任官試験だ!!
以前ご感想の中でステータスの話を頂いたのでこの場をお貸りして改めてご説明を。
名前:モブA
Lv.30
HP:100/73(+27)
MP:93/63(+30)
STR(筋力):11(+2)
DEF(防御力):25(+10)
INT(賢さ):35(+5)
AGI(素早さ):25(+7)
LUK(運):25(+5)
『能力値小上昇』
この状態ですと、HPやMPをご覧いただくのが一番分かりやすいかと思いますがモブAさんの能力値は『能力値小上昇』による能力値アップの前のものが記されています。
つまり
例1:HPはアップする前が/の右に。【73】という数字がモブAさんの本来の値です。
『能力値小上昇』によって上昇した値が/の左に。【100】がそうですね。
例2:DEF(防御力)で言いますと、モブAさんの本来の値はそのまんま25です。
『(+10)』と言う値が一番皆さんの誤解を招いているようですがこれは+10されて25になった(つまり元の値は15である)という事では無く、そのまんまモブAさんの能力値が25な訳ですね。
ですから(+10)はスキルによる能力値上昇の値を示しているわけで、モブAさんのスキルによる修正を受けた能力値というのは25+10で35ということになります(直接可視的にそう言えるわけではありませんが)。
今後このことについてどうするかはまだ未定です。
また何か疑問点がございましたらご質問等お送りいただければと思います。
俺とレンの朝は早い。
騎士になったら朝から調練を行うそうだが、今俺達はそれよりも早く、外がまだ明るくなり始めた時間帯に起床し、二人で訓練をしている。
レンは天使の里の長にして父親であるゴウさんから、長の娘としてしっかりするよう育てられたという経緯があるので朝が早いことは慣れているという。
俺は……まああれだよ。
ゲームとか深夜アニメとか、色々とやりたいことやってたら知らないうちに輝かしい朝がお出迎え! なんてことはざらだった。
その上学校という赤紙も来ないのに行かなければいけないなんて拷問染みた時間が平日の凡その時間を侵食していたらか決まった時間に起きなければいけなかった。
こっちの世界に来てからはゲームとかできなくなったけれども、それが良い方向へと作用したのか、レンと同じ時間に起きるなんてことは朝飯前、いやむしろ寝ないでも常に『眠〇打破』飲んだ後みたいな状態を保てる位になっている。
だから最近では睡眠時間もめっきり減って、睡眠に当てる時間は、第2の人生では凡そ12分の1ほどに済みそうだ。
……っと、集中しないと。
流石にレンの猛攻は意識を飛ばしながらいなせるものじゃないからな。
「はっ!!とぉ!!りゃあ!!」
「ふ!!うらぁ!!せあぁ!!」
レンの額からは一筋の汗が流れ、空に走る。
朝露に似たそれは出かかった日に照らされ輝きを帯びる。
俺も汗はかくがその存在が俺以外の誰かに認識されることは無い。
代わりに着ている鎧の反射がレンの視界を時々邪魔している様だが……
レン自身は今できる全力を尽くしているのだろうが、その持っている武器はそれとは程遠い訓練用のもの―丈の長い漆黒の布―を使っている。
それを、槍を使う要領で素早く突けばそれが一本の芯でも通ったかのように武器となって俺を襲ってくる。
勿論それだけが種・仕掛けではなく、レンのスキル『波導』と併用することでそれを可能としているのだ。
……何とも羨ましい力だな。
これもゴウさんがこの娘を大事に、強く、強く育てようとした賜だ。
俺も『パーティー恩恵(主人)』を使ってその恩恵を預かれるよう努力している。
闘気の訓練も合わせ、『千変万化』の習熟度も80%となって至って順調だ。
ま、何にしても今日の任官試験をパスできなければ全てパー何だけどね!
