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リゼルの修行

すいません、カノンの修行から少し間が開いてしまいました。

一応リゼルの修行についてです。

=====  リゼル視点  =====


「……ん!」

「ぐっ」

≪うっ≫


クレイの奴の拳から放たれるパンチを両腕を前面に出して防ぐ。

くっ、相も変わらずなんて威力じゃ!!

―ですが、今は噴き飛ばされません、ね―

うむ。それでもかなり後ろにまで下がらねば威力を殺しきれんがな。


その証拠に足が地面をえぐりながら引きずった跡が我等の面前下にきっちり残っておる。


第1段階の時はクレイが放つ1発1発に我等は耐え切れず吹き飛ばされておった。

それを考えればちゃんとタフになってきていることは分かるんじゃが……

―何か、疑問でもある、です?―

あ奴のあの澄ました顔が気に食わん!!何じゃ、あの「ふぅ~、やれやれじゃぜ」みたいな顔は!!

―いや、クレイさん殆どさっきと表情変わってませんから。しかも「じゃぜ」とかクレイさん絶対言いません。……流石に斜に構えて捉え過ぎでは?―

いいや!絶対あ奴は我等を見下しておる!我等を殴る度に鼻で茶を沸かしておるに違いないんじゃ!!ちょーっと腕が立って綺麗じゃからって?主殿の役に立ってるからって?えぇ?けっ!!

―……はぁ。どうやったら鼻で茶を沸かせるんですか。そこまで行く慣用句なら最早特技です。……それ以外のことも狭量過ぎです、姉じゃ―

くっ!!ファルが何者かに操られてしもうた!!ファルが我以外の奴の肩しか持たん!!

―……いつものことです。面倒くさい小芝居は止めて修行に集中して下さい―


「……次、行く」


―ほら、次ですよ?姉じゃ―

くっ、ええい、分かっておるわ!

ちぇ……





その後、我等はクレイの奴の理不尽なパンチを133発受けて、今日の奴との戦いを……

―いやいや、普通に修行ですから。こちらがお願いしているのに理不尽どうこう言うのは筋違いですよ、姉じゃ―

ふんっ!!我は悪くないもん!意地悪するあ奴が悪いんじゃ!!

―姉じゃのぶりっ子とか一切需要無いですから。私も面倒なんでやめて下さい。……次はクオンさんの番ですから、姉じゃ、早々に変わって下さい―

な、ちょ!!

―では姉じゃ、姉じゃがこれからもクオンさんから課される修行をやってくれるですか?細かな技術を教えてもらうのに?不器用な姉じゃが?―

……ごめん、なさい。



ブオンッ




その後、私達はクレイさんと別れ、クオンさんに指定された場所へ。

ちなみにクレイさんは修行が終わるといつもどこかへ行ってしまいます。

そして夕食時にふらりと戻っていらっしゃいます。


何をしているんでしょう……

―ふん!どうせ修行中に我慢していた我等の恐ろしさにビビッて……―


ところで、私達の修行は今は第2段階です。

第1段階はクレイさんの右ストレートを200発×3セット、更にクオンさんから「水の上を走ってもらいます」と言われました。

最初こそ驚いたものの……

―ちょ!!ファルよ、あからさまに無視するでない!!―

……姉じゃ、流石にクレイさんへの感謝の気持ちが足りないかと。折角見てもらっているのですよ?

―うぐっ……で、でもじゃな!!―

……姉じゃ?

―……スマン。ちょっと意固地になり過ぎた。……感謝はしておる。主殿のために強くならねばならん我等にとってとても助かっておるのは事実じゃ―

……はい。クレイさんはとてもお強い方です。心体共に優れているからこそあそこまでお強いのでしょう。我等も見習わねばいけませんよ?

―……うむ―






私達はそれぞれクレイさんの修行は姉じゃが、クオンさんのものは私が担当し臨んでいます。

第1段階時は普通に攻撃を受けるだけで吹っ飛んでしまっていたのでもしかしたら自分達はとても弱いのかとも思ったりしましたがクオンさんが課した「水の上を走る」をこなしていくのと相俟って、段々クレイさんの攻撃にも耐えられるようになってきました。

―うむ、並行して“闘気”を学んでいったのも確かにその要因ではあるな。じゃが体が次第に……―

はい、ダメージが激しくて何度もユーリさんに頼ることにはなりましたが純粋に体力が付いてきたんでしょうね。



クレイさんの攻撃を受けるのに必要な闘気を、技術的な面からクオンさんは教えて下さいます。

「水の上を走る」というのはただそれだけでも実践的に使える技術ではありますが、それは前提として足に闘気を集中させ、能力を引き上げないといけません。

―それにその闘気を操るなんて技術も要求されるからのう。ファルがやってくれて助かっておる―

はい、その分クレイさんの修行の際は表で頑張ってもらってますので。

―そうじゃろ!?ああいった単純な作業は我向きじゃからな!!―


……自分で理解していたんですか。

それは良かったです。





「……お疲れ様です。リゼルさん」

「あ!!リゼルさんリゼルさん!やっほーです!!」

「どうも、クオンさん、オトヒメさん」


私達が向かった先には水しぶきですら轟音を立てる背景の中で、既に犬人で私達の修行を見てもらっているクオンさん、そして、人魚のオトヒメさんが。



その轟音の正体はとても優れた容姿を持つお二人よりも直ぐに目に入ってくる、純粋にとても巨大なものです。


「リゼルさんリゼルさん、滝です滝!!私、見るの初めてなんですよ!!」

≪ほう、オトヒメもか。我もじゃ!何とも豪快じゃのう……≫

「はい!!……わ~、パパよりも大きいです~」


……それは普通はそうだと思うんですが……


オトヒメさんと姉じゃが言った通り、大きな大きな滝。


私達の眼前に広がるのは真っ逆さまに大量の水が落ちてきて水面に叩きつけられているという何とも……そうですね、姉じゃの言う通りとても豪快な光景です。

私も姉じゃも初見ですし、自然の壮大さに圧倒されるのも分からないでもないです。

ただ……


「……どうしてオトヒメさんがここに?」

「……今回の第2段階の修行内容は“滝走り”です。前回の“水走り”とは異なって、常に流動する水の流れに逆らって闘気を鍛えてもらうことに。……ちょっとだけその話をディールさんとしたら『ついて行きたい!!』と」

