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どうも。

「……す、すいません、少々想定とは異なったことが起こりまして、取り乱しました」

「ハッハッハ、シキのあんな様子を見られるのは稀だな」


ウォーレイさんは笑っているが直ぐに表情を引き締め直し、シキさんの肩に手を置き小声で告げる。

……これは俺達に聞かせられないこと、なのかな?

二人に気を遣わせないよう、こっちはレンと二人で話しておくことにする。







「……シキ、やっぱり疲れているんだろう?」

「……いえ、大丈夫です」

「ユウがいない今が踏ん張りどころだというのは私も分かっている。でも一番疲労が溜まっているのは誰がどう見てもお前だ、シキ」

「そ、そんなことは!!」

「ユウを最後まで守ってディール氏のところまで送り届けた―それだけでもシキは十分に良くやったのに、帰って早々仕事をしようなんてするな。ユウのことだけじゃなく、皆お前のことも心配しているぞ?」

「……そう、なんですか?」

「ああ……お前が仕事をしてくれるのは正直助かるが、それでお前に何かあれば何の意味も無い―いや、むしろ状況は悪化するな」

「……ウォーレイさん」

「なに、心配するな。普段はちゃらんぽらんな私だが、多少なりとも仕事はできるつもりだ。お前の判断が要るようなものは難しいが、事務の大半はどの隊長がやっても大差ない。だから後で私に回せ」

「で、ですが!!」

「気にするようならそうだな……あれだ、ユウが帰ってきて普通に仕事できる位になったら、その時サボらせてくれ。それでいい」

「ウォーレイさん……もう、いつも普通に仕事して下さい」

「ハッハッハ!まあそうだな、それでこそシキだ。じゃあそうだな……どうだい、これから一緒にデートでも……」

「はぁ……もう結構です」

「ふぅ、いつもいつも、シキはつれないな」

「……気遣い、ありがとうございます、ウォーレイさん」

「ふっ、なに、気にするな」







む?どうやら終わったようだ。

俺はと言うとレンに、赤い帽子を被った配管工の髭のおじさんが、何度も何度も攫われる桃のお姫様を助けに行くというストーリーを聞かせてやっていた。


勿論具体的な名前などは出さず、客観的に見たありのままを話しただけだ。


するとレンは興味の方向がいらんところへと向かい


「ねえねえお兄ちゃん、どうしてそのお姫様は何度も攫われちゃうの?一回攫われたら次に備えて何か対策を練ったりしないのかな?あと、どうして助けに行くのが王子様とか騎士さんとかじゃなくて、えーっと、配管工のおじさん? なの?」


とごく真っ当な質問を受けてしまった。

こういうドキッとすることを聞かれると大人ってどう答えればいいか迷うよね……


とりあえず俺は


「攫われフェチなお姫様もいるかもしれんだろ?後、配管工のおじさんは裏で王子様や騎士を脅して暗躍しているのかもしれん。実は最終的な黒幕はおじさん自身ということももしかすれば……」


と夢の欠片もない適当なことを教えておいた。


自分で言っておいてなんだが攫われフェチのお姫様なんて、薄い本でもない限り流石に無いかもしれんが……

まあ断定はしていないからな。


こういう解釈もアリだという事で一つ。

レンも


「ふ~ん、そうなんだね!」


と何とか納得しれくれたので良しとしよう。



「マーシュ、レン、すまなかったな放っておいて」


ウォーレイさんがシキさんを連れて入口より戻ってくる。


「いや、気にするな。それで、そっちは?」

「ああ、紹介の途中だったな。―こっちはシキ。3番隊隊長を務めているとても優秀な人物だ」

「……紹介に預かりました、3番隊隊長をしているシキです。よろしくお願いします」


彼女から放たれる視線が少々微妙なものなのは気のせいだろうか。

少し嬉しいような、それでいてちょっと怒っているような……


俺のこの姿のせいじゃないよね?



