表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/189

ここが王都か。

王都リュールクス。

リューミラル王国の首都。

赤煉瓦造りの建物が凡そ8割を占める。

王都とは言いながらも道幅は意外と広くは無く、その分距離で入り組んだ作りにして主に敵の侵入時、殊に進軍速度の低下に向けての備えの1つとしている。


他にも堅牢な城壁やディールさん製作(知る者は少ないだろうが)の水晶制度の徹底等守りに特化したこの都市は、幾度となく他国や魔族の進行を防ぎ切った。


また、他国には無い、『騎士』の存在も見逃せないだろう。

治安の維持や防衛、他国への使者等、他には見ない多様な役割をこなすエリート中のエリート(という認識らしいけど実質が伴っているかは俺は保証しかねるがね)がこの王都には常に駐在している。


閑話休題。


街は7つの区画に分けられていて、商人達が主に活動している商業区、冒険者達の用に供するために造られた冒険者区、主にはここの住人が使うことを想定したものだが、まあ色んな奴が住むための住居区、貴族さん方以外は恐らく一生に一度も訪れる機会は無いだろう貴族街(なぜかここだけは『区』ではなく『街』らしい)、騎士が修練や寝泊り、会議等彼等の活動に用いている騎士団区、そして特定の用途を定めず、幅広く解放されている総合区(まあバザー・フリマみたいな感じ)。

最後の1つは……まああまり関わらない方が良いのかもしれないところだ、今はいいだろう。


俺とレンが現在いるのは総合区。


狭いなりにもあちこちに露店がひしめくこの区画にレンは目を丸くしながら興奮気味だ。


「うわ~~~~!!」


レンにとって人がこんなに集まっている光景と言うのは珍しいのだろうなぁ。

目がキラキラしてきた。


俺も普段は人混みは積極的に……いやむしろ何か重要な理由が無ければ行かないし…………インドアで悪かったな。


ちなみに今は侵入する際にも、更に言えばここに来るまでずっと装着していたトレーニング用の鎧を着ているので動き辛さはあるが、それは別に人と接触して云々と言うわけでは無くそもそもの鎧の性能だから特に不平不満は無い(顔もキチンと兜を装着している)。


レンにも楽しんでもらえているようだし、予定より早く着いたために生まれたこの時間を使って俺も少しゆったりしている。



「お兄ちゃん、あっち!!あっち行こう!!」

「レン、あんまり急がない方が……はぐれるぞ?」


元の世界と比較するとそれ程の人混みでもないしパーティーを組んでもいる以上、凡そお互いが迷子になるとかは考え辛いが、それでも用心するに越したことは無い。


こういう風に言ったらまた子ども扱いしているようにとられるかもしれないなぁ……

でも、今回のは特にそれを意識して言ったわけじゃない。


王都に着くまでの道程、レンから告白された内容についてを考えると、少し接し方を思い直した方が良いかなと考えた。

それが直ぐに反映されるかと言ったら今のように意識せずに言ってしまう辺り、まだレンのことを妹のように扱っていた自分が抜けていないというのは……まあ仕方ない。


だって本当にさっきのことだし。


……まあおいおいだな、おいおい。



思考の長旅から戻ってきて視線を落とすと、レンが不思議そうな顔をして俺を見つめながら手を差し出していた。


……?


俺はその意図がよく分からず、申しわけないがレンにどういった趣旨なのかを尋ねる。


「……スマン、レン、これは……」


尋ねる俺を余計に不思議そうに見つめてくるレン。

……そこまでおかしなことを聞いたか?


