Extra:彼のとある日常……
本来なら第5章の始まりか、若しくはユウさんとディールさんとの出会いを描こうと思っていたんですが……私の周りの空気が面倒臭いものでしたのでこのお話を描くことにしました。
うん、反省も後悔もありません!!
学園祭なんて俺は嫌いだ。
学園祭なんて、やりたい奴だけで盛り上がらせとけばいいんだよ。
何で盛り上がるつもりが無い奴まで巻き込むんだ。
協調性云々を説くんなら、そう言った奴等の気持ちも配慮して自主参加制にすればいいんだ。
そうしない辺り、教育という名を借りた、ただの多数派の意見の押し付けだ。
それを覆すための選挙の制度だって形式的には「生徒の自主性を重んじて―」云々かんぬんと言いながらもそのくせ実質は俺みたいな雑魚には変えようのない要件となっている。
何だよ、全校生徒の4分の3以上の賛成って!
1年で既にクラス学年を問わず影以下の存在として扱われている俺にどうやったらそれを満たせるって言うんだよ!?
どうせ結論は俺達弱者が折れなければいけないようになっているのだ。
こうやって学校と言う名の牢獄の中で、俺は社会の汚さや理不尽さを学ばされていくんだ。
……幼馴染が提案したなら、もしかしたらこの要件でも見事成し遂げてしまうかもしれないが……勿論誰かに頼るつもりなんてない。
はぁ……気が重くなる。
重くなったのは気持ちだけではないだろう。
足取りもとても重い。
周りのリア充生徒共はキャッキャウフフと鬱陶しい空気を醸して登校している。
そういうのは余所でやれ、鬱陶しい。
「デュフデュフ、布最氏、今回の首尾はどうでござる?」
「ああ、肝田君、今回の魔法少女リンリンちゃんの変身時に服が破ける仕様のコスプレの作成は順調だよ」
おおう、あそこで学園祭なんてどこ吹く風と、なんの恥ずかしげも無くマニアックな話をこなしているのは『陰キャラ三人集』(俺命名)の肝田と布最君ではないか!
説明しよう!
『陰キャラ三人集』とは、
手芸部筆頭で太っちょ、しかも萌えキャラのコスプレを自作しては着て自撮りをしていることを何の恥ずかしげもなく暴露するというある種の信念めいたものを持つ猛者の『ラスボス布最』
自己紹介で鉄道についてその職に就く人すら「え?何それ、初耳なんだけど」と疑うようなドマニアックな知識を披露してドン引きを食らった痩せメガネの『ダークトレイン鉄美』
そして生徒会にいる姉や小学校3年生の妹達が自分にキツイ態度を取るのは「好意の表れ、つまりツンデレでござる」と断言する校内付き合いたくない顔面選挙(非公式)のNo.3の『ブラックフェイス肝田』
の3人からなる、とても邪悪なる組織である(ちなみに俺はそもそもその選挙対象にすら挙がらないという存在感の無さを遺憾なく発揮している!)!!
彼等とはクラスメイトと言う以外一切の接点は無いが、俺と同じく学園祭には良い思いをしていないだろう。
うん、鉄美君はいないようだが、敵の敵は味方だ、一緒に悪と戦おうではないか、『陰キャラ三人集』の諸君よ!!
そんなバカみたいな一人での思考を繰り広げながらも、嫌がっている生徒に対して学園祭の参加を強制するという素晴らしきかな、我が愛しき学び舎、『神臣学園高等学校』へと辿り着く。
まあ、とは言ってもまだ何をするかすら決まっていない段階だから、実際に学園祭があるのは1月以上先にはなる訳だが……
そうして、気怠い授業を消化しつつも昼休みになり、俺は即座にいつもの癒しの場へと歩を進めた。
……悪いかよ、屋上で独り飯だよ。
この学園の多くはリア充だし、『陰キャラ三人集』ですらも集団を形成しているから屋上なんて使う奴俺以外いないんだよ!
ここかトイレかと言う選択肢なんだからさ、普通はこっち選ぶでしょ!
こっちの方が何か謎の男主人公みたいでいいじゃん!!
クールでミステリアスでそれでいて―
そんな悲しい自己弁護を脳内で繰り返していると、階段を駆け上がってくる音が。
どんどん音は近づいてきて、今にも―
ヤバい!!こんな独り飯してるの誰かに見られるのは色んな意味でヤバい!!
