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『王子』と『王女』

さて、カイト君が抱き上げている女性は果たして誰なんでしょう!?

え!?

マジどういう事!?

 

何で!? 俺が抱き上げてるのってフィオムだよね!?

フィオム『王子』だよね!?



だが俺の思考をせっせと否定してくる事実が目の前に。


くっ、これ本当に何なの?

マジックかなんか?


人体移動でもしたのかこの野郎。

誰がやらかしたんだ、ハンドパワーか?

Mr.マ〇ック呼んでこいや!!



「あの、その、マーシュ?」

「うぉっつ!?」


突如として自分の名が呼ばれてもうひたすら頭の中が混乱する。

ビックリしすぎて思わず耳がでっかくなっちゃったかもしれない。

でも、そもそも俺の名を呼ぶってことは別人説……はないんだよな……



「な、何だ!? いきなり!!」

「いや、それはこっちのセリフなんだけど!? いきなり俺の知っているフィオムが女の子になっちゃってるんですが!?」


勢いのままにふんわりカールの金髪美少女にツッコみを入れる。

もう、なに!? 何なの!? 性転換モノ!?

折角さっき女騎士がオーク・ゴブリンに襲われる『くっ、好きにしろ』の同人誌発売を阻止したのに今度は『フィオム“君”がフィオム“ちゃん”になっちゃった!?』か!?


何だそりゃ!!

自分で言っといて情けなくなってくる!!



ついてけない……もう嫌だこの世界……




「……へ? 私が……女の子? ―キャッ!?」



自分の容姿を見回してようやく事態を把握したのか、フィオム(?)は飛び跳ねて俺から離れる。


……何だよ「キャッ」って。

滅茶苦茶女の子っぽい悲鳴じゃねぇか。


止めてくれ、もう何が何だか分かんなくなってくる……


立ち上がり、俺から距離をとったフィオムは自分の両腕で自分を抱きしめるようにして守る。

そして首から上を真っ赤にし、内股でおどおどとしながらも下から覗きこむような仕草をして俺を見てきた。


「…………そ、その……マーシュ、くん

「…………何だ」

「…………見ました、か?」


何をだよ……

しかも何か口調まで変わってるし……

いっそのことどこかで「ドッキリでした~!!」っていうプラカードを持った人が現れてくれた方がまだ現実味が有るような気がしてならないんだが……


「……オルト、お前この状況分かるか?」

「……いや、私なんかよりウォーレイの方が頭が回るだろう。何が起こってる?」

「いや、私にもさっぱりだ……」

「だよな……」


どうやら光の影響が収まって、ウォーレイさんとオルトさんの二人も今の状況を視認できるようになったみたいだ。

助けを仰ごうと思ったが二人にも何が何やら、ということらしい。


本当にこの状況どうすればいいの?

収拾つかないんだけど……




「うっ、うぅぅ……」

「「「っ!?」」」


そう思って頭を捻っていた俺達3人に警笛を鳴らす呻き声があがった。

先程俺が雷魔法で伸したあの男だ。

拘束してはおいたが、コイツが起きたら他の残っているモンスター達に何か命令するかもしれない。


取り敢えずフィオムのことは棚上げにして目下の危険を排除しきっておくことにする。


「どうする? とりあえず先にコイツ連れて行くか?」

「……そうだな。このまま放置しておくのは危険だろう」

 

ウォーレイさんの同意を得られたので早速行動を……と思ったのだが。


「ここは私が引き受けよう。オルトとマーシュはそちらの……」

「…………」

「フィオム“様”、でよろしいのですか?」

「…………はい」


ウォーレイさんが確認すると、彼女はお人形のような綺麗な顔をコクリと小さく頷かせた。

それを見て、再びウォーレイさんが俺とオルトさんに向き直る。

 

「二人はフィオム様を安全なところまで避難させてくれ。その際控えている騎士達に声をかけてこちらに寄越してくれると助かる」

「人選はそれでいいのか? その、今一応性別的な配慮をしたら俺がその役を引き受けた方が良いんじゃないか?」

「私よりはマーシュの方が色々と機転が利くし器用だろう。それに……」


フィオムの方をチラッと見やる。

不安で一杯な顔をこちらに向けて、捨てられた子犬のようにプルプル震えている。


……今迄こんなフィオムは見たことが無い(性別とかそう意味じゃなくて)。


「マーシュがいた方が幾らかは安心なさるだろう。オルトは護衛の要だしはずせん。これがベストだろう」

「……そう、か。分かった」

「了解した。そっちは任せたぞ、ウォーレイ」

「ああ」



そこで俺達は別れ、フィオムを護衛するためにその場を後にした。









「……では二人とも……少し、待っていて下さい」

「……分かった」

「……畏まりました」


フィオムは俺とオルトさんを部屋に待たせて一人退室していった。



ウォーレイさんの応援を呼んだあと、俺達はフィオムに外套を被せて王都内へと戻ってきた。

その後、安全な場所を探そうとオルトさんと二人で考えたのだが、そこで……



「……私に、ついて来てくれませんか?」



というフィオムの言葉を受け、行先を決めた。

それ以外フィオムは終始口を開くことは無かった。


顔を他の者に見られたくないという思いもあったのだろうが、その顔は俯きがちで、様子を窺ったときなど幽霊も真っ青な顔をしていたのだ。


体調が悪い、というわけではなくやはり精神的な物なのだろう……




そして、俺達が辿り着いたのは、フィオムが王都にて構える貴族街の奥にあるフィオム専用の館であった。

庭は左程広くないものの、豪邸という言葉が似つかわしい外観をしており、ここに入るまでに本来なら何重ものチェックを受けなければならないという。


門前でばったりと出くわしたウィルさんがいなければここまでスムーズに事が運ぶことはなかっただろう。

ただ、外套からヒョコッと顔を出したフィオムの姿を見て全てを悟ったような表情をしたウィルさんの様子からして……



やはり、フィオムは……







「お待たせしました……」


ガチャリとドアが開く音がし、思考を中断してそちらに首を向ける。


……え?


