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絶対助ける!!

お待たせしました。


名前:ミクバ

人種:獣人族(牛人)

身分:貧困民

職業:重戦士

性別:女

年齢:12歳


Lv31

HP:360/180(+180)

MP:192/96(+96)

STR(筋力):101(+101)

DEF(防御力):77(+77)

INT(賢さ):51(+51)

AGI(素早さ):33(+33)

LUK(運):12(+12)


『大盾術』、『斧術』、『反動小減少』、『猛撃』、『土魔法』、『パラサイトネオ(土)』





名前:リーリア

人種:獣人族(鳥人)

身分:貧困民

職業:空騎士

性別:女

年齢:11歳


Lv21

HP:264/132(+132)

MP:222/111(+111)

STR(筋力):72(+72)

DEF(防御力):65(+65)

INT(賢さ):61(+61)

AGI(素早さ):78(+78)

LUK(運):14(+14)


『短剣術』、『剣術』、『滑空』、『風魔法』、『フェザーダンス』、『鷹の目』、『パラサイトネオ(風)』




名前:ティーロ

人種:獣人族(犬族)

身分:貧困民

職業:剣士

性別:男

年齢:10歳


Lv20

HP:224/112(+112)

MP:178/89(+89)

STR(筋力):66(+66)

DEF(防御力):60(+60)

INT(賢さ):50(+50)

AGI(素早さ):81(+87)

LUK(運):18(+18)


『剣術』、『二刀流』、『反応速度中上昇』、『魅了チャーム』、『闇魔法』、『奴隷魔法』、『パラサイトネオ(闇)』





名前:ラン

人種:獣人族(兎族)

身分:貧困民

職業:フェンサー

性別:女

年齢:11歳


Lv22

HP:172/86(+86)

MP:206/103(+103)

STR(筋力):47(+47)

DEF(防御力):49(+49)

INT(賢さ):79(+79)

AGI(素早さ):91(+91)

LUK(運):17(+62)


『突術』、『回避』、『見切り』、『光魔法』、『幸運+α』、『パラサイトネオ(光)』





っ!!


やっぱりさっきまでは無かったスキルがついてる。


セフィナが献身的に彼女達を看ていた際にはこんなもの無かったのに……


ヤクモの時と同じパターンだからその学習を活かしたかったが如何せん消えていたもの・そもそもスキルとして顕現していないものには流石の『鑑定』も対応の仕様が無い。


くそっ、毎回毎回いやらしいスキルだ。



俺はすぐさまその一つを鑑定する。





パラサイトネオ(光):装備者に同じ属性が備わっていることが要件。自らが装備となり、装備者(スキル所有者)の属性の強さに呼応して装備者との一体化を進める。装備パラサイトが一体化を果たすと、装備にその属性が付加される。


一体化率が80%を超えるとスキルとして顕現する。『一体化率が0%』、もしくは『装備者の属性が消失』の場合のみ装備が解除される【スキルが消失する】。……一体化率:83%(属性【光】習得まで17%)



ちっ、またパラサイトか。

だが今までの2例とはまた少しずつ違っている。


ユウさんの場合はユウさん自身を『装備』として、そのスキル自体は装備者という位置に収まっていた。

一方ヤクモの時には、スキルとしても存在していたが、同時にそのスキルがまたモンスターとしてもヤクモの体に現れている、というものだった。


今回はスキル自体が装備者、とはまた違う。

モンスターである、とも違う。


だが今回のものは前例の二つとは本当に違う。

そもそも対象を操ることを目的とはしていない、のか?

それか親玉みたいな虫がいて、そいつが女王蜂みたく統率している、みたいなことなのだろうか?