それからも俺とレンはしばらく汗を流した後、宿の朝食であるパンとチキンスープを取った。
その後はちょっくらディールさんから習ったことの確認問題をレンに出してやってから任官試験へと向かう。
「へ~……いっぱいいるね、お兄ちゃん!」
「そうだな……」
まあ「いっぱい」って言っても殆どが女性だ。
男の志願者は事前にシキさんから聴いていた通り俺を合わせて9人だそうだらか、今のところまだ4人しか見当たらない。
しかもその4人が何故かもう仲良さ気に話し合っていた。
……コイツ等、既に集団を形成してやがる。
「俺が1人で試験官の女の子相手にする説」がいよいよ現実味を帯びて来てしまった。
他の4人は……見当たらない。
仕方ない、とにかく今は試験会場へと向かおう。
どっちにしても筆記の試験で足きりにあったら元も子もない。
実技を受ける前におさらばだ。
そんな間抜けなことをディールさんやユウさん、それに頑張って修行しているだろう皆に報告するのは是が非でも避けたい。
……ヤバい、そんなこと考えてると何か緊張してきた。
こんなに緊張したのいつ振りくらいだろう……
高校受験も、クラス発表でもこんなに緊張はしなかった。
多分……間違ったフリしてアダルティなサイトを開いたことがバレそうになった時以来のドキドキだな。
ってんなことはいいんだよ、本当にどうしよう……落ちたらヤベェ。
「テヘペロ!」じゃ済まないよなぁ……
「ふんふふん~♪」
そんな俺とは対照的に、レンは鼻歌混じりで楽しそう。
本当にレンは余裕だな……
そうしてレンの余裕な態度を見ていると、それが更に「レンがあれだけ余裕なんだ、俺が落ちるわけにはいかない」という変な見栄が生まれて来てしまう。
そうした醜い俺の心が更に俺を「落ちたらどうしよう……」という負の方向へと追い込んで行く。
そうなってくるともうどうしようもないもので、レンだけじゃない、周りの受験者たちが何かの暗記やゴロ合わせを口ずさんでいたり、既に余裕かまして実技に向けた話をしていたりするのを耳にするとその全てが自分の自信を削ぐ事情へと早変わりする。
果ては自分が『谷本海翔』ではなく『マーシュ・マッケロー』と偽ってこの場にいることでさえも自分が受かることを阻止する事情になるのではないか、なんて普段では考えないような、冷静に考えればそんなことはないだろうと言えるようなことでさえ頭に浮かんで離れない。
……くそっ。
……こんなことならもういっその事早く、早く試験を始めてくれ。
そうしてやつれた心情を何とか振り払おうと格闘している内に試験官となる女性騎士がぞろぞろと会場入りし、試験の内容の確認、問題の配布、不正受験を防ぐための水晶での確認等、ああだこうだとしていると10分前となる。
ちなみに問題用紙は勿論元の世界程高級なものでは無く、ざらざらとした手触りや黄ばんだ色などをしているがこの世界ではこれが一般的なもの。
更に言えば、元の世界のように試験官が腕時計なんてものを持っているわけでもないので時間は鐘の音を基準にしているそうな。
元の世界との比較をしていると多少なりとも気が紛れ、いくらかマシになった。
よし、ともかくうだうだ考えても逃げ場は無いんだ、やるか!
ゴーン ゴーン
「始め!!」
鐘の響き渡る音と、女性騎士の声が始まりの合図を告げる。
俺も他の受験生と同じく配られた問題に目を通して答え始める。
…………あれ?
この問題……見たことある!!
あっ、これもだ!!
解ける!!解けるぞ!!
頭に浮かんだ解答をスラスラと記入していく。
おっ、これもどこかで……
あっ!!これって、進研〇ミでやったことあるやつだ!!
こっちの単語問題も付属の機械『〇〇』でバッチリ!!
長文問題は送付して先生に添削してもらったから対策も万端!!
よし、いける!!いけるぞ!!
~そうして月日は流れ、新しい季節がやってきて……~
「はぁ……やっぱり勉強難しいなぁ……」
「くっそ、試験範囲広すぎだろ……」
「俺、試験期間中も部活があるから……」
「くぅ、こうなったら、今から塾に通うしか……」
おやおや、クラスの皆は苦戦している様子。
でも、俺は大丈夫!!
だって進研ゼ〇があるから!!
受験も楽しい学生生活(彼女も知的な君を大歓迎!!)も、叶えるなら進研ゼミだよ!!
~詳しくはホームページまで~
……ふぅ。
あのマンガ、普通にマンガとして見るなら面白いよね!
ディールさんの予想が9割9分当たっちゃったからちょっと興奮しちゃった。
テヘ!
