ふぅ、無事……
このお話でようやく5番隊の隊長さんが出てきますが…………温かい目で見てあげてください。宜しくお願いします。
うぅ……背中が痛い。
ただでさえ鎧兜をまとって過ごしているこの体で地べたに寝転がるのはかなり堪える。
あの体調から動くことの方が精神的には辛かったろうからまあ比較としてはこちらの痛みは甘受すべきなのだろうが……
そうして光が殆ど差し込まないスラムの朝を迎え、軽く伸びをする。
ヤクモも同じく体を起こして体調を気にするかのように全身を捻っている。
レンはまだ眠気の残った瞼を擦っては欠伸を噛み殺している。
朝に強いはずのレンがこのようになっているのは疲れも残っているのだろうが、このスラムの醸し出す独特の雰囲気もそれを助長しているのかもしれない。
取りあえず起きた二人と挨拶を交わしてから騎士団庁舎に戻ることにする。
昨晩の騒動などまるでなかったかのように、寝起きの俺達の会話は弾む。
「いや~、それにしてもまさか生きている内に本物の天使とお会いできるとは思ってもいませんでしたよ~ねぇ、レンさん?」
「うぐっ!! ……ヒューヒュヒュ~何のことかな~?」
下手くそな口笛を吹かして何とか誤魔化そうとするレンの様子がおかしく、思わずニヤニヤしまう。
「それに~、先輩は先輩で魔族さんか何かなんですか~?」
「……何の話だ?」
完全に他人事のように振る舞っていた俺を咎めるかのようにこちらに水を向けられ、俺はすぐさま知らんぷりを決め込む。
「え~? だって普通『契約』って召喚士のスキルが無いとできないものですよねぇ? でも先輩、『毒魔法』なんて、ボクみたいに特殊な属性魔法を使って契約しちゃいましたしぃ」
「……それで、俺が魔族だって?」
「確証は有りませんがそうですねぇ~。先輩はまだ会ったことが無いって言ってましたけど、5番隊のリュートさんも同じようなことができますし」
そうしてニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべてコチラを試すように視線を送ってくるヤクモを見て場違いにも、ようやくこの子っぽさが出てきたのかな、なんておかしな感想が出てくる。
「……何か、目的でもあるのか?」
別に契約や召喚、それにレンが天使であるということについてはバレてもいい、というよりバレることを前提としてこの王都までやってきた。
できるだけバレないように振る舞うべきではあるのだが最も秘匿すべきディールさんとの繋がりなんかは隠せている。
それ程過大な要求なんかでなければこの子を助ける際に払わねばならなかった代価とでも思っておけばいい。
そうしてヤクモに尋ねるが、彼女は猫人特有の耳と尻尾をヒョコヒョコと動かしては楽しそうに首を横に振る。
「いえいえ~、滅相もないですよぉ。助けて頂いた上に後輩であるボクが先輩に対して要求なんてぇ~。先輩が不利になるようなことをボクがペラペラとしゃべる訳ないじゃないですか~」
とは言いつつも遜る仕草は建前という概念を体現化したかのように嘘臭い。
「……本音は?」
「嫌ですねぇ、ボクは正直を絵に描いたような素直な真人間なのに……ただ、そうですねぇ……ボク、本来ならユウさんとオルトさんの3人で相部屋だったんですよぉ」
「ふーん……それで?」
「今ユウさんはいない訳で、そうすると帰るとオルトさんと二人っきりになるわけです。オルトさんなら優しく迎え入れてくれると思うんですけど、ユウさんが戻ってくるまで二人っきりと言うのはボクがからかい疲れていけません」
何がいけないのか俺としてはよく分からないがヤクモはあの鬼を鬼だ鬼だとからかえる強者らしい。
それはそれで凄いのだが本人としては疲れるのだそうな。
「……結局何が言いたい?」
結論を急かすとヤクモは一瞬俺から顔をそむけて、そして直ぐにまた俺に向き直る。
「……そのですね、先輩とレンさんの部屋にしばらく置いてくれませんか~?」
「……は?」
「……え?」
俺とレンの間の抜けた返事にしかし、ヤクモは気にせず捲し立ててくる。
「良いじゃないですかぁ~。ボクは言いふらすつもりはありませんが先輩としては手元に置いときたいじゃないんですかぁ?」
ふむ、まあ一般論としては秘密を知ってしまった者を手元に置いて監視したいという気持ちは分からんでもない。
でもこの子を無批判に信頼するわけでは無いが本人の言うように言いふらしたりはしないだろうと言う確信めいたものもある。
「まあ言わんとすることは分かるがそこまでしなくても……俺の部屋じゃなくてもシキやアルセス辺りなら入れてくれんじゃないのか?」
「いえ、ダメですよ~。シキさんもアルももう既に付き人やら何やらで部屋は一杯なんです! 後から来るボクのために迷惑をかけるわけにはいきません!!」
なら俺やレンの迷惑はどうなるんだ……
またもや俺の考えていることでも見透かしたかのようにヤクモは頬を可愛らしく膨らませて抗議の意を示してくる。
