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王子(!?)と一緒に……

また少し長くなります。

(別に嘘じゃないですよ!?)

「キレたら何するか分からないっていうか~、ぶっちゃけ皆も怖がってたって言うか~(16歳:自宅警備員 さんの証言)」

「見た人は皆言ってたよ? 『あれは誰がどう見ても鬼だ』って。もう阿修羅像が動き出しちゃったのかと思っちゃったよおじさん(盆歳:ビールは二十歳を過ぎてから さんの証言)」

「わたしゃ『アイツはやる』ってずっと前から思ってたんだよ!! もうね、最近の若い子は本当に何をするか分かったもんじゃない!! 怖くて昼でも町を歩けやしない(88歳……-72歳:全く関係のない近所のババア……を想定して回答した青年 さんの証言)」



……うん、要するに全部俺ね。


「…………」


通り過ぎる他の女騎士達も触らぬ神に何とやら、と言ったように彼女の半径10m以内に決して入らないようそそくさと過ぎ去って行く。

俺も彼女達をマネして…………


「……どこへ行く?」


ちょっと黄泉の世界へ!!


オルトさんの決して塵埃一つ見逃さないと言った凶器の如く鋭い視線が、反復横跳びして回避しようとした俺を正確に捉える。


あぁ、これマジでダメな奴だ……


俺の冒険もここらで終わりだな……

俺は目の前の辛い現実から目を逸らすべく思考の彼方へと逃避行を始める……







皆、今迄応援してくれてありがとう!!

私の冒険はここまでだけど、これからも悪い奴等がこの世界から消えることは無いだろう。

だが、それと同時に君達お友達の熱い正義の心という灯が消えない限り、奴等がこの世界に栄えることは無い!!


君達と出会えたこと、私は心の底から誇りに思う!!


またどこかで出会えたら炊飯ジャーマンポーズ、一緒にやってくれ!!

ではな!! アディオス!!




~来週からこの時間は~


俺、津田つだ達也たつや!!

ダーツで世界目指してんだ!!

ダーツって面白いんだぜ~体型関係なく遊べるからデブな俺でも世界を狙える!!

手強いライバルたちが一杯だけど……俺、絶対負けない!!

くぅ~~~、ダーツのこと考えてたら、何だか脂肪と一緒に燃えてきたぁぁ!!


このじっちゃんから譲り受けたトビウオ丸1世や愉快な仲間たちと共に勝ちあがってやるぜ!!


“新番組:ダーツ&ダーツ 2リバウンド””毎週木曜夜25時15分放送!!


当たれ…………俺のトビウオ丸1世!!


絶対見てくれよな!!








「……おい貴様、私が怒っていると分かっていながら、全く関係ないおかしなことを考えていただろう」

「……な、何のことを言ってるのかさっぱり分からんな」



やべぇ……メッチャバレてる……鋭すぎだろ……



いつの間にか距離を詰めていたオルトさんの視線が突き刺さってくる。

そして静かに怒りを露わにするこのオーラがまた背筋を薄ら寒くする。


「……私が、何で怒っているのか、よもや分からないなんてこと……言わないよな、マーシュ?」


言いたい……今すぐオルトさんに「何のことですか」って言いたい……


だが心当たりがあり過ぎて……


くそっ、こんな時にヤクモの奴いやがらねぇ。

アイツさてはこれを見越して逃げたか!?



なら俺も……


「え~っと……オルト怒ってたのか?」

「…………今、何て言った?」


おおう、鈍感系主人公スキル……なわけないよな。


なんか鳴ってはいけないようなミシミシッって音したけど……

いや~流石に怒っただけじゃ足の力でも地面にヒビなんて入らないよね~偶然、単なる偶然…………くそっ!!


もういい!!


「お前、そうやって眉間に皺ばっかり寄せてるからヤクモに“鬼”だ“鬼”だって言われんだよ!!」


どうせ爆発すんだろ、遅いか早いかの違いだ!!

ならこっちでできるだけ操れるよう処理してやる!!


「なっ!? 貴様!! 言うに事欠いて“鬼”って言ったな!!」


さっきまでの静かな怒りとは違って、憤慨していることを全面に出してくる。

まだ美人が黙って怒っているよりかはこっちの方がマシだ。

詰め寄ってきたオルトさんは人差し指をガンガンついてくる。


ちょっ、流石に近……って今はそこは仕方ない。


「だから、俺が言ってんじゃなくて、そう言われるって言ってんだよ!!」

「私は“鬼”じゃない、“鬼人”だ!! 訂正しろ!!」


顔を真っ赤にして、それこそ角があるので赤鬼みたいな様子で怒鳴ってくる。

よしよし、いい具合に論点がズレてきた……


「んなもん一緒だろ!? どっちがどうとかわかんねぇよ!!」

「何だと!? “鬼”は文字通り“鬼”なのだ!! 知能も理性もなくただ本能の赴くままに暴れる、それが“鬼”だ!!」

「そ、そうなのか? ……じゃ、じゃあ“鬼人”は……な、何なんだよ?」


あえて押されている風にどもりながら尋ね返す。

オルトさんはようやく密着していた体を離し、腰に手をあてて胸を逸らす。


「ふん!! 私達“鬼人”はいわば奴等からは一歩も二歩も先を行った種族なのだ!! 考え、自制し、時には協力する……そんな尊き種族なのだ、奴等なんかと一緒にされては困る!!」


へ~~~そうなんだ……

要するにモンスターか人の種族かの違いってことなのかな?

それは流石に一緒にされると怒るか。


「そ、そうか……それは、済まなかった」


とても申し訳なさそうに頭を掻いて謝罪しておく。

オルトさんはそれで満足したように鼻を鳴らして腕を組む。


「ふんっ、分かればいいんだ分かれば……ヤクモにも言っておけ」

「ああ、分かったよ」


ふぅ……無事爆弾処理終了…………と思いきや……




「フフッ、いいのかオルト、話が完全に違う方向へと行っていたぞ?」

「マーシュ、あなたは話をすり替えるのがやはり上手いな」

「むっ!? その声は……ウォーレイか?」


なっ!?


