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彼女は一体……

間隔、そしてお話自体が長くなり大変申し訳ないです。言い訳としては……以下の点が久しぶりだったので。

※このお話の後半、下な描写と読めるものも。抑えては有りますがお気を付けを。


「ああ、我が神よ、お会いできたことを心より……」

「え、えーっと……」

「ふふ~ん♪」


ヤバい、レンが変な姉ちゃん引っかけてきた。

そのくせ何か得意げな顔で俺が褒めてくれるのを待っている様子。


……スマン、今それどころじゃないんだけど。



俺の目の前で跪いて祈りを捧げるこのエッチな衣装を着た綺麗なシスターさん……ほんと誰!?

何で俺のことを「神」とか言って崇めてるの!?

レン、お前は一体誰を連れてきたんだ!?



「セフィナお姉ちゃん、セフィナお姉ちゃん、お兄ちゃんに自己紹介しないと! 一応初対面なんだよね?」

「ん? “セフィナ”……」

「―はぅっ!? し、失礼いたしました!!」


レンから出た名前に心当たりがあったので反復して見ると、呼ばれた本人が飛び跳ねるように我に返ってくれる。

慌てて立ち上がった彼女だが、その豊かな2つの膨らみの前で手を組むことは止めない様だ。


“セフィナ”って確か……



「大変失礼をいたしました。私はセフィナと申します。我が神―あなた様の奴隷です」

「奴隷……ああ!」



すぐさま自分のステータスを『鑑定』して、ようやく得心がいった。

なるほど、シアが闇市の闘技場で勝った賞金で仲間にした女の子の一人が……


「そう言う事か。ようやく君が何者かが分かった。けど……」


まだ得心いってない事項が存在する。

勿論彼女がここにいること自体も知らなければならない事項ではあるが差当り性急に知らねばならないのは……


「その……『我が神』ってのは何? レンが言ったように俺達って確か初対面、だよな?」


俺の記憶だけがタイムスリップしたり、「奴はとんでもないものを盗んで行きました。……あなたの記憶です」と言うような事態で無ければ俺の言っていることが正しいはず。

とすれば、そんな初対面の、しかも仮にも奴隷と主人の関係だ、間違っても『神』と呼ばれる謂れは無いのだが……


しかし、彼女にとってはそんな謂れが存在するらしい。

静かに首を振って目を閉じながらも優しく諭すように語りかけてくる。


「はい……初対面であることは確かです。ですが、そのようなこと、私が我が神にお仕えするための障害になどなりはしないのです」


そしてまた恍惚とした表情に戻ってしまう。

一歩間違えれば涎すら垂らしてしまってもおかしくない程に口も開いてしまっている。


綺麗な容姿してるんだから、そんな顔しちゃダメ!!

それにそんな「あ~ん」みたいな口もアウト!! それ喜ぶのいけない大人たちだけだから!!


「いや、うん、その、いいから俺の話聴いて。だからその『我が神』って何?」


何なの? 俺への嫌がらせか何か?

へんな呼び名つけて主人を精神的にまいらせようとしてるの?


マジか……


「……いけません、でしょうか?」


と目尻に涙をためて訴えかけてくるセフィナ。


「いや、その、いけないかどうかじゃなく、どうしてそう呼んでるのかって話なんだが……」


弱ったな……話が進まない。

何かを盲信してると話が通じないと言ったことは良く聞くが、まさか自分がその対象になってしまっているとは……


……なんてことを、思っていると……


「……あの騎士の兄ちゃん、エロいシスターを言葉責めにしてるぜ?」

「あの体や美貌、それに格好だけで十分だろうにまだその先を求めるか……あの騎士際限がないな」

「おかあちゃん、あの騎士の人、どうしてシスターのお姉ちゃんにエッチな格好させて虐めてるの?」

「しっ!! ダメ、見ちゃいけません!!」


「…………」


周りがざわつき始める。

確かに騎士(の格好をした俺)が(服装は兎も角)シスターを詰問している様子は注目を集めるだろうが……


えぇ~~~~~~?

悪いの俺?


……ったく、何も知らない癖に、こっちは騎士……


「何だ騒がしい。何かあったのか……第10師団の総隊長代理であるこの私が……」

「あ! オルトお姉ちゃんだ!」


ぎゃぁぁぁ~~~~!? モノホンの騎士来たぁぁぁぁ!?

アンタ先に帰ったんじゃねえのかよ!?

仕事のし過ぎは体に良くないぞこの野郎!!


マズイ……この状況をオルトさんに見られるのは(セフィナと俺の本当の関係を知られると言う意味でも)色々と……

ついさっきフィオムに正体バラしたばっかなのに……


「スマン、レン、この場を任せても良いか!?」

「え? あ、うん、いいけど……」

「スマンが後は任せた! 今日は多分帰れないと思う!!―セフィナ、ちょっとついて来てくれ!!」

「うん、分かった!! 行ってらっしゃーい!!」

「は、はい! 我が神の仰せのままに……」


俺はレンに任せてその場を去ることに。


……ちなみにセフィナは手を引いてやったらそれさえも畏敬の念を払っているように顔が緩んでいた……

もう口の端には涎すら……





……本当に何なの?