「……成程……」


初めての滝に、子供の様にはしゃいでいるオトヒメさんを見ると納得ですね。


≪ほへぇ~、滝とは凄いものじゃのう……≫


子供の様にはしゃいでいるのはオトヒメさんだけではありませんでしたね。



「わぁ~……クオンさん、リゼルさん!!私が先に滝に登ってもよろしいでしょうか?」


オトヒメさんは目を爛々と輝かせてクオンさんに伺います。

クオンさんはいつもあまりテンションが高くは無いのでとても対称的です。


「……大丈夫ですか?人魚とは言え、初めて行うのでしたら危険なのでは……一応私も潜水の技術は有りますが……」

「大丈夫!!水の中でしたら滝でしょうと海でしょうと変わりません!!」


手を鱗のような意匠の施されている胸の前でブンブン振ってやりたいことを必死にアピール。

クオンさんは少し考え込んで結論を出します。


「……分かりました。但し、私が危ないと判断したらオトヒメさんの意思に関係なく救出に入りますからね?」

「はい!!分かりました!!」


ビシッと敬礼を決めて更に嬉しそうにニコニコします。

それでもクオンさんの表情は変わらず。

やはり滝での修行とはそれ程危ないことなのでしょう。


今にも走りだしそうなのですが今は魚の足をしているのでピョンピョン跳ねて水辺に近づいて行きます。

私とクオンさんもそれに続いて滝に向かいました。


≪これこれ、走ると怪我するぞ、オトヒメよ≫

「大丈夫ですよ!それより早く早く!!」


姉じゃはまるで自分の孫を見守るかのようなゆったりとした感じで私の目を通してオトヒメさんを見つめているようです。


……何なんでしょうね、こういう姉じゃのところは姉妹でも意味が分からないです。



「そりゃー!!」


オトヒメさんが、主様が以前教えて下さったバネの如くその魚の尾ひれを使って飛び込むと、それ以上の勢いを伴って水が跳ね返ったように思えます。


そんなにはしゃがなくても……


≪怪我だけはせんようにな?≫

「は~い!」


……姉じゃ、そのキャラ意味わからないですから。


「じゃあ、行ってきます!!」

「……はい。気を付けて下さいね?」

「分かってますよ。―てやぁ!!」


オトヒメさんは尾ひれを蛇や私達が竜となった時に使う尻尾のようにくねらせてぐんぐん滝へと近づいて行きます。


彼女の友達のロイ―マーロワァン―と二人、孤島の海で泳いでいるのは見たことが有りますがやはり凄い速さですね……


そして直ぐに彼女は滝へと差し掛かり、一瞬だけ立ち止まったかと思うと、更にまた勢いをつけて―


「キャ、キャァーーー!!」


「「っ!?」」


私とクオンさんはその声を耳にした途端迷わず飛び込みます。

やはり人魚でも滝は危険だった―






「わ~、なんて楽しいんでしょう~!!滝登りって……」




バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ





……滝の轟音に負けず劣らず、何とも軽快な音を立ててぐんぐんと滝を登って行くオトヒメさん。


「「…………」」

≪ははは~、楽しそうじゃのう……やはり子供の頃は伸び伸びと遊ぶに限る……≫



……ちょっと黙っててくれますか、姉じゃ。

―ひ、酷い!ファルが反抗期じゃ!!―




私とクオンさんがずぶ濡れで陸に上がる頃には既にオトヒメさんは上に登り切り、今度は楽しそうに降りてきます。



クオンさんは犬がするそれのように震わせて体の水を飛ばします。

私は一先ず髪の水だけ絞って応急措置を済ませる。


「……滝を登るというのはあんなに簡単な感じなん、です?」

「……いえ、私が想定していたのはもっと難しいもののはずなんですが……そもそもあれは水の中に体を入れてしまっていますし……それを言うと、私達二人とも、焦って飛び込まなくても水の上を歩けるんでしたね」

「ああ、そう言えば……」


もう既に濡れた後で、気づくのが遅かったみたいですね。


「……はぁっ!」


クオンさんが手を合わせて指を細かく動かすと、その手に火が点ります。

あっ、温かい……


「……後々リゼルさんにも覚えてもらう予定の“火遁”の1つです」

「“火遁”ですか。……私達姉妹には魔法の素養が無いのですが、使えるでしょうか?」

「ええ。大丈夫です。私も、それに神童と呼ばれた兄上や……ヨミも魔法は使えませんから」


ほんの少しだけ、そのことを話すクオンさんの顔は俯いていて、影が掛かったように……


「はははは!楽しいです~」

「……オトヒメさんは色々凄いですね」


クオンさんはオトヒメさんの声に反応して火が点いている手はそのままに、彼女を見る。

もうその横顔からは、先程の様子は窺えなくなっていた。


私もそれに応えるために切り替え、同じように彼女を見る。


「そうですね……最初からオトヒメさんには驚かされてばかりですから」


そうして、私は彼女が仲間になって直ぐの日を思い起こす……



~回想~

「こら!!待ちなさい、ロイ!!」

「ギュワァア!」


「ふむ……オトヒメ君はゴホッゴホッ……陸上でも凄まじい運動神経だね」

「はい。まさかあそこまで……」

≪足が人間のものになったのにも驚いたが……≫

「ええ、そこからの上達具合も半端ない、です」


オトヒメさんの友達のロイ―マーロワァンが孤島の海に入って元気になった後、二人がはしゃいで浜辺で追いかけっこをしていると、いきなり彼女の尾ひれが人間の足になったのです。