声をかけて来た方を二人して振り返る。


そこには楽しそうに笑う、連れ立ったウォーレイさんとフィオム王子が。


「話が違う方向とは……」


まずい、オルトさんが再び考え出した!!


折角アタリの色のコードを切ってタイマーが止まったと思ったら「ふっ、正解……だと思ったかい?」みたいな犯人からの電話がかかって来たみたいな心境だ。


直ぐにフォローしないとまたタイマーが進みだしてしまう。


「ふ、二人とも早いな。もっと後に来るものだとばかり……」

「ハッハッハ、マーシュが慌てるのを見るのは新鮮だな」


ウォーレイさんは俺のフォローを無視するかのように腹と顔を押さえて豪快に笑って見せる。

おい、笑うな!! こっちはそれどころじゃねえんだよ!!


「慌てる? はて何のことやら……」

「おいマーシュ、ウォーレイ、何の話を……」


話を更に掘り下げようとしてくるオルトさん。

くっ!!


「いや、特に内容なんてない話だ。ただウォーレイやフィオムが来るのが朝早いんだなって」

「確かにそうだな……」


ふぅ……興味がそっちの方に向いてくれたようだ。

もう戻らせないよう気をつけないと……


「私も聴いていたより結構早くいらしたことになる。もしマーシュを待って朝早くここで待ち構えていなければ……」


あぁっ、そっちはダメ!!


「……って!! そうだ!! 貴様、マーシュ!!」


はいタイマースタート!!

爆発5秒前まで待った無し……と思ったら思わぬところから救いの手が。

スッと長い手が伸びてオルトさんの肩に回す。


「なっ!? ウォーレイ、邪魔をするな!!」

「まあまあそうかっかするな、フィオム王子の御前だぞ?」

「うぐっ!? そ、それはそうだが……」

「……お前が焦てしまうのも分からんでもない。―ヤクモのこと、ちゃんと礼を言いたいのにまるでヤクモのようにのらりくらりと躱されてしまう」

「う、うぅっ……」

「だからこそ、だ。マーシュ本人の気持ちも酌んでやらんと。あまりに押し付けがましい礼など礼とは言わない。ただのありがた迷惑なお節介と変わらないぞ?」

「…………」


ウォーレイさんに諭されるにつれ、彼女は次第に落ち着きを取り戻していき、そして叱られた子供の様に萎んで行く。

避けてきた本人としては流石に忍びない気持ちになってくる。

俺は今度は落ち込んでいるだろう彼女のフォローに入ることにする。


「……そう、だな……私が間違っていたのかもしれない」

「いや、流石に完全に間違いだとまでは思わねぇよ」

「え? マーシュ?」

「俺は以前言った通りお前が出した課題をクリアしただけだ、それが単にお前達が大事に大事に思ってたアイツだったってだけ。だから別に直接俺に対して感謝なんてする必要ないんだよ」

「な!? し、しかしお前がヤクモを助けてくれたのは、事実で……」

「じゃあ何だ? 俺が何かお前達に目一杯要求すればいいのか? お前はそれでいいのか? 俺が何を要求するか分からないのに……」

「そ、それは……わ、私にできることなら、な、何だって……」


青年男子が目を見張るほどの女性から『何だって』なんて言葉を受けたら勿論込み上げて来るモノがあるが、それに飛びついてしまう程俺も愚かでは無い。


「やめとけ……そう言う言葉は足下見られるぞ? “何でも”なんてのは好きな奴が出来た時のためにとっとけ。総隊長が帰ってくるまで、頑張らなきゃいけないんだろ?」

「マーシュ……お前……」

「それにあれだ、ヤクモの言ってた通りお前はからかうと面白いしな。十分俺も楽しませてもらってる。“鬼”じゃなくてお前は“鬼人”なんだろ? 怒ってるばっかりじゃなくてヤクモが言うような可愛い姿見せてももしかしたら俺を楽しませられるかもしれないぞ?」


