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精霊さん達マジパネェ……

思った以上に手間取った……


かなりギリギリになりましたが更新です。

俺がノックをする前に、精霊達の何人かが先に壁を通り抜けて家へと入って行った。


『ビューーン!!』

『うぉりゃ~!!』

『絶対見つけるぜーー!!』


彼女らは再び隠れたいがために、自分達が見た『男装をして隠れている』という女性を捜しに行ったのである。

本来汗水たらして捜索しないといけない鬼である俺に上手いこと使われると言う逆転現象が起きているが……まあ本人たちは楽しそうなので俺も気にしないことにする。





―コンコンッ



軽く、木できた扉を打ち付けると、しばらくして中から女性の声が返ってくる。


「はぁーい!!―あら、これ、は……」


姿を現したのは、少々恰幅の良い前掛けをつけたおばさんであった。

全身鎧の騎士たる俺を見て一瞬息が詰まった様な表情になる。

だが、隣にいたレンを視界に入れると、ホッと息をついて朗らかに笑う。


うーん……まあこれが本来の反応か。


レンの外見は鎧を着こもうと、その可愛らしい顔がしっかりと出ているのでそこまで威圧的ではないからな。



「突然の訪問申し訳ない。―リュールクスから来た、第10師団12番隊所属騎士のマーシュだ。こっちはレン」

「はぁ~。可愛らしい騎士様がいたもんだね」

「えへへ、お兄ちゃん、可愛いだって」

「ああ、良かったな」


そう言ってやると更にレンの顔は綻ぶ。

そんなに嬉しいか……


「それで、騎士様が一体こんな何の変哲もない家にどういった御用で……」

「少々話を聴きたい。色々と調べることがあってな。―いいか?」


俺の言葉に、彼女の顔が一瞬引きつったように強張る。

それは先程の領主親子とは異なり、ハッキリと見て取れるものであった。

直ぐに彼女は平静を装い、表情を元の明るいものへと戻していたが……



―俺はその一瞬を見逃さなかった。


相手の心情としては「ついに来たか!!」ってところか。

普通はやっぱりこうなんだよ。

何かしら態度や表情にそれらしい反応が反射的に出てしまう。


領主ともなると駆け引きなんかは日常的にこなしているだろうが、仮に事前に知っていたとしても領民が何のリアクションも示さずに平静を保てると言う方がおかしい。


やはり何かしらの秘密を抱えていることは確かだろう。


「勿論ですとも! さあさ、どうぞ中へ」


ただ、思った以上にすんなりと中へ入れてくれるのでこちらとしては少々拍子抜け感はあった。

もう少し入り口辺りで押し問答があってもおかしくない、位に心構えしていたからな……






中に通されると、このおばさんの家族だろう40代位のダンディーなおじさんがコップ片手に椅子に座って寛いだ様子でいた。

彼はコップを口まで運び、中身を一口飲むと、俺達を視界に入れた。


「ん? 何だ、ロゼ、客人……―……こ、これはこれは! 騎士様……」


演技かどうかは分からなかったが、慌てた様子で彼はコップを近くの机に置いて立ち上がる。


「突然の来訪申し訳ない。リュールクスから来た第10師団12番隊所属のマーシュだ。こっちはレン」

「どうも!」

「はあ……わざわざこんな遠いところまで……私はルドルフと申します。―ささ、どうぞお座りください!」

「悪いな」


俺達は彼に促されるままに椅子へと腰かけることにする。




「―それで、本日はどう言ったご用件で……」


改めて全員が腰かけたのを見計らい、この家の主人たるルドルフさんが切り出した。

ルドルフさん、口髭、カッコいいな……


「この町に来たのは色々と調べることがあってな。領主のヴィンセント氏には許可も得ている。―それで、あんた達領民にも直接聴いておきたいことがあるんだ」


ゴクリッ、と生唾を飲み込む音が。

勿論俺でも、隣にいるレンから出たものでもない。



普通に暮らしていれば騎士との接点などなく緊張している、と好意的に解釈することもできなくはないが……




