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カノンの修行

=====  カノン視点  =====


「姉様!!終わったよ!!」

「やりました、カノン姉様!!」

「うん、ありがとう、ミリュン、ミラ」


可愛く腰に抱き着いてきた二人を撫でてあげてお礼を言う。


『ふむ……ミリュン様も、ミラ様も、本当にお強くなられたな』

「「えへへへ~」」


ベルも二人を褒めている。


双子だけあって見せる反応はそっくりだが、二人とも顔を綻ばせ天使のような笑顔を見せる。

「あぁ~可愛いなぁ」と姉の私ですら素直にそんな感想が漏れてくる。


私が11歳の頃なんて、こんな愛くるしい感じじゃなかったし、ベルと話せなくて一番やさぐれてた時だし……はぁ。


「お姉、こっちも終わったよ~」

「……ふぅ……この作業、面倒くさいであります」


モンスターと契約する手伝いをしてくれているリンとフェリアも戻ってきたみたい。


二人がいるから、私達のやることと言ったら痺れて地に伏しているか、氷山から顔だけ出しているモンスター達と契約することだけだ。


リンが使う“迅雷”やフェリアの“氷撫”は本当に見事の一言に尽きる。


あれを使われたら多分シアかクレイでも避けるのは難しいんじゃないかな?

それに、当ったら『麻痺』や『氷結』の状態異常になる可能性付き。


ユーリだってここにはいないけど、あの角を使って造りだしたランスで放つ“神槍撃”はワーウルフ状態のシアの一撃にすら匹敵する。



聖獣達は本当に凄い。

この子達の姉替わりなんて務まるかどうか最初は本当に不安だったけど……


私は報告を終えてだらけているリンの方を見る。


リンはいつも私やフェリアをからかって楽しんではいるが……それで困ることも勿論有るけれども、その実、本当はとても仲間想いの良い子だ。


今だって、再会できたばかりの私達姉妹を気遣って、自分は後ろで控えている……フェリアが犠牲にはなっているけども。


リンは多分、その人のことが本当に好きだからこそちょっかいだって出すし、色んなことを言う。


ディールさんも言っていたが、そもそも興味のない人相手に説教やちょっかいを出すなんて無駄なことはしないだろう。


だからリンだって、ミリュンやミラ達と変わらず、私にとっては大事な妹だ。


ただ……


「…………」


もう一人の妹―頬擦りしているミリュンとミラ、そして私の3人を遠目で見守るアリシアを見る。


あの子は私とは1つしか年は違わないが、一緒にいてあげていた頃はとても私に懐っこくて、そのくせ人見知りで「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」っていつも後ろをついて来ていたのに……


ミリュンやミラが私に甘えて来ると、自分は我慢して、二人がいなくなった後に泣いて抱き着いて来たり……っと、それは兎も角。



アリシアも私と再会できた日は泣いて喜んでくれたのに、今は事務的なこと以外あまり私に話しかけて来てくれない。


それが普通に寂しいとかもあるけれども、アリシアが昔みたいに我慢しちゃってるんじゃないかと、マスターとはまた違った意味で心配になる。


私は今迄十二分にマスターの優しさに甘えて来てしまった。

その事実に自分のことが嫌になってしまうがそれ自体はもう変えられない過去となってしまった。


だからこそ、姉としても、妹達には出来る限り甘えさせてあげて、間接的にでもマスターの優しさを知って、それで少しでも良く思ってもらいたい……


ってまあ私がそんなことしなくても姉妹だからね、多分私と同じようになるのかもしれない。


そうなってくれればいいなぁ……


「…………」

「ん?リン、どうしたの?」


リンが珍しく無言でじっと何かを見ていたように感じたので話しかけてみた。


「え?あぁ、いや、何でもないよ?ただお姉たちって本当にそっくりだな、と思って。こうやって見てると面白いからね」


その視線の先にいたアリシアを指して言う。

ああ、なるほど……


「確かにね、一緒にいると良く間違えられたこともあったよ。まあそれを言うならアンタも私の姿似せたんでしょ?」

「うん、その方が良いだろうな、ってユーリとフェリアで相談して」


へ~、そうなんだ。

そんなことまで……




そんな感じで雑談も交えながら、私達はリンとフェリアが行動不能にしてくれたモンスター達と次々と契約していった。


私の修行の第1段階はスケルトンに限ってだけれど、10日間でできるだけ契約してくること。


私自身の能力を上げるわけでは無い修行の内容に最初聴いた時は不安に思ったけど、私の戦闘スタイルが召喚を主体としている以上何よりもまずすべきことは従者の数・質を上げることだ、と言われた。


