がいる。

そこまでの力を得るには、多分、人間では無理、なのだろう。





そう、今目の前で浮いている、精霊位でないと……




そう、純粋に一体で普通の魔法使いの1000人位の力がある精霊位の魔力でないと……




そう、人では無く、魔法において最も秀でているであろう存在の一角である精霊位でないと……









――あれ? その精霊達から、俺、魔力を貰ってなかったっけ?


その中に『癒し』の属性の魔力ってあった様な無かったような…………







『鑑定』を用いて、自分のステータスを確認してみる。



MP:362/303(+59) 【精霊の魔力玉(風)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(火)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(水)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(土)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(闇)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(光)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(氷)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(雷)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(癒)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(古)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(毒)×5:150000/150000】

           【精霊の魔力玉(木)×2:60000/60000】

           【精霊の魔力玉(音)×2:60000/60000】






…………あった。




 【精霊の魔力玉(癒)×5:150000/150000】




……あったよ。





 精霊の魔力玉(癒):精霊の癒しの魔力を玉の形で封じ込めたもの。この魔力の玉から通常魔力を引き出して魔法として用いる。それは、精霊の魔法の一撃を彷彿とさせ、普段起こせない奇跡のような威力を誇るものとなる。

『精霊魔法』を習得していることが使用の条件となる。




…………『奇跡のような威力』だって。





この場面にうってつけの様なものがあったにも関わらず、何か釈然としない思いである。


これ使ってドラゴンの傷を癒すのは良いんだけどさ、何か、こう、場違いなヤローが出てきたとか思われないかな。


だって今迄滅茶苦茶シリアスな空気じゃん。

もう諦めムードがそこかしこに漂ってるじゃん。

人間の魔法じゃ無理だ!! くそっ、エリクサーがあれば――とか言ってたのに……


そんな中さ、全身鎧の野郎が出てきて治しちゃったらさ…………「え~~~」ってならない?



「えっと、先輩? どうかしましたか?」


「お兄ちゃん、どうしたの、そんな『これから人間辞めるのか、俺…………』みたいな空気出して」


え、そんなピンポイントな雰囲気醸し出してた!?

妹よ、兄はそこまで人生追い詰められてはいないぞ!!



空気を読めるということは長所ではあるが、あまりに読め過ぎるのも考え物である。



谷本、人間やめるってよ…………そんなフレーズが頭にフワッと浮かび上がってくる。

――いやいや、やめないよ!?

ただ精霊のお力をお借りするってだけで、俺が人外になるということではないのだ。


大丈夫、大丈夫なはず……


確かに人間扱いされなかったことは今迄も幾らかはあったが…………いや、今回もちょっと、盛った。

大分、かな。




『カイトー、どしたどしたの?』


『辛い辛いですねのー?』


『カイトー、人間やめる、ですか?』


『おお!! じゃあ私達と一緒になるですか!!』



精霊達楽しそうですね。

そんな、俺が人間やめる話でキャッキャとはしゃがれても、こっちはなんか切なくなる以外にどうすればいいのさ。

別に人間やめないし、それにやめたんだとしてもそれ=精霊になるじゃないし。




「やめないし、そんな空気を出した覚えはないんだが。――これからも俺はつまらないどこにでもいる路傍の石ころの様な人間の一員さ」



フッ、決まった。

そうしてドラゴンの治療へと足を進めようかというところ、二人から――いや、二人だけでなく、精霊達からさえも「コイツ何言ってんだ」というあきれた様な表情を向けられてしまう。





ですよねー。



俺が何かそれっぽいカッコ良さ気なセリフ言ったところで、頭おかしい奴としか受け取られないよね。

うん、分かってた。


半眼で冷ややかさ溢れる視線を送りつけてくるヤクモは、あからさまに聞こえるようにして溜息を吐く。


「はぁぁぁぁ~~~~ほんと、先輩は」


「だよね、もう、お兄ちゃんは……」


レンもレンで、ヤクモの仕草に理解を示して、何か分かりあってるし。

ちょ、何なの……


「お兄ちゃん、自己評価が低すぎるよ!! いつもカッコいいのに……」


「全くです。先輩は、ここぞと言うときのご自身のイケメン具合と言うものをもっと自覚すべきです!!」


『カイトー、ネガティブ良くないよ!!』


『そうだぞー!! カイトー、石ころじゃないもん!!』


『そうだぞそうだぞー!! カイト、普通じゃないぞー!!』



えっと…………何君達、褒めてんの、それとも貶してんの?



自己評価に関しては適正に審査した結果こうなってるわけなんだが。


消しゴム拾おうとしてあげたら、今迄見たこと無い位その女子が俊敏に拾った後に「セーフッ!!」って言ってた経験もちゃんと考慮に入れてるし、修学旅行の班決めの際「はーい、じゃあ好きな人と班作ってー」って言われて最後まで余った経験もキチンと考慮要素に含まれている。


それらのことを踏まえると、俺がカッコいいなんて、折り紙の船見て「コイツ、装甲厚いな」とかパグを見て「なんて愛くるしい生き物なんだ!!」って言うレベル(※異論は認める)。