「こっちも時間が無限というわけではないからな、いきなりで悪いが先ず一つ目。―どうして町の者全員が家の中に? 何か外にいたらダメな理由でもあったのか?」


俺は先ず軽いジャブのつもりでそのことについて尋ねてみた。

彼等が家の中に入ったのは明らかに俺達が着いてからだ。


それは俺達自身の眼だけでなく、ミレアの風の精霊も見た、と言っていた。


まあそのことだけから何か核心的な問題が明らかになる、とまでは思っていない。

精霊達はまだ戻ってこないし、要は本題に入る前の繋ぎ、みたいなものだ。


さて、返答は……


「皆が家の中に? それは凄い偶然!! まあこう言う事も偶にはありますさね!!」


俺達を玄関にて出迎えた恰幅の良いオバサン―ロゼさんが快濶にそう答えた。


ふむ……


「偶然? 町の民全員が誰一人として外に出ていない、なんてことがこの町には有り得ることなのか?」

「そういうことも偶にはあるんじゃないかい? ここは何も無いところだからねぇ……それぞれの作業が終わったら普通は家に帰るよ」

「それでも一人として外を出歩いていないのは不自然じゃないか?」

「あたしらは家の中にいるから直接確認したわけじゃないけど……誰か一人くらいは外を出歩いたりはしてるんじゃないかい?」


ふむ……あくまで単なる偶然を主張するわけか。

このことについては確かに今現に調べている最中なのだから、そう言う風に言われれば誰かがもしかしたら外を出歩いている、という可能性も否定はできない。


そうなると俺達が尋ねていることについては単なる気のせい、という風に片づけられるわけだが……


まあ別にこのこと自体から何かが劇的に進展する、とかは期待していない。

分かればラッキー、位にしか思ってないし。



で、あれば……



「……そうか、分かった。変なことを訊いて悪かったな。―じゃあ次だが……」


そう言うと、明らかに奥さんであるロゼさんはホッとした様子。

それをお髭がイカしたルドルフさんが視線で制する。


ふむ……まあここは追及しないでおこうか。




◇■◇■◇■



その後、二人に近頃の町の状況―作物の成長具合や他の町との交易などについて尋ねて行ったのだが……



「ぼちぼち、ですね」


とか


「最近は天候に恵まれて……」


など当たり障りのない回答ばかりが返ってくる。



予想していたとは言え、ここまでとは……



何度か言葉に詰まるようなことはあっても決定的なボロは出さない―領主では無い彼等がここまでできれば上出来だと言えるだろう。


勿論、だからと言って俺達の疑いが晴れた、なんてことはない。

むしろやりとりを重ねるごとに頭の中に生まれた疑惑のモヤモヤは膨らんで行くばかりだ。


『先代勇者の死体が発見された』という、少し突っ込んだことについても聴いては見た。

だが、報告書で読んだ以上のことは何も得られない。


つまり一週間程この『ラセンの町』に滞在していた勇者―“リカルド・バーグラ―”の死体が突如として町の入口に置かれていた。

本人の死体、町人たちともに調査したがこれと言って死因が分かるでもなく調査は早々に打ち切り。

町民も「勇者様が亡くなるなんて……そんな兆候は全くありませんでした」と口をそろえて原因が何なのか分からないと言った。


―これに関してはそもそも目ぼしい容疑者がいないのだ。

殺せる人間がいない―それは元の世界でいうアリバイ、という話では無くそもそも物理的に殺せる者がいない。

と言うのも、死んだのが一貴族、とかならまだしも相手は勇者だ。


その死んだ“リカルド”という勇者、やはり想像に反せずやたら滅多に強かったという。

警戒心も強く、また他人をあまり寄せ付けないこともあり毒殺、と言う線も早々に消えている(そもそも勇者を殺せる毒、なんてこの世界にあるのかすら疑わしい)。


そんな勇者をそもそも殺せる、と想定することすら困難であり、まして一番に疑わしいのは戦闘のイロハのイすら知らない単なる町民たちなのだ。


仮に雇った冒険者を使ったとしても単なる一介の冒険者風情が倒せる相手ではない―それが“勇者”というものだ。




だからこの件に関しては“不審死”ということで片付いている。