このパラサイトを使ったと思われる魔族がどういう意図で『黒法教』と協力関係にあるのかは今は考えようがないので保留だ。



とにかく……どうする。



先ず考え方としては前回のようにそれぞれと契約して裏をかく、というのは無理だ。

そもそもモンスターでないし、また定義を見る限りはそのそれぞれの属性―たとえば光なら光―に呼応すると言うだけで明確に属性を得るのは一体化した後、という事になる。

ランを例に考えるなら、『光魔法』に呼応して、装備であるパラサイトが光の属性を一層強めている、ということか。


ヤクモが言っていた話を踏まえると、つまりは装備であるパラサイトと一体化が強まれば強まるほど、その『光魔法』を得るに至った経緯―何か、光属性の兎の魔核(もしかしたら『千変万化』を得る際にも使ったラックラビットかもしれない)―という影響を受け、そしてその兎のモンスターへと近づいて行っている。


その前提をすると……やはり契約、は無理だ。


完全に一体化するまではモンスターとはならないし、モンスターになってからでは既にパラサイトと一体化してしまう(つまりあの兎のモンスターと契約することになる)。


それにそもそも前回のようなものは一回限りのだまし討ちのようなものだ。


4体もパラサイトがいるのだから、1体に効いたとしてもその後の交渉では絶対同じ手が通用しないだろう。



となると、定義“『一体化率が0%』或いは『装備者の属性が消失』の場合のみ装備が解除される【スキルが消失する】”の前者を考えるのが早いか。




一体化率が0%……

前提として『一体化率』と言うのは時が経つにつれ増加していくんだよな。

じゃあ逆に考えれば最初の方は低かったんだろう。


一番最初は……0、ではないよな。

開始状態、つまり顕在化して無いとは言えスキルがついた時点では少なくとも1%じゃないといけないはずだ。


そうでないと一体化率が0になって、スキルが消失する、という定義と自己矛盾を起こす。


普通に考えれば、開始時は1%で、それから徐々に増えて行って今に至る、と考えた方が整合的だろう。



そこは良いとして、一体化率0という事が何を示すか……



それはつまりパラサイトが『光魔法』に一切調和していない状態ってことじゃないのか?

つまり1%は限りなく低いとは言っても1、光属性と調和する部分が存在する。

で、0は文字通り0。


何一つ存在自体が無い状態。


こういう風に考えれば、さっきの考え―つまり、開始時が0ではあってはならず、1であるはずということ―と親和的だろう。



パラサイトはどんな属性にも染まっていない無の状態―言わば無属性だな。



とすると…………見えた。



今、パラサイトは光の属性の一部を得て完全な光属性へと向かっているのだ。

どうすれば、その状態を解消できるか……簡単だ。



無の状態へと戻してやればいい。


具体的に言えば、そうだな……



光が+として働いてパーセンテージが増えてるんだ、じゃあ0に持って行くには-を足してやればいい。


光の対として考えられるのは……流石に一つしか今の俺には思い浮かばん。




そして自分の考えを現実化すべく、自分のステータスを確認し、必要なスキルをちゃんと持っていたことを改めて視認する。



よし、この考えで行けるはず!!





俺は採算をつけ、先ずは一人目―兎人であり、尚且つ巨大な兎の姿をしたラン―の下へと向かう。



「っ!? せん、ぱい!?」

『……!!』


ランと対峙していたのはヤクモと白騎士だった。


「行ける案が一つ浮かんだ。今からランに試す」

「そうですか!! わかり、ました!! お願いします!!」

「ああ!!」


ヤクモと入れ替わりにして俺がランの懐に滑り込む。

そうしてスライディングを続け、後ろをとると、先程の白騎士のようにランを後ろから抱きしめるようにして拘束する。


「セフィナ!! 白騎士に、他の奴にもこうして動けないようにする命令をしてくれ!!」

「はい!!」


セフィナは俺の声にこたえて、今度はレンが戦っていた怪鳥のリーリアの下へと白騎士とともに向かった。


俺はランを動けないよう力いっぱい両の手を握り合わせて引きちぎれないようにする。


その際にもやはり抵抗して暴れるので、顎の下から頭突きを食らったり爪が鎧を抉って体を引き裂くにまで至る。


そうして暴れる最中、丁度都合よくヘルムが吹っ飛んでしまったが今はもう気にしている余裕はない。


俺は『属性付与』を発動する。




属性付与:魔法を使って装備に属性を付与することができるようになる。属性を入れ替えるには魔法を解放するか、上書きすることが必要。

スキルの使用者が魔法を使えなければこのスキルは使用することができない。




当初はシアの武器の利便性などを考えて取得したのだが、何がどこでどう活躍するかは分からないものだ。



パラサイトネオ(光):装備者に同じ属性が備わっていることが要件。自らが装備となり、装備者(スキル所有者)の属性の強さに呼応して装備者との一体化を進める。装備パラサイトが一体化を果たすと、装備にその属性が付加される。




この定義の部分を見ると、パラサイト野郎はつまり今回は装備となって属性を強めていくんだろう?

