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えっと、そうなの?

遅ればせながら、メリークリスマス!!

安定の一人クリスマスを家で過ごした歩谷健介です。

リア充の皆さんは楽しい一日をお送りだったことでしょう……爆ぜて下さい!!


私のお仲間の方々は次にやってくるリア充の祭典(2月14日……うっ、頭が!!)に備えてメンタルの強化を忘れずに。



さて、以前より更に間を空けてしまいました。

しかも以前は以前で、随分と長い間空白期間があったため、少なくない方がストーリーを忘れている、かと思います(実際にそう言った趣旨の感想もいただきましたし)。


ですので応急処置的に、第5章のあらすじ的なものを以下にちょっとだけ真面目な感じで私が書いておきます。勿論必要ない方はすっ飛ばして本編をお楽しみください。


本来であれば以前から申していたんですが、第5章が終わり次第、登場人物的な纏めを上げようかな、と思っているんです。


ただ作者の怠慢のせいでストーリーをお忘れの方々にお楽しみいただけないのは申し訳ないので、その登場人物(仮)が上がるまでの措置として、もしお忘れの方がいらっしゃったり、今後そうなった場合はこの前書きをご覧いただけたらと思います。


【第5章以下のあらすじのようなもの】


孤島の最後のワープ先で出会ったSランク冒険者の一人である死霊魔術師“ディールさん”との取引で、カイト君は彼女の娘の様な存在である“ユウさん”に代わって、第10師団に入り、彼女達を支えることに。

そしてそれと併せてSランク冒険者の一人“ヨミさん”を捜索することになります。

一方でシア達カイト君の仲間は取引の対価として、ディールさんとその協力者達に修行を見てもらい、それぞれが強くなって行きます。

そのシアの修行の過程で、新たな仲間となった者の中には、生き別れとなっていたカノンの姉妹や、錬金術師でありながら、過去にギルドの長などを務めた経歴を持つ女の子も。


カイト君はレンと無事、第10師団の試験に合格。

その後、ユウさん達とは掛け替えのない仲間であった“ヤクモ”をお仲間に迎え、ヨミさん捜索に弾みをつけて行きました。


ただならぬ事情で男の容姿として過ごさなければならない“フィオム”をも助けちゃっているカイト君はいつも通りです。


そして、ヨミさんが関わっているであろう『ラセンの町』に向かったわけですが、そこでは色々と情報が錯綜しています。

どの情報がヨミさんに関係があって、どの情報が関係がないのか、はたまた全部関係があるのか、それともないのか……


一応このお話をご覧いただければ何となくは分かっていただけるかな、と思います。


尚、このあらすじ的なものは修正加筆の可能性がありますので予めご了承を。



では、どうぞ(ちなみにこのお話、かなり長くなっております、お気を付けを)。


「ちょっ!? 先輩!! 先輩が節操ないのは今に始まったことじゃないですが、せめて、せめて相手は女性にしませんか!?」


「お兄ちゃん!? ボ、ボクは、ボクはこの事実をどう受け止めればいいの!?」


「うん、とりあえず落ち着け」


フィオムが実は女であるという事実はまだ俺しか知っていない以上この反応はまあ当然と言っちゃあ当然。

しかし、ここで変に慌てふためくと取り返しのつかない事実が真実となってしまう。


そのためここは冷静に対処するが吉!


「あのな、コイツはお前達の思ってるような人じゃなくて――」


「ボク等の思ってるような人じゃない…………――は!! 先輩の愛人!?」


ヤクモの背中に雷が落ちたような効果音が流れた気がした。

…………前後の文で何故そうなったし。


「いや、だからな? コイツは――」


「あ、愛人!? お兄ちゃん、女の子じゃダメなの!?」


「むぅ……先輩は普通じゃ満足できないらしいです、刺激が欲しいお年頃ですか…………」


あかん、しゃべらせてもらえへん。

冷静に対処しようとしてるのに、どんどん誤解が悪い方へと向かってく。


くそっ、仕方ない、こうなったら荒技になるが――


「いいか、お前達良く聞け、俺は『ホモ』だ!! あ、言っとくがホモサピエンスの『ホモ』じゃないぞ!」


「「「な!?」」」


諸刃の剣ではあるものの、衝撃カミングアウトで全員の注目を集めることに成功する。

よし、やったか!?



――ってしまった!!

話を聴いてくれたことが存外に嬉しすぎて自分で失敗フラグ立てちゃった!!


まったく~、カイト君のうっかり屋さん!! でへへッ☆


おっと…………我ながら気持ち悪い笑みを浮かべてしまっていたようだ。

未だにフィオムが開いてしまった口の部分が空気に晒されているためか、それを見逃さなかったヤクモのジトーッとした視線が俺を射抜いてくる。


「せ、先輩……自分で宣言しちゃいますか。流石にちょっと引きました」


遠慮ないヤクモの口撃!! 

きゅうしょにあたった!! こうかはばつぐんだ!!


「お、お兄ちゃん……えっと…………――うん、ボクはどんなお兄ちゃんでも受け入れるからね」


とは言いつつ純粋なレンの瞳から一筋の光が!! 鈍器で殴られた様な一撃がカイトを襲う!! 

カイトのメンタルにつうこんのいちげき!!


「カ、カイト君…………私、信じてますから」


当事者という立ち位置を棚に上げたフィオムの信頼の一言!! 

カイトのガラスのハートにダイレクトアタック!! 



もうやめて!! カイトのLPはもう0よ!?



……やっぱり「やったか!?」なんて言ったらダメだったね。

ホモを自ら認めることにより早期にこの話を打ちきり、そうして全員を冷静にするという策自体はなったと言っていい。


ただ想定以上に人間としての信頼とか自信とかその他諸々、一杯どこかに置いて来てしまったようだ。

うん、どうせ最初からそこまで高くも無かったものだし。


いいんだ、もう(白目)。


◇■◇■◇■


その後、フィオムの性別が女性だということを告げると、誤解は解け、ヤクモからの突き刺さるような視線やレンのちょっと無理をした感がある笑顔が解除された。


フィオムが王族だということや、どうしてそんな酷い(男の)容姿を晒しているのか、という疑問にもフィオムは一応答えていた。

尤も、二人の関心事は主に俺と男性がああ言ったことをした、という事実だったので、フィオムの男装(と言っていいのか?)の際の醜い容姿や王族云々にはあまり興味を示していない様子(フィオム本人が「そのことは気にしないで欲しい」と告げたのも一因だろうが)。


それはそれでフィオムも自分を受け入れてもらえたことが嬉しかったのだろう、「ふふっ、やっぱりカイト君が信じる人は人徳が違いますね」と喜んでいた。


眠っている子供達については一先ずは安心らしい。

フィオムの使ったのは特に後遺症なんかも心配ないただの威嚇用の光魔法だそうだ。


だからとりあえずは風邪を引いたりしないよう精霊達(主に火と風)に気を使ってもらっている。



後、どうでもいいことなのかもしれないが、何でフィオムは誤解が解けたら解けたでちょっと複雑そうな顔するかね?


あれだろ? 

あの(男の)容姿のままキスしてきたのだって、フィオムが今後男としてリューミラルの政治を乗り越えていくための下準備というか地ならしと言うか、そんな感じなんだろう?


「こうすれば不審な女性を牽制できるのは良いとして…………でもそれで男性に目覚めてしまっては本末転倒と言いますか自爆と言いますか…………ううぅぅ」


なんてことをブツブツと呟いていたし。

別にフィオム本人が男性に目覚める分には良いと思うんだが…………



まあそれは措くとして。



俺もフィオムが自由に生きることができるよう協力したい、なんて言ったしな。

うん、協力するよ?


カイト、頑張る!!


フレーフレー、カイト!!

頑張れ頑張れカイト!!

ふ~~~~~~~~~~☆





ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ(心の底からの溜息)





そりゃテンションも下がりますよ、まさか一発目からこんな体張ったことをすることになるとは。

想像してたのと大分違ってたことは否めない。


もっと何かこう、いつもみたいにフィオムを狙う悪の政治家と対決、その後戦闘にて体を張って――みたいなことだと思ってたもん。


いや、フィオムを助けること自体は別に反対じゃないんだよ、むしろ積極的に手伝ってやりたいと思う。


でもさ…………でも、何か、何か違うくない?

こういうのって芸人さんのやることじゃ…………いや、流石にホモ+キスはないか。


今後こんなことが続くのかね…………


「はぁ、こんなのダチョ〇倶楽部でもしねぇよ…………」


「え? 先輩、それは…………」


「お兄ちゃん、えっと、ダチョー、さん? って、何?」


「私も初めて耳にするな、マーシュ、それは一体…………」


――っと、しまった。

存外に精神的ダメージが大きくて声に出してしまっていたらしい。


ちなみにフィオムは普通に話すときは素ではなくこうして演じたフィオムで話している。



むむぅ、変なこと聞かれてしまった。

ああいや、別にダチョウ倶〇部の皆さんが変なことという意味じゃなくて。


むしろ俺はあの飽くなき姿勢を尊敬しているまである。

ただこんな芸も何もないところでクソ真面目にその彼等を定義して説明する――その自分の姿が何ともアホらしい。


…………今のは別に『芸』と今迄の『ゲイ』の話を掛けたダジャレとかじゃないからな。

こらっ、脳内の俺、「これは審議が必要…………」とかぬかすな!!

この程度ならいらんだろ!!



ううむ、この世界で彼等のことが果たして理解されるのだろうか…………


「えっと、どう説明すればいいか、うーん、一言で言ったら『お約束のプロ』かな?」


「『お約束のプロ』? ちょっと分かりかねますね」


「うん、ボクも」


「私もだ。それはマーシュの故郷独特の話なのか?」


ああ、やっぱり今のだけじゃ分からんか。

3人ともポカンとしている。

そりゃそうだ。


「ああ、俺の故郷にいた人たちのことなんだけど…………まあそうだな、じゃあ一例を出そう。俺の友達の話なんだが…………」


「え? お兄ちゃん…………」


え、何でそんな哀しい瞳をして俺を見つめるの!?


「せ、先輩、『友達それ』だと、前提から崩れてます」


「おい」


何恐ろしいものでも見たかの如く言ってんのコイツ。

お前俺を『先輩』とか言っといて本当は俺のこと全く敬ってないだろ!?


「――…………分かった、じゃあ俺の知り合いの話なんだが…………」


「二人とも、いいか、今からマーシュが話すのは『知り合い』の話だからな! 決してマーシュ自身の体験談とか身の上話とか、そう言った類のものではないからな!! 分かったら復唱!!」


「う、うん!! お兄ちゃんの『知り合い』の話、だね!!」


「はい、先輩には、ちゃんとお話をしてくれる『知り合い』がいる、ですね!!」


「うむ!! それで良し!!」


確認をとったフィオムは一仕事を終えてやってやったぞ、みたいな顔をして俺に向き直る。

その顔は歪なものではあるが言外に「(ドヤッ!!)」と言っているのがありありと見て取れる程に満足げだ。


うわ~、腹立つ。

一発殴っていい?