筆記は試験時間を半分以上も余らせて終わった。
待ち時間が暇だったが消しゴムのような遊び道具がある訳でもないのでただひたすら沈黙してその時間を消費。
その後レンと合流して感触を確かめあったところ、やはりディールさんの言っていた通り筆記では落ちようがないという結論に。
休憩時間を経て待機していたところ、一部の採点を終えた騎士が足きりに会った志願者を告げに来ていたのでまあ落ちる奴は落ちるんだな……
……そして、実技試験の時刻となる。
男女同じ試験会場で、普段は騎士たちが稽古をする稽古場を用いる。
主な用途である稽古以外にも様々なことに使用することを予定している分広さは十分で、志願者が全員入っても尚余りある大きさ。
……こうも広いと落ち着かないな。
レンとは既に別れてしまったし、話す相手も……
そう、今は男女別々に、具体的には俺達男は左に設けられたスペースで待機しているのだが、筆記の前に見た4人組と俺以外の残りの4人がもう既に別のグループを作っていたのだ。
そしてその2組は楽しそうに実技試験に向けてのフォーメーションやら作戦やらをワイワイ話し込んでいやがる。
うん、つまりは俺だけハブられてる(これが意図的だったらもう泣くわ)。
この野郎共……てめぇらなんて落ちちまえ!!
そうして一人いじけていると、稽古場の右、つまりはレンがいる、女性騎士達の方がざわざわし出した。
恐らく試験官が到着したんだろう。
人数比が圧倒的に異なることも有り、女性の方が先に試験が始まる。
こんなことなら試験内容も俺達男が一騎打ちで、女性にパーティー組ませた方が効率良いと思うんだけどなぁ……
「皆さんお静かに!!」
一際甲高い声が試験会場に響き渡る。
石畳の一段上にストレートに長く伸びた金髪が鮮やかな女性が。
細かなところまでは見えないが、少なくとも彼女が周りの目を吸い付けるような美人であることだけはこの位置からでも分かる。
エルフ特有の長い耳や均整のとれたボディ、シュッと伸びた長い脚その全てが志願者たちを魅了する。
うーん、だがシーナを見ている分俺に限って言えばあまり感慨は湧かない。
首をひねって考え込んでいる俺を余所に、彼女は志願者たちに告げる。
「わたくしがあなた達の試験官を務める12番隊隊長、ミレア・ウォントガルですわ!!」
そう言ってサラリと伸びた自分の髪を掻き上げる。
……おおう、あれが。
彼女についてもどういう人物かはユウさんから聞き及んでいる。
ユウさんが過去解放した元奴隷では無いにしても、先の事件で無事に帰還し、尚且つこの試験官まで務めている。
優秀な人物であるのは確かなのだが……
~回想~
「ミレアはね、西のフェールジア王国にある王立魔法学園を主席で卒業したんだよ?」
ああ、確かディールさんとの話で出た……そこを主席で卒業か。
そりゃ凄い。
「それだけではありません。彼女はハイエルフで、名家のご令嬢なんです」
「お嬢様ですか。それはまた何とも……」
俺が感心する中、シキさんが付け足す情報はそれだけにとどまらない。
「彼女が扱う魔法は威力・質共に王宮魔導師をも凌駕し、彼女が主としている戦闘スタイルである『人形』は操作できる数が2桁に及ぶのですよ?」
「2桁ですか!?1体操るのだけでも物凄い技術がいるはず……」
そのようにディールさんから聞き及んでいるし、実際にエフィーもそれで苦労している。
人形使いと魔法人形使いでは少々異なるものの、ディールさん曰く「3体操れれば一人前だと言っていい」とのこと。
ハイエルフということだし魔法が優れているのはまあ分かるが……
「うん、ミレアは本当に凄い子だよ!」
「まあ、凄いことは確かですが、少し調子に乗り過ぎることはいただけない面ではあるかと」
「は、はは……まあ、ちょっと、ね」
ほう、調子に乗る一面もあると。
まあお嬢様で調子乗りって典型だしね。
そうして彼女自身がどういった人物かというのを大体聞き終えると、今度は彼女がどういった経緯で騎士団に入ることになったのかという話に。
「ミレアは本来であれば魔法学園を卒業した後冒険者になるつもりだったそうです」
「え?そうなんですか?」
騎士と冒険者って、言わば正反対だと思うんだが……
「うん、そうみたいだよ?確か、彼女の伯父さんがSランク冒険者のグリードさんで……」
「ちょ!?え!?マジですかそれ!?あれですよね、今は『オリジンの源剣』に雇われてるって言う……」
「え?うん……そのはずだけど」
ユウさん自身はあまりそこは重要だとは思っていなかったようでサラッと流されたことにもかなり驚いた。
その驚きを察してくれたシキさんはユウさんに指摘し、補ってくれえる。
「……ユウ、流石にそこを軽く流すのはどうかと思います。―今ユウが言った通り、ミレアの伯父が、あのグリードさんだという事は確かです。ミレア自身は彼と比較されることをあまり良くは思っていないらしく……」
