え、何この数。 「まるで人がゴミのようだ(高笑い)!」 独り身にこれはつらいな・・・・・・。
酒場の中は人、人、人。
すごい人数だ。
それに比例してかなりうるさい。最早騒音でご近所と問題になるくらいではないだろうか?
となりのおばちゃんに無理難題を押し付けられないか心配である。
引っ越ぉせ!引っ越ぉせ!さっさと・・・・。
無いか、流石に。
この世界ではそんな心配無用か。
見渡すと酒場なのに子供なんかも見て取れる。家族連れかなんかか?
俺の認識とこちらの酒場では違うのかな?
なんかファミレス感覚で利用している客も見受けられる。
ドンっ!
「あ、すいません。」
ぶつかった。くそっ、多いわ!
息苦しい、ここに長時間いたら人アレルギーできそう。
この人の多さのせいか、まだ目的の人を見つけられないでいる。
あんまり長時間入り口付近で突っ立ってるのも迷惑か。
でも俺のコミュ力で気軽に人をつかまえて尋ねるとか難易度高い。
どれくらいかというとお小遣い制の夫が妻を説得してお小遣いアップさせるくらい。
分かりづらいか。
とりあえず俺自身にそんな無茶なことはさせれん。
どうするか。
すると、こちらでいうウェイトレスさん?っぽい女性がこちらにやってくる。
「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
え、俺?
他にも待ってる人いるんだけど・・・・。
「あのー、私ですか?」
「はい、先ほどからお待ちでしたよね?次はお客様の番ですよ。」
ヤバい、もうお客様と呼ばれてしまってる、客じゃない、とかなり言い出しづらくなった。
くそぅ、そういう戦法か!
だが俺だって負けんぞ、勇気を出して言うんだ、客じゃありません、って。
「あの私は・・・」
「ただ今カウンター席が満席となっております。テーブル席の相席でよろしいですか?」
「あ、はい。」
「かしこまりました、こちらへどうぞ。」
俺は彼女の後ろについていく。
くそぅ、なんと小癪な!
答える隙も与えぬとは!だが敵ながらあっぱれ!
今回は相手の作戦勝ちだな、うん。
だから断じて俺がチキンなわけではない!
うん、今回はちょっと調子悪かったし、ちょっと、気候も、俺に不利な状況だったし。
だから俺が悪いわけじゃないもん。
俺は、悪くねぇ~!
ふぅ、満足。
負けた時の言い訳ほど小者臭することってないよね!
「おぼえてろよ!」とかさ。
「こちらになります。メニューがお決まりになりましたらお気軽にお申し付けください。」
「はい、ありがとうございます。」
「ではごゆっくり。」
なんかもうめっちゃファミレスだな。
でもイスとかテーブル木製だしチラッと見たけど料理もなんかちょっと荒い。
だから俺のイメージの酒場とは結構リンクするんだけど。
従業員の指導がいきわたってるってことかな。
自分から注文するってのはなかなか気が引ける。
ちょうど、相席の人が注文するようなので俺も便乗する。
「あの、私もいいですか?」
「はい、承ります。」
「クールーのテールスープと、白パンを3つ。」
「かしこまりました。失礼いたします。」
「あっ、少しおたずねしてもよろしいですか?」
俺はこの機に尋ね人について聞き出すことにする。
何度も何度も誰かに話しかけんのはめんどくさい。
「はい、なんでしょう?」
「ここにライルさんって方はいらっしゃいますか?