茶化すように笑いながら言ってみる。

すると……ブルブルと体を小刻みに震わせながら顔は羞恥に塗れたように真っ赤になる。


「う、う、う、う、うるさいうるさい!! ええい、き、貴様などもう知らん!! こっち向くな!! 傍に寄るな!! 私の顔をジロジロ見るな!!」


そう言っては俺から顔をそむけてしまう。

そしてズカズカと俺やウォーレイさんとは反対方向に歩いて行っては独りでにブツブツと呟き始める。


「な、何が……“可愛い姿”だ……あ、あんなもの、ヤクモが面白がって、言ってるだけで……わ、私が、可愛い、など…………」


本当にからかうと可愛いな……あの人……


「ふぅ……どうやら一人の世界に入ってしまったみたいだな」

「騎士とは言っても一人の女性、だという事だな」


ウォーレイさんは手をあげてやれやれと首を振る。

事態を見守っていたフィオム王子も寄って来てはそんなことを告げてくる。


「済まなかったな……折角早く来てくれたのにこっちのことに巻き込んで」

「いや、あれはあれで見ていて面白かったから特に気にしていない。それに時間は今からでもたっぷりとあるだろう」

「そう言ってくれると助かる。後ウォーレイも助かった」

「ハハッ、マーシュには世話になってるからな。あれ位どうってことない」

「そうか……―それで、今日はどうするんだ?」


ずっとこの話題を続けても、いたずらに時間を浪費するだけだ。

早いこと待っていてくれたフィオム王子のために話題を替えることにする。


王子は考え込む暇なく、直ぐに笑顔になって告げる。


「今日は王都の外を見回りたいんだ。昨日の今日で王都の中はお祭りムードだろう?」


王子の言葉にウォーレイさんも同意する。


「そうですね、王宮も何やら立食パーティーのようなものを催しているとか」

「ああ、勇者二人にフォオル、それにレド……まあ要するにアレイアにとって、いて欲しい人物達を集めて今度は自分の勢力下の貴族達にお披露目するんだろう」


その言葉の裏には、アレイア公爵にとっていて欲しくない人物に声がかかることは無い、ということを示している。

だからこそ王子に対する監視の目と言うのも昨日と今日に限っては比較的緩やかなのだろう。


「とは言っても王都の外か……」


本来の趣旨に話を戻す。


「確かに中と外では危険の程度は違うだろうが……そのためにあなた達について来てもらうのだ」

「そうですね、私とマーシュでも戦力的には申し分ないかとは思いますが、合わせてうちの総隊長代理がついてきます」


今回は王子の側近中の側近であるメイドのウィルさんが所要で外している。

だからウォーレイさんがここまで代わりに王子を連れてきて、そしてここからは俺やオルトさんが護衛に加わるのだ。


大所帯では流石に移動に不便だから王子と共に行動するのは俺達だけだが、他にも何人かウォーレイさんが見繕った手練れの人物を第10師団内でも選抜して控えさせている。


よっぽどのことが無い限りは俺とウォーレイさん、それにオルトさんで対応できると思うが……



「取りあえずあまり大袈裟にしたくない。どういった布陣が適切だろうか?」



フィオム王子は俺とウォーレイさんに任せる、と言うように水を向けて来る。


そこでしばし俺とウォーレイさんで相談し……



「護衛ということでしたらやはりオルトを傍に置いておくのが一番安全でしょう。彼女は伊達や酔狂で第10師団を今総隊長の代わりに纏めている訳ではありません。守りに関してはウチでは右に出る者はいないかと」

「ふむ、それではあそこでまだブツブツ言っている彼女に私の護衛は任せるとして……マーシュとあなたは?」

「俺は敵を探索したりするのが案外得意なんだ。ウォーレイは足も速いし小回りも存外利く。だから少し離れた位置からついて行って怪しい奴とかがいないかを監視するよ」

「『存外』と言われると心外だが……私は獣人、更に言えば速さや器用さに秀でた虎人ですので身体能力には自信があります。マーシュは色々と器用にこなしますから、私との相性も良いでしょう。何もないことが一番です、できる限り未然に防ぎましょう」

「そうか……私もあなた達のことは信頼している。とは言ってもまあそう気を張らずに気楽に行こう。折角のお出かけだ」

「了解」

「分かりました」




意見が纏まったところで、俺達は朝食を軽くとった後早速王都の外を目指して出発した。







王都の外、と一口に言っても見るべきところは色々とある。

王都リュールクスへと入るための門、そこから十数分歩いたところにある平原、そもそも外からしか見えないリュールクスを囲う、防衛機能に特化した高い塀……


挙げればどんどん出て来るがフィオム王子が数ある候補の中、主に今日の内に見ておきたいと言ったのは、北にある門から出たところにある入場を待つために設けられた野営地、そしてそこと大して離れていないところにある小規模な森だった。



自分がリューミラルの王になるつもりがないフィオムは、リューミラルの防衛機能を担う特別な塀を筆頭に、『リューミラル特製の』ものには興味がないそうだ。


「それよりかはどこの国にでもありそうな凡庸性のあるものをしっかりと学んだ方が私には益がある」とはフィオム王子自身の弁だ。



そして午前はリューミラルに入るべく長い長い列を作っていた人々―商人だったり、はたまた冒険者だったり―に話を聴いて行っては王子は「ふむふむ……」と頷いて熱心に勉強していた。



騎士であるオルトさんを携えて話を聴いているフィオム王子に最初不信感を抱いたり、訝しんだりした者もいたにはいたが、そう言う奴には少し金を握らせたり、彼等が欲しがりそうなものを4次元ポケ〇トから取り出すかのように持ち出して聴き出していた。


……逆にそうした方が黒い噂が立つんじゃ、なんて思ったのは俺だけだったみたいで、隣で共に周りの警戒を続けているウォーレイさんは特に気にする様子も無く平然としていた。