「「…………」」

「あの、その……変、でしょうか?」


現れたフィオムの姿に俺とオルトさんは二人して絶句してしまった。

この豪勢な部屋に通されてからも、俺達はその高価な椅子や部屋全体を煌びやかに飾るシャンデリアなどにも一切目をとられることは無かった。


だが……


「……いや、変、ではない。ありきたりな言葉で悪いが、その……綺麗過ぎて、驚いた」

「……はい。私もマーシュに同じく、とても、お美しいお姿をなさっておいでなので……」

「そ、そうですか……安心、しました」


フィオムはそれでもまだ自分の姿がおかしなものではないか確かめるように小さな手を使ってそのドレスの端をチョコンと引っ張りあげたり、それで満足できなくて可愛らしく小首を傾げたり、クルンと小柄な体を一回転して見せたり……











メッチャお姫様やん!?



誰だアイツ!?

もう俺の知ってるフィオムはいなくなってしまったのか!?

コイツ、昨日見た“レド王女”なんか目じゃねえくらい可愛いぞ!!


この王国は化物ばかり飼ってやがるのか!?






「あの、その……それで、フィオム様」


オルトさんが遠慮がちにフィオムの行動を制止する。


「あ……すいません」



それで俺達を待たせていることに気付いたフィオムは申し訳なさそうに眉を下げ、そして胸に手をあてて一度深呼吸する。

やはり顔色は青白いままだ。


「……色々と混乱なさって、いるかと思いますが、改めて先ず、自己紹介をしておきます。―リューミラル王国王位継承権第2位 “フィオム・レイ・リューミラル”……自分で言うのも何ですが…………“王女”です」

「……マジか」

「……王女、でいらっしゃったのですか」



はぁ……何か頭痛くなってきた。

偏頭痛かな……


「…………」


フィオムはそれだけ話すと本当に申し訳なさそうな顔をして目を伏せる。

まあ、ビックリはビックリだけど、フィオムに何かしらの事情があるのは間違いないだろう。



……これで「実は、ただの男装癖で……」なんて話になったら即帰るが。


俺はこの重たい沈黙を幾らか和らげるべく話を切り出す。


「ん~まあそっちにも色々と事情があるんだろう。その事情を話してもらった方が確かに俺達もスッキリするが無理に……」

「お気遣い、ありがとうございます。……しかし、知られてしまった以上、真実を……話さなければなりません」



あ~ダメだったか。

これはあれか、「勇者よ、魔王を倒して世界を救ってくれるか?」って聞かれて


   はい

▷  いいえ



って選択したら「ん? 耳が悪くなってのう、良く聞えんかった。もう一度言ってくれんか?」のタイプか。


この王様の方が難聴系主人公より性質が悪いと俺は思うんだけど……

それは兎も角、話を聴かないとダメなパターンって意外と現実でもあるのね。


今後の教訓にしとくわ。





「……ん。そうか。じゃあ話してくれるか?」

「……はい……では、私が、どうやって姿を偽っていたか、を説明します」



そう言ってフィオムは一枚の古い羊皮紙を取り出してきた。

それをテーブルに広げて、俺達に見えるようにする。


それを二人で覗き込むと、そこには一人の美しい女性が杖を持ってお城に光を振りかけている絵が。

そしてその絵の下には少女が3人いて、それぞれの下にまた3つの〇がある。

その〇の中にはそれぞれ『いやし』『さばき』『まどわし』という字が書かれていた。


フィオムはそれを、サテンの手袋で包まれた細く綺麗な指でさしながら説明し始めた。




「このリューミラル王国は代々、光の大精霊“ルナ”の加護を得て繁栄してきました。過去の王がルナと親しかったから、と言われています」

「なるほど……という事はこの女性が“ルナ”で、この杖から出ている光が加護ってことか」


コクリと俺の顔を見て頷くフィオム。

……何だコイツ、可愛い仕草しやがって。


一々可愛いな。



「ですが問題もあったのです。“ルナ”の加護が及ぶのはリューミラル王家の血を受け継ぐ女性だけ。しかも女性が生まれたとしても必ず“ルナ”の加護を授かって出生するわけではありません。何一つ能力を持たない者も……」

「……それは、まあいいとして、つまりこの絵で少女が描かれているのは加護を受けられるのは女性だけってことを示してるのか?」

「……はい、その通りです」


なるほど……

話を聴いていたオルトさんも俺と同じように頷く。


そして断りを入れて質問する。


「その、いいでしょうか?」

「はい。構いませんよ」

「では、この少女たちの下にある〇の中身が具体的な加護の内容、という事になるのですか?」


オルトさんは〇の中にある『癒し』『裁き』『惑わし』の字を指でなぞりながら尋ねる。


「そうです。昔話としてはそれぞれの少女が一つ一つ加護を得て、それぞれ活躍して国を繁栄に導いた、という内容となっています。一つの加護、例えば『癒し』であればその王女の持つ『光魔法』はあらゆる病魔・怪我を治す光を宿した、と言う風に。ただ、それはあくまで昔話で……」