「良いじゃないですかぁ~。……あれですよ、いざしゃべりそうになったら先輩はボクを先輩好みに調教してハァハァ言わせられるんですよ? 先輩の命令だけに従う従順奴隷にできちゃうんですよ!? ヤっちゃいましょうよ!!」
「はぁ!? いや、意味が分からないんだが……」
いきなり意味の分からないことをのたまうヤクモにドキリとしながらも常識人としての対応を務める。
「ぶぅ……先輩はニブチンさんです……」
「いや、膨れられても……まあ俺は構わんが。―レンはどうだ?」
話を同居人たるレンに振ると……
「え? う~ん……お兄ちゃんとの二人っきりの愛の巣が……」
との渋った返答を打ち出す。
すると、ヤクモはレンに何やらコソコソと耳打ちし出した。
勿論その内容を俺が知ることはできないが、時々レンの「え!? 嘘!? 本当に!?」という驚きの声やヤクモの「勿論ですとも~……助けて頂いた恩を仇で返すようなこと、ボクはしませんよ~?」というすり寄る声だけは漏れ聞こえてくる。
そして話が終わるや否や、レンは
「え? うん、ボクはいいよ? よろしくね、ヤクモお姉ちゃん!!」
と素直な答えが返ってきた。
二人は何とも言えない奇妙な笑みを浮かべてお互い頷き合っている。
……うん、よく分からんが合意に達したらしい。
仲良きことは美しきかな……
そうしてワイワイと歓談しながらも朝帰りする俺達を出迎えてくれる集団が。
仁王立ちしながらもまさに鬼の形相を浮かべて……言い過ぎた。
普通に1番隊隊長のオルトさんが満足げなご様子で庁舎前に立ち塞がっている。
シキさんとウォーレイさん、それにアルセスはその後ろでそれぞれ三者三様な態度でそれを見守っている。
主に心配そうな表情を浮かべているのはシキさんとアルセス。
だがシキさんは今にもオルトさんに文句でもいいに行きそう。
要するに焦りが見える。
……なるほど、俺の2週間の期限を今か今かと待ち構えてくれていた殊勝な輩がいたんだな。
ウォーレイさんは豊満な胸の上で腕を組み、時たま頬をポリポリと掻いてはそれ等全員を見守る良いお姉さんと言った感じ。
そしてそんな彼女達の様子などどこ吹く風と言ったオルトさんはしかし、俺の後ろでなりを潜めていた人物を―ヤクモを見て信じられないものでも見たかのように放心状態になる。
ヤクモはヤクモで、帰ってくるまではとても姦しく騒いでいたのに彼女達4人の姿を認めるや否や、借りてきた猫のように大人しくなったり、そわそわしたりで……
まあそこはどれだけ本人が陽気でも、やはり凡そ1年もの間隔絶があったのだ。
彼女達のことが何よりも大切だからこそヤクモは彼女達から距離を取ることを選び、そして今も、大切だからこそ、受け入れられない可能性に思いを至らせては不安に陥る。
こんな彼女を不器用だと言ってしまうのは酷だろう。
俺はヤクモの髪を優しくガントレット越しに撫でてからオルトさんに向かって声を上げる。
「2週間の期限のためにこんな朝っぱらからご苦労なこった。……だがその前に、アンタ等に話がしたいって奴を連れてきた。―ほらっ」
軽く背中を押してやると、ヤクモはおぼつかない足取りでオルトさんに近づいて行く。
「……オルト、さん……」
「……ヤク、モ? ヤクモ、なのか?」
「オルトさん……ごめん、なさい……今迄、ごめんなさい」
「ヤクモ……ヤクモ!!」
オルトさんは感極まったようで、一目散にヤクモ目がけて駆け出す。
それを見ていたシキさん、ウォーレイさん、アルセスの3人も瞬間遅れはしたがヤクモの下へと駆け寄るのにそう時間は要さなかった。
4人はヒシとヤクモを抱きしめ、ヤクモは抱きしめられるがままに涙を流して謝り続ける。
「ごめん、なさい……皆さん、ごめん、うぅ、なさい……」
「ヤクモ、お帰り、なさい……」
「ヤクモ……私、寂しかったよ……」
「ヤクモ……本当に、本当に……」
「ヤクモ……良かった、本当に、良かった……」
ヤクモの涙を受け4人も共にその目に涙を滲ませる。
誰一人『どうして今迄』という理由を聞かない。
そうするよりもなによりも、彼女達にとっては自分達の良く知る―自分達のことを想って涙を流してくれる大切な人が戻って来てくれたことに想いを走らせて共に涙を流すことが最優先事項なのだろう。
あの大人びた雰囲気を纏っていたウォーレイさんでさえも周りの目を厭わずあの輪に加わっている。
「お兄ちゃん……良かったね」
「ああ。お疲れさん、レン」
「うん! お兄ちゃんもお疲れ様」
「おう」
そうして感動の再会をレンと共に眺めてお互いの苦労を讃えあった。
暫くその時間が続いたが、不意にヤクモはどうして今迄あんな行動を取らざるを得なかったのかという事をポツポツと語りだした。
詳細なこと―つまり、俺やレンがどのようにしてヤクモから害虫を駆除したのか等については本人が言っていたようにぼかしていたが
「先輩と、レンさんに……助けて、もらいました」と涙ながらに語るのを受けて、4人の視線が一斉にこちらへと向く。