まあ、お互いが納得の上ならいいんだけどね。




思った以上の収穫があったのか、フィオム王子はホクホク顔で午後を迎える。

俺達も交代で軽食を取って午後からの森の視察に備えようと準備していた所……変化があった。



朝食をとった店で買った簡単なサンドイッチを口に入れつつ『索敵』を怠らなかったのだが幾つもの敵が引っかかったのだ。

数は……結構いるな。


「……ウォーレイ、敵だ」


短くそれだけ伝えると、彼女もすぐさま腰からナイフを2本取り出して準備する。


「……方角は分かるか?」

「森の方角だ……10……いや20はいるな」

「数まで分かるのか!? それは凄い……だが20もいるのか」

「どうする?」


ウォーレイさんは尋ねられ、小さく腕を組んで直ぐにそれを解いて答える。


「私達だけで行こう。20とは言え手分けすれば倒せない数じゃない。囮……の線も一応あるかもしれない、オルトに手短に伝えて警戒はさせておこう」

「了解」


相手の正確な位置を把握している俺が先行して森の中に突入する。

ウォーレイさんは話した通り、森に入る手前で待機していたオルトさんにこのことを伝えて後から追いかけてきた。


そして入って大した時間もかからず、『索敵』の探索範囲ギリギリのところにいた敵を発見する。


「これは……モンスターか」

「なるほど……オークにハイ・ゴブリン……確かに20はいそうだな」


あまり大きくは育っていない木が所々に立っている中、明らかに目立つ集団だ。

オークもハイ・ゴブリンも武装しており、自分達を見つけた俺達に明確な敵意を放っている。


オークにしてもハイ・ゴブリンにしても、以前戦ったことがあるだけにその強さというのは良く知っている。

どちらも油断ならない相手だ。

更にそれぞれが10匹ずつ。

以前のようにシアやエフィー、それにカノンはいない。


「どうだ……いけそうか?」


隣にいる、今回唯一の味方であるウォーレイさんに確認のため声をかける。

ウォーレイさんは奴等から視線を外さずにしっかりと頷いて見せる。


「楽ができる……とは言わないがまあ負けはしないだろう」


何とも頼もしい言葉を返してくれるウォーレイさん。

彼女は更に俺を安心させるためか、はたまたそれが常態なのか軽く笑って見せる。


「どうしてもマズかったら迷わず言ってくれ。本気を出すから」

「ハハッ、それは常に出してほしいものだがな」

「ふぅ、皆そう言うんだが本気と言うものはここぞと言うときに出すものだろう? それにあまり制御が利かない。私の本気は諸刃の剣なんだ」

「……そうか。まあ安心しろ、今回お前が本気を出す幕は来ないだろう」

「ハッハッハ、それは頼もしい……じゃ、行くか!!」

「ああ!!」


どちらからともなく俺達は駆け出す。

こういう時のお約束なのかそれとも俺達の出方を窺っていたのか、オークやハイ・ゴブリン達は動かずに待機していた。


そうしてようやく俺達が向かってきたことで奴等も始動する。


それぞれ10ずつを分担、と言うよりは20を二人で協力して倒すという感じなので出来ればマーシュが使えるはずの『火魔法』以外はあまり使いたくはない。

だがそれもこれも出し惜しみしてやられちゃいました、と言うのは格好がつかない。


ヤクモの時と同じく必要であれば惜しみなく使って、後の弁明はその時の俺に任せる!!



俺は特訓用にディールさんから渡されたウェイトソードでは無く、久しくアイテムボックスから取り出していなかった妖刀を引き抜く。


北のワープ地点、つまり『死淵の魔窟』で手に入れた妖刀だ。

ダークドラゴンのお母さんから抜き取ったはいいがシア達にこれを使っているところを見られると何を勘付かれるか分からないし、必要以上に心配させるかもしれない。


しかし今は『千変万化』の修練も終え、ウェイトソードを使う必要性も無い。

そしてレンも見ていないのでようやくこの妖刀を使った戦闘を行えるという事だ。




妖刀・独歩血ひとりぼっち…太古の昔製作した魔王の魂が宿った妖刀。手にした者は更に孤独へと誘われると言われている。孤独に近い男のみが手にすることができる。刀の力はレベルに依り、手にする者の孤独に呼応して刀本来の力を解放する。

STR+52 AGI+52


Ⅴ:????

Ⅳ:????

Ⅲ:????

Ⅱ:孤独の道を進み始めし者(『光属性耐性』、『孤軍奮闘』、STR+5 DEF+5 INT+5 AGI+5)★

Ⅰ:????




純粋な武器の性能・能力で言えば俺がいつも使っている普通の平凡なものよりも遥かに上回っている。

こいつを使っての更なる懸念と言えば、後はこれを使っているところをウォーレイさんに見られること。


だがウォーレイさんには初めてレンと一緒に会った時にそれとなく俺がこのヘルムを被っているのが、何か禍とか災難とかあったっぽい、というのを臭わせている。


そこでこの妖刀を見ればもしかしたら「あっ、もしかしたらマーシュはあの妖刀のせいで……」なんて誤った推論をしてくれるかもしれない。


そうではなくてもウォーレイさん自身色々な武器を扱っているようなので人のこだわりにとやかく口を挟んでこない、ということも有り得る。


取りあえずはこの妖刀を使ってどれだけやれるか……実験したい。





妖刀を鞘から引き抜いた瞬間、何とも形容しがたい、ドス黒い何かが自分の中に手を伝って流れてくるような感覚を覚えた。


見た目は気持ち悪い黒ムカデが何匹も腕を這うようにして見えるのだが、『ドス黒い』なんて言っても体に入ってくる時の感覚は特に嫌というものでは無い。


むしろ力が漲ってきて何でもできるような気さえしてくる。

流石にI can fly!! とまでは行かないが目の前にいるモンスターの20や200、この刀が有ればどうとでもなる……そんな感じになってくるのだ。


俺は前回苦戦したことのあるハイ・ゴブリン目がけて妖刀を袈裟切りに振う。


奴はそれを回避しようと一歩下がる様に動く。

そのため狙いが逸れてしまったのだが……



「グギャアァァァァア?!?」



丸太程の太さもあるハイ・ゴブリンの腕が一刀の下に切り落とされた。

勿論あれ以来レベルが大きく上がっていることもあるし、研鑽だって積んできた。


だがこうもあっさりと過去のボス戦での相手を苦しめてしまった一撃に自分でも驚く。

そしてそれと同じくらいハイ・ゴブリンに対して『この程度か……』なんて感想が自分の中から生まれてくる。



俺はそれ以降は自分が振るう妖刀の一撃一撃に戸惑うことなく敵を薙ぎ倒していく。


途中、モンスター達について、切られて異変か何かが起こることは無いかと鑑定もした。

ふと気になったことがあったのだが、それについて気にする必要が無い事実が更に上がってきたのでそのことは直ぐに記憶の淵に沈んで行った。


勿論、奴等を一撃で屠れるとまでは行かないが、過去パーティーで挑んだ相手にこうもあっさりと攻撃が通って行くとは……


ウォーレイさんはウォーレイさんで、俺の援護など必要ない程に華麗なナイフ裁きで敵を翻弄していく。

どうしてあんな小さなナイフがあの硬く、そして太い体に通るのか不思議だが彼女は一撃も食らうことなく的確に攻撃を繋いでいく。



そうして10分もしないうちに……




「ふぅ……これで、最後、だな?」

「ああ……」


『火魔法』すら使う必要も無く、俺達は20体のモンスターの集団を倒し終えた。

ウォーレイさんはあれだけ動いていたのに息1つ乱れず倒し終えたオーク、それにハイ・ゴブリンの死体を見つめている。


凄いな……流石に2番隊を任せられるだけのことはある。



俺はと言うと……

妖刀を使った余波なのか副作用なのかは知らないが、酷い虚脱感に襲われていた。


体から力が抜けるだけならまだ魔法や闘気で経験済みなので特に取り上げるべきことではないのだが、この妖刀は更に俺自身に語りかけてくる。


『これ程の力を使えるんだ……俺は別に仲間なんて必要ないんじゃないのか? 独りになれば今以上の力が手に入るんだ……』


とか……


『これ程の力を持っている奴が誰かと一緒にいてもいいのだろうか? もしかしたらこの強大な力は自分の仲間、大切な人に牙を向くかもしれない……俺は独りになった方が良いのではないのだろうか?』