「ん? じゃあ実際は違うのか?」


そう尋ねると、フィオムの首は横に振られる。


「……いえ……違う、とまで明言はできないのです。何しろどの王女がどの加護を得ているのか、或いはそもそも加護を得られなかったのかは原則本人たちにしか分からないものですのでその本人に聴かない限り基本確認のしようが……」


まあ『原則』とか『基本』という言葉を使っているから例外はあるのだろうが、それをフィオムが言及しない以上あったとしても難しいのだろう。


「ふ~ん……そんなもんなのか」

「はい。ですが、私は一人だけ、どの加護を得ているか、と言うのを知っている人物が」

「え? それは……フィオム以外ってことか?」

「……はい。シオン姉様です。シオン姉様は『癒し』『裁き』『惑わし』3つ全ての加護をお受けしていました」

「……え? ちょ、ちょっと待て」


3つ?

あれ、一人一つじゃ……あ!!


「なるほど……もしかして昔話と違うって言ったのはそこも含むのか!」


閃いたと言わんばかりに前のめりになって発言した俺に、フィオムとオルトさんは両方ともびっくりした様子。

……少々興奮しすぎたか。


「……はい、正解です。これだけのことだけで分かっちゃうんですね」


あっ、何だ。

正解したから驚いてたのか。


「今、マーシュ……くんが言った通り、一人が2つの加護を受けていたり、シオン姉様のように3つ、という事もあるそうです……私が、その2つ、の事例ですね」

「な!? そうなのですか?」


今度はオルトさんが驚いたように跳ね上がる。

今目の前にいる人物が加護を二つも貰っているってことは確かにビックリするが……跳ね上がってまで驚くようなことではないと思うんだが。



「……私の加護は『癒し』と『惑わし』……私が男性を装っていたのも…………この加護の力によってなんです」

「「…………」」


大精霊の加護、か。

それ程の力があれば周りの者が見ても男だと疑わないようになるのだろうか……



「……フィオムの、その……『惑わし』の加護ってのはどんなくらいの力なんだ? まあ俺達が男だと信じて疑わない位だってのは分かるんだが……」


フィオムはそこで一度沈黙する。

話したくない、と言うよりは話す内容を選別するように考え込んでいるように見える。


そして再び顔を上げた後……



「私の、『惑わし』の加護を受けた『光魔法』は、目から得られる情報だけでなく、他にも色んな体の器官から得られる情報を……―ああ、私以外の方が感じることですね―それをあやふやにしてしまうことができるんですね。つまり……」


フィオムはドレスをフワッとなびかせながら立ち上がり、突如俺の手をその両手で包み込む。


「な!? 何だいきなり!?」


フィオム自身も恥ずかしいのか、顔を赤くしながらもだがその手は離さない。


「そ、その……今、私の手、どんな感じですか?」

「どんな感じって……柔らかい、かな。それと温かい……気持ちいいよ」

「ふにゃ!?」


っと、変な声を上げて頭から湯気が出そうな程顔を真っ赤にさせる。


「……最後のは余計だ、フン!!」

「いって!!」


理不尽にも隣に座っていたオルトさんから思いっきり足を踏まれる。

何だよ……聴かれたことに答えただけなのに……



「き、気持ちいい……とかそ、そういうことは今はダメです!! そ、その、私……王女、ですし……」

「……おい、フィオム、話飛んでる」


それに……


『今は』とか意味深な言葉つけんな。

それだけでどれだけ多くの紳士諸君が勘違いして轟沈していくことか……


べ、別に俺は一切期待なんて……期待なんてしてないんだからね!




「は!? す、すいません……それで、その……今は、どうですか?」


フィオムがそう言って手の力を込めた様に感じた。


すると、その手からは温かい光が入り込んでくると同時に、さっきまで感じていたフィオムの『柔らかい』手に包まれている、と言う感じが消え、代わりになんだかゴツゴツしたような、まあ要するに男の手に握られてる、という感覚が。



「これは……凄いな。まるで男の手だ。見た目は完全に華奢な女の子に握られているのに、不思議なもんだ」

「そうなのか?」


実際に感じていないオルトさんにも分かるようにフィオムが同じ実験をする。

オルトさんもそれで納得したのか、一度頷いて理解を示す。



「それで、あの時、オルトが体を差し出すのが……私のせいだと思うと……今迄保っていた魔力の安定が保てなくなり、そうして『光魔法』が暴走した結果、今に至る、ということです」

「……そうか」

「……分かりました」


『どうやって』男に見えるようにしていたかは分かった。

なので、話は次の段階―『どうして』に移り…………





「…………」

「「…………」」


フィオムは沈黙。

それで俺とオルトさんもちょっと気まずいので黙っている。


まあ普通、こんな綺麗で可愛いというありきたりだがその言葉しか言いようがない、そんな王女様が……その、言葉は悪くなるがあんな容姿に化けていたのだ、ただならぬ事情があるんだろう。


そもそも女が男に、というだけでも相当しんどいはず。

逆のパターンだが男が女装して女子高に潜入するエロゲーを幾つか見てきた俺には何となく分かる。


ここは気を利かせて……



「あの、その、フィオム。俺はお前が女だってことをちゃんと明かしてくれたからそれ以上は……」

「いえ、ここまで話したのです。全て、お話しましょう」



今のフィオムの言葉が脳内で「え? 何だって?」「すまん、耳が悪くてのう。もう一度言ってくれんか?」に変換される。


はいはい、聴かないとダメなんでしょ、分かってるよ。

ダメ元で試してみただけだって。





フィオムは幾度も深呼吸しては決意を固めている。

やはりポンポン簡単に誰かに話せるものでもないのだろう。



そして……



「マーシュ……くんには、一度言いましたが、私も最初から男と装っていたわけではありません」

「あ~そう言えば……」


そんなこと、風呂で……




って俺そう言えばこのと裸で二人っきりで風呂入ったのか!!