一瞬身構えはしたが、一番対応に支障を来すだろうと思っていたオルトさんが先頭を切って俺達に向かって頭を下げてきた。
「ずばん(すまん)……ズズー……ヤクモを、あじがどう(ありがとう)」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらもそんなことを厭わず俺達に謝意を伝えてくれる彼女の姿勢に応えるために、俺は深くかぶりを振る。
「気にすんな。俺はただアンタから課された課題をこなしただけだ。だから『俺個人』に対して何か恩なりなんなりを感じる必要は無い。しいて言えば今回必要も無いのに頑張ってくれたレンには多少感謝しといてくれ。それで十分だ」
「ああ、ああ……ずばない(すまない)……恩に着る」
そうして頭を下げられたレンはレンで多少困ったように手をブンブンと横に振る。
「い、いいよボクは! ただお兄ちゃんと一緒にいたいから頑張っただけだもん!! ―その、それで、ヤクモお姉ちゃんを連れて帰ってきたんだから、お兄ちゃんはもう、合格、でいいんだよね?」
レンが遠慮がちにオルトさんに訊ねる。
オルトさんはそれに何度も何度も頷いて見せる。
「ああ、ああ……私達が、どでだけ(どれだけ)、頑張っても、解決できなかった……ズズー……第10師団の中での最重要な問題を、解決して、くでだんだ(くれたんだ)。わだしだち(私達)隊長も納得する成果だからな―問題なく、合格だ」
そうしてまた何度も何度も頭を下げてくるので流石に居た堪れないと言うか何というか……複雑な気分になっていたのだが、そんなオルトさん、ウォーレイさん、アルセスとは異なり、シキさんただ一人だけはこちらから視線を逸らさず、何か困惑したような表情を浮かべていたのが強く頭に張り付いた。
シキさん、どうしたんだろう……
だが、そんな俺の疑問は遠慮がちにヤクモの口から漏れた一言でどこかへと吹き飛んでしまった。
「あの~……一応5番隊までの各隊長が納得するかどうか、というお話なら……“リュートさん”にも報告した方が良いんでしょうか~?」
「「「「あ」」」」
……4人が4人とも同じリアクションを示したことからも分かるように、ここにいない5番隊隊長の存在をどうやら皆が皆忘れていたらしい。
と、言う事なので、俺はレン、それにヤクモとアルセスを伴って5番隊の庁舎へと向かっている。
ヤクモはそもそも自分が帰ってきたことの報告をまだ行っていないために必要性がある。
俺は俺で、一応課題が『1~5番隊までの各隊長』という条件だったために5番隊隊長だけを無視するわけにもいかない。
レンは特に付言するまでも無いだろうが、俺について行く、というのがレンの理由となっている。
アルセスはと言うと……
「えへへ……マーシュとレンが来てから、良いことが一杯だね!!」
「そうなのか? そりゃよかった」
そうしてアルセスは俺の頭上で咲くような笑顔を浮かべてはしゃいでいる。
要するに俺が肩車しているのだ。
あの任官試験以来懐いてくれていたのだが思った以上に肩車を要求してくる回数は多くは無かった。
何となくだが、アルセス本人にも俺に肩車をねだる基準と言うのがあるのだろう。
今回のように良いことが有った時の自分へのご褒美のように……
それを除いても、アルセスが俺とレンについてくる理由と言うのはある。
以前、ヤクモが彼女達から距離を置くまで、アルセスとは良く行動を共にしていたそうだ。
年が近い、というのもそれを助けるのに一役買っているが、作戦自体を一緒に行う事もしばしばあったようだ。
だから純粋にヤクモと一緒にいる時間を少しでも多く作りたいという気持ちも多分に含まれているのだろう。
「ねえ、マーシュ」
そんなアルセスは無垢な、それこそ穢れなど何も知らない生まれ立ての雛のような純粋さで俺に語りかけてくる。
「ん? 何だ?」
「私ね、大きくなったらね?」
「おう」
「……マーシュと結婚する!!」
「おっ!? お、おおぅ……」
焦ったぁ……
いきなり何てことを。
そりゃ父親のように接してくれてもいいみたいに言ったのは俺だよ?
でもそれはそれでこんなに早くそうなってしまうのは些か……
そんなことを考えながらブツブツと一人ごちっているとアルセスは思い出したかのように跳ねてはそれを俺に伝える。
「あ!! でもね、私だけじゃないんだよ? 私より先にレンが予約してたみたいだから、レンと一緒にマーシュのお嫁さんになるんだ!!」
水を向けられたレンはそこで嬉しそうにはにかみ、そして照れて俺と手を握っている方とは逆の手を使って染まった頬を覆い隠そうとする。
「……お兄ちゃんの、お嫁さん……」
「そ、そうか……」
……困った。非常に困った。
レンはレンで子ども扱いされることを好ましく思っていないからあまり茶化すことはできない。
だが一方でアルセスはどうだろう?
見た目お人形のように可愛らしい少女と呼べる部類の女の子から「大きくなったお嫁さんになる!!」宣言を受けてしまった。
茶化すとかどうかじゃなくそもそも駄目なんじゃない?