そして


「心配しなくても、後からその機会はちゃんと作る。勿論君にその気があれば、だけどね。……だから今は私を信じて従者を増やしてきて欲しい」


とも。


ディールさんが本当に凄い人だと言う事は私にだって分かるが、それだけで信じた訳じゃない。


彼女の行動原理にいるのも、恐らく私達とそこまで変わるものではないだろう。


……マスターのため……


そこがあればこそ、私達は大抵の人を信じられる。

だから、私は今も彼女の言う事を信じてそれを続けている。



そして、信じて続けた結果、色んな変化があった。


勿論その最たるものは、妹達と再会できたことだ。

まさか、もう会えることは無いかもしれないと思っていた妹3人とまた会えるなんて……


それに、エフィーの修行の成果で、私達が契約してきたスケルトンも無事にハイ・スケルトンへと進化した。


普通、進化なんて何年もかかることを、契約してきたモンスターがその日に進化してしまうなんてこれもまた信じられないことだ。


今行っている第3段階は私の従者となった妹達も合わせて更に従者を増やすこと。

数だけ増やして連れて行けば、適正の有る無しも存在するようだが、エフィーが見極めて進化させてくれる。


妹達が強くなること即ち主人である私が総合的に強くなることに繋がる。


第2段階から、剣術指南としてシーナと一緒にロード・スケルトンを1人で倒せるよう打ち合いを続けているのだがそっちはまだ芽はあまり出ていない。


そっちも並行して続けてはいるがやはり今は私自身も、そしてディールさんとしても第3段階の方に力を入れている風に思う。



妹達を従者にする、という事に思うところが無いと言えば流石に嘘になるが、これはあまり私達姉妹の間でも争いは無かった。


マスターが良く説明してくれたけれど、契約するという事はつまりいつでもその者を呼び出せる、という事。


極端な話、心配になったら召喚すれば安否を確認できる。

仮に人質になって拘束されていたとしても、呼んじゃえばどうと言うことも無い。


それに魔族が他の魔族を従えている、と言うのは珍しい話でもない。

それが身内だ、というのが少し特殊なだけで、妹達のことは本当に大切なんだから契約することに否は無いんだ。



そうして慣れない、頭を使って色々と考えることをしている内に時間は過ぎて行って……


そうそう、ちょっとした事件みたいなことも一応あった。



夜、修行が終わって、ミリュンとミラが寝入った後、どういう訳か、アリシアが私にどういった経緯で今に至っているのかを話してくれた。



「……カノン姉さんが帰ってこなかったあの日、私とミリュン、ミラは直ぐに3人で母さん―アイズ様にどう言う事か尋ねに行きました」


……アイツか。


アイツは何時だって私を見下して、あろうことか私の唯一の友達だったベルまでもその場にいないことを良いことに罵倒していた。


それに対して反発すれば私は容赦なくお腹を蹴られたし、去り際にいつも


「お前みたいなファーミュラス家の面汚し、産まなければよかった」


と凡そ自分の娘に対してするようなものでは無い、憎悪を込めた顔をしてそう言い放つことが通常となっていた。


どれだけ辛くても、初めてで、そして唯一の友達だったベルを悪く言われることは例えそれがしゃべれないとしても我慢できなかったし、私に対してアイツの憎悪が集中すれば妹達が悪くされることは無いか、と無い知恵を振り絞って反抗を続けた。


ベルはいつもそんな私の傍に来て(恐らく)慰めてくれていたし、妹達のことは本当に大切だったから辛くても頑張れた……


「それで、なんて言われた?『出来損ないだから置いて来た』とでも言われた?」

「…………」


アリシアは黙って下を向いてしまう。

ああ、まあそんな感じだろうとは思ったけどね。


逃げるための囮だから、アイツもアイツで要らないなりにも役に立った、位に思ってるんだろう。


「……カノン、姉さん」


悲痛な表情を浮かべて今にも泣きそうになってしまうアリシア。

姉の贔屓目にも、こんな憂いを秘めた美しい表情をする女の子が果たしてどれだけ他にいるんだろう、みたいに不謹慎なことを思ってしまうがそれはそうと……


……ああ、私のために、悲しんでくれるんだ……

アリシアはやっぱりお姉ちゃん想いのいい子だね……


「そんな辛そうな顔しないの!私は何とも思ってないから。むしろそうしてくれたからこそ、今こうしてマスターと一緒にいる道を選べたんだし、アリシア達とも再会できた。だから、ね?」