その方から大体ここにいると伺ったのですが。」
少し丁寧に聞いておく。
顔が広いとはいえこの人が知らないことは十分にあり得るからな。
「ライル様ですか?ライル様はただ今こちらにはいらっしゃいません。
確か依頼で明後日まで帰られないかと。」
「あぁ、そうですか、ありがとうございます。お手数おかけしました。」
「いえいえ、それでは失礼いたします。」
ウェイトレスさんは厨房ににオーダーを伝えに行ったようだ。
そっか、いないか。まあいつもいるかはわからないって言ってたしな。
明後日には帰ってくるようだし、また出直すか。
俺は持ってこられた食事を急いで平らげた。
すぐに勘定をしてその場を後にする。
ふぅ、やっと抜け出せた。
あそこの空気は俺にはきつい。
用事が無ければ来ることを控えたい場所の最有力候補だな。
俺はライルさんが帰って来るまでの二日間を訓練と情報収集に費やした。
訓練については今まで通り。
情報収集については人が少ない時間帯を見計らって、ギルド会館に行って行った。
そこでの収穫はまずまずといったところだ。
まず、Eランクの依頼の中でモンスターの討伐系は全体の約4割。
その中でも常時依頼として出されているものと、
時折必要に駆られて申請されるものとの2種類ある。
前者は主に繁殖力がすさまじく常に討伐の必要性があるゴブリンを
一定数討伐してほしいというもの。
ゴブリンは基本複数で行動することが多いのでパーティーで挑んだ方がいいらしい。
俺は今んとこソロだからレベルあげてからかな。
後者はいろいろあった。RPGのド定番、スライムや俺が煮え湯を飲まされた
ウルフ、あと毒針を使うグラスビー。
このほかにもまだあったが初心者冒険者にはこれくらいのモンスターがあってるらしい。
そこそこ情報は獲れた。
これだけでもなんとか行けそうな気はするが、念には念を入れたい。
この情報についての第三者から見た意見というのは貴重だろう。
また今度も会えなくて、ライルさんが不定期間つかまらないという最悪の場合は
この情報だけで行ってみよう。
俺は再びこの死地へと舞い戻ってきた。
これからのことを考えると武者震いがしてくるぜ!
そう、これは武者震いであってビビッているわけではない!
ああ、腕が振るえているのも昔契約した悪魔が暴れて疼いているだけであって
断じてビビッているのではない!
はあ、憂鬱だ。
俺は酒場へと足を踏み入れた。
「おお、カイトじゃねえか、久しぶりだな!」
酒場に入ってすぐ、懐かしい声が俺を迎えた。
ライルさんは俺が入るとすぐに気付いてくれたようだ。
入り口から一番近いテーブル席で何人かの冒険者と話していたらしい。
「お久しぶりです、ライルさん。約束通り、
ライルさんを頼らせていただくことにしました。」
こういう言い方をすれば相手を信用しているという証になる。
話を聞くだけという小さなことでもこういう風に信頼してますよという態度を見せていれば
俺が何か大きなことをするときに頼らなくても、頼るまでもなかったことでしたから、
と頼るべき時をコントロールできる。
そして俺はスキルのこともあるからできる限り戦闘なんかは見られたくない。だからソロで動けるよう非戦闘の時に信頼ポイントを積んでおくのだ。
「そうか、何か困りごとか?」
「はい、実はお聞きしたいことがありまして。」
「わかった、相談事ならここじゃあなんだ、話しづらいこともあるだろう。
ついてこい、奥で二人で話そう。」
「いいんですか?皆さんと話されていたようですが、それに奥って?」
と俺はライルさんと同席の冒険者達に視線を向ける。
「ああ、大丈夫だ、依頼が終わって打ち上げしてただけだしな。
奥ってのは要するに俺の部屋だ。」
部屋!?酒場に一個人の部屋があるのか?
「わかりました。それではよろしくお願いします。
ライルさんをお借りします。」
冒険者たちへの配慮も忘れない。
「よし、行くぞ。」
俺はライルさんについていく。
途中、厨房も通過し、さらに奥へと進むと、階段があった。
ライルさんが上がっていくので俺もそれに続く。
階段を上がると、いくつかの扉があるスペースに出る。
その中の一つに入るのを促される。
そこは宿屋の部屋より少し大きいくらいの少し簡素な部屋だった。
俺はライルさんに続いて座る。
すると「ようこそカイト、わが家へ。」
とライルさん。
「へ?ライルさんの家?」
「そうだぞ。ここが実家だ。」
酒場フルールはライルさん一家が経営していたとその時俺は初めて知らされた。
話の進むペースが上がりませんが、もう少しで大きく進む予定です。