~回想~


=====  ユーリ視点  =====



セフィナさんはあれからは今迄の分を取り戻す勢いで孤島の皆さんと溶け込んで行きました。

カノンさんは……まだ修行でいらっしゃいませんが、妹さん達からの手ほどきを受け、旦那様が帰っていらした時の準備も万端です。


そして……




「まあ!! なんてことでしょう!! やはり、私がお仕えするカイト様こそが、我が神だったのですね!!」

「うむ、カイトは俺達天使の目の前で神と対話して見せた。そして天使である俺達を……」

「カイトさんはウチのレンのことも……」


今、わたくしとリン、そしてセフィナさんで天使の里を訪れています。

先日まではシアさんを初め、旦那様に救っていただいた皆さんのお話を聴く、ということをただひたすら続けていたんですが、話を聴くごとに……


~なんて素晴らしい方なんでしょう!! シアさんのお話、とても感動いたしました!! 暗闇にいたところを救って下さったところなんてもう、私……~

~まあ!! エフィーさんがハーフエルフだと言う事も全て受け入れるその懐のお深さ!! まさに神に相応しい!!~

~離れ離れになっていた姉妹、それも魔族という事なども関係なく救ってしまわれるなんて!! ああ、神はここにいらしたのですね!!~

~“不治の病も同義だ”とも言われる『スキルキャンセル』をそうもあっさりと!! これぞ神の御業です!!~


と、旦那様を褒め称える感想しか浮かんでこないようです。

最早旦那様を『神』と信じて疑わない域まで到達しています。



そして今、レンさんのご両親にして天使であるゴウさん・カリンさんの話が完全にダメ押しとなってセフィナさんは……



「ああ、カイト様……我が神よ、早くお会いしとうございます……」



誰もいない方向へと膝をつき、祈りを捧げています。

……もう、ここまで来ると一種の宗教ですね。



「くく、くくく……ああ、ダメだ、お腹痛い……」

「……リン、今お話し中ですよ」

「いや、ごめん、くく、分かってるんだけどさ、いやー、ほんと腹いたいわ」


目の前で祈りを捧げている彼女を見て必死に笑いをこらえているリン……

いえ、別にセフィナさんのその行動自体が面白いと言うわけでは無いでしょう。


じゃあリンは何が面白いのかと言うと……


「ほんと、セフィナも面白い方向へと進んでくれるよね~! つい最近までは恥ずかしい格好することも顔を赤らめてたってのに、今じゃお兄のためなら大概のことは一切疑わずにやっちゃうだろうし。ほんと、お兄と会った時のことを想像するだけでもう、お腹痛くって」


声を抑えて私に耳打ちするようにして告げてくる。

……この子は聖獣なのに、こう言う事だけ本当に……



「……ですが、勘違いしてはいけませんよ? まだ、旦那様に会ってすらいないのです。……私達が目指す所にまで行けるまでは……」

「……分かってるっての。折角共闘するんだから、お兄と交わってもらうところまで行かないとダメだってこと、でしょ?」

「……分かっているのならいいんです」


シアさんやエフィー姉様のことを初め、旦那様が今迄に為さってきたことに純粋に感動し、そして敬意を払えるその素直さ・清廉さと言うのはやはり旦那様の心を潤すのには必要な武器です。


……その中でも一番は何をおいても旦那様が忌避なさっているように見受けられる女性との身体的接触―殊に交わり。

セフィナさんのスキルをも活かせるのです、この子をきっかけにできれば……



……そう言えば。

私も自分で言った手前、小声でリンに思っている疑問を投げかけてみます。


「……あの子は―フェリアは誘わなくていいんですか? 聖獣が多ければ多い程権威付けにはいいのでは?」

「ああ……フェリアはダメ」


リンは手を横に振ってバッサリ切り捨てます。

まあ、この場に連れて来ていないから想像はしていましたが……


「フェリアはセフィナとはまた違った意味でお兄一筋でしょ? ―ああ、まあシア姉やエフィー姉、勿論クレイさんについても考えるっちゃあ考えるけど……お兄が絡むだけであの子からっきしダメだから」

「…………」

「まあ見てなって。聖獣麒麟キリンことこのリンちゃんがばっちり決めてあげるから!! く、くく……ああ、ほんとお兄があたふたする姿を想像するだけで笑えてくる」


反論……してあげられませんね。

本当に、この子もこの子で旦那様が絡むと相当に性質が悪い。



……わたくしも、人のことが言えませんか。

聖なる存在の最たるものである、この“ユニコーン”である私が悪戯っ子リンと手を組んでいるのですから。


勿論、旦那様のことを考えすぎて視野狭窄に陥ってはいけないのは当然です。

それで手段の委細問わず、と言うのは旦那様が最もお嫌いになるであろうことだからです。


ですが……



「ああ、我が神よ……きっと神に相応しき、凛々しいお姿をなさっておいでなのですね……一日でも早く、お会いしとうございます……」



この清らかな子が旦那様への純粋な好意や畏敬の念を高めるちょっとした手伝い位なら目を瞑っても大丈夫でしょう。

この子自身が旦那様に抱いている想い自体は本物なのですし、私もリンが行き過ぎないよう目を光らせています。



ですから、私がリンの手綱を握り、リンの(旦那様が絡む時に限り発揮される、私も驚く程の)知恵・行動で旦那様のためになることを……



「くひひ、ああ、もうダメだ、笑い堪えすぎてお腹痛くなってきた……もう、無理―ゴメン、私先に外出てるわ」




……本当になるのでしょうか?








