表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/189

孤島では……

はぁぁ……大変長らくお待たせしました。

久しぶりに結構書いたので疲れましたが、ようやく一話分書き終えることができたのでホッとしてます。


申していた通り、お話としては孤島にいる女の子の一人に視点を当てて、現状の確認を少し。

そしてちょっとだけ話が進んで、という感じですね。



=====  レイナ視点  =====


「今です、シズク!!」

「はい、エフィー様!!」


エフィーの風の刃で私の岩壁はあっけなく崩され、追い打ちに『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の一体が水魔法の詠唱を完成させる。


くっ!!


今迄『ホムラ』、『イツキ』、『ジン』、『アカリ』と散々に負けてきたのだ。


エフィー・雫という本来後衛を務めるべきペアに負けるのは全敗と言う意味でも、前衛の私が魔法使いに負けてしまうと言う意味でも本格的にマズイ。

せめて、せめて一矢報いないと……


「はぁぁ!!」


再び左腕のガントレットに一体化されている『灰玉はいぎょく』を起動させ、術を発動させる。

私が土剣を2本生成するのとほぼ同時に、水で形作られた大きな鎌が襲い掛かってきた。


間に合うか……



クロスさせるように力いっぱい両手の剣を振るい、迫りくる水鎌に叩きつける。


「ぐっ!!」


……だが、鎌の襲い掛かってくる速度の方が私を上回っていたようだ。

全ての威力を剣に乗せる前に鎌と衝突したために、剣を振りきれなかった。


水の鎌こそはじけ飛ぶようにして消えたものの、両腕は鈍器で殴りつけられたかのように痺れてしまった。


くそっ、もうこの試合中では使い物に……―なっ!?



私は目を疑った。


先程雫の鎌を有効足らしめるために私の創った岩壁を破壊したばかりのエフィーが……



「チェックメイト、ですね。レイナさん」



―炎の大剣を4本も作り上げていた。

その4本は腕が痺れて垂れてしまっている私を囲むように四面から狙っている。

ゴウゴウと火花をあげて燃えるその内一本でも、私の身を焦がしつくすには十分な威力を備えているだろう。


『無詠唱』を持っているとはいえ、もはやここまでのものをこれ程早く作り上げてしまうとは……



「私の……負けだ」




私はこれで、今孤島にいる『六神人形シィドゥ・オ・ドール』とのペア全てに完全敗北を喫した……




■◇■◇■◇




「はぁぁ……」

「まあまあそう落ち込まず。レイナさんも強くなってますよ!!」


私よりも強いという事はもう既に理解しているけれど、でも自分より幼いエフィーに何度も何度も倒されては慰められるっていうのは……結構心にくる。


……あぁぁぁ、鬱になりそう。


「ささ、気持ちを入れ替えて今度は『集団戦用』の訓練に移りましょう」


エフィーに促され、流石に私も頭を振って消極的な気持ちを追い出す。

落ち込む時は落ち込むが、こういう切り替えは少佐やギルド長時代に何度もしてきたことなので得意な方だ。


「ああ、分かった。―と言っても今日も想像力を鍛える訓練か?」


今自分の師として私を見てくれているエフィーに指示を仰ごうとするも、最近のことを思い浮かべながら外用の口調(・・・・・)で疑問を尋ねる。

エフィーはエフィーで修行の第6段階に入っているらしく、それは即ち『エフィー自身が師となって誰かを教えること』なのだ。


エフィー自身の能力に疑問があるわけでは無いが、人を教えることが初めてとなると、大丈夫なのかと聞きたくなるのは人の性ではないだろうか。




―一番最初に『イツキ』がモンスターの姿になって私の造ったゴーレムをボコボコにしてからというもの、エフィーは口を酸っぱくして「ゴーレムを作ることができる、その能力自体は凄いです。―問題は一体一体の質が低いこと」だと私に言い聞かせてきた。


それは私も思う所ではあった。


雑魚のモンスターの群に出会ったような時こそゴーレムの創造はとても有効だが、イツキが変形した時のような、化物との戦闘では有象無象も甚だしい。


でも仕方ないと言ったら仕方ないのだ。


と言うのも錬金術を用いてゴーレムを造れるようになってからそう日が経っておらず、これを改善しようと思う前に私は奴隷になってしまったからだ。


だから改善しようと思う暇すら私にはなかったことになる。



まあ奴隷になったこと自体は何も後悔していない。

命の恩人でもある親友ともを助けるためだったのだ、お金なんていくらでも出そう。


ただ結果的にゴーレムの改造が遅れてしまったのはまあその通りだ。

幸いなことに私を買ってくれたあるじは、私にも自分の力を蓄え、磨く時間をくれるという。


そして指導してくれるエフィーがその改善のために「何よりも先ずは想像力を鍛えて下さい」と言うから、そ、その……一先ずその通りにした。



想像力……なのだ。

だから、色んなことを……その、今迄想像してきた。



まだ見ぬ主を頭の中に思い浮かべ、そ、その……色んなことを……



~さあ、レイナ……恥ずかしがってないで俺にその体を見せて~


一糸纏わぬ私は恥じらいつつ右手で胸を覆い隠して左手は……大事な所へ。


~は、恥ずかしい……み、見ないで……―あっ、きゃっ!!~


顔だけ黒塗りになったあるじは優しく私の手を掴んで、そっと取り去ってしまう。


~恥ずかしがることなんか無い……立派で綺麗な体だ。胸は……うん、俺好みな綺麗な形だよ~

~あ、主の……好み……っ~~~~!! ~


恥ずかしすぎて真っ赤になる私をしかし……主は逃がしてはくれない。

顎をキュッと持ち上げられ、視線をあわされてしまう。


~フフッ、いつも『カイト』って呼んでくれって言ってるのに、レイナは何時になったら俺のことを名前で呼んでくれるのかな? その可愛く透き通るような声で俺の名を呼んでおくれよ~


……名前は聴いてるのでキチンと妄想……もとい想像に反映させる。


~し、知らない!! 主は主だ!! それ以上でも、それ以下でも、無い!! ~

~反抗的な態度もまた俺好みだ……俺色に染め甲斐がある。まあじっくり行かせてもらうよ……―でも~

~な、何を!? ―あっ……~



そうして私の顎が、主の唇へと運ばれ……








「もしもーし」

「へへ……えへへへへ」

「レイナさ~ん、戻って来てくださ~い」

「……はっ!?」



目の前で手を広げて左右に行き来させているエフィーが目に飛び込んでくる。


そのエフィー自身は……あきれたように溜息を。


「はぁ……訓練は順調に捗っているようですね」


言っている内容に反して、エフィーの声音はどこかやはりあきれ気味。


……………………。


「…………さて」

「何が『さて』ですか。―はぁぁ、とにかく、今日から本格的にレイナさんのゴーレムを強化して行きましょう。いいですね?」

「……ああ」


ジトーッとした目で語尾を強くして確認されるので、私は頷くしかない。



……エフィー、怖い。



◇■◇■◇■



エフィーとカノン、そしてその妹―主にミリュンがほぼ造り上げた大きな大きな家に移動する。


設計は私が大敗を喫した『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の姉……みたいな存在に当たるサクヤが担った。


階数にして10階、部屋数は1階につき20部屋(1階・2階は広いリビング、風呂、食堂や地下にある3つの階は私達がこれから使う研究所・作戦会議所等があるので実際は3階以上の話だが……)、それを全て木で造り上げたという。


―……なのに所要期間が1月も経っていない。



この凡そ有りえないような規模の建物を造り上げた主力のエフィーやカノンにしても、城でもないのにここまで大きな建物をこの孤島に造り上げようと言う気がよく分からないが、それはそれで修行の一環だと言う。


木はエルフのシーナがこれまた修行で創り出す。

『木魔法』なんて聞いたことが無い。



……色々とここのメンバーは出鱈目だ。

ソルテールでもここまでのメンバーが揃ってるところなんて無かったような気がするけど……



……とは言っても親友もその姉妹もそれはそれで出鱈目だとは聴いてるからそこまで驚きはしないが。





「……さて、では今日まで続けてもらっていた想像力の訓練がどのようにゴーレム強化に繋がるかお話しましょう」



地下2階、まだ少し薄暗くある第1研究所の一室で腰かける私に向かい、エフィーが黒板の前に立ってそう告げる。


完成したとは言え、私達が使うのは基本地下+3階までとなっている。

別に主がそう直接おっしゃったわけではないが、エフィーやリゼル達が率先してそうしている。


4階以上は主に使って欲しいという気遣いだそうだ。


その気持ち自体は尊重すべき尊いことだと思うのだけれど……





……とすると、主は一人で100部屋以上を使うのだろうか?