同じような体型をしているエフィーに手を出しておいて今更、という意見も脳内の俺からは挙がってくるのだがそれとこれとはまた別だとしてとりあえずその意見は排除。
そのことを考えないにしても、二人がこの先大きくなったら、という将来に思いを至らせる。
「パパ、大好き!!」から始まって……
「将来の夢? うーん……パパのお嫁さん!!(←今ここ)」に続き……
「は!? ちょ、お母さん、お父さんのと一緒に洗濯回さないでって言ったじゃん!! 菌がうつるし!! マジ最悪」と反抗期が始まり……
「え? 父の日? プゲラッ、マジウケるんですけど(笑)」と自分の存在すらウケる対象にされ……
「……お父さん、今迄酷いことばっかり言ってごめんね? 私をちゃんと育ててくれて本当にありがとう」と和解の時が訪れるや否や……
「お父さん……私、この人と幸せになる」とチャラチャラと装飾を着けて「チェケラ!!」とか言ってそうなアホみたいに軽い男に大事な娘を奪われ……
……止めよう、この連想。悲しくなってくる。
そもそもこの世界に洗濯機ねえし。
世のお父さん方の心痛に黙祷を捧げながらも考え事を進めているとレンとは反対側にいたヤクモから聴き捨てならぬことが。
「流石先輩。もう既にアルもその術中に……」
「おい、『も』って何だ『も』って。人聞きが悪いな。そもそも一人目にすら心当たりが無いぞ」
「いえいえ~、ちょーっと言い間違いというか、なんと言うか……」
とか言いつつも誤魔化す気配が一切感じ取れないんだが。
ニヤニヤと変な表情しやがって、コイツ……
そんなこんなで5番隊の庁舎へと辿り着いたのだが、事前に聞いていた以上に、その、なんというか……暗い。
雰囲気が全体的に沈んでいる。
思わずスラムに帰ってきたのだろうかと疑ってしまいたくなる位に影が差していて、逆に光なんかとは無縁な立地状況。
他の隊は6番隊や8番隊など、隊の序列としては5番隊よりも劣るのにも拘らず良好な場所にある隊も存する中、この5番隊だけは言うなれば端っこに追いやられたとでも言うかのように一つ寂しくポツンと佇んでいる。
先にスラムに寄ってないと、こんな場所に人が住めるのかと疑いたくなってくるところだ。
ここに、5番隊隊長が……
~回想~
ようやく隊長の大まかな紹介も終わりへと近づいた折、ユウさんとシキさんの表情は梅雨のシーズンの空模様のように晴れない。
と言うか、あまり見ないような渋い顔に。
また何かあるのか?
うちのメンバーじゃないが、どこもかしこも問題なしとはいかないものなんだな。
などとしみじみしていると、ユウさんがその重い口を開いた。
「え~っと……5番隊隊長をしているのはリュートって言うんだけどね。これがまたちょっと変わった人で……」
そんな遠慮がちなユウさんをしかし、シキさんは一刀両断に切り捨てる。
「いいえ、『ちょっと』どころではありません。彼女は色々と変なんです」
「え!? ちょ、ちょっと、シキ!!」
慌ててたしなめるユウさんを余所に、シキさんはズバスバと話を進める。
「あまり遠慮してタニモトさんがリュートさんにお会いした時に驚いてもしょうがないでしょう。―それで、リュートさんは変わっている、と言いましたが」
「その、それは先程話に出たアルセスのように出自が、という意味ですか? それともその本人自身が?」
善意で訊いたのだが逆に二人を困らせてしまったみたいだ。
二人とも顔を見合わせて「う~ん」と呻ってしまう。
そして……
「……両方です」
とのシキさんの回答が。
ああ……さいですか。
「順を追ってお話しましょうか。まず出自についてお話します。―リュートさんは魔族の有名な貴族の出で、実はヴァンパイアなんです」
へ~……
何かカノンっぽいな。
それにヴァンパイアか……
「それだけではなく、リュートさんは先祖代々から受け継がれていると言う契約により、真祖のヴァンパイアから間接的にではあれ力を借りているんです」
この話題になると何故かユウさんは目をキラキラとさせて、話を膨らませる。
「それはもう凄いんだよ!? リュート自身もパワーアップするのは勿論、リュートを守る5体の化身は1体1体がもう僕達隊長クラスの実力でさ!!」
おおう、それは凄い!
ユウさんが興奮するだけのことはある。
それに真祖のヴァンパイアから力を……
この人と喧嘩するのはやめておいた方が無難だな。
なんたって『真祖』だ。
こんな人と喧嘩したら「いいえ、先輩、私達の喧嘩です!」って言ってどこかの獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る事態になりかねんからな。
「それにしても……そんなに強いのに『5番』なんですね、リュートさんって人は。それを考えるとその上にいるシキさん達は相当……」
「ああ、いや、何て言うのかな……」
ん?