やっべぇ……それを考えるとマジマジとフィオムのことをまた見てしまう。



本当に可愛いよなぁ……

男の時の容姿あれを見てるからな、その分の落差というか上げ幅が半端ない。

これはシア達と出会った衝撃の再来のようだ。


……いや、例えるならリゼルの方が一番近いのか。

アイツがスキルの効果を使って融合したのを見た時に似ているもんな。




「私は幼いころはまだこの姿―つまり王女として振る舞っていた時期もあったんです」

「……その、ですがフィオム様が『惑わし』の加護をお受けになっているとしてもおかしくはありませんか? 見た目や接した時の感覚をどれだけ変えても、フィオム様は『王女』として出生なさったんですよね?」


オルトさんは全て説明するまで待ちきれないと言わんばかりに疑問を差し挟む。

フィオムはフィオムで、そのような質問が来るのを予期していたのか、一つ頷き説明する。


「確かにそうです。いくら私の『光魔法』が加護により強化されたとしても人の記憶などはいじれません。ですが……それは“私の”、という限定がつけばの話になります」

「“フィオムの”……ってことは誰か他の人がフィオムを男として生きさせる手助けをしたってことか?」


肯定の証として、またフィオムの頷きが得られた。

だがフィオムの表情は冴えない……どころか今迄で一番暗い顔をしているかもしれない。


テーブルは左程高くないので座っている俺からでも、今目の前に座っている女の子が膝の上で拳をギュッと握っているのが窺える。


そして……



「……私の母―お母様です。恐らくお母様が全て手回しをしたのだと思います。私が、その……男として生きることになったのも、そして生きてきたのも、お母様のご意志なのです」

「フィオムの……」

「お母様……つまり“フィアナ”様ですね」

「……そうです」




フィオムは顔を上げない。

下を向いたままずーっと拳をにぎにぎしている。


フィオム……



「リューミラルは代々男女関係なく王位継承権の順位で次期国王を決めるのが慣例です。ですが、風潮として随分以前より―それこそ私が生まれる前、そしてお母様が生まれる以前にもそうだったかもしれません―男が政治に着くべきだ、という考えが深いのです。そして女は先ほど話しましたが……」

「“ルナの加護”持ちが出てくる。それを王位につかせて政治に張り付かせるよりかは、他のこと―まあ軍事的なことや政略が主だろうな―に回した方が有意義ってことか?」



俺の発言に頭を縦に振るフィオム。

オルトさんも「うむ……」と話を先に促すよう声を漏らす。


「シオン姉様のように何でもできて、何でも持っている方なら例外・異例として女王にもなって、軍隊にも自分でついて、というのもできたのかもしれません。ですが、私はシオン姉様のような非凡な存在では無かったのです」

「え? フィオムもその……加護を2つ貰ってるんだろ?」

「2つ貰っていても、私は『裁き』の加護を与えられていませんし、剣術・体術も……全然なんです。軍事的な面はですから行くとしても完全に裏方です」

「そうか……となると、フィオムは一応姉のシオンよりかは順位で劣るから普通に考えれば後は政略結婚とか、か?」

「……はい。お母様は、私に、その、自分の好きな人と結ばれて、それで好きなように好きな生き方で生きて欲しい、とお思いになったようで……私はそもそもとても引っ込み思案でしたし、王位になんて全く不向きで、ですから、あらゆる面でダメダメで……」

「ん? どう言う事でしょう? この話の流れですと、フィオム様が男性として偽る意図がよく分からないのですが……」


正直言うと俺もちょっとこんがらがって来てる。


リューミラルだと慣例としては男女関係なく継承権の順位で決まる(昨日話していたようにレドと仲の良い勇者が魔王討伐みたいな手柄を立てたら、というような例外があるかもしれないが……)。


ただ、王宮内としては男は黙って政治、女はそのサポートとして軍事や政略に利用される、という風潮が前々からあった。


そしてフィオムは引っ込み思案で、特にこれと言った優れたところも無い(という本人談)。

そこで、残された道としては政略結婚かな、ってところ。


⇒ここで、お母さんが「フィオムには、自由に生きて欲しい」とフィオムを男として生きる手助けをお母さんが実行する……ん~何となく見えては来たかな。




「漠然とではあるが分かったような気はする」

「本当か、マーシュ?」


結構話が交錯してるから分からなくても無理はない。

俺は自分自身の理解を助けるためにも、オルトさんに説明していく。


「おう。男なら普通は政治の道に行くって言う風習があんだろ? 今はいないそうだが、王位継承権の第1位であるフィオムの姉のシオンがいる。だから本来何事もなく進んでいればフィオムが男になっても王にはなれない」