別にそのこと自体に文句はないんだけれど、用途がとても気になる。





「―先ず、前提の確認ですが、レイナさんがゴーレムや土の剣を創り出せるのはその左腕―『灰玉はいぎょく』があるから、なんですよね?」


エフィーは私の左腕―東の密林に生息する体長4mにもなるメタルヘラクレスの角を用いたガントレット―に視線をやりながら、それと一体化している『灰玉』の形を黒板に描き写していく。


「……ああ。私の師から貰ったものだ。“頑迷の館”を攻略した際に見つけたそうだ」

「“頑迷の館”、ですか。確か……ソルテール帝国がその威信に賭けて攻略したダンジョン、ですか」

「そうだ」


“頑迷の館”はそもそもソルテールが管理していたダンジョンの一つなのだが、普通は自分達から攻略などせずに冒険者が攻略するに任せて、有事の際に備えるのみにしている。

だが、いつまでたってもその冒険者達が攻略できないのに業を煮やした皇帝が「国だろうとダンジョンだろうと我が国に支配できないものは無いという事を教えてやれ!!」と言い出したことに端を発する。


ソルテール帝国は他の国と異なり、実力主義という風潮が強い。

だから自らダンジョンを攻略して功を立てよう、と思う軍人も少なくなかったようで……


皇帝直々のお達しという事もあり、我先にと攻略へと進み出る者は後を絶たなかった。




……しかし、犠牲者は出れど、「攻略した」という報告が上がることは無い。




癇癪を起した子供の用に皇帝が「ええーい!! なぜ一つのダンジョンごときを攻略できん!! なら数だ!! 数で攻めよ!!」と3万もの大軍を派遣することを決める。


歴戦の猛者や名のある百戦錬磨の達人、数々の死線を潜り抜けてきた軍師などがその中には数多く配置された。


家中には「一ダンジョン攻略にこの数は流石に大袈裟じゃ……」とぼやく者もいたそうだが、それでも誰もが「これでこの騒動も終わりか……」とダンジョン攻略を疑わなかった。





……しかし、失敗した。






勿論国内は騒然とした。

ただの皇帝の言葉一つから始まったことだが、実際に自分達の国の実力を疑わなかった民や臣下達にとっては、一ダンジョンを攻略できないという事実が信じられなかった。


最早混沌としてきたこの騒動を治める日が来るのか……

誰もが不安になった。

誰もが攻略をあきらめざるを得ないと思った。




―……そんな中、白羽の矢が立ったのが、私の師だった。





師はこのダンジョン騒動が始まった当初から私に「……何人注ぎ込もうとどうせ失敗するって。荒事を生業としている冒険者でダメなんだ、軍人が束になったところで攻略できるはずがない。―あ~あ、どうせ最終的には私か“ブレイズ”のおっさん辺りにお鉢が回ってくるんだろうな~」とぼやいていた。


若く、そして女性にして大将の一人を務めていた師は皇帝に呼び出された時「……何人連れて行っても、誰を加えても構わん。必ず攻略しろ。さもないと余の沽券に係わる」と言われた。


だが一方で師は「……ダンジョン一つなど、わが身一つで十分です。皇帝の名誉のためにも、更に大軍を率いて向かうよりは『やはりたった一人で攻略できた』と言う方がよろしいでしょう」等と言って……本当にたった1人で攻略して帰ってきたのだ。



その時に勿論報酬はたんまりといただくことになったのだが、『灰玉』はその一つなのだ。



師は灰玉をつまらなそうに見つめて「……あ~、これは私には意味ないしいらないや。レイナ、あげる」と本当にいらないもののように私にポンと渡した。


周りから見れば豪気な性格とでも映るのだろうが……




皇帝に大見得切って部屋に戻ってきた時なんかには「……どうしよう、調子乗って1人で行けるとか言っちゃった。これミスったらマズい奴だ……、ヤバい、想像したら何かちびりそうになってきた。ゴメン、レイナ。一緒に首くくることになるかも」と青ざめた顔をしていた……





「なるほど……錬金術は本来必要な物・術式、そしてそれを書き写した錬成陣があって初めて成立する……『灰玉』は術式をその玉に文字として記憶させることができる……そう言う認識でいいんですね?」

「うむ。だから術を使う際、私はこの『灰玉』に記憶させている術式を起動させるだけでいい。容量自体は3000字とあまり多くは記憶させられないがな」




今記憶させている術式だってそう多くはない。

土や水などを①剣にする術式②ゴーレムの『頭』『胴体』『右腕』『左腕』『右足』『左足』を創る術式(それとは別に、『ゴーレムを造る』ということ自体の術式も)③盾や壁にする術式……後、④よく分からない術式が一つ、貰った時に既に記憶させられていた。


それぞれが大体700字~1000程度なのだが、それでも戦闘中にわざわざ術式を書き起こして発動させる手間を考えるとほぼ魔法における無詠唱のような役割をしてくれているのだ。


「ではやはりこの方法で間違っていないですね……」


私の補足を聴いたエフィーは淡々と黒板に説明のための文字を書き起こしていく。



カツカツカツカツ……カッ。



「レイナさんのゴーレムは、ハッキリ言ってただ単に土を動ける・戦闘できる状態にしただけ、みたいな感じなんです」

「……ああ、そうだろうな。だから簡単なことしかできない。『攻撃しろ』とか『私を守れ』とか」

「でしょうね……ゴーレムの体を見てみれば分かることですが、ただただパーツをくっ付けた急造品のように思えてなりません。ですから、先ずはここを直そうと思いまして」


エフィーの言う通りだ。

『右腕』とか『左腕』なんかを造る術式とは言っても、ゴーレムを立たせて、歩かせて、攻撃させることさえ出来ればいい位にしか思ってなかった。


だから手だって指なんてないし、足も人の筋肉の付き方程凹凸やら何やらはない。


エフィーの言はそれを直して、もっとゴーレムにできることの幅を増やそうという事だ。


「やるなら徹底的にやった方が良いかと思います……ですから、ゴーレムは完全に人型にして下さい」

「人型……つまりオトヒメの創る“アクア・ピープル”とやらみたいにしろ、と?」


私と元は聖女・巫女だと言うセフィナの二人とともに買われた人魚の“オトヒメ”は私達の目の前で、伝承レベルの存在―“アクア・ピープル”を創り出した。


エフィーや直接オトヒメ自身に聴いた話だが“アクア・ピープル”は身体能力・魔法の素養共に高く、そして更に自己の体の状態まで好きに変えられると言う。

それだけに留まらず彼等がモンスターと一線を画される特徴―つまり知恵までも備えているのだ。


最初こそオトヒメは1体それを創造しただけで力尽きたが、今はもう毎日バンバン彼等を複数創り出している。

そして姿形は完全にオトヒメのそれなのだ。


それがこの孤島に既に30は存在して海岸近辺にいる。



「そうですね。あんな感じで人型にして下さい。……と言ってもオトヒメさんの創造とレイナさんの錬金術は似ているようで異なる部分があります」


エフィーは更に青色のついた棒を手に取り、黒板に走らせる。


「オトヒメさんもレイナさんも自分で自然の資源を利用し、新たな存在を創り出す点では同じです。ですがオトヒメさんはもともと“アクア・ピープル”という既に存在が確立されているものを創り出しています」

「まあ私達はそんなもの……普通なら目にする機会など無いだろうがな」

「はい」


更にエフィーは棒を走らせ、オトヒメの絵の下には確固たる〇を、私の絵の下にはグニャグニャとした円状のものを描く。


「“アクア・ピープル”は元々“水の都の長の娘”というオトヒメさんのような『限られた人が』『水』を使ってできた存在、という風に限定がある程度かかってるんです。一方でレイナさんは……」

「うむ……錬金術が使える、という限定こそあるもののそれ以外はそんなに厳しい限定は無いな。土や私の魔力を多少なりとも必要とはするが、それこそオトヒメだって『水』を必要とするんだ」

