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170/189

ディールさんとお話

間が空いて大変申し訳ないです。

代替措置と言うわけではありませんが前回の如くまた2話上げますのでご勘弁を。


11/9 鏡→鑑 ご指摘いただき、修正しました。

   勇将→優秀 

「やあ、カイト君」

「ディール、さん……」


あの獣人の子供達4人を助けた後遭遇したのは、まさに俺が会えないだろうかと思っていた人物だった。

エフィーの朧が傍にいるところを見ると、どうやらあちらも俺を探してくれていたのだろう。

事前に約束か何かでもしていたのかな。


しかし驚いた……

そうは言ってもこちらから出向くことを想定していたところにこうして突如として現れるとは。



「“カイト”って……確か…………先輩、これは一体……」

「ヤクモ、あの、それは、な……」

「あの、その、ね、ヤクモお姉ちゃん……」


ヤクモが思案気に俺の本当の名を呟いた。

そしてそのクリっとした可愛らしい目がこちらに移される。


レンも必死に何か言い募ろうとしてくれるが説明を求められているのはどちらかと言うと俺。

……今の少ない情報だけでもうヤクモの中では色々と繋がったのだろうか、投げかけられる視線はどちらかと言うと……


『……あの、先輩、どういう、ことでしょうか?』みたいな第3者的に説明を求めるものではなく、

『先輩、そう言う事ならもっと早く言って欲しかったです!! ボクにもちゃんと説明、ありますよね!?』という相談とかしなかったことを非難するちょっと怒ったようなものだった。


実際ヤクモの眉はつり上がる様に逆八の字になっている。




……そんなにらみつけるなよ。

ぼうぎょ下がるだろ。

「これ以上ぼうぎょは上がらない様だ」ってなるまで『まるくなる』か『かたくなる』ぞ?