フィオムの正体があの可憐なお姫様だと知らなかったら多分俺今頃一発殴ってるわ。



この野郎、『良し!!』じゃねえよ。

全く良くねえよ、全部聞こえてるからね!?

心にずっしりとくる一撃だったからね!?



もうやだ、俺お家帰る…………



「はぁぁ…………こういう風に、話が思ったように進まなかったらちょっと怒ってケンカするの。それで、ケンカの仲直りの証にキスすんの。そう言うお約束が俺の故郷の一部ではあって、それを次々と完璧にこなしてくの、その『ダ〇ョウ倶楽部』って人達は」


投げやり気味に一例を挙げておいた。

もう知らん。


ちょっと説明足らずや端折ってる部分もあるかもしれないが、どうせ本人たちと会う事は無いだろうし、こんなんでいいだろう。


ふぅぅ、本題に入る前にここまで疲弊することになるとは。


「もうその話はいいだろう。さ、本題に――」


「ケンカの後!?」


「仲直りのキス、ですか!?」


「それがマーシュの故郷のお約束、だと!?」


だが、どう言う訳か3人はまたもや話を聴いておらずそれぞれが俺の発言に食いついていた。


何々、何なの?

俺の話を聞かないのが流行なの? 

そうやってストレスでハゲさせるのがトレンディでエンジェルなの!?(適当)


「ふ、ふん、もうお兄ちゃんのことなんて、知らないんだからね!!」


いきなり腕を組んではプイと顔を逸らしてしまう。

レンはカノンのマネでもしているのだろうか、怒り切れていないところがちょっと似ている。


「むぅぅぅ、先輩、目移りしちゃうのは分かりますが、偶にはボクのことも見てくれないと…………怒っちゃいますからね」


プクーッと頬を膨らませ、瞳を潤ませながら上目遣いで覗き込まれた。

いや、そんな怒る気0の不安げな雰囲気で言われましても…………


「マ、マーシュ!! 私はあなたに怒っている!! そ、そう、怒っていると言ったら怒っているのだ!!」


腰に手をあてて頑張って怒っている感を出そうとしているが同じことを繰り返し述べている辺りテンパっているのが見え見えである。

ってか怒ってるって何をだよ…………俺の存在自体?(そうではないことを祈るばかりである……)



「「「ん~~~」」」



そして一転、3人とも全員が目を瞑りだす。

えーっと…………






何これ?


あっれ~~~~、おっかしいなぁ。

話が飛躍を通り越して大気圏突入までの勢いでぶっ飛んでいる。



「正解は?」って聞かれて 

越〇製菓!! とか

WEBで!! とか

CMの後!! とか答えずに

「めざましのコ〇調でやらないかな~」とか

「見た目は子供、頭脳は大人な名探偵でも雇おうかな~」とか言い出すレベル。



うん、適当に言った。

でもぶっ飛んでるのは分かると思う。



人と人とのコミュニケーションは難しいんだなぁ、と改めて再認識しました。まる。



◇■◇■◇■



何故かヒートアップした謎のテンションだった3人を「テイッ!!」と軽いチョップを入れて正気に戻した後、ようやく本題に入ることができた。


本当、何で本題に入る前にこんだけ疲れんだよ。


3人は3人で涙目になりながらも恨めしそうに俺を見るし。


はぁぁ…………




「――それで、フィオム、わざわざフィオムがこんなところまで来たってからには何か大事な理由があるんだろう?」


「ああ、私がここに来たのは主に二つの理由があってだ。――一つ目はマーシュ、あなたに直接関係しているから、伝えておくべきだと思ってな」


「ん? 俺?」


「ああ、あなたが――『カイト・タニモト』が騎士団からの指名手配をフォオルが解除した」


「!? ――そうか…………それで?」


一応騎士団長のフォオルさん本人からそう言ったことは聴いていたが、第3者からそのことを耳にして、何だかようやく実感が湧いてきたと言った感じだ。


だが、フィオムがただそのことだけを伝えに来たなんてことは無いはずだ(そもそもフィオムは俺が『カイト・タニモト』としてどのような活動をしてきたかなんて詳細には知らない訳だし)。


俺は一度頷いて先を促す。


「うむ、だがそれにも関わらずあなたのことを嗅ぎ回っている輩がいるようだ」


「? それは…………騎士以外、ということですよね? フィオム様」


ヤクモの端的な疑問に、フィオムは首肯する。


「ああ、私が動かせる人員によって正確に把握したのは騎士以外だ」


ちょっと引っかかる言い方だな。

まあわざわざフィオムがそう言った含んだ言い方をするんだ、何かしら意味があるのだろう。


「とりあえず聴かせてくれるか?」


「もちろんだ。――確認しているのは男女の二人組、そして元第4師団総隊長のオルゲールだ。コイツ等が手配が撤回された後も尚『カイト・タニモト』の行方を嗅ぎ回っている」


「ああ、あの気持ち悪い奴ですか。――先輩、そんなのに付け回されてるなんて、人気者は辛いですね~」


ニヤニヤと嫌味な笑顔を浮かべてくるヤクモ。

やっぱコイツ俺のことバカにしてるだろ。


「うーん、そのおじさんがお兄ちゃんのことを追いかけてるってのは分かるけど…………」


おおう、レンにとってはあれは『お兄さん』ではなく『おじさん』らしい。

まあおじさん…………と言えなくもない、か。


ああっと、確かレンは直接の面識は無かったっけ?

まあそこはどっちでもいいんだけどね。


ただ一つ言えることは、レンがあれを「おじさん」と呼ぶところとあれがヴォルタルカでニヤッとした光景を合成すると、どことなくなく犯罪臭がするので教育上あれの存在は良くないと思いました。


健全な育成の妨げになるオリゴ糖マジ許すまじ。

条例とかに引っかからないかな、あの顔。


「オルゲールは一応先輩たちの中では追いかけられる理由は分かっている、という事ですよね?」


「ああ、一応はな」


「という事は、先だって問題となるのはそれではなく、男女の2人組、という事になりますね…………心当たりは?」


ヤクモに水を向けられ、しばし黙考してみるも、思い当たる節はない。

ってか普通に賞金稼ぎとかが撤回されたのを知らないとかじゃないの?


「ん~今んところないな。――フィオム、その二人組の特徴とかって分かるか?」


「若い女性と中年の男性だ。だがあなたのことを聞いて回る際は偽名を使っているらしい」


「どうです、先輩?」


「と言われてもな…………流石にそれだけで思い当たるのならもう既に思い出してる」


「まあ、そうだな。オルゲールが雇った賞金稼ぎか何かが別行動を取っているという様な可能性も一応はあ

るが、とにかくあなたのことをまだ嗅ぎ回っている輩がいる、ということを肝に銘じておいてくれ」


わざわざ注意を促してくれたフィオムに素直に謝意を表すために頭を下げる。


「ああ、わざわざありがとな、感謝してる」


プラスしてキチンと言葉にもしておく。

言葉にしないと伝わらないことだってあるもんな。


細かい気配りができるカイト君マジ良い人。

俺が女性なら放っとかないわ。



…………うん、ごめん、調子乗った。

そうだよね、俺なんて良い人(笑)だよね。


掃除後のゴミ捨てじゃんけんなんてあってないようなものだもん。

じゃんけんに俺が勝とうと「ごっめ~ん、谷本くぅ~ん、今日どうしても早く帰らないといけないんだ~。(訳:今日は友達とサイゼで女子会だからゴミ捨て当番代われ)」なんて口にして、そして「(断れば他の女子をも敵に回すぞ)」と暗に告げてくるとか、ほんと女子って抜け目なくて怖いわ~。


しかもそれを読み解いてしまうとか俺ってほんと(都合の)良い人。

「ありがとう~!! 谷本君って、普段存在感ないけど、やっぱり良い人だよね!!」と言われた時の俺の心はきっと、ゴミと同等かそれ以上に腐敗しきっているに違いない。



【急募】誰かこんな俺の濁り切った心を漂泊してくれる人求む!!(アタッ〇若しくはアリ〇ール系女子お待ちしております〔適当〕)




「あ、ああ!! き、気にしないで欲しい!! 私と、あなたの、その…………仲、だろう?」


「そうか? そう、だな、うん。――分かった、それじゃ、話を進めてくれ」


お言葉に甘えさせてもらうことにする。

フィオムも引きずることなく一つ頷き、続きを話し始める。


「ん、んん。――では、次の話に移ろう。王都を離れて私がここまで来たのは一応“フィオム・レイ・リューミラル”としてやることがあるのも理由の一つだ」


そう言って、フィオムは近くに落ちていた手頃な枝を拾い、雑草が生えていない地面へと歩を進める。

そしてそこに何やら描きながら話し始めた。


「マーシュとは、先日ウォーレイも交えて直に見たから覚えているだろう。近々勇者“ダイゴ・ソノハラ”と“ミズキ・タカマチ”を筆頭に魔大陸への遠征隊が組まれる――そう、魔王の討伐隊だ。二人はどれ位知っている?」


フィオムは視線だけをレンとヤクモに向けて質問する。


「うーんと、ボクは一応お兄ちゃんから色々と聴いてるから多分大丈夫かな。色々な領主さん達からも人を集めて魔王の一人を倒しに行くんでしょ?」


「ボクも知識としてそこまで開きがあるわけでは無いかと。今回騎士団長のフォオルさんも同行する本格的な隊を組むんですよね?」


「うむ、その通りだ」


二人の返答に満足したのか、フィオムは視線を地面に戻して枝をカリカリと動かして行く。


「過去、私の祖母の時代よりも以前から魔王であり続ける“クラハルド・リ・タナトス”。今回コイツを倒すのが討伐隊の目標になるのだが……詳細は私がここに来たこととは無関係だから省くぞ」


フィオムが口にした魔王の名は、以前耳にしたことがあった。

孤島の北のワープ先である“死淵の魔窟”でダークドラゴンのお母さんがその名前について言及していたことを思い出す。


ただ、今回は深入りはしないらしい。

こういう魔王とか面倒くさそうな表舞台は勇者に任せておけばいいのだ。


でも本当、勇者ってそういう面倒事とかに事欠かないよね。

問題やハプニングが向こうから寄って来るって言うか。

この吸引力の落ちなさ、ダイ〇ンでも見習ってるのかね。


全然羨ましくはないけど、凄いとは思うわ。




「今回重要なのは、一時的とは言え騎士団長たるフォオルが王都を離れるということだ。第10師団は異なるが、騎士団は領主の牽制という意味でそれぞれの隊が各地の領地の見回りを担当している」