「はい、その分出来上がった存在にお互い違いが出てくるわけです……オトヒメさんは使う・創る条件が厳しい分出来上がった“アクア・ピープル”は元々出来上がった当初から強いんです」

「ふーむ、“アクア・ピープル”という概念自体がそう言った“強い存在”なのだ、出来上がったものが強くて当然ということだな」

「そうなんです」


私の理解度を確かめながら、エフィーは今度は黄色の棒を取る。


それで私がいつも造るようなただデカいだけのゴーレム、そして恐らく今後私が目指すべき人型のゴーレムを描いて行く。


「ゴーレムはまあクレイさんの前例もありますので一概にこうだとは言えませんが、少なくともレイナさんの錬金術では“土や火、水などの自然の資源を利用して造った自力で動く存在”という事になるんですよね?」

「……そうだな。多分そんな感じの定義だろう」

「とても広い定義・概念だと思いませんか?」

「……確かに、そう言われればそうだな」



改めて自分の使っている力を顧みてみると確かに広いな~と感じる。

ふーむ、この広さだったら……



「この広さだったら結構色々と動かせると思いませんか? 今の姿形じゃなくても“ゴーレム”なんですから」

「……それで人型のゴーレムを造れ、と?」

「あんな関節も何もないようなレベルじゃ本当に殴る蹴る位しかできませんから」


確かにエフィーの言う通りだ。

手だって指すらない状態だ、武器を持たせることすらできない。


関節だって、きちんと人間に寄せればジャンプしたり、その着地の反動を和らげることだってできる。


そもそも私があの大きさのゴーレムにしたのだって矢避けや純粋な戦闘力を欲してのこと。

人の大きさにすれば矢避けは……難しくなるかもしれないけれど、それ以外にできるようになることの方が相当多くなる。


……そうだ、人に似せれば武器だって持たせられる、そうすれば盾だって持てるようになるだろう。

そうなれば矢だって立派に防げるはずだ。


大きいということは確かに力・防御を純粋に固めると言う意味では楽だが、それは見方を変えれば簡単な的が出来てしまうという事。


それよりもやはり、人型にして細かな作業なんかも任せられるようになれば私の負担もぐっと減るだろう。


「オトヒメさんの場合と異なって、レイナさん次第でゴーレムと言っても色んな幅のゴーレムができるんです」

「なるほど……それが想像力の訓練に繋がるのか」

「はい……これを」



エフィーは更に黒板に①とても雑な肉の絵、それから離れたところに②見るからに高級そうな肉料理を描く。



「例えとして料理の話をしましょう。あまり気を悪くしないで聴いて下さいね―今のレイナさんはこの①の何の変哲もないただの干し肉状態です」

「……その例えを聴いて気を悪くするな、と」



普通に聴けばケンカを売っているように思えるが、まあエフィーにその気は無いのだろう。

エフィーも軽く笑みを浮かべて板書を続ける。


「あはは、あくまで例えですから。―レイナさんはこの単なる干し肉を作る工程を1人でなさっています。―レイナさん、干し肉を作る過程にどんなのがあると思います?」

「そんなもの、普通に手頃なモンスターを狩って、食用となる部分を剥ぎ、手頃なサイズに切って干す。中には草葉で臭味をとったりする者もいるだろうが……総じてそんな感じだろう?」

「そうですね、大体そうだと思います。それでも4~6程工程があるわけですよね? しかもそれぞれ冒険者に頼んでモンスターを狩ってもらったり、その肉をギルドで買い取ったり、そしてそれを市場に流したものを一般家庭で買う―そんな感じにそれぞれの工程をそれぞれ別の主体が担うことも少なくないんですよ」

「……ふむ、なるほど。その例えで言うなら―『別の主体が担っている』という部分が私のゴーレムで言えば『頭』や『腕』の部分の術式に当たる訳だな」

「……そうです、凄いですね」


エフィーは本当に感心したと言う風に一度頷いて見せる。

……別にそこまで凄いことを言ったわけでは無いと思うんだけど……


「そんなに感心することでもないだろう。今まで話題に挙がっていたのが何なのかというのを考えれば直ぐに答えは出てくる」

「そうですか……それでもリゼルさんは3回くらい説明しないと分かって下さらないので……」


それは……


「根気強くやっていくしかないな」

「そうですね……―さて」


一つ咳払いを入れ、話を元に戻すエフィー。


「本来、私達の側からすればそれらの工程は一人でできる方が圧倒的に効率がいい訳ですよ」

「そうだな、仲介料や依頼料なんて余計なものを出さないで済む」

「はい……これを“今の”レイナさんに当てはめるならわざわざ『頭』とか『足』とかパーツや部分ごとに分けて作るより、『人型のゴーレムを造る』という一つの概念・術式でやった方が多分効率はずっといいはずなんです……―レイナさん」

「ん?」

「『頭』や『手』『足』以外に『ゴーレムを造る』って言う術式も『灰玉』に記憶させてるんですよね?」

「ああ……これだけで500字か」

「ですがそれ以外の各部位で500字分使っているわけですよ。―……確かに各部位の専門家に任せた方が安心と言えば安心です……モンスターを狩るのは専門の冒険者に、その肉の適正な値段を考えるのはギルドに、一般家庭に捌くにはそのノウハウを持った商人に」

「この場合で言えば……『ゴーレムを造る』という漠然とした概念で人型のゴーレムを創って行くよりかは、『頭』『手』と部分に分けてその部分部分から体を形成して行った方が想像はし易いな。何より『頭』と概念を確定させてからそこを作り上げていくんだ」

「その通りです。“餅は餅屋に”……ご主人様が偶にお使いになる諺だそうです」

「ふむ……なるほど、言い得ているな」

「ですが……」



そこでエフィーの話は先程干し肉の横に描いた高級な肉料理へと話が移る。



「レイナさんにはこの高級料理―それこそ王族の方々が食べそうな肉を目指してもらうんです……私は勿論食べたことありませんけど」

「……私も流石に無いな、それは」

「それでも想像することはできます―王族の方々が食べる料理となると更に工程は複雑になって行きます……多分ですね」

「うむ」

「干し肉ならゴブリンを倒せるレベルがあれば簡単に倒せるモンスターを狩っていればいいわけですから、そこまで力は要求されません。―ですが、こちらの高級料理は王族の方が食べるんです、生半可なモンスターじゃ不敬に当たるとか言い出しかねません」

「ふーむ……冒険者を雇うにしてもランクで言えばB若しくはA以上……」

「はい、それ以外にも切り方焼き方、更には肉料理に合うお酒を選ぶなんてところにまで手を広げないといけません。後、言い出せばきりがありませんが食材そのものだけでなく食器なんかも」

「そしてそれぞれが最高峰の専門的な知識・技術を要求される、わけだな」

「はい……これをレイナさんに当てはめるとですね……」


再び手に棒を取り、黒板へと走らせていく。

あれは……右腕か。


「人型のゴーレムの右腕ともなると、干し肉レベルでは済まされません。指も5本必要ですし、その指にしてもそれぞれ関節を備えているんです。そしてその複雑な指を5本備えて尚且つ掌があってようやく『右手』と形容できるんですね」

「……複雑、だな」

「はい……想像力の訓練以外にも『人体の構造』を私と一緒にディールさんやサクヤさんから学んだと思いますが、正直頭が痛くなります」


本当に人間の体と言うのは複雑だ、それでなお人族には人族の、獣人やエルフにはそれぞれ別に特徴があって異なってしまうのだ……エフィーの言う通り頭が痛くなってくるな。


「高級料理はこれだけの工程がこれだけ深化して複雑を極めるんです、最悪仮にそれぞれの工程に専門家をつけるにしても『焼く』だけで4人5人つけたり『食器の皿を選ぶ』だけで10も20も費やしてはいられないんですよ」

「それは確かにそうだな……主に容量の話でそれは避けたい」

「はい……幾ら何でも限界というものがあります。王族の料理にしたって割り当てられた『財源』というものがあります。無限に使えるわけじゃないはずなんですよ。その中でやりくりしていかないと」