俺は即座に手に持っていた購買で買ったサンドイッチを口に放り込み、立ち入り禁止と書いてあるフェンスの中に。
そして身を屈めて気配を断つ。
「聴いて!カイト!!私、ジュリエットの役に―あれ?カイ、ト……ここにもいない」
勢いよく開けられたドアから顔を出したのは……幼馴染だった。
だからと言って俺が出て行くなんてことは無い。
……いや、むしろ幼馴染だからこそ絶対にバレないようにしなければ。
「……ここにいると思ったのに、どこに行ったんだろう。…………カイトに一番に知らせたかったんだけど……」
ふっふっふ、幼馴染という知り合いであっても俺の完璧な気配遮断には到底太刀打ちできはしないのだ!
ダンボールなど必要ないのだよ、フハハハハハハハ……はは、ははは……ぐすっ。
その後、直ぐに俺がいないと判断したのだろう、ドアを閉めて降りて行ったようだ。
ふぅ、危なかったぜ……
俺は再びそのフェンスを乗り越えて、一息ついた後、自分の教室へと戻って行った。
「……へ?あれ、谷本……君……ってうわ!?」
「…………『3組演劇演目 桃太郎』……『配役』……」
帰ってきて、昼休みなのに、何故か俺以外のクラスメイトが全員そろっていたので、その視線の先にあった黒板の記載事項を読み上げてみる。
え?これ…………昼休み使って、俺無しで決めちゃったの!?
クラス中の皆が帰ってきた俺を見て「うっわぁ、忘れてた!」って顔してる。
これがイジメとかなら被害者面してワンワン泣けば可哀想がってもらえるのだろうが、コイツ等本心から忘れてやがる。
はぁ……まあもう別にいいけど。
取りあえず高校生にもなって演目『桃太郎』って温故知新志してたとしてもどうなの、とか色々とツッコみたいところがある、が……なっ!?なん……だと!?
『陰キャラ三人集』ですら……配役がある、だと!?
おい、肝田!お前の姉妹へ向ける想いはそんなに安いものだったのか!?配役『木』なんかを割り振られただけでお前は尻尾を振って魂を売ったって訳か!?
鉄美、俺は気持ち悪いながらもお前のその鉄道へかける熱い想いに心の百分の一位は動かされかけていたんだぞ!?なのに、なのに……『カラス』なんて、生物に心変わりしやがって!
そして挙句の果てには……布最!!お前だけは……お前だけは、俺とタメ張ってやり合える、いつか心の友にもなれるやも、なんて思ってたのに、そんな俺がバカだった!!お前が手塩にかけて作ったコスプレ衣装達は泣いてるぞ!?この野郎……何が、『波』だよ……チキショウ……
『木』なんて典型だが、「え~、学校の演劇で『木』なんてしてたの?ははっ、影うっすーい!!」とか言われるのなんてな、まだ全然マシな方なんだよ!!役が振られてるじゃねえか!!
本当に影が無い奴はな…………そもそも配役すら振られねえんだよーーーーーー!!
俺の本気を見たか!!…………ぐすっ…………
「あの、さ、谷本君、俺の、『桃太郎』、譲ろう、か?俺、別に自分がしたい!って言ってなったわけじゃないし、それに大道具とかもやってみたいな、って思ってたからさ!」
ああ、もう、渡辺、それ以上は止めろ!!
どれだけ俺の心を抉れば気が済むんだ!!
それにお前の株価がストップ高更新しちゃう以外意味ねえんだよ!!
ほら見ろ、「あぁ、渡辺君、優しい……」って女子共がうっとりした目でお前を見てるじゃねえか!!
「ああ、うん、大丈夫。気にしてないから。皆で決めたんならそれでいいと思うよ?」
「そ、そう?本当ゴメンね」
止めてくれ、謝らないでくれ……
「……うん、本当に大丈夫。気にしてないから」
その後、渡辺の温情で、憐みの視線を受けながらも『大道具や小道具さん達の手伝い』という居ても居なくてもどっちでもいいような位置にいれられた。
俺は勢いそのままに、学園祭までの準備期間、俺は本当に何もしていない。
他の奴等だけで纏まって今風の『桃太郎』を作り上げて行った。
……それはいいんだけど、布最、「ザブンザブン」じゃねえよ、お前だけそのシーン浮いてんだよ!
鉄美は何で『カラス』滅茶苦茶仕上げてきてんだよ、鉄道以外のことに凝ってんじゃねえ!
肝田は髪と体毛で枝葉表現しなくていいから!!そんなチリチリな『木』、『桃太郎』に合わねえよ!!