訴えかけられるヤクモの目からそっと視線を外して、ディールさんを向く。


「……お久しぶりです。いらしていたことはセフィナから聴いてます」

「うん。君と話すことがあるから悪いが朧君を借りていた」

「…………」


口元を覆い隠す黒いマフラーに手を掛けた朧は無言で俺に会釈する。

ああ、やっぱりそうか……


「……それと」


ディールさんの視線は俺の隣にいた猫人の女の子に移る。

その表情はどこか柔らかく、暖かみがある。


「……ヤクモ君も、久しぶりだね」

「……はい、ご無沙汰してます」


ヤクモは俺に刺々しい視線を送るのを止める。

そしてぺこりと頭を下げてディールさんに挨拶。



「……元気そうで何より。どうやらカイト君に王都へと足を運んでもらったのは間違いじゃなかったようだ」

「……そう、ですね。先輩にはとても助けてもらってます」


ディールさんとヤクモの間で交わされる言葉は短い。

お互いそれだけ告げるともう語ることは無いと言ったように再び俺に4つの目が向けられる。



俺が何を言うべきかと逡巡し、開口する前にレンが気を遣ってくれた。

いつもその空気を読む能力スキルには助けられてます……


「こ、ここじゃ何だし、どこか落ち着いて話せる所に行かない? ―ね、お兄ちゃん」


俺も断る理由は無い。

腰を下ろして話せる場所については……


「ゴホッ……では私が知っている店に行こう。あそこから気兼ねせずゆっくり話せる」


とディールさんの申し出をありがたく受けさせてもらう。


「ヤクモも……それでいいか」

「……はい」



帰ってきた短い返事を受け、俺達はディールさんが進む後に続いた……








総合区を経て、俺達は冒険者区へとやってきた。

ディールさんが紹介してくれたのは普通にSランク冒険者という力を思う存分振ってギルドに用意させた一室だった。


入る時「何だ何だ……」と目立つ可能性こそ秘めているが、奥へと進めば誰かが偶然に盗み聞く、というようなことはない防音完備の部屋。


中は想像以上に広くは無かったが、逆に余計な物には金を使わずそう言った密談・内緒話をするために必要なものだけが揃えられている。


密偵が入り込んだり誰かが戸に耳をたてることが無いよう魔法もかけられているそうだ。



ディールさんが作らせたわけでは無いそうだが、王都で誰かと大切な話をする際にはここを用いるようにしているらしい。






「ゴホッ……」


いつもの体調不良からくる、というわけではないようだ。

話を始めるため、咳払いしてディールさんが切り出す。


「それで、ヤクモ君も聴く以上前提知識を話しておかないといけないね」

「……先輩のこと、ですよね」


ヤクモの確認に、ディールさんは短く首肯する。

そしてまた短く俺とディールさんの繋がりについて話してもらった。

俺とレンは必要な時にはそれぞれが補足していく、という形で話に加わって行った。








「……と、言うわけだ。どうだね、私とカイト君の関係が大体分かったかい?」

「……要するに先輩は死の危機に瀕していたユウさんを王子様さながらに救い出していた、と。カッコいいですねぇ~流石先輩」

「…………いや、うん」

「そしてそのユウさんが今はリハビリも兼ねてディールさんの隠れ家にいるから、先輩が代わりにヨミさんを捜しながらもボク達を手伝ってくれている、と。ユウさんも『カイト君みたいに素敵な人になら任せられる』と太鼓判を押している」

「ま、まあ……な」

「先輩は先輩の鑑みたいな人ですね~あのユウさんにそこまで言われるなんて……もうユウさんと結婚したらどうですか?」

「いや、その、何だ……別にそう言う話じゃ……」

「勿論私もその代わりにカイト君にできることを色々と提供してはいる。先日もだから騎士団区へと向かったばかりだ」


ディールさんが捕捉してくれる。

だがどういうわけか、ヤクモから浴びせられる言葉と視線はどれもこれもチクリと来る。

端々に何だかトゲのようなものを感じてしまう。


……何だ、何故ヤクモは微妙に膨れている。

別にそう言う話をしていたわけでは無いのに……




「……先輩のすけこまし、とうへんぼく、全身鎧」

「おいちょっと待て!? お前は事情を全て知っても尚『全身鎧』をディスってくんのか!?」

「はいはい、分かってますよ~先輩は事情があるんですよね? 顔バレNGなんですよね~? ―たくっ、どこの有名人ですか先輩は。勇者や貴族じゃあるまいし」

「…………」


……ヤバい、ヤクモさんがご立腹でいらっしゃる。

拗ねたように唇を尖らせてはいるが、いつに増して俺をディスる言葉が辛辣だ。


いつもはもっとソフトに俺をいじってくるのに……



「ま、まあまあヤクモお姉ちゃんも、その辺にして……」


レンがすかさず宥めにかかる。

ヤクモも流石にそれを邪険にはできないようで……


「…………」


コクリと頷いて俺の弁明を聞く姿勢を見せてくれる。

それ自体は有り難いことだしレンにも感謝してるんだが……



そもそもヤクモが何を気にしてこのような態度をとっているのかが正直分からない。

可愛い女の子の機微の変化なんて分かっていれば元の世界から引き続いてボッチなどしていないのだ。


「あの、な……お前は何をそんなに怒ってるんだ。言ってくれないと分からんのだが……」

「べっつに~。ボクは全然怒ってませんよーだ」

「いや、なら何でそんな風に……」

「ふんっ……ただ、先輩が無自覚でいることに悶々としちゃってるだけですよ」

「……え?」



ヤクモの言葉に、思わず聞き返す様にしてしまう。

『無自覚』って……何が?