『属性付与』は『装備』に対してのスキルだ。

なら逆の属性を一体化率が0になるまでこれでぶち込み続けてやるよ!!



俺は『光』の対と思われる『闇』を、自分の『闇魔法』を用いてパラサイトに注入開始する。


「うぐっ、ぐぁぁぁぁ!?」

「頑張れ、俺が必ず助けてやる!!」


効いているからだろうか、俺の腕の中にいるランがさっきよりも増して激しく暴れ出す。

何とか逃がさないようにすることだけで一杯一杯になり、自分の体を気遣ってやる余裕はない。


あちこちが抉れ、爪で削られて悲鳴を上げるが俺は気にしない。


ここで離したら『属性付与』が途切れてしまう。

こうして直接体を抱きしめているのも、パラサイト野郎が『装備』だからだ。


モンスターの体になって行っているのも、パラサイトが魔核の影響と相まっているからで、さながら体表を覆い尽くす仮面のように『装備』されているのだろう。


だからこそ直に接して、そして逃がさず継続的に注入を続けるとなるとこの格好になるのだ。




「い、痛い、痛い、痛い、痛いよう!」

「!? よし、意識が戻って来てる!! 意志を強く持て!!」


暴れる力も魔法を注入するにつれ、段々弱っているように感じる。

そして白く輝くような毛並みをしていた兎の体毛も、徐々にではあるが何だか体の中に治まっていくようで、人の姿に戻って行く経過途中だと見える。



一体化率は……よし、37%!!






俺は10%を切ったところでスパートを掛け、一気に彼女の体を元に戻していく。

そして……



「あ、あぁ……」



パリーンという何かが割れる音が響いたかと思うと、俺が抱きしめていた女の子―ラン―が輝き、そしてその輝きが収まると、完全に一人の女の子に戻っていた。

ウサ耳とポンポンのようなフワフワまん丸しっぽがついた、長髪の似合う可愛らしい兎人の女の子だ。


「お帰り……」

「自分、自分……」

「とっても可愛らしい女の子じゃないか。よく頑張ったな、起きたらキレイで可愛い服が似合う女の子に戻ってるぞ」

「あり、がとうございます……」



ランはそうして倒れるようにして眠りに落ちた。


俺は彼女を急いで安全な場所へと移し、戻って即座に2人目へと入る。



二人目は白騎士が頑張って抑え込んでいる怪鳥のリーリアだ。

さっきの反省を活かし、俺は今度は白騎士と挟み込むようにして前から彼女を抱きしめる。


これで俺と白騎士二人の力で抑えるんだから、どちらも暴れることによるダメ―ジを受けることは少なくなるだろう。



俺は『風』の対……ということを考え、『土』に到り、『土魔法』を彼女に流し込む。



「う、うぁぁぁぁ!?」

「大丈夫、俺が必ず助ける!!」



『土』で当りだったようで、俺は同じように一体化率が0になるまで流し続けた。

そして0になると……





「う、う……私……」

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな。こんな綺麗な顔をしていたのか。とても女の子らしい、素敵な顔だ……良い夢を見な」