「…………はい」

「うん!じゃあ、切り替えよ?私も気にしてないし」

「はい。…………私も勿論ですが、ミリュンとミラはそれはもう泣きに泣きました。それを見てアイズ様は……」


またアイツか。

一々絡んでくるなぁ。

まあ仕方ないか……


「『あんな出来損ないの姉さんなんていなかったのよ?あなた達は元から3人姉妹だった。そうよね?』と……平気な顔をして、言い、放って……」


……そこまで言ったのか。

まあ私自身も最早アイツを親ともなんとも思っていないけど……


っと、ありゃりゃ。


アリシアの声と体は震えていた。

堪え切れず涙を流してしまう。


私が大丈夫だ、と言ってもアリシア本人は私のことをこんなにも想ってくれているんだ。


とても心がポカポカしてくる。

うん、本当に、本当にアリシアもいい子に育ってくれて……


「信じ、られませんでした……姉さんが、姉さん、が、とっても、頑張っていたのを私達は、知っている分、余計に……」

「うん、うん、ありがとう……アリシア……」


泣きじゃくるアリシアを抱きしめ、昔見たいによしよしと頭を撫でながら宥めてあげる。


アイツは私には基本何も要求しなかった。

ただ「ファーミュラス家の恥になるようなことだけはしないようにしなさい」と言う以外。


だから私は家の中にいることが多かったし、私や妹たち以外はアイツの支配下である以上その手の者達は誰も何一つ、それこそ契約・召喚のイロハのイすら教えてくれなかったから私が何かを教えてもらう機会など殆ど皆無だった。


だから基本私の知識など独学の賜でしかないのだが、アリシア、ミリュン、ミラはそんな私を何の恥とも思わず沢山のことを教えてくれた(と言っても契約とか専門的なことを私に教える程の年齢では無かったので文字とか地理とかそんな基本的なことが多かったが)。


3人はアイツと私の仲が良くないという漠然としたことは分かっていただろうが、それ以上のことを知られることはアイツも、そして私も望まなかったのでそれで良かった。



「私、達は3人とも、とっても、怒って、家を、飛び出して……姉さん、を、探そう、って」

「うん、うん、ありがとう……」



驚いて尋ね返しそうになったが、飲み込んで、アリシアを宥めることに努める。

3人が、私のために、アイツに怒ってくれた……


3人とも、怒るところなんてあまり見なかったし、それの相手がアイツなら尚更だ。


とても……うん、とても嬉しい。



「魔大陸、までは、何とかなったん、ですが……ブレーン、大陸、は、どこがどこか、全く、分からず、彷徨っている、間に、ミリュンの“アーヌン”や、ミラの“クロ”、私の“イザナミ”も、皆、疲労困憊になって……それで、捕まって……」

「うん、うん、頑張ったね」


“アーヌン”、“クロ”、“イザナミ”と言うのはそれぞれが3人の相棒―私にとってのベルみたいな存在だ。



“アーヌン”が『アヌビス』と言うベル―ケルベロスと同格扱いの種族で、この世と冥界とを繋ぐと言われている黒い犬のモンスター。

その体はとても細く、ベルのような攻撃力ある技は使えないがとても速く、技巧的な技も数多く操る。

私がまだ見ていない特殊な技も沢山あるようだ。


“クロ”は『ヤタガラス』って言うなんかとっても黒い体をしている足が三つある鳥。

ハッキリ言って気持ち悪い。ミラの趣味がよく分からないが……そこは兎も角。

クロは『闇魔法』だけでなく何と、リンやマスターが使ういかずちを幾らか使えるというらしく、更には風魔法をも扱うとのことで、まあそこが一番ミラと合ったのだろう(ミラも『闇魔法』だけでなく『風魔法』を使えるから)。


“イザナミ”はそのまま『イザナミ』とのことで、これは良くは知らない。

私とベルの関係のようにアリシアが彼女を救い出して契約に至ったと聴いている。

彼女はラミア・ロードが更に進化したエキドナ、そしてあの黒騎士とタメを張れるクラスだ……とディールさんが言っていた。


それ程のモンスター達を扱える位、私の妹達は優秀で……

自分のことなど本当にどうでも良くなるほど自慢の妹達だ。


そして、その妹達とその相棒達が疲れ果ててしまうほどに、ずっと、ずっと私のことを探してくれていた……


それを想うだけで胸が痛くなる。

自分はそのことやマスターのこと、何も知らずにただただ生きてきた……


こんなに私を慕ってくれる妹達のためにも、私達姉妹を再開させてくれたシア、皆、そして……



マスターのためにも、もっと強くならなければいけない。



今よりもっと、もっと強く……



その後、数分して気持ちも落ち着いたのか、


「カノン姉さん」


顔を上げたアリシアは涙を拭って真正面で私を捉える。


「ん?何?」


今迄も真剣な話をしていたとは思うが雰囲気がさっきとは違う。

私に話しかけてきた時から少しアリシアの様子は違っていた。


私も居住まいを正してアリシアに向き合う。


「私も、ミリュンも、ミラも……姉さんの大切な人―カイト様にお仕えすること、一所懸命にするから!!」

「え?う、うん、あり、がとう……でも、どうしたの、いきなり」


契約もしたし、一緒に従者を増やす手伝いもしてくれているから一応その前提として行動していたけれど、アリシアがこうやって自分の口でそれを伝えて来るって言うのはこれが最初だ。