レンとディールさんは口を挟まず成り行きを見守ってくれている。


その問に答えてくれているのかは分からないが、ヤクモはぽつぽつと言葉を発する。


「……先輩はもっと理解すべきです。どれだけのことをしたのか、それがどれだけボクらにとって重要なことなのかを」

「だから、さっきから言ってるだろう? ユウさんを助けたのだって特段凄いことをした覚えはない普通のことだ、お前の状況とさして変わらん。それなのにディールさんからもそのことで色々と便宜を図ってもらってるんだからお前があれこれと気にする……」

「……ほらっ、やっぱり先輩は理解してないです。ボクらを助けてくれる時は滅茶苦茶察しが良いくせに、そういう所はニブチンさんです。―ボクらにとってユウさんがどういう人か、先輩は分かってくれてるんですよね?」

「それは……」


俺は即座に回答することはせず、一度頭の中で考え直してみる。


……あれだろ?

ユウさんは、奴隷の身分だったヤクモ達を助け出して、なおかつ解放してくれた。

それからというもの、オルトさん、ウォーレイさん、シキさん、アルセス、それにリュートさんとヤクモ皆がユウさんとずっと過ごしてきた。


……うん、大丈夫。

ちゃんと理解はしてる。


「ああ、分かってる。お前達にとってはユウさんは家族という繋がり以上に大切な存在なんだろ?」

「……じゃあ、先輩はそんな人を助けたんです。それだけじゃなくボク自身も助けてもらいました。―ボクが先輩のことをどういう目で見ているか、分かりますか?」

「……やっぱり黙ってたことを怒ってるのか? 俺が本当は『マーシュ』じゃないってことを黙ってたこと……」

「……先輩の、バカ」


うっ……


外れたのか……


ヤクモは俺から視線を外してしまう。

ヤクモがどういうことを考えて、どういう表情をしているか分からなくなる。


拗ねたような声音で小さく告げるその声のみが頼りとなってしまった。


「……『先輩』は『先輩』です。『カイト』だろうが『マーシュ』だろうが、先輩がボクやユウさんを助けてくれた『先輩』だということには違いないんです」

「私もそこには同感だ。カイト君がどのような生い立ちや過程を経ようとも、君を見る者がどの点をとって君の人間性を判断するかは変わらないよ」

「うん、ボクもお兄ちゃんが大好きな『お兄ちゃん』だってことはずっと変わらないからね!」


ディールさんとレンもヤクモと共に俺に笑顔で語りかけてくれる。


「…………その、どう言えばいいか……」


答えあぐねる。

本当に何と返答すればいいか分からない。


何を言えば3人が満足してくれるのか、何を言葉にするのが正解なのか……

頭の中に曖昧な言葉が浮かんできてはその場凌ぎの適当なものだと散って行く。



取り敢えず無言でい続けるのは不味いと結局やはり後延ばしになる言葉を選びそうになった時……


―俺の手がふとヤクモの手に包まれて彼女の鼓動を感じられる部分へと運ばれていく。


「お、おい!?」


慌てて手を引っ込めようとするが二つの小さな手は思った以上に力強く、その場に留められてしまう。


「……先輩、今すぐにはもしかしたら分かってもらえないのかもしれません」

「ちょ、あの、ヤクモ、それはいいが、この手!!」


指摘されたヤクモも頬をほんのり桜色に染めているが視線は俺から外れない。

目はちょっと困った感じは出ていたが真剣そのもの。


流石に俺もじたばたできず、手にじわっと伝わってくる仄かな温かみと柔らかい感触そのままに、ヤクモの話に耳を傾けることに。



……ヤバい、こっちの方が心臓バックバクだわ。



「ボクもちょっと焦り過ぎたかもしれません。先輩がこの気持ちを分かってくれる日が来るまで、ボクは待ってます。それまで(・・・・)先輩は『先輩』、ボクも後輩のままです。ですので―」