普通じゃない、というご意見については…………参考にさせていただきます。


「…………そのご様子ですと、まだまだご理解いただける日は先そうですね」


「むむぅ……」


「……それで、先輩、今回も何か方法を思いつかれたんですよね」


「……お兄ちゃん、治してあげられるの?」


「…………おう、任せとけ」


「…………ほら、やっぱり先輩は自覚してないです」


「……お兄ちゃん、他の女の子の前で、あんまりそういうことしたら、ダメだからね?」



何故だ……






『何でだよ!! フレアの姐さんを助けに行かねぇと!! 姐さんなら、ニーナの姐さんのために何とか――』


『ランド君、キール君、行っちゃ、ダメ』


「…………それは、姉貴の、意志か?」


『…………多分、フレアちゃんなら、一番に、あなたたちのことを、考えるから。――生きて』


「ニーナ…………クソッ!」


『クソが!! どうにかなんねぇのかよ!?』


住民達の輪をかき分けながら進むと、話が少々進んではいたが、まだ核心に入る前辺りの様だった。


俺は満を持して、彼等に介入する。





「――どうにかしてやろうか?」





どこかで聞いたことの有るような遣り取りの再現を用いてみると――


「誰だ!?」


『な、何だ!?』


『あなたは……』



各々差はあれど、驚きを見せている。

…………ドラゴンのセリフに被せた、と言う点はスルーなのか。


「ただの騎士だ。――それで、どうにかしてやろうか? 俺ならそのドラゴンの傷、治せるが」


「「「なっ!?」」」


『ほ、本当か!? な、治せるのか!?』



俺を通しはしたが、何をするつもりなのかと訝しんでいた住民達も、そして地竜も驚愕の一色で染まる。


「……あんたか。どういう風の吹き回しだ。――…………本当に、治せるのか?」


…………勢いのまま来たが、俺もまだ一度も試したことは無いので「治せるか」と聞かれると少々回答に窮する。



「なあに、これに成功したら、少々俺達騎士に手伝ってほしいってだけだ。それはあんた等が解決したい問題とも共通する。悪い話じゃないはずだ」



治せるか、という問いには素直に答えることは避ける。


そしてどういう意図で、という質問だが、これはこういう風に答えて置いたらいいだろう。

ただの善意で、なんて言われるより、こうして合理的な理由があるんだ、打算的に動いているんだとした方が相手も納得しやすい。


それが人間と言うものだ。


「俺が、助けたいんだ」とかみたいなカッコいいセリフは主人公的存在だけでいい。

勘違い野郎も偶にぬかしやがるが。



まあ治療後、あのドラゴンから事の仔細を説明してもらいたいということも嘘では無いからな。


真実の中に嘘を忍び込ませる――これ、真の嘘吐きの鉄則ね。




『……お願い、します』


「…………ニーナ」


真っ先に俺の問いに答えたのは、予想外にも、治療を施される本人――ファイアドラゴンだった。


『ニ、ニーナの姐さん!? いいんですか!? もしかしたら副作用とか、そうでなくともこの話自体が嘘だってことも――』


『いいの、キール君』


辛そうなドラゴンはしかし、焦ることも無く諭すようにして地竜を説く。


『副作用が仮にあろうとも、元々でどうせ私はもう、長くはない身。今以上に、生きられる可能性が、あるのなら、それに賭けたい』


「…………嘘、かもしれないぞ?」


『嘘なら、嘘で、だから、私が本来眠るときに眠ることになる――それだけ。私は、それよりも、自分の体で、フレアちゃんを、助けに、行きたい。その可能性が、あるのなら、それに、すがりたい』


「…………話は、着いたか?」



俺は会話を理解しているが、ドラゴンの言葉を解せるということが分かるとまた一問答ありそうなので、適当にタイミングをずらして話しかける。


『…………はい。お願い、します』


『…………姐さんを治してくれたら、協力はちゃんとする。でも、治せなかったら、その時は承知しないからな』


一瞬ああ、と答えそうになったが、ここで答えると「お前、ドラゴンと(ry」の流れになるのでグッと堪えて、ランドの返答を待つ。


「……頼む、ニーナを、治してくれ。治してくれたら、必ず力を貸す。約束する」


真摯に頭を下げた彼からは、先程直接対面していた時の刺々しさは一切存在しない。


そして――




「「「お願いします!!」」」





周りにいた住民達、『地竜の咆哮』のメンバー。

その誰一人として異なる行動を取っている者はいなかった。



即ち、俺に向かって全員が頭を下げてきた。

この町の住人がドラゴンを大切に想っている――その気持ちに嘘偽りはなかった訳だ。



……これは、失敗、できないな。




「…………最善は尽くす」



俺自身も彼等の気持ちに対して真摯に向きあうべく、『精霊魔法』を発動させる。






『精霊魔法』の機能の一つは、人間の体では身に余る精霊の魔力を扱えるようにし、普段使う魔法の威力や精度を格段に、そして飛躍的に上げるものである。


そこを押さえておけば、間違えることはないはずだが…………



俺は念には念を入れるため、魔法の扱いと言う部分で応用が利く『魔力操作』も併発する。


そして目を閉じ、意識を自己の内部へと向ける。




――認識としては、タンスの引き出しだ。


今迄使っていた小さなタンスのそれぞれの引き出しに『火魔法』だとか『光魔法』、『氷魔法』などが入っていた。

それを状況に合わせて引き出しをあけて必要な分だけ取り出していた、と言う感じ。


今回は新たなタンス、しかも巨人用の衣服を収納するようなタンスが手に入ったような感覚だ。


入れる服の内容――シャツだとか、ジーパンだとか下着だとか自体は変わらない。

その大きさが人間サイズか巨人サイズか――その違いだ。


魔法においてもそれは当てはまり、今回得た精霊の魔力用のタンスに『闇魔法』だとか『毒魔法』なんかの魔力を入れること自体は変わっていない。


ただ魔力の質・量が共に異なっている。


それを、俺はこれから『魔力操作』で補いながら『治癒魔法』の引き出しをあけて、そうしてドラゴンを治療する。


こう例えてみると、結構納得できるところがある。

使える魔法によって、仲良くなれる精霊も変わってくる。

これって、要するにそもそも小さな、従来のタンスに入れていた衣類によって、大きなタンスに入れることができる衣類は限定される、ということ。


靴下とかパンツとかはまだしも、上着――パーカーだとかセーターだとかは使う人と使わない人に分かれる。

それらを使わない人にとっては、大きなタンスに目を転じた時、服が大きくなってもそもそも使い方が分からない。


服自体の使い方が分からなければ、大きい小さいは関係なく、どちらにしても使えないということになるからだ。


まあ木属性と音属性の精霊という例外はあるが。


そう言う風に考えたら『精霊魔法』というものの貴重さがありありと窺える。


今迄自分達は人間用の衣服しか持ち上げたことは無かったのだ。

極端な話、よく「私、お箸より重い物持ち上げたこと無いんですぅ~」とか言う頭お花畑がいるが、正にそんな感じ。


俺達は人間が使える魔力しか使ってこなかった。

そこに、いきなり膨大な量、圧倒的な質を誇る精霊の魔力が出て来ると……どうなる?


ミレアの風の精霊に言われたとおり「パァン!!」と弾ける――想像だと、こうなる。



そう考えると恐ろしくはあるが、今はこれを使えるようになったことで、ドラゴンを治療することができる――こう思う事で、その恐怖を打ち消しておこう。






…………よし。


引き出しには辿り着いた。


開けることもさして要求される動作が変わる訳でもなく難しくない。



問題はここからだ。


引っ張り出してくる魔力の量が正に今までとは桁違い。

『魔力操作』という補助はあるものの、気合を入れないと直ぐに引っ込んでしまう。



すぅぅ、はぁぁ…………うっし。




――っ!!