「……あり、がと」


赤いボサボサの短髪をしていたリーリアは自分で言葉にした通りキレイで整った顔だった……








「―流石皆のリーダーだ。これからは、元の姿で一杯女の子らしいことをしな。その前に、今はゆっくり休めばいい」

「はい……ウチ、めっちゃ、嬉しい、です……」



ミノタウロスのミクバはさっきとは反対に『風』を使って元の姿へと戻した。


彼女は元に戻っても2本の角が生えていたが、それ以外はやはりミノタウロスの時とは大違いだった。

白く、そして緩いカールのかかった髪に、おっとりとした可愛らしい顔、更に年齢に比して明らかに大き過ぎる胸と、ムチムチとした臀部は牛を連想させるには十分だった。




そして最後の一人―ケルベロスのティーロに取り掛かる前に、一つしなければいけない、と言うより乗り越えなければならない壁があった。


これに失敗すれば少々別の方法を採らねばならないのでどうなるかは結構重要なのだが果たして……



俺は、昨日セフィナから渡された『ルナの光書』を手早く取り出して、巻物の封を切る。


賞状ほどの大きさに留まるそれをビラビラっと引っ張り切り、目を落とす。


すると……



「な!?」



そこには、元の世界でいう外国語のように、俺にとっては一切の意味を成さないようなよく分からん記号や文字の羅列があっただけなのだが、どういうわけか俺はその内容を理解でき、スラスラと目を走らせていく。


そして1分も経たないうちに読み終え、頭の中に、そして体の中に何故か『光魔法』の使い方がしみ込んでいたのだ。



それが『異世界言語』のスキルによるものなのか、それとも『ルナの光書』それ自体がそう言ったものなのかは今は分からないが……





俺は棚上げした問題を頭の片隅に追いやり、ティーロを助けるべく動き出す。



「うぐ、ぐぁぁぁぁぁ!!」

「今は辛いだろうが効いている証拠だ!! もう少しだけ我慢してくれ!!」


『属性付与』を用い、鑑定で習得を確認済みの『光魔法』をティーロに注ぎ込んで行く。

よし、どんどん一体化率が下がっている!!


それを0にすべく一切手を止めない。

抱きしめたティーロの暴れ具合が次第に収まって行く。






そしてとうとう……




「あ、あ……」

「よく頑張ったな。お前で最後だ。―皆助かった。元に戻ったぞ」

「本当に、本当に、ありがとう、ございます」

「気にするな。お前も年相応に可愛い顔してるんだな、それならきっと恋も好きな人もできるさ。今は疲れただろう、おやすみ」

「はい……ありが、とう」




ティーロは女の子にしては少し男の子寄りの顔をしていたが、十分に可愛い容姿をしているだろう。

ちょっと頭頂部にアンテナみたいなアホ毛があり、シアのそれと似た犬耳がある以外はサラッとしたボーイッシュな黒髪の女の子だった。





そうして4人全員を人の姿に戻し終えた俺は、一息つこうと4人のもとへと向かうと……




「……我が神よ」

「ん? どした」


セフィナも眠りについた4人に負けず劣らずへとへとだろうに、わざわざ俺を出迎えるように近寄って来てくれた。

その手には頭突きを食らって吹き飛んでしまった俺のヘルムが。


「あ~……ありがと」


取り敢えずは回収しておくが、もう既にこの場にいるメンバーには顔バレしてしまっている。

今更コソコソとかぶり直すのも逆にヤクモに怪しまれるだろう。


俺はヘルムを受け取るが、特に被るでもなく脇に抱えておくことにする。


……が。


「……ん?」


セフィナは他にもまだ俺に用事があるのか、俺の前から動かずにいる。

その動かさなさと言ったら、足から地中に根でも張っているのか、それともセフィナに働く引力が凄いのかと思うくらいだ。


……何だ、何だ……



そうして自分の脳内でザワザワしていると、セフィナは顔を上げ、俺の頬を両手で包み込み……




「ん……」

「!?」

「「「な!?」」」




……古典的な言い方をすると接吻、英語で言うとkiss、遠回しな言い方をするとセキ〇イが羽化するために必要な粘膜接触……をされてしまった。





……大変結構なお手前でした。






―って違うわ!!