「お、おう……」

「―これからも、ご指導よろしくお願いします。先輩・・



はにかみながらもにっこりとほほ笑む。

また、俺には眩しい笑顔で……


届きそうにない太陽みたいな……


手を伸ばしたとしても、決して近づかない。

仮に近づいたとしても、挙句は焼かれてしまいそうな……



―どうしてもそんな笑顔に思えてしまう。



少なからず好ましくは思ってくれているんだろう。

感謝も多分してくれてるのかもしれない。




―そんなヤクモに、こんな思考を巡らせる俺はやはりダメな人間なのだろう。




別にうじうじと悩み考えているつもりはない。




俺の中では自分はそのような大したことの無い人間なのだという結論で完結している。

行動にしても自分にできることをしたとしか思っていない。

マンガやゲーム、アニメのヒーローのようにピンチになっていままでにできなかったことが突如としてできるようになるなんてこと、勿論俺にはないのだ。



俺はヒーローでも何でもない。



だからいつもああして「大したことをしたわけじゃない」とか「普通のことだ」と正直に告げている。


だからいつもこうしてどうすればいいか分からない時には仕方ないさ、と自分に言い聞かせている。





―だからいつもこうして最後には「ああ……」という曖昧な笑みを浮かべるだけになってしまう。








「……さて、一先ずヤクモ君が前提を理解してくれたようなので話を進めようか」


ディールさんがそう切り出してくれる。

ヤクモには申し訳ないが正直話を替えてくれるのは助かる。


ちょっと罪悪感にかられてヤクモの方を盗み見ると……



「……? なんですか、先輩。おかしな顔をして……るのはいつもどおりなんでしたね、はい、すいません。ボクの配慮が足りませんでした」

「おい、サラリと人の顔にケチつけんな」



……何でも無いかのように人をディスってきやがりましたよこの子。


別に顔に自信あるわけじゃないけど凹むよ?

そんな当り屋紛いのことされると流石の俺でも修理できない位ボコボコに凹むよ?



「特に意味はねえよ―ディールさん、進めて下さい」

「うむ。―ゴホッ、それで、私が来たのはこれからのことを『聴く』のと『話す』のと、両方ある」

「じゃあ先ずはボク達の近況から話した方が良いかな?」


レンが小首をかしげるようにして俺に確認してくる。

まあその方がいいか。


「では、私達の今迄のことをお話します」

「宜しく頼む……ヨミ君の捜索はどの辺まで進んでる?」

「正直……どうとも言えませんね。一先ず『ラセンの町』に行こうか、という話にはなってるんですが……」

「ん? 『ラセン』かい?」


そこでディールさんが疑問に思ったようだ。

俺はヤクモが気づいたことを、頭に入っている情報と共に説明する。








「……ん~確かに何とも言い難いね。それは調べてみないと」


ディールさんでも“大賢者の遺産地”―つまり特定の犯罪行為をすると神の天罰が如くペナルティーがある場所―の話は目から鱗ではあったようだが、それ以上は実地に赴かねば何とも言えない様子。