しゃがんだ状態から、重たい荷物、或いはバーベルを一気に持ち上げる時のように力を込める。

こういう大胆さだけでなく、魔力を乱れさせない繊細さも要求される。


本当に一苦労だ。




慎重になり過ぎるとかえって時間がかかってしまい、余計体力を消耗する。

なので、一息に魔力を纏め、そうしていつもの要領で魔法を発動させる。


この際、勿論『無詠唱』を使う事も忘れない。

と言うより、『無詠唱』を使わなければ、この辛い状況の中詠唱しなければならないということになる。


それだと多分、無理だ。

つまり発動前にグチャグチャになって不発となる。



……これを何ともなさ気に使う精霊とは本当は相当凄い存在なのだろう。




「――行くぞ、ヒーリングバブル!!」





――ドラゴンを中心に、円形をした光の紋様が地面に浮かび上がる。


しかしそれは、今までの俺の魔法の比ではない巨大なものとなり、ドラゴン以外の者をもその円の内に入れる程となっていた。

瞬間、何が起こったのか分からないと言ったざわめきが起こるも、光の円から白い泡状の魔力が浮かび上がり、次々とドラゴンにぶつかってはじけて行く。


その泡がぶつかった箇所からは瞬く間に傷が癒え、傷があった状態がまるで嘘か夢であったかのようにその跡が見当たらなくなる。


そして更に、最も俺の魔法の恩恵を受けるドラゴンに留まらず、円の中にいた人々にさえ、光の泡はぶつかってははじけて行った。


「おお!!」


「凄い……」


「俺の古傷まで治ってる!!」


ある者は不思議そうにしながらもその泡に触れ、別の者はシャボン玉を見た子供みたいに笑顔になる。

そしてもっとも多いのは、そんな不思議な光景に目を奪われながらも、ドラゴンのあの大きな傷が癒えて行く過程に、歓喜の声を漏らす者達だ。



「やった!! やったぞ!!」


「治ってる!! ニーナの傷、治ってるぞ!!」


「ニーナ、いたいいたい治った!!」


『嘘、みたい……まるで夢でも見てるかのよう……』



ドラゴンも夢を見るんだ――そんなどうでも良い感想を思い浮かべながらも、治った本人が忙しなく自分の翼や尻尾など、怪我が治っていることをしきりに確認している光景を眺める。



良かった、どうやらちゃんと治ったみたいだな。

光の円の中に入ってしまっていた人にもその恩恵はあり、今迄悪かった体のどこそこが治った!! と言ってはしゃいでいる。



『お、おおう!! ニーナの姐さん!! バッチリじゃねえか!!』


「良かった、良かっ……」


『ごめんね、二人とも、心配、一杯かけたね……』




こういう光景を見ていると、素直に頑張った甲斐があったと思う。



【精霊の魔力玉(癒)×5:149990/150000】


あれだけの効果なのに、10しか魔力は減ってないとは。

凄いのか恐ろしいのかよく分からないが、兎も角。


ホッと息をついて一安心――







――しようとした時、突如、俺の体に異変が走る。



何の前触れも無くいきなり頭から自分よりも遥かに重たい荷物がのしかかった――そんな重圧に襲われる。

そしてそれに耐えようと気合を入れると、何故か全身から力が一斉に抜けて、プレス機にかけられたかのように全身がきしむ。



マズッ――



俺は膝に手をつきかけるが、咄嗟に右腕を使って左手を抑え込むような仕草にまで持って行く。


クッソ、副作用は多分、魔法を受けた方には無いんだ。


あるのは使った方(・・・・)、だったか――


当たり前だ、普段は絶対に使わない――いや、使えないような規模の魔法を行使したのだ、体に膨大な負担があってしかるべきなのだ。


そこまで頭が回らなかった――



「なっ!? ――先輩!?」


「お、お兄ちゃん!? ――っ!!」



魔法を使った辺りからかなり近くで見守ってくれていたヤクモとレンが、俺の異変に気付いて駆けつけてくれてしまった。


うっ、クッ、ソが!!



『な、何だ!?』


『ど、どうしたん、ですか!?』


「お、おい、大丈夫か?」


「先輩、大丈夫ですか!?」


「お兄ちゃん!! 大丈夫!? 体!? 体がしんどいの!?」


クッソ、が――


「――クッ、また、左腕に封じた俺の中の悪魔が、疼きやがる!!」



折角一つの命が救えて、ハッピーなムードなんだ……



――つまらない、暗くなるオチなど不要なのだ。



ドラゴンが救われた、そして治療を行った男はその対価に見合う情報を提供してもらう――それ以上はいらない。

間違っても、自分のせいで、なんて思わせてはならないんだ。



「……は?」


即座に信憑性を持たせるべく『闇魔法』のダークミストの簡易版を用いて、左腕に黒い霧を発生させる。


「ちっ、悪魔め、そんなに外に出たいか。全く、困ったじゃじゃ馬さんだぜ」


「…………」


『『…………』』


あまり余裕がないので自分でも何言ってるか分かってないが、即座のフォローとしては及第点だと思う。

周りは何が起こったのか分かっておらずポカーンとしているが、何となく俺の即興芝居の内容を汲み取り、何となくの理解を示す。



「ああ……アンタ、結構大変なんだな」


『色々あんだな……』



……いいんだ、これで。

俺はちょっと痛い子。


別にそれ自体は今迄も良く言われたことだし。


『…………あなたは――いえ、何でもありません』



何かファイアドラゴンが言おうとしたが――



「先輩……」


「お兄ちゃん…………」



心配そうに見つめる視線に勘付き、俺はそちらへと気を向けた。

……騙せてない人物が二人、いたようだ。


体は元気とは言い難かったが、そちらへ足を向け、心配することは無いと二人の頭に手を置く。


「あー、まあ、あれだ、あれ。普段働かないニートが偶に本気出したら直ぐに疲れちゃうっていう――」


「――あんまり無茶しちゃ、ダメ、ですからね?」


「――お兄ちゃん、いつもいつも他の人のために頑張り過ぎちゃうから、ボク等、心配だよ」


…………そんな顔して、そんなことを言わせたいがために頑張ったわけでは無いのにな。

やっぱりダメダメだな、俺は…………


――もっと、もっとちゃんとしないと。


「……悪い。って言っても、今回は本当にちょっと疲れただけだ。やっぱり普段やらないことを突然やるとダメだな。うん、今後の教訓にしよう」


「…………はぁぁ、先輩は、全く」


「それだけなら、いいんだけど……」



ふぅ。

一応この件に関しては一段落だな。



とは言え、俺自身、勿論今後『精霊魔法』を使う際には注意がいるだろう。

まさかここまで負担がかかるものだったとは思いもよらなかった。


初めて使ったので体がビックリしてるだけかもしれないから、何度も使っていたら慣れるかもしれないけれど……


過労死は、流石にシャレにならん。


今後は慎重に使って行くことにしよう。

それと、時間ができれば練習もした方が良いな。







その後、住民達や『地竜の咆哮』からは揃って感謝され、レンのことを好いているませたガキんちょ共からも正式に謝罪があった。

本当にこの町はドラゴンを大切にしてるんだな。


そしてそれ以外にも――


「あ、あの、兄貴って呼んでも良いですか!?」


「い、いや、お兄さんと呼ばせてもらっても――」


「それは遠慮させてもらうわ」




このガキどもめ、レンの関係者である俺に挨拶してくるとは。

貴様らにお兄さんと呼ばれる筋合いはない!!