私達は驚きましたが、彼女はさほど驚いておらず、普通に順応していました。

彼女自身の知っていることやディールさん、そしてエフィーさんの知識を元に考えると、どうやら尾ひれの乾き具合と彼女の意思・精神状態に左右されるそうです。


その証拠に、一度ディールさんが


~ふむ、オトヒメ君、一度海に戻ってみてくれないか?~


とおっしゃって、その通りにしたら足は普通に人魚の尾ひれに戻りました。

その後また乾かしただけでは特に何も起こりませんでしたがいきなりまた人間の足に変身しました。


オトヒメさんが


~え?うーん、ちょっと「人間の足になって下さい!!」って思ったら、なりました!!~


とあっけらかんとおっしゃっていました。




「サクヤ君に教えてもらった知識を前提とするとゴホッ……深海だとこことは違って大きな水圧がかかる。人魚はそれに順応できる能力を持っているのだから、その水圧がかからない地上では……」

「あのように、人間の足で動くのは初めてのようですが、あれはもう一般の獣人の速さと変わらないのでは?普通最初の歩行であれだけの動きができるようになるものでしょうか……」


ディールさんとエフィーさんがそれぞれ考察しているように、今私達の目の前では人間の足で今度はロイと駆けっこをしているオトヒメさんが。


ロイの跳ね方も豪快でこの件が無かったらもっと多きなリアクションを取っていたでしょうが、何しろオトヒメさんの動きがもう意外過ぎて……


「ふむ……まだまだオトヒメ君は何かありそうだね―おーい、オトヒメ君、ちょっといいかい?」


ディールさんが両手で筒を作り、それを口に当てて普段あまり使わないような大きな声を出します。

―……そのせいで激しく咳き込んでいるようじゃがの―


それをエフィーさんが背中をさすって「大丈夫ですか?」と尋ねているところにオトヒメさんが駆けつけました。

―うーむ、その速度も最早普通にそこいらにいる剣士よりも速いのう。あ奴はエフィーやカノンのように後衛なのかと思っておったが……―

そうですね、まあ何を彼女ができるか、と言うのを今から聴くようですから……


「はい、何ですか?」

「ゴホッゴホッ……ああいや、すまない。君のことについて色々と興味が湧いてね。是非君のことについて聴きたい」

「はい。私もオトヒメさんがどのような方なのか、色々と聴いてみたいです」


それを言われてオトヒメさんはさっきまでロイと遊んでいた時の倍以上もあるかのような輝かしい笑顔を浮かべる。


「え!?私のこと、ですか!?嬉しいです!!皆さんにはとても良くしてもらっていますので、是非何かお力になりたいと思っていたんです!!そんな事位ならお安いご用です!!えへん!!」


彼女が胸をどんと叩くとそれに伴って彼女の2つの大きな真珠がプルンと揺れる。

私はそれを見て、視線を落として自分の胸を注視する。

―……ファルよ、悲しいな……―

……はい。



「ふむ、それは助かる。―では先ず君の出身について教えてくれるかい?」

「はい!!―私はブレーン大陸と魔大陸の間にある海――リリーブ海の海中深くにある、アトランティス出身です!!一応パパはそこで為政者をしていました!!」

「『アトランティス』……ですか。まさか伝説上の水の都の名前が出て来るとは……」

「うむ……それにアトランティスという事は、そこの姫ということか。まあ何となくただ者では無いだろうとは思っていたが……」

≪ん?『ア!トラン・ティース』?何じゃそれは?≫


ディールさんとエフィーさんはピンと来たようです。

私も姉じゃ同様初耳なのであまり強いことは言えないのですが……


「姉じゃ、名詞を意味不明な部分で区切るのはやめて下さい。私まで混乱してきます」

≪む!それはスマンかった。……でもファルよ、分からんのじゃからそんなこと言ったってしょうがないじゃろう≫


まあ確かにそうなんですがね。


「『アトランティス』……まあ場所についてはオトヒメさんがおっしゃった通り私達が主に活動しているブレーン大陸、そしてその南にある魔大陸との中間程の海――リリーブ海の中、という事になります」

「海の中……つまりそこに住めるのは勿論海の中で呼吸ができる生物になりますね」

「はい。ですから人魚がそこに住んでいる……と言う話が伝記上に記録されていたんですが、そうですね……言わばそれはレンさんがいらっしゃった“ラクナ・アンジェ”―天使の里みたいな扱いです。その存在自体は知られていても実際に見た者と言うのがいるかいないかすら分からないレベルの伝説級の場所です」

「ええ!?皆さんのお仲間には天使様がいらっしゃるのですか!?」


今の話を聴いて反対にオトヒメさんが驚いています。

まあ、人魚でも相手が天使ならその反応が普通なんでしょうね。


「ええ。まあ今はご主人様と一緒に出ていらっしゃいますがレンさん、と言います」

「へ~……天使様がお仲間に……やはり私のご主人様であるカイト様、という方はとても凄いお方なんですね」

「……はい。ご主人様は言葉では表せられない程の、素晴らしいお方です」

≪……うむ≫

「……私、皆さんにとーっても良くしてもらって、ロイとも離れ離れにならなくて済んで―だから、沢山沢山感謝してます!!カイト様が帰って来たら、一杯お役に立ちます!!」