「フォオルさん自身は騎士団長という役職ですからかなり多くの場所を担当なさっていましたね…………あ」


何かに気付いたような声を上げるヤクモ。


「ん? どうした」


「えっとですね……この『ラセンの町』は私達もお会いしたヴィンセント氏が治めているわけです。で、隣にある…………えーっと、ウォーレイさんやアルが向かった村がある領地って確かクロー侯爵の領地なんですね。先輩、レンさん、以前酒場でお話したこと、覚えてますか?」


「? うんと、政治のお話のこと?」


「あれか、アレイア公爵とライトニング公爵が今の政争の主役だって話か」


レンと俺が少しずつ思い出しながら確認の言葉を述べていく。

フィオムも俺達の前提知識が正しいかどうかを見守ってくれるためか、手を止めてヤクモを見やる。


「そうですそうです。――それで、クロー侯爵はアレイア公爵を推している、と言うよりは傘下みたいな感じなんですね。ちなみにライトニング公爵はフィオム様を、アレイア公爵は第3王女のレド様をそれぞれ推しているのが今の政情です」


「今回の勇者達の魔王討伐も、勇者達に誰にでも分かって尚且つ十分な功を取らせて、その勇者と懇意なレド王女を更に持ち上げたいっていうアレイア公爵の意図なんだよな」


「うむ、それらで間違いない」


フィオムの首肯を得られ、ヤクモは説明を続行する。


「で、今回騎士団長のフォオルさんや第1師団も同行することに伴って、じゃあ誰が彼等が担っていた役回りを引き継ぐか、という話になるんです」


「それはさっき出た“領地の見回り”っていうことだよね?」


「はい。この『ラセンの町』の隣の領地はクロー侯爵の領地なんですけど、そこを担当していたのは第1師団なんですよ」


「成程、それでその第1師団は近々いなくなるから代わりにどこかの師団がその役をしないといけない、と」


「その通りだ。ここからは私が引き継ごう」


「お願いします」


フィオムが引き継ぐ、という事はここからがフィオムが来た理由と関係する話なんだろう。


「勇者やフォオル達が魔王討伐に向かう事によってどういう風に動くかの前提は今ヤクモが言ってくれた通りだ。それで、どこの師団が第1師団の代わりにクロー侯爵の任地を担当することになるかと言うと…………第3師団なんだ」


第3師団って確か極秘任務を受けてるとかじゃなかったっけ?

兼務させるってことかね?


「第3師団……ああ、そういうことですか」


どうやらヤクモは今の説明だけで納得した様子。

流石だな。


「うむ、ヤクモは分かったようだな」


「はい、フィオム様も大変ですね」


「何、ただ王都で待っているだけでは得られない大切なモノもあると知ったからな。自分からも少し動いてみようと思ったまでだ」


そこでフィオムが俺の方にチラッと視線を向けたように感じた。

ああ、成程…………

以前の俺とのやりとりで心境の変化があったという事だろう。


少しでもフィオムの人生に色を与えることができたと言うのなら俺も幸いだ。

そう言う意味も込めてカクッと頷いてみると…………プイとあらぬ方を向かれてしまう。




え、何で。




今そうやって言葉を交わさなくても分かりあってるぞ、みたい場面じゃなかったの!?


嘘、前回の俺の頑張りって幻想なの!?

ただ俺が空回りしてこっ恥ずかしいこと口にしてただけなの!?


やだ、また黒歴史が増えちゃった!!

呼吸をするかの如く増えていく黒歴史は最早留まることを知らない。

俺は黒歴史の製造工場か!!


そんな黒歴史製造工場の私が黒歴史を想って一句。


黒歴史、ああ黒歴史、黒歴史(詠み人知らずでお願いします)



…………ゴメン、意味の分からないテンションになってたのは否定しない。

うん、こうやってその時の勢いに任せて行動するから黒歴史が増えていくんだね。


俺、学んだ!!



「お兄ちゃん、顔を抑えてどうしたんだろう?」

「本当に、人の好意には鈍い方です…………――放っときましょう、どうせまた変な方向で勘違いでもしてるんですよ、先輩ですから」

「あ、そうだね、お兄ちゃんだしね」

「はい、先輩ですから」



君達、聞えてるからね。


ってか人のことを悪口の代名詞みたいに使うのは止めて。

それ皆マネしやすいから直ぐ広まっちゃうでしょ。

子供すらもマネして使われたらもう俺立ち直れないよ?


お兄ちゃん兼先輩としては、人にタイプをつけることになった時、君達が将来あくタイプにならないか非常に心配です。




「ん、んん。――でだ、第3師団の何が問題かというとだな、その総隊長が実はクロー侯爵の養子なんだ」


咳払い一つ入れ、フィオムが話を元に戻すと、俺達でも何が問題なのかというのが分かった。


「そうか、そりゃちょっとマズイな」


「そうだね。見張る側と見張られる側が身内じゃ、慣れ合いになっちゃうよ」


レンの言葉はまさにこの問題の核心を突いた一言なんだろう。


「その通りだ。誠実なシオン姉様やフォオルだったならまだしも、フォオル以外のクローの養子は皆クローの配下と言っていい」


「そこで、フィオム様のご登場と言うわけですね」


「まあそう言う事だな」


フィオムは先程地面に枝で描いた図を指しながら説明する。


「過去、シオン姉様が騎士団長をなさっていた時は良く行われていた。だが、失踪なさって、騎士団長がフォオルに代わってからはうやむやになっていたんだが…………」


「シオン様がなさっていた王女の騎士任地の際の式、ですね」


「ああ、そうだ。勿論誰も主立って告げることは無いが、今回の件でアレイアの勢力がまた更に拡大するだろうという予測は誰もが持つところだ。今回私がここまで来たのはライトニングが捻りだした牽制なのだ」


「成程、という事は、今回フィオム様が向かわれるのは、先ずはクロー侯爵の別邸、ということですか?」


「? 普通に領内のお家じゃないの?」


「クロー侯爵は色んな所に別邸を持っているんです。領地にいないこともしばしばありますし、だから仕事が滞る文官泣かせな方だというのは良く聞く話なんですよ」


「うむ、今回もヤクモの言の通りだ。クローは今この『ラセンの町』にほど近い別邸にいる。だから先ずは奴に会って、領地に戻って、という順序になるな」


「ライトニング公爵からすればできるだけフィオム様には長い間クロー侯爵や第3師団と一緒にいて欲しいんですよ。その方が問題が起こる可能性も上がりますし、そうすれば簡単にでも責任を問えますから」


成程なぁ。

説明してもらって初めて納得だが、色々な事情が複雑に入り混じっている。


やっぱり政治って面倒くさい。



「ここで一つ目の話と繋がるのだが、フォオルから注意を受けている。“オルゲールが第4師団の総隊長の職を解かれてから、アレイア派の貴族と接触している”と」


ここでもまた出て来るか、オリゴ糖め。

面倒な奴だ。

しつこい男は嫌われるよ?


「それと確か第3師団の総隊長“ヴァリス”はアレを飼っていたとも聞いている。今回アレが“ヴァリス”やクローに泣き付いてこないとも限らん」


今のフィオムの言葉のニュアンスからして『買っていた』じゃないんだ『飼っていた』なんだね。


オリゴ糖、憐れ。


「あと……フォオルからあなたに会う事があれば個人的に伝えて欲しいことがある、と言伝を預かっている」


「ん? 騎士団長が俺に、か?」


「ああ。“第3師団には気をつけろ。ヨミやネムがいなくなった辺りからあそこは俺の与り知らないことをしている”だそうだ」


「気をつけろ、ですか…………それも侯爵やオルゲールにではなく、第3師団に…………――それにしても騎士団長が個人的に、なんて珍しいですね」


「ああ。何でも“以前質問に答えてくれた時のお礼だ”とのことだぞ。――全く、フォオルめ、私を伝令係か何かと勘違いしているのではないか?」


とは言うものの、フィオムのご機嫌は左程悪くない、いやむしろどこか嬉しそうにも窺える。

王子(実際は王女だが)である自分が使われたことなど全く意に介していないのだろう。


騎士団長にしても、こうして俺に注意を促すことによってフィオムを少しでも守って欲しい、という意図もあるのかもしれない。


“フィオム様をよろしく”みたいな言葉を付け足したら本当に個人的にフィオムに肩入れしているみたいにとられるからそうならないようギリギリの線を狙って、俺がその意思を汲み取ってくれることを期待してここまでにとどめた、とか。


一度しか会ってないし、ハーフエルフについてちょっと自分の見解を述べただけだ、信頼されていると言うわけでは無いだろう。

多分使える者は使って、それで最善の結果を出せれば、位に考えてるんじゃないかな。


いや、知らんけども。




「――とまあそう言う訳だ。あなたのことだから、心配はいらないかもしれないが、その、あなたにもし何かあったら、悲しむ者もいる、だから、その、な」


フィオムにしては珍しくハッキリとしない物言い。

その男の見た目でモジモジされるとハッキリ言ってキツいのだが…………


いや、ここは考えようだ。

目に映っているような可愛らしい仕草を、実際にはあの可憐な美少女であるフィオムがしているのだ。


そう、モノは捉え様によっていくらでも彩を得る。


想像するのだ、カイトよ!!

目の前いるのは美少女である!!



「えっと、だから、その、何が言いたいか、と言うと、だな……」



想像する…………



「べ、別に本当にあなたに何かある、とは思ってないんだ!! わ、私はあなたのことを信頼している!! で、でも、その、な……」



想像……



「やっぱり、その、何というか、胸騒ぎが、して、その、だから――」


「ぐわぁぁぁ!!」


「ひっ!?」


ゴメン、無理だった。

俺の妄想力――もとい、想像力をもってしても目の前で内股になってなよなよしているフィオムは実にキツかった。


それをシャットアウトするべく俺は必死になってフィオムを安心させる。


「フィオム、心配するな!!」


「え、だが――」


「ダガーも曲刀もない!! 大丈夫だ、俺はヤバくなったら基本即座に逃げることを考える!!」


俺氏、この娘の不安そうにしている姿を見たくないがため、必死である。

――なんて言い方したらカッコよく見えるのかもしれないが、実情はただ自分の精神的平穏を保つため。

うわ~、俺クズだわ~。


「だから、フィオムは自分のことを心配しろ!! フィオムなんて、王子として行かなければならないんだろう? だったら、俺なんかよりずっと危ない橋渡る可能性あるんだから!! あっ、お前も、ヤバかったら直ぐに逃げるんだぞ!? いいな、おじさんとの約束だ!!」


「おじさんって、しかもマーシュだけでなく私も逃げるのか?」


「当たり前だ。“逃げた者はもう一度戦える”――むしろ戦闘やハプニングでは逃げることは常に頭の中に入れて置くまであるのが基本だ」


よし、決まった!!