「ちょ、ちょっとセフィナお姉ちゃん!?」

「先輩も何ボケーっとしながら頬赤らめてんですか!! 乙女ですか!? 先輩は好きな人と手も繋いだことが無い今時の若者ですか!?」

「……ご主人サマ、流石デス」

「いや、俺もいきなりの不意打ちだったんだ!! 俺に言わずにセフィナに言え!! ってかそもそもセフィナ、お前一体―」



ギャアギャアと喚きたててくる外野に反論した後、振り返る。

そこにいたのは、昨日の出会いたての時みたいに俺に畏敬・羨望の眼差しを向けて来る敬虔な信者みたいなシスターさんではなかった。



「……我が神よ、私はあなた様に何度救われ、何度心揺り動かされることでしょう」



―桜色に染まった頬に手をあてて恥ずかしがっている―一人の恋する女の子だった。



そして、はにかみながらもそっと笑って俺に微笑みかけてくれる。



「どれだけ感謝してもしきれませんし、あなた様に恋い焦がれお慕い申し上げるこの想いもどれだけ言葉を積み重ねて語ろうと、伝えきることは決して叶わないのでしょうね」

「お、おう……」


もうどもる以外俺にできることなんてない。


初めてセフィナが一人の女性として俺に気持ちを伝えてくれた、そんな気がしてしまったから……

とても眩しくて、輝いていて、それでいて……たとえ俺が必死に手を伸ばそうとも決して近づくこと無い光のように感じたから……





「奴隷である私がこのようにずかずかと物言いすることをお許しください」

「あ、ああ……」

「嘘偽りない気持ちを申し上げさせていただきます―今度私にお情けを下さる時には、一人の女として愛でていただければ望外の幸せです」

「…………」



セフィナの宣言にヤクモやレンが過剰に反応していてこのスラムが一時騒がしい状態となったが……




……俺は何も答えられなかった。

だから、騒がしいはずなのに、どこか曖昧な笑みを浮かべる俺の周りは何故か静寂に包まれて静まり返ったみたいだった……







こう言う事は、やっぱりいつまで経っても慣れないな……










「……先輩はモテモテなんですね。なんですかそのイケメンっぷりは。中身がイケメンなら顔もイケメンってことですか? だから顔隠してたんですか?」

「何の話だ。別にイケメンでもねえし、そんなんじゃねえよ。何かの嫌味か?」


しばらくして喧騒が収まってから、4人が目覚めるまでゆっくりしていたのだが、ヤクモは軽い調子で俺に再び話しかけてくる。


気を使ってくれているからか、あえて俺の名前やその他事情云々について深くは追究せずに、こうやって的外れなことを言ってくれている。

こういった小さな気遣いが今は嬉しく感じる。


俺もそれに応えるために、先程からとは、気持ちを切り替える。

ヤクモはヤクモで大袈裟に口を尖らせてブーたれてくる。


「いいですか、マスクをとったら実はゾンビやボアみたいなとんでもない顔をして登場するのが笑いの定番です!! 先輩はもうそれを見事に覆し過ぎです!! 先輩は笑いが分かる人だと思っていたのに、がっかりです!!」

「いや、そんなこと言われても……ってか俺の顔に何を求めてんだお前は?」

「はぁ~……これだから田舎出のゆとりは困るんです。『え? 言われなかったし』『それって相談した方が良かったんですか?』とか後から平気で言いやがります。仕事舐めてんですか先輩?」

「普通の顔してるのにそこまで言われなきゃいけないのか俺!? 関係ない顔だけで仕事舐めてるとか言われたくねえわ」

「……まあ先輩の顔は冗談として」

「おい、話の替え方おかしいだろ。人の顔冗談にすんな」



全く……

だが俺もヤクモもいつも通りの調子に戻ったような感じだな。


ヤクモも、自分と境遇を同じくする4人の問題を解決できてホッとしているのだろう。

俺も俺で、ヤクモとこうしてバカな話して盛り上がれるのはそこそこ楽しい。



「……でも先輩がモテモテだってことは嘘じゃないですよ?」

「それどこ情報だよ。……言っとくがセフィナとはちょっと複雑な関係にあるから外せよ?」


そう言うと、ヤクモは当然だと言わんばかりに頷いてから、指を一つずつ折りながら挙げていく。



「えーっとですね……ボクが把握している限りでは『私、大きくなったらマーシュと結婚するんだ!!』と言っている10代前半の幼女と言っても差し支えないハーフのドワーフの女の子と……」

「…………それは多分『お父さんと結婚する!!』みたいなレベルだからノーカウントだ」

「そうなんですか? じゃあ『ふ、ふん、ですわ!! マ、マーシュさんのことなんか、わたくし全然気になってなんかいませんわよ!? ―え!? マーシュさんはお淑やかな女性がお好みなのですか!?―い、いえ、これは、その……そう!! マーシュさんをトラップに掛けてギャフンと言わせるために仕方なく……』とツンツン高飛車な10代半ばのハイエルフさんも先輩に興味がありそうですし……」