「うむ、それは分かる」

「それを逆に利用したんだろう。男は“ルナの加護”がないから優秀な奴がいてもどうしても女で“ルナの加護”持ちの奴と比較される。とすると男が軍事的・政略結婚なんかに使われる可能性はどうしても女よりかは相対的に下がるんだ」

「……うむ。なるほど」

「“ルナの加護”の副作用かどうかは定かではありませんが、リューミラル王国では他国と比較しても世継ぎのための子供が中々生まれにくい傾向にあります。それに加えて男性よりかは女性の方が出生は多いんです」


フィオムが俺の説明に補足を加える。

オルトさんも頷いて俺に先を促す。


「とすると……どうだ? 男で無能でおまけに容姿も……あんなんだ。俺達はフィオムの人柄・能力を知ってるからいいが、他国は欲しいと思うか、それにリューミラルは他国に出したいと思うか、そんな奴」

「…………」


オルトさんは答えない。

いや、答え自体は出ているんだろう。

しかしフィオム相手にそれを言葉にすることは色々とマズイと思っているのかもしれないな。


「男で政治にも、政略・軍事にも使えない、でも王族だ。もう何にも使えないなら放っとこうってなるのかもしれないな。で、フィオムのお母さんはフィオムに『自由に生きて欲しい』と思ってたんだろ?」

「……はい」

「という事は、あの男の時の容姿もあえてあんな感じにしてたのか?」


ちょっとだけボカして言ったが、あれは相当に酷い容姿だった。

レンの父親であるゴウさんや融合前のリゼルとはまた違った酷さがあったからな。



「……それも、お母様の、ご意志です」

「……なるほど……それは分かったのだが、ではフィオム様が王位継承権を放棄なさらない理由は?」

「あ~、それはなんて言うかな……わざわざ放棄してしまったら自分から『私は王位になど全く興味がない』って言いふらすようなもんだろ?」

「ん? それが何かダメなのか? フィオム様の目的とすることを叶えるためにはその方が早くは無いか?」

「ん~それは感覚的にはそうかもしれないが、『私は王位に興味はある、でもダメだった』っていう姿勢が大事なんじゃないか? 最初から『王座になんて全く興味ないし、他の奴等でやってろ』ってなるとフィオムが何か企んでるんじゃないか、って勘ぐるやつもいるだろ」

「あ~~!! なるほど。そう言われてみるとその感覚は分からなくはない」


ようやくオルトさんにも話の全容が理解できたようだ。

筋は悪くないようなので説明もそこまで力を入れることが無くて助かった。

これがリゼルとなると、後2周位しないと理解しないんだろうな……







「……これが、私のお話しできる、全てです」


やっと全容が把握できた。

これにて一件落着、と行きたいところなのだが、何故かフィオムのテンションがMaxで下がってる。


え?

全部話し終えたからもう今日はお開きじゃないの?


まだこの後何かイベントあったっけ?




フィオムは顔を決して上げず、俺達を見ぬままに蚊が鳴くような声で告げる。


「……その、オルト」

「はっ!!」


その小さな声をかき消してしまう勢いでオルトさんは立ち上がり、敬礼する。


「……今から、マーシュ、くんと二人で……話したいことがあるんです」



え?

俺?