まあヨミさんが何かに巻き込まれたのではないかという『手がかり』を捜しに行くというだけで、そもそも『ラセン』の町にヨミさんが『いる』とまでは流石に思っていない。


認識としては何か新しい情報が得られればラッキー位だからな。




「そうなんです。ですからこっちとしても兎に角行ってみないと、という所なんですよ」

「今の所編成としてはボクと、リュートさんの5番隊、あとミレアさんの12番隊という編成で向かう事を考えています」

「そうか…ゴホッゴホッ…まあ戦力としてはそれだけいれば申し分ないとは言えるね。その編成なら大抵のことには対処できるだろう」


ディールさんからもお墨付きを貰えてあからさまにヤクモはホッとした様子を見せる。

ヤクモでもやっぱりディールさん相手だと緊張するんだな……



「まあ王都にはシキ君と朧君を残しておけば十分対応できるだろうからね」

「シキさん、ですか……」



ヤクモの口からは少々複雑そうな心境を窺わせる言葉が漏れる。

シキさんが唯一俺が『マーシュ』本人ではなく、その上でヨミさん捜索に協力してくれていた人物だということをヤクモは知った。


シキさん自身も仲間に話したいけど話せないというジレンマがあるだろう。

だからヤクモも何とも言えない。




朧については王都に来てもらったらヨミさん捜索には加わってもらうつもりだったが王都を空にするわけにもいかない。


今の所シキさんだけを残すと、俺の事情について知ってくれているのはシキさんだけになる。

朧は行動範囲も広いし、何か情報が入ったら直ぐに俺達に知らせてくれるだろう。




「分かった。無理せず続けてくれ」

「はい。じゃあ後は……」

「私から君達に話しておくこと、かな」



ディールさんは一度話すべきことを頭の中で纏め上げるように虚空を見つめる。

そして直ぐに視線を落として俺とレンを交互に見やる。



「セフィナ君に会ったという事は、シア君が闘技場云々という件は聴いたね?」

「はい、その節は本当にありがとうございます。何でもカノンが妹達と再会できたようで」


奴隷として買われたわけではないので俺のステータスに現れるわけでは無いのだが、話を聴いた分にはカノンの3人の妹がレイナ、オトヒメと一緒に買われたようだ。


確かにカノンが4姉妹の長女だということは聴いていたが、まさかこんなことになるとは露程も思っていなかった。



魔族としての従者を増やしてネズミ算式に召喚できる数を増やそう、という話もだから妹3人がカノンに召喚されて、またこれから更に下級の魔族を従えて妹3人が召喚、という形になって行くだろうとディールさんは予測している。


今カノン自身は特殊な修行をしているそうなので専ら孤島で妹達3人は従者を増やしまくっているという。



どんな子達なのだろう、3人の内2人は双子だという。

カノンとそっくりなんだったらカノンが小さい頃の面影も見えるかもしれない。


レイナやオトヒメという二人とともに会うのが楽しみだ。



「そのことは特に気にする必要は無いよ。ゴホッ、シア君の修行の一環だったんだから。―シア君は最早ユウと同等かそれ以上の強さだよ」


今シアは本格的にユウさんと1対1の戦闘をしているらしい。

セフィナが召喚した白騎士の対として挙げられる黒騎士も最初は混ぜていたのだが、今はもう追い付けないレベルにまで達したそうだ。


シアは本当に優秀だな。


「ユウさんと同等以上の人が先輩の奴隷なんですか……先輩もう何もしなくてもその奴隷の人達に養ってもらえばいいんじゃないですか?」

「いや、流石にそれはダメだろ……」


シア達にしたって皆頑張って修行してくれてるんだ、俺が何もせず、ってのは違うだろ。


「それで、全員の修行の最終段階として何か一つ大きなことを考えている。まあ今の状況を見ていると特に難しいということも無いだろう」

「はい、そちらの方もよろしくお願いします」

「うん、それで私はこれから本当ならそのために色々と考えたいのだが、ゴホッゴホッ……ギルド本部からの呼び出しを受けた」

「え? 本部、ですか?」


俺もヤクモと同じく『?』だ。


本部から呼び出し?


「うむ。Sランク冒険者や主要なクラン―七大クランの団長格にだね。まあ行く必要は本来無いのだが」

「でも行った方がいいんですよね?」


率直に訊いてみる。


「そうだね。何があったかは知らないが余程なりふり構っていられないらしい。これだけ大物を揃えるんだ、きっと話を聴くだけでも色々と利益にはなるんだろう」

「先輩、レンさん……それ多分『揺すったり脅したり』って意味ですよ」

「俺もそう思う……」

「……ボクも」


そっと耳打ちしてきたヤクモに頷いておく俺とレン。

ディールさんは良い人だけどその分こういうちょっと奥歯に物が挟まったような言い方をするときは、確実に裏に何かを含んでいる。


俺もこういう言葉の使い方には気をつけないと……



「だから一度戻ってからはギルド本部に向かわなければならない。過保護で申し訳ないがユウは連れて行こうと思う。そうするとユウと共に修行しているシア君も連れて行くことになるんだが……」