「……あれはよく分からん。入団試験以来態度がコロコロ変わる。とりあえず放っとけ」

「そうですか……後は第10師団内にも『最近入団したマーシュという男はミステリアスでカッコいい』とか『オルトさんも認めるような強い人だ、きっと優しくてカッコいい人に違いない』、それに『ウホッ、あの男、きっと良いケツしてるわ~! 掘って掘って掘りまくってあげたいくらい!!』とか……」

「ちょっと待て、最後のガテン系は何だ!? そんな奴第10師団に置いとくな!! 明らかにこっちの身に危険が迫るやつだろ!!」

「え? 何かおかしかったですかね?」

「可笑しいわ!! 可笑しすぎて腹が煮えくり返って茶が沸騰するくらいには可笑しい!!」


熱力学第2法則には申し訳ないが俺の人としての尊厳にかけてここは断固とした態度をとらせてもらう。

ここで引いたら本物のマーシュさんにも(直接間接問わずとんでもない)被害が及ぶ危険があるからな。



「へ~……先輩のお腹は便利ですね。どこで買えますか、その便利な先輩お腹」

「ええ~い、話を逸らすな!! 嘘だと言え、ヤクモ!! 俺に興味がある人間なんていないんだよな!? 今話した全てが嘘なんだよな!?」


結構切羽詰った感じで詰め寄ると、ヤクモは頬を染め、顔をプイと横に逸らして小さく告げる。


「嘘じゃ……無いです」

「……マジか」



軽く眩暈を覚えた俺はその一言だけでヤクモの傍から離れる。

マジか……俺の尻が狙われてるのか……


今日から色々用心しないといけなくなった。

心労が赤い羽根募金のようにどんどん募ってくる。

はぁ……


なので勿論、ヤクモがその後に漏らしたであろう言葉だって、俺の耳に届くことは無かった……




「……少なくとも、一人は先輩のことが好きなんですよ? こうして、先輩とはしゃいでいるだけで楽しくなったり、他の綺麗な女の子が先輩とキスするだけで、ムッとしたりするような……そんな子が一人は確実にいるんですよ」










その後、眠っていた4人が続々と目覚め始めたので無理にでも立ち直らざるを得ず、気合を入れ直して彼女達を迎える。



「さっき話し合ったんですが、ミクバ達4人は先輩の下で預かってもらう事になりました。基本的にはセフィナさんにお世話していただくことになります。―あなた達はどうですか?」


4人がまだ目を覚ましていない時分、俺達で話し合ったのだが、本人たちが嫌でなければセフィナに今後彼女達の世話を任せようということになった。


セフィナ自身も相当乗り気な様で、今から彼女達に何を教え、何を学ばせられるのかと頭を捻っている。


元は聖女だが、セフィナは故郷にあった教会によく足を運んでいたのでシスター業にも詳しい。

そこで、孤島へと4人を連れて行ってもらい、教会で行うような孤児の世話みたいなものをしてもらおう、ということだ。


まあ今までも孤児院めいたことをやっていなかったわけでは無いが、セフィナのような本職の人物が行うということは無かった。


彼女は読み書き計算外国語と、色々なことに明るいし、孤島にいれば基本外敵によって危険に晒されることもない。


自己防衛の方法については別にセフィナじゃなくても他に教えてくれる人はいるし、ヤクモも孤島の存在自体はまだ具体的に教えたわけではないが、俺達を信用すると言ってくれている。