多分偉い人の言葉を引用しただけだけど、この世界じゃ知られてないし、バレないよな。


俺の十八番『それっぽいこと言って良い感じに纏めよう!』が発動した今、死角はない。


「ふふっ」


おっ、フィオムが笑ってくれた。

どうやら俺の策が決まったようだ。


「あなたらしい――あなたは、いつも私の考えもつかないようなことを言ってくれる」


なんてことを言ってくれるけど、実際は偉い人の言葉パクっただけだから。


「とは言ってもな、何かあったら逃げる、としか言ってないけど」


ちょっと罪悪感もあったので、逆の方向で擁護を試みる。

あまり持ち上げられても大したことしてないのは事実なのだ。


「とか言いつつ、先輩はいつもいつも他の人のために一番体を張っちゃうじゃないですか」

 

「そうだよ、お兄ちゃん、いつも無茶ばっかりしちゃうんだから」


こらこら、君達、人聞きの悪いことを。

折角何か上手いこと纏まりそうなのにわざわざ蒸し返さなくても。


それに俺、君等の言い分だと何かドMみたいじゃん。

俺は至ってノーマルだよ?

俺はノーマルタイプ、だから、かくとうタイプには滅法弱いの(体育会系が嫌いだからあながち間違ってない)。


ただその時その時でやらなきゃいけなかっただけで、やらなくても良いんならもち働かないよ?

ニート万歳!!


「どうせまた変な方向に勘違いしてるんでしょ? お兄ちゃんは」


「そうですね、変なことでも考えてそうです。――全く、先輩はどうしようもない先輩ですね」


何、君達、今度は人の傾向まで読んじゃうの?

エスパーなの、あくタイプだけじゃなくエスパータイプまで兼ね備えちゃうの?




おじさんは君達の将来がとてもとても心配です(むしタイプには気をつけましょう)。




「――ま、とにかく、俺は俺で気を付けるから、フィオムもフィオムで気を付けろよ?」


「ああ……とは言っても、あなたも私のことはよく分かっているだろう? ――私を捉えることができる者がいるのなら、見てみたいものだ」


そう、フィオムは戦闘こそ向かないものの、ルナという光の精霊の長から与えられた加護というとても強力な力がある。


その『惑わし』の力で見た目感触その他諸々を全く関知できないレベルにまで騙せる。

俺が『索敵』や精霊達の力を借りてもフィオムの来訪を感じ取れなかった程だ。


初めて会った時だってその力を駆使して王宮の方から抜け出したのだろう。



「ああ、だからお互いいつも通り気を付ければいいだけだ。簡単だろう?」


「そう、だな…………マーシュ」


「ん?」


「今回のことがきちんと片付いたら、そ、その、あ、あなたに、た、食べて欲しいものがある!!」


「「な!?」」


レンとヤクモの驚愕の声。

しかし、俺は至って冷静。


何でかって?

――ここで期待すると盛大な落とし穴に引っかかるという経験則があるからだ。

人は学ぶ生き物なのである。


「は、初めては、あ、あなたに、た、食べて、欲しいんだ!!」


「は、初めてを!?」


「た、食べて欲しい!?」


そう、言葉だけを捉えるなら「え!? マジか!? よっしゃぁぁ!!」みたいに興奮すること待ったなしなんだろう。


「“わ、私の初めては”という言葉が抜けていますが、これは…………」


「うん、だよね、絶対そうだよ……」


何やらヤクモとレンが二人でコソコソしているがそこは措いといて…………


だが俺には分かる、これは多分フィオムが個人的に人を食事に誘うのが初めてだから多少テンパっているだけなのだ。


これを「え? 毎日酢豚を作ってくれるのか!? それって毎日俺のために味噌汁を(ry」みたいに曲解してしまうと後程



訃報ふほう】俺氏、勘違いして轟沈。



みたいな速報が脳内に流れることになる。


そうしてフィオムと気まずくなって、その後疎遠に……までの未来は見えた!!


ふふん、人間は学ぶ生き物なのだ。

今後黒歴史製造工場は閉鎖になるかもしれないな!!

職員たちの次の職場を探しておかなければ。



フィオムもこんな死亡フラグめいた約束を求めているのも、少しでも安心材料が欲しいだけなのだろう。

それか単なる社交辞令という線もまだ捨てていないが。


だから言葉足らずの部分を補うとすると…………


~このことが片付いたらこ、今度、城下町にある美味しい食べ物屋を紹介しよう!! わ、私が誰かをそこに連れて行くなんてあなたが初めてなんだ、光栄に思ってくれ!!~


てなところか。

なら返事も自ずと決まってくる。


「ああ、楽しみにしとく」


「「「た、楽しみに!?」」」


フィオム自身もまさかOKが出ると思ってなかったのか、二人と共に驚きの声を上げる。

……何でだよ。


「――~~~~~ッ!! ――わ、私、が、が、頑張りますから!!」


「あ、おい!! ――行っちゃったな」


完璧な返答だったはずなんだが、フィオムは言葉にならない声を出して走り去ってしまった。

ってか何を頑張んだよ。

しかもフィオム、最後素に戻ってたし。


多分このままクロー侯爵の別邸へと向かったのだろう。

それかメイドのウィルさんとか従者の人達と待ち合わせでもしていて合流しに向かったか。

流石に誰一人付けずに公務、なんてのは無いだろうし。



それにしても……



「お兄ちゃん、“楽しみ”って一体どう言う事!?」


「先輩、どういう文脈からそう返答したか、理解してますか!?」



二人にはフィオムが去った後、いちゃもんつけられました。


やっぱり将来はあくタイプになってしまうのだろうか……


“先輩とか~ちょーキモいんですけど~”とか

“は? 何ジロジロ見てんの? ってか兄貴キモ(笑)”とか言われる日が来ないことを祈るばかりです。



◇■◇■◇■


その後、二人の追及をのらりくらりとかわしていると、横になっている少年達が目を覚ました。


フィオムの言葉を信じるにしても念のためどこか不具合が無いか確かめると、どうにも気を失う少し前――具体的には俺に感情をぶつけて来た部分やヨミさんのことをポロリと口走ったことについてはハッキリとは覚えていない様だ。


なのでレンを巡っての第2ラウンドが始まる――そう思って身構えたのだが……



「…………僕らが起きるまで、見張っててくれたのか」


「…………レンちゃんの兄貴、なだけあるな」


「べっ、別に中々できる奴だなんて思ってなんかないんだからな!」



と予想を下回る大人しさであった。


一度眠って頭が冷えたことでちょっとは理性的になった、ということかな。

それにしても幾ら冷静さを取り戻したんだとしても、子供というのは感情に任せて動く側面が強いはず。


そうすると、先程のことがあるとは言え、まあ見どころはある少年達ではある。


…………まあレンをお嫁に欲しいなら俺を倒してからという事になるがな(ゲス顔


別に根に持ってなんかないよ?

全然、もう全然“全身鎧野郎”とか“死んだ魚みたいな目”とか言われても、俺大人だし、全く根に持ってないし。




結論、俺の目が黒いうちはレンはやらん!!(あと、俺を倒しても、俺は四天王の中では最弱だから。後ろには裏四天王の父親(ゴウさん)が控えてるから)







そうして、一応の和解と言うか、停戦協定というか、そんなものを少年達と結んだあと、彼等は一足先に町へと戻って行った。


一応精霊さん達に護衛についていてもらうが、まあ大丈夫だろう。



俺達はそれを見送った後町へ帰っている最中である。



「はぁ…………それにしてもまさかアイツがこんなところまで来るなんてな。しかも『カイト・タニモト』に関する話もひっさげて来るなんて――」


「先輩!!」


「うぉっ、お、おお、何だ?」


いきなり話を遮られてしまう。

しかもヤクモは口に人差し指を当ててあからさまに「しー!!」と俺に注意を促してくる。


え? 何、何なの?

名前?

俺が自分の名前言ったのがマズかった?


何か流れ的にああ言えば他人の話してる感でるかな、と思ったんだけど…………




「先輩、注意が足りません!! 誰かに聞かれたら事ですよ!? その“名前”を不用意に語ってはいけません!!」


やっぱり俺の名前をサラッと口にしたのがいけなかったようだ。

それにしても…………







俺は“闇の帝王”か。

一々話題に出す度に“例のあの人”呼ばわりされないといけないのかよ。



ああ、忌まわしき闇の記憶が蘇ってくる(こんな言い回しするからそんな扱いになるんだろうね)……





概して子どもと言うのはごっこ遊びが好きだ。

自分が好きなヒーローやキャラクターを演じて一時の間とは言え自己優越感に浸ることができる。

だが、その犠牲になる方が得るのは何時でも未来永劫死ぬまで(いや、俺の場合死んでも)付きまとってくるトラウマである。


~回想~



~くっ、タニモート卿が復活した!! ――ホッター(堀田)、無事か!?~


~うぐっ、あ、頭が…………~


~くっそぉ、タニモート卿め!! なんて闇の覇気だ!! ホッターのダメージもデカい――まさか、ディメンタ〇か!?~


~嘘だろ、ディ〇ンターまで呼び寄せるなんて……~


呼び寄せてねえよ、この陰気さは素だわ。――って素じゃねえ!!


……おい、そこ、絶望した表情浮かべんな。




え、嘘、その設定で続けんの?


俺…………デ〇メンター役まですんの?


取り敢えずよく分からないのでそれっぽく「あ~う~」とか言って手を振り下ろしてみる。



~な!? 今度はトロールの一撃だと!?~


~奴はどれだけ呼び寄せれば気が済むんだ!?~


今のトロールに見えたの!?

俺誰も呼んでねえよ!?

ってか呼んでも誰も来ねえよ!!(涙)




どんだけタニモート卿陣営人手不足なんだよ。

全部俺一人でやってるんだけど。


~くっそ、こうなったら最終手段しかない~


~ホッター、でも…………~


ああ、やっと終わりか。

ホッターがパト〇ーナム使って俺が倒されて休み時間は終わりだ。


~あいつを倒すにはこれしかない。僕がやらなきゃ~


~ホッター……スマン~


そういうお涙頂戴はいいから早く倒してくれ。

俺いつまで攻撃待機してればいいの?


「う~」とか「あ~」とか何か一人で苦しんでるフリして時間稼ぐの大変なんだけど。


何で敵方のボスが待ってやらないといけないんだよ。

俺メッチャいい闇の帝王じゃん。



その後、ようやく覚悟を決めた主人公が立ち上がるまで、俺は独り「何かタニモート卿が〇ィメンターとかトロールとかを吸収して強くなったようだ!!」みたいなカッコ良く倒す前の無茶振り設定に追いつくために必死で一人何役もこなしていた。


ってかマジで人手不足半端ない。



~タニモート卿、僕が相手だ!!~


やっとか。


~ふっふっふ、ホッター、我が相手に相応しい選ばれた――~


~アバダケ〇ブラ!!~


ああ、はい。

俺のセリフはいらないのね。


――って違う!!