「え?だって……はぐれちゃ駄目なんでしょ?じゃあ手、繋ご、お兄ちゃん!」

「……あ、ああ、そういうことか!―そうだな、分かった」


差し出されていた左手を小手を着けている右手で握る。

ガントレットから握ったレンの手は体温を感じることはあまりできなかったが、俺よりも一回りも小さいその手はしっかりと自分よりも一回り大きな俺の手を握り返す。


その力強さはガントレット越しでもしかと感じとることが出来た。


レンは満足そうに歩きだし、俺もその後に続く。

―と、それを確認すると、今度は俺を引っ張って走り出してしまう。


「お兄ちゃん、早く早く!!」

「おい、ちょっ―いきなり走ると危ないだろ」

「えへへ!大丈夫!だってちゃんと手、繋いでるもん!!」


ったく……仕方ないな……



繋いだ手は離れない。

強く、強く握られた手が俺達をどこまでも導いてくれる。


どこまでも、どこまでも…………





―完―





…………となれば今日はもう騎士任官試験のことも考えずゆっくりとレンと二人で王都を回り、楽しめたのだろうが、そうは問屋が卸さないと言ったふうに世界は動く。




「くそぉっ!!」



誰かが大声で悪態をつく。

この人混みの中聞えてくる位だ、声の主は今日何か良くないことでもあったのだろう。


例えば大金の入った財布を落としてしまったとか、例えば博打で盛大にすってしまったとか、例えば「絶対幸せにして見せる」と誓った相手に騙されて最初からずっと貢がされていたことを知らされたとか……


うん、どれもお金絡みだね。


必ずしもお金が原因とまでは言えないかもしれないが、そう言う奴には関わらない方が良いと言う俺の一級危機管理建築士の資格からなるセンサーがビンビン反応しているのだ。


あらやだ、奥様、「ビンビン」だなんてイヤらしいこと!

ホホホ、最近旦那と随分ご無沙汰で…………



……うん、どうでもいいね、ゴメン。


「このっ、着いて来るな!!―済まない、どいてくれ!!」

「ちょ、ちょっと―」

「痛っ、気をつけやがれ!!」

「―!!」



何やらフードを深くかぶった人物が人混みをかき分けながら進んでいる。

その後ろからは青髪の騎士とメイド服を着た女性何人かが。


ふーむ、どうやらメイド喫茶で散々食い散らかした挙句支払いを渋ったために払うよう迫られ、追いかけられているタイプだったか。


これはあれだな、関わったら何の関係も無いのに俺が支払わされる流れになるな。

今はお金の殆どは何かあった時ディールさんに迷惑をかけないようシア達に預けている(管理は多分エフィーがしてるのかな?)。


だから仮に俺の想像通りだとすると……


俺が払う流れになる→俺、そこまでお金ない→何故か払えない俺が悪いことに→騎士任官試験云々色々と台無しに



……うん、俺は確かに異世界から来たわけだがそんなマンガやアニメみたいな主人公体質じゃないことは自分が一番よく分かっている。


だが、だからと言って油断していると呑まれるのがこの異世界。


それに何より、俺の危機管理ソムリエとしての嗅覚が「……こいつはぁ、プンプン臭うぜ、旦那」と言っている。


彼の信玄公も「関わらざること風の如し」と逃げるのなら速い方が良いとおっしゃったそうなおっしゃっていないそうな……



……ふむ、脳内おれが考え出したとは言え、権威付けとしてはどっちもちょっと微妙だな。


まあこういう直感も時には大事だってことだ。



「レン、スマン、ちょっとこっから逃げるぞ」

「え?う、うん」


俺は繋いだままのレンの手を今度は引っ張り返して来た道を戻る。




「どけ!!どいてくれ!!」

「きゃ、きゃ!!」

「ちょっと、いきなり押すなよ!!」

「すまない、文句は後にしてもらえるか!?」


折角俺の方からこの場を去ろうと言うのに、フードの人物達はどんどん集団を掻い潜ったり、時には押してでもコチラの方に近づいて来る。

あっちからしたら単に逃げているだけのつもりなのかもしれないが、俺からしたら「近づいて来る」と言う表現に尽きる。


……何だろう、運命と言う死神に足首でも掴まれたような錯覚に陥りそうだ。


くそっ、うちの死神ジョーカーを見習ってほしいものだ。

今頃孤島で……





~孤島~


「!!?」

「ん?どうしたでありますか、ジョーカー?」

「―!!」

「コラッ、言い訳はいいであります!!そんなことより早く仕上げるであります!!でないと間に合わないでありますよ、歓迎会の出し物!!」

「…………」

「ほらっ、続きをやるであります!!じゃあ……『……フフ、フハハハハハ!!ようやく、ようやく手に入れたわ!!あの人の、あの人の3日間洗ってないパンツを!!』から行くであります!」