なんてことを俺の頭に直接語りかけて来るのだ。

間違ってはいけないのは俺自身は確かにこんなことは考えていない……はずなのだ。

なのに語りかけられた後は不思議なもので、自分自身がこの語られた内容を思っているという風に思い込んで行くのだ。


そしていつの間にかどの言葉が妖刀に語りかけられた内容で、どれが俺自身が考えたのか、という区別が曖昧になってくる。


これを使い続ければいつしか妖刀が俺に語りかける必要なんてなくなり、俺自身がその内容を正に自分から考えてしまう日が来るのかもしれない。


これは…………




「マーシュ、どうかしたか?」

「ん? ああ、いや、ちょっとコイツ等のことについて考えててな」


突然思考中に話しかけられた割には上手く話を移せたように思う。

最近こういうの手馴れて来たな……



取りあえず妖刀についての考察はお預けだ。


俺はアイテムボックスに妖刀を仕舞い、語ったことを真実にすべくこのモンスター達の考察に移る。


「そうか……それにしても奇妙では無かったか?」


ウォーレイさんは特に俺の反応を訝しむことなく奴等への見解を述べる。


「と、言うと?」

「確かにハイ・ゴブリンはゴブリンとは違って知能を持つ。だがそれにしても統率され過ぎていた」

「統率……確かにな。普通ハイ・ゴブリンともなるとゴブリンを従えて行動するもんだろ? それが複数のハイ・ゴブリンと共に、更には別種のモンスター―オークまで」

「ああ……野生と考えるのは妥当では無い。恐らくは人の手によって従えられているものだろうな」

「とすると……魔物使い……いや召喚士か?」

「どうしてだ?」

「いや、魔物使いは『調教』のスキルで無理やり従えるんだろう? それだから魔物使いが近くにいないとモンスターを従える効果がそれだけ薄れるんだ」


過去にエフィーに教えてもらった知識をそのままウォーレイさんに伝える。


「ふむ……魔物使いが近くにいるような気配はない……とするとマーシュの言う通り相手は召喚士か……」

「かもしれん……だが」

「ん? 何か気になることが有るのか?」

「ああ……召喚士とすると、どうしてフィオムが入ってくる前に召喚してしまったのか分からないんだ」

「それは……待ち伏せ、ということじゃないのか?」

「それも考えたんだが……なんか違和感ないか? 森で待ち構えさせておくよりかは突然目の前にモンスターを召喚した方が意表をつけると思うんだが。フィオムには騎士が付いてんだぞ?」

「うーん……確かに。フィオム様やオルトは警戒しているからこそ護衛のために一緒にいるわけだからな。森で待ち構えているよりかは一度警戒を解いてから召喚してしまう方が意表は付ける」

「まあ詠唱の時間とかも考えたらそうせざるを得なかったのかもしれないがな……」

「ん……なるほどな。マーシュ、他に気になったことは無いか? コイツ等を従えている人間が見当たらない以上コイツ等から犯人の推測を進めるしかない」

「気になる事……か」


そう言えば戦闘中『鑑定』を使って目に留まったものがあったが……これ言っても大丈夫だろうか?


「一応あるにはあったんだが……」

「何でも良い。直感とか気のせいかもしれない、と言った程度のことでも、本当に何でも」


う~ん……そっちは別に気にしてないんだが、『鑑定』を使って分かったことなのでそこを追究されないだろうか?


「う~ん……どうやって分かったか、と聞かれると困るんだが、アイツ等、全員状態異常じゃなかったか?」

「状態異常? 何の?」

「『毒』。偶に『猛毒』もいたけど、そっちは少数。それに殆どが体力の減りは結構遅い」

「『毒』……状態異常……」


ウォーレイさんは思考に入ったようで、それも俺がどういう方法でそれを知ったかというのは気にしていない様子。


手で顔を覆って突然ハッとしたような表情に。


「噂程度だが聞いたことが有る……クランの『バジリスクの毒鱗』の幹部に、毒を使ってモンスターの使役に成功した者がいる、と」

「マジか!?」

「ああ……モンスターを毒状態にして、自分の命令に従えば毒を9割治せる解毒薬を与える。そしてその1割の毒がまた体に回った辺りで同じように命令に従えば解毒を、というのを繰り返す」