「うむ、カイト君が帰って来たら尽くしてあげればいい。彼はそれに値する青年だよ。―さて、話を戻すが……」


……オトヒメさんにも、主様のことを良く思えてもらったようです。

―……うむ。そうじゃの……―


「……『アトランティス』出身という事だが、とすると……“アクアピープル”とかも実際にいたりするのかい?」

「え?あ、はい、いますよ!!一杯!!」

「一杯か……ハハッ、それは面白いね」

「何なら創りましょうか!?私は1日かかりますけど、私もロイも創れますよ!!」

「……“アクアピープル”を……“創る”?」


……ディールさんがとても怪訝な顔をなさっていますね。

―うむ。あのような顔をするのは珍しいの―


私達がエフィーさんにどう言う事か尋ねようとすると、エフィーさんもとても驚いた表情をしている。


「……何事も無いようにおっしゃってますね。私がディールさんに読ませていただいた本には『“アクアピープル”は自然と“発生”するものだ』とされていたのに……」



どういう事かは良くは分かりませんがオトヒメさんが言ったことがどうやらお二人の知っていることと大きく異なっていたようですね。


「うむ……それでは頼もうか。自分の知識が間違っているのなら正せる機会と言うのは貴重だからね」

「はい!!分かりました!!」


ディールさんのその言葉で、オトヒメさんは元気よく返事をし、早速準備にかかりました。

準備に時間がかかるということでその間、エフィーさんがどういう事かを詳しく説明してくれました。



“アクアピープル”……見た目は青いスライムが人型を取ったような生き物なのだが、スライムたちと決定的に違うところが3つある。


1つ目はその容姿。

2つ目はその知能。

3つ目はその能力。


容姿は言った通り、人の容姿をしていて、そのスライム上の性質から人間と区別自体は付くもののその見た目は人間のそれと全く大差ない。


知能については記述がまばらで、人以上の知識を有するとか、モンスター以上ではあるものの、人間を上回るまでには至らないとか。


そして3つ目の能力だが、これが一番驚くものだ。

一度“アクアピープル”として生まれたら、その自分の体の状態をどのようにでも変化させられる。

エフィーさん曰く


「固体・液体・気体……この3つのどこからどの状態に変化させるのも可能なんです。液体から固体・気体に変化させられるのは勿論、一足飛びに固体を気体にしたり、気体を固体にしたり……」


という事だそうです。


その単語の意味自体は更に解説してもらいましたが……

それが事実となると、確かに凄いですね。


そして、その“アクアピープル”が、自然と生まれる存在では無く……“創り出す”もの……





夜になって、オトヒメさんの準備が整ったようなので、修行終わり、私達は彼女の下に集いました。


1日かかる、と言うのは何の比喩でもなく、エフィーさんが魔法で創り出した水を使って創っていたようです。


準備が整ったと言いましたが、私達が着いた時にはもう既に人の形をしたスライム上の女の子が1人増えていました。


容姿はオトヒメさんと似ていて、髪の毛の一本から人を再現しています。

―…………―

姉じゃも驚いて言葉が出ないようですね。


「……ハケウブカエウッギャジェ?」


ブクブクッと言う泡が立つような音を立て、生み出されていた子は私達にとっては意味を成さない言葉を発しています。


「はい!!私があなたを創り出したオトヒメです!!」


オトヒメさんは月夜に映えるその水色の髪を揺らして元気に答える。

……どうやらオトヒメさんには彼女の言葉が解せるようですね。

私もモンスターの言語は分かるのですが、“アクアピープル”のそれは対象外ということです。


一方、現れた、オトヒメさんそっくりの女の子は……


ツインテールの伸びた水の髪、その頭に控え目に乗っているはずなのにその存在感を示している青い王冠、眉にまでかかった前髪、そこからヒョコッとだけ覗ける綺麗な瞳、同じ水なのに、大きな胸とその大事な部分だけを隠すようについている鱗、そして竜のそれかとまで間違えてしまうほど長い尾ひれ……


全てが同じ水でできているはずなのに、どこのパーツがどの部分か分かる。

成程。これもまたエフィーさんが言っていたように状態変化の能力が関わっているんでしょうね……



そして、今ここにその存在がいる、ということが“アクアピープル”を創り出せるということの証明。



ディールさんもエフィーさんも興味深そうにオトヒメさんと、その隣にいるアクアピープルをご覧になっています。


「……これは、本当に驚いたね。アクアピープルが発生するものでは無く、創り出せるという事実にも確かに驚いたが……」

「そうですね……1日という期間の長さは少々ネックですが、創り出せるという事実が……オトヒメさん、凄いですね」

「わ~!!ありがとうございます!!褒められましたよ!!ロイ!!」


オトヒメさんははしゃぎ、後ろで見守っていたロイにダイブします。

……と、思っていたらロイの腕の中で疲れてしまったようですね。


スヤスヤと眠ってしまいました。



「ふむ、ちょっと無理をさせてしまったのかな?」


とディールさんが様子を窺うと、ロイが彼女を生まれて直ぐのアクアピープルに託してディールさんに何かを話しました。


「……ふむ、そうか。分かった。段階を踏んで彼女が強くなれるよう何か考えよう。それまで今後アクアピープルの創出はその合間合間に入れればいいんだね?」


その言葉にロイは深く頷きます。


「うむ。では彼女は寝室に運んであげてくれるか?私は今日のことを纏めたりシア君やユウ達にも報告して来るよ。―今日はこれで解散だ」


ディールさんが去られた後、私達はオトヒメさんを抱き上げたアクアピープルを伴って戻って行ったのです。



~回想終了~



「あ~れ~!!……」



余程面白かったのか、オトヒメさんは滝を何度も登っては流れ落ちてくることを繰り返している。

それを本当にのほほ~んと眺めているだろう姉じゃはもう放置して……


孤島にはもう既にあれからまた2体アクアピープルが増えました。

今はロイ―オトヒメさんのマーロワァンが既に生まれていた1体と併せて様子を見ています。


ディールさんは彼女達の能力を試そうと、サクヤさんが創ったダイナマイト、ですか? それをスケルトンに持たせて突っ込ませていましたね。



それをシアさんやユウさん達も揃って見たのですが……


見事にその水の体が爆発により四散したんですが、その後、まるで時間を巻き戻したかのように飛び散った体が元に戻って行って、最終的には何も無かったかのように元通りに。


勿論爆発によって飛び散ったスケルトンの骨もその後、ちゃんと元には戻りましたが……

私達にとっては前者の方が衝撃的でしたね。


ディールさんも


「……これ、どうやったら倒せるんだろうね」


と呟いてましたし。



「……オトヒメさんのことは今はもう放置しても大丈夫でしょう。―そろそろ修行を始めましょう」

「あ、はい。よろしくお願いします」


クオンさんの声で我に戻る。

……そろそろ姉じゃもボケるのは止めて、正気に戻って下さいね。

―な!?ファルよ、それはひどいのではないか!?我が常態的にボケているみたいに―

はいはい、もういいですから……

―ファルよ~!!―




姉じゃを無視して、一人で楽しんでいるオトヒメさんも一先ず置いておき、クオンさんが手本を見せて下さったのでそれに従って私は修行を進めました。


八艘はっそう飛び、というものだそうで、そこに足場など無いはずなのに、垂直に流れ落ちてくる水に対して、まるで足の裏に刃物でもあってそれが滝に刺さっているかのように着地した足は固定され、そこを踏み切ってピョンピョンと跳ねては上へ上へと……