この件が何か彼等が隠していること、或いはヨミさんのことについて関係してるのではと思ったのだが……



さて、どうしたものか―



『カイトー!!』

『やっぱりいたよー!!』

『二階だ二階!! 二階のクローゼットだーー!!』

「!!」




―突如、静まり返っているこの室内に不相応である賑やかな声が頭上より降ってくる。

勿論その声が俺以外に聞えているなんてことは無い。


―精霊達だ。



俺は即座に『索敵』を使ってこの家の中の把握に努める。


……確かに。



どういうわけか、二階の一室にある箱状の物の中に人が感知できた。

狭いだろうに、その中には二人も人が隠れるようにして入っている。

まさか最初の家でアタリを引くとは思ってなかったな……


精霊達が確認するまでは単に勘違い、という可能性も捨てられないので『索敵』を使ってまで確認することは避けていたが……

本当に隠れているらしい。


精霊達の言を借りれば、この人達が男装している女性、ということになるが……



『他の家にも一杯いたよーー!!』

『皆かくれんぼしてるーー!!』

『女の子なのに男の子の服着てたぞー!!』



……しかもこの家に限った話ではないのか。

更に一杯って……



とは言え、これは大きな収穫だ。

リュートさんの部下が俺達の前にこの町に来て調査しているが、その時は特に目新しい情報は入らなかった。


それは彼女達がダメだ、役に立たなかったと言う話ではない。

さっきまでのように町民たちが口裏を合わせて真実を覆い隠そうとしてしまえばそれ以上の追及が難しくなる。


今回町民たちの家の中に何故か「男装した女性が隠れている」という何とも不審な情報を得る切欠だって『精霊魔法』を習得したために得られた。

そしてその確信を持つことができたのだって俺が『索敵』を持っていたからだ。


それを他の騎士達にまで要求するのは酷だろう。




『どうどう!?』

『カイトー、私達ちゃんと見つけたよー!!』

『ねえねえ、もう一回隠れても良い!?』



彼女達は一秒でも早く隠れ直したいのだろう、俺が今どういう状況にいるのかなど気にも留めず口ぐちにそう要求してくる。


ただここで俺が声を出して「いいよ!」なんて言おうものなら、頭のおかしい人の烙印を押されるか、それか普通にレンから心配されることになろう。


俺は慎重に慎重を期し、ゆっくりと首を一度カクッと縦に落とす。

そしてまた元の位置に戻すと……



『うぉっしゃーーー!!』

『今度は絶対見つからないぞーーー!!』

『逃げろ逃げろーー!!』


瞬く間に皆家を飛び出して行って、姿が見えなくなる(とは言ってもどうせまたバレバレなんだろうな……)。



今回は本当に精霊達のおかげで色々と助かっている。

彼女達は基礎的な能力がズバ抜けているだけにとどまらず、こうして秘密裏に色々と教えてくれる。


基本的には彼女らは相当ハイスペックなのだ。

だからこそああ言った子供っぽさが時として危うくもある。


『精霊魔法』を使える者が限られているのは、むしろ正解なのかもしれない。


全裸なのも、見方を変えればどこかの剣精霊みたいにニーソを一々気にするでもない大らかな性格だと言える。


うん、彼女達にはこれからも世話に……



「―ええっと……どうか、なさいましたか?」

「首が……お疲れ、なのでしょうか?」

「…………」



やっぱりおかしかったか……

レンからも「どうかしたの?」という視線を向けられている。


ふむ、まあこの程度なら今までの困難と比較すればどうという事もない。

―むしろ、相手を油断させるための布石になる。



「ああ、いや。話を聴いて成程な、と納得していただけだ」

「と、言う事は、もう……」

「ああ、必要なことは聴いた、かな」


勿論本当はヨミさんのことを訊きたい。

だが焦ってあれもこれもと進めては思わぬ見逃しをすることだってある。

「ところでヨミのことなのだが……」とバカ正直に尋ねるのは、まだ彼等が何を隠しているのかの一角が分かった位の段階なのに、コチラの狙いが“ヨミさんのみ”だと大っぴらにするようなものだ。