「私、ね?姉さんがいなくなるまでずーっと気づかなかったの。……カノン姉さんが私やミリュン、ミラをずっと守ってくれていたってこと」

「それは……アイツのこと、とか?」

「ううん、それだけじゃなくて……私達、姉さんを探すために色んなところを回って、それで色んな苦労をした……」

「私を探すために魔大陸からブレーン大陸まで、沢山動いてくれたんだよね」

「うん。その中で、ミリュンとミラは、いつも夜になると姉さんの名前を呼んで、寂しがって、私が慰めて……それをずっと繰り返してた」

「……そう、そんなことが……」

「……私も、姉さんがいないこと、とっても寂しかった。でも、姉さんがいない時、私がしっかり二人を守ってあげないと、と思って、そしたら……今までどれだけ姉さんが色んなことを1人でやっていたかって、気づいて」

「…………」


私が人間たちに捕まって、奴隷にされてから、3人のことを心配しない日は無かったが、逆に、私がいなくなったのだからファーミュラス家はお邪魔虫も消えて、3人が何かの危険に晒されるようなことは無い、と勝手に一人で納得していた。


と言うよりかはそうしないとやっていけなかったんだと思う。

マスターに出会うまで、奴隷になって、尚もベルとは話せなくって……


3人のことだけでも自分の中でも何とかうまくやっていけている、もっと言えば私がいなくても幸せに暮らせている……そう思わないと……


忘れ去られる辛さ・寂しさよりも、そう思って3人の幸せを願う気持ちの方が要は上回っていたと思っていたかった。


それが勝手に『3人は私がいなくても幸せに暮らしている』ということが事実だと思い込んでしまった。

そんなものは私の妄想に過ぎないのに、いつのまにか虚構が私の現実へとすり替わっていた。



だからこそ、さっきも考えていたように、3人がそんなに苦労しているとも知らずのうのうと暮らしていた過去の―いや、今の自分ですら許せない。


本当に、私は、どこまでも、どこまで行っても弱い……


以前シアとエフィーに励ましてもらったこともあったが、今だって切にそう思う。


シアのように、一人ででも戦える体・力があれば……

エフィーのように膨大な知識があれば……


私はどこまで行っても半端ものだ。


他の種族から恐れられる力を持っているとか言われる魔族のくせに、一人じゃ何も守れない……


私のことをこんなにも想ってくれていた妹達も、同じ道を目指して共に進んでくれる仲間たちも、そして……


「……さん、カノン姉さん?」

「っ!?ゴ、ゴメン」


また、前と同じだ。

私が勝手に落ち込んで、相手に心配させて……


……先ずはそこからだね。


「……それで、本当なら、私は再会して、もう姉さんに甘えるのは止めようって……思ってたんです」


直ぐに話は元に戻る。

アリシアもそれだけ重要な内容を話しているという事だ。


私も今度はしっかりと切り替えて話に集中する。



うーん、「甘えるのは止める」、か。

そこが今まで少し私と話すのを控えていた理由なのかな。


それなら何で今こうやって色々と話す気になったのか、ってことだけど、それは話の流れからして今から話してくれるのだろう。


「でも、リンさんに言われたんです」


え?リン!?

あの子が?


「え!?何を、言われたの!?」



~アリシアの回想~


「……今アリシアやお姉に必要なのはアリシアがお姉離れすることじゃないと思うけどなぁ……」

「な!?い、いきなりなんですか!!」

「まあまあ聴きなって。……アリシアがお姉離れするのって要はただの自己満足でしょ?それをやっても得するのはアンタだけだよ、アリシア」

「ど、どう言う事です!!いきなり不躾ではありませんか!?」

「だから、聴くだけ聴いて、後は自分の好きにしろって言ってるの。……お姉はね、今、お兄のために必死に強くなろうとしてんの。アリシアが思春期で、色々考えてんのは良いんだけどさ、お姉のことを思うんなら、自分のことどうこう言うのより、お姉のために頑張るのが先なんじゃない?」