「はふぅ……カイト様……我が神よ……」

「…………」


旦那様に関する美談・逸話のようなものを聴いただけであのように幸せそうな顔をできるなんて……

恋は盲目、とは良く言ったものですが、彼女が恋しているのは旦那様本人と自分を救ってくれた『神』としての旦那様と区別がつかない位になっています。


もしかしたらもう既に彼女の中では区別をつける必要すらない、となっているかもしれませんね。


良い傾向なのかどうかは……まあ旦那様との接触以降に判断しますか。



「おお~い、二人とも、終わった?」

「―あっ、リン様、はい、つい先程」


天使の里の中―レンさんのお宅前で待っていた私達の下にリンが駆け寄ってきました。

もう笑いの波は去ったようです……




……と思った矢先。


「……そっか」


合流して早々に、何故かしんみりとした雰囲気にスイッチを切り替えるリン。

突然落ち込んだように影が差したリンに、セフィナさんも気遣わしげになります。


また何が始まる事やら……



「あの、リン様? どうかなさったのですか?」

「は、はは。何でも無いよ、何でも。セフィナは気にしないで」


と明らかーな「無理してますよ」感を出す。

まるで……


「そんな!! いつもお元気なリン様がこのように沈み込んでいらっしゃるなんて、『何でも無い』はずがありません!!」



と、今セフィナさんが告げたようなことを言って欲しいがための演技のようです。


「で、でも……や、やっぱりダメ!! 私、仮にも聖獣だもん!! こんなにも優しいセフィナを巻き込めないよ!!」


目の端に涙を浮かべてササッとセフィナさんに背を向けるリン。

あなたは一体誰ですか……。


そんな初対面で『初めまして』の挨拶が適切であろう余所の子のリンはボソッと……


「……だって、お兄のことだもん」


と漏らすように(ですが、聞き取れる程の声量ではあるんですがね……)独りごちる。


「え!? 我が神―カイト様のことでお悩みなのですか!?」


当たり前のようにその言葉を耳にしたセフィナさんがリンに詰め寄ると、あからさまな「あ!! しまった!!」という仕草を見せてくる。


白々しい……白々しすぎる。


「い、今のは忘れて、セフィナ! 私……」

「リン様!!」


セフィナさんはいつになく真剣な様子で、逃げ去ろうとした(ほんとに逃げる気は無いんでしょうがね……)リンの手首を掴む。

それにはさすがのリンも驚いた(フリの)表情を……


「え……」

「大変な不敬、申し訳ありません。ですが、事が我が神―カイト様のことなのでしたら、私も力になりとうございます!!」

「セフィナ……」

「我が神に救っていただいたこの身この心……私のありとあらゆるもの全てを、我が神―カイト様のためにお捧げする覚悟ならばうにできております!!」


セフィナさんはこのことに関してはたとえ私達聖獣相手でも一歩も引かない、という意志を前面に出してリンと相対しています。


ああ、なんと真っ直ぐに、純粋に、清らかにただ旦那様のことだけを考えて育ってくれているんでしょう……わたくしの想いも一入です。





……それの引き出し方は別論ですが。




「全ては偏に、我が神のためだけに」

「…………」


リンの意志を動かすために(セフィナさん、ほんとはそんなことしなくても良いんですよ)もう一度、自分の決意の固さを付言するセフィナさん。


そしてリンはというと……



「へへ、おかしいな、何だか涙が……」



そうですね、本当に『可笑しいから』こその涙なんでしょうね。

……ほらっ、お腹ヒクヒクしてますよ?


もう堪えるのでやっと、という感じになってます。

最後まで持つのやら…………あ。




リンはまたセフィナさんに背を向けるように(つまり私と顔が真正面に見えるよう)します。


「あの、リン様―」

「……私、ね、気付いちゃったんだ」


これ以上セフィナさんに主導権を握られると腹筋が崩壊すると踏んだんでしょう、どうやらセフィナさんの言葉を遮って(この茶番の)本題に入るようです。


「え? 何を、ですか?」

「…………」


……そんなに溜めなくても。


「リン様、私は大丈夫です!! どんな困難でも乗り越え、我が神の力になって見せます!!」

「うん、これだけ想われてるって、やっぱりお兄は素敵なんだな…………でも、そんな私達の大事な大事なお兄が……不治の病に罹ってるだなんて……」

「な!?」

「―ッ!?」



っと、危ない危ない。

流石のわたくしでも今のは焦りました。


目の前にあるリンの顔が話す内容の深刻さに似合わず悪い感じでニヤリとほほ笑んでなければ私ももう少しで騙されていたかもしれませんね。


旦那様が不治の病などに罹っているはずがありません。

何しろ何度もご自分で、そしてこのユニコーンである私も回復魔法を使って癒して差し上げているのですから。


とすると、リンが言っているのは何かの比喩か、それとも……



「ど、どう言う事ですか!? 我が神が、お体に患いなど……」


その純粋さが裏目に……いえ、リンにとっては普通に狙い通りなのでしょう。

焦るセフィナさんを余所に、リンは独白めいたものを続ける。



「……お兄はさ、この世界では普通の人間の体、なんだよね」

「そ、それが……どうか、したのですか?」


そこについてはセフィナさんも異論はないようです。

彼女が旦那様を慕っているのは別に肉体的・物理的な話では無くてもっと精神的な話なのですからね。


「わからない? ……お兄はこの世界で『人間の体』で生きている。それはさ、セフィナが思っているような、何でもかんでも全てポンポンと上手くいく、というものじゃないんだよ」


……どういうつもりでしょう。

この話の流れで行けば最終的に辿り着く答えは……くっ、ここまで来て!!



「ちょっと、リン、いいかげん―」

「我が神はつまり、『人間の体』で生きる上での制約を伴っている、という事ですね!!」






…………はい?


「私が言いたいのはザックリいうとそうなんだけど……事態はもっと深刻なの」

「まあそうなのですか!?」


勝手に勘違いというか誤解しているセフィナさんをどんどん捲し立てるようにして、リンは話を紡いでいく。


「お兄の体は、常に『人間の体』で生きる上での毒に晒され続けているの!!」

「毒、ですって!?」

「そう、毒なの!! お兄は……この毒に、『人間』として生きて行く限り、ずっと、ずっと苦しめ続けられていかなければいけない!!」

「なんてことでしょう!! 我が神は、それ程までに深い業を背負ってこの世にお生まれになりながらも、なお私達を救って下さるなんて!! ああ、神よ、神ご自身への救いは無いのでしょうか!!」



ああーー、何となく分かってきました。

要するに二人の間で旦那様の状態に関する認識の齟齬が生まれているんですね(恐らくリンは積極的にそうなるよう仕向けています)。


セフィナさんの認識としては多分……



天上の世界:清らかで穢れが無い世界

地上(つまり私達が今いる)世界:穢れや瘴気のようなものがあちこちに存在する世界



こういう感じの前提があって……



旦那様:元は天上の世界の住人(つまり清らかなところで過ごしていた)だったけど、地上に降臨(要するに人としての姿で生きていらっしゃる)なさる際に穢れ・毒素のようなものを貰ってしまっている



みたいな感じなのでしょう。



一方でリンはと言うと……



「……毒は、溜まり続ける一方で、自分で体外へと出すこともできる。でも……『くっ、俺は、何をやってるんだ』と深い深い精神的ダメージを、自分の手で出すごとに負わなければならない!!」