水の上を走るだけでも凄い技術だと思ったのに……

―凄いのう……じゃが習得すれば間違いなく我等の身になる―

はい。何としてでも掴んで見せます。







そこからはクオンさんの修行に限って言えば、その滝走りと、実践的な戦闘の訓練を交互に行った。

前者については第1段階程上手くは行かず、何度も何度も途中で真っ逆さまに水の中に落ちてしまった。

―ふむ、それでも戦闘の訓練を積むにつれてどんどんその改善もされたであろう?―

はい。そこは……姉じゃのおかげです。―素直に感謝してます、姉じゃ。

―うむ!!じゃがあの修行も中々に厄介じゃったな。我はファルとは違って武器はあまり使わん。いきなり戟以外の得物を使わされても……―

そうですね……ですからクオンさんが「覚えて下さい」とおっしゃった全ての武器のそれぞれの特徴については私が覚えました。

―我は頭を使う事が苦手じゃからのう……フランシスカがどうの、メイスやククリがどうのと言われても頭がパニックになるわ―

まあそのおかげで、ほとんどの武器を『扱いこなせる』、とまでは行きませんが『使える』、位にはなりました。

それぞれの武器の特性も覚えましたし。

―そうじゃの。滝走りも何とかマスターできた……―

ええ。でも、まさかあの沢山の武器を使って戦う修行が第3段階のものだったとは思いませんでしたね。

―そうじゃ!!あれはどう言う事なんじゃ!?一つ飛ばし、ということかえ?―

そうなるでしょうね……ですがまあ私としては、一つ上のレベルの修行の方が簡易なものでしたし、クオンさんとしても第3段階ができれば第2段階もできるだろう、という配慮でしょう。

―うむむぅ……確かに、そのおかげで『八艘飛び』や『縮地』、色んな技を効率的に覚えることができたのは事実じゃが……―

仮にできないと判断されたらまた違ったメニューを組んで下さったでしょう。

私達のことを信じての判断じゃないでしょうか?

―……そうじゃな。強くなれているのは確かじゃ―

はい。主様のため、このままクオンさん、クレイさんを信じて修行に邁進まいしんしましょう。

―うむ!!―






その後、クレイさんの修行も段階としては更に進んで、一撃で吹き飛ばされることも、後ろに大きく仰け反ることも無くなり、その分スムーズに修行も進行するように。

―クレイの奴めが手加減していることは分かってはいるが……成長していること自体は喜ばしいことじゃな―

そうですね、クレイさんが本気だったら多分まだ吹っ飛ぶレベルでしょう。ですがそれでも私達が強くなることには意味があります。

クレイさんが主様の下にいらっしゃる以上、戦う、ということは考えられないんですしクレイさんを倒せるようになる必要はありません。

それ位に強くなれればいいということに越したことはありませんが。


―うむ!!じゃから……これから行うクオンの第4段階も、マスターしてみせるぞ、ファルよ!!―

はい!!





今回は普通に孤島にて集合とのことだったので、指定された森の奥深くの場所まで行くと、クオンさんが大きな巻物を置いて待っていらっしゃいました。



「……今回リゼルさんに習得してもらうのは、以前お見せした本格的な“忍術”です」

「“忍術”……あの、火を点すやつ、です?」

「はい。私が実質的に使えるのは火遁、水遁、土遁だけですが、一応理屈の上では全て使えることになっています―これを」


そう言ってクオンさんは最初から気になっていた大きな巻物を広げます。


≪……読めんが、カクカクの文字が書いてあるのう……ファルはどうじゃ?≫

「……いえ、私も分かりません。ですが、確か主様が偶にお書きになるものの中に、似たような字があったような気がする、です」

「……『五輪の書』と言います。私達兄弟姉妹一人に1つ持たされているものです」

「『五輪の書』……それが、クオンさんがおっしゃった“忍術”と関わりがあるんですね?」

「……はい。これは“火の書”でして、火遁の習得方法が載っています」

≪……その話からすると、クオンが火遁の術を覚えていることは分かるのじゃが、それ以外の―つまり水遁と土遁はどうやって覚えたんじゃ?≫


姉じゃがもっともな疑問をクオンさんにぶつける。

クオンさんは動じず、淡々と説明を続けて行く。


「一つ、認識として誤解があるかと思うんですが、これに書いてあるのはあくまで習得方法―火遁を覚えるための最短距離の道のりが書いてあるだけで、別に方法さえ独自に編み出せるのなら全てを覚えることは可能なんです―リゼルさん、闘気を手に纏ってみて下さい」

≪ん?まだ我はサッパリ何が何やらなんじゃが……≫


私もですが……一先ず言われたとおりにしてみましょう。


「分かりました」

「あっ、……すいません、今更なんですが、リゼルさんは字は書けますか?」

「字、ですか?一応私は一通りは」

≪……我は少々自信はない≫


それを尋ねた際、珍しくクオンさんは不安な表情をなさったのですが私の(・・)返答を聴いてどうやら安心なさったようです。

―……ファルよ。今のは少し悪意があったように感じたんじゃが―

……気のせいです。


「それは良かったです。では闘気を纏ったまま指でこの巻物にリゼルさんの名前を書いてくれますか?」

「これに、ですか?……分かりました」


私は促されるままに“火の書”に向かって指を走らせます。

―ほほう!!『リゼル』、とはそう書くのか!!―

はい。いい機会ですから字ももっと覚えたらどうです?中途半端な知識だと煩瑣 (はんさ)でしょう?