「あ、貴方に何が分かるんですか!?私達姉妹の―」

「姉妹のことどうこうが分からなくても、今お姉が何を目指して頑張っているか位は分かる」

「っ!?」

「……別にアリシアの考え方自体が悪いとは言ってない。ただその時期を考えて欲しいの。……アリシアがお姉のことを大切に想ってるように、私も一応はお姉の妹分みたいなもんだから」

「…………ごめん、なさい」

「ん、別にいいよ、気にしてないし。……お姉のことが大切なら、本当にお姉のためになると思う事を、ね」

「……はい」


~アリシアの回想終了~


……そんなことが……


「……今、カノン姉さんにとって、私が姉さんに甘えないどうこうを考えるよりも、私達姉妹を救って下さった、カイト様のために、強くなることが何よりも先ず大事……私はリンさんと話してその結論に至ったの」

「アリシア……」

「ミリュンとミラは、カノン姉さんのことが大好きだから、最初っからその気持ちだけで、カノン姉さんと一緒にいられる道を自然に選び取ってたみたいだけど」


別の部屋で、先程寝かしつけた双子のことを思い浮かべる。


フフッ、まあ、そうかもね……


「……うん、分かった。素直に嬉しい。―ありがとう、アリシア」


心の底から浮かび上がった言葉を純粋にただ述べる。

でも、アリシアは頭を振って、「うんん」と否定する。


「私は一人じゃ何も気づけなかった。リンさんに言ってもらって初めて姉さんが本当にしたいことって言うのを真剣に考えたの」

「……別にそれでも良いと思うよ?―ねえ、アリシア、捕まった時のこと、覚えてる?人間って強かったでしょ?能力とか、力の強さとかそう言う話じゃなくて」

「え?う、うん……イザナミがいても、結果的に捕まっちゃったから」

「私達、魔族なのにね、能力的には勝ってるのに負けちゃうんだよ。……私はここでも多分下から数えた早い方なんだ」

「ベルや、あのジョーカーと契約していても、ですか?」

「うん。別に過小評価してるつもりは無い。それだけお姉ちゃんは弱いの。……失望、した?」


少し恐る恐ると言ったふうに聴いてみる。

答えを聴きたくない、とまでは言わないがどういうことを言われるのかはやはり分からない以上ドキドキはする。


確かにいつも、シアの力があれば、エフィーの知識があればと無い物ねだりしてしまうが、自分のそこの弱さは認めたうえでどうにかして行くしかない。


でないと私は誰一人大切な人も守れない、弱い存在のままなのだから。


「……いいえ、カノン姉さんは、いつだって私達姉妹を守ってくれた、最高の姉さんです。いつだって尊敬していますよ?」

「ありがとう……じゃあ、もう一回ちゃんとお願いするね。―マスターを守るために力を貸してくれる?アリシア」

「はい。私達姉妹のお姉ちゃん離れはもう少し先になりそうです」


アリシアが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

可愛い妹だから贔屓目が入るのは避け得ないのだが、それでもやはり内の妹達はとても可愛らしいと思う。

もう既にアリシアはサキュバスの素養も十分な位だ。


姉である私ですら少し見惚れて顔が熱くなる程だもん。



「フフッ、そうだね、まだまだ3人―ああいや、リンも含めたら4人とも、かな?もう少し皆のお姉ちゃんができると思うと、私は嬉しいよ?」

「っ!?―姉さん、そんな可愛い仕草……反則です」


え?何?

何かした私?


アリシア顔真っ赤だけど……





それからは今迄以上に精力的にアリシアも協力してくれて、とうとうディールさんから合格が貰える程にまで第3段階のモンスター収集を終えた。

エフィーにも協力してもらって、出来る者達の進化もさせた。


デュラハンとラミアを進化させて、それぞれ黒騎士、ラミア・ロード(うち1体がエキドナとなった)にするのは相当な魔力を要したそうだが、それでもエフィーは成功させてしまう辺り、優秀過ぎると思う。


ラミアで、エキドナとなった子はあのハゲの一件以来ずっと私達に尽くしてきてくれたことも有り、折角上位のモンスターになれたのだから“エナ”という名前を付けてあげた。


エナは柄の長いロッドの先にそのまま刃が付いた特殊な武器を持っている。

能力的には多重魔法を使えるようになったラミア・ロード達よりも更に使える魔法が増えて、武器を使った戦闘もこなせるという何ともハイスペックな存在に。


見た目自体はラミアから大きく変わらずその見目麗しい容姿が引き継がれてより妖艶さが増した感じ。

……私、多分色々と負けてるかもしれない。

マスター、私じゃなくてエナに欲情しちゃったらどうしよう……


ちなみにシアが訓練中にエフィーはヴィヴィアンについても進化を進めたよう。

ワイバーン・ロードへと姿を変えていた。


飛竜の中では比較的小さな体をしていた彼女も、進化を遂げて二回り程その体を大きくし、かと言ってただ単に巨大化したというよりは私達が筋肉をつけた時のようにシュッとした感じになっている。