「ああ、なんてことでしょう……我が神―カイト様の、救いは、救いはどこに……」

「救いは本当はすぐ近くにあるんだよ……私達女の中に、排出するのが効率も、お兄のためにも……一番いいんだよ」

「で、ではなぜ我が神―カイト様はそうなさらないのですか!?」

「―ッ!! 決まってるじゃん!! ……私達、女のことを、気遣ってだって」

「っ!? そ、そんな、う、うぅぅ……そこまで、私達の、ことを……」


…………二人とも泣いちゃいました(勿論一方の涙は笑い泣きでしょうがね)。


まあ要するにあれですね、リンが言っているのは普通に旦那様の男性器の袋の中に溜まる白い液体のことを指しているんでしょう。


溜めてばかりだと『体に毒』だとも言いますし、旦那様ご自身で発散させると『くっ、俺、何やってんだ』という気にもなるかもしれません(恐らくセフィナさん的には『くっ、俺、“こんな毒にやられて世界を救えないかもしれないなんて……”何をやってんだ』みたいな一文が間に入ってるんでしょうね)。


ですから……まあこの子も嘘は吐いていません(『詐術』と言われれば……ギリギリです。ギリギリの灰色です)。


リンは尚も(爆笑して涙が浮かんでいる様子が見えないよう)顔を手で押さえて「お兄の毒は、私達女には無害なのに、それを、もし、万が一のことがあったら、って、多分、ずっと……」と途切れ途切れに話している(どうして途切れ途切れなのかは……まあ言及するまでも無いでしょう。腹筋、ヒクヒクしてますよ?)。



その説明を聴いて、セフィナさんも目から溢れ出ている涙の量がどんどん増す。

……セフィナさんの頭の中はきっと



毒は『男』と『女』それぞれにしか効かない毒(みたいなものだと思い込んでいる)。

旦那様は毒を『男』として受け取ってしまった。

→だから男性である旦那様が女性にその毒を吐き出しても無害だ。



みたいな(色々と誤った)推論が成り立っているのかもしれませんね。

そして色々と行き違いがあるにも関わらず最終的には旦那様と交わって吸い取ればいいという最終地点で合流を果たすのです。


はぁ……本当に。

セフィナさんの素直さ・純粋さがあったからとはいえ、こんなことを思いついて口から出任せを……





ですが、旦那様に関係する話限定ですがその分、仲間に引き入れるとこの上ない位の味方ですね。


そしてそんなリンを自陣に引き入れてしまう智慧を持つこのわたくし……








ああ、旦那様!!

このいけないユニコーンの純血を早く奪って下さい!!

そして本当にいけないあなた様だけの悪いユニコーンにして下さい!!


あなた様のためなら、私は幾らでも『腹黒』・『ダークユニコーン』の誹りを受けましょう!!



はぁぁ……旦那様……







「リン様、私、やります!! 我が神の体内に巣食う毒を私の中に!!」

「うん、うん、嬉しい。私、セフィナみたいな優しい子に出会えて、嬉しいよ」


二人は今は抱き合って互いの気持ちを伝えあって……いられたらいいんですがね。


「セフィナ、セフィナはエッチなことをするんじゃない!! 私達を助けてくれた、大切なお兄を助けるんだよ!!」

「はい、はい!!」

「いい、セフィナ? お兄は必ず、エッチな……もとい毒の話になると『いや、自分で何とかできるから』とか『毒は一人で解毒できる』みたいに、多分自分で解決できるという趣旨のことを言う」

「はい!!」

「だから、そこはセフィナが巫女・聖女だってことを前面に出して、『わたしの方がより確実だ』ってことを伝える。そこを絶対に譲ったらダメ。いい?」

「はい!! 必ず我が神の解毒へと導いて見せます!!」

「よし!! じゃあ私から、ディールさんのところ行って、セフィナも同行させてもらえるよう言ってくるから、セフィナはそれまでお姉……は今も籠って修行中なのか。じゃあアリシアかミリュン・ミラに解毒の手解きを受けて来るように!!」

「はい!! 失礼します!!」

「はいは~い」



セフィナさんは天使の里を去り、先に孤島に戻って行きました。


そうして残った私とリン……



「……まあ、こんなもんでしょ」

「……リン、あなたは本当に口が達者ですね。もっと普段からそれを活かしなさい」

「え~」


あからさまに唇を尖らせて不満げになる。

そこにはもう、さっきまでのように下手な芝居を打っていた私の知らないリンの姿は無い。


「そんなことしたって面白くないじゃん。どうせお兄が絡まないんだし~」

「……あなたは何時でも旦那様が基準なんですね」


そう告げると、フッとリンの顔に少しだけ影が掛かったように見えた。

そしてそれは見間違いであったのかと疑ってしまう程に直ぐに消え去り、私の目の前にはいつものように天真爛漫としたリンの姿が……


「だってさ、お兄が一番面白いんだもん!! 一緒にいて一番楽しい!! 一番ワクワクする!! ……それに、さ。お兄が基準なのはアンタも、フェリアも一緒でしょ?」

「…………」

「まっ、要するに私がそのこと以外で本気になんのはそれを阻害する奴や要因が出てきた時か、クレイさんやお姉達に何かあった時位、かな」

「……それを聴けただけで今はよしとしておきましょう。ですから下手にあなたにとやかくどうしろとは言いません」

「うん! そうして」





=====  ユーリ視点終了  =====




=====  セフィナ視点  =====



我が神―カイト様にお会いする機会が早くもやってまいりました。

ディール様が王都へ向かう用事があるので、私と、そしてエフィーさんの『六神人形シィ・ドゥ・オ・ドール』の一体である『おぼろさん』を連れて行って下さることに。


私と朧さんは我が神にお渡しする大切な書物『ルナの光書』やディール様がしたためられた手紙などをお渡しするという大役を仰せつかりましたが王都の中に入るまではディール様も一緒にいて下さるそうですのでそこは安心です。



……ですが、そう安心ばかりはしていられません!!




何と言っても、私には我が神の毒を体外―私の体の中へと排出していただくという大命があるのですから!!