それ主人公が一番使っちゃダメな呪文!!

君が使っていいのは守護霊!!守護霊の呪文!!


設定中途半端過ぎるだろ!!




その後、タニモート卿は「ぐ、ぐわ~」と苦しみながら倒れ、世界の平和は守られたのだ。

※その後の休み時間でも、子供達の飽きが来るまで、「タニモート卿がまた復活した!!」という設定で何度も何度もアバダケダ〇ラで殺されたことをここに追記しておく。



~回想終了~




…………主人公が闇落ちしてまで殺したいとか、どんだけお前等俺のこと嫌ってんだよ。

その後タニモート卿陣営が強化されることも無かったし。


タニモート卿の人生ハードモードすぎんだろ。



「……ぱい、聞いてますか先輩?」


「お兄ちゃん、どうしたの?」


おっと、二人が心配そうにして俺の顔を覗き込んでいた。

……とは言っても俺、ヘルムだけどね。



「ああ、いや、何でもない。……うん、ナンデモナイヨ」



誰にも見えていないことを良いことに、多分俺の瞳は濁りながらもどこか遠くを見つめていたんだと思う。


「そう? 無理せず、何かあるんならちゃんと言ってね? ボク、お兄ちゃんの力になりたいから!」


おお、おお、レンはやっぱり良い子に育ってるな。

レンの純粋無垢な笑顔を見ていると、心が洗われる様だ。


「それで、先輩」


「ん? ――ああ、そうか、“例のあの人”の話ね」


自分で言っててちょっとグサッとくるが、めげない。


「何ですか“例のあの人”って。まあいいです。――どうするんですか? オルトさん達にこのこと、話しますか?」


ああ、成程。

ヤクモが気にしてるのはオルト達にさっきまでの話をするとなると、俺のことがバレてしまう可能性がある、ということか。


全く、コイツもコイツで気配りをし過ぎて自分が疲れちゃうタイプだな。


「ん~どうだろな。最悪第10師団のメンバーにはバレても問題はないかな、とは思ってるが、出来る限り知ってる奴が少ない方がどこかから漏れる可能性が低くなるのも事実だし……」


「要するに、積極的に話はしないけれど、バレたらバレたでそこまで難しく考える必要も無い、って感じですか?」


「まあそんな感じかな。そう考えると、お前はちょっと反応しすぎじゃないか? 何か他に理由でもあんのか?」


ただ単に俺達のことを心配してくれているだけ、でもいいのだが、ヤクモはヤクモで心配事を溜めこむタイプだろう。

何か他にも理由があるかもしれないし…………


「えーっと、別に、先輩に聞いてもらう程殊勝な理由じゃないんですけど……」


「あ、やっぱり理由あるんだ! ヤクモお姉ちゃん、教えてくれない? ボク、お姉ちゃんの力にもなりたいし」


「あの、その、力になってもらうとか、そう言う話でもないんですけど……」


ほう、珍しい。

あのヤクモが言い淀んでいる。


「うーん、まあ言いたくないなら無理には聴かないが、そうじゃないなら、一応言ってみろ」


「…………その、言っても、お二人とも、笑いませんか?」


恐る恐る、と言う風に尋ねてくる。


「うん、勿論!! お兄ちゃんも、そうだよね?」


レンは元気一杯にそう答えるが……


「そう言ってやりたいのは山々だが……笑うかもしれないような内容なの?」


ここで下手にうん、と言って後で笑ってしまっては申し訳ないので、正直に聞いておく。


「えーっと…………場合によっては」


「…………とりあえず言ってみろ」


何かもっと深刻な理由なんだと思っていたが、笑うか笑わないかの違いなら、まあ聞いておいても大丈夫だろう。

後はできるだけ笑わず聞いてやることだな。


「…………分かり、ました。本当に、笑わないで下さいね?」


「ああ、よっぽどのことが無い限りはな」


その返答にレンとヤクモはちょっとムッとした感じになる。

だがそれは一瞬で、あきれた様に溜息をどちらともなくつく。


……女の子的にはこういう時は嘘でも「ああ」と言って欲しいのかもしれないが、俺にそんなリア充力はない。


そうして下手打って笑ってしまった時を想像すると、確答などできるはずがないのだ。

…………へタレで悪かったな。


でもあのヤクモが「笑うかもしれない」と前置きをする位なのだ、身構える位で丁度いいと思うんだが。




「ほんと、先輩はいつもいつも飄々としてるくせに、こういうときだけ真面目なんですから

ズルいですよ…………」


「だね……でも、そういう所がお兄ちゃんのカッコいいところで、素敵なだよね」


「ですね…………」


納得いかなかっただろう二人が何やらコソコソと呟き合っているが、まあそれで気が済むなら愚痴の一つや二つ、許容しようではないか。


「えーっとですね…………」


レンと一言二言話して、理由を語る気になったのか、ヤクモは頬をポリポリと掻きながら語り始めた。

いつにないヤクモの照れたような表情がとても新鮮に映る。




「その、確かに、、その、オルトさん達と先輩たちの事情を共有して、先輩のことを支えたいって想いもあるんですが、その、それと同じくらい……」


「おう」


「…………先輩の事情を自分だけが知っている、自分だけが本当の意味で先輩の助けになれるんだって思うと、それが嬉しくなっちゃうんです」



…………幾らかの沈黙。

その後何とも言えない空気に耐え切れなくなったのか、ヤクモは「たははっ」と照れ臭そうに頭を掻きながらはにかんで見せた。


「もっとも、ボクだけじゃなくシキさんも知ってますから、これは完全にボクの我儘なんですけどね」


「ヤクモお姉ちゃん…………」


「ヤクモ、お前……」


「先輩、レンさん、失望、しましたか? こんな自分勝手なボクのこと」


ヤクモは未だ笑みを浮かべてそんなことを俺達に聞いてくるも、その表情はどことなくいつもの様な力は無い。

俺達と目線を合わせようとしないことからも、それがヤクモの精一杯の痩せ我慢だということが窺える。




コイツは、普段は飄々として周りなんて気にしせず猫みたいに自由奔放だ、みたいに振る舞ってくる癖に……

いつもいつも周りにことばっかり気にして、そうしてこうやって思いの外重たいもの抱えやがって……



ったく。





「――ボ、ボクもだよ!!」


「え? レン、さん?」


「ボクも、同じ、だよ? ボクも、ヤクモお姉ちゃんみたいなこと、考えたことないって言ったら、嘘になるもん!!」



おっと、どうやらレンに先を越されたようだ。

レンはヤクモに向き合うと、感情に任せるままヤクモに言葉をぶつける。


「ボクだって、お兄ちゃんに一杯褒めてもらいたいな、とか、他の人よりもお兄ちゃんの力になれたらな、っていつも思うもん!!」


「レンさん……」


「だから、別に、ヤクモお姉ちゃんだけが悪いとか、そんなことは無いよ? もしそうなら、ボクだって悪いもん!! ――ね、お兄ちゃん?」


レンに水を向けられる。

大体はレンが言った通りだから、もう殆ど言う事なんてないんだけどな。



俺はどこかまだ不安げなヤクモと、期待したような視線を向けて来るレンの二人の頭に手を乱暴に乗せて、そのままガシガシと撫でてやる。


「う、うわっ」


「ちょ、お、お兄ちゃん」


「レンの言った通り、誰が悪いとか、失望するだとかそんな話じゃない。――気にし過ぎだ。お前、若いうちからそんな考え込んでたら将来ハゲんぞ?」


「な!?」


「ったく、何を悩んでるかと思ったら……俺達がそんなことでお前のことを失望なんてするわけないだろ、な、レン?」


さっきは断言してやれなかったが、今回はキチンと言い切ってやる、と言うか言い切れる。


「そうだよ!! ボク、ヤクモお姉ちゃんのこと、大好きだもん!!」


「先輩、レンさん……」


「あのな、人間なんだから、そう言う事考えんのは当たり前なんだよ。俺なんて今迄何度“世界が俺の物になったら”と考えたことか。お前の自分勝手さなんてな、俺の前では可愛いレベルなんだよ」


「ふふっ、何ですか、それ…………」


指で目を小さく拭いながらも、今度はいつもの様な笑みを浮かべてくれる。

そこにはもう、空元気の要素は見て取れない。


ふう、もう大丈夫そうだな…………


「もう、折角悩んでたのに、何だかバカらしくなってきちゃいました」


「おう、そうだ、人間の悩みの大半は考え方によってはバカらしいものなんだよ。それに引き替え俺の悩みはとても崇高なものが多くてだな――」


「先輩が全身鎧とかですか?」


「お兄ちゃんが知り合い少ないこととか?」


「なあ二人とも、言葉は時として暴力よりも尾を引くってこと知ってるか?」


え、何?

俺の悩みって弄られるものなの?

俺の悩みは(笑)を付けられるものなの?



別にヤクモがそれで元気になったんなら良いけど。

うん、気にしてないよ?


カイト、ツヨイコ、マケナイ。




「――せ~んぱい」


「あん、何だよ?」


「えへへ、何でもないでーす!」


何それ、呼んどいて何でもないが一番気になんだけど。

まあヤクモがそれでいいんならいいけど。


「先輩?」


「ん?」


「何でもないですよ~」



何だよ、これ続くの?

流石にずっとこの遣り取りは面倒くさいんだけど。


でもレンは一歩前を歩いてはニコニコと微笑ましいものでも見るかのように振り返るし、この件に関しては放置の姿勢なのか。


まあ本当にヤクモは嬉しそうなので良いんだけどね。




「先輩」


「あん? また何でもないって――」







「――大好きです」


「…………へ?」



その時程、兜を被っていて良かったと思った時もそこまで無いだろう。

多分、物凄い呆けた面をしていたはずだから…………



くそっ……



「ふふん、先輩、不意打ち成功ですね? 油断大敵、ですよ?――あっ、もちろん、レンさんのことも大好きですからね!」


「うん! ボクもヤクモお姉ちゃんのこと、大好きだよ!!」


そう言って二人でゆるゆりしながら楽しそうに先を行く。

俺はそれを後ろから何とも言えない雰囲気を独り醸し出しながら眺めていた。



…………ま、いっか。



◇■◇■◇■


精霊達からは、少年達が無事に帰宅したことを告げられる。

お礼に、と言うか貢献したのと引き換えに再び隠れることを了承。




精霊どんだけかくれんぼ好きなんだよ…………




そして俺達も町に戻ると、俺と同じく精霊魔法を駆使して『地竜の咆哮』の動向を見張っていたであろうミレア、そしてリュートさんの副官たるライザさん、そして今現在総隊長代理のオルトさんが一つの場所に纏まって何やら相談事をしている最中であった。


オルトさんに至ってはいつもの鬼の如く激烈とした形相を一層厳しそうに…………ってあれは素か。


……あれ? 