―ん?パンサー?ファルよ、ちょっと意味が……―

……そう言う事、です。



「……はい。結構です」


名前を書き終え、クオンさんがそれを確認すると以前のように手を合わせて指を動かし、何かを念じるような動作をする。


「ハッ!!」


すると、ボンっ、という小さな爆音を放って書は煙を上げて消えてしまった。

え!?だ、大丈夫なんですか!?


「……これでリゼルさんも、理屈の上ではどの属性もマスターできることになりました」


……書のことについては最早無かったかのようにスルーなさいます。

―ふむ、あれはああいった扱いでいいようじゃな―

そうですね……


私は切り替えて、今の話に集中することに。


「……名前を、闘気を纏った指で書く、という今の動作だけでいいんですか?」

「はい。……私の本職が、忍者では無い、という事は修行が始まって直ぐ位にお話しましたよね?」

≪うむ≫

「はい。覚えています」

「……これは他言無用でお願いします。……できればカイト様にも、お仲間の方々にも」

「え!?」

≪どういうことじゃ!?≫

「……今から話すことは私の一族の機密に関することなんです。私の一族は自分達の情報が少しでも外に漏れることを毛嫌いします。……ですから、できるだけ知っている人は少なくしたいんです。……ディールさんにはもしかしたら、もうバレているかもしれませんので、自分から機会を見て皆さんにお話します。ですから、せめて、お仲間の方々以外には」


……姉じゃ。

―……うむ―


「分かりました」

≪うむ。どうせ今主殿はいないしな。シア達には……機会を見て話してやってくれ≫

「はい。ありがとうございます……ではお話します―『五輪の書』に付されているのは“因果のルーン”。そして、私の本職は『ルーン使い』です」

「“因果のルーン”……」

≪『ルーン使い』……≫


どちらも初めて、聞きますね。

―うむ。我もじゃ―


「はい。『ルーン』という25―正確には24の文字と1つの空白を扱うんですが―そのある古代文字の一つ一つに秘めたる力が一つずつに対応している、と言われています。“因果のルーン”はその一つですね。……そして、その『ルーン』の真の意味を解読し、それを刻み自分の力として職にしているのが『ルーン使い』です」


古代文字ですか……流石にそこまでの知識は私には無いですね。

―ファルで無理なんじゃ。我なんて当然そんなもの知らん。……エフィーならもしや、と言ったところじゃろう―

そうですね……


「と言っても私は“因果のルーン”を解読した訳ではありませんので、勿論“因果のルーン”を使える訳でもありません」

「え?なら少し、話がおかしくなりませんか?」

「いえ、そうとも限りません。私が今までに解読したルーンは11。その内の1つの能力に“解析のルーン”という力が有ります―はぁっ!!」


クオンさんはまたさっきの巻物―火の書を取り出した後、人差し指と中指だけ立てて……

するとそこに闘気が集まって行きます。

そして彼女がその指を宙で動かすと、普通なら見えるはずの無い指が辿った跡が、黄金色の線となって見えました。


「……ふう……これが凡そ解読できた全てのルーンの使い方です。そして今“解析のルーン”を使っているんですが……その火の書には私以外のルーン使いが“因果のルーン”を使った、という結果と、その火の書にどういう効果があるか、という情報が出ているんです」

≪……つまり、どういうことじゃ?≫

「私も少しだけ混乱してきました。……ルーンについて、と“因果のルーン”が火の書に付されている、という事実が分かりましたので、一端話を元に戻します」

≪うむぅ……だから、最初の、我等が忍術を覚えるためにはこの書に闘気で名前を書くという行為があればよい、という事まで戻る訳か≫

「そうですね……そこから、その原因となっているのが、誰が施したかは分からないけれども“因果のルーン”ということになるん、です?」


私と姉じゃが二人で話を整理していると、クオンさんは大きく頷いてくれる。


「そう言う事ですね。私の土遁は妹の一人の持っていた“地の書”を見せてもらって、そこに書いてあった方法を実践して会得しましたが、そもそも地の書の持ち主は私では無く妹ですし、水遁に至っては“水の書”の持ち主はヨミです。見せてもらう前に、あの子は訳あって家を出て行きました。ですから水遁は独学です」

「……成程、そう言う事ですか」

≪え!?ファル、今ので全部わかったのか!?≫

「全部、というわけではありませんが、何となく全体は掴めたかと。―つまり、クオンさんが使うような属性を持った忍術を使おうと思ったら絶対的に前提となる条件としては先ほど私達がしたように、それぞれどの書でも構いませんが、『五輪の書』のどれかに闘気で自己の名前を記す必要があります。恐らく他の書にも“因果のルーン”が施されているんでしょう」

≪……それで?≫

「それが恐らくは魔法における素質を解放することに当るんだと思います。それで、その素質が解放された後はそれぞれ修行をして魔法を習得するように、忍術も修行をして会得するわけですが、その最短距離として、“火の書”なら火遁の、“地の書”なら土遁の会得をするのに最も良いと思われる方法が書いてある、と言うだけです」

「はい、その通りですね。確かに書にはどうすれば火遁を最も効率よく習得できるか、というのは書いてあるんですが、別にその方法じゃなければならない理由は有りません。―……リゼルさんにとってどうかは分かりませんが、私にとってはその証拠に、兄上が持っているのは確か“空の書”だけのはずなのに、兄上は火遁、水遁、土遁、風遁、木遁、闇遁、光遁と、書には書いていないはずの属性をも扱えるんです」

≪え!?7属性もかえ!?≫

「……はい。ヨミもあれはあれで幼い頃よりその強さから天才だとか化物とか言われていましたが、それでも兄上―『ムクロの再来』と、兄上が最も強い、という事が前提とした扱いを受けていたんです。……兄上は10歳の頃までに17のルーンを解読した、と言われています」