正にエフィーが言うように、私の『灰玉』には容量という限界がある。

3000字と言う中でやりくりしなければならない中、『親指の第一関節』『親指の爪』『親指の皺の部分』みたいに無駄に字数を食うような使い方はできないのだ。



「記憶できる字数を増やす方法は……私に考えがあります。そちらは任せて下さい」

「本当か!? それができれば随分楽になるが……」



言葉にした通り記憶できる数が増えるのならそれに越したことは無いのだが、とは言ってもやはり無限に、というわけにはいかないだろう。

あれもこれもと詰め込むわけにはいかない。


やはり節約出来るところは切り詰め、何とかして行くことを覚えた方が良い。



「はい。ですから、レイナさんには『ゴーレムを造り出す』という術式のみで人型ゴーレムを造ることに専念して欲しいんです」

「ふむ……これでようやく得心がいった。『想像力』とはつまり『足りないところをそれで補え』ということなんだな」

「ええ、端的に言えばそうです。料理の例えでも、1人で『切る』ことも『焼く』こともできれば無駄を省けることに繋がります。それは裏を返せば使える予算が増える―つまり、記憶させたいと思っていても容量との関係で記憶させることができなかった術式を記憶させることができるんです」

「なるほどな……」

「『ゴーレムを造り出す』というたった一つで人に似せることが出来れば出来る程、容量は空きます。そうすればゴーレムに限った話で言うと『防御力を上げる』とか『動きをよくする』とかゴーレムの能力を上げる術式に使えれば『装備を作る』とかみたいなものでもいいんですよ」

「得心いった。ただでさえ高級料理は工程も多様に且つ複雑化するのだ、干し肉程度のレベルで何人もの専門家に任せるといった余裕なんてない、ということだな」

「はい」


そこまでメリットを聴かされれば、やらない理由は無いな。

今のゴーレムの質量は人の10倍以上はある。

そこで、人型ゴーレムを造るとしたら……



……端的に言えば、訓練を積めば、今よりも質の良いゴーレムを10倍の数造れるということになる。

エフィーは「数は質をあげれば勝手についてきます」と最初に言ってくれた。

その言葉の通り最近は調子が悪い時でも40~50体造れるようになった。


……それが単純に考えれば400~500体になるのだ。

私1人で簡単な軍隊の出来上がりだな。




今でさえ『頭』とか『胴体』とかで5つの術式を記憶させていた。

今以上に難しい・複雑な人型のゴーレムを造るとなると、本来なら記憶させなければならない術式など何倍になる事やら……


恐らく字数で言えば10万字を超えるかもしれない。

エフィーが容量を上げる方法を何とかしてくれるそうなので、もしかしたら10万字の容量も覚えられるかもしれない。


けれどもそこで、だ。


10万字―本来なら人型のゴーレムを造るために回す字数を他のこと―たとえばエフィーが言ったような能力上昇の術式だけでなく『右に回れ』とか『後ろに跳べ』と言った命令系統の術式―だって覚えさせることができるかもしれないのだ。


そうすれば今のゴーレムなんて目じゃない、とても質の高い人型のゴーレムが造れる。


……エフィーはだから『想像力』で『ゴーレムを造』れと言ったのだ。




「分かった。ならば徹底的に人に似せて造ろう。……どういった感じが良いだろう?」


とは言うものの、人と言っても色んな人が有り得る。

エルフ然り、人族然り、獣人族然り……


エフィーに尋ねてみると、意外とあっさりとした答えが返ってくる。


「別に普通に人族の女性に似せればいいんじゃないですか? レイナさんが人族なんですし……ゴーレムって基本役割としてはレイナさんの補佐みたいな感じですよね?」

「うむ、その認識で間違ってない」

「ならメイドさんみたいな感じでいいんじゃないですか? 容姿はですから整っていた方が見栄えは良いでしょうし、体型も普通一般のそれに似せてスラッとしていた方がよろしいかと」


エフィーの意見ももっともだった。

事務だろうと戦闘だろうと私が主になることの方が断然多いだろう。


ゴーレムはだから基本的には私の補佐をしてもらう事になる。

とすると……やはりエフィーの言った通り、人の世界でのそう言った主人の身の回りの世話や補佐的役割を担うメイドが適任と言えるだろうか。


「似せるのは容姿だけで構いません。高級料理の話を持ち出すなら、出来る限り節制には務めるべきですが、かと言って専門過ぎることを他の者が担当するのもギャンブル性があります」

「ふむ……つまり『ゴーレムを造る』という術式で造るのは生まれたままの人の姿のままでいい、ということか……メイドらしい衣装なんかは『衣装を作る』みたいな術式でも考えればいい、と言う辺りか?」

「流石です……レイナさんは理解力が本当におありですね」

「……『真理探究』というスキルの恩恵でもある。大体の理屈は基礎知識さえあれば多分理解できるぞ」

「そうですか……―であれば今度サクヤさんに『銃』という武器を目の前で解体してもらいましょう」

「『銃』……あの飛び道具か」

「はい。ご主人様以外あれを理解できる方がいらっしゃらないのです。ですのでできればレイナさんにその構造なんかを理解してもらえれば……と」

「ふむ」


理解できればただ単に知識が増える、というメリットだけではないだろう。


今迄の話を総合すれば……ゴーレムの武器にできる可能性がある。

『武器を造る』位にまで具体性を上げてでもあの引き金を引けば弾丸が飛び出る、という何とも便利な武器を術式化できることは多大なる恩恵をもたらすだろう。



「―了解した。一先ず、私の傍に置いても差し支えない女性型のゴーレムを造ろう」

「はい。私の方でも『灰玉』の容量をあげることができないか頑張ってみます。後、色々と術式も開発してみましょう」



エフィーは第1段階の修行でありとあらゆる種類の本を読み漁ったと言う。

その中には勿論『錬金術』に関するものも。


『錬金術師』である私よりも知識が豊富だなんて……エフィー凄すぎ。





◇■◇■◇■



それから数日経った。

1対1を想定した訓練としては今迄通りエフィーと『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の一体のペア(朧はいないのでそれ以外の誰か)対私、そして基礎能力値の上昇を目指し、この孤島の中で誰もが戦闘のセンスがあると認めるシアに教授を願った。


すると……



「う~ん……エフィーからも聴いていますがレイナはセンスは有るんだと思います。ですので下手に技術云々に走るよりかは基礎をみっちりと鍛えた方が良いんじゃないでしょうか?」



とのこと。


なのでシアが毎日やっているという孤島一周ランニングを行う事にした。



……ハッキリ言って失敗した。

いや、勿論自分のためになることは確かなんだが……




―ただただしんどい。


一周孤島を回るだけでもハッキリ言って忍耐力の必要なことだろう。

それに加えて、だ。

黒騎士にルタル・プアという能力値を一時的に大幅に下げてもらう魔法をかけてもらうというおまけつき。



もうあれをかけてもらったらいつも戦時に鎧を着たりとか、そんな比ではない。




終った時にはもう既に次の日を迎えかけていた。

久しぶりに訓練だけで死にかけた。



でも、その分確実に自分のためになる、という事は分かっている。



これを毎日しているというシアには脱帽だが、流石に私は毎日は無理だ。



でも、自分のためになると分かっている以上、ゴーレムの件について目途が立ったら私もメニューに加えよう。





そして集団戦を想定した訓練と言うと……


「ああ、もう!! レイナ強すぎです!!」

「そうですそうです!! レイナ強すぎです!!」

「こら、ミリュン、ミラ、負けたからと言って拗ねないの」

「「うぅぅ~~~」」


「す、すいません……ミリュン様」

「ごめんなさい……ミラ様」




カノンの妹達―ファーミュラス姉妹を相手に模擬戦をしているのだ。


私は勿論0から人型のゴーレムを造れるよう想像力を働かせ毎回毎回戦っている。

一方ミリュン達は、最近“死淵の魔窟”で出会った下級の魔族を配下に加えたそうだが、その彼女達を積極的に模擬戦に参加させている。



―前提として、カノンたち上級の魔族は個人の能力もさることながら、多くの魔族・魔物を配下にして色んな戦い方で戦闘を行う。


他方、下級の魔族は自己の力がそこまで強くなく、複数が束となって戦うか、それか配下を主として戦わせるかだが、それでも一定以上数の配下を従えるとランクアップもできるらしい。