何か俺が誤解しているからなのか、ユウさんは手を横にワタワタと振る。
その意図を理解したのか、シキさんが話を引き継ぐ。
「何番隊の隊長になるか、というのは偏にその人本人の実力のみに基づきます。そこではミレアのような人形使いならその人形はその本人の実力として扱っていますが、召喚については隊長選任の試験の際には考慮されません」
「つまりその試験ではリュートさんだけ、ということに?」
「うん、そうだね」
ユウさんから肯定を得られる。
「シキが使う陰陽術の式神はちょっと微妙な所だけど、シキ自身は試験の際にはそれは使ってないしね」
「そうですね。ですから、あくまで形式上は序列はユウ>オルトさん>ウォーレイさん>私>アル>リュートさんという事になりますが……」
「召喚を入れるんだったらそうだね……―ハッキリ言ってリュートに勝てるかどうか、僕にも分からないな……」
「そうですか……」
そこもやっぱりカノンと似通ってるかな。
魔族は召喚技術だけにとどまらず色々と進んでいるという。
その分他で色々と苦労してるんだろうな……
「それに、あくまでリュートさんを守護する5体の化身は真祖との契約の恩恵の一部に過ぎない、という事です」
嘘!?
俺、それら全てをひっくるめて今の話だと思ってたんだけど、まだ何かあんの?
「リュートの凄いところはやっぱり何と言っても『ヴァンパイア』としての力、かな」
「と言うと……吸血、みたいな?」
「はい。これも真祖との契約により能力が強化された、と言っていましたが……リュートさんがスキルを使って吸血し、ヴァンパイアとしての血に目覚めたものを強制的に彼女の従者とすることができるそうなんです。つまり制約はあるものの、ほぼ一方通行的に契約を結び、召喚の対象にすることができる、ということに」
「な!? そんな反則級のスキルが、あるん、ですか!?」
「まあシキも言ったように色々と制約はあるようだけどね。それでも凄いことには違いないよ。現に5番隊の凡そ8割はリュートの従者だからね」
「……マジですか……」
「その8割もまだ見えている分では、という事です。騎士以外にもリュートさんの従者は多数いますし、本人に聞いたところ『300以上からは数えてない。スキルの計算機能に任せてる』だそうです」
わぁお。
これについてはカノンとは大きく異なるところだ。
カノンは従者の全てがモンスターで構成されている。
ディールさんに提案されたように、魔族と契約してもらいネズミ算式に従者を増やしてもらう、ということも検討してはいるがそれまだ予定の話。
一方でユウさんやシキさんの話し振りからすると、リュートさんの従者はその大半がヴァンパイアの血が流れている。
つまり一応は人の形を持っている存在だ。
その彼等がもしカノンのようにそれぞれモンスターや他の存在と契約できるんだとしたらもうその数はねずみ講もビックリの膨大な数になる。
それら全てを管理し切れるのかという疑問は措くとしても、純粋にその能力自体は感嘆の声が漏れ出る程に凄いの一言に尽きる。
流石ヴァンパイアだぜ……
そうして彼女の出自や能力の話が一通り終わると、今度は彼女自身の話に。
またしても渋そうな、苦々しそうな表情を浮かべる二人を見て覚悟を決める。
そんな俺の覚悟を知ってか知らずか、ユウさんが気遣わしげに話を切り出す。
「えーっと……ちょっと見栄っ張りなだけで、優しい女の子だと、僕は思うんだけど……」
だがしかし、またしてもシキさんからは否定の声が挙がる。
「ユウ、タニモトさんに嘘を教えても仕方ありません。―リュートさんは色々とおかしいところがありますが中でも首を傾げたくなる部分が二つあります。先ず一つには知識や常識が所々抜けていることです。ユウが言った『見栄っ張り』と言うのはそこから来る副次的なものに過ぎません」
「うーん……確かに時々『え!?』って思うところもあるけど、それはそれでリュートの個性だと思うんだけどなぁ」
優しいなぁ、ユウさんは。
良い方へ良い方へと解釈してくれるので仲間としても気持ちいいだろう。
頑張れ、ユウさん!!
「個性で済めばあれだけ私達が困らせられることもないかと。副官の“ライザ”を見ていて偶に居た堪れなくなります」
「う、うぅ……それは……」
ユウさんはばつが悪そうに顔をそむけてしまう。
ああ……ユウさん諦めちゃったよ。
「その知識の欠落も勘弁して欲しいのですが、もう一つ勘弁して欲しいのが……ユウへの愛情表現が少々曲がってるんです」
「え、えーっと……」
関係者と思しきユウさんは視線をおろおろと空中に彷徨わせる。
彼女自身からの回答は頂けそうにないのでシキさんに話を促す。
「私達自身ユウに対して少なからず好意があるのは認めますが、リュートさんのあれはもう度を超えてます。逆にユウがいない時なんてそれはもう酷いもんなんですよ?」
「う~ん……普通に聞く分には仲睦まじいことこの上ないように思えるんですが……って言うかじゃあ今はどうなってるんですか? ユウさん、今いないですよね?」
「それは……僕もいつも皆に訊くんだけど、教えてくれないんだ」
まあそりゃユウさんがいない時どうしてるかをユウさん自身が知ってると言う話の方が妙だろう。
今度もシキさんに話を促そうと顔を向けるが……
「……聴かないで下さい」
って言われた。
何だろう、ユウさんがいない時リュートさんってどうしてるのかかなり気になるんだけど……