何だそりゃ……パブロフの犬みたいな話だな。


「それを繰り返すとモンスターが何もしなくてもその解毒薬を与えてくれる者に従うようになる、というものだ」

「なるほど……その方法は開示されているのか? それとも『バジリスクの毒鱗』が独占してるのか?」

「私も話し程度にしか知らないからどちらと確答はできないが……常識的に考えれば独占しているだろうな」

「となると……犯人はそいつか、少なくとも『バジリスクの毒鱗』のメンバーって可能性が浮上してきたわけだ」

「ああ……じゃあ……」



ウォーレイさんが何かを告げようとしたその瞬間―



ドッガーーン


日本にいては聴くことなど稀なほどの大きな地響きが耳に届いてくる。


「な!? 何だこの音!? 地震か!?」

「いや、これは……オルトだ!!」


ウォーレイさんは即座に駆け出す。

何が何やらよく分からないが俺も駆け出した彼女を追って走る。


走りながら『索敵』を確認していると、フィオム王子とオルトさんの傍に先程のように敵を示す点々がいくつも引っかかる。


どうやらまた新たな敵のようだが、先程の大きな音がオルトさんのものだとすると交戦したようだ。



直ぐに俺とウォーレイさんは森の外に辿り着いたのだが……



「!? マーシュ、隠れろ!!」

「っ!!」


俺はウォーレイさんの突如の指示に即座に対応し、森の茂みに飛び込む。

指示したウォーレイさんも俺とは反対の方へと飛び、茂みに転がり込む。


『索敵』の認識対象を逐一変えながら目でも今の状況を窺う。





「……何体、出てこようが一緒だ。10も100も変わらん」

「くっ!!」

「おぉ~~~~流石は我が国が誇る騎士だ、女性でこれだけできるとは」




俺達が隠れている所とは50mも離れていないだろうところで、オルトさんと、先程俺達が倒したのと同じようなモンスター達、そして一人の男が対峙していた。


驚くべきはその数だ。

……いや、別に今男の傍にいるモンスターの数が凄いのではない。


俺が言っているのはオルトさんの前に伏している、その倒されていたモンスターの数なのだ。


軽く50はいるんじゃないのか……

そして更に驚くべきはオルトさんはなのに一切の返り血を浴びていない。

それに彼女は剣を鞘に収めたまま地に突き立てているだけだ。


彼女の立っている5m程前の地が大きく抉り取られているのも先程の轟音の正体なのだろう。


男の周りにいるオーク、ハイ・ゴブリンの数は『索敵』と目測を併せ考えると50はいるだろうに、それを含めても尚優位に立っているのはオルトさんだと見ていて分かる。


何より男の表情に余裕がない。

そのためもあってか、自分の背後に隠れている俺やウォーレイさんに気付く気配は一向に無い。


状況の変化に対応できるよう今すぐ出て行くではなく、隠れることを選んだのか……


いきなり飛び出して行くよりかはこうして隠れて、状況に応じた行動を取る方が俺としても良いと思う。




「……さて、どうする? お前の手駒ではどうやったって私には勝てんぞ? それとも……お前自身が試してみるか?」

「くっ、この、女がいきがりやがって……」

「女は関係ないのではないか? お前の言葉を受けるなら、お前はいきがっている女にボロボロにされているんだぞ?」


フィオム王子が男に述べる。


男は着ているシャツを皺が出来そうな程悔しそうに力いっぱい引っ張っている。


「ふぅ……で、私を狙ったのはどう言った了見だ? お前の対応次第で私の行動も変わる訳だが……」


王子は一歩前に進み出る。

それでもオルトさんは警戒を怠らない。


刀は……抜かないのか。

いや、抜かない方が強いのかもしれない。



それは良いとして、男は……


「くそっ、くそっ!!」


自ら戦おうとはしない辺り、強さ的にはそれ程なのかもしれない。

オークやハイ・ゴブリンの多くが目の前でオルトさん一人に返り討ちにあってるのだ、よっぽどの手だれでもない限り自分から戦おうとは思わないだろう。


貧相な顔をした男はどんどん顔が青ざめて行く。

そりゃそうだ、騎士相手に戦闘したんだ、負けた後はどうやったところで良い未来など無い。



追い詰められていく男はフィオム王子の問いかけにも答えずただオルトさんやフィオム王子を睨み付けているだけ。


もうこの後何も起こらないだろうと俺は判断し、ウォーレイさんに確認すべく視線を送る。

ウォーレイさんも一度だけコクリと頷き、突入を……






そう思った時、男に変化があった。






「そ、そうだ!! 俺と取引しないか? 俺はとても重要な情報を知っている」

「情報? 何についてだ?」


オルトさんが突如として息を吹き返したような男に怪訝そうに尋ね返す。

男はその短な手足を精一杯動かして自分の熱意のようなものを伝える。


「そっちの貴族を渡してくれ!! そして俺を見逃せ!! 俺はお前達騎士が絶対知りたいと思う情報を教えてやる!!」


ん?

あれ……


俺と同じく、ウォーレイさんも意外だと言う表情になる。


俺達もアイツ自身も勘違いをしていたのか?



男が狙っていたのは王子としてのフィオムではなかったのだ。

つまり、騎士であるオルトさんが常に近くで控えていることからかは分からないが、男はフィオムをただの貴族だと思っていたのだ。


そして貴族の固有名……つまり名前を呼ぶでなく普通に「そっちの貴族」とアイツは言った。

個人としての貴族では無く、貴族という種を必要とする理由……



つまりアイツの狙いは単なる金だったのだ。

フィオムを王子とは認識していないのなら、フィオムを単なる貴族としてを誘拐して身代金でも要求するつもりなのだろう。



「だから、情報とは何についてだ? それすら分からないとなると、そもそも交渉の余地すらないぞ?」


「渡せ」と言われているフィオム自身がそれを告げちゃっていいのだろうか……

自分で自分自身を交渉材料と見ているなんて……流石は王子と言ったところか。


フィオムに言われても、自分が知っている情報の価値を分かっているのか、男は動揺せず強気に答える。



「俺が知っているのは……失踪しているシオン王女の居場所だ!!」

「「な!?」」


っ!?


流石に今男が叫んだことに俺とウォーレイさんも衝撃を受ける。

シオン王女の居場所を知っている……だと!?



……だが、ウォーレイさんが直ぐに俺に向かって横に首を振ってくる。


「(あれは嘘だ)」


そう言っている。

俺もそれで直ぐに頭を冷やしてあの男が告げたことの真偽を検証してみる。


そもそも本当に知っているのなら最初から交渉すればよかったのだ。

そして交渉が決裂した後初めて戦闘してフィオムを奪おうという過程にすればいい。


なのにこうして自分の戦力が打ち破れて敵わないと分かった後にでは、どう考えても咄嗟に考え付いた嘘だとしか思えない。


それにそもそもフィオムは王子……あっ、そうか!!


あの男はフィオムが王子だという事を知らないんだった!!


『王女の居場所』と『王子の身の安全』なら最初から釣り合わない―言い換えれば交渉の余地なんてないのだろう。


だが今のアイツの中では『王女の居場所』と『一貴族』が天秤に掛けられているのだ。

そして交渉を持ちかけられているのは騎士であるオルトさん……


騎士にとっては確かに王女も貴族も重要な存在であることは間違いない。

だがどちらが、という比較の話になるとどうしても『王女』に傾いてしまうだろう。


それに王女は王女でもリューミラルにとってシオン王女がどれだけ凄い存在だったのかは昨日の話でよく分かっている。


だからこそあの男もこうして交渉の余地があるはずだと、持ちかけたのだろう。


しかし……


「……その話、悪いが交渉の余地は無いな」


オルトさんは俺達のように奴が言ったことが嘘だと判断したのか、それともそもそも王子と、嘘か真かも分からない王女の居場所ということを天秤にかけるべきでは無いと判断したかは分からないがすぐさま断る。


よし、それでいい。

俺とウォーレイさんも安心して……いられるのはほんの一瞬だけだったようだ。





「そ、その……オルト、待ってはくれないか?」

「な!?」




フィオム!?