もしかしたら、今俺達がやっていることが、ヨミさんについての外堀を埋めているのかもしれないし……

何より相手には有力な後ろ盾ないし協力者がいる可能性があるんだ。


纏まった滞在期間を獲得できた以上拙速に奔るのは安易だろう。


「そ、そうですか……」

「それは良かったです……」


二人は俺の言葉を聞きホッと胸をなでおろす。

その様子を見て、俺は自分の打った手が有効に働いているということを認識する。


そして立ち上がり、レンと共に家を辞そうとする。


二人も立ち上がって俺達を玄関まで見送ろうとしてくれた。



俺は、そこでふと立ち止まって振り返る。



「ああ、そうそう、あと一つ気になったことがあったんだが……」



思い出したかのように切り出すと、二人だけでなく、レンも何だろうか、と疑問符を頭に浮かべる。



そこで俺はカードを切る。









「―どうして2階に人が二人も隠れているんだ?」

「えっ!?」

「ど、どうしてそれを……―あっ!!」



―やっとボロを出してくれたか。

油断させきったところでこれだ、二人とも、全く対応できずに素で答えてしまっていた。



「おや? 今の質問に対してのその反応―意図的に隠していた、ととっても問題ないのか?」

「そ、それは!!」

「い、いえ、そ、そうでは無くて……あの、その……」


咄嗟のことに動揺して気の利いた返答をできないでいる。

まあ2階に隠れているという事自体は既に知っているんだからそこを隠そうとしても無駄なわけだが……

本来単に家の中で隠れていただけなら別に何の罪にもならない。


だからこうして意図的に彼等が隠していたことを現行犯的に証明してどうして隠れていたのかを問いただせる機会を創り出さなければいけなかったわけだが……


「意図的にとなると、このまま帰る訳にはいかなくなったな。―直ぐに呼んで来てくれるか?」

「で、ですが、あの、その!!」

「ん? 何なら俺が自ら調べに行っても良いんだが……」


どっちにしろ今更隠していた、という事実は消せないのだ。

変にまたコソコソと彼等が隠そうとするのなら更に疑いを深めることができる。


「……分かり、ました」


そう、彼等からすればこうして素直に従わねば余計に疑われるのだ。

こうするしかない。


ルドルフさんは、奥さんであるロゼさんに、2階に行って隠れている二人を連れてくるように指示する。

ロゼさんもそこでは抵抗せずに、素直に2階へと上がって行った。


この家はそこまで大きくはない。

2階にも直ぐに到達できるという事は『索敵』で移動するロゼさんの移動時間をリアルタイムで観測すれば分かる。


……今、隠れている二人の所へ到着したな。


ここで下手に何かこそこそと時間がかかるようなら彼女が二人に何か指示を出している、と疑うことになるのだがそれも無く、直ぐに彼女は二人の人を連れて降りてきた。





その二人は……見事なまでに中性的な感じの男性、に見えた。

髪はどちらも首から先はバッサリと切られた跡があったが、俺のように二人が『女性』だという前情報が無ければ男性だと言われても不思議には思わないだろう。


服装も農作業をする男性が着るような服装で纏まっており、胸も多分サラシか何かを巻けば誤魔化せる。

初見であればまず間違いなく二人を『男性』だ、と誤認する位には男装がきちんとなされていた。


しかし、俺には精霊達から男装している現場を視認したという情報、更に言えば『鑑定』で性別が女性だと出た、という女性だと信じて疑わない情報を既に得ているのだ。


流石にこの二人のどちらかが『ヨミさん』本人、なんて都合のいいことは無かった。

まあそこまで上手くいくとは思っていない。


精霊達も「他にも一杯いた」と言っていたし、今のところはヨミさんとは関係があるかもしれない『別問題』だという認識でいる。



今はとにかく、また彼等が油断する状況を作りつつ、後に言い逃れができない方向へと持って行くことに務める。