「マーシュと、ですか?」


オルトさんも寝耳に水と言ったふうに俺とフィオムを交互に見る。


「……はい。とても、大切なこと、です」

「……分かりました」


オルトさんは真剣な表情をして、それだけ告げて立ち上がる。

そして去り際……



「おい、マーシュ」

「なんだ?」

「フィオム様に粗相のないようにな」

「……はいよ」

「あと、絶対妙な気は起こすなよ?」

「何だよ『妙な気』って」

「っ! その、『妙な気』は『妙な気』だ!! フィオム様の御美しさに当てられて気が狂ったお前を……私は切りたくないからな」

「なんじゃそりゃ……安心しろ。多分結構シリアスな内容そうだから、そんな気、起こる暇ないさ」

「……分かった。お前を信じる」



そしてオルトさんが出て行き、この広い部屋の中には俺とフィオムの二人きり……

自分で言った通り、例え以前の風呂の時のように俺達しかいなくても何かいかがわしい想像なんてする余地がない。



フィオムはとても辛そうなのだ。

どうしてここまで……


ふとこのフィオムと自分の状況に考えを至らせると、蘇ってくる記憶があった。




―ライルさんと親友になった、あの日のことだ。


無論、あの時の俺と重なるのは自分自身では無い。

今目の前で、今にも真っ青になり泣き崩れそうにしているこのお姫様だ。


もしかして……



「……マーシュ、君」


フィオムは俺と目は合わせようとしないが、重い重い口を開く。


「ん? 何だ?」

「…………私、は……あなたに、とても、とても失礼なことをしました。本当に、本当にごめんなさい」


体を必死に崩れないよう耐えているからか、彼女が頭を下げる際一瞬体がブレたように見えた。

この子はそんなにも……

俺が、俺がこの子にしてあげられることは……



「え? 俺、何かお前に謝られるようなこと、されたか?」


すっ呆けた様に軽く返してみる。

だが……


「っ!! とぼけないで下さい!! 私は、私は……」


ああ……泣かせてしまった、か。

口を覆っている手に流れ落ちる大粒の涙が、その手袋を濡らしていく。

何度も何度も嗚咽を漏らしながらもフィオムは自分の意志を伝えるべく今度は俺としっかりと、その濡れた瞳を向けてきた。



「私は、折角、あなたに、優しく、してもらったのに……あなたの信頼を、裏切った!!」

「裏切ったって……んな大袈裟な」

「大袈裟なんかじゃない!! 私は、私はあなたを騙して、男と偽って近づいて、それで……うぅ……」


フィオムは感情の赴くままに怒鳴って、泣いて、そして自分を責めて……

ああ、とても見覚えのある光景だ……


いや、実際には俺が俺自身を見たなんておかしなことは無いのだが……まあデジャヴュを感じるわけで……



自分がどれだけこの異世界に来て恵まれていたのかを改めて実感する。

最初に会えた人が、どれだけ自分にとってかけがえのない人だったかを……


もちろん今も俺の親友は死んでいない。

俺はその希望がついえるまで、信じることを止めはしない。


今は、親友の意志を酌んだ俺が、それを実現すべき時なのだ。




「……フィオムは、俺に『男だ』って嘘ついてたこと、気にしてるのか?」

「そう、です!! 私、は……親しい、人が、いないから、本当に、嬉しかった。私と一緒にいてくれる、人が、また、見つかって……でも!!」

「フィオム……」

「私は!! あなたと仲良くなった私は!! 本当は、女なの!! 本当はあんな堂々とした性格してない、ただの臆病な小娘なの!! シオン姉様とか、お母様とか、私の理想としてた人達をごっちゃ混ぜにして演じてただけ!! 全部嘘なの!!」


