二人旅
皆さん、お待たせしました(?)。
ようやくゴタゴタが片付き、いとやんごとなきお方からの予想外のお褒めの言葉もいただけて調子に乗って独り打ち上げを敢行して帰ってきた歩谷健介です。
取りあえず間が3週間~4週間程空き、カイト君のお話となると実質1月以上は空いていることになるのであまり覚えていらっしゃらない方も少なくないかと思います。
まあ簡単なおさらいをしておきます(いらない方は即本編に進んでいただければ)。
~第5章開始前のおさらい~
カイト君、ディールさんと取引
ディ:「ユウの代わりに王都でヨミ君(Sランク冒険者)の情報を集めてくれないかい?」
↓
カイト君、シア達の面倒を見てもらう事等を条件に承諾
レン:「え?お兄ちゃんについて行くの……ボク?」
↓
シア達は闇市なんかで仲間を増やし、カノンは離れ離れになっていた妹達と再会した後、修行
クレイ:「……うーー……」
↓
カイト君、レン、王都へ(今ここ)
カイト「(……何だか嫌な予感が……変な夢でも見なければいいが……)」
では第5章始まりとなります。
今回は申し訳ありません、少し私のリハビリも兼ねて進行具合はあまり多くは有りません。
本当に進行が遅くて申し訳ないです……
ディールさんの森は案外あっさりと抜けることができ、ブラックドッグに乗りながら教えてもらった方角へと向かうこと約1日。
偶に降りてレンと歩くこともあったが凡そ王都への旅は順調と言えた。
道中モンスターが出ようものなら
「お兄ちゃんとの二人っきりを邪魔しないで!!」
と即座に抹殺されていたので足止めと言えば俺達を乗せて走ってくれているブラックドッグの休息、食事、それに夜の睡眠程度のものだ。
レンも初めての俺との二人旅を楽しんでくれているようで本当に順調である。
「ふんふふ~ん♪お兄ちゃんと二人っきり~、今日の、夜も~、お兄ちゃんが~、狼さんに~、何が、あるかな~、お楽しみ~♪」
……うん、自作歌詞の内容はともかく、楽しんでくれているようだ。
あまりレンと二人でいてやれることも多くは無いから今日は多めに見てツッコまないでいよう。
今はブラックドッグの休息も兼ねてゆっくりと歩いているところである。
レンは降りた後即俺の腕にしがみ付いて来ては離れない。
「えへへへ~」
チラッとその横顔を覗くと幸せそのもののような笑みを浮かべてはその顔を更に腕にくっつけてくる。
少々歩きにくいと言ったら歩きにくいが、まあこんなことでレンが喜んでくれるのなら良しとしよう。
「お兄ちゃん」
「ん、何だ?」
「えへへへ~、何でもない」
「そうか」
こんな何気ない会話でもレンは嬉しそうにしてくれる。
この子のこうした幸せそうな笑顔を見ていると、ディールさんとの取引の結果とはいえ引き受けてよかったなと思える。
レンはそうしてニコニコしながらも何気ない会話を続けてくる。
俺も腕にしがみ付いているレンに歩調を合わせながら、それに応える。
「お兄ちゃん、二人でいるの、楽しいね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃん、空は青くて綺麗だね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃん、明日は晴れかな?そうだといいね」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃん、明日は挙式だね。晴れるといいな」
「ああ、そう……おおおおおおう!?」
危ねぇ……なんか今、とんでもねぇことスルーしてしまう所だった。
「おい、レン、どさくさに紛れて何事実にも無いことを言ってやがる!?」
「(ちっ)……イヤ、ナンデモナイヨ、ナンデモ。キニシナイデ」
「お前今あからさまに舌打ちしたろ!しかもメッチャ棒読み!!何でもないなら俺の目を見て言ってみろ、さあ!!」