「ふむ……では教えてもらおう。―どうして彼等(・・)が隠れていたのかを」


俺がそう告げた途端、ルドルフさんとロゼさん夫婦の表情に希望の光が宿ったように映った。

多分、「まだ全部はバレてない!!」みたいな感じなんだろうな……


「そ、それはですね!! 彼等(・・)は二人とも旅人なんです!!」

「ほう、旅人……」

「はい!! 本来なら宿に泊まるべきところ、二人はともにモンスターに追われて、払うお金すら失ったと言います!! 私達家族は他の家とは異なって子供もおりません!! ですので、しばらく私達の家に泊めていた、という次第なのです!!」


今迄とは打って変わったように必死な様子で言い繕うルドルフさん。


「農作業の服装をしているのは?」

「それは……か、彼等がただで泊めてもらうのも申し訳ないと、手伝いを申し出てくれていたのです!! ですから……」


ふむ、ツッコミどころは探せば幾らでもある。


『鑑定』したところ、二人とも戦闘ができるようなスキルがある訳でもなければ基礎的な能力値が秀でている、というわけでもない。


なのにそもそも護衛も付けずに旅をしていた、なんてそんなリスキーなことするのか? とか。

仮にそこを措いたとしても、なら何故そう最初に申し出なかったんだ? 何故隠れていたんだ、とか。



だが、あえてここでそれらは追及しない。


彼等は必死だったからだろう、色々とマズいことを言っている。

まあ彼等からしたらマズくはないのかもしれない。


だが、俺には既に精霊達から聴いた「他にも一杯いる」という情報があるのだ。

つまり、他の家にも女性を男装させて匿っている疑いが高い。


なのに彼等はあたかも匿っているのは自分達の家だけだ、というような言い方をしてしまっている。



ここでそれらの矛盾点を突いてしまうのは簡単だが、もし彼等が正直に全てを話したとしても核心的なことを何も知っていない、という可能性がある。


組織的な謀だと下っ端はただ運び屋的なことだけをさせられていて、重要な情報は何も知らない、みたいなことは良くある話だ。


要するにここで嘘を追及せずに他の家で有効に使う事で、全員が全員、言い逃れができない状態にしないと意味がない。


だからここはあえて……



「ふむ……一応、筋は通っている、か」



騙されたふりをしておく。



「だが他の騎士は納得しないかもしれないからな。今度からはちゃんと隠さず早めに言い出るように」

「は、はい!! 申し訳ありませんでした!!」

「よし、じゃあレン、行くか」

「う、うん!!」


何となくレンは納得いってない、という様子ではあるがいつも以上に空気を読んで、俺に何か意図があるんだということを察してくれる。


本当にできた妹です……




■◇■◇■◇




「……それで、お兄ちゃん、どうだったの?」

「ああ、完全に黒だ。―あれはどっちも女の子だったよ」


ちなみに年齢は19歳と13歳という若い女性だった。


外に出て周りに誰もいないということを確認してから、俺達は結果を確認し合う。


「やっぱり……じゃあ、これから今の情報を使って他の家にも聞き込みに行くって感じ?」


おお、これからやるべきことも大体把握してくれているとは……


「ああ。それで……」



『クスクス……』

『見つからないね……』

『えへへ……何たって光と風の皆が魔法使ってるんだから!!』

『わかりっこないぜ!!』


……お願いだから、本当に隠れる気あるんならしゃべらないで下さい。



俺はとりあえず、一度も見つかっていない精霊達から数人、また見つけたことにして再び「何か有益な情報を提供すれば隠れ直すことができる」という追加ルールを伝える。


すると……


『ん~~……あ!! そう言えば!!』

『ああ!! さっきね!! えっとね!!』

『人間の子供が外でね!! お遊びしてたんだよ!!』


なに!?