私が成功すれば、それをきっかけにシアさんや他の方々にも積極的に出していこうとお思いになってもらえるようになるかもしれない―そんな今後を左右する大事な先遣隊としての役目なのです。


……失敗は許されません。




「じゃあ行ってくるよ。留守はシア君とユウ、それにエフィー君ができるだけ仕切って何とか乗り切ってくれ」

「はい」

「うん、分かった」

「了解です、ディールさん」

「よし、では行こうか」

「はい、ディール様」




そうして私はこの孤島に連れて来られた時のようにディール様が召喚なさった骨のドラゴンに乗って我が神に会いに旅立ちました。








「では、私は騎士団区へと向かう。ゴホッ、後は朧君と協力してレン君か、カイト君本人を見つけたまえ」

「はい」


王都へと無事侵入した後、もう日が暮れ始めていました。

ディール様は露店に出ていた簡単な食料を私にご馳走して下さったら、おっしゃったように騎士団区へと向かわれました。


私もここへ来た目的を達するべく行動を開始しました……






王都内をうろつき始めて凡そ1時間後、どういうわけか他人の視線が―特に男性のいやらしく、ねちっこい―集まって来ているように感じたのですが、気にせず捜索を続けていると、朧さんから報告がありました。


我が神ではないようですが、どうやら我が神と共に王都へと来ている天使様―レン様が見つかったようです。



私は先程までいた冒険者区を後にし、総合区へと急いで戻りました。


すると……



「いや~、これは絶対先輩も喜びますよ、あのクールな先輩に一泡吹かせてやります!!」

「ふふっ、お兄ちゃんが喜んでくれるといいね、ヤクモお姉ちゃん!!」




とりわけ目立つ二人組の女性が楽しそうに会話しながら通りの中を歩いていました。

一方は猫耳があるので恐らく獣人の方でしょうか、引き締まった体をなさっている他方で、女性らしい部分の魅力もしっかり持ち合わせていらっしゃいます。


……美人・可愛らしいという言葉が併存している、とても目を引くお方です。


そしてもう一方のお方が……



先日天使の里でゴウ様、カリン様から伺っていた通りオレンジの髪に動き易そうな服装、そしてご自分の体ほどもある槍を携えている……


あれが?



そう視線を送ると、朧さんは無言のまま頷く。



では……





「あ、あの!!」

「ん? あなたは……誰ですか?」



声をかけると、あからさまに猫人の方から不振がられてしまいます。

私も知らない人から突然声をかけられたら同じように警戒しますが、このお方はどういうわけか……私の胸と下半身をジッと見ているように感じます。


「え、え~っと……どちらさま?」


う、うぅ……レン様からも。

どうしたら……




そう思っていると……



「…………」

「あ! 朧ちゃんだ!」

「ん? レンさんの知り合いでしたか」


朧さんがどこからともなくスッと姿を見せて下さると、レンさんが反応を示してくれます。

ふぅ……良かった。


「という事は……あの、ごめんヤクモお姉ちゃん、今日はボク帰れないや」

「そうですか……分かりました。先輩には言伝をしておきましょう」

「うん、ゴメンね」


即座に察して下さったレンさんが一言告げるだけで、『ヤクモ』と呼ばれたお方は何も聞かずにあっさりと納得して下さいました。

……お若いのに、そう言う機微の変化を察することに長けていらっしゃるのでしょうか。



「じゃあ、ちょっとボク行ってくるね―行こっか」

「あ、はい」



レン様に手を引かれ、私は後をついて行くのでした……







「うん、じゃあ先ず自己紹介。ボクはヨウ・スイレン。レンって呼んでね!」

「はい、レン様。私は……」

「うん、レンでいいよ?」

「え、えーっと、その、レン様?」

「うん、レンでいいよ?」

「……すいません、ではレンさんで」

「うーん……まあそのあたりが妥協点かな?」

「申しわけありません」


流石に本物の天使様を呼び捨てにするわけにはいきませんから……

私は改めて、木の香りが漂う宿の部屋の中でレンさんに自己紹介をします。



「私はセフィナと申します。この度我が神―カイト様の新たな奴隷となりました」

「ああ!! そう言えばお兄ちゃんがそんなこと言ってたような気がする!!」


な!?

わ、我が神が、私のことを、気にして下さって……


「ああ、何ということでしょう……あまりの幸福の波に流されてしまいそうです」

「…………えーっと」

「はぅっ!? す、すいません」


レンさんが何とも言えない様子でいらっしゃったので流石に我に返ります。

わざわざ別に宿をとってまでいただいたんですから、本題を話さないと。


「では、私がここに来た理由を……」





私は、自分自身について、それから我が神に『ルナの光書』なるものやディール様からお預かりした手紙を届けるために来た、ということを説明しました。


そして私とともにやってきた皆さん、それに孤島にいらっしゃるシアさん達の近況をお伝えしようかとも思ったのですがそれはまた明日、ということに。

と言うのも私がこの王都に着いた頃にはもう既に日が暮れていたんです。


今は宿の方が魔力で火を点すカンテラを使わないと辺りが全く分からないような暗さになっています。

レンさんが長時間の飛行をしてきた私を気遣って話を打ち切って下さったのもありますが、もう流石に今夜は寝ることに……






そして次の日、人族で錬金術師のレイナさん、人魚のオトヒメさん、それにカノンさんの妹さんであるアリシアさん・ミリュンさん・ミラさんが私とともに孤島へと来たことを告げたあたりで、一度レンさんが騎士団区へと戻られることになったのですが……




「ごめん、何か騎士団庁舎の中にほとんど誰もいなかった。お兄ちゃんもヤクモお姉ちゃんも二人ともいないみたい……」

「そう、ですか……」




我が神―カイト様はどうやらお出かけになられた様子です。

帰っていらっしゃるのがいつ頃になるか分かりませんでしたが、一先ずまた夕方訪れることにし、それまでは他の方々の近況報告やレンさん自身からお話を伺ったり、はたまた私が天使の里を訪れた際のお話をして有意義な時を過ごしました。