「ああ、俺はマーシュ。マーシュ・マッケローだ」

「ボクはレン!ヨウ・スイレンだよ、シキお姉ちゃん!!」

「はい、お二人とも、よろしくお願いします」

「ふん……そうだな」


ウォーレイさんは俺達に挨拶するシキさんを眺めて腕を組み、ポリポリと頭を掻く。


「シキ、二人を任せてもいいか?」


そしてどういうわけか、いきなりシキさんにそう告げる。


「えーっと……はい?」


彼女はウォーレイさんの意図が分からず、上ずった声で聴き返している。

まあそりゃ突然だしね。


「本来なら二人に明日の試験会場を案内しようと思っていたんだが、それはお前に任せるよ」

「……案内……それだけ、なんですか?」

「ああ、それだけだ」

「それなら別に私では無くても……」

「いいや、お前に頼みたいんだ。頼んでもいいか?」

「ウォーレイさん……」


うーん、どうやらよく分からんがウォーレイさんはシキさんを俺達に任せたいご様子。

早いことシキさんと話せる機会ができるのはこちらとしても有り難いことなので、彼女を援護することに。


「どうやらウォーレイは忙しいようだ、案内頼めるか?」

「え!?え、えーっと……」

「シキお姉ちゃん、お願い!!」


レンからの援護射撃も受けることができた。

こういう細かなところはやはり気が利くな。


「わ、分かり、ました。私が案内させていただきます」


どうやら折れてくれたようで、それを聞いてウォーレイさんも満足そう。

ふむ、やはりこれで良かったようだな。


「そうか、頼むぞ。―ああ、後、マーシュ」

「ん?」


ウォーレイさんはいきなり俺の方に腕を回して耳打ちする。

……これで俺が鎧姿じゃなかったら肌の密着に焦るところだぞ。


「……できるだけゆっくり案内されてくれ。何なら質問攻めにしてやっても構わない。―アイツは多少体や気を休める時間を持った方が良い」


……成程、そういうことか。


「……まあ、質問攻めにするかどうかは分からないが、俺も精神的に疲れているからな、ゆったりさせてもらうよ」

「……そうか、それは助かる」


そうして回していた腕を戻し、その際


「私は確信めいたものを持っているが一応―二人が第10師団に入ることを楽しみに待っている、マーシュ、レン」


と言われて俺達は送り出された。

先程と同様、今度はシキさんが先導してくれるので俺とレンはそれに従いついて行く。




「ふぅ……行った、か。―さて、シキの部下に仕事を回してもらいにでも行くか」








「…………」


カツカツカツカツと規則正しく足音だけが響く。


ウォーレイさんの部屋から出て未だシキさんは言葉を発しない。

まあ、不用意にペラペラと話しかけられても困るがこちらはこちらで戸惑う。


何一つ話さないとなると、本当にシキさんがカイトだと認識してくれているのかどうか不安になってくる。


面識があるレンを連れている以上流石に大丈夫だとは思うが……


廊下ではあるが、周りに人がいないことを『索敵』で確認したあと、俺はボリュームを抑えて尋ねてみる。


「……あの、シキ、さん?」

「もう!!」

「え!?」


ビ、ビックリした……

シキさんがいきなり振り返って俺を軽く睨み付ける。


「タニモトさん、何なんですか、その格好は!!ふざけてるんですか!?」


俺の言葉を引き金にして、シキさんは興奮した様子に。

だが同じく声は抑えて一息に捲し立ててきた。


「い、いや、これは別にふざけている訳では……」

「ふざけてない人が頭から角が生えた兜なんか被るんですか!?タニモトさんのところの常識では甲冑に前掛けが付いているものを着けて現れるんですか!?」


これは、一応ユウさんのお下がりなんだが……


「……おっしゃりたいことは分かるんですが、そんなに興奮されては……」

「大丈夫です!!周りに人がいないことを能力で確認済みですから!!」


そう言ってシキさんはスカート状になっている鎧の下の衣装に手を入れ、何かの模様が描かれている白い紙を取り出して見せつける。


彼女を鑑定した結果と合わせると……


「陰陽術、ですか」

「はい!!そう言う事です!!」


シキさん自身、狐人と言うことも有り、陰陽術と言うのは確かに似合っている。

恐らく式神か何かの類か……


とは言え、俺は元の世界でそう言った知識を得ているからまだついて行けるものの、レンは大丈夫だろうか。


そう思って視線を逸らそうとすると……


「……タニモトさん、聴いてますか?」


シキさんは俺が不真面目だと思ったのか、すぐさまジト目で俺に注意してくる。

えっ、ちょっと怖い……


「はい、勿論。ですがその、一応ディールさんからもこの格好はお許しを頂いている訳でして……」


むしろ修行のためだと推奨すらされているともいえる。

その情報を出すと、シキさんはギョッとした顔をして


「そ、そう、ですね。そもそもディールさんがおかしいと思った格好でタニモトさんを行かせるわけ、無いですしね……すいません、でした。単に私が勝手に動揺しただけなのに、それをタニモトさんに転嫁しようなんて……」