「それは本当か!?」


それが事実ならさっきロゼさんが冒頭に言い訳した通りになる。

つまり全員が全員家の中に入っているわけではない、と。


だが今の精霊の言葉を信じるなら、家に帰っていないのは『子供』だという事だ。


大人ならどうして隠れなければいけないかの事情を知っているだろうが、子供の中には大人の事情など知らない、ということも有りえる。


そして「お遊び」ということは、もしかして俺達騎士が来た、という事を知らずに遊び続けているのかもしれない。


本当は隠れなければいけないという事は知っていても、俺達が来たことを知らずに遊びに夢中になっている、なんてことも。




『ほんとだよーーー!!』

『えっとね、うんとね、あっちーーー!!』


精霊の一人が指差したのは、町を少しだけ外に出た森であった。

ふむ……



「レン、ちょっと頼まれてくれないか?」

「えっと……何かな?」

「精霊達曰く、外に出て遊んでいる子供がいるようなんだ。できればその子らから情報を聴き出して欲しい」

「うん、分かった!! お兄ちゃんは?」

「俺はこれから洗いざらい町の家を当たってみる」



この方が適切な役割分担だろう。


俺は精霊の声を聴けるし、『索敵』を使えばどこに隠れているのか、適切に把握することができる。

一方で外に出ている相手が子供なのだ、さっきロゼさん宅を訪れた時見たく俺が行けば萎縮させるだけだろう。



俺は、精霊達から聴いた、凡そ子供達が遊んでいたと思われる場所をレンに説明して別れる。


一応レンがちゃんと向かっているか一人精霊をつけて逐次報告してもらう事にした。

……勿論、それをすればもう一度隠れ直す権利が与えられるという恩賞つきだ。



レンが町を出て、森へと入って行った辺りまで見届け、俺も事に当たろうとした時……



『てやぁ、たぁっ!!』

『ぐぁぁ!!』

『ふん、悪党め!! 成敗してくれる!!』



残っている精霊達が手持無沙汰なのか、何とも言えない寸劇を始めた。

一々注意していたらキリが無いので、遊ばせておいてあげることにし、俺は次の家へと歩を進める。


『まいったか!!』

『は、ははぁ!! 申し訳ありませんでしたぁぁ!!』

『今後、ドラゴンさん達を虐めないと、誓えるか!?』


ほう、どうやら寸劇の内容はこの町のことについてらしい。

悪党役の精霊は深々とヒーロー役の精霊に対して頭を下げている。


『は、はい!! もう二度と!!』

『よし、ならばここから早々に立ち去れ!! 次は無いぞ!!』

『は、はい!! ひ、ひえぇぇぇ……』


要するにあれだ、報告書でもあった、ドラゴン達を悪用しようとする輩を、この町が冒険者を雇って成敗する、ということを遊びにしたようなものなんだろう。


とすると……あれかな?

子供達がしていた遊び、というのがこのことなのだろうか……


『―くっ、今度の敵は手強い!!』

『ま、負けないで!!』

『ドラゴンさん達を守って!!』


おっ、今度は敵が替わったらしい。

ヒーロー役の精霊は右腕を抑えながらも、敵役を睨み付けている。


……結構本格的なのな。


それを面白がって精霊達がマネしている、という図なのだろう。



俺は特に気にするでもなくただ聞こえるままにしていたが……







―聞き捨てならない単語を、俺の耳が拾った。






『くっ、例え、敵が“勇者”であろうと!! ドラゴンさんを傷つける奴は、この私が許さない!!』

『ふっふっふ、ドラゴンを我が物にする邪魔をする者は、何人たりともただでは帰さんぞ!! この勇者がな!!』



な!?


勇者!?


え、単なる山賊とか、その手の悪党じゃなくて!?






演じている精霊は、俺の驚きなど全く意に介することなく演技を続け、そして……





『私は、負けない!! この町の人のためにも!! ドラゴンさんたちのためにも!! ―勇者よ、このSランク冒険者“ヨミ”が相手だ!!』



次はちょっとやることがあるので恐らく明後日になると思います。

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