「まあディールさんの下にいるのが一番安心ちゃあ安心ですからね、シア本人が良いのなら私も良いと思いますよ」


正直言ってディールさんが誰かに殺られるという状況を想像できない。

孤島の中も確かに物理的侵入を防いでいるという意味では安心だが、逆に孤島ならではの危険もある。


何よりどうしてあんな空間が存在するのか、という謎は未だに解けていない。

ディールさんが言うにはどうやら『時空魔法』が絡んでいる、という話だがそれ以上となると本当によく分かっていないのだ。


そうするとどうしても拭えない、しかしそれが何なのかは分かっていないという不安が残る。


じゃあもう寄らば大樹の陰ではないが、ディールさんの下にいるか孤島の中にいるかは個人的には比べるものではないし、どっちもどっち。


その時々によって臨機応変に対応すればいいだろう。




「ふむ、分かった。私の下にいるんだ。危険は無いだろう」


そう断言してしまうのもディールさんの強さだろうな。


「その、それで一ついいですか?」

「ふむ、何だろう?」


一つ、この王都に来てからどうしてもディールさんに聴いておきたかったことがあった。

ようやくディールさんと話すことができるのでこの機会を失うことなく聴いておくことにする。


「“スラン”という人物をご存じですか?」

「……ああ、あの暑っ苦しい人のことですか、先輩?」

「そうだ。―どうですか、ディールさん」

「“スラン”、か……」


ディールさんは思案気に顎に手をやり考え出す。



それは以前、俺、そしてヤクモとレンの3人で酒場に飲みに行ったときのことだ。

『バジリスクの毒鱗』のメンバーに絡まれていた12番隊隊長のミレアを助けようとしていたら……スランが現れた。


第1師団に所属している、というところまではいいのだが、そいつが何とも親しげに俺に接触してきた。


―だが俺には、ディールさんから『マーシュ』が“スラン”と名乗る人物と知り合いだったという情報は得られていないのだ。


これは下手を打つと正体が第10師団以外の者に知られかねない。


俺はそう言うわけで、ディールさんが知っているのかどうかを知りたい、という趣旨を伝える。


そしてディールさんの返答を待つのだが……




「……その存在自体は知っている。だがそいつが『マーシュ』君の知人だという情報は私も知らないな」

「え? じゃああの暑苦しい人は何なんですか? 全く見ず知らずなのに先輩に話しかけて来てたんでしょうか!?」

「そうだとすると……大分危ない人だね」


ヤクモとレンの懸念も分かる。

多分どっちの意味でも『危ない人』だという可能性があるな……


ディールさんもその意見には賛成な様で、その顔は自然と険しくなっていく。


「ふむ……勿論私が彼から聴いていない繋がりがある、という可能性も否定はできないが、第1師団のような優秀所となると話は別だろう。流石に妙じゃないかい? 確か……」

「俺と同じで全身鎧でした。となると……中身は別人、という可能性もありますかね?」

「私がマーシュ君から聴き忘れていた、という可能性よりかは高いだろう」


マジか。

でも、じゃあ何のためにアイツは俺に接触してきたんだろう。

俺と同じように潜入してるのなら、その人物―つまりスラン―の人的繋がりというのは調べていないと墓穴を掘りかねない。


とすると流石に俺―この場合はマーシュだが―とスランが知り合いではないと知っていないとおかしなことになる。


じゃあどうして知っていてなお俺との接触を図ったのか……謎だ。


「そのことについては王都に残ってもらうシキ君と朧君に警戒してもらおう。ゴホッゴホッ―もし王都を離れてまで君に接触しようものなら……私に知らせてくれ」

「分かりました」



ふう……

一先ずは安心だな。