抜け目ないところが何か嫌だったので丁重にお断りさせていただいた。


男なら好きな人は奪うつもりで行かなければ。

……勿論俺はそんなことしないよ?


だって俺がそんなことしたら前科持ちになるし。





「――その、ニーナを治してくれて、本当に助かった。ありがとう」




ランドもまた何とも改まった態度で接してきた。

あのドラゴンとの関係は知っている。

コイツにとっては姉であり最愛の人でもあるフレアの相棒だ。


そいつを助けてもらったとなると、やはりこうなるのだろう。



「気にするな」


「その、何だ、約束は守る」


約束? 


ああ、そうか。


まだドラゴンの相棒たるフレアに何が起こったかも分かっていないし、俺達のことについても協力してもらわなければならない。


一難去ってまた一難ってわけね。


「ああ、頼む」


簡潔に述べて、早速本題に入ろうとする。

が、何故かモジモジし出したランドが――



「その、あの、えっと、アンタが言ってた会って欲しい人ってのにも会う。でも、できればその、過大な要求は勘弁して欲しい」


別にそんなつもりはないし、フィオムに会ってくれるんならそれでいい。

しかも彼がフィオムに会ってくれたとしても肝心のフィオムの親友(仮)たるフレアがいないんだ。


先ずは今回の件と併せて、フレアの件についても解決するのが先決だろう。


「そんなつもりはない。強力さえしてくれればそれでこっちは十分だ」


「分かった――俺の体で良ければ、その、使ってくれ」




何だか、周りの空気にひびが入ったような感覚がした。

…………おかしいな、空気は壊すものじゃなくて吸うものなのに。



「ちょ、ランド!? ア、アンタ何言ってんの!?」


「……先輩のホモ疑惑が再燃しましたか」


「……お兄ちゃん、やっぱりそうなの?」


あっち側の女性陣だけでなく、こちらにもちょっとずれている者がいたようだ。


「……あのな、普通に協力してくれる、一緒に来てくれるって意味だろ」


ランドもランドだ。

どうしてそう言う風に誤解を招く様な言い方をするかね。


俺はヤクモとレンを、ランドはちょっと暴走し出した自分のクランメンバーを何だかんだ宥めることに奔る。


「いえ、先輩のことです、もしかしたら女性だけでなく、同性まで引っかけてくることも」


「……お兄ちゃんだから、その線、有り得なくないね。――むしろ、その一例知ってるし」


レンよ、何故そこで納得を示す。

空気は吸うものなんだから、必要以上に読まなくていいんだぞ?


…………読んでるんだよね? 読んでるからそう言う事言ってるんだよね!?


常態的にそんなことを思われてるとなると、兄はかなりショックです。


「有り得ません。――お前達は俺を何だと思ってるんだ」


「え!? お兄ちゃんったら、大胆なんだから……」


「こんな公の場で先輩のことをどう思ってるか言わせようとするなんて、先輩はそう言うプレイがお望みですか」


…………君達はそんなに俺を変態にしたいの。


何なの、世の女性は皆揃って俺が変態か何かに見えんのかね。


か、勘違いしないでよね!!


べ、別に小学校の頃、女子の水着が盗まれたら真っ先に「谷本君、怪しいと思うんだけど」とか言われたことなんて、ないんだからね!!


夜道、軽食にとコンビニへ向かったら前歩いてたお姉さんにチラチラ振り返られて、挙句「すいません、怪しい男がさっきから私の後ろをつけてて……」とか言って110番通報されたことなんてないんだからね!!



…………本当に勘違いしないでね。

全部冤罪だから。





その後、とにかくランドとその相棒である地竜キール、そしてニーナが主に協力してくれることになった。

詳しい事情はニーナが俺達を乗せて飛んでくれる間に俺が通訳してヤクモとレンに伝えることになる。

ランドはその間キールに乗って地上から追いかけることになるが、それは別に俺と一緒にいるのが気まずいとかではなくて、単に相棒に乗って行きたいんだろう。


……そうなんだろう。



『地竜の咆哮』の他のメンバーについては、俺達騎士をも含めて入れ違いがあってはマズいということで町に留まってくれることに。


俺がドラゴンの言葉を解せるということについては想像していたよりは普通に受け入れられた。

それを話した際ランドが


「――こっちとしては、そんなレベルの秘密を明かされたところで、だな。霞むさ」


とか目を合わされずに言われた。


どういう事だろう……気になる。



◇■◇■◇■



『本当に、ありがとうございます。私のことだけではなくて、フレアちゃんのことにまで力を貸してもらえるなんて――』


飛行する直前、ファイアドラゴンのニーナはそんなことを言いながらも俺達が乗りやすいよう体を伏せるようにして屈めてくれる。


以前リゼルに聴いたことがあるが、ドラゴンは本来相当プライドが高い生き物だ。

まあそれに見合うだけの能力があるわけだが。


だからこうやってドラゴンが体を屈めたり、頭を下げたりするという事は相当にその相手に対して気を許していないといけない。


という事は、一応俺達が彼女の背中に乗っても良いと思ってもらえる程には気を許してもらえているのだろう。



「気にするな。偶々俺達の目的と合致してただけだ。――それで、お前に何があったのか、詳しく訊かせてくれ」


これ以上同じ話を続けていても気を遣わせるだけだ。

早々に話を打ちきり、本題に入る。



『――はい』




そして、ヤクモとレンが背中に乗り込んだ辺りから彼女の説明は始まった。





……………………






「……マジか」


『はい。フレアちゃんは、一人で……』


確かにニーナが今説明している中で、フレアが一人で行動している、と言うのはマズいっちゃあマズい。


だが、今回の件の全体像を朧気ながらでも把握している俺としては、問題はそこじゃない。




ニーナ曰く、フレアは今回の件、クロー侯爵のせいで他の村々で女子供が大変な目に遭っているという事を認識していたので、ニーナと共にクロー侯爵の屋敷に向かった。


そう、そこは先程俺達がランドと対面する前に、オルトさんやライザさん、それにミレアが向かったところだ。

そしてそれだけではなく、その前にはリュートさんとウォーレイさんが向かっていたはずだ。


……それだけに留まらず、確かフィオムも別口で向かうと聴いている。



正に問題の中心点なのだ。





ニーナの話を聴き、今迄のことを総合すると、時系列的にはフィオム→フレア・ニーナ→リュート・ウォーレイ→オルト・ライザ・ミレアという順序で向かったことになる。



ニーナが何故あんなにボロボロになったか、というと、クロー侯爵の別荘に辿り着いたはいいが、勿論別荘内にニーナが侵入することはできない。


そこで、ニーナは外で待機、フレアが一人で侵入することになった。

だが、間もなく自分よりは小さいものの、大型と言えるモンスターの大群、それに人間の集団がわらわらと現れた。


その中には、俺達と同じく、騎士がいたと言う。

それらは総じて正常な判断力が無い様に見え、人形のようだったとニーナは例える。


凡その人数を訊くと


『100、位だったと』


とニーナは答えた。


……そいつらは第1師団、の可能性があるな。




ニーナはそれらを見て、一度体勢を立て直そうと提案。

しかし、フレアはニーナの静止を聞き入れず、それらを掻い潜り中に入って行った。

何でも中に「フィオム」と名乗る人がいる、と偶々外に待機していたメイドに聴いたそうだ。


それが、恐らくフレアの冷静さを欠かせる事情であったと、ニーナは推測した。



その際ニーナに、戻ってランドと共に待っているようフレアは言ったそうだが、ニーナはニーナで、この異常なモンスターや騎士が混じった混合集団を放置すると、それが後々フレアに牙を向くのではないか、と危惧。