そして既にアリシア・ミラの配下となった下級魔族の数人は既に配下を増やして中級の魔族になったのだ。




まあ下級の魔族である彼女達が何故“最も死に近い”と言われるダンジョンである“死淵の魔窟”内で彷徨っていたかという経緯は至って簡単だ。


魔族内でも弱い者への偏見・差別は存在する。

そして彼女達は他種族との戦闘でも大した成果をあげられず、魔都内、もっと言えば魔族内での居場所が無くなり、魔大陸を去るべく“死淵の魔窟”内を通るしかなかった。


そしてそのダンジョン内へと足を踏み入れて間もなく遭難することになるのだが、運の良いことに最初に出会ったのは凶悪なモンスター達では無く、配下のモンスターを増やすべく“死淵の魔窟”内に入っていたアリシア達だった。



お互い渡りに船と言った感じで主従の関係を結んだ―という経緯だ。




割合的に言えば




アリシア:ミリュン:ミラ=デーモン1体+インプ2体:インプ1体:デーモン2体+インプ4体




という感じになっている。




デーモンもインプも可愛らしい女の子の容姿に小さな角や黒い羽、そして尻尾が生えているのだが種族的にはデーモンの方が魔力が強く、そして平均して体型的にも大きい。

……ま、まあどこが、と言えば女性的な魅力を感じさせる部分、かな。


一方でインプは人族でいう子供位の大きさのものが多く、魔法ではデーモンのように威力の高い魔法と言うよりは幻惑や『闇魔法』以外の系統の魔法など、器用に色んなことをこなすという特徴を持つ。

インプは……体型こそ小柄だけど、髪なんて薄桃色でサラッと長いし、そこだけを切り取って見ればちゃんとした女性だ。




ミラやアリシアの配下である彼女達の中にはもう既に中級の魔族へと昇華した子達もいる。



かなり人型に近いゴーレムを造れるようになってきたと言っても、いまだに術式・容量は以前のままだ。

油断せずに精進しよう。




◇■◇■◇■



精進せねば……精進せねば……



そのためには『想像力』を鍛えないと、うん。

想像力が偏に、この修行では大事なんだ。



よし……




~……レイナ、今日はもう、寝かさないから~

~ダ、ダメ……あ、明日だって、や、やることがあるんだから~

~やること? 俺とエッチなことする以外に? ~

~あ、当たり前だ!! ~

~……そうなんだ、レイナ、俺とエッチなこと……したくないんだ~

~あ、いや、そ、そういうわけじゃ……むしろ、その、なんて言うか……―ッ!? ~

~ふふっ、やっぱりレイナは可愛いな。キスしたらこんなに真っ赤になっちゃって……やっぱり今日は寝かせられないな~

~ば、ばか……主のばか……~







「……レイナさ~ん、もしも~し」

「ハッ!!」

「おお、今回は一回で気づいてもらえました」



目の前のエフィーが本当に驚いたかのような顔をしている。

むぅ……失敬な。



「それでエフィー、今日は?」

「今日は色々とレイナさんの戦力アップに一役二役買える成果をお話に―ついて来てください」

「そうか……分かった」



エフィーに促されるままについて行く。

ついて行って辿り着いた先は……




「あ、エフィーさん、お待ちしておりました」

「どうも、クオンさん。宜しくお願いします」

「はい。―レイナさん、初めまして。リゼルさんの修行を担当させていただいております“クオン”と申します」

「む、これはご丁寧にどうも。―レイナだ。今は主の奴隷をしている。戦力になるよう鍛えている真っ最中だ、よろしく頼む」


ワープを介して辿り着いたディール殿の隠れ家の前に犬人の女性がいた。

そして“クオン”と自己紹介した彼女の傍には山積みになった大きな鎧が。


「クオンさんは少々特殊なご職業をなさっているそうですが……今はとにかく『鑑定』のように情報を解析する能力をお持ちだと理解しておけばいいかと」


エフィーはクオンに掌を向けて、そう紹介する。


「今回ご依頼いただきましたのはレイナさんの『灰玉』に刻まれた術式の一つですね」

「術式……ああ、あれか」


灰玉には、私が記憶させた術式が大きく分けて3つあるのだが、それとは別に最初からあった術式が1つ存在したのだ。


それが何の術式かは分からないまま今迄来たが……



「今回クオンさんにはその術式を解析してもらったのですが……思った通りでした」


エフィーはクオンに話を促す。


「エフィーさんが私に話を持ちかけて下さる前に、既に当たりをつけていらっしゃったようで。―どうやらレイナさんの『灰玉』にある術式の一つは灰玉に刻める『容量を上げる』術式だったようです。勝手にレイナさんを覗き見せてもらったんですが……大丈夫でしたでしょうか?」

「な!? 本当か!? ―ああ、いや、見られていたことは別に構わない。それより……」

「はい。詳しい方法は……これと関係します」


クオンは視線を、さっきから気になっていた山積みの鎧に移す。


「『灰玉』の容量は、金属を薄い魔力の膜状に溶かして灰玉に張り付けて行くことで増やすことができます。金属の質が高ければ高い程、容量の増え方は良いようですね」

「つまり……この術式は金属を魔力へと変え、それを膜として灰玉に張り付ける―そんな認識でいいのか?」


私の確認に、クオンもエフィーも感心したように頷いてくれる。


「その通りですね。素晴らしい理解力をお持ちで」

「……まあスキルの力によるところが大きいからあまり持ち上げないでいてくれた方が助かる―それで、金属を張り付けるためにその鎧か」

「はい、今カノンさんはご自身の特別な修行でいらっしゃらないので、アリシアさん達やユーリに協力してもらってリビング・アーマーやミスト・アーマーを狩りまくりました。彼等のドロップ品の鎧は純度の高い銅や銀などを含んでいますから」



その説明の後、エフィーが詳しく事細かに術式の内容・錬成陣の意味を教えてくれた。

意味をちゃんと理解していないと発動しないから、正直エフィーの教示はとても助かる。


『真理探究』のスキルは確かに理解力を大幅に上げてくれるだろうが、発想力はそこまで飛躍的には上昇しないのだ。


つまり、示された道の姿形を理解するのは用意なのだけれど、自分で道を作ることはあまり得意とは言えない。


……こんなことではいけないとは分かってはいるのだけれど、今は力が無いのでどうしようもない。


今後の成長に期待してもらって、今はその投資だと思ってもらおう。






説明が終わった後、早速鎧を魔力化することにした。


鎧は全部で52あったがその全てが魔力化することに成功した。

『膜』と言うだけあってその全てを張り付けても『灰玉』の大きさが目に見えて大きくなったという事は無かったが、確実にその容量は増えたのだ。



多少のバラつきはあったものの一つにつき凡そ350~500文字程度の増加だ。



今、『灰玉』に記憶できる文字数は全部で1万7537文字。


これで……



「今後も容量は増やしていく方向で行きますが、“死淵の魔窟”に一人で行かれるのはまだやめた方が良いと思います。―今後ゴーレムの修行が完成したらお一人でもミスト・アーマーやリビング・アーマーを倒しに行って……」

「そうだな。1人ででも容量を上げることができる方が良い。ただ今は私もあそこで独りで入り、生き残れる自信はない。皆の力を頼らせてもらう」

「はい、そうして下さい……―話は変わりますが……」


エフィーはそう言って懐から何かを取り出す……なっ!?


「そ、それは!?」

「やはり『錬金術師』ともなると、この石は一目で分かりますか」

「それは……『賢者の石』ですか?」


あまり感動も無さ気な様子でクオンが尋ねる。


「はい、そうです。これが彼の有名な『賢者の石』です。ディールさんからいただきました」

「いただいたって……」

「何でも昔ディールさんがお仲間と4人で東にあるダンジョンに潜って攻略した時に最奥で見つけたそうです」


何か、どこかで聞いたことの有るような話だ……


「ディールさんは他のお仲間の3人に多大なる恩を売っているそうで、こういう希少なアイテムなんかは全部ディールさんに回ってくるんですが……ディールさんは使わないそうなので『レイナ君の修行にでも役立ててくれ』と」


ああ、ここにもとんでもない人が……





エフィーは手に持った鈍い緑をしたエメラルドのような石を私に見せながら話を進める。


「これと、『金属を魔力化して膜にする』という術式を応用します。―つまり、『賢者の石』を魔力化して、『灰玉』の一部にするんですね」

「……錬金術師の悲願のものをそんなアッサリと使ってしまうと言うんだな」

「とっておいても『貴重なものを持っている』と勝手に自分で焦ってしまうだけですし。ならレイナさんのパワーアップに役立ててもらった方が良いでしょう―よいしょっと……」