「……それで、同じ冒険者になって一旗揚げようと?」
「はい。本人は『伯父様だけじゃなく、わたくしを見下していた者全員を見返してやりたかったのです!!』と熱弁していました」
「はぁ……それが、またなんで騎士に?」
「それは……」
シキさんの視線がボケーっとしているユウさんへと移る。
これは、ユウさん……
ユウさんは「……へ?」と間抜けな声を上げて俺とシキさんから浴びせられる視線に戸惑い始める。
「え、えーっと……べ、別に僕は悪いことをしたつもりは無いんだよ?ただ、悪そうな男の人達に囲まれて困ってたように見えたから、騎士として助けてあげた……だけなんだけど」
……要するに颯爽と助けてくれたユウさんに惚れたんだな。
シキさんも微妙な表情で続ける。
「……まあ、それがきっかけとなって冒険者ではなく、第10師団へと入団することになったんです」
それで隊長にまでなれるんだから凄いっちゃあ凄いんだけどね……
~回想終了~
彼女は試験の内容を淡々と告げていく。
「わたくしに勝つ必要はありません。……と言うより勝てる方がいらっしゃるとは思えませんし。ですから、皆さんは私に触れることだけを目標に頑張って下さいまし。そこまでの過程を主に評価させていただきますが……」
何だかどこかで聞いたことのあるセリフのように思える。
何だっけなぁ……
「もし仮にも私に触れることが出来ましたら、筆記の点数が悪くてもその時点で合格にして差し上げますわ!」
……あっ、そうか。
ディールさんと一番最初に模擬戦やった時に言われたセリフだ!
そう言えばユウさんに聴いたことだが、ディールさんは西の魔法学園にも客員教授として席を置いているということだった。
彼女は王立魔法学園の出だと言うし、何かしら接触の機会があったのか、それともただの偶然か……
それにしてもまた大胆なことを言うんだな。
筆記が悪くても合格に、か。
まあそれだけ自分に自信があるという事なんだろうな。
それに、ただの記念受験みたいな、言わば実技を受けさせるまでに落とすべき者は既に足きりで落としている。
そして彼女は一つの隊を預かるだけの実力もある。
とすると、まあそれが自惚れどうこうでないならば彼女の裁量の範囲内か。
俺達と比較的近くにいる女性志願者たちからは
「……流石に1対1でミレアさんに触れるなんて無理だよねぇ」
「……そうそう、人形使いであるミレアさんとそもそも1対1っていう時点でかなり無茶だし」
「……うん。まあその『過程』を見てくれるっていうだけまだ良心的かな」
と消極的なヒソヒソ声が。
以前俺が戦った魔物使いのハゲにも言えたことだが、この世界で1対1と言えば、その中に魔物使いが操る『モンスター』や、人形使いの使う『人形』は数には含まれない。
操る者の力量として見られ、むしろ数が多ければ多い程称賛される。
うーん、まあ思うところが無いではないが……
そんな俺や不安がる彼女達の気持ちが通じたのか、ミレアは小さく上品な笑みを浮かべ、志願者たちに自信満々に告げる。
「安心なさって宜しくってよ?わたくし、騎士にもなっていない皆さん相手に本気を出すなんて無様なマネは致しません。……わたくしが操る人形は3体のみです」
彼女の言葉を聞いて志願者たちからは「おぉー」という声が漏れでる。
確かに2桁の人形を操れるところを3体に抑えてくれるとなると希望が湧かないでは無い(バカにされてる感はあるが)。
……ってかそもそもミレアって志願者に結構知られてるんだね。
彼女は腰に下げているポーチみたいなものから人形を取り出す。
あれは……
鑑定してみると人形専用のアイテムボックスだそうな。
ああやって『〇〇専用』となるとアイテムボックスとは言えレア度はそりゃ下がる。
俺の万能4次元ポケットと違って入手することもできるかもしれない。
もし接触する機会があればどうやって手に入れたか聴いてみたいな。
エフィーが持っていたら便利だろうしね。
彼女が取り出した3体の人形はそれぞれ、俺が着ているものとは違い重厚な鎧を装備したものや、軽い装備をしたものなどバラバラだった。
1体目はゴツイ体にピッタリの大盾のみを持った前衛の騎士。
2体目はオーソドックスに剣と盾を装備したもの。
3体目は最低限の装備だけを携えて、弓を主な武器としている。
3体だけでもかなりの威圧感だ。
あれを1人で操られると確かに1対1と言えども厳しい。
……まっ、俺はあんなのを50体相手にやってたから一般論に留まるんだけどね。
「では試験を始めます。―一人目の……クロアーデさん」
「は、はい!!」
ミレアに呼ばれた志願者が段上に。
志願者は訓練用のものではあるが好きな武器を選び、それで戦う様子。
一人目の子が選んだのは2本の剣。
見た感じ彼女の背丈はそう高くは無い。
小回りや手数で勝負するのかな?