つまり、ニーナは一人でその混合集団と戦闘を繰り広げたと言うのだ。

幾らニーナがハイスペックのドラゴンと言えども、自分と同じくらいの大きさのモンスターや100以上の騎士を含んだ相手では分が悪く、そうして俺達が先程まで見ていた結果となった。



ニーナ程のモンスターというのは、恐らく【災厄】とか何とか呼ばれて、村々を荒らしまわっていた奴等のことではなかろうか。


それが人間と共に行動しているという事これ即ち誰かの意思が存在することに他ならない。

要するにマッチポンプね。


ふむ……



それらをヤクモやレンに翻訳して伝え終えたところで、件のクロー侯爵の別荘が見えた。


そこには――




◇■◇■◇■



「フンッ、はぁぁっ!! せりゃあ!!」


「す、凄いですわ……」


「え、ええ……まさか、オルト様がここまでお強いとは……」



眼下に広がる光景――それは、俺達よりも先に出発したオルトさん、ミレア、それにライザさんが先の話で挙がった混合集団と戦闘しているものであった。


しかし、戦っているのは主にオルトさん一人。


前衛をオルトさん一人が務め、ミレアは魔法で後方からの支援。ライザさんは状況に合わせて前衛後衛どちらにも動ける、という位置取りである。


但し、本当に戦っているのは主にオルトさん一人。


何故か彼女はその場からは殆ど動くことは無いが、襲い掛かってくる自分よりも遥かに大きな獣型のモンスターを剣の側面で叩いてぶっ飛ばしている。




け、剣の本来の使い方って、あ、あんなんだっけ(震え声)…………



偶に切る、と言う行為も行う。

それでもどう言う訳か、切られた相手は吹っ飛ぶのだ。


あっれ~、剣にあんな便利な性能あったっけ……



「――ふん、どれだけ一度にかかって来ようと、私には傷一つつけることなどできはしない」



……あの人、あんなに恐ろしかったんだ。

誰だよ、あの人からかったら面白くね、とかぬかした奴。


正に鬼そのものだ。



「相変わらず、オルトさんはバカみたいな力ですね~もっとアルに力の上手い使い方を教わればいいのに」



確かに、アルセスもその力の強さからその見た目に関わらず周りから敬遠されていた。

しかしどちらかと言えば彼女はその力を上手く使って相手をいなす、と言う技術もあるようには見受けられた。


他方で、今目の前で繰り広げられている一方的虐さ―――ゲフンゲフン。

奮闘はその膨大な力に対して、制御という言葉など知らず、正に「我の第2段階の姿を見せてやろう」的な力の解放を行っているかのように映る。


それでいて容姿は特に俺の見知っているオルトさんとは異ならない。

ちゃんと、彼女の額には立派な三角コーンが立っている。


多分――



「『一極集中』っていうスキルの力、なのかな」


鑑定して気づいたことを呟く。


「はい。オルトさんはですから、あのバカみたいな【鬼の力】を暴走させずに使えるんです」



一極集中:一つの物事に対して力を用い続ければ続ける程に、その威力、効果、精度が上がる。



「オルトお姉ちゃんが集中させているのは……何だろう」


「うーん、今までのオルトの情報からすると、『カウンター』ってところか」



オルトさんは自分から積極的に相手を攻撃しようとはせず、相手が自分を襲う際に合わせて攻撃をしている。


彼女が守備や護衛において最も力を発揮する、という点でもそのように考えることができるだろう。


「そうですね、要するに、オルトさんは自分自身に掟のような決まり事を作ってるんです。『自分の力は、誰かを守るために使うものである』みたいな」


それは……彼女が“鬼”と呼ばれることをあまり快く思っていないことと関係するのだろうか。

そのあり余る力を過去、暴れさせそうして――いや、よそう。


これ以上今考える必要は無い。



いくらオルトさんがあの集団相手に圧倒しているとはいえ、中に入れないのでは結局は解決が遅れる。

丁度ランドの方も、キールに乗って次期こちらに着くのが見えた。



俺は二人とニーナに、オルトさん達の加勢をすることを伝え、それぞれの役回りを告げる。




そして――



「―オルトさん! ボク等も、参戦します、よっと!!」


ヤクモが真っ先にニーナから飛び降りて、付近にいた大きな鹿? のようなモンスターを切りつける。


「な!? お、お前達、どうして――」


「話は、後だ!!」


「そうだよ、今はこの状況を何とかしよう!!」


続いて俺とレンもこのゴチャゴチャとした地に着地。



事前に話してあったように、それぞれ分かれて目的の相手を討伐することに。

こんなに密集していると、使いたくても威力の高い魔法が使えない。

先の『精霊魔法』を見ている分余計に魔法の余波みたいなものには敏感になっている。


それならば個々に分かれて強そうなモンスターや騎士を各個撃破して行く方がまだいいだろう。

中心はオルトさん。

そこを器用で頭も回り、そしてオルトさんと旧知の中であるヤクモがフォローする。


レンはニーナ、そして後から合流するランド・キールと共に強大な火力を用いて大きい敵を優先的に排除。


俺が担当することになったのは、大きさも強さも何か微妙そうでいて、しかし『鑑定』を使ってみると厄介そうな敵の相手。


…………別に俺だけ適当に役割を振られた訳じゃないよ?