何と、交渉の材料とされているフィオム王子自身が待ったをかけたのだ。

王子の様子からして、彼も全てを信じているわけでは無いのだろう。


もしかしたら9割は嘘だと彼自身も思っているのかもしれない。

だが……




「ま、待ってください!! 奴の言っていることは十中八九嘘です! シオン王女の居場所など……」

「ああ……嘘、なのだろうな……」

「でしたら!!」

「だが、な……私の心がそれでも『もしかしたら』と思ってしまうのだ。もし、もし奴が本当に知っていたら……とな」

「っ!!」



オルトさんは悔しそうな表情を浮かべる。

二人が言い争っている様子を見て男は嬉しそうにニヤニヤする。


くそっ!!



「…………分かり、ました」

「(な!?)」


オルトさんの一言に、俺達は驚愕する。

乗るつもりなのか!?


だが、俺達が予想したようなことではなく、オルトさんは男に向き直り様こう告げる。




「おい……『私』と交換、と言うのはどうだ?」

「お前と?」

「な!? オ、オルト!?」

「ああ。私は代理ではあるがこう見えても一つの隊を預かる身だ。お前のやり方次第でそれ相応の金にはなる。それに、私の強さはお前が先程実感した通りだ」

「……なるほど……だが強いからこそ、お前が俺に従うとは限らないだろう? 俺の隙をついて俺を殺そうとするかも……」


何だそれは……本当に金になれば誰でもいいとでも言わんが如く男はオルトさんの提案に興味を示す。

オルトさんは顔を斜めに向け、肩を抱くようにして身を守る。


「……奴隷にでも、何にでもすればいいだろう?」

「フッフッフ、そうか……それなら考えなくもないな……」


男は「おいっ」と近くにいたハイ・ゴブリンとオークを一匹ずつ手元に呼び寄せる。

そして親指でクイッとその二匹を差す。


「お前みたいな上玉を手に入れられるのは久しぶりだからな……金にする前にコイツ等の下の世話を頼むことになるかもしれないが……」

「くっ、好きにしろ……」

「くっく、それを聴いて安心したよ。最近鞭ばかりだったからな、偶には飴もやらないと、と思ってたところなんだ……」


オルトさんは男の忌まわしい視線を目に涙を浮かべながらも受け止める。

 

くっそ……何だってこんなことに……



「私が……私があんなことを言ったから……」


フィオムはフィオムでオルトさんを引き留めて交渉の余地を残してしまったことを悔いているのか、呆然と立ち尽くしてオルトさんをただただ見ている。

ここからでは確証は無いが、彼の瞳にも薄らと光るものが見えた気がする……



俺は是非もないとばかりにウォーレイさんに視線を送る。

彼女も普段見せないような険しい表情となっていた。


俺の意図を察して強く頷く。


こうなったら……




「じゃあ、とりあえず……」



男がオルトさんに近づいて手を伸ばそうとした時。



俺達は息を合わせて突入を開始する…………と同時だった。





「…………っ!!」




一瞬何が起こったのか分からなかった。

俺とウォーレイさんの足が止まる。



フィオムがうずくまる様にして体を丸めたその瞬間、彼の体の全身が発光したのだ。

そしてその光は瞬く間にその場にいた俺達全員の視界を奪うかのように広がって行った。


俺達の誰もが―モンスターであろうと人間であろうと―その眩さに目を開けていられず、手で視界を遮る。



「な!? 何だ!?」

「分からん!! ウォーレイ、視界が無くても場所とか分かるか!?」

「少しだけなら鼻が利く!!」

「そうか、なら近くのモンスターを倒すか、自分の身を守れ!!」

「分かった!!」


俺自身も何が起こっているのか全てを把握できているわけでは無いが、冷静にウォーレイさんにやるべきことを伝える。


一方俺はと言うと、この中で恐らく唯一視界を奪われても『索敵』を駆使して誰がどこにいるのかを把握することができる。


そのためには認識対象を一々転々と変化させなければいけないが、動けずに事態が収束するのを待つなんてのは無しだ。


自分だけが動けるという利点を生かすべく頭をフルに回転させ、それに従い動く。


「うぉらっ!!」

「ぐっ、ぐっぁあぁ!?」


『雷魔法』を使ってあの男を無力化する。

全員が視界を奪われている、という状況が功を奏して誰にも見られず俺の魔法を使う事が出来た。


その後、この状況になる前に奴の近くにいたオルトさんとフィオム王子を捜す。

その場から殆ど動いていなかったために二人は直ぐに見つかり、先ずはオルトさんの体を掴む。


「だ、誰だ!?」

「安心しろ、俺だ!! マーシュだ!!」

「マ、マーシュか!?」

「ちょっとばかしじっとしてろ」

「な!? うわっ、ちょ、ちょっと―」


俺はオルトさんの腰に手を回し、持ち上げ、そのまま肩に担ぐようにして運ぶ。


「黙ってろ!! フィオムは……」

「バ、バカ!! じ、地面が……」


足をバタバタとさせるが今はそれ以上構っている暇は無い。

フィオム王子を見つけると、彼は気を失っているのか、地面に倒れていた。


オルトさんと違って意識が無い分抵抗が無い。

だから持ち上げる際楽に事が運んだのだが……


思った以上の軽さに驚く。

コイツ、ちゃんと飯食ってるのか……



そうして俺は二人を抱えたまま念のため気絶させた奴とは離れるべく走る。


ウォーレイさんも鼻が利く、と言っていたのは本当のようで俺の走る方向に駆けてきて、直ぐに合流する。



「目を比較的やられていなさそうなのを潰してきた。後は私が何もしなくてもしばらくはその場から動けないだろう」

「分かった」

「そ、その声はウォーレイか!?」

「ああ、そうだ!! お前の家族で且つ大切な仲間のウォーレイだ!!」

「うっ」


ウォーレイさんは多少棘のある言い方をしてオルトさんに言い聞かせる。


「全く……フィオム王子のためとはいえ無茶をして……」

「し、仕方ないだろう……」



その言い方に俺は多少カチンときて、お節介ながら一言告げることにする。

丁度目も多少慣れてきたところだ、結構距離は隔てたであろうと判断し、フィオム王子をおろして寝かせ、それから肩より下ろしたオルトさんに向き直る。



「仕方なくない、あれは完全にやったらダメなことだ」

「な!? し、しかしだな……」

「『しかし』も『案山子かかし』もない!!」


俺がいつになく強い口調で言うので、オルトさんもピシャリと黙り込む。


「お前分かってるのか!? 『強気な女性騎士』×『オーク・ゴブリン』×『“くっ、好きにしろ”』は絶対やったらダメな組み合わせだ!! お前は薄い本の犠牲になりたいのか!?」