「17……」

≪術の属性の数とも合わせて、圧倒的じゃな、クオンの兄君は≫


私達がその話に圧倒されていると、クオンさんは大きく一度深呼吸してから小さな声で「よし、頑張れ、私!!」と自己を叱咤して、私達に向き直る。


「すいません、自分から話したんですが少し逸れました、兄上のことはいいんです。―私が言いたいのは、つまり書への記名は一つの属性を習得するためのものではなく、属性を持った忍術を習得できる資格を得る、と言う包括的なものを得られる前提条件、そしてリゼルさんも修行次第では沢山の属性を扱えるようになる、という事なんです」

≪ふむぅ……何となく言いたいことは分かったがのう……その忍術の会得については“因果のルーン”が関係しているんじゃよな?≫

「はい。通常忍術は発動に必要な印を結んで、それに必要な分のエネルギー―今後それに対応した燃料を作れるよう修行はしますが今は便宜上闘気としておきますね。一応闘気でも発動させることは可能ですので―それで、エネルギーを消費して、発動するんですが、もう今は書に記名したのでこの過程を経れば理屈上は発動させることは可能なんです」

≪その言い方じゃと……実質的には発動できないんじゃな≫

「はい、その通りです。印自体は覚えれば誰でも結べるようになります。多少記憶力と、同時に二つ以上のことをする器用さが要求されますが」

「……ああ!それが今までの修行と関連して来るん、です!?」

「まあ、そうですね。ですから印を結ぶことだけならリゼルさんはもう既にできる下地はできているんです。ただ、それに対応する闘気がまだ属性を帯びていない状況です」

「うーん……そのおっしゃり方ですと、つまり印を結んで術を発動させるのにはそれに対応した属性の闘気が必要だ、ということですか?」

「はい。ですから、そこが一番本来修行を要することなんです。それで、私達兄妹が持っている書には闘気をどうすればその属性を帯びさせることができるのか、どうすれば闘気が属性に馴染んでくれるのか、という事がその書に対応した属性について書いてあるんです」

≪はぁ~……成程のう……≫

「闘気が属性に馴染めば馴染むほど、術の精度・威力は上がります。ですから闘気を属性に馴染ませる修行はすればするほど術は強くなります。ですが、一方でその修行が長期間に及べばリゼルさんの闘気は1属性に染まり切ってしまいます。そうなると1属性を極めることはできますが、複数の属性を実践として使える程のものにはならないでしょう」

「……となると、そこについては選択をしなければならない、ということですか?」

≪少数の属性を極めるか、それとも複数の属性の可能性に賭けるか……≫


私と姉じゃが話を聴いて少し深刻になって考えていると、クオンさんが……


「いえ、そうとも限りません。リゼルさんに限って言えば、ですが」

「え?どういう事、ですか?」

≪我等には、選択すらできない、ということかえ?≫

「いえいえ、逆です。つまり長期間に渡って修行をして会得してしまうからそのデメリットが付きまとってくるんです。ですから、短期間ででき得る限りの数の属性を習得してしまいましょう」

「え?それは……それが理想なのは分かりますが」

「ですから、リゼルさんなら恐らく可能なんです。ディールさんから色々と聴いていますし、忍術に関する限りでならディールさんにもお話しています。ですから色々と知恵も借りているんですよ?」

「ディールさんが?」

≪知恵、かえ?≫

「はい……私が火遁の術を実質的に習得するために行ったのは私の故郷―ヒノモトにあったフシヤマと言う火山の中でただひたすら火を焚き、その中に闘気を纏って入る、という事でした」

≪それは何とも暑そうじゃな……≫

「はい。暑い以外の感想を抱けない位に暑いです。それを私は3か月ずっと、灼熱とも思える中をずっと耐え忍びました、それが“火の書”に書いてあったことの内容でもあったわけです……ですがリゼルさんならもっと早く、そして効率的に行えます」

≪それは……どういう事じゃ?≫

「……もしかして、闘気を属性に慣れさせる、という条件、と言えば良いのでしょうか、要素、と言えば良いのでしょうか、そこは分からないのですが……単純に言えばその属性の攻撃を耐え続ければいい、という事なんでしょうか?」

「攻撃、に限る訳ではありませんが大体その認識でいいと思います。私は水遁については海に潜り、深いところにできる限り行く、という事を繰り返してはいましたが実際攻撃を受ける方が成長は早いでしょうからね」

「……とすると、多くの場合は竜に変身する、という事で解決できるわけですね」

≪ん?竜になるのかえ?≫

「ええ。ディールさんから聴いたんですが……ダークドラゴンとの繋がりも有るんですよね?しかもリゼルさんはその属性のドラゴンに変身できる」

≪……成程。ようやく合点が言ったぞ!!つまりダークドラゴンにブレスをバンバン浴びせて貰えば闘気に闇の属性がついて行く、そう言う事でいいんじゃな!!≫


姉じゃがそう言ったとき、ようやくクオンさんがニヤッと笑みを浮かべてくれます。


「はい。リゼルさんは竜人ですから、先ず火に元々強い体質です。最近加入されたオトヒメさんに頼めば彼女の血を少し分けてもらえると思います。そうすれば一定時間人魚のように水中で行動できるそうですから、私なんかよりも圧倒的に早く火遁・水遁は覚えられるでしょう」

「今私達が持っている特性で属性は風・闇・雷……風はヴィヴィアンに、闇はダークドラゴンのお母さんに、雷はドラゴンはいませんが、普通に融合とともに転用するだけでも効果はあるでしょう。攻撃はリンさんに頼みましょうか」

≪それ以外でも確かカノンの妹のミリュンが土属性も使えるんじゃったな?≫

「はい。彼女が確か一昨日位にディールさんに修行を課されてロックドラゴンを捕まえに向かった、と記憶してます」

「フフッ……凄いですね。リゼルさんならもしかしたら兄上よりも多くの属性を習得できるかもしれません。治癒の属性について言えば勿論攻撃を受ける必要なんてありません。と言うよりそんなことは先ず考えられないですから。ですから闘気を纏った状態でユーリさんにただひたすら回復してもらえばいいと思います」