その細い肩をガシッと掴む。
そうしてコチラを向かせようとすると頬を赤く染めて今度はこんなことをのたまいやがる。
「お、お兄ちゃん、こんな人気のないところで、大胆だよぉ……」
「あのなぁ……」
深々とため息をついてはまた心中で嘆息する。
今後はしばらくレンとの行動が主となるんだから、こういうことはちゃんと話し合った方が良いか。
折角二人での時間もあることだし。
俺は改めてレンと向き合う。
「レン、お前が俺のことを好きって言ってくれるのは純粋に嬉しいよ。あんまり俺は誰かの好意には慣れてないからな。……でも、さ。お前はまだ11歳だ。お前が俺に思っている『好き』がどんなものか、ご両親であるゴウさんやカリンさんに対するようなものなのか、それとも別のものなのか……もう少し大きくなって考えてからでも俺は良いと思うんだが」
元いた世界と完全に同列に並べて論じることはできないだろうが、それでもやはり「まだ」11歳だという考えが俺の頭の中に浮かんでしまう。
そのまんま俺のことを好きだと言ってくれるのでもまあ良いっちゃあ良いんだが、考える時間って言うのは持ってもらってもダメでは無いだろう。
レンは俺の言葉を聞くと、視線を落とし、俯いてしまう。
……ちょっと、きつく言いすぎただろうか?
でも、大事なことだからこそ、しっかりと言葉にして伝えておかないといけない。
世のお父さん方が恥ずかしがって中々言葉にできない感謝の気持ちを伝えられず、そのまま……なんて事のような悲しい出来事はこの世の中にはあちこちに溢れている。
自分がそうなるつもりはさらさらないが、「もしも」は誰にだって有り得ることだ。
それに備えて……
「お兄ちゃん!!」
「ん、ど、どうした!?」
いきなり勢いよく顔を上げたレンに多少驚かされるも、何か決意めいた表情を浮かべるこの子に、ようやく自分の気持ちが通じたのかと一人で感動に浸っていると……
「お兄ちゃん、女の子は大好きな男の人に胸を揉んでもらうと大きくなるそうです!!」
「お、おうぅ、そうか……」
本当にいきなりのことに面食らって、それ以上の言葉を返せなかった。
何だ突然……
「ボクは、お兄ちゃんが大好きです!!」
「お、おおう、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「「…………」」
二人の間に流れる沈黙。
幾何の時が流れただろうか……
そうして、幾年もの月日を経て……
「って揉んでよ!!」
「何でそうなる!!」
訳が分からん!
俺、何の話してたっけ?
……うん、間違っても胸の話なんて一切してないな。
レンは怒っているそうだが怒りの質はそこまで高くは無いらしい。
可愛らしく頬を膨らませて抗議の意思を示してくる。
「お兄ちゃんが言ったんだよ!?大きくなってからって!!だから慣れない3段論法使ってお兄ちゃんに揉んで大きくしてもらおうと思ったの!!」
「いやそれ胸の話じゃないからね?3段論法自体に問題なかったとしても俺そもそもそんな趣旨で話して無かったと思うんだけど!?」
レンは更に頬を膨らませる。
突くと風船のように空気が抜けて面白そうだが尚も「子ども扱いして!!」と怒られそうなのでそれは止めておくことに。
風船頬をそのままに、レンは今度は俺に真正面から抱き着いて来て、その顔を俺の胸に埋める。
自分から風船をしぼませ、レンは細い腕をギュッと回してか細い声でこう呟く。
「……二人っきりだね」
また何をいきなり……
「まあ……二人っきりっちゃあ二人っきりだが……一応借りてるブラックドッグもいるぞ?」
お腹にレンが抱き着いたままなので、俺は首だけ待ってくれている彼(多分)に向ける。
一応俺達を乗せて走ってくれる仲間のようなものだという前提なので、レンも他のモンスターが出た時以外、彼(恐らく)については気にせずにいる。