勿論まだ気は抜けないがスランという人物が少なくとも警戒すべき人物だということは分かったわけだから一歩前進だろう。





「じゃあ後は……ああ、そうだ、エフィー君の姉妹機だ」


ディールさんはそう言ってディールさん自身のアイテムボックスから何かを取り出す仕草を見せる。


何が出るかと思ったら……



―女の子が2人。



姿自体はカールのかかった水色の髪をした小さな女の子、そして静電気の効果なのか、逆立った金髪の長身の女の子。


どちらも見た目はどこからどう見ても人間の女の子なのだが、闇に紛れている“朧”と同種の何とも言えない違和感のようなものを感じる。




なるほど……

確かに『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の姉妹機と言われても納得だ。



ディールさんは寝かせてある1体1体を指して説明してくれる。


「こっちは『小雪こゆき』。名前や見た目から分かる通り『氷属性』だね。ゴホッ……―武器はサクヤ君と共同で開発した『銃』を予定している」

「氷属性で銃……ですか。ちょっと想像し辛い感じはありますがいいと思います」

「ディールさん……この羽みたいなものは?」


レンが小雪の背についている、6つの6角形の板を指さす。

それは確かにレンが表現したように3つずつが一つの羽を成す様にしていた。


「これはその時々によって色々な役割をする予定だ。ビットという遠距離ビームを放つ役割をしたり、自動で盾役をしたり、後は小雪自身が使う銃の補助をしたり……まあ本当に色々だね」

「おおう……」


銃の存在自体がよく分からないだろうレンとヤクモは何の話をしているのかさっぱり、という感じだ。

だが俺はガン〇ムでお馴染みのビットや盾役をしてくれると言う話に大変興奮気味である。



製作者……良くやった。

いや、これはディールさんとサクヤなのか。


いい仕事しますね、ディールさん、サクヤ!




「一方でこっちの髪が逆立っているのが『あずま』。ナックル装着での近接戦闘を予定している」

「ふ~ん……じゃあこの腰についた針の数々は一体……」

「何だか見た目スカートっぽいですね」


ヤクモが告げた様に雷の腰にはスカートみたいになるよう長い針がくっついていた。

例えるなら待針がそのまんま巨大化した、みたいな感じだろうか。


「これは……私もまだよく分かってない」

「え? そうなんですか?」

「うむ、サクヤ君の提案なんだ。だから詳しいことは今度サクヤ君にでも聴いてくれ」


まあ流石に『氷属性』も『雷属性』もまだ本来この世界には存在しないものだ。

片方の原理を理解しているだけでも凄いのに、ディールさんはそれに加えて姉妹機自体の製作にまで携わってくれているのだ。


それ以外にもシア達の修行なり、ディールさん自身の事情なんかもある。

これ以上贅沢をいうのは望み過ぎというものだろう。



今はサクヤにはセフィナや獣人4人の護衛兼運送を頼んでいるから、言ってもらった通り今度聴こう。



「それに……まだこれは完成じゃない」

「え? そうなの?」


レンが驚いたような声をあげる。

俺もちょっとびっくり。


ディールさんはあまり見せない険しい顔を見せる。

それを見て俺達もただ事じゃない雰囲気を察して険しくなる。


……何だ何だ。



「基礎のボディは何となかった。あの天使の里付近に出る機械どもと、サクヤ君からもたらされる知識があればここまでは何とかなる。―どうしようもないのは動力部分だ」

「動力……ですか。つまり稼働させるエネルギーがどうしようもない、と」


ディールさんは深刻そうな顔そのままに短く頷く。


「これを創った奴は天才だね。無色の魔力を各属性に転化する心臓部だけはどうしても他の機械からとろうとすると質が落ちる。―と言うよりボディに対して魔力の質が追い付かないだろう」