そして、遂に……



=====  セフィナ視点終了  =====



~回想終了~






「なるほど……という事は、ディールさんも王都に来てるってことか」

「はい」


俺は今、セフィナが勧めてくれた宿を一つとり、その部屋の中で彼女がここに来た事情を尋ねていた。

ちなみにこの部屋は何でも板の張り方を工夫し、防音に優れた作りにしているそうだ。


だから密談・密会に持って来いだと言う。


「ふーむ。そうか。大体事情は把握した」

「そうでございますか。―ああ、我が神よ……」


うん、これはまだ意味が分からないままだけどね。

いや、勿論セフィナが奴隷になった経緯は聴いたよ。


あの『ミズキ・タカマチ』という女勇者とまさか関わりがあったということにも驚いたが、まあ何よりも驚きなのはやっぱりこの状況だよね……


「ああ、我が神……なんと凛々しいお姿をしていらっしゃったのでしょう」


今、一応エフィーの『六神人形シィ・ドゥ・オ・ドール』の一体、朧が見張りを買って出てくれてることも有り、俺は仲間の前であるので鎧兜を取っ払っている。


……だが、それでも初対面のはず。

彼女自身を闇市の闘技場における賞品という場所から救い出したのは『シア』なのだから、俺がこんな扱いを受ける覚えは無いんだけどな……



「それから、これが後預かっている『ルナの光書』です。お納めください」

「おお、これが……」



セフィナの手から受け取ったのは、特に何の変哲もない黄ばんだ巻物。

だがこれがあれば『光魔法』について適正・素質がある俺は『光魔法』を修行せずに習得できるという。


ディールさんとの取引の内の一つで、ディールさんがSランク冒険者にして『ルナの光杖』の団長レイスさんからこれまた取引により手に入れた逸品だ。


まあ、ディールさんの手紙もまだ詳しくは読んでないし、今はもう暗い。

セフィナの生い立ちを聴いた今、夜遅くまで付き合わせるのは気が引ける。

二つとも、後でセフィナが寝た後か、それか明日にでも……



そう思ってアイテムボックスに全て仕舞ったところで、セフィナから……



「ああ、我が神よ」

「……何だ?」


取り敢えず呼びかけに答える。

『神』云々については一先ず保留。

多分ディールさんの手紙の内容よりも頭を悩ます羽目になりそうなので、明日以降の俺に任せることにする。


セフィナはさっきまでとは打って変わって畏敬の眼差し、と言うよりは真剣な目つきをして俺を見据えてくる。

だからてっきり内容も真面目なものかと思っていたのだが……







「我が神―カイト様。カイト様のお体にある毒を取り除かせてください!!」






……なんて言ってきた。


は? 毒?

このは一体何を言って……



「えーっと……毒? 俺の、体に?」

「はい!! 一秒でも早くあなた様のお体から取り払いたいのです!!」


と、あくまでもセフィナは熱意と狂気を持って訴えかけてくる。

……ごめん、流石に美人でも一瞬引いた。



「あのさ、悪いけどほんとに俺の体に毒ってあるのか? 俺自身鑑定できるんだけど……」


俺は念のため鑑定して自分のステータスを調べてみるも、勿論俺の状態は普通。

毒になど罹っていない。


「やっぱり毒は無いぞ? それに、百歩譲って毒に罹患してたとしても俺、自分で何とかなるしさ」


俺は王都に来る前に、ディールさんの屋敷の地下で言葉通り血反吐がでるような地獄の訓練を経て『毒魔法』という毒に対して滅法強いスキルを得たのだ。

更に言えばユーリと契約したおかげで『治癒魔法』で状態異常は治癒できる。


だから別にわざわざ誰かに解毒してもらう必要などは……ってえ!?



「ああ……何と言う事でしょう……やはり、我が神は……」



セフィナはまたさっき出会った時のように膝をついて祈りのポーズをとる。

勿論丈が短すぎるスカート部分がめくれて純白の下着が見えることなどもお構いなしに。


そして今回は涙まで流してしまう始末。

もう何が何やら……



「あの、えっと、俺、何かおかしいこと……」


フィオムの場合は原因が分かっていたからこそ、コミュニケーション能力に疑問が有るような俺でも慰めの言葉が出てくるのだ。


今目の前で膝をついて泣いているこの子が何故泣いているのか皆目見当もつかないこの場面で俺が発揮できる能力と言えば『どもる』ただ一択だ。


どうしよう、ああでもないこうでもないと頭を悩ませていると……




「我が神よ、私に、毒を、排出させてください!!」




涙を拭いて立ち上がり、彼女はまた俺に強い意志を感じさせる瞳で請うてくる。

どうしてそこまで……あ、そう言えば。



「セフィナって聖女だっけか?」

「はい!!」



なるほど。

聖女とか巫女とかだったら普通の人には見えないものとかも見えるのかもしれない。

もしかしたら俺が思っている毒とセフィナの思ってる毒とは性質が違うのかもな。


それで、役に立ちたいと思っていたら俺に頭から否定されて……それは泣くわ。

俺が悪いな。


うん、ここは男らしく俺から謝ってしまおう。

そして折角だから……



「じゃ、折角だから、頼めるか?」

「はぁぁぁ!! はい!!」



うん、良かった。

破顔して喜びを示すセフィナを見ると、やっぱり俺の考えは正しかったようだ……











……なんてことを言っていた過去の俺が懐かしい。

過去の俺よ、色々と考えが甘い。


シュークリームに上からまた生クリームぶっかけて、その上から更にあんこと蜂蜜たっぷりと乗せた後、仕上げに粉砂糖1キロぶっかけて完成、みたいなものを食べ物と呼ぶ甘党よりも甘い。


……うん、おかしいね色々と。

確か解毒だったよね? 俺が頼んだの。

うん、確かそのはず。


自分自身に「忘れろ」というギ〇スをかけていたり、超高〇級な方々が集う学級裁判で絶望渦巻く殺し合いをさせるべく記憶を消されたのでなければ、俺がセフィナにお願いしたのは俺の体内にある毒を取り出してもらうということだった。



なのにどうして……






「……セフィナ、どうしてベッドに下着一枚の俺を縛り付ける必要があるんだ?」

「……それは、我が神―カイト様が治療中に動かれて、万が一ケガをなさってしまっては私が孤島にいる皆さんやレンさん、それに我が神ご自身にも顔向けできないからです」

「…………」


……なんだその悪徳マッサージ師がエロいこと考えてる時に使いそうな言い訳は。

何で解毒治療に怪我をするリスクが伴うの!?