「……―」



~戻って王都~



「くそっ、折角……―ん?」

「へ?」



逃げている最中、どれだけ距離が開いているかの確認のため振り返ると……フードの人物と視線が合ってしまった。



「た、助けてくれそこの御人!!追われてるんだ!!」

「えっ、ちょっ、し、知らないよぉ!!」

「レン、一々律儀に答えんでいい!!兎に角走れ!!」

「アイツ等、しつこいんだ!!頼む、助けてくれ!!」

「しつこいって、理由も無いのにしつこく追いかけてくる人間なんかいるか!!何か心当たりあんだろ!?」

「ぐっ、そ、それは……」


言葉を交わしながら、追いかけっこのような形で俺達はひたすら走る。

理由如何では助けるのも吝かでは無いがそれでも、俺一人ならまだしも、今この場にはレンも居てしまう。


何か、レンの安全を確保しつつ、後ろの奴から事情を聴く方法は……


「お、お兄ちゃん!!」

「ん?どうした、レン?」

「ま、前!!」

「前?――うぉっ!」


後ろの奴との言葉のやりとり、それに考え事をしていたこと、更にはこの王都に不慣れと言う事情が相俟って、どうやら俺は知らずの内に行き止まりへと逃げ込んでしまったようだ。


多分住居区の路地裏辺りだと思う。


目の前には煉瓦の高い壁が。


「はぁ、はぁ、……―鬼ごっこはどうやらここまでのようですね」

「大人しくお戻りください」

「くっ、私は戻らん!!私みたいな人間を追いかける兵を割く余裕があるのならもっと他にすることが有るだろう!!」

「我儘を言わないでいただきたい、さあ」

「くっ、い、嫌だ!!」



追い付いてきた青髪の騎士とメイド服女性数名がフードに向かって戻るよう説得を試みる。

フードは何か正論染みたことを投げかけてみるも、「我儘」と一蹴されている。


俺達は何が何やら。


だがここで何もせずコイツ等に話の主導権を握らせておくのは得策じゃない。

いつ、話の矛先を俺達に向けられ、「君達が払ってくれるのかい?」なんてことになるとも限らない。

金は払えないが、出来るだけ穏当な方向に持って行けるようここは俺が……



俺はレンに


「……ちょっと待ってろ―安心しな、直ぐに終わるさ」


と囁いてから、繋いでいなかった左手でレンの頭をクシャクシャと乱暴に撫でる。


レンは少々複雑そうにしながらも俺が離した後の頭を自分で撫で直して


「……うん」


と送り出してくれた。


俺はそのままフード達の間に入る。


「まあ待て」

「……え?」

「……君は?」


フードと青髪の騎士が第3者の介入にリアクションを示す。


「俺が誰かはまあこの際いいじゃねぇか。今この場で問題なのはこのフードが何らかの問題起こして逃げて、今に至ること、だろ?」


親指でフードを差し、状況を確認する。


今俺は『谷本海翔』ではなく『マーシュ・マッケロー』としてこの王都にいる。

事前にディールさんからどういった口調の人物かと言うのは聴き及んでいるので兎に角ボロを出さない程度に振る舞う。


「……確かに君が言う事はその通りだとは思うが……」


青髪の騎士は振り返ってメイド服たちに確認する。

彼女達も頷いているので肯定という事でいいだろう。


……良く見るとあの騎士、何だっけな……何か引っかかるんだが……

まあいいや、今はコイツ等との交渉に集中だ。


「じゃあまあコイツが悪いってのはそうなんだろうけどさ、それでもそんな奴一人にこんな大人数ってのもどうよ?」

「な!?き、貴様、『そんな奴』とは何たる言い草!!」


メイド服の女性の一人がご立腹そうに俺に食いついてくる。

まあ金払わない奴相手に正々堂々しろとか俺だって言わないし、彼女達の言い分も分かる。

そうだよね、彼女達にとっては自分達の生活費にも繋がりかねないものだし。