こういう所もとてもあの時の自分と似ている。

折角できた親しい人に嘘を吐いていたことをひたすら自分自身で責め、そうしてそんな自分が受け入れられるはずがないと自分を否定し、そうしてそんな自分が嫌になって……


何を考えてもそんな時に良いことが思い浮かぶはずがない。


こういう時に必要なのは……



「私、私……」


フィオムの涙は止まることなく流れつづけ、純白だった手袋を影が差したかのように薄暗く濡らした。

彼女はその手で顔を覆いつくしてしまう。




俺は、一つの決断をする。

本当なら、Sランク冒険者であるヨミさん探しを終わるまで誰一人として知られないのが理想だったのだが……



すいません、ディールさん。




「フィオム」

「……っ!!」


俺からどんな言葉を投げかけられるかを恐れてか、フィオムの肩が怯えたようにビクッと跳ねる。

俺は出来る限り優しい声音で一つ尋ねる。



「水晶、あるか?」

「…………え?」


想像していたどの言葉からも外れていたのだろう、驚いたように上げて見せた顔では、涙が一瞬止まっていた。


「ステータスとかを見る水晶のこと。あったら貸してくれないか?」

「…………」

「頼む。必要なんだ」

「分かり……ました」


フィオムはそう言ってから、目をゴシゴシと手袋で擦って涙を拭く。

そして部屋の隅にある並んだ木製の棚の中から一つの引き出しをあけ、俺のお目当てのものを持ってきた。


「……どうぞ」

「あんがと…………ほれ」


俺はこの王都にて初めて『偽装』を用いずに水晶に自分のステータスを表示させる。

そうしてから、また彼女に水晶を返す。


「…………え? 『カイト・タニモト』? これは……」


まあその反応が普通か。

フィオムが訳が分からないと言う風に首を傾げてこちらを見る。


俺はその答えを聴かせるとともに、頭にかぶっていた仮面ヘルムを取り外す。


「へ?……」

「これが俺の顔。そして、そこに出たのが俺の本当の名前」

「本当の……名前?」

「そう。俺の本当の名前は“カイト”って言うの。“マーシュ”は王都にいるときだけの偽名。身分自体も偽ってる」

「カイト……マーシュ……嘘……」


まださっきまでの興奮で頭がよく回らないのか、俺が言った言葉を繰り返すようにして呟くフィオム。


「どうだ? 俺も別人と偽ってフィオムに近づいたんだ。だからこれでおあいこだろ? フィオムだけが責められる謂れは無いわけだ」

「っ!!」


そこでフィオムは俺が何を言いたいのかを察したようだ。

また感情がぶり返してきたのか、手をギュッと握りしめて何かを言い募ろうとする。


「で、ですが!!―」

「な、フィオム」

「えっ!?」


俺は子供を宥めるようにフィオムの頭に手を置いてクシクシと撫でてやる。


「俺は別にフィオムの嘘で全く傷ついたなんてことはない。―いや、むしろフィオムの嘘、俺は好きだな……」

「え? 私の、嘘が……好き?」


信じられない言葉を聞いたという顔をする。

俺は嫌がられなかったので、尚も落ち着かせるべく頭を撫でながら続ける。


「だってさ、フィオムに自由に生きて、好きな人と結婚して欲しいっていうフィオムのお母さんの愛情がこの嘘を生んだんだろ?」


それは、リューミラルの政情について詳しくはしらないが、フィオムのお母さんが好きな人と結婚できなかったことから来る親心かもしれない。

自由に生きられなかった後悔からかもしれない。


「確かにフィオムはそのためにずっと辛い想いをしてきたのかもしれない。風呂に入った時言ってたもんな、男になって、大切な友達と別れてしまったって」

「…………はい」

「あんな容姿だ、人もあんまり近寄ってこないだろう。多分、俺なんかが軽々しく語れないような辛い目にずっとあってきたのかもしれない」

「…………」


フィオムは答えない。

それが肯定なのか否定なのか確信はないが、少なくとも良い思いをしてきていないのは確かだろう。


「だからこそ、そんな辛いことからは逃げることだってできたはずだ。―でも、フィオムはそうしなかった」


“ルナの加護”を得ていたとは言ってもフィオムが姿を偽っていたのは『光魔法』なのだ。

さっき魔法が解けたのも『暴発』したわけだが、それはつまり表現を裏返すなら普段は制御ができるということ。


つまりフィオムの意志次第でどうにかできることなのだ。


「フィオムはそれだけお母さんのことが大事だったんだろう? 辛いことを耐えてでもお母さんのしてくれたことを守りたいって」

「……うっ、うぅ……」

「そしてお母さんだってフィオムが男として暮らしていくことの苦労を考えなかったはずがない。フィオムのことを想ってこのことを考えたんだからな。それでもフィオムに男として暮らしていかせることを選んだのは……その苦労を乗り越えて欲しかった。フィオムがその苦労を乗り越えられると信じて、そしてその先にある自由を掴み取って欲しかったんだよ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」


フィオムはもう手で口元を抑えるなんてことはせず、俺の胸に飛び込んで来て声を上げて感情のままに泣く。

俺は飛び込んできたフィオムをしっかりと抱き留めてやる。


「カイト、君……カイト、君……」

「そんな優しい二人が吐いた嘘を、俺は嫌いにはなれないよ……」

「はい……はい……」

「フィオムさえ良ければ……俺はフィオムとこの関係をやめたくは無いな……」

「はい……はい……ありがとう……ありがとう、ございます……カイト君」

「うん……それで、フィオムが好きな奴と一緒にいられたり、自由に生きられる手伝いができたらいいなって……」

「うぅぅ……ぐすっ……はい……ありがとう、ございます」





その後はフィオムが泣き止むまで特に言葉は介さず、ただ時間が過ぎるままに任せていた……








===== フィオム視点 =====


「ん? フィオム様、ご機嫌でございますね?」

「フフッ、分かる、ウィル?」

「はい、それはもう……ここ10年でも1,2を争う程の上機嫌かと―マーシュ様のことですか?」

「……うん」


カイト君が帰った後、私は暫く部屋でボーっとしていました。

何だか心がポカポカ・フワフワする。


もう既にウィルには、カイト君(マーシュと偽ってるって部分は言ってないけど)に私が男装していたことがバレたという事は話してある。

それに、カイト君がそれでも私のことを受け入れてくれた、ということも。


ウィルは私が幼いころからの付き合いなので勿論私が女だという事は承知済みです。

むしろお母様に見込まれて、男のフリをする際には頼む、とまで言われているみたい。


私が本当に気兼ねなく色んなことを相談できる数少ない人物と言えるでしょう。

ですから、二人きりだったり、事情を理解している他の侍女たちといる時だけは私は普段女の時の口調をしてしまったり、魔法を解いたりしているんですが……



私は、このとても言葉では言い尽くせない程の嬉しさを誰かと共有したい。

でも、嬉しさのあまりペラペラとウィルに語り始めると、言ってはいけないことまで言ってしまいそうです。


むぅ~嬉しいことと悩ましいことの板挟みです。

誰かに、もっとカイト君の優しさを伝えたいのですが……



「良かったですね、マーシュ様、ずっとフィオム様といて下さると?」

「はい!! それはもう……は!?」

「? フィオム様?」



ウィルの言葉でふと思い出した。

……よくよく思い出してみると……一つだけ、本当に一つだけ見逃してはならない見落としがあった。


カイト君が私に語りかけてくれたことを思い出します。



『フィオムさえ良ければ……俺はフィオムとこの関係をやめたくは無いな……』



私との『この』関係を止めたくない……



それは二人は友達以上恋人未満を続けるという事でしょうか!?

今後永遠に私はカイト君と結ばれることは無いという事なんでしょうか!?


あの時は嬉しすぎて泣いてばかり、そして「はい……」しか言えなかったが、よく考えてみるとあの返事はダメだった。

もし、私がお母様が望んで下さったことを叶えるためには……


また…………悲しくなってきました。


「だ、大丈夫ですか!? 何か、お気に障ることが……」

「い、いえ……ちょっとばかり、疲れた……だけですから」

「…………」


恐らく私が嘘を吐いていることはバレてる。

長年付き合ってきたこの頼もしいメイドさんは私のことを知り尽くしている。

でも、だからこそ私が誤魔化す必要があることを考えている、という事も分かってくれている。


それ以上深く追求すると私がいらない気苦労をするだろうといつもここらで……


「そう、ですか。分かりました。ですが、何か相談事があればいつでもおっしゃって下さいね?―私はいつでもフィオム様の味方ですから」

「……ありがとう、ウィル」


本当に、あなたがいつも私の味方をしてきてくれたから、私は今、こうしてカイト君と出会う迄崩れず・腐らずに来れたんです。


この優しく、思いやりにあふれたメイドをこれ以上心配させないためにも、何かもっと良いことを考えましょう!!


良いこと……良いこと……



そこで、またカイト君が私に言ってくれた言葉を思い出す。



『それで、フィオムが好きな奴と一緒にいられたり、自由に生きられる手伝いができたらいいなって……』



カイト君……

その言葉に、嘘は無いんですよね?

もう、私達の間に嘘は……ないと思っていいんですよね?



私はもう、自分に、そしてカイト君に嘘は吐きません。


ですから……





『それで、フィオムが好きな奴と一緒にいられたり、自由に生きられる手伝いができたらいいなって……』




この言葉、信じさせてもらっても、良い、ですよね?