だがそんな俺の疑問は解消されることは無く、話は進んで行ってしまった。
そして最後に……
「僕がヨミについて調べてる時、主に手伝ってもらってたのは5番隊とリュートだから。カイト君が第10師団に入ったら先ずはリュートを訪ねてみたらいいと思うよ?」
「分かりました」
という感じで彼女についての話は終わった。
~回想終了~
俺達はそうして埃が被っていないことの方が不思議とも思える5番隊庁舎内、隊長室の扉を叩く。
先頭に立ってくれているのは俺の頭から降りたアルセスだ。
アルセスは列記とした隊長であるので他の隊を訪れるのにも色々と融通が利く。
ヤクモはまた大切な人の一人であるリュートさんを訪れるとあって不安そうにしているのでこの役目はアルセスに任せることにした。
「リュート、いるー?私、アルだけど」
何回かアルセスが扉をノックする規則正しい音が続くと、扉は開き、中から一人の女性が顔をのぞかせる。
その人は綺麗な銀髪を耳にかかるかかからないか程のショートカットで切りそろえ、深海を思わせるブルーマリンの大きな瞳が尋ね人に対して向けられている。
俺の肩よりは少し小さいと言う位のヤクモと同じくらいだから、背は高い方だろう。
無駄な肉はついておらず、その細身がより強調されている。
「おや? アルセス様」
「ライザ、リュートを起こして。大至急!」
彼女があのリュートさんの副官にして苦労人か。
鑑定するとどうやらその人に間違いない。
一応種族は『ヴァンパイア』らしいが『ハーフ』ともついている。
なるほど、ハーフだから比較として、それ程日中の活動には影響しない、ってことか。
しかし、ライザと呼ばれた女性は困惑した視線をアルセスに返す。
「その、しかし……今の時分、リュート様はご自身の棺桶でお休みになられているのですが……」
その返答が返ってくるのは分かっていたのだろうがヤクモは横でホッと一息つく。
「まあ、リュートさんは純血のヴァンパイアですからね~、朝に活動することを望むのは酷ですよ」
「とか言っても先延ばしにしても意味ねぇだろ。お前のためにもならんし、何よりリュート自身、夜に知らせたら、できるだけ早く知らせて欲しかったって思うぜ、きっと」
「先輩……」
そのやりとりを見ていたライザさんは先のオルトさんと似たり寄ったりな反応を見せて固まる。
「え!? そ、その、そちらは……ヤクモ、様!?」
呼ばれたヤクモはこれまた一息吐いて、アルセスの隣に立つ。
「はい、お久しぶりです、ライザさん。リュートさんに会いたいので呼んでくれますか?」
「わ、分かりました!! 直ぐに!!」
ライザさんは言葉通り直ぐに中に戻っていった。
それを見届けるとヤクモは言い訳めいた様子で何やら呟いていた。
「……別に、先輩に背中を押してもらった、訳じゃありませんから」
「……別に俺が背中を押してやったとは言ってないが」
「……先輩はああ言えばこう言いますね」
「……お前はこう言えばああ言うな」
「……………………先輩の全身鎧」
「お前それ悪口か!? そう言う事直接言うかお前!?」
「いや~面前で言わないとただの陰口になりますよ? いいんですか? ボクが陰で『先輩ってぇ、全身鎧らしいですよ~』って言いふらしても?」
「いや全く問題ないよ!? 誰が見ても分かる事実だし!!」
「陰口を全面的に許容するなんて……先輩はドMさんですか!?」
「何故そうなる!?」
そんなバカなやりとりを幾らか続けていると中からバタバタと慌ただしい音が聞こえてきた。
それに伴い、ヤクモも表情を引き締める。
先程のように緊張した様子はもうない。
……ふぅ、世話の焼ける後輩だ。
再び中から覗かせた顔の中にはまた見知らぬ顔が増えていた。
先程のライザさんと銀髪、という点では同じだが長さは腰の辺りまでストレートに伸ばしてある。
その服装は寝起きと分かる位にラフなもので、ほとんどスケスケの薄着一枚と言った感じ。
豊満な胸に引き締まったボディ。
そして整った容姿。
全てが彼女の女性としての魅力を引き出そうと努力している。
欠伸を噛み殺す際に見える八重歯さえも、彼女の魅力を余すところなく伝えようとしてくれている様だ。
だが、普通ならそのセクシーな衣装や彼女の女性としての魅力に惹かれ、マジマジと見て怒られる、なんてテンプレを体感する羽目になるんだろうが……
しかし、その全てを疑問あるものとするかのように、彼女の両の手で大事そうにしっかりと抱きしめられていたものに目が行ってしまう。
…………え?
彼女の手に収まっていたのは一つの人形。
そう、ただの人形なら例えばクマさんのお人形とかなら、こんな大人びた容姿をしている女性でも可愛らしい趣味をしているんだな、というギャップから更なる好印象へと繋がる。
しかし、しかしだ。
その人形の内容があまりにも問題なのだ。
一言で言えば精巧過ぎる。
あまりに精巧過ぎて、その元を知る人なら誰もが声を揃えて同じ答えを述べるだろう。
…………これは…………
シキさんが答えるのを渋っていた意味が今なら分かる。
ユウさんがいない時、リュートさんがどうやってその寂しさを紛らわしているか……
それはライザさんと共に現れた彼女―リュートさんの手にある人形が答えだろう。
…………マジか。
リュートさんは「ふぁあぁ」と欠伸を隠そうともせず、眠いという事をひたすらにアピールする。
……ヤクモに気付いてないのか?