だからレンにとってはどういう扱いなのかは正直把握し切れてはいないが、正確に言えば二人っきりでないという事実は告げておいた。
俺の言葉を受けて、レンは憎々しそうに彼(うーん、そうだと思うんだけど)にその視線を向けて何かを訴えかけてからまた、俺の胸に顔を埋めて告げる。
「……お兄ちゃん、二人っきりだね」
「何故言い直した!?だからブラックドッグいるって言ったろが!ほらっ、見ろあそこ!!」
俺がツッコみそのままに指をさしたのだが、先程までは俺達の寸劇を文句を言わず黙って見届けていてくれた彼(もうどっちでもいいわ!)はもうそこにはおらず、来た方向とは逆の方をスタスタと歩き出していやがった。
「おい、この野郎!!テメェ何空気読んでやがる!?そう言うのいらないから!ってかどこの新喜劇からの回し者だお前は!?」
はあぁ……全く。
今度ディールさんにチクッとくからな、テメェ……
戻ってきた野郎(もう容赦しねえぇ)は置いといて、俺の胸に顔を押し付けているレンをゆっくりと引き離すと、レンは何となく察したのか、自分から離れて行き、俺に顔を見られないよう反対の方向を向く。
そして手を後ろで組んでは地面の石ころを蹴飛ばし、ポツポツと何かを語りだした。
「……あのね、ボク……」
俺は急かさず、その更に小さくなったレンの後姿を見守ることにする。
「……ボク、自信、無いんだ……」
自信?
戦いのか?
正直レンの強さは『守護天使+α』を抜いても相当のものだと思うんだが……
まあ客観的にレンがどれ位強いと思われているかと、本人がどういう風に思っているかの認識が食い違うというのは有り得なくもない。
それだったら励ましたり、慰めてやることも……
そんなことを考えていると、レンからは意外な回答が帰ってきた。
「……ボクね、お兄ちゃんへのこの大好きな想いが、この先も続く自信が無いんだ」
「……そう、か」
……レン自身も、やっぱりそういうことを自覚はしていたのか。
レンがもう少し大きくなったら、どこかの妹のように人生相談されたり、エロゲーしたり……はないか。
それでも今目の前にいる、この天使のような女の子から……天使の女の子から「うっわ、兄貴と洗濯物一緒とかマジキモいんですけど!」とか言われたらもう俺のマシュマロメンタル一瞬でぶっ壊れるわ。
まあ、レンが大人になるという事それ自体は別に否定することじゃない。
本人も……ってあれ?
レン自身も今の俺への気持ちがずっとそのままでいる自信が無いんなら……どうしてあんなにグイグイ来るんだ?
「あのさ、レン……」
俺が疑問に思ったことの真相を確かめようと名前を呼ぶ、その際にクルリと振り返ったレンは……
……本当に、「咲く」という表現が正しいと思える位の、そしてちょびっとの恥じらいを交えた、熟れたトマトのように赤みがかった笑顔を浮かべて俺にこう告げた。
「……だって、ボク、今こうしてお兄ちゃんと一緒にいるだけで、もっともっーとお兄ちゃんへの大好きがおっきくなってるんだもん!!えへへへ~」
「…………」
考えていたこととは真逆のことを言われ、言葉を失っている俺にレンは更に言葉を紡ぐ。
「ボクね、大きくなったら大きくなっただけ、お兄ちゃんのことが大好きになってると思うんだ。だから、今のボクの気持ちは、今の内にお兄ちゃんに知っててもらいたいなぁって思って」
「…………そっか」
俺は顔を見られないようにしながらもやっと絞り出したただの相槌と共にレンをしっかりと撫でてやった。
撫でられて満足なのかレンの顔は先ほど以上に綻ぶ。
それで俺の顔を覗き込まれる心配も無くなったので、それ以上は何も言う事はせず、歩き出す。
―ゴウさん、俺達が思っている以上に、レンの成長は早いのかもしれません―
その後、再び歩みを進み始めた俺達は通常よりも半日ほど早く王都であるリュールクスへと辿り着いた。