エフィーは懐から棒を取り出してせっせと地面に文字を書いていく。


「『賢者の石』を魔力化する術式・錬成陣は私が考えました。これで十中八九大丈夫です」


私に文字の繋がり・意味・内容なんかを話しながらも、エフィーはどんどん錬成陣を書き連ねて行った。

……本当に凄いな。


「『賢者の石』は膨大なエネルギーを秘めている。それを『灰玉』に膜として移すという事は……これもゴーレムを強化するための策か?」


『賢者の石』の用途は幅広いからそのことに使えなくもないだろうが……


「はい、そう言う風に私は考えています。しかもただ単に1体のゴーレムに『賢者の石』の力を注ぎ込んで、という単純なものではありません。それは『賢者の石』の性質である……」

「“一にして全、全にして一”か」

「そうです」


『賢者の石』は完全なる物質だ。

だから“欠ける”という概念が存在しない。

それを利用するとなると……


「レイナさんはゴーレムを一体以上造り出すことを想定しています。ですから『賢者の石』の力も細分化できる方が望ましいわけです」

「だが『賢者の石』の完全性の性質がある」

「はい。だからその性質を利用してゴーレムをちょっとずつ強化するんですよ」

「ちょっとずつ?」

「はい、つまり『賢者の石』は壊すなら壊すでAll or Nothingなんですよね。1/100だけを壊したり破壊なんてことはできない―壊すなら100/100全部壊さないといけない」

「うむ……だから魔力化する、と?」

「はい、魔力化してもその性質自体は変わりません。ただ、魔力化したら―」

「―術式が使えるわけか」

「そう言う事ですね」

「えーっと……」


私とエフィーの話についていけていないクオンが視線を泳がせている。

……まあ普通錬金術に通じていなければこうなる、か。


「まあ具体的にすればどうってことない話です。要するに『ゴーレムの個体が壊れかけたら“賢者の石”の魔力を“灰玉”に戻す』みたいな術式を考えればいいんです」

「出回ることはほぼ皆無と言っても良いだろうが、まあ基本的に使おうと思ってる側は、『賢者の石』が万能だと言っても大抵その用途は力を別の力に変換・取り出して使う事を想定しているだろう」

「極端な例を言いますと、レイナさんがゴーレム100体を造って、それぞれに『賢者の石』の魔力を1/100ずつ与えるとします。普通にゴーレムが倒されてしまえば『賢者の石』の力はそれでパーですけど……」

「ああ、なるほど!! そうするとつまり『賢者の石』の魔力を与えられたゴーレムが倒されること、みたいな発動キーを用意しておいて、それが発動すればその魔力が『灰玉』に戻る様にするんですね!!」

「はい。そうすれば『賢者の石』の完全性の性質によって、『賢者の石』自身が無くなってしまうことなく存続しつづけることができます」

「……とは言ってもその術式自体を考えるのは言う程簡単ではないはずだが?」


私は勿論、理解力は有っても発想力はそう高くはない。

術式を色々と繋げて、新しい・凄い術式を生み出すなんてことは得意ではないから……エフィー任せになるわけだが……


「それは私が何とかします。―これも修行の一環ですから」


そう言った時のエフィーの表情は……10代前半の女の子のそれとはかけ離れた―決意に満ちた戦う者のそれだった。



……彼女のような女の子に、ここまで言わしめる主とは……






それから、エフィーが書いた術式を使って『賢者の石』を魔力化し、これを『灰玉』と一体化させた。

これは別に『賢者の石』を術式として記憶させるわけでは無いので文字数の容量だとかとは関係なくできる。



『賢者の石』が私の左腕に宿っていると思うと不思議な感じがしたが……『灰玉』を手にしたときに似たような経験をしていたのでそこまで深い感慨は湧かなかった。


勿論『賢者の石』と言ったら『錬金術師』の悲願なわけだけれど、それを手にしてしまうと……逆にこんなものか、という感覚も覚えた。





その後はエフィーが「簡単ではありますが、術式を色々と考えてきました。ゴーレムに限りますが『攻撃力を上げる』術式や『耐久力を上げる』術式を初めとした基礎能力上昇系、それと色んな命令の術式も考えてあります。文字数の容量と相談してご自身で取捨選択してください」とそれを書いた羊皮紙の束を渡してくれた。



今は一先ず1万7千字前後の容量を元にゴーレムの基礎能力を上げる術式、細かい命令に従う術式、それとあと一つ二つ……




術式を『灰玉』に記憶させてから、以前言っていた『銃』をサクヤが持ってきて一丁、私達の目の前で解体してくれた。


私が見たのは『拳銃』という種のものだったが、サクヤが解体と並行して、その部分がどういうものなのか、全体の中でどういった役割をしているのかを教えてくれたので特に苦なく理解することができた。


それ自体に大層驚かれたが……

私にとってはエフィーや皆の方が凄いのだけれど……




◇■◇■◇■




主に会いに行っていたセフィナが帰ってきた。

修行で少し付き合ってもらったサクヤもつい先日突然消えたので何事かと思ったが、セフィナと共にお帰りだ。



「おおう、セフィナさん、お帰りなさいです!! ―って、おお~!! 何だか増えてます!!」



真っ先に出迎えたオトヒメが、彼女らの後ろにいた4人に視線をやって驚いた声を上げる。


「あ、あの~……何やスッゴイ仰山綺麗な女性の人がいはるんですけど~」



……とても大胆な衣装をした―白黒のブチ模様をしたビキニと太ももにまで伸びてピチッと食い込んでいるソックスのみという―牛人の女の子が涙目になって私達を見た。


「大丈夫ですよ、ミクバ。皆さん我が神―カイト様のお仲間方ですから」

「そ、そうなんですか~?」

「……う、うぅぅ……自分、すんごい自信無くします、セフィナお姉さん」


今度はまだ成長しきっていないだろう体をしているが、将来性を窺わせる兎人の少女が、そのウサ耳を萎れさせてしょげ込む。


「……カイト様、やっぱりカッコいいから。皆カイト様のこと、好きなんじゃない?」

「……ティーロ……カイト様に、可愛がってもらえるでしょうか?」


……何だかついた途端からもうこの子達後ろ向きなんだけど。


サラシのようなものだけで胸を隠している赤い短髪の鳥人の子はどっちかとは言えないが、他の子3人は何とも頼りなさ気。

……ってまあ皆どの子もエフィーか、それよりも幼そうな女の子だし(見た目と言うよりは精神的な意味でだけれど。もう牛人の女の子なんて胸とお尻がビキニから飛び出しちゃいそう)。




「皆サン、コノ4人の子供たちはご主人サマに助けられ、これからセフィナ様に面倒を見ていただくコトになりマシタ」

「サクヤさんからご説明頂いた通り、この獣人の女の子達はこれより基本的には私が面倒を見させていただきます。ですが至らない点も多々あるかと思いますので、皆さんにも支えて頂けたらと思います」

「へ~またお兄が助けた女の子か~……お兄はもう見境が無いな~」

「……全くであります、兄さん、フェリア達には手を出さないくせに……」

「二人とも、旦那様のことを悪く言うものではありませんよ? ―皆さん、初めまして。私はユーリと……」


リンとフェリア、それにユーリが率先して4人の獣人の女の子達を輪に溶け込めるようにしてあげる。

彼女達は私やセフィナ、オトヒメ、それにアリシア達が孤島に来た時も直ぐに話しかけてくれた。


勿論他のシアや、エフィー達も仲良くしてくれるが、彼女達は如何せん自分達の修行があって他に割ける時間がそれほど多くはない。


それに比べると彼女達3人は比較的余裕もあるのだろう。

それにコミュニケーション能力も高いし、話していて何だか落ち着くというか温かくなると言うか……





「…………」

「? クレイさん、どうしたでありますか?」

「え、えーっと……」


……『剛神クレイ』が兎人のランを凝視している。


彼女がかつて『ノームの土髭』の団長をしていた当時は、『7人目のSランク冒険者に最も近い』とか『当代最強』だとか言われていた。


ギルド長をしていてもそんな彼女をこの目で見る機会は今迄なかったのだが……


「…………ウサギの耳……可愛い」

「ふぇ!?」

「……確かに、可愛いでありますな」

「…………触って、いい?」

「え、えーっと……優しく、して下さいね?」

「…………うん、優しく、する」


そう言ってクレイは無表情のままにランのウサ耳を黙々とモミモミして行く。


「あっ……あっ、じ、自分……ふぁぁぁぁ!!」

「…………」

「エ、エッチぃであります……」



……想像してたような人と全然違う。


普通に可愛い女の子を可愛がっている。

表情は変わらないけれど、普通に私と変わらない人、なのだろうか。





その後は全員で軽く自己紹介をして、セフィナが彼女達4人の面倒を見るために必要となる、簡単な教会を急遽建てることになった。


私も術式を多く記憶させたので細かな命令も下せるようになった。


カノンが修行で手伝えない今、私も戦力になれたと思う。



私とエフィー、アリシア、ミリュン、ミラ、オトヒメが創り出したアクア・ピープル、そして新たに彼女達の配下になったインプやデーモンたちが主となって教会を1日で建てた。