「何よぉ……ライザぁ……あんたがぁ、オルトみたいな、顔して、起きろって、言ったから……起きたのよぉ」
「私そんな『鬼』みたいな顔してませんから! ってかそんなことは良いんです!! 起きて下さい、リュート様!!」
いや、ライザさんはライザさんでその翻訳はマズいんじゃ……(オルトさん普通に『鬼』って言われちゃってるじゃん……)
「うっさいなぁ……リュートは今ぁ、眠いんですぅ……ユウと一緒の気持ちいい眠りを妨げたぁ、あんたはぁ……『オルトの顔100回の刑』だぁ……―ねぇ、ユウ~?」
『うん、そうだね!! 僕もオルトの顔100回が妥当だと思うな!!』
「「「…………」」」
……え?
今、腹話術した?
ってかユウさんんなこと言わねぇよ。
しかも腹話術の時だけハキハキしゃべり過ぎだろ。
眠気なんて一切感じさせないじゃねぇか。
「ですから、リュート様、ヤクモ様がお見えなんです!! だから早く起きて下さい!!」
尚も必死に彼女を起こそうと努めるライザさんを見るともうそれだけで彼女が苦労人だという事がしみじみと伝わってくる。
「えぇ? ヤクモォ?? あんたねぇ、吐くんならぁ、もっとマシな嘘つきなさいよぉ……どこの世界に『ヤクモがいます』なんて嘘つく奴がいんのよぉ、んなの今頃の赤ん坊でもわかるわぁ」
いや分かんねぇだろ、今時の赤ん坊。
そんなアホみたいなやり取りを見ていたヤクモご本人は盛大に溜息をついてライザさんに断りを入れ、リュートさんの目の前に立つ。
「はぁ……リュートさんがダメダメな時間帯に訪ねたボクも悪いですがこれは流石に酷いんじゃないですかぁ~? ユウさんが知ったら悲しみますよ~、リュートさん?」
「あぁん、あによぉ、あんた。ヤクモみたいな顔してぇ」
「いや、ボク本人ですから。『みたい』じゃなく」
「ほんにん~?」
「はい。ボクがヤクモです」
「あんたが、ヤクモ……ヤクモ……」
眠そうにたるんとした目は次第に覚めて行き、脳が覚醒していったことを示す。
彼女の顔色はそれに伴い青ざめて行く。
「ヤ、ヤ、ヤク、ヤク、モ……」
「はい。ですから何度も言ってるように、ヤクモです」
「ヤクモ………………ヤクモッ!!」
「うゎっ」
すると今度は周りの目など気にもせず、目の前のヤクモをその細い両腕で抱きしめる。
ユウさん人形も抜け目なくしっかりとその手に掴れたままで、だ。
これを見ると何とも言えん微妙な気持ちになるが彼女がヤクモを想って流す涙は本物だと信じたい。
「バカッバカッバカッ!! あんた今迄何やってたのよ!? こっちがどれだけ心配したと思ってんの!?」
「すいません、リュートさん……」
「もう、ほんと、バカッ…………無事で、何よりよ」
「はい……ただいま、リュートさん」
「お帰りなさい……ヤクモ……」
今回はアルセスはその輪には入らないようで、ライザさんと共にしばし外からその光景を涙を浮かべて眺めていたのだが、しばらくすると突然中に入って行き……
「あのね、リュート!! ヤクモはマーシュとレンに助けてもらったんだって!!」
なんて告げ口しだした。
「『マーシュ』って確か……」
「ああ、それ、一応俺な。ちなみにこっちがレン」
「あんたらが…………ありがとう、ヤクモを助けてくれて」
「オルトにも言ったが気にすんな。まあレンは一働きしてくれたから幾らか労ってやってくれれば助かる」
「ボクはお兄ちゃんと一緒にいたいだけだから。気にしないで」
「あんた達……謙虚なのね」
「謙虚かどうかは知らん。俺は事実しか言ってないつもりだからな。―だからあんたはそいつとの再会を素直に喜んどけばいいんだよ」
ヤクモを顎で指しそう告げると、彼女は薄らと頬を桜色に染め、何故か突然何かを思い出したかのように視線を彷徨わせ始めた。
「そ、その……マーシュは、良い奴、なんだね」
何だ、突然だな。
そう思っていると、今度はとてもぎこちない動きで、まるでロボットの動作のようにギシギシ言わせて体をすり寄せてくる
そして一言……
「マ、マママママーシュって、よ、よよよく見ればいい良い男、だね」
……は?