ディールさんが言いたいのは要するに体は一流のスポーツ選手にできるが、心臓がもう弱すぎる、ということだ。


どれだけ体の各部位の筋肉の質を上げることが出来ても心臓がよれよれのおじいちゃんのものじゃあ……多分即ポッキリ逝く。


「これを1から創ろうかと思うとそうだね…ゴホッ……サクヤ君のサポートがあっても少なくとも後500年はかかるだろう」

「5、500年!?」

「ちょ、ちょっとそれは……」


レンと共に驚愕する。

流石にそこまで待つだけの寿命はない。

それにディールさんが付きっきりでそれを創って、という前提もある。

もうその線は絶望的だろう。



そう言いたかった俺の気持ちを先読みしてか、ディールさんも


「代案が無いわけじゃない。これなら8割型上手く行く、というものだ」

「……ただ、流石にそこまで上手い話ではない、ということですか?」

「いや、創るに伴うデメリットが物凄いとか失敗したらとんでもないことが待っている、ということはないんだ」

「あ、そうなんですか?」


こんな持って回る言い方をするもんだからてっきりそう言うものだとばかり……

ディールさんは一つ咳を挟み、面倒くさそうに告げる。


「私がこの案で挙げるデメリットは偏に遠くまで足を運ばねばならないことにある。このことがあるからギルド本部に行くのは面倒くさいのだよ」


ああ、そっちの面倒臭さだったんだ。


「カイト君は『千変万化』の時に少し話したと思うが―魔都にいる知り合いの魔王が『融合』を主な能力としている。そいつの力を借りようかと」

「ほほう……融合ですか」


そう言えば『千変万化』を得るために、ラックラビットの魔核を鎧に融合する際、融合石を一度見た。

その人に頼むのか。


「魔王の知り合いにちょっと頼むわ」みたいなノリで言えるって……

ディールさんマジパネェ……


「ゴホッゴホッ……その際フェリア君とリン君の魔力を直接小雪と雷に融合させることを考えている。魔力を定着させる心臓の代替品もその方面で探すつもりだ」

「ああ、成程」


その許可みたいなものが欲しいわけか。

一応魔族がうじゃうじゃいるような魔都に行くんだ。


危険も伴うかもしれない、ということだろう。

まあさっきのシアのことと同じで特にそこは心配していない。


例えまだ見ぬ危険な土地でも、ディールさんが特にこれと言った危険があるとは言及しないのだ。

その程度にディールさんの付近にいるということは安全を意味するのだろう。


それにフェリアやリンはいつも人の姿をしているから忘れがちだが何と言っても聖獣だ。

力と言う意味では俺なんかよりも強いだろう。


それに最終手段だが俺がどうしても不安なら召喚という手もある。


「二人の意思次第だと思いますが私としては問題ないと思います。何ならユーリも連れて行けばなお安心だと思いますよ?」


一人だけ置いてけぼりというのも可哀想だし、言葉にした通り回復において右に出る者がいないユーリが一緒なら本当に安心できる。


「そうか。分かった。帰ったら聴いてみよう」

「はい、そっちもよろしくお願いします」

「ふぅ……話はそんなものか。―ああ、後これをヤクモ君、君に渡しておこう」

「これ、は……手紙、ですか?」


ヤクモに渡されたのは丁寧に封が為されている手紙のようだ。

それを見てヤクモは顔色を変える。


「これ……ユウさんからですよね!?」

「ああ……本当はシキ君に渡す予定だったが、今の君なら構わないだろう。後で読みなさい」

「……はい」


それは……両方の意味だろう。

ヤクモはもうユウさんを初め、大切な人達から距離をとる理由もなくなった。

そして俺とユウさん・ディールさんとの関係も知った今、シキさんである必要性は無い、ということか。



じゃあつまりは中身は……多分それに関係することが書かれてるんだろうな。









その後俺達は冒険者区を出て、ディールさんの見送りをする。

今からまた孤島にとんぼ返りして、それからギルド本部に向かうという。


本当にディールさんには動いてもらってばかりだな……



「じゃあ、また何かあったら使いを出すよ」

「はい、ではまた」

「うん―ではね」



ディールさんはそう告げて、振り返ることなく王都から去って行った。





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