俺が知らないだけ!?

聖女が行う解毒ってそれだけ危険なの!?


救急車の担架に乗る際体を固定するようなベルトが5本もミチッと俺の体を固定しないといけない位!?


ほんとどうでもいいけど朧もなんでこんなもん持ってんだよ。

「……忍ですから」とかいいんだよ。

もうそれが何でもかんでも持ってるような免罪符みたいな言葉になっちゃうから。



「大丈夫です……我が神はリラックスなさって、ただ毒を体外へと出していただくだけでいいんです……」


大丈夫ならこのベルト外さない?

首の上以外身動き取れないんだけど。


いや、本気で力を出せば壊せないことも……ないんだろうけど。

でもなぁ、壊してまで……って!?


「……では、触診を始めます」

「セ、セフィナさん、どうして私の上に馬乗りになるのでしょうか!? しかもそのような破廉恥極まりない格好して!?」

「……体を密着させないと。触った感覚に万が一にも誤りがあってはなりませんから」


セフィナは一切ふざけたり照れたりなどしない。

目が本気なのだ。

この位置からだとショーツどころか、セフィナが俺にまたがる位置をずらす度に膨らんでいる二つの巨峰がまるでぷっちんプリンのようにプルンと震える瞬間すら見えてしまうのだが……


「……このシスター服は、我が神の解毒を行う際に必ず着るように指定されている正装です」


などと言ってしまう始末。

ってか『指定されてる』って何だよ!?

誰だ、こんなエロい服指定したの!?


―って、ダメだ!!

そっち系を意識したら……




「……ん……」


セフィナの手が俺の胸に添えられ、どんどんその手袋の擦れる感覚が下へ下へと降りて行く。

そっちはダメ!!


「…………我が神―カイト様」

「……な、何だ?」

「……どれ位、出していませんか?」


セフィナの冷酷とも思える断罪の言葉が無慈悲に降り注いでくる。

その視線は横に寝そべっている俺に反して、一人だけ孤軍奮闘直立しているわが息子に。




…………人間の世の中の嘘発見器って、この手のものにしたら少なくとも4分の1以上は引っかかると思うんだ。



「……多分、2週間、位」


俺の奴隷とは言え、女性相手に何日出していないかを告げるのはかなり恥ずかしい。

……が、そんなことを思っている暇もなくセフィナが一人何故か……



「うぅ、うぅぅ……我が、神よ……」

「ちょ、ちょどうした!? 何で泣く!?」

「ぐすんっ、我が神が、どれだけ、お辛いことをなさっていたのか、ということを、思いますと、私は、溢れてくる涙を、止められませんでした……」

「い、いや……何も泣かなくても……」


別にセフィナが泣かなければいけない程辛い経験というわけでは無いはずなんだが……

それか単にこの子の心が綺麗だということだけなのだろうか?


何にしても……うぐっ!?


「我が神―カイト様。結果が出ました。―重症です! 今すぐ毒を全て搾り取りませんと、お体に障ります!!」

「ちょ、分かった!! 分かったから触らないでくれ!! そこはちょっと……」


くっ、ベルト、邪魔!!

セフィナの(『魔の』?)手から逃れようと必死に体をよじるのだが、抵抗虚しく彼女の手袋付きのザワザワする柔らかな手に捕まってしまう。


そして……



「今直ぐに……楽にして差し上げますからね、我が神―んっ」



俺に馬乗りになっていたセフィナはベッドにM字に足を立ててそれから腰を落とし……






「我が神―カイト様……全て、私の中に出してくださいね」









……セフィナの言葉が違う事は無く、早々に全てを搾り取られてしまった。

しかも……全て彼女の体内に。

あれだな、注射を打ったり、はたまた煙草を吸ったりした後と多分一緒だ。


やってる時は気持ちいいがやり終わった後果てしない罪悪感に苛まれる。

それが「遠慮は、入りません!! 動けない、んですから、全て私の中に!!」とか本人に言われてもね。



だが子供だの色々と心配する必要は無かったらしい。

全てが終わった後、突如としてセフィナのお腹辺りが白い光を帯びて輝きだし、その光が纏まった塊となると、それがどういうわけかセフィナの体を離れて天井を通り抜け、そして空へと飛んで行ってしまった。


セフィナ自身から心当たりを聴いた後、彼女のステータスを鑑定すると……




名前:セフィナ・フィアルレン

種族:人族

身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト

性別:女

職業:聖女 

年齢:15歳



Lv.33 ★(女神の祝福)

HP:128/88(+40)

MP:205/120(+85)

STR(筋力):44(+20)

DEF(防御力):41(+20)

INT(賢さ):79(+35)

AGI(素早さ):30(+20)

LUK(運):28(+40)


『巫女の祈りⅡ+α』、『女神の祝福』、『治癒魔法』、『生活魔法』、『属性強化』、『詠唱中短縮(治癒)』、『棍棒術』、『盾術』



・巫女の祈り


Ⅰ:コール・白騎士……2体   

Ⅱ:エンジェルソング ★

Ⅲ:ポゼッション・ヴァルキリー 

Ⅳ:マーチ・オブ・ナイツ

Ⅴ:ディバイン・プロテクション

Ⅵ:セブンセンス

Ⅶ:ゴッドハンド


+α:レベルⅧが出現。更に女神に送った愛の総量が多ければ多い程聖女の能力値が上昇(初めての『愛』の送達完了おめでとう。これに満足せず続けることね。初めてだからちょっとサービスしといたげる! んま、応援してるわ。 byたまに神の代行もしている女神)。