労働力は私達にとっては即集まるので、問題は材料と設計なのだが、前者はシーナが、後者はサクヤとエフィーが主に担ってくれるので問題ない。



メイドのゴーレムもほぼ完成に近づいていたところ、実践的な訓練が出来たので私も収穫が沢山あった。

そしてそのメイドゴーレムの生成を見ていたセフィナから「4人のメイド服も作っていただけませんか?」と頼まれたので作ってあげた。


メイド服は細かいところまで想像力が要求されるのでこれはこれで訓練になる。

セフィナの要求でできるだけ肌を露出させるよう膝よりも丈を短く、その分絶対領域ができるようにソックスは長めに、そして肩と背中は大胆に出した形にしたんだけど……自分で言うのも何だがかなり可愛くできた。


……今後自分のメイドゴーレムもあのデザインを採用させてもらおう。







次の日から普通にセフィナは4人への教えを始めていた。

基礎的な教養から始まり、神学、奉仕学などなど……


そして神学の中にはあるじに祈りを捧げる時間をも別途設けていた。


獣人の4人も普通に行っていた辺り……そこまで私の主になる人は凄いのか、と感心してしまったものだ。



セフィナとは、同期という事もあり、休み時間に少し話をした。


その際水晶にてステータスを見せてもらう機会があったが……




名前:セフィナ・フィアルレン

種族:人族

身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト

性別:女

職業:聖女 

年齢:15歳



Lv.33 ★(女神の祝福)

HP:129/88(+41)

MP:206/120(+86)

STR(筋力):44(+21)

DEF(防御力):41(+21)

INT(賢さ):79(+36)

AGI(素早さ):30(+21)

LUK(運):28(+40)


『巫女の祈りⅢ+α』、『女神の祝福+α』、『治癒魔法』、『生活魔法』、『属性強化』、『詠唱中短縮(治癒)』、『棍棒術』、『盾術』



・巫女の祈り


Ⅰ:コール・白騎士……3体   

Ⅱ:エンジェルソング 

Ⅲ:ポゼッション・ヴァルキリー ★ 

Ⅳ:マーチ・オブ・ナイツ

Ⅴ:ディバイン・プロテクション

Ⅵ:セブンセンス

Ⅶ:ゴッドハンド


+α:レベルⅧが出現。更に女神に送った愛の総量が多ければ多い程聖女の能力値が上昇


Ⅷ:コール・デュランダル



・女神の祝福 +α……あなたの信仰する主への信者が(あなたを含め)5人を超えたようね。『巫女・聖女』としての発する“言葉の力”を少しだけだけど強めておいたから。どんどん増やせば威厳もどんどん増すわ。微量だけど私に送ってくれる愛もこれで補える。頑張って(by 女神代理より)




……何だかとても強くなっていた。




◇■◇■◇■



セフィナが帰って来てから二日後、ディール殿が帰ってきた。

本当ならセフィナと同じ日に帰って来れるはずだったそうだけれど……


「カイト君と話した後、ギルド総本部に出席するという手紙を出しておいた。その手続きで少しだけ面倒なことがあったんだよ」


と告げていた。


「ディールさん、カイト君や第10師団の皆はどうだった?」

「ああ、変わりなく順調にやっていたよ……」

「そう……良かった」

「―ああ、ユウ」

「ん、何?」


ディール殿はそこで嬉しそうに咳払いしてからユウに……


「“変わりなく”と言ったが一人だけ随分と変わった子がいたよ……ヤクモ君、もう大丈夫なようだ」

「…………え?」


一瞬何を聴いたのか分からないと言ったようにユウは尋ね返す。


「フフ、やはり彼女、君達に苦労を掛けまいとできるだけ独りになっていたようだが……―カイト君が君のように助けてあげたらしい」

「カイト君、が……ヤクモを……」

「ああ……」

「うぅっ……良か、った……本当、に、良かった……」


ユウと出会って殆ど日は経っていないが、それでも彼女はとても芯の強いしっかりとした女性だ。

その彼女がここまで安堵した様子で自分の体を抱きしめながら涙を流すなんて……


「カイト君、僕だけじゃなくて、ヤクモまで……」

「ああ……流石とした言い様がないよ」

「ありがとう、カイト君、僕の、大切な人を、ありがとう……」



それから……ユウが流れた涙を止めるまで、私達は静かに彼女を見守り続けた……






「―うん、僕、カイト君の力になりたい!! ―ディールさん!!」

「うむ……と言いたいところだが」

「……あれ?」


二つ返事で了承を得られると思っていたのだろう、外野である私もディール殿の返答に調子を外される。

ユウはユウで「え、えーっと……」といつになく視線をキョドらせて額から汗を流していた。


……ピンチに弱いんだな。


「済まない、ユウとシア君には、私について来てもらおうと思っている」

「と言うと……ギルド総本部ですか?」


シアは特に否があるわけでは無いので普通に受け答えしている。


「そうだね、もう既にカイト君とも話して了承を貰ってしまっている―悪いね、ユウ」

「えーっと……」


少しばつが悪そうに頬を掻いて、でも、直ぐに笑みを浮かべてディール殿に向ける。


「でも、それはディールさんなりに色々と考えがあるんでしょう? いつもディールさんは僕達のためになるよう色んなことをしてくれるもん。今回もそう言う事なんだよね?」

「ユウ……ああ、ユウだけじゃない、カイト君や……―それこそシア君達にも決して悪い話にはならないはずだ」

「……なら、僕はディールさんの言うとおりに動くよ。―だってそれが……カイト君のためにも、なるんだもんね」

「ああ……」


ディール殿は一つまた咳を挟み、今度はシアの方を向く。


「シア君も、いいかい?」


シアは全く考える時間なく頷いた。


「ご主人様が了解していらっしゃるのです、私に否があろうはずがありません」

「……そうかい、分かった―では、シア君とユウが2,3日程いなくなることになる。その間の孤島のしきりはエフィー君」

「はい、分かりました」

「エフィー、皆をよろしくお願いしますね」

「分かりました、シアさん。……シアさんもユウさんもお気をつけて」

「ええ」

「ありがとう」



二人がディール殿について行くことが決まったところで、その日はお開きとなった。




◇■◇■◇■




二人がディール殿について行ってから1日が経った。


私は特にそれで何が変わると言うわけでもなく淡々と修行を積んでいる。


もう既に私が造るメイドゴーレムもほぼ完成の域にまで達している。


容姿はもう一見して誰もが人だと疑わないし、体の方も人の持つ独特の柔らかさ・硬さをできるだけ再現した。

それにゴーレムそれぞれに個性が出るように髪型や容姿・体型も細かに変えている。

異なる武器や事務を担当させることになるかもしれないしね。


そこまでのレベルに達すれば後はその想像力を他の概念に応用すればいい。


『衣装を作る』という術式で可愛らしいフリフリがついた露出の多いメイド服も作れるようになったし(一応下着類も再現している)、銃だって構造は理解した。


後はエフィーの術式製作待ちだ。


『装備を作る』術式だってもう……




「…………レイナ」


ッ!?



想像力を鍛える一環として考え事をしていた最中、不意に後ろから声がかかった。


振り返ると……


「……クレイ、か」


そこには無表情で立って私を見ているクレイが。


「……その、何だ?」


心の動揺を悟られまいと、端的に用件を尋ねる。

何だ、どうしてクレイが私に?