ちゃんと『鑑定』っていう俺だけの能力を活かして相手をするわけだし。



そうして『鑑定』を使い、次々にモンスター、騎士、それ以外の人間を見て行く。

『火魔法』とか『爪術』みたいに汎用性ある能力ばかりのものは無視。


特別な、あまり見ないスキルを持ち合わせている者を見抜き、排除して行く。

そして、その中で――



「ガルルルルルッ」



――何か全身緑色をしたライオンっぽいモンスターに出くわした。

首の周りの毛むくじゃらの部分が蔦のように見えて、何か、こう、気色悪い。

ライオンっぽさはあるものの、ウチのカエンの方がよっぽどカッコいい。



名前:フォレスオン

種族:フォレスオン


Lv48 状態異常:誘惑

HP:410/410

MP:90/90

STR(筋力):140

DEF(防御力):85

INT(賢さ):43

AGI(素早さ):80

LUK(運):25


『森の賢者』、『王者の証』『仲間を呼ぶ(サモン・パートナー)』、『爪術』、『牙術』




…………賢者にしては、何か賢さパッとしないな。

「獣の中の」という限定がつくと、こんなくらいなのだろうか。



王者の証:1対1で倒したモンスターが、レベルの差の%の確率で配下になってくれる。1対1で敗れた場合、このスキルは相手の人かモンスター等の区別や、種族如何に関わらず相手に移る。配下がいる場合、配下の心が離れることにはなるがスキルの移転を回避することができる。


仲間を呼ぶ(サモン・パートナー):『王者の証』で配下にしたモンスターを召喚することができる。このスキルは『王者の証』の所有者が移ると、付随して移転する。



コイツはマズい。

直ぐに排除しないと仲間を呼ばれることになる。

そうなれば、どれだけ倒しても後から後から……無限に、という事はないだろうが、ディールさんのアンデッド無限地獄を経験しているだけあって、そこに関してはちょっと敏感だ。



早急に退治しないと…………ん?




『状態異常:誘惑』





あれっ!?

さっきまで倒してた奴にはこんなの無かったよな!?


コイツだけ?


でも、他のモンスター達とさして変わらないように見えるが……

『バジリスクの毒鱗』が関わっていると思っていたので、てっきり『状態異常:猛毒』辺りが出て来るとばかり思っていたんだが。



――と言うよりも、そこは今は良いんだ。

原因は兎も角、コイツが操られているのが『状態異常』であるならば、俺にはコイツを癒してやることができる。



俺の回復魔法には、ユーリとの契約のおかげで状態異常を治癒する力がある。


それは別に人に限らずモンスターにも及ぶ。



そうと分かると、無理してコイツと争う必要は無い。

俺は、即座に治癒魔法を発動し、フォレスオンを苦しめる戒めを解き放ってやる。




名前:フォレスオン

種族:フォレスオン


Lv48 

HP:410/410

MP:90/90

STR(筋力):140

DEF(防御力):85

INT(賢さ):43

AGI(素早さ):80

LUK(運):25


『森の賢者』、『王者の証』『仲間を呼ぶ(サモン・パートナー)』、『爪術』、『牙術』




よし、状態異常はちゃんと消えているな。



これでもう、コイツと戦わずに――




――しかし、フォレスオンが、目の前から退くことは無かった。


「なっ!?」


「ガルルルルッ」



ちゃんとモンスターの言葉も解せるままにしているのだが、具体的な言葉を相手が発することは無い。

ど、どうして!?


操られていないんなら、俺達と争う必要は――



「ガルルルルッ」


「お前――」



操られているかどうかが問題じゃない、森の王者たる自分が、『王者の証』を有している自分が、戦いから逃げることはできない――そう、言いたいのか?


「ガルルルッ」


――そうだ、この先へと進みたくば、俺の屍を超えて行け。


言葉を話しているわけでは無いが、何となくそんな気がした。



くっ、バカ野郎…………。




「なら、覚悟――」



「ガルルルッーーーー!!」



――瞬間、奴の周りに魔法陣の様な紋様が浮かび上がる。


あっ、ズルっ!!


コイツ、仲間呼びやがった!!


今って1対1で決着つけるような場面じゃなかったのかよ!!


くっそ、こうなったら、召喚された他のモンスターも纏めて…………



「「…………」」




――しかし、誰も来なかった。




「ガッ、ガルルルル!! ガルーーーーー!!」




そ、そうか、失敗したのか!!

ちっくしょう、2度目を発動する前に止めることができなかった!!


こうなったら、出てきたモンスターもろとも…………



「「……………………」」




――やっぱり、誰も来なかった。



「ガッ、ガッ、ガルッ――」



もうやめろ!!

そんな哀しい技これ以上使うな!!



お前、王者の癖して配下の一人もいないのかよ!!

しかも操られてたからかは知らんが、それを忘れてたとか、どんだけ~~!!



『むぅぅ!! カイトー、一人で遊んでるー!!』


『ズルいぞー!!』


『私達も遊ぶんだぞー!!』


遊んでいるわけでは無いのだが、かくれんぼで見つかり、暇を持て余していた精霊達には、俺があの毛むくじゃらとじゃれているように映ったらしい。


そして――



『とりゃー!!』


「あっ、ちょ――」


精霊の内の一体――火の精霊が、多分遊び程度なんだとは思うが、魔法を発動した。


小規模ではあるが、爆発が起こる。

そして吹き飛んで行ったフォレスオン。



――ピロリロリン


何か軽く音符が付きそうな音が彼女の近くでなった。


かと思うと、


『おおう、私、“王者”だって!! ――“王者”って何?』




――フォレスオン、敗北。


あっさりと王者の座を精霊の一人に明け渡した。


もうちょっと王者として防衛を頑張っても……って無茶か。


フォレスオンにしてみれば、全く不可視の所から魔法を放たれたのだ。

避けることなど敵わない。



『良いな良いな!!』


『私も王者、なりたい!!』


『よし、じゃあ決闘だ!!』


精霊達は勝手になんか遊び始めた。

1対1では、特に何をして競えばいいかの限定は確かに書いては無かった。


なので、精霊達は決闘ごっこをして、王者の座を転々とさせていた。

フォレスオン、お前の守っていた王者の座って、軽いな…………




一方、吹き飛ばされたフォレスオンはむしろ心が離れるどころか、なんか自分から精霊達の配下にしてもらっていた。


スキルで配下にする、と言うのは多分『王者の証』という言葉の意味と密接に関連するんだと俺は推測する。


つまり、力の差を見せつけられ、相手に敬服したものが配下になる、というのが普通の流れだ。

スキルに書いてあったレベルの差の%云々は、それを補助する役割に過ぎない。

即ち、別に配下になりたいんだったら、スキルに書いてあった場合に限らず、自分から力を認める、或いはその人柄に惹かれるとか、色んな理由があるだろうが、何にしろ納得すればいいのだ。