確か俺達が森の中に入る前にはウォーレイさんがいなかったっけ?

それにリュートさんの姿が見えないぞ?


いくら純血のヴァンパイアだからって仕事中にいなくなって完全に眠りこける、ということは無い…………とは言い切れないか。


ヤクモの前例がある、むしろ体質的に厳しいのなら尚更宿かどこかで先に休んでいるのかもしれない。


まあそれは彼女達に聞いて確認すればいい話だ。


「…………それで、今マーシュ達の帰りを待って…………――っておお、噂をすれば!!」


真っ先に俺達の帰還に気付いたオルトさんが笑顔で出迎えてくれた。

…………その笑顔が逆に怖いです。


「あれ? リュートさんはどうしたんですか? 確かさっきまではウォーレイさんもいらっしゃったと思うんですけど」


おお、ヤクモも同じ疑問を感じたようだ。

良かった、俺だけじゃなくて。


「ああ、今からそのことについて説明する。――ミレア、お前の報告はその後でいいか?」

「ええ、了解しましたわ」


一定の成果でもあったのだろう、ミレアは早く報告したそうにうずうずしていたが、オルトさんの確認を受けると、大人しく引き下がった。


そこは先日アドバイスしたことが効いているのだろう。



「――ウォーレイから報告されたことなんだが、アルとウォーレイ二人で向かった先の村で違法行為を確認したとのことだ」


「? それを、わざわざウォーレイさんは一っ走りして伝えに来たんですか?」


確かに今のオルトさんの言だと、俺もヤクモの様に少々引っ掛かりを覚える。

少なくともウォーレイさんは頭の回る人だ。


単に一つ二つ違法行為を確認した、とかだけでわざわざオルトさんにまで伝えに来るだろうか。

ちゃんと騎士としての職に就いている以上自分で解決する権能もあるのだから、彼女なら一人ででも解決できると思うのだが。



――でも、そうしなかった。



となると、『違法行為』の内容が今回問題となるのだろう。


「ふむ……私も最初はあいつがここまで来たことに驚いたが…………その内容を聴いてみると、そんなことで驚いてもいられないものでな」


「では、その内容が?」


「ああ…………具体的には、ライザに説明してもらおう」


え、何で?


「え? どうして?」


あ、レンが全く同じ疑問を浮かべて、オルトさんに訊いてくれた。

助かる、こういうの、俺が訊くよりレンの方が何か自然だし。


「私はあまり説明事が得意ではない、ライザの方が適切だろう」


「と、言うより大体のことはライザさんの方が得意でしょうけどね」


「くっ、否定、できん」


とのことらしい。

まあオルトさん武人気質だしね。


書類仕事とか他人に事件の内容を語るとか確かに不向きっぽい。


「分かりました、では私の方から――ウォーレイ様とアルセス様が村長宅を訪れ、任務の話を伺っていると、何でも『バジリスクの毒鱗』のメンバーが尋ねて来たそうです」


『バジリスクの毒鱗』…………最近良く耳にするな。


実際俺自身も、それにヤクモやレン、ミレアも酒場で遭遇しちゃってるし。

それにオルトさんと俺はフィオムの一件にも関わっていた幹部とやり合ってる。


何だか一気にきな臭くなってきたな……


「そこで何故そう思われたのかは“勘だ”として教えて頂けませんでしたが、ウォーレイ様とアルセス様は隠れて村長と彼等との遣り取りを窺ったそうです」


ああ、まあウォーレイさんは頭も回る人だし、それにフィオムとの一件に共に関わっていた。

本当に何か事件性でも感じたんだろう。


そういう直感的な部分はどこかクレイに似た何かを感じさせる人だな。



「ふむふむ…………それで、『バジリスクの毒鱗』の輩が何かしらやらかしたんですね」


ヤクモのほぼ確信した問いかけに、ライザさんは首肯する。


「はい…………と言ってもその場で何か乱暴を働いたとかではないのでお二人が動かれることは無かったんですが」


「となると、話の中身が問題だったんだね?」


「はい……伺った話の一部をそのまま申しますと“今月の税の取り立てに来た、女娘の用意は出来ているか”」


「「「「!?」」」」


その話を聴いた途端、俺達3人に、そして合流したてであるミレアはそれぞれ微妙に反応は異なるものの、揃って驚愕する。


「税!? どう言う事ですの!? そんなこと――」


「ああ、勿論そんな税、リューミラルで認めている事実など存在しない」


「では、『バジリスクの毒鱗』は――」


「落ち着け、ミレア」


「ですが!!」


「いいから、一度落ち着け!!」


「っ!! ――申し訳ありません、少し、冷静さを欠いてしまいました」


オルトさんの一喝でミレアは言葉通り冷静さを取り戻したようだ。

流石だな、オルトさん、普段は怒りっぽいけれど、こういう真面目な時はとても隊長然としている。



「まあ憤る気持ちも当然ではあるが、これが全てではないのだ、ライザの続きを聴いてくれ」


え、まだなんかあんの?


「そこでまた妙なんですが、村長がそれに対して“もう既に女性はこの村からは出尽くした”と言って拒否したんですよ」


「それは確かに妙だな…………ウォーレイは実情を見て来たんだろう、どうなんだ?」


「はい、元々ウォーレイ様とアルセス様の任務の一つに村の人口調査も含まれていたそうで、そこもキチンと伺ってます――実際に村を調査しても女性はお年を召した方を除いて村には一人もおらず――だったそうでせうよ」


「「「…………」」」


「ん~とりあえず、そこは分かった。――で、村長に拒否られた『バジリスクの毒鱗』の団員はどうしたんだ?」


未だ全体像が見えてこないので、一先ずライザさんの話の先を促すことにする。


そんな女性を税だ、とか言って要求していたんだ、何かしら脅しか何かで実効性を確保できる方法でも持ってたはずで、まさか何も無く穏便に帰ったなんてことはないだろう。


「ここからもまた奇妙な話になるんですが…………」


また面倒臭そうな前置きがつくのか…………


何だか最近問題事が多すぎて俺も把握しきれなくなってきたんだが。



「“どうする、一端ヴァリスの旦那と合流するか?”“そうだな、一度戻って指示を仰ぐか”」


…………。


ウォーレイさんがその団員達の会話を一言一句逃さず覚えて伝えたという事も確かに驚きだ。

しかし、今ライザさんの口から語られたことの前では霞んでしまう。



……“ヴァリス”?



その名前、さっきも聴いたぞ?



「え!? それって、第3師団の総隊長さんの名前だよね!?」


「ええ、その通りです。――全く、頭が痛くなってきました」


レンとヤクモは俺と同じく、ついさっき仕入れたばかりの情報と被る部分があって、それぞれ本当に頭が痛い思いである。


「同名の別人、と言う可能性は?」


その可能性を本当に信じている訳ではないが、一応指摘してみる。


「そうですね、偶然、ということも有り得なくはないかと」


「それは無いことも無いだろうが……」


ライザさんやオルトさんはその可能性を否定はしていないようだ。

しかし…………


「確かに全くない、とは断言できませんが、この場合はむしろ総隊長であるヴァリスさんであることを疑ってかかった方が良いかと。しかも裏には貴族が関わっていることも」


ヤクモがそう言い切ることに、二人は不思議な顔をしながらも、それ以上の追及はしてこず、ヤクモの次の言葉を待つ。


一方でミレアはあまり事態を把握できていないからか、少々混乱気味である。


「えっとですね、詳しくは省きますが、先程とある情報筋から“第3師団には気を付けろ”的なことを伺ったんですよ。で…………」


自分だけでなく、他にもその話を聴いている者がいる方が信憑性が増す、と判断したのだろう。

ヤクモは目だけで、自分の話を引き継いでほしいと語りかけてきた……多分。


「確か、ウォーレイがアルセスと向かった村ってのはクロー侯爵の領地内にあるんだろ? で、今回その領地の見回りを担当する騎士団が代わったんだ」


俺も同じようにレンに視線を投げる。

レンは一瞬で俺やヤクモの意図を汲み取ってくれたようで、語り始める。


「――それが第3師団、なんだ。第3師団の総隊長さんの“ヴァリス”って人はクロー侯爵の配下って考えても良いんだよね?」


「ええ」


短く、ヤクモが答えると、レンがそれに頷いて続ける。


「という事は今回のことと関係があるかもしれない、と考える方が自然だよね?」


「お、おっしゃりたいことは分かりました。そうなると、最終的にはクロー侯爵が女性を村々から集めている、という事になります!! しかし、クロー侯爵が好色家と言う話はわたくし、耳にしたことがありませんわ!!」


「うむ……それは私もだ。――ライザ、お前は?」


「私も流石にそんな噂は……ですが、貴族の方々の内に好色家の方がいてもおかしくはありません。その方と何かしらの取引があると考えれば」


「動機は幾らでも考え付く、か……」


「そ、それに第3師団が怪しいという事は分かりますが、今までの村長さんのお話を踏まえると、そもそも第3師団がその任を任される以前から女性を連れ去ることは始まっていた訳ではありませんか!!」


「そこは……第1師団もグル、若しくはアレイア公爵かクロー侯爵に何かしらの弱みでも握られてる、とか」


ちょっと苦しいかもしれないが、第1師団が少なくとも関わっている可能性はある、と言いきらないと俺達の仮定は直ぐに潰れてしまう。


そもそもだ、第1師団は他の師団と異なっていて、人数が100人しかいないという特殊性がある。

だからいくら優秀だと言っても人数的限界があるのだ。


そこを上手く突けば第3師団が秘密裏に第1師団の裏をかけなくもない……とも言えるんじゃないか。

だって人数比にして1:10だし。


…………ってか同じ騎士なのに悪事を働いていること前提で考えちゃうって、もう騎士団って末期なのかもな。


そう考えると、ミレアがこれ程までに俺達の仮定に食い下がってくるのも分からなくはない。

彼女はユウさんという素晴らしい騎士に憧れていて、彼女に恥じないよう騎士道を全うしてきた。


だから自分達と同じ騎士が悪事に手を染めている、という事が信じられないのだ。


…………まあまだ仮定の段階だから間違っている可能性もあるんだけど。



「そ、それでも、それでも…………」


「…………まあ今は仮定の話だ。疑わしいってだけ。だから本当にそうなのかどうかこれから確かめればいいんだよ」


「マーシュの言う通りだ。――だからこそ、ウォーレイとリュートがクロー侯爵の別邸に向かっている」


ああ、成程。

もう既に俺達の話を聴く前に二人を向かわせることを決めていたのか。


凄いな、オルトさんは。


……あれ?