……ハッキリ言ってあれにシアが乗って戦った時のことを想像すると戦慄すら覚えるレベルだ。


【私の従者】


①ベル(ケルベロス):1 ②ジョーカー:1 ③黒騎士:1 ④エナ(エキドナ):1 ⑤ラミア・ロード:3 ⑥ロード・スケルトン:10 ⑦ハイ・スケルトン:200 ⑧ファントム(ゴーストの進化系):5 ⑨ナイトメア(ファントムの進化系):2 ⑩デュラハン:10 ⑪ミスト・アーマー:5(リビング・アーマーの進化系) ⑫リビング・アーマー:50 ⑬アンクヘッグ:2(ゾンビムカデの進化系) ⑭ブラックドッグ:5 ⑮ヘルハウンド:50 ⑯スケルトン:75 ⑰ゴースト:30 ⑱シャドウバット:10(トランバットの進化系)⑲トランバット:30 ⑳妹:3


計:494


【アリシアの従者】


①イザナミ:1 ②ブラッドデーモン:1(シアが買ってきたの) ③ミスト・アーマー:5 ④ラミア・ロード:1(私と契約を解除して、妹達に各1体ずつ契約し直してもらった) ⑤デュラハン:5 ⑥ロード・スケルトン:3 ⑦ハイ・スケルトン:50 ⑧ファントム:2 ⑨エクセキューショナー:3 ⑩スケルトン:50 ⑪ブラックドッグ:5 ⑫ヘルハウンド:25 ⑬リビング・アーマー:20 ⑭ブラックホーク:30 


計:201


【ミリュンの従者】


①アーヌン(アヌビス):1 ②ラミア・ロード:1 ③スカルサウルス:2(シアが買ってきたもの) ④ミスト・アーマー:2 ⑤デュラハン:10 ⑥ロード・スケルトン:1 ⑦ハイ・スケルトン:25 ⑧スケルトンライダー:50(ハイ・スケルトンがヘルハウンドに騎乗したもの) ⑨ファントム:5 ⑩ゴースト:15 ⑪スケルトン:55 ⑫ブラックドッグ:3


計:170


【ミラの従者】


①クロ(ヤタガラス):1 ②ラミア・ロード:1 ③パム(パンドラ):1(ミミックの進化系) ④ミミック:5 ⑤ドッペルゲンガ―:5 ⑥ナイトメア:1 ⑦ダークゴーレム:5 ⑧リバイバルスライム・ナイト・ダーク:5(リバイバルスライム・ダークの進化系) ⑨デュラハン:5 ⑩クラウドー:3(ダークスパイダーの進化系)