ヤクモがそう告げると、4人の表情が見る見る明るくなって行く。

元の姿に戻してもらったことにも感謝してくれたから俺の庇護下に入ることにも納得してくれたようだが、やはりセフィナと一緒にいられるという事が何より嬉しいに違いない。


「ほんとですか!? やった!! ウチ、メッチャ嬉しいです!!」

「…………私も、まあ嬉しい、かな」


牛人であるミクバと鳥人のリーリアは真っ先にセフィナの下へと駆けよる。

セフィナは二人を抱きしめ、そして頭を撫でてやる。


ミクバのそのはちきれんばかりに育った胸が、セフィナに抱きしめられる際にたゆんたゆんと揺れる。

……あれを見てると、どうしてあんなキツそうなビキニから飛び出ないか不思議になってくる。


……というかそもそも冷静になって彼女達を観察すると非常に男性の目にとってはよろしくない事態がそこにはあった。



ミクバは白と黒いブチが混じった、いかにも牛の模様だなと言う感想が浮かんでくる柄をしたビキニアーマーとサイハイソックスのみという何とも防御力に不安が出てくる衣装だった。

立派に育ったお尻もお父さんや男性諸君は喜びそうだが、ビキニの大きさが頼りないばかりにとても破廉恥に映る。


……けしからん。



鳥人のリーリアはリーリアで、胸を守っているのは包帯状に巻いたサラシのみ。

後は大事な部分を隠す下着が透けて見えるようなネグリジェを何故か常時付けている。


……ちょっと恥ずかしがり屋な性格なのにどうしてそのような格好へと行き着いたのか……



……最近の若い子供は本当にけしからん。




「あ、あの……自分、本当に嬉しかったです! セフィナさんだけじゃなく、マーシュ様にも、感謝してます!!」

「……ティーロも、その、マーシュ様、カッコいい、と、思いました」


兎人のランと黒犬人のティーロは二人のようにセフィナへと直ぐに飛びつくのではなく、俺にも気を使ってくれる。

彼女達から向けられる無警戒の信頼の笑顔を見て、心が洗われる様だ。



……うむ、最近の若い子は礼儀がなっていて大変よろしい。



「ああ、ありがとな……」

「そのお体の傷も、自分がやってしまったんですよね? ……そんなになるまで体を張って、助けてもらって、自分、本当に、マーシュ様のこと、カッコいいって……それで、マーシュ様のこと、セフィナお姉さんと同じくらい大好きで……ギュッて抱きしめてもらったのも、凄く嬉しくって……」

「ティ、ティーロも、その……マーシュ様みたいな、カッコいい男の人に、憧れます……ティーロも、マーシュ様……大好きです」

「ははっ、まあ気にすんな。―そうか、あんまり俺みたいな人間に憧れても良いこと無いと思うが……」


頭突きで兜を吹き飛ばされた以外にも、鎧を切り裂いてなお俺の体に届くような引っ掻きを食らいまくったので体は結構ボロボロなのだが、まあ4人を傷つけずに元に戻してあげられたのなら良いんじゃないかな。


傷はまあ回復魔法を使えば治るし。


「ま、何はともあれ一件落着、だな―それ」

「あ、あぅぅ……」

「マ、マーシュ様……」



子供に心配そうな顔をさせてはいけないと、二人のケモ耳をマッサージして揉みほぐす様に優しく撫でてやる。

気持ちいいからなのか、甘い吐息のような声が二人から漏れてくる。


……俺も気持ちいい。


別にいやらしい意味じゃないぞ?

普通にこうしてると和むって意味で。


はぁぁ……最近シアの耳を触ってなかったからケモ耳は久しぶりだ。




特にランのはケモ耳の中では定番を行く“ウサ耳”だ。


これを触っているととても落ち着く。





……ウサ耳触ってるとちょっと心ピョンピョンしてきたでござる。

うさぎをご注文させて欲しくなるくらいだ。


むぅ、ランは将来有望だな。


容姿も申し分ないし、癒し成分たっぷりである。



バニースーツを着ても似合うだろうし、喫茶店なんかを開いて、俺の心をピョンピョンさせてくれてもいい、後は……そうだな、問題児たちが異世界から来る時にも大変役立ってくれるだろう。



将来有望株である。




……おっと、もちろん黒犬人ティーロのことも忘れてないぞ?


……ん?



服装自体は白のワンピースに白い太ももがチラリと出されるホットパンツに黒のニーソックスの組み合わせと、まあ普通なのだが……



明らかにこんなか弱い女の子についていては違和感満点のものがティーロの首に。


「何だ、これは……」


不思議に思った俺はそのブルドックがしていそうな棘のある銀色をした首輪に触れてみる。


すると、なんてことでしょう!?