「え? オルトさん、ボク等の話を聴く前に、ですか?」


「ああ、そうだが?」


「え、でもそうなると、ボクらが話した“第3師団には気を付けろ”とかそう言った情報を抜きにしてもう既にクロー侯爵を疑っていた、という事になりますが」


「…………ヤクモ、どう言う事だ、説明してくれ」


オルトさんはさも当然です、と言わんばかりに頷いていたが、ヤクモが解説し出すと、途端に頭の許容量をオーバーしてしまったようだ。


「……オルトさん、オルトさんは何故、お二人を行かせたんですか?」


「え? ――いや、だからな、第3師団の総隊長と名前が被った奴の話が出て来ただろう? それでウォーレイの奴が“ふむ、これはクロー侯爵もグルかもな……”って言ったから……それで……」


何か段々尻すぼみになって行く。

普段はない、ヤクモに怒られるという構図がオルトさんを縮こまらせている。


「あの、一応、オルト様も、それだけでご判断なさったわけでは無く!!」


おお、突如ライザさんの待ったがかかる。


「それ以外にもウォーレイ様がアルセス様とお聴きになったことを私達に話して下さったのですが……」


ライザさんが言うには、ウォーレイさんは


・突如として、何の前触れも無く相当強いモンスター(村では【災厄】と呼んでいた)が出始めた。

・領主(クロー侯爵)に討伐、若しくは村の防衛を嘆願したが、全く掛け合ってもらえなかった

・第1師団の騎士にもこの話をしてみたが、その時の回答は素っ気ないもので、当てにはできないものであった

・そこで、冒険者に頼もうという話に

・他の主要なクランでは【災厄】に対応できず、そして最終的に『バジリスクの毒鱗』が担当することになった

・そして【災厄】という脅威に対応する条件として、若い娘を始めとした女性を差し出すことに

・だが、最近になって突如として女性が村の中からいなくなった



と言う話を村長から聞き取っていた。


ただ、オルトさんはこれらを聴いてもどういうことか完全には分からず、今迄信頼してきて、そして結果を出し続けてきたウォーレイさんの言を信じることにした、というのが事の顛末らしい。




…………まあ、言いたいことはあるっちゃあるが。

でも今気にするところはそこじゃない。


新たな情報が追加されて、なお第3師団ひいてはクロー侯爵が怪しいという過程が覆らず、むしろ強化されたと言っても良い。




ってかこれマッチポンプじゃね?




【災厄】って…………まあどんなモンスターかは知らないけどさ、でも俺とウォーレイさん、それとオルトさんは一度この目で自作自演も不可能ではない、ということを見ているのだ。






そう、『バジリスクの毒鱗』はモンスターを毒を持って操る、という独自の術を独占している。




全く、どくどくどくどくと……早口言葉じゃないんだから。




――ってそんな話じゃなくてだな。



そのことも含めると、オルトさんの中では、ウォーレイさんの話を聴いて第3師団やクロー侯爵を疑うに足りると判断したのかもしれない。


本人も言っていた通り、ただそれを言葉にして他人に説明することが不得手なだけで。


まあ本来オルトさんは何て言うか、武将気質だから、その背中で部下に語る、みたいな人だ。

論理的に組み立てて多くの人に説明する、みたいな作業は部下やヤクモの仕事だったんだろうな。






――さて、そうなるとやはり第3師団の総隊長は怪しい。

ってかもう黒に一歩手前のグレー状態。


将棋なら王手、チェスならチェックメイト、電車内なら「この人痴漢です!!」……


――うん、要するに詰む一歩手前(「何が」とは言わないが、場合によってはもう既に詰んでることもある)。


後何かしらの一押しがあれば決着が着く、と言える。




その一押しを今、ウォーレイさんとリュートさんはしに行ったのだ。


ちなみに外堀を埋めるべくリュートさんが眷属のヴァンパイアの騎士さん達を呼び寄せてクロー侯爵の領地内の他の村に既に派遣済みとのこと。


そしてアルセスはそのヴァンパイアさんと合流後、その任の責任者となって頑張ってくれる予定だ。





「――まあ、一先ずはそういうことだ。では、後ミレア達の報告を聴いた後、行動しよう」


「はい、分かりましたわ……」


まだ少し引きずっている感は否めないが、自分の報告する番となったために切り替えて、自分の責を全うしようとする。


「わたくしが監視していた結果、『地竜の咆哮』のランド自身に不可解な行動は無かったものの、恐らく彼の地竜が『竜の碑石』まで行っていたのです。そこで火竜と、そして女性と接触していましたの」


「火竜と? それに女性?」


「はい。見つけた時には既に会話は終わっていたようで、何を話していた、とかは分からなかったんですが、その後、その女性が地竜に乗って、山を降りて来ました」


ん? その竜って、ランドの地竜じゃないのか?


「そしてランドとその女性が接触。会話は性格に聞き取れた訳では無いのですが……“姉貴、絶望した顔だった”“クランに、もしかしたら、帰らないと”“本当か、ビックリした、ごめん”……」


ミレアは精霊からの又聞きだからそんな言い方になってしまうんだろうが…………





何の話してんだ?

全然分かんないんだけど。



何か二人が兄弟っぽいことは分かるけど……



取り敢えずまだ聞きとった部分の続きがあるようなのでそのことに集中する。


「“アンタ、好きな人、いる?”“俺、キツい、耐えられない”“やっぱりキツいよね”“姉貴のことが分かってよかった”“うん、私もスッキリした”――以上が、わたくしが精霊に聴いた話の全てですわ」


「「「「「…………」」」」」




…………あかん。



何があかん、って、もう全部があかん。


この沈黙の空気もあかんし、ミレアの報告ももう何もかもがあかん。


多分直接精霊から聴いたミレア本人も「ほ、本当ですの!?」って聞き返したに違いない。

だってもうすんごい苦々しい顔してんもん。











これ、ヤっちゃってるよね?


しかも姉と弟で。






うわ~~~~~。


何か、色々と台無しだ。


最初の「火竜」とか「姉弟」とかそう言った何気ない情報を今迄の『ラセンの町』と『地竜の咆哮』とかその他諸々を合わせるとさ……







二人が多分、フィオムの言ってた親友とその弟なんだよね?


火竜を連れててしかもクラン云々と言う情報も合わせると、更にその女性が『イフリートの炎爪』でアイリさんの代理をしていると言う『フレア』という人物に行きつく。



で、どういう理由でフィオムと離れ離れになったとかは知らないけども、今回のことを知って、故郷を手伝おうとして戻って来てるんだよね?


あの家の中に男装して隠れてた女性って、今まで聞いた話を踏まえると、多分『地竜の咆哮』が匿うために連れてきたんでしょ?



で、女性のままじゃ何かとマズいから男装させてた。

俺達騎士は信用できないから、自分達で何とかしようと動いて。


で、多分ヴィンセントさんと娘さんのクーさんが慌てふためいていた支出の話云々も彼女らという本来他所者だった人がいきなり増えたため、と考えるといいんじゃないかな。







うん、これでいい、これで良い筈なんだ…………






なのに何でだろう、この折角証拠も漏らさず抑えて犯人を言い当てたのに、犯人が自殺とかしてしまった後みたいなやりきれなさは……






「――これから、どうする?」


珍しい、オルトさんですら、本当にどうしたものか、と言った困惑した様子だ。

フィオムの親友云々については俺しか聴いていないので、彼女が困っているのは……まあ監視対象が姉と一線超えてる可能性が出てきた、ということについてだろう。


いや、もうその件についてはどうしようもないんじゃない?



話を聴いてるともう超えちゃってるんだし。

超える前なら止めようもあるんだろうけど。


ってかもう別にそこはいいじゃん、本人たちの自由で。

俺達が介入すべきことじゃないだろう。



…………でも、こんなの、ラノベとかだけかと思ってた。

まさか実際に姉弟の一線を超える輩がいるとは。





この異世界に来て、ようやく世界って広いんだなぁ、と感じました。


広いと言えば、この大陸って結構広い。

それも北のソルテールと、この町との距離が、ドラゴンとか乗り物に乗らないと確実に一月はかかる位には。


それ程に離れていて、どうしてあの姉弟がこの問題に気付くことができたのか、という疑問もあったが……



そここそ俺達が探しているヨミさんが一役買ったのではないか。

子供達の証言からすると、彼女はこの町の人々と友好的だったように映る。


だから彼女が本来ならこの町の問題を解決したかった。

しかし、これまた彼等の証言であるが、ヨミさんは何かしらの事情があってそれは無理だった。


そこで、Sランク冒険者という圧倒的な能力のお墨付きがある彼女の本領が発揮。

つまり、俺達がフィオム本人から色々と話を聴いたり、こうして人海戦術を用いてようやくたどり着いた、姉弟がこの町を故郷とする、ということに一人で辿り着いたのだ。


まあ俺達と違って、彼女はこの町の住人と友好的だという仮定が存在するから、町の人から直接の証言も得やすい。


後は、“フレア”さんも“ランド”も場所は異なるものの、同じくクランに属する冒険者。

同じ冒険者として渡りをつけることもSランク冒険者という肩書からしたら無理ではないだろう。




そしてフィオムの件もある。


フィオムはきっとその親友と再び顔を会わせてあわよくばお互いにあるであろう誤解を解き、旧友を温めたいと思うだろう…………例えその相手が道を踏み外していたとしても。



そう考えると、あの姉弟についてはそっとしておいて触れたくないという気持ちもあるにはあるが、やはり向き合わねばなるまい……例えその相手が“赤信号、姉弟で渡れば怖くない”を実践している者でも。