計:32



⇒合計897



3人はそれぞれ、私とは異なり闇魔法以外の魔法も扱える。

アリシアは火魔法、ミリュンは土魔法、ミラは風魔法。


契約できるモンスターの幅も私より倍広いのだから、これから私が第4段階へと進む過程で、3人の従者となるモンスターは今以上に増えることになるだろう。



そして、私は……第4段階の修行のためにディールさんからの指示を仰ぐ。

すると……



「ふむ……カノン君、君は今よりももっと強くなりたいかい?」


そんな当たり前のことを聞かれても。

だからこそ今こうして修行しているわけなんだけどなぁ……


「うん、勿論だよ?」


ハッキリとそう答えてもディールさんの表情は変わらず真剣。

何だろう……ちょっと怖い……


そんなことを考えていると彼女は少し黙り、そうして、その真意を話してくれた。


「……君とエフィー君に共通したことだが、術者本人が狙われやすいという事は分かるかい?」

「うん、それは分かる。私も召喚を主体としてるし、エフィーはエフィーで六神人形シィドゥ・オ・ドールを操ってるからでしょ?」

「うむ。だからこそ、それを崩そうとしたら君達を狙う、という事はある意味当然なんだが……」

「えーっと……だから私は『剣術』をマスターに取ってもらって、それを今鍛えてるんだよね?『影術』も一緒に、だけど」


エフィーは何だかとってもスゴイ技を見せてもらったそうで、それを習得できるように頑張ってるって言ってた。

一方で私は自分を守るために剣と影をもっとうまく扱えるように、ってことを今も頑張っている最中だ。


……その中で、「もっと強くなりたいか?」と聞くってことは……


「……あんまり、私の修行、上手く行ってないの?」


私が尋ねると、ディールさんは珍しく慌てて否定する。


「いやいや、そうじゃない、そうじゃないよ。……君の修行は至って順調だ。このままいけば、君だけでも上級の剣士と戦えるようになる位だ」

「なら、どうして……」


何だか少し躊躇っている様子。


「別に遠慮はいらないよ?私自身、弱いってことは分かってる。だからこそマスターのために強くなろうと今頑張ってるわけだし」

「ふむ……そうだね、分かった。―率直に言おう。確かに君は強くなっているがエフィー君のように一人で戦うのに少し難がある」

「え?でも、今さっき……」

「うむ、上級の剣士ならもしかしたら勝てるかもしれない。……でも、君はシア君やリゼル君が戦おうとするような、本当に強い使い手と戦うことになった時ゴホッゴホッ……どうする?」

「っ!?」

「要するにね、器用貧乏なんだよ。剣術も、魔法も、大抵のことを一定以上できるからこそ、本当に突出した能力と言うのが今迄必要にならなかったんだろう。ゴホッ……影も、剣術も、確かに上達してはいるがどれもこれも中の上止まり。良くても上には達していない」

「…………その、通りだね」


私はぐうの音も出なかった。

私も何となくはそう思ってた。


魔族だから、能力が他の種族よりも高い。

それに、マスターに契約・召喚を何とかしてもらったから、いつも使っていた短剣や影が突出する位に強くなる必要と言うのも無かった。


ディールさんが言っているのはそれじゃあダメだってこと。

私自身も薄々そう思っていただけに、他人からそう言われると、こうグサッと来るなぁ。


「恐らくこのまま行ってもカイト君と共にいることはできるかもしれない。でもそれはあくまで契約・召喚が優れている、という前提があればこそだ。ゴホッ……もしも、君自身においてもエフィー君のように強くなって一人ででも戦えるようになりたいと思うのならば……一応私にも選択肢を与える用意がある」


ディールさんは「着いて来なさい」と言って歩き出す。

私は勿論その後ろについて行き、何があるのかその眼で確かめる。



場所は地下。

最近は孤島で修行することが増えてきたので久しぶりにディールさんの家まで来たかと思えば、暗い暗い地下の一室。


そこには何も無い。

本当に何もなさ過ぎてビックリするくらい。


何かを見せるために来たのだと思っていたので拍子抜けしていると、彼女はマスターが持っているのとはまた違ったアイテムボックスから何かを取り出す。


……マント?


いや、普通のマントじゃない。

確かに色は黒のみ、と質素なものだがその纏っているオーラと言うのか何と言うのか、それがもう普通じゃない。


マントという身に“纏う”物自体が何かを“纏っている”というのはおかしな気もしないでもないけど、だってそう感じたんだもん、仕方ない。


「……これは『シャドウの闇衣』。私が過去、“死淵の魔窟”に一人で潜って見つけたものだ」

「え?あそこを……一人で……」


ジョーカーを仲間にする以外にも、従者を増やすために何度もあそこには潜ったけど、それでもリン・フェリアのどちらかには必ずついて来てもらった。


むしろ、殆どの場合は二人がついて来て、片方が無理だった場合、回復に奔放しているユーリに無理言ってきてもらった位だ。


マスターですらも「あそこに一人で行くのは自殺行為だ」って言ってたもん。


それを一人で……やっぱりこの人は規格外だ。


「流石に私もあの時は死ぬかと思ったけどね。ゴホッ……まあそれはいい。―『シャドウの闇衣』、『ルナの光鎧』と対を成すとか言われているかなりのレア物だよ」

「確かに、見た瞬間凄いものだってことは分かった」

「『ルナの光鎧』は“【無いもの】を【有るもの】にする”って言われたり“光を操りあらゆる感覚を狂わせる”とか言われたりするね。それに対して『シャドウの闇衣』は“【有るもの】を【無いもの】にする”とか“闇を操りあらゆる感覚を喰う”と言われる」

「……私、あんまり頭良くないから、良くは分からないけど……凄いもの、なんだね」

「うむ、まあ凄いものではあるね。……これを君にやってもいい」

「……え?でも、私、お金とか、あんまりマスターに渡されて……」

「別に対価を要求しようとしたわけでは無い。……いや、しいて言えば、対価は君の『覚悟』かな?」

「覚悟……」

「ああ。これは力を欲する者に対してシャドウが自分の力を貸すために残した、という逸話があってね。だが一方で身に余る力―シャドウの闇を制御しきれず数多の人間が身を滅ぼしたと聞く」