「……これを見越して、ディールさんはクレイさんにあの修行内容を頼んだんでしょうか?」

≪……あ奴のおかげで、我等のタフさが相当向上したのは紛れもない事実じゃからな≫

「その上で色んな属性の攻撃に耐えることを主とする内容の修行、ですからね……」

≪うむ。一応ではあるが、感謝せねばなるまい……それで、フェリアの氷だけはどうすることもできんのう。それだけは気合を入れるか≫

「ええ、他で楽できるんです。一つや二つ、厳しいものが無いと修行とすら言えないでしょう―やりましょう、姉じゃ」

≪うむ!!≫



私達は直ぐに、“死淵の魔窟”に向かました。



『ん?何だお前達か。何か用か?』

『こら。折角来てくれた客人に向かってそれは無いだろう』

『え~?でも母さん……』

『そんなことを言って、アンタもリゼル達が来てくれてうれしいんだろう?』

『そ、そんなこと、ないやい!!俺は、別に、お前のことなんて、お前のことなんて待ってないからな!!』


ウォリア・ドラゴンの奴とダークドラゴンが出迎えてくれる。

ウォリア・ドラゴンよ、お主、そんな感じじゃったか?

―何でしょう、ちょっと主様に接するカノンさんっぽいですね―


「キュイー!!キュイキュイーー」

「おおう、久しぶりじゃな!大きくなったのう。元気にしておったか?」


ダークドラゴンの娘―サラも我等の来訪を歓迎してくれているようじゃ。


「キュッキュキュ―!!キューキュイキュイ?」

「うむ?主殿はちと用事じゃ。また今度来ると言っておったぞ?」

「キュイーッキュッキュキュー!」

「うむ!!我も主殿のために強くなるのじゃ!そのために来た―ダークドラゴンよ、聴いてくれるかえ?」


我等はここに来た趣旨を掻い摘んで告げる。


『……要は私がドラゴンに変身したアンタにブレスを浴びせればいいってことかい?』

「うむ!そうじゃ!!我等は強くならねばならん!!頼む!!」

≪お願いします。強く、なりたいんです≫


我は精一杯頭を低くして下げる。

我はこれ位しか、誠意を伝える方法は知らんからな。


『……頭をお上げ。カイトやアンタ達に助けてもらって何一つ私は恩を返せたとは思ってなかったからね。それ位ならお安い御用さ』

「おおう!本当かえ!?なら直ぐに頼む!!―ファル、行くぞ!」

≪はい、姉じゃ!≫



我等はすぐさま闇の属性を転用し、竜に変身する。


『準備OKじゃ!!頼むぞ』

『ああ、しっかりと耐えな、行くよ!!』

≪はい!!≫








その後、我等はあのジョーカー戦の際に見た、ダークブレスをこれでもか、というくらい受けて帰宅した。

幾ら同じ属性の技で、ダメージを受けないからと言ってその反動やブレスから生まれる衝撃自体を抑えられるわけでは無い。


―クレイさんの修行を経た今でも、かなりの疲労が溜まりましたね。……流石3帝竜、です―


そう言うわけでくたくたになって戻ると、クオンが出迎えてくれた。


シア達を初め他は皆修行で疲れてしもうたんじゃろう。

―そうですね、私達もあまり余裕があるわけではありませんし―


「お疲れ様です、リゼルさん。どうでした?」

「おう!バンバンブレスを受けて来たぞ!!かなり闘気に闇が馴染んだという感覚はあるな!」

≪はい、私もそう思いますね≫

「そうですか……では一つ術をお教えします―はっ、『分身の術』!!」

「おおう!?」


クオンが二人に!?い、一体どういうカラクリじゃ!?

―……いや、『分身の術』ですよ―


「「ふう。これは分身の術です。闇の属性が多少あればこれ位ならできますが、実態を伴っていません。―それに比べ、今のリゼルさんなら分身に実態を伴うことも可能かと。―結ぶ印を教えます」」


凄いの……声が全く揃っておる。

―分身のお二人が教えて下さいますが……どちらが本物か、全く見分けがつきませんね―



その後、3分程印を結ぶ練習をし、我等はその実践に移った。


「行くぞ!!―はぁっ!!『闇遁・影分身の術!!』」


闘気を練りこむと、体からガクンッと力が抜ける引き換えに、我の隣に……おおう、もう一人の我が!!


「お主、我か!?」

「いや、お主こそ我か!?」

「何を言っておる!!我が本物の我じゃ!!」

「何おう!?」

「何おう!?」

「「我がリゼルじゃ!!」」


―……姉じゃ、面倒くさいんで一端術を解いて下さい―


「「う、うむ!!」」


我はさっきと同じように手を合わせて術を解除する。


すると、さっきまで我と争っていたもう一人の我が煙を上げて消えて行った。


「……完璧です。後はもっと効率よくエネルギーを運用できるようにできれば闇に限って言えば問題なく合格でしょう」


クオンが今の一部始終を見て、そう言ってくれる。


≪やりましたね、姉じゃ≫

「うむ!!主殿、待っていてくれ!!今はちと我の分身を扱うのに手こずっているが、いずれは分身の数を増やして……主殿の傍にいてみせるぞ!!」

≪その意気です、姉じゃ!!主様……待っていてくださいね≫



その後、我等は更に強くなることを改めて誓い、安らかな眠りへとつくのじゃった……



=====  リゼル視点終了  =====



ぐ、ぐぁあぁあーーーーーーーーーーー!!



…………え?はぁ……夢、か。


……恐ろしい、悪夢を見た。


うん、あれは悪夢に違いない。ただの悪夢で、絶対に事実であってたまるか……



リゼルが融合を解いたうえでアメーバのように分裂するなんて……



それが夢だと信じたいが一心で、俺は再び深い眠りへと…………








ぐぎゃぁあああーーーーーーーー!!

【朗報】リゼルが分身出来るようになりました!!

…………すいません、これの需要私だけですかね?




一応次話で第4章は終わりの予定です。

その次には申していた通りステータスを載せて、それから第5章へと入って行くことになりますね。


ですから多少次話の後書きには予告篇みたいな感じで、今のメモ等から判断して第5章で出て来るだろうな、と思われるセリフを色々と載せてみたいな、と考えてます。


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