「今主に問題なのはこの町のことと、それと今ウォーレイさん達が調査してる件、ですよね? 二手に分かれます?」


「あ~、主力部隊についてはウォーレイ達の方に向かってくれて構わない。この町のことや『地竜の咆哮』については俺だけでも多分何とかなる」


先ずはランドの方と話を付けなければならない。

と言うのもフレアの方が姿を見せず、『地竜の咆哮』が表で活動しているからだ。


多分裏から指示して、それを『地竜の咆哮』やヴィンセントさん達が実践しているんだろう。



それで、弟の方も、フィオムと面識があるはずだから、先ずフィオムの話をして、それで少なくとも不干渉の約束、できれば協力を取り付ける。


邪魔をされたら解決できるものも解決できない。


お互い解決しようとしている問題は同じなのだ。

あっちは騎士を信用できないかもしれないが、少なくともフィオムという個人、それと友好のある人物であれば聞く耳は持ってくれるはず。



で、その話をするんだったら当然フィオムの話をしないといけないから、俺以外はあまり向かない。

だから他のメンバーは基本的にウォーレイさんとリュートさんの援護に回ってもらいたいのだが。



「ふむ、マーシュがそこまで言うのだ、だったらここはマーシュ達に任せて大丈夫だろう」


「そうですね、こっちはボクとレンさんが先輩をサポートします。そっちはライザさんとミレアさん、お願いしますね」


「うん、分かった!!」


「はい、そう言う事でしたら」


「まあ、妥当な所ですわね」



何かトントン拍子でレンとヤクモもこっち側に。

……まあ良いんだけどね。


二人も一応フィオムには会ってるし、フィオムが実は女性だという事実も知ってるから、援護してくれる部分もあるかもしれない。



逆に言うと、ライザさんとミレアは…………一線超えちゃった姉弟に関わるのがちょっと気まずいのかな。



まあ戦力的に言っても3:3だし、魔法でサポートできる俺とミレアもわかれてる。

こんな感じだろう。



「よし、そうと決まったら早速行動だ――レン、ヤクモ。“ランド”を探してくれ!! 直接話を付ける」


「うん、分かった!!」


「了解です、先輩!!」


二人が駆けて行った後を見送り、俺はオルトさん達に向き直り、一言。


「じゃあ、そっちは任せる。もし早いこと決着が着くようなら俺達も向かうわ」


「ああ、先にクロー侯爵の別邸に向かっている。リュートの所の隊員が何人か散らばっているから、もしもの時には彼女らに任せるといい――行くぞ、ライザ、ミレア」


「はい、オルト様」


「了解ですわ! ――では、マーシュさん、お気をつけて」


「ああ、そっちもな」



そうして俺達は別れて、それぞれの任務に就いた。


=====  ????視点  =====


「ランド、どうしたの、そんな深刻そうな顔して?」


「んあ? ――おお、リュンか」


俺が顔を上げると、『地竜の咆哮』立ち上げ以来からの長い付き合いである彼女の心配そうな顔が。


「いや、特にどうと言うわけでもないけど…………姉貴、大丈夫かな、ってな」


「ああ、それね。――フレアさん、一人で行っちゃったもんね。流石にAランク冒険者であの『イフリートの炎爪』の団長を務めてるとは言え、弟としては心配?」


犬人である彼女の耳がピョコピョコと前後する。

これは彼女がちょっとした嘘を交えている時の癖であり、俺を気遣っている時の証左とも言える。


「ははっ、まあな…………」


実際にそこの点に着いては俺は心配していない。


姉貴は凄い。


小さい頃からそうだが、何でもそつなくこなすし、それに他の子供よりもずっと大人びていた。

俺が相棒のキールと心を通じ合わせるのに年単位かかったが、姉貴はニーナとは直ぐに打ち解けていたと言う風に記憶している。


竜騎士としての素質だけでなく、純粋に冒険者としての質も随分と差があるだろうと俺は思っている。




だが、そんな姉貴でも弱点、と言うか、弱ってしまう、と言うかそんな時がある。


それが、ニーナと離れ離れになりそうになったあの過去ときであり、そしてつい最近、姉貴にとって家族とも言える、アイリさんやエンリさん達の一件。




要するに姉貴は自分の大切な存在が危機に陥ったりピンチになったりする時一番弱る。

ああ、そう言えば最近気づいたけど、ニーナの一件の後はドタバタしてたし、俺もまだまだガキだったから気づいてあげられなかったけれど、姉貴、落ち込んでたな……



確か「フィオムと、もう会えないのかな……」ってニーナに弱音溢してたっけ。



俺は姉貴程親しくしていた訳じゃないし、姉貴程彼女との想い出が残っている訳じゃない。


だから姉貴に軽々しくその気持ちが分かる、なんて言ってやれない。

姉貴がどんな思いで彼女と再会に踏み切らないのも、分かってやれない。




でも、今回の件に限って言えば、俺は多分、力になってやれる……と思う。



「でも、姉貴はいつも飄々としてるから、今回も直ぐ終わらせて、何事も無かったかのように『イフリートの炎爪』に帰っちゃうかもな」


「ふーん……ランドはほんと、シスコンだね」


「何でそうなる?」


リュンは俺が姉貴や団長の話をすると、良くこうしてちょっと突き放した態度になる。

何でだろう。


「シスコンじゃん!! だってランドの言葉の端々から“俺、姉貴のこと、大事に想ってるよ”感が伝わって来るもん!! 何なの、フレアさんのこと好きなの?」


「ばっか、確かに俺は姉貴のことは大切だけどな、俺は団長一筋だ」


「ほらっ、またその話になる」


何故ツーンってなるし。

俺は素直に告げているのに…………


「ってかいつまで“団長”って呼んでんの? 今の団長は“テリムさん”でしょ? もうあきらめなさいよ」


「おまっ!? ――あのな、俺にとっては今も昔も団長は“あの人”だけだ! テリムの野郎を団長だと認めたことなんて一度もないぞ!! 奴が団長など、団長が戻っていらっしゃる場所を奪っているようなものじゃないか!!」


「…………何よ、いつもいつも、フレアさんの話のあとには“あの人”のことばっかり。バカランド……」


「バカとは何だバカとは。団長は凄いんだぞ!! ご飯を食べている時のあの小動物の様な癒しの表情、にも拘らず戦いになったら誰よりも強く、誰よりも前線で果敢に戦って見せる!! そして何と言ってもお昼寝をなさっている際のあの無防備な寝顔、あれは反則――」


「はいはい、もういいから変態ランド。――それで、ランドが調べてくれって言ってたこと、皆に聴いて来たけど……」


くっ、リュンめ、いつにも増して辛辣だな。

何だよ、『ノームの土髭』の傘下なんだし、誰だって一度は団長に憧れるものじゃないのか?


流石に姉貴にこんなこと言うのは恥ずいし、姉貴は一応クランも違うから、同じクランで尚且つ一番身近なリュンに話してるのに。


酷い裏切りもあったものだ。




――まあ、そこはおいおいリュンに言い聞かせて、団長愛に目覚めさせてやろう。



「確かに、ランドの言った通り、騎士団の今の第10師団で男性が入団したのは今も以前もあの男だけだったよ? でも、これが何なの?」


「な!? ――くっ、やっぱり、か」



当たって欲しくは、無かったな。

願わくば、姉貴の見間違い聞き間違いで済ませたかった。




――でも、あの姉貴の例え話、そしてあの姉貴の衰弱したような疲れ切った表情。



間違いない、あの例え話は……



あの何でもできる姉貴が、俺達にも暇があったら探してほしい、と頭を下げてまで頼み込んできた、あの男――“カイト”という奴のことなんだ。


そしてその男を見た、というのは即ち、男が一人しかいないあの騎士団の中で、そいつが“カイト”だということ。




そいつが見つかった、ということについてはいい。

むしろ、過去アイリさんやエンリさんからの恩を返す時がついに来た、というものだ。



でも、その彼女達もが必死に探している、という男を見つけたにも関わらず、姉貴がそれを彼女達に伝えるのを苦悩に満ちた表情で渋る。




これがどれ程異常なことか……




くそっ、“カイト”って野郎が、“カイト”って野郎が……










ホモじゃなければ…………






そうだ、よくよく考えてみると、おかしいとは思ったんだ。

女性ばかりの師団である第10師団でどうして男の騎士を受け入れるということに到ったか。


普通の男なら、周りが女性ばかりの環境でなんて、我慢できるはずがない。

それを考えると、女性の師団に男を受け入れるなんて自殺行為にも程がある。


だが、結果はそれを受け入れている。






そう、受け入れても、女性を襲う心配がないんだ。





そいつは男にしか興味がないから。





なんてことだ、いつも冷静な姉貴があそこまで思い悩むのも無理はない。

あの姉貴の例えだと、多分アイリさんかエンリさんのどちらかは“カイト”って男に気があるんだろう。


しかし、そいつが実はホモだった…………



家族や彼女達、そしてクランの仲間を最も大事に想っている優しい姉貴に、そんな酷な事実、伝えられるはずがない。



しかも姉貴はそいつが男とキスをしている現場を直で見たと言う。

その絶望は計り知れない……



何でよりにもよって相手が男なんだよ!!

せめて女性にしろよ!!


そうすれば、もっと他にも良い解決の方法があったかもしれないのに。



俺は、これから最低なことをしなければならない。

姉貴や、もしかしたら恩人たちを傷つけることになるかもしれない。



でも、その役目、姉貴や彼女達にさせるにはあまりに酷なのだ。





これは、これは俺が姉貴の代わりに決着を付けなければ!!


例え姉貴や恩人であるアイリさん・エンリさんに恨まれようとも…………








俺は、俺はあのホモを、アイリさん達の前に連れて行く!!





「あの、その、ランド、大丈夫? すごく、怖い顔――」


「リュン!!」


「は、はい!!」


「あのマーシュとかいうふざけた騎士を俺の前に連れて来てくれ!! 俺がサシで話を付けなければならないんだ!!」


「え、えっと、その…………」


「頼む!! 俺がやらなければ、悲しむ人が出てくるかもしれないんだ!!」


「ラ、ランドがいつにも増して真剣に燃えている…………――分かった!! 皆にも協力してもらうから、20――いや、10分ちょうだい!!」


「ああ――それと、ありがとう、リュン。いつもいつも俺はお前のおかげで頑張れてるよ」


「ッ~~!? ――ランドのバカ!! 5分で見つけて来るわよ!!」



=====  ????視点終了  =====


思った以上に直ぐに“ランド”は見つかった。

って言うかあっちも何か知らんけど、俺のことを探してたみたい。


こっちもこっちで込み入った話をしたかったのもあるが、あっちはあっちで他の人に聞かれたくないとか言っていた。


なので今は俺とランド、二人で相対している。





だが、どう言う事だろう…………






思ってる以上に辛辣な表情でおれを睨んでるんだが。

そんなに騎士が気に入らないのかよ?


言っとくけど、そっちだってやってる――ヤってること大概だからな。

俺も負けじと睨み返してやる(まあ兜だしあんま効果ないけど)。



「よく来たな……」


「そっちこそ。話したいことがあるんだろ?」


「ああ……そっちも、だろう?」


「そうだな……」


その後、しばらくの間、沈黙が続く。




そしてどちらから、と言うのもなく…………






「「お前に、会って欲しい人がいる!!」」






次話予告:変態(仮)と変態(仮)の信念のぶつかり合い!!

最後に勝つのは重度のシスコンか!? それとも男性愛者か!?

こうご期待!!




…………嘘です(半分位は)。


多分次話で、ヨミさんが今、どうしているのか、とか第1師団は白か黒か、みたいなことが分かって来て、急展開を迎える(はずだ)と思います。


年内、若しくは年始にあげられたらいいかな……(あんまり期待しないで下さいね)

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