とまあ、そんなイレギュラーは有りつつも、1年3組の『桃太郎』は終幕を迎える。
イケメン渡辺の実力が遺憾なく発揮され、高校生が演じる『桃太郎』にも関わらず、大盛況であった。
そして、他の組の演劇も無難に過ぎて行き、最後の4組の演劇……『ロミオとジュリエット』……
幼馴染は誰もかれもの視線全てを独り占めしていた。
あそこまで舞台映えする人と言うのも珍しいだろう。
「綺麗……」
「あの子誰?」
「モデルか女優さん?」
「神臣レベル高ぇ~~」
周りにいた観客達が口ぐちに幼馴染を褒める言葉を告げる。
そこで別に幼馴染だから鼻が高い、とか、ロミオ役の男に嫉妬する、だとか言う気持ちは湧いてこなかった。
と言うよりそもそも次元が違うんだな、と言うのが大きすぎた。
『魔法が解けたみたいだ』という表現はちょっと違うな……
そもそも俺は一切プラスの状態から始まっていたとは思っていない。
だから言うならば『魔法をかけられて、別の世界へと来てしまったみたいだ』と言うのが今の率直な感想だ。
終幕の際、ここは欧米かとツッコみたくなるようなスタンディングオベーションで拍手喝采に見舞われる。
誰もが魔法にかかったかのように晴れやかな笑顔で体育館を後にして行く様子を眺める。
学園祭は…………嫌いだ。
それから、後夜祭と言う名のリア充共の溜まり場が催されたがそんなものには顔を出すなんてことは無く、俺は一直線に帰路へと着いた。
自宅について、いつもと変わらず帰り際にスーパーで買っておいた夕食のチャーハン弁当をチンして食べる。
うん……旨い。
スーパーやコンビニの食事だってちゃんと俺達客のことを考えて栄養面や味、値段だって頑張っているんだ。
それを否定するのはやはりリア充思考の強い奴ではないだろうか?
スーパーに限って言えばその日中に食べるのなら半額を狙うのもアリだ。
こんなにいい食材を提供してくれるのに―
ピーンポーン
むっ、こんな時間に新聞勧誘……は無いか。
とすると…………宗教勧誘か!?
くっ面倒な奴等だ。
神なんて居ても居なくてもどっちでもいいじゃねえか。
……「居ても居なくてもどっちでもいい」ってのは別に自分自身を卑下して言ったわけじゃないぞ、今のは偶々だからな。
俺は辟易しながらもレスリング選手が防衛を担ってくれているセキュリティー監視カメラ付きの我が家の扉を開ける。
「……どうして、後夜祭、帰っちゃったの?」
……小さな門の前に立っていたのは、既に涙で頬を濡らし、目を真っ赤にしている幼馴染だった。
「……別に俺がいなくても後夜祭はどうともならない。それに後夜祭は打ち上げ的な意味しかない。何の役目も、何の仕事も担わなかった俺がそれに参加する意味が無いだろう。それを言うならお前だって後夜祭は―」
「私が!!……私が、カイトと一緒に後夜祭楽しみたかったの。クラスも違うし、一緒に学園祭楽しめなかったから、カイトと一緒に、一緒に、楽しんだ、思い出が欲しかったの」
「……はぁ……だからって泣くなって。別に学園祭なんて今年だけじゃないだろう」
「……今年の学園祭は……今年、だけだもん」
そりゃそうなんだが……
「……今から、二人で、打ち上げ、してくれる?」
「は?二人で打ち上げって……そんなこと―」
「やるの!!打ち上げ二人でやるの!!」
「あ~、もう分かった、分かったよ」
そう言ってやると表情は一転し、人懐っこい笑顔を浮かべて門をくぐって来る。
「オジサンとオバサン今日も遅いの?」
「ああ。研究と今度の裁判に向けての話し合いだそうだ」
「大変だね?……やっぱり、私、お弁当とか―」
「さっさと入れ。打ち上げ、すんだろ?」
「あっ、うん」
話が不穏な方向へと向かいかけたので直ぐに打ち切り、入るよう促す。
その後、ジュリエット役を作るのにどんなことをしたのかを聴かされたり、演劇を見た感想を言わされたりで……何だかんだで二人だけでも時間は直ぐに潰れた。
帰り際に幼馴染が
「……来年は、絶対、一緒に楽しもうね?」
と呟いたのを聞き取ってしまったので……
「……覚えてたらな」
と返しておいた。
その約束が叶う事は無く、俺は異世界へと旅立った……
「学園祭とか俺達の年になって、はしゃぐもんじゃないだろう?」
「え~、でも私は楽しみだなぁ、学園祭」
「え?マジかよ~、俺そんなに乗り気じゃねえんだけどなぁ……」
「……私は、〇〇君と回る学園祭、とっても楽しみだよ?」
「〇〇子……」
「〇〇君……」
イチャつくな、余所でやれや鬱陶しい!!
すいません、私の周りではしゃいでいやがるリア充共に嫌気が差しまして……
それは兎も角、少しビターな感じの終わり方にはなりました……
幼馴染ちゃんはあえて名前や容姿等記述していません。
彼女について「カイト」と漢字表記で呼んでいないのも別に変換ミスではありません。