あんなに暗く光が差し込まなかったスラムの中で、黒くまばゆい光を放つではありませんか!!




……ビフォーアフターごっこはやめておこう……




それで視界が眩むのは一瞬のことで、直ぐに収束する。


一体今のは……



「あ、あの……これでティーロはマーシュ様の奴隷になりました!! よろしくお願いします!!」

「「「「「……は?」」」」」


皆してポカーンである。


そりゃそうだ、ティーロが告げたことはあまりに突然も突然。

前触れや話枕など一切合切がすっ飛んでいる。




俺達はティーロにどう言う事かを尋ねると、たどたどしくはあるものの、ティーロは一連の事情を話す。




……つまりこう言う事らしい。


ティーロは魔核によって魔法を使えるようになり、その中には俺も鑑定して確認済みの『奴隷魔法』があった。


ティーロの首輪はその魔法を使って造ったもので、『奴隷魔法』を使う際の核のようなものになるそうだ(多分ケルベロスの影響を受けて、首輪の形は造られたんだろう)。



そして本来なら奴隷魔法は俺がモンスターなどとする契約のように、内容を定めて両者が合意しなければ成立しない。


がしかし、カノンにおけるベル、そして俺における聖獣達、クレイなどのようにティーロ自身が納得して隷属できる人だったので、俺が触れた際、首輪を介して『無内容とする』奴隷契約の魔法が発動した、ということだそうな。



そんな無意識的に奴隷になってもいい人だと思ってもらえたのは嬉しいのだが、手放しに喜ぶこともできない。

そもそも他の皆がそれでいいのか……と問うたら。



「あ、あの、じゃあ自分もマーシュ様の奴隷にして下さい!!」


とのランの発言を皮切りに……


「……その、ティーロ、『奴隷魔法』って勿論ティーロ自身だけじゃなく、他の人にも使えるんよね?」

「…………私も、仲間に、入れて欲しい」


となってしまった。


「自分、マーシュ様のお役にも立ちたいです!! 精一杯ご奉仕します!!」

「いいんじゃないでしょうか? 私もマーシュ様の奴隷ですし」



と兎人のランやセフィナの追撃があって、かわすにかわせない状況に。


ティーロ以外の3人がヒートアップし、自分達だけセフィナ・ティーロと分けられ、仲間外れにされるのは嫌だという空気になってしまった。


もうそこまで来たら断る理由も告げ辛い。

何を言っても目を潤ませられる。





子供と女の涙は卑怯だ……と思った今日この頃です……









「じゃ、サクヤ、王都から離れたところまで行ったら5人を連れて行って上げてくれ」


王都から離れてから、サクヤにはドラゴンに変形してもらい、孤島へと運んでもらう。

セフィナは行きはディールさんのドラゴンに乗せてもらったようなので、帰りも飛んで帰ってもらった方が迷わないだろう。


「ハイ、畏まりマシタ」

「……4人とも、しっかりとセフィナさんの言う事を聴くんですよ?」

「はい!! ヤクモさん、本当にありがとうございました!!」

「自分達、立派になってきっとヤクモさんに恩返しします!!」

「……ヤクモさん、元気でね?」

「あの、その、ちゃんとセフィナさんやマーシュ様の役に立って見せます!!」



四者四様の返答を受け、ヤクモも少し頬を緩ませて、だが直ぐに表情を引き締めてセフィナに向き直る。



「では、よろしくお願いします」

「はい、必ずや、この子達を一人前に育てます」

「じゃあ、頼むぞ、セフィナ、サクヤ」

「はい」

「ハイ」

「4人も、また会う機会があると思うから、また今度な」

「「「はい!!」」」

「うん」






そうして、4人を連れたサクヤとセフィナを見送ってから、俺達は帰路についた……と思ったら。




その道中、思わぬ人と遭遇することになる。

ヤクモを見つけて以降、姿が見えないと思っていた朧が、その人と一緒に歩いてきた。




「……こちらに」

「うん、ありがとう朧君…………やあ、カイト君。ゴホッ、久しぶりだね」


カイト君はとあることを勘違いしています。

ですので「あれ? これって……」と思える部分が一つ存在します。



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