「…………レイナ、色々、作れる?」

「? ……作れる、とは?」


端的に返され、よく分からず尋ね返してします。

……あまりしゃべらないとは聴いていたが、これは……


「…………ウサ耳」

「…………へ? ウサ……耳?」

「…………うん」



……えーっと、何?

私にウサ耳を作れと?




「……作れなくはないが……何に使うんだ?」

「…………装着する」

「いや、まあそれはそうだろうが……」



……ダメだ、会話が終わってしまう。

……もういいや。



「分かった。ちょっと待ってくれ」

「…………うん」



ウサ耳か……

流石に『ゴーレム』ではないから……


何だろう、『装備』かな?

いや『衣装』でもアリ、か。


う~ん……いいや、『装備』で作ってみよう。



私は最近見たウサ耳―獣人の女の子で「自分、こう見えて兎人の端くれなんです!!」と自分にあまり自信がないランという少女の頭をイメージして作り上げる。



程無くして、カチューシャのようにして頭に取り付けることができる、白いウサ耳の完成だ。



それをクレイに手渡す。

クレイは受け取ると、それを先ずじーっと見つめてから徐に頭に装着した。


「…………」

「ど、どうした?」


着けたまま何も言わないのでどこかおかしかったのだろうかと焦ってしまう。


だが、クレイは……





「…………ぴょん」

「…………え?」

「…………ぴょん、ぴょん」

「…………はい?」

「…………クレイ、兎―……ぴょん、ぴょん」



クレイはそう言いながら膝を軽く折って、屈んだ姿勢からゆっくりと膝を伸ばす動作を繰り返す。

ウサ耳が頭に着いているはずなのに、クレイは自分の両手を更に頭にくっ付けて耳のマネをする。


そして……上目遣いで私の瞳を覗き込んで来た。



「……ぴょん、ぴょん―こうすれば、カイト、可愛いと思ってくれるって……リンが……―クレイ、可愛く、ない?」

「うぐっ!?」



そんな純真無垢な目で私を見ないで!!





可愛い!! 可愛いよ!! 普通に可愛い!!


ダメだ、『剛神』とか『武神』とかいう殺伐とした二つ名とのギャップのせいで私がキュン死してしまいそう!!



くっ、これが『7人目のSランクに最も近い』冒険者の実力!?




「―いや~、ほんと、レイナグッジョブ!! 良くやった!!」



なんとか精神の均衡を取り戻そうとしていた私の後ろから、更に新たな声が。



「クレイさん、文句なしに可愛いよ!! お兄が見たら絶対可愛いって言ってくれる。―ね、レイナ?」



そこには右手をサムズアップしたリンが。



「…………ほんとう?」


クレイも確認のためか、小首を傾げてこちらを見てくる。

……くそう、一々可愛い。



「……ああ、可愛いさ。それなら主も確実に満足してくれるだろう」

「…………そう」


そう一言告げると、クレイは……


「…………よかった」


それだけ言って、頭のウサ耳そのままにその場を去って行った。


「レイナ、ほんとに今回はいい仕事したよ!! リンちゃんも大満足!! じゃあね、今度困ったことがあったら私に相談して!! ―あ、クレイさん待って!! もっとそのウサ耳姿をこの目に拝ませて……」



リンはリンで去って行ったクレイを慌ただしく追って行った……







……あの『剛神クレイ』にあそこまで可愛くなるようさせてしまうなんて、ほんと……



私の主って、どんな人なんだろう?





=====  レイナ視点終了  =====



「ハッ、ハックション!!」

「お兄ちゃん大きなクシャミだね」

「先輩、風邪ですか?」


『ラセンの町』への道中、格好悪くクシャミをしてしまった俺を心配する4つの瞳が俺に向けられる。

自分としては特に体調が悪いという事もない今、あまり心配させるようなことはしまいと……



「ああ、いや、別にそんなんじゃねえよ。多分誰かが俺の噂か何か……」


そこまで言って“しまった”と思った。


「え? 噂?」

「先輩、噂って……」


怪訝な顔をして眉をひそめてしまうレンとヤクモ。



―そうだった……確かこっちの世界でこの話は通じないんだっけ……

しまったな……


「えっとな、俺のいたところでは風邪の前兆なんかとは別に、クシャミすると誰かがその人のことを噂してるんじゃ、って考える風習みたいなものがあってだな……」


変に誤魔化すのもかえって心配させてしまうかな、と結構正直に話してみると……



「あ、そうなんだ! ―良かったぁ……お兄ちゃんがまたよく分からないこと言い出したのかと思っちゃった」

「お、おお、スマンな」


分かってはくれたようだが何だかその言い方だと常態的に俺が普段からよく分からないことを言っているように聞こえたんだけど……これお兄ちゃんの気のせい?



「ヤクモも、だから心配すんな」


もう一人心配そうにしていた猫人の女の子にそう気を使うと……


「えっと、いや、確かにそっちも心配ではあったんですが……―そもそも先輩のことを噂してくれるような知り合いの方なんているのかどうかと、そっちの方がボクは心配で……」

「おいコラ」


え、何?

風邪の疑いがある人に精神攻撃ですか?

そうやって心に傷をつけて病原菌たちと共にじわじわと俺を苦しめるつもりなんですか!?


「え、だって先輩ボクら以外の人と一緒にいるところ……見かけたことないですし」

「そ、それはだな……ほらっ、あれだ、ミスターXとか」

「誰ですか、そのいそうでいない適当な人の名前は―はぁ……要するに先輩はボクら以外に親しい知り合いはいない、と」

「お兄ちゃん……」


ああ、やめて!!

家族とかの前でそう言う話されるとダメージデカいから!!

後で「アンタ……大丈夫なの?」とかマジで心配されるのグサッと来るから!!


「まああれだ、それだけお前等に俺の時間を費やしてるんだ。要するに貢いでやってると言っても良い。だからありがたく―ってコラッ、“うんうん”と頷きながら肩に手を置くな!!」

「先輩、世の中悪いことばかりじゃないです。ですから自殺は思いとどまって……」

「お兄ちゃん、大丈夫だよ!! ……きっと!!」


二人とも適当な慰めをどうもありがとう!!

でもな、言葉はちゃんと鋭利な刃物となって人の心を傷つけるんだぞ!!

キチンと覚えとけ!!




「―でも、ボクはその分、先輩のこと、絶対見捨てませんよ?」

「え? ヤクモ、お前……」


突如として、先程までの雰囲気を消した真面目モードのヤクモがクルッと半回転し、俺に背を向ける。


「ボクも、ずっとお兄ちゃんといる!! ―だから、ね? 安心して、お兄ちゃん」

「レン……」


レンはレンで、本当に俺を安心させるかのような笑顔で俺を覗き込む。




二人とも……ったく。






「そっか……見捨てないでいてもらえるのは……まっ、有り難いっちゃあ有り難い」


少し気恥ずかしくなって斜めに視線を外してそう告げる俺に、ヤクモは……


「当たり前です!! …………フフッ」


表情こそ見えないが、小さく笑ったかと思うと、手を後ろに組んでクルッとさらに半回転して正面を向いて……









「勿論、ちゃんとボクの身代わりとなってくれる先輩の屍は拾って見せます!!」

「それもう既に見捨てた後だよね!? 俺見捨てられた挙句死んじゃってるよね!?」

「お兄ちゃん、大丈夫!! 死ぬときはボクも一緒だよ!!」

「うん、そう言う問題じゃないレン!! 全く大丈夫じゃないから!!」

「嫌ですね、先輩。冗談ですよ、冗談」

「冗談にしては性質が悪いと思うんだが……」

「疑い深いですね、冗談に決まってますよ~」

「そうか、ならいいが……」


それでこの話はおしまいと言う風に、俺とレンは行軍する第10師団の面々の下へと戻って行った。


「お兄ちゃん、ボクは別に冗談じゃ……」

「それは尚更悪い。あれは流石に冗談で終らせて……」








「……それこそ当たり前ですよ、先輩。―ボクが先輩を見捨てるなんて……あるはずがありませんから」



分けることも可能ではあったんですが、レイナ一人に2話も3話も使うのは、カイト君をお待ちの方にとっては先延ばし感をお感じになるのかな~、と思って一話でまとめました。


……長かったらすいません。



レイナのおかげで、メイドゴーレムの誕生です!!

これで孤島の事務や家事の一切を心配せずに済みます!!


……まあ結局は可愛い女の子が増えればいいや、的なノリですかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