Ⅷ:コール・デュランダル






……何だこりゃ。

一回で入ってくる情報量にしては多すぎないか。


先ずそもそもの前提として、まだセフィナとはパーティーを組んでいない。

だから俺の『パーティー恩恵』のスキルが彼女に効いていない今現段階でこの能力アップだ。

セフィナと行為に到る以前とはまるで別格。


これなら普通に一人ででもやって行けるのではないかと思ってしまう程に。


そして何と言っても注視すべきは『巫女の祈り』で使える技だろう。

ついさっきまでは何もできず、レベルⅠの『コール・白騎士』でさえも召喚可能な数が『0』だったのに、今じゃいきなり『2』になって、しかもレベルまで上がっている。


まだ実際に召喚自体はしてもらっていないが、ディールさんから聴いたことがある。


白騎士……ディールさんが良く使うと言っていた黒騎士とは対の存在。

つまり『光魔法』と『治癒魔法』を使う事が出来、そして近接戦闘はお手の物。


ハッキリ言って黒騎士でさえ最近は滅多に見ないクラスのモンスターだが、白騎士は存在すら疑われていたほどだ。


それをセフィナは2体も呼び出すことができると言う……



シアは凄い子を仲間にしたんだな、と改めて感じさせられた……






うん、今はもう他はツッコまないことにする。

これ以上ツッコんでたらキリが無いからね。

特に新たに観測されたレベルⅧとかデュラン何たらさんだとかは……





はぁ……本来なら『ルナの光書』だとかディールさんから貰った手紙を読んでから一度戻りたかったが一先ず騎士団区の庁舎に戻ることにする。


レンにあの後を任せてきたが、オルトさんが相手だったし、もしかしたら他にも増えているかもしれない。


それに……ヤクモがどうしてるかも気になる。

アイツとは会ってから、顔を合わせない時が基本今迄なかったからな。


流石に心配になってくる。



まあセフィナの言う話通りだとディールさんは昨日騎士団区へと向かったそうだ。

また今日もいるかどうかは分からないが行ってみる価値はあるだろうし、合えたら直接Sランク冒険者である“ヨミさん”のことについて何か話せるかもしれない。


セフィナについては……まあ何とかなるだろう。

服装も、解毒しない場合については改めるように言い聞かせたので今は……まだ露出の抑えたシスター服を着ている。


本人は特に不満そうでもなく俺の言うことをちゃんと聞いてくれるのだが……じゃあなんであんなことが起こったのかはもう言及しないことにする。

俺も一応解毒を自分からお願いした手前、起こったことについてとやかく言っても仕方がないのだ。





そうして俺とセフィナ、それに影から俺達について来ているはずの朧の3人で騎士団区へと戻ろうと歩を進めていたところ……



「ん? やっぱりレンか、お前何してるんだ?」

「お兄ちゃん!? し、しぃ~~~!!」

「わ、悪い」


歓楽区の裏通りへと続く道の前、小さな宿屋や店の壁に身を隠すようにしていたレンを見つけるも、人差し指をピンとさせ、音を立てないように注意される。


状況が分からなかったので、一先ずセフィナと共に同じく隠れながら何をしているのかと問いかけると……


「うーん……ヤクモお姉ちゃんが、ね? 何だかまたスラムに……行ってるっぽくって」

「何? またヤクモが……スラムにか?」


アイツと会った時のことを嫌でも思い出すことになる。

嫌な予感が頭をかすめる。


アイツ……



「あんまり首を突っ込むのも悪いかと思ったんだけど、心配になって……」


レンも俺と同じ気持ちでいてくれたようだ。

だからこそこうして無粋とは思っていながらも、姿は見えないがヤクモを尾行していたのだろう。


「そうか……スマン、セフィナ、ちょっと用事が出来た。ついて来てくれるか?」

「はい。我が神がいらっしゃるところへならどこへでも」


セフィナは俺の用事が何かなど聞かず、二つ返事で答えてくれる。

そのことについての是非は置かせてもらう。


今は拙速が大事だろう。



「レン、ヤクモの行った場所は分かるか?」

「う~ん……途中まではついて行ってたんだけど、この先くらいで姿が……」


要するにここで丁度見失ったって辺りか。

ならまだそれほど時間は経ってないはず。



俺は初めてアイツを見つけた時のように『索敵』を駆使することにする。

後……


「朧、今回は違う人探しを頼む。ヤクモって奴だが……分かるか?」

「……大丈夫です。先日目にしておりますゆえ」

「そうか。じゃあ見つけたら俺達に合流してくれるか?」

「御意」


本当に忍のように目の前でサッと姿を消してしまう。

……流石だな。


「よし、俺達も探そう!!」

「うん!!」

「はい!!」







今回は前回よりも相当早く目的の人物を見つけることができた。

30分もかからないうちに、俺よりはやく朧がヤクモらしき人物を見つけたと俺達に報告しに戻ってきたので、そちらへと足を向けた。


そうして駆けること更に約20分……



以前、ヤクモが足を広げて寝ていたような場所とは異なり、俺達が出たのは……




「え!? 先輩!? それにレンさん!?」

「ヤクモ、お姉ちゃん……それは!?」

「ヤクモ……お前……」




俺達が出たのはそう広くは無い、遊ぶための施設が一切合財存在しない公園と言った感じの場所だった。

だが、驚いたのはそのことでは無く、そこで目にした……





「……それぞれ種族が異なるモンスターのようなもの、が4体、ですか?」



……セフィナが言葉にした姿の生き物の1体に、ヤクモが食糧と、僅かながらのお金を与えている光景だった。

最近のマイブームは音楽番組を『消音』で流し、「うわお、物凄い口パクw」と独りで寂しくツッコみを入れてバカやることです。


新作……はちょっと出鼻を挫かれた感があります。

先週は想定外ながらも4万字頑張ったのに、全然進まない。

そのくせプロットだけは貯まって行く一方。


くそっ!!

こうなったら癒しを求めて金色なモザ〇クに逃避行するしかない!!


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