「……先輩、『誰が見ても分かる事実』じゃなかったんでしょうか?」
「スマン……俺もこの全身鎧で身を包んでいた気の緩みか何かで一瞬の隙でも突かれたのかも……」
「いや、意味の分からないボケで返されてもこっちが困るんですが―リュートさん、どこをどう見ても先輩は兜姿でしかありませんよ? それ以上の『良い男』なんて……って聞いてませんね」
リュートさんは誰の言葉も聞く耳持たず、というより耳に届いていないのか、視線を右往左往させてキョドリながらもその顔はゆで上がったタコのように真っ赤に染まって行く。
「そ、そそそそそのさ、ヤクモはリュートのたたたた大切な人、だからさ、そのヤクモをた、たたたた助けてくれたマーシュに、おおおおおおお礼を、しなきゃね、と前々から思ってたんだ」
前々っていつだよ。
今さっき会ったばっかだろ。
「お礼って……だからさっきも言ったが気に―」
「だ、だだだだだから、さ、リュートの、ちょ、ちょちょちょちょーぜつテクで体に、ご、ごごごごご奉仕、してあげる」
「「「…………」」」
もう何が何やらよく分からない状況になっていて助けを求めていたところ、ライザさんが心当たりがあるようで解説してくれる。
「……そう言えば、最近5番隊の内部では男性とそう言った経験をしているか否かが一つのステータスである、という話をよく聞くようになりまして、それを聞いたリュート様が恐らく……」
「ああぁ……なるほど」
これがあれか、シキさんやユウさんが言ってた知識・常識が無いことから来る見栄か。
だがしかし、ライザさんの解説すらも聞こえていない様子で、真っ赤になりながらもリュートさんは見栄を張り続ける。
「リュート、もう何人とも経験したことあるから!? だ、だだだからもう大人のリュートに、全部任せてくれれば、みたいな!?」
……おおう……もう本人以外嘘だと知られているのになお嘘を吐きつづけるなんてある意味勇者だな。
とは言っても本人にはそういった自覚が無いんだから処分に困る。
このまんま流れに従って、なんてことはこの場にいる者全員が凡そ許してくれるはずもないし流石に俺もそんな中敢行する勇気も無い。
それにそんな成り行きで初経験なんてことは彼女自身にとっても後のトラウマを生む以外何の益も無いことだろう。
ここは……
「お誘いは嬉しいが、初めては大事なもんだ。そう言うのはもっと大切な男が出来た時のためにとっとけ」
彼女が傷つかないよう紳士に答えたつもりだったがリュートさんはそれでさらに顔の熱を高めたご様子。
目をギュッと瞑っては、ユウさん人形を盾の如く突き出して一息に捲し立ててくる。
「は、はぁ!? ち、ちちち違いますぅ~!! リュートしょしょしょ処女じゃありません~!! 何なら知り合う男全員に胸揉ませてるしぃ~!? もっと言えばゴブリン・オークにでも股開きますからぁ~!! ―ね、ね、ねぇ、ユウ!?」
『うん、そうだね!! リュートのテクニックに僕の腰もガクガクだよ!!』
……ユウさん絶対んなこと言わねぇよ。
それもそんな爽やかに。
「いや、それはそれで最低だと思いますよ、リュートさん……」
「ヤクモ……リュートが壊れた。それにユウがド変態扱いされてる……」
「ほらほら、アルにはまだ早いですから、こんなバカなリュートさんは放っときましょうね~」
おい、大切な存在二人からも冷たい視線送られてるぞ。
「お兄ちゃん……ライザさんって大変なんだね」
「そうだな……心中察するよ」
レンと俺に気遣われた副官のライザさんは遠い目をしながら
「……ありがとうございます」
と現実とは違うどこかに思いを至らせているようだった……
その後、現実とは違う彼方から帰還したライザさんが事態を収拾して、一時アルセスは自分の隊に戻ることに。
一方で俺とレン、それにヤクモはリュートさんとライザさんに中に通されて彼女達と共に話をしている最中だ。
とは言っても感動の再会から時間を経たためか、もう既にリュートさんのスイッチはoffに切り替えられ、うつらうつらと舟をこぎ始めた。
だから主に会話しているのは副官のライザさんという事になる。
「私達5番隊の仕事の話と言っても、最近主にしていたのは失踪者、特にSランク冒険者として知られる“ヨミ”さんの捜索ですからね……あまり面白いことは何も」
そう切り出したライザさんに、気配が前のめりになってしまう。
それに気づいたのだろう、ヤクモから耳打ちされ……
「……先輩、先輩はヨミさんを捜してるんですか?」
と核心を突かれてしまう。
……コイツ、鋭すぎないか?
それとも単に俺が分かりやすいだけなのだろうか。
……全身鎧なのになぁ……
「……否定はしない」
「……そうですか」
それだけを言って満足したのか、ヤクモはライザさんに向き直る。
そして……
「面白そうですね~、是非その話聴かせて下さい」
「え? そ、その……」
「ボクはユウさんから『自由にしてもいい』って言われてます。ですからその件、手伝う事も可能ですよ~?」
それを言われたライザさんは一呼吸分固まるが直ぐに我に返り頭を縦に振る。
「―分かりました。では、5番隊が調べ上げたことをお話します」
ようやく、と言ったところか……
え? 昨日って何かありましたっけ??
2月14日……うっ、頭が!!
これ以上を思い出そうとすると頭が割れそうだ!!
…………ええそうですよ、どうせ一つもチョコ貰ってませんよ!!(逆ギレ
ですがここは考えようです。
かの有名な狐さんはこう言いました。
「……あのブドウは、すっぱいんだなぁ……(みつ〇」と。
とすると……そうです!!
奴等リア充が手にしたチョコは実は全て甘くなどないのです!!
全てがハバネロ入りの激辛チョコを受け取った男共は嬉々としてそれを口に放り込んでいる精神異常者なのです!!
ふぅ……………………爆ぜろ。