補助役の騎士がミレアと志願者の間―中央に立ち、審判を務める。
ミレアはそれを見て人形たちに手を伸ばす。
恐らくディールさんやエフィーのように糸を繋げたのだろう、だがディールさんのそれとは異なりちゃんと『糸がある』と肉眼で認識できるほどの太さをしている。
『糸』だということに違いは無いがそんな細かいところでもディールさんの凄さと言うのが改めて実感できる。
「では双方ともよろしいですね……始め!!」
「てやぁ!!」
合図と共に駆け出す女の子。
「スタートダッシュは良し、ですわね。……ですが」
ミレアは表情を崩さない。
双剣を振ってきた女の子に冷静に対処すべく剣と盾を持った人形を走らせる。
片方は盾で、もう一方は剣で打ち合いにさせて防いでる。
「くっ!!」
「その子ばかりに気を取られていてはダメですってよ!」
1体の人形相手に苦戦を強いられている女の子に更なる攻撃をと、弓使いの人形が彼女に矢をどんどん放つ。
その正確さは目を見張るものがあり、女の子と今打ち合っている人形は素通りして彼女だけに襲い掛かる。
それを何とか防ごうと2つの剣を走らせ撃ち落とそうとするが、その隙を突かれて大盾を持った人形が突進。
「キャァ!!」
その直撃を受けた彼女は場外へと吹き飛ばされる。
人形とは言ってもあの人形は軽さなどとは程遠く、威力も凄みも相当なものだ。
華奢なあの子はひとたまりも無かっただろう。
「ふぅ……攻撃に適切に判断できる能力はありそうですがもう少し基礎をしっかりとした方がよろしくってよ?……まあ今後の期待を込めて合格、という事にしておきましょう―では次!!」
ミレアは志願者の筆記の試験結果と見合わせて合格を告げる。
告げられた方はと言うと吹き飛ばされたダメージからか、直ぐには反応できず地面に倒れたままだった。
……3体だけでもやはり強い。
1つの隊を預かるだけのことはある。
その後もどんどん女性側の試験は進められていった。
合否が告げられて悲しみ泣きだすものや、その嬉しさのあまりかえって涙を流すものもいたが共通して言えることは誰一人としてミレアが告げたことを破る者―つまり彼女に触れる者はいない、ということだ。
どの武器を使っても、どのような戦術をとっても3体の人形の前にそれらはあっ気なく敗れ去り、そこで試験が終わる。
まだレンの番は来ていないとは言え、ここまで一方的なものになるとは……
そうして志願者の半分ほどが終わりを迎えようとした時、突如として試験会場の扉が開く。
誰もが入り口へと顔を向ける中、ミレアはそこに姿を現した人物を見て一時的にではあるが手を止めた。
「あら……アルセスさん、ようやくいらしたのですか?」
「うん。試験に用意してた訓練用の剣が壊れちゃったから新しいの探してた。―これ」
と言って背中に背負っている、人ほどの背丈は有ろうかという巨大な大剣を指し表れたのは、まだ幼女と呼んでも差し支えない程あどけない女の子だった。
……あの大剣、あの子よりも大きいんじゃないか?
どうやって抜刀すんだろう……
私は別に回し者ではありませんのでご安心を(笑)。