だがここで引き下がればそのお鉢が俺に回ってくるリスクが生まれる。

自意識過剰と言われればそうなのかもしれないが、目の前にある危険の芽は出来る限り潰すに限る。


こういう草の根活動みたいなのが後々地味に効いてくることになるのだ。




「言い方が悪かったのならコイツに適した呼び方ってもんを……」


俺は先のメイドさんの売り言葉に買い言葉で、フードの顔が見えるよう一気にガバッとフードを下げてその面を拝んでやる。


「あっ……」


おおぅ……これは……



そこにあったのは、凡そ人間の顔とは言い難いような……顔中のあちこちが腫れ上がって、焼きただれたようなところさえ窺える顔とは名状しがたい何かだった。

ただでさえそのふっくらとした体型にインパクトを増大させている。


逆に顎は何故か陥没したかのように凹んでいて、もう顔のバランス一切保ててない。

申し訳程度に付いている金色の髪も、これらのパーツを見た後では最早良い印象など全く抱けない。



うわぁ…………これは酷い。



良かったぁ、これ兜被ってなかったら能面の異名を持つ俺でも多分顔に出てたわ。


俺はとりあえずフードをかぶせ直して、今のことは無かったことに。

そして彼女達に向き直る……


「いや、ちょっと待て!!何故被せ直したのだ!!」


フードの人物は今度は自ら被っていたフードを脱ぐ。


「ん?いや、特に意味は無いが……何かゴメン」

「あからさまに悪意しかないだろ!?お前、絶対ワザとだ!!」

「いや、本当だって。俺、嘘つかないことで村で有名だったもん。―あ、ちなみに今の嘘ね」

「ちょ!?コラッ!!」

「そうかっかしない。あんまり怒ると酷い顔がもっと酷く……」

「おい!!酷いって言っちゃってるじゃん!!」

「だから、今のも嘘だって」

「え?ってことは……」

「って信じるでしょ?」

「もういいわ!!それより、私の顔をちゃんと見て話せ!!さあ!!」


はぁ……いじると面白い奴だけど、多分に面倒くさい奴だな、コイツ……

誰かコイツの相手変わってくれないかな……



なんてことを考えていると、本当にメイド服の女の子が俺達の下に。

そして俺とフードの間に割って入り、俺を鎧越しにキッと睨み付ける。




「さっきから聴いていれば無礼なことばかりを……もう私達は我慢なりません、王子」

「え?あ、いや、私は気にしていないのだが……むしろ……久しぶりに楽しかったと言うか……」


……へ?


「いいえ、見たところ田舎から出てきた騎士志願の者のようです、こういう世間知らずの輩には王子のことをしっかりと知らしめなければ……」



何やら非常に良ろしくない予感が……


メイドの女の子が腰に手をあてて括目しろとでも言いたげに指を立てて俺に解説しだす。


「いいですか、このお方は、現在行方不明と言われているシオン様も含めた3人の王位継承権の持ち主のお一人で、第3王女であられるレド様の腹違いの兄上様に当る――つまり、第2王子であらせられるフィオム・レイ・リューミラル様なのです!!」





王子…………はいはい、王子ね、勿論知ってます、知ってますとも。

あれですよねあれ。

俺が考えていた金を払わないなんてちんけな客風情じゃなくて……とっても偉い、高貴なお方ですよね!!












そっちかぁーーーーーーーーーーーーーーー!!

とある方の情報と今回のお話を合わせますと、とある矛盾?みたいな感じのことが浮かび上がってきます(王位継承権持ってる奴少なくね?ってのは……勘弁して下さい)。


この文自体にも深読みすればヒントは一応ありますが今すぐに解かなければいけないような謎ではありませんし、書いといてなんですがあまり囚われず、気軽に読んでいただければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