私が好きな人と……一緒にいる手伝い…………



そんなの、カイト君が…………一緒にいてくれるだけで、いいんですよ?




カイト君…………




===== フィオム視点終了 =====


ふぃ~……

お疲れ~


今回は自分でも結構頑張ったと思う。


オルトさんは先に騎士団区へと帰されていたので俺一人での帰宅となる。



まあ今回は……なんて言うかな、うん。


要するにあれだ、メロスもセリヌンティウスもお互い疑っちゃったけど「セリヌンティウスとメロス、ズッ友だよね!?」って感じだ。


いやね? 別に茶化してるわけじゃないよ?

ほんと、あんなに抱き着かれてシリアス続けられる俺を誰か褒めて欲しい。


だからずっとシリアスでいた分をどこかで発散しないといけない訳で……


発散……



そんな単語を思い浮かべると、頭の中でモワモワンと雲状になって記憶が想起される。

そう、フィオムと二人きりで風呂に入った時の記憶だ。


もうね、フィオムが女だって分かってからあの時の記憶をずっと引っ張り出してきやがんだよ、俺の脳は。


だってよくよく考えてみろよ!!

あんなどの男も泣いて喜ぶほどの美少女と一緒に風呂入ってたんだぞ(外見男とは言え)!?


しかも背中洗った時のあの「感じてるけど、我慢する!!」みたいな場面……


あの時フィオム、我慢してはいたけど感じてるような声漏れてたからね!?

喘いでたからね!?

もうそれ想像するだけで俺の巨人むすこが進撃し出す勢いだから!!




……ああ、ダメだ。

本当最近溜めてるからかな……そんなクズみたいな想像ばっかりしちゃう。

ほんと男って駄目だね。



なんてことを考えながらもトボトボと騎士団区に向かっている途中……




「あ!! お兄ちゃん!!」

「ん? その声は……」


俺を『お兄ちゃん』と称して呼ぶものを、俺は一人しか知らない。

声のした方を振り返ってみると、想像に違わずレンがいた。


「おう、レン。今帰りか?」

「うん!! ねぇねぇ、お兄ちゃん、それよりボクの服装、どう?」

「ん? 服?」


レンは右足を軸としてクルリと一回転して見せる。

確かに、最後に見た時とは衣装が違っていた。


下はデニムのショートパンツに、膝丈まである皮のブーツ。

そして肘まである水色のシャツの上には女性用が着る肩までの丈の黒いベストを羽織っていた。


健康的なレンにはピッタリと言う印象を受けた。

更に活発的な感じを失わず、それでいてちょっぴり大人っぽい。


不覚にもくるっとターンした時にドキッとしてしまった。

レンもこうして大人の階段を上って行くんだな……


「……凄く良いと思うぞ? 素直にレンに似合ってると思った」

「ほんと? うわーい!!」


それでレンも上機嫌に。

跳ねて俺に飛びついてくる。


「これね? ウォーレイお姉ちゃんに貰ったお金でヤクモお姉ちゃんと一緒に選んだんだ!!」


そう言えば昨日、ウォーレイさんと話をするのに彼女にお金を出してもらっていたな。


「そうか。ちゃんと後でウォーレイさんにお礼言っとけよ?」

「うん!!」



ふぅ、あれ? 

そう言えば……と、聴こうとした俺を遮るように、レンも……


「あ! そう言えば……おーい!!」


レンも何か俺に言う事を忘れていたようで、どこか先にある宙を目指して手を振る。

そこからは、誰かが近づいて来るようで……え?


「お兄ちゃん、ボクね、昨日帰れなかったのはこの人と会ってたからなんだ!!」


レンが紹介するようにして手を向けた先にいたのは……目を疑うような美人だった。

フィオムのあの女の姿を見た後で更にこんな美人に会うとは……なんて日だ!!


だが、その美人はこう……なんていうか、独特な服装をなさっていた。

レンのを見た後なので余計その違和感が強く俺に訴えかけてくる。


と、思っていると……は!?


「あぁぁ、我が神よ……ここに、あなた様にお会いできた日を、心より感謝します」


その美人さんは膝をついて祈りのポーズをとる。

その際、独特な服装―青いシスターの服装ではあるのだが、これがまた何ともいやらしさ満点の服装で、もうしゃがんだりしたら下着が丸見えになる位短いのだ―のせいで、彼女の真っ白い下着が露わになる。


「あ~~~!! お兄ちゃん、見ちゃダメ!!」


レンに突如として視界を隠されてしまうが俺は今それどころじゃない……


視界を奪われても尚聞こえてくる「あぁぁ、我が神が、私の目の前にいらっしゃるなんて……」と告げる声の主である美人で露出狂(?)のシスターは……



俺を恍惚な表情を浮かべて『神』とか呼んでいたのだ。







ヤ・バ・い。









変な宗教に目つけられたかも……

新作の件……このお話をあげるまでに「1章書き上げてやろう!!」と意気込んでいたのですが……


まだ1章の半分位しか進んでません。

8節に分割しているのですが今4節終わったところなんです(文字数にしてオープニングは抜いて4万字くらいかな?)。


思った以上に一気書きは進まない……


これ、本当に単純計算すると1章で8万字、それを3章書くとすると24万字。

それで今4万字書いたからあと……20万字ort。


この単純計算が間違いであることを切に祈りながら削れるところを探している今日この頃です(気長に待っててくださいね)。


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