だから、フォレスオンは転々とする王者の座ではあれど、『精霊』という存在自体に頭を垂れた――そんな感じになる。


まあ、あのなんか首の回りの気持ち悪い蔦にも関係なく配下にしてくれるんなら誰でも良かったのかも。


……フォレスオンからは、精霊は見えていないという奇妙な主従関係ではあるが。




◇■◇■◇■



「おいおい、マジかよ」


「ま、まさか……」


「こんな、ことに……」




粗方外を片づけた俺達は、外をランドとキール、そしてニーナに任せて別荘の中へと突入した。

別荘の中は、外で俺達が戦っていたにも関わらず、使用人が走り回っていたりとかそう言う事は無く、静かであった。


そうして気味悪く感じながらも注意して足を進めると、先行して偵察してくれていた精霊さん達からリュートさんやウォーレイさんを見つけた、という情報が入った。


その部屋まで駆けつけると、そこには――



「リュートさん!!」


「リュート様!!」


「おい、ウォーレイ!! しっかりしろ!!」



苦しそうに横たわっているウォーレイさんと、それを庇うようにして立ち塞がっているリュートさんが。

そのリュートさん自身も息を荒めて肩を上下させている。

決して楽な表情とは言えないだろう。




彼女達の代わりに戦っているのは、恐らくリュートさんが契約しているという『寵姫』。


黒い犬の様なマスクを被った5人の女性が、不可思議な動きをする人間2人と戦っていた。

ダンスパーティーに使われそうなこの広い空間一杯に動き回っている。


しかしどこか彼女達の動きは鈍く、相手の2人の動きが不規則なこともあって押し押されを繰り返している。



あの男二人――凄い動きだな、人間のものとは思えない。



リュートさんやウォーレイさんは、すぐさま駆けて行ったオルトさんやヤクモ、ライザさんに任せて俺は相手を観察する。



確かに人間のものとは思えない程凄まじい動きを繰り広げているものの、何だかあの『寵姫』とは違った意味で、その、人間らしさが見受けられない。


なんて言うか……そう、普通であれば人間がストップをかけるような動きでも一切躊躇わずに行っている。

むしろ積極的にそういった行動をしていると言っても良い。


あの二人に、人間の意思があるのか、大いに疑問である。


しかし、鑑定しても先程のモンスター達の様に『状態異常』は見当たらない。

ここで『状態異常:誘惑』でも『状態異常:猛毒』でもいいから出てくれていれば治癒魔法で解決できるのだが。


そこで疑うのが、今迄ユウさんやヤクモ、そしてヤクモが助けた獣人たちの様に『パラサイト』なるものが奴等を操っている、ということだが、それを疑う切欠が今の所人間の意思があるのか疑わしい、というだけ。


『鑑定』をしても、それを疑うに足りる情報が一切現れていない。

そうするとただちに彼等がそれによって操られている、と決めつけるのも早計となる。



…………一先ず、アイツ等を行動不能にまで追い込むか。




能力自体は警戒に値するが、5人も味方がいれば何とかなる――





――そう心積もりした時、俺が見ている光景とは違う方向から声が降ってきた。



『カイトー!!』


『大変だ大変だー!!』


『フィオム―が危ないぞー!!』


『もう一人女の子もいたけど、ピンチだピンチ!!』


ちょ、なっ!?


他の部屋の偵察を行ってくれていた精霊達がヒョコッと現れると、聞き捨てならない情報を持って帰ってきた。


「はぁ!? ちょ、クソッ、マジか――」


多分、その女の子とはフレアのことではなかろうか。


ここに入る時、一悶着ありかけたが、俺が必ず助けるという事でランドやニーナたちに納得して外にいてもらったのだ。


フィオムもそうだが、助けない訳にはいかない。


ちょ、マジでどうなってんの?



「先輩!! 何かあったんですか!?」


「お兄ちゃん、精霊さん!?」


二人はいち早く俺の変化を察知した様で、状況の報告を求める。


「スマン、フィオムと、後一人女性がピンチだって――」


「なら、ここは任せて下さい!!」


「うん、ボク等があの二人を何とかするから」


その申し出は素直に有り難かった。

もしこの状況が、誰かが殿しないと、俺達生き残れないよな、みたいな場面だったらもう少し考えただろうが、今この場で俺が抜けてもヤクモとレン達ならどうとでもなる。


オルトさん達もいるわけだし、5人の『寵姫』で競り合っている状況なら、単純に数で押し勝てるだろう。



「助かる!! 精霊達にもいくらか協力してもらって何とか頼むわ!!」


「はい!! 任せて下さい!!」


「お兄ちゃん、気を付けてね!!」


「おう!!」


精霊達には必要最低限の説明だけして協力を仰ぎ、俺は1人の精霊を連れてその場を後にした。



◇■◇■◇■


「フィ、オム、私の、ことは、いいから……」


「……フム。あなた達の様なイレギュラーは生かしておくと私達の計画に支障を来します。――どうですか、その女を見捨てればあなたは助けますよ?」


「っ!! どきません!! 大切な人を、見捨てるなんて、絶対に、しません!!」


「フィ、オム……いい、から、逃げ、て……」


「フム。やはり心情は読めませんか。仕方ありませんね……――“カトレア”!!」


「……なんですか。早いこと終わらせて下さい。“アワルド”」


「あなたの【色欲】の力で、この少女を」


「…………また、対象が増えるのですか? ――あの“ヨミ”という女はどうするんです? 【強欲】を殺したあの女は棚上げですか?」


「イイエ。あの女もあなたの力でいずれ支配します。ただこの少女は私の【嫉妬】の能力で読めなかった貴重な実験台サンプルです。――それとも、この少女を支配するのに、それ程欲望を集めなければ?」


「……必要なのは、あの女の10分の1にも満たないでしょう。ですが――」


「フム。それならば重畳。構いません」


「…………」


「フム。迷いますか? これは我等が宿願――打倒『魔王』に必要なことなのです。【強欲】があの女に殺された今、我等3人で成し遂げなければいけないんです。分かりますか、“カトレア”」


「…………理解はできます。しかし、そそりません」


「……フム。まあ良いでしょう。――少し時間はかかりますが、私の能力を使いましょうか」


「…………虫を、入れるのですか?」


「エエ。中々重宝する能力ではありますが時間がかかるのが難点ですね。では失礼して――」


「っ!! ――――!!」


◇■◇■◇■



――カイト君、助けて 



そんなフィオムの叫び声が、部屋に飛び込んだ俺の耳に入ってきた。

入って直後、目に飛び込んできたのは騎士の恰好をした者が腰の剣を抜き、そうして誰かに覆いかぶさって、その人を庇っているフィオムを貫こうとしていた光景であった。




――っ!!





俺はどう言った状況の元こんなことになっているのか、なんて考えは完全に放棄し、即座に駆ける。



ガンッ!!



鈍い音が小さな部屋に響く。


そうしてフィオムと男との間に割って入り、間一髪のところでその剣がフィオムの体を貫くことを妨害した。


「……フム。また、イレギュラー、ですか」


「いや~、何、普通はこういう場面に遭遇したら邪魔するでしょ。お宅、騎士の格好してるけど、常識無い人? 自分が殺そうとした相手、誰だか知ってんの?」


挑発するように言葉を並べるが、返答があることは期待していない。

兎に角状況を把握する、そしてそのための時間を稼ぐ。


可能であれば後ろに庇っている二人を逃がす。



「…………!? また、感情が、正確に、読めない……あなたも、そこの少女も、何故――」


コイツ、頭電波な野郎か?