「マ、マーシュ、な、何のことを……」

「言い訳は聞かん!!」

「うっ……」


本当に全く……

どれだけの女性騎士がその組み合わせで薄い本の犠牲になっていることか……


オルトさんにも自分が美人であると言う自覚を持ってほしい。

要するにそうなる需要があるのだ。


「……あのな、俺は別に意地悪でこんなことを言ってるんじゃないんだぞ? 今朝も言ったが『何でも』とか『好きにしろ』とかそう言うのは軽々しく口にするな。自分が1人の女性だってことを自覚しろ」

「マーシュ……そ、その、お前は……私のことを、心配、してくれているのか?」

「当たり前だろう、俺だけじゃない、お前に何かあったらヤクモやまだ小さいアルセスがどれだけ悲しむと思ってんだ」

「……それは……」

「……お前、折角総隊長に奴隷から解放してもらってんだろ? なのに逆戻りなんてしようとするな。絶対悲しむぞ?」

「ユウが……」

「ああ……帰ってきた時お前が奴隷に逆戻りしていた、なんてことを知らせたいのか? 違うだろう」

「……そう、だな……済まない」

「分かってくれたのならいい……そうは言ったがあの状況じゃ、フィオムのために何かしたい、って思ってしまうのはどうしようもなかったからな」

「……そう言ってくれると助かる……マーシュには、助けてもらって、ばかりだな」

「いや、だから気にすんなって」

「……それに、お前に、本気で心配してもらえて……嬉しかった」


まだ完全に視界が復活したわけでは無いが、確かにオルトさんは嬉しそうに微笑んでいるように見える。

心なしかその頬も少し赤い気がする。


「そうか……まあ本当に気にすんな。―あっ、いや、やっぱり気にするんなら、もう好きでも無い奴に『何でも』とか『くっ、好きにしろ』は使うなよ? あれはやっぱりダメだ」

「そ、そうか……分かった。約束する。もう2度と私の好きでない者には言わない」

「よし、それでいい」

「『好きではない者』…………そ、そのマーシュ」

「ん? 何だ?」

「お前に……そ、その……好きな者は……」



オルトさんが何かを告げようとしたその時だった。



「うっ、ううぅぅ……」


フィオム王子を寝かせた辺りから声が聞こえてきた。

目覚めたのだろうか?


俺は膝をついて、頭に手を回し、王子を抱き起す。


「おい、フィオム、無事か?」

「う、うぅぅ……マ、マーシュ?」

「おう、俺だ。良かった……無事……で……」


全て言い切る前に俺は自分の目の無事を疑うことになった。

あれ……俺が抱き上げたのって……フィオム『王子』……だよね?


一度目をギュッと瞑って、そして何度か頭の中で自己の正常を確かめ、そうして再び見開く。


「あの、その……マーシュ? どうかしたのか?」

「…………」


今度は耳も疑った方が良いのかもしれない。

俺の耳に届いてくるのはいつもの『王子』の野太い声では無く、妖精が歌うようなか弱い女の子の綺麗な声だった。


何だろう……あの『光』の影響で五官の機能が狂ったのだろうか?

今触っているのも、男の逞しい肉感ではなく、とてもやわらかい、力を入れすぎたら壊れてしまうのではないかと思ってしまう程の小さな小さな肩だった。


……違う……何かが違う……


固まってしまっている俺に、抱き上げられているフィオム王子(?)は困惑を示し……


「その、マーシュ、何か困っていることがあるのなら言ってくれ? 私もあなたの力になりたい」


そう言って俺の空いた方の手を包み込むのは以前握手した時とは全く違う、とても柔らかいものだ。

そしてその手は俺の手を違う柔らかなものへと誘って行く。


ムニュ……ムニュ!?


おかしい!!


この手がどうしてムニュを感じ取れる!?



マズイマズイマズイ……触ったことが有るからこそ分かってしまう……


男に付いていてはいけないものが……フィオムに付いている……



タイミングが良いのか悪いのか、ようやく視力が完全に戻ってきた。

もしかしたら現実を受け止めろと言うお告げなのかもしれない……



俺は意を決して自分が抱き上げている人物の容姿をしっかりと視界に入れる……



そして目にしたのは…………え? 







……あれ、俺の腕の中に女神がいる。


これをあげた後、流石に睡眠に入らせていただきますが、本日中に一度活動報告を書くと思います(これも別に嘘じゃありませんからね?)。

重要……ではないかな? いや、人によって重要度は違いますから断定はできませんがまあ暇なら見てやってください(先述の通り今からは寝ますので今日のいつ頃か、というのは分かりませんが……)。



え~っと……あ!!

※お話中の『ダーツ&ダーツ 2』は完全に嘘です。

お分かりかとは思いますがあんなアニメ存在しません。

一応念のため……


後は……何か嘘の話が欲しいですか?

そうですね……私が思うに、“今日が『4月1日』という事自体が嘘だ!!”という説を提唱します!!


これは私達に働かせたい・勉強させたいと思っている大人たちの巧妙な罠なのです!!

皆さん、騙されてはいけません!!

今日はまだ3月です!!

学校や職場に行ったらバカを見ますよ!?


…………はい、嘘です。

嘘を吐く相手が私には一人もいないのでここで盛大な嘘を吐かせていただきました。

申しわけありません……


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