素直にシキさんは自分の非を認めて謝罪する。

……それが少々過剰だとも思える位。


……うーん、ウォーレイさんが気を利かせようとするのも分かる。

シキさん、少し気負い過ぎと言うか、何と言うか……


「そこまで気にする必要は無いですって。今は無事再会できただけで良しとしておきましょう。ね?」

「うん、そうだよ、シキお姉ちゃん」

「タニモトさん、レンさん……はい、ありがとうございます」


少し恥ずかしそうに彼女が小さく微笑むのを見て、俺とレンは視線を合わせて同じく嬉しそうに微笑みあった……






その後、移動しながら互いに色々と報告し合った。


彼女は2人組がウォーレイさんの部屋へと向かったと聞いて―つまりは俺達が来たのだと推測して尋ねてくれたのだという。


……まあその推測は当たってはいたが、俺が鎧姿だというのは本人の言った通り想定して居なかったようだが。


今第10師団がどういう状況にあるのかは先程ウォーレイさんから聴いたのでそこはすっ飛ばし、大きな問題となること―つまり今回第10師団や騎士団長、更にそれを護衛していた第1師団を襲った者達の調査と、Sランク冒険者についての2点を聴いた。


後者については目新しい情報を得ることはできなかったそうだが、前者は進展があったそうだ。


王都に戻ったフォオル―つまりは現騎士団長がすぐさま残っていた師団、それに七大クランを筆頭とした冒険者達に討伐を依頼し、それら全てを率いて残党を征伐。


そして調査を開始すると、やはりディールさんの睨んだ通り襲ってきた集団が宗教団体として知られる『黒法教』であること、そしてその『黒法教』が七大クランの一角を担う『シャドウの闇血』との繋がりが疑われることを調べ上げた。


それだけを聞くと行動の迅速さも含めて、流石騎士の長であり、尚且つディールさんやユウさんと師を同じくするだけある―そう感心していたのだが、シキさんはあまり快くは思っていない様子。


まあ何となく気持ちはわからんでもないけどね……



その報告を終え、コチラがディールさんから伺っていることをも含めてシキさんに伝える。


「そうですか……」


ウォーレイさんから頼まれた『ゆっくり・時間をかけて』という事も想定して丁寧に説明したのだが、第10師団の庁舎内等の案内も共にシキさんは迅速に説明してくれてしまった。


くっ、仕事ができる女め!羨ましい!!


……まあその分歩幅・速度を落としてゆったりと回らせてもらったが。


シキさんは特に何かを尋ねるでもなくただ静かに俺達の話に耳を傾けた後、切り替えて明日の話をしてくれた。



「ところで、明日の任官試験ですが、実技の内容が決まりました」

「ほう……」

「女性騎士志願の方―つまりレンさんは試験官との一騎打ち。試験官は12番隊隊長のミレアです」

「12番隊隊長、ですか」

「へ~……1対1でいいんだ……」


俺とレンの関心の対象は異なっていたようだ。

隊長格が相手という事が俺には気になったのだが、レンは余裕の様子。


まあレンに1対1で勝てる奴なんてさっきのフィオム王子の際の演技じゃないが、下界ではそうそういないと思う。

本人が余裕なら下手に注意を促すのも逆効果になるかもしれないし、ここはレンを信じて任せておこう。


「それで、私の方は?」

「はい。男性の騎士はタニモトさんも合わせて9人受験するようですが、4人一組で臨時のパーティーを組んで試験官1人と対戦に。試験官はアル―4番隊隊長のアルセスです」

「また隊長……」

「良かったね、お兄ちゃん!!4人一組ならだいぶ楽だよ?」


またもやレンと俺との間に関心対象の齟齬があるようだが、今回はそっちは気にしないようにしていた……


だって9人で4人一組だよ!?

一人余るよね!?


もうその情報聴いた瞬間から嫌な予感しかしないんだけど……

一応一縷の望みを賭けて、シキさんに確認を取ってみる。


「……余った一人はどうするんですか?」

「それは……勿論あの子と1対1になるかと」


無慈悲なる宣告。

もうなんか明日の想像がうっすらと出来てきた……



「レンさんの相手である『ミレア』は兎も角、タニモトさんが戦うことになる『アルセス』―あの子は油断しないで下さい。あの子は幼いからと言って気を抜くと……試験でも本当に命に関わることになります」

「…………」


マジか……

俺自身のこともまあ気にはなるが、レンの相手は油断しても良いんだ……




そうして、シキさんから身が引き締まるお話を頂いた後、外が暗くなる位まで案内で時間を引っ張り、俺達は宿をとって明日の任官試験に備えることにした……

今迄で一番子供にされてドキッとした質問は「どうしてベンチで一人で寂しそうに座っているの?」でした……ドキッと言うよりもうグサッ、ですね……

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