「あ~、やっぱり会話が通じないのね。俺、会話のキャッチボール出来ない人とは知り合いになるなって親に教えてもらってんの。だから、このまま帰らせてもらってもいいか? 勿論後ろの二人も連れて帰るけど」


「……フム。面白い」


……何が面白いのかさっぱり分からん。

お前どこのガリ〇オだよ。


男は剣を引き、俺から距離を取るべく数歩後ろに下がった。


「フィオム、無事か!?」


「カイト君!? ――は、はい、ですが、どうして――」


フィオムはなぜか男の変装はしておらず、あの可憐なお姫様の容姿をしていた。

話し方もそれに伴い女の子のものとなっている。


「それは後だ。それより、アイツ等なんだ? お前の知り合い、なわけないか」


まだ姿が見えないが、『索敵』に引っかかっている者もいるのでそういう言い方になった。


「気を付けて下さい!! 彼は私達の知っている“ヴァリス”ではありません!!」


「ヴァリスって、あれか、第3師団の――」


「――フム。それは私であって、私ではない者の名です。ですが、そこの少女にバレてしまった以上、最早不要、ですかね……」


「なっ!?」


「――!!」


男がそう言った途端、まるで皮か着ぐるみでも来ていたかのように、鎧や人間の姿を自分自身で脱ぎ去った。

さながら、人間が人間の皮を着ていて、そして脱皮したような感覚に思えた。


そうして脱ぎ去った下から出てきたのは、一人の何の変哲もないどこにでもいそうな凡庸な男。

意識して覚えようと努めなければ、人混みに紛れた途端、その顔を思い出そうとするのが困難になる、そんな顔だった。


しかし、その姿の出てきた方法があまりに異様であったことが、対照的であり、逆に印象深く頭に刻み込まれた。



「フム。今この場であなた達を支配するのは一端諦めましょう。読めない者が一人では無い、と知れただけで今日は良しとします」


「……何、負け惜しみ? 負け犬の遠吠え? 自分は頑張ればいつだってやってやれるけど、っていうダメな奴特有の言い訳?」


この場で相手を挑発すると、もしかしたらかえって相手を怒らせて襲い掛かってくるかもしれない。

しかし、それ以上にマズいのはこの異様な空気に飲まれることだと思った。


つまり、俺がいつも通りを保つために、あえていつも頭で考えている様なことを言葉にしてやるのだ。

この場面、飲まれたらアウトなのである。


全く、空気は飲むものじゃなくて読むもの――ああ違う、吸うものだった。


相手が仮に襲い掛かってきたとしても、いつも通りの俺なら対応できるはずだ。

例え相手が異様な相手でも、俺を見失ったら、冷静さを欠いたら、そっちの方が敗北の可能性は高いと思え。



冷静でい続けろ。

Stay cool。


フィオムを守らないといけないのだ。

フィオムが守っている人も、また守らなければいけないのだ。



「……フム。そこまで言うのなら、自己紹介位はしておきましょう――私は“アワルド”。【嫉妬】を司る魔人が一人。そして…………」


ペタッ、ペタッ……


何かが床を這っている音が聞こえてきた。

さっきから『索敵』を用いて把握はしていたので、そちらにも警戒を向けることは怠りこそしなかったが――



裸のオッサンが四つん這いになってまるで犬の様に歩いている――その上に、女性が腰を下ろしていた。



「【色欲】を司る魔人の一人――“カトレア”です」



「っ!! ――クロー、侯爵」


フィオムの言葉でハッとした俺は、すぐさまオッサンのことを鑑定した。



……オッサンは、確かにフィオムの言葉の通り、今迄よく話に出ていたクロー侯爵その人であった。


このシリアスな雰囲気の中、全く笑えない真実である。


「……で、その魔人様方が、一体何してんの」


「フム。私達は私達で、色々と事情があるのですよ」



素直に答えてもらえるとは思ってなかったので、思わず面食らう。



「私達は魔王を4人も倒さなければいけません。そのためには、戦力がいる」


魔王?

なに、魔人と魔王って仲悪いの?

何か名前からして仲間か、それでないにしても協力関係くらいにはあるんだと思ったんだが。


「フム。私達魔人も、色々と理不尽にあってるんですよ。魔王という制度が、私達魔人の生き死にに深く関わっている――それを打倒するための活動です」


…………それって、もしかして――


「フム。とまあそう言う事です。全てを理解して欲しいなどとは言いません。協力しろ、とも。勝手にやりますから。せめて、邪魔はしないで貰えれば」



そうして男は、これで話は終わりだと言わんばかりに踵を返す。



「――フム。後は任せます“カトレア”。私は王都に向かいます」


「あの女の元、ですか?」 


「エエ。同胞を殺した憎き女の面でもまた、拝んでおくことにします」


「――分かりました」


「ハイ。――では、また機会が在れば」


そう言って去って行った男を、俺達は何もせず見送った。

というより、何かしてここにい留まってもらっても困る。


コチラの目的はこの謎の奴等を倒すことには無い。

フィオム達を無事助け出すことなのだ。



さて、そうなると――


「……さて、では少々遊びましょうか。タマでは物足りませんでしたので、あなたが私を――」


この残った方を何とかしないといけない。

ただ、先程までとは異なり、コイツ一人にのみ集中できる状況なので、まだ気は楽だ。


フーッフーッと鼻息だけで呼吸しているタマ――クロー侯爵から立ち上がり、“カトレア”は悪魔をも魅了してしまう程妖艶に微笑んで告げる。




「――そそらせてください」



作者の都合なんてどうでも良いでしょうが、暇な方はお付き合い下さい。

本当にどうでも良い方はまた次話。


最近作者はよくよく人生の岐路に立たされてしまいまして。

エクシ〇ア2のルドガ〇君並と言ったら大袈裟かもしれませんが何度も何度も重要な選択を迫られていることは確かです。


それに伴い、作者を指揮監督してくれる立場の方が変わってしまいました。

絶望です(作者のせい、とかそう言う事では無く、必ず訪れるようなものです)。

バクマン〇で途中、服部さんが交代してしまったような感じです。


作者は癒しを求めて彷徨っていると……


幼女って、癒されますね、という結論に。


多分ゾンビ物だと「何だあのゾンビ、定番の音には反応しないくせに、幼女には反応しやがる!!」って位です(勿論作者は真っ先にゾンビとなるような人間でしょう。どうせなら、くる〇ちゃんのスコップで死にたい……)。


忙しくて全くアニメは見てないですが、あるアニメのテンポ良いOPのあの熊を抱きかかえるシーン――あれに心打ち抜かれました。


結論:作者は幼女の道に歩み始めてる、危険思想を持った人物である。



さて、次話は…………ようやくヨミさんの居場所が分かってきましたね。

今、どうしているのかも何となく。

でもまだ出て来ていない…………頑張らねば。




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