「…………」

「フフッ、私もこれを一度使おうとしたことが有ってね」

「え!?じゃ、じゃあ……」

「いや、別に君の想像するようなことは私には起きなかった。むしろ『……汝は力を欲する者に非ず。去れ』って言われてしまったよ」


……ホッ。

まあそうだよね。


そうじゃないと今目の前にいるこの人は何なんだ、って話になるし。


「これを使えば、もしかしたら君自身は強くなれるかもしれない。だがそれにはリスクも伴う。……だから、私が君にできることは選択肢を上げることだ。無理強いするつもりは無い。ゴホッ……ああは言ったが君が十分に強いことは私も認めているんだよ。君は特に召喚と言う方法で仲間を頼るという道を体現している。カイト君に対してそれを示すという意味ではそのまま変わらずいる、という事も一つの道だ」


……ディールさんは本当に優しいなぁ。

本来ならマスターにだけ誠意を示せばこの人の義理は果たせるはずなのに、私達奴隷に対しても真剣に向き合ってくれて、それで私が傷つかないよう逃げる道も置いてくれる。




だからこそ、私も真剣に向き合わないといけない。




「……私はね、確かにマスターに頼って欲しい。もう、マスターに傷ついて欲しくないしそんな姿見たくない。でも、それは何て言うか……私が弱くて、だから従者の皆に頼ってるんだ、みたいななし崩し的な感じじゃなくて、私も強くなって、マスターも強くって、でも頼りあう……そんな本当に信頼し合えた上で支え合うのがいいんだ」

「……ああ、そうだね。その方がお互いのためになるのは確かだ。でもそのためには危険を伴うよ?もしかしたら……」

「マスターだけが危険を負う、なんてことはもう嫌なの。本来なら私達奴隷がマスターのために体を張って守らなければいけないのに……だから、私はもっと強くなる。それが危険を伴うとしても、マスターはいつももっと危ないことを、私達のために、たった一人で頑張ってくれていた。だから、私もマスターのために頑張る!!」

「……そうかい、分かった。もう何も言わないよ」

「うん!ありがとう。大丈夫、私はマスターの奴隷だもん!!マスターのものなのに、勝手に死んだりなんてできないもん」

「フフッ、カイト君が聴いたらさぞ喜んでくれるだろうね。……本当にカイト君はいい仲間に恵まれている」

「マ、マスターに言わないでね!?私がこんなこと言ってたの」

「ああ。そう言うのは君自身からカイト君に言ってあげなさい」

「い、言わないわよ!!…………ちょっとしか」


……マスターの……バカ。


「フフッ―じゃあ、私は君がシャドウの闇を操れるようになること前提で君の妹達に指示を出すから」

「うん。ありがとう、ディールさん」


ディールさんは「ああ、しっかりね」とだけ言って、手に持っていたマントを渡して出て行った。


手に持っているマントから、何か蠢くモノが今にも暴れ出しそうな感覚に襲われる。

まだ何も始まってすらいないのにそれに飲み込まれそうになる。


私は頭の中で、マスターを、シアやエフィー達、それに妹達のことを思い浮かべる。



……うん、大丈夫。


私、もっと強くなるからね。

待ってて、皆……



そうして、私はマントを手に、闇との対話を始めた……




=====  カノン視点終了  =====

カノンはシアやエフィーとは違って突出したものが無いと思っていましたのでこんな感じになりました(勿論契約・召喚を除いて、ですが)。


私の知っているとあるゲームの中で、闇の精霊から力を借りるための条件がその力を示せ、みたいな感じのものがあります。

光の精霊は穢れがないこと、みたいな感じのくせに(ゲーム自体は好きですよ?)。


それ自体にステレオタイプが混じっていると感じるのですがそれは兎も角、それも含めてでもカノンには強くなってもらうために何にも無し、と言うわけにはいかないだろうなぁ、と思いまして……ですからシアやエフィーの場合とは強くなる過程で少し毛色が違っています。


話は変わりまして、ステータスにカノンの従者も載せるって申してましたが……これはヤバい!!


調子に乗って従者増やし過ぎました。

本当に一杯いますからね。


従者が増えれば増えるだけ総合的にカノンが強くなることを意味しますが一方で比例的に私の負担も増えてきます。

クレイやレン等メンバーについては何とかしますし従者についてもちゃんと載せますがその能力の正確性については多少ご容赦願いたいと思います。


簡単な誤字・脱字以外にも、後から修正することも前提とさせてください。


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