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エフィーの修行

=====  エフィー視点  =====


私の修行もようやく第3段階へと突入した。


第1段階のディールさん宅にある本の全てを読書し尽すことがギリギリだったから第2段階はどうなるかと思ったけど……


第3段階は、カノンさんの修行、つまりその第1段階で集めに集めたスケルトンを、ハイ・スケルトンへと進化させる。


フェリアは凍らせ、リンは痺れさせてそれをカノンさんが契約していく……

だからスケルトン集め自体はそこまで苦では無かったそうだけど、それとは別に、カノンさんには3人の妹さんが新しく仲間になった。


自分の身近な人が仲間になってくれたのだから、カノンさんにとってはこれ以上も無い味方でしょう。


それは兎も角……その進化の前準備として、私は修行の第2段階でリバイバルスライム各属性から繰り返し何度も何度も魔力を抽出した。



ディールさんから渡された本に書いてあった、『モンスターの進化』についてのことを簡単に頭の中で噛み砕いて整理する。


①モンスターは進化するのに膨大な魔力を要する


②その魔力は基本的には他のモンスターや人間等、他の生き物を倒すことで長い間かけて蓄えていく


③前提として生き物が死ぬと魔核になったり、大気へと還ってしまう魔力もあり、倒して得られる魔力と言うのは実はあまり多くは無い


④そして、時間をかけて魔力を貯めて行くので、その過程の間に無駄になってしまう魔力も少なくない量存在する(それは私達人が食べ物を食べて、それが全てたった1つのエネルギーへと還元される訳では無いことと似ている)


⑤それでも、本当にその長い期間、他のモンスターに淘汰されずに生き残って膨大な魔力を貯めた数少ないモンスターだけが進化という選ばれた者の道へと辿り着ける



本当にごく簡単に整理するとこんなものだが、実際に本に書かれていた内容はもっと微細な内容にまで……っと、少し逸れてしまった。


話を戻すと、一般的な進化というのはそんなものだ(と言っても実際に知っているのは恐らくディールさんから教えてもらった私達だけだけど)。


ここから、私が取り組んだ、そしてこれから取り組むディールさん式の進化論へと移行することになる。



私が第2段階の修行で取り組んだ内容は、リバイバルスライムから魔力を抽出する、というものだった。


リバイバルスライムはその名からも分かる通り、普通のスライムとは異なって回復力が尋常では無い。

それは別に体力・HPだけの話では無く魔力・MPについてもそうだ。


だから彼等と戦闘する際は必ず止めを刺さなければ直ぐに完全復活してしまう。

奴等リバイバルスライムへの情けは自分達のためならず」という冒険者間の標語はそれを端的に表していると思う。


兎に角、ディールさん式の進化論は彼等のその特性を活かす。

そして何と言っても、その理論の核を担っているのは私の『魔力操作』だ。



先に述べた


~③前提として生き物が死ぬと魔核になったり、大気へと還ってしまう魔力もあり、倒して得られる魔力と言うのは実はあまり多くは無い

④そして、時間をかけて魔力を貯めて行くので、その過程の間に無駄になってしまう魔力も少なくない量存在する(それは私達人が食べ物を食べて、それが全てたった1つのエネルギーへと還元される訳では無いことと似ている)~


という過程をリバイバルスライムの特性と私の『魔力操作』で乗り切る。


つまり……


Ⅰ精密な魔力操作で、抽出する際に無駄になる魔力を極限にまで減らす(これは③を克服するもの)


Ⅱリバイバルスライムは勝手に復活してくれるので、普通に進化するために必要な膨大な数のモンスター討伐を代替できる(ディールさん曰く、「彼等は再生すればするだけ強くなる傾向にあるから彼ら自身の得にもなる」らしいので彼等を利用する罪悪感も多少なりとも少なくなるそうです)


Ⅲディールさんが用意して下さった特別なビーカーに魔力を貯めて、また魔力操作で一気にそれをモンスターへと注入する(これは④の部分を何とかできるものだ)⇒※この際、一気に膨大な魔力を注入するわけだから、それの反動でモンスターに負荷がかかり過ぎないよう、そこにも緻密な魔力操作の技術が要求される


Ⅳついでに、ディールさんのハイ・スケルトンが聖・光属性をものともしないのは亜種だからなのだが、その例で言えば……


スケルトンは闇属性。

普通の進化論で言うと他の属性―火だったり水だったり―のモンスターを倒してもそれが長い間かけて進化へと持って行く過程でどうしても、その魔力の属性は適応できるよう自分の属性である闇へと濾過されてしまう。


だから、このディールさん式ではその濾過する時間を与えず、一気に闇とは正反対の属性を流し込む……そう、だからこそ今回、ディールさんが用意してくれたリバイバルスライムの属性にはシャイン―光属性が多かったのだ。




第1段階であらゆる本を、ジン、シズク、アカリを魔法の糸(マジックフィル)で繋ぎながら読むということをやり切り、そして各属性のリバイバルスライムから無駄にせず魔力を抽出するという作業をひたすら繰り返した今、私の魔力操作は何の過大評価でもなくかなりの域に達していると思う。


でも、六神人形シィドゥ・オ・ドール6体全てを一度に操るには今の状態でもまだ遠い。

私が後衛のこともあり、今の限界数である風属性のジンと光属性のアカリの前衛2人を操って戦うことを基本としているが、できるだけ早く6体を1度で操れるようにならなければ。


それだけでなく、ディールさんが見せて下さった、あの、域まで……



~回想~


「ふむ、エフィー君、君にはこれから3体を常に魔法の糸(マジックフィル)で繋ぎながら私の家にあるゴホッゴホッ……本を読みつくしてもらうわけだが、それは別に、君のこれからの戦闘スタイルを彼女達中心にする、という事では無い」

「それは……どう言う事でしょう?」

「ふむ、私の戦闘スタイルを見ていると分かるかと思うがゴホッ……ハイ・スケルトンを操って、それを中心に戦っていると、どうしてもとある弱点が出てくる」

「……成程、『術者自身』、ですか」

「ふむ、その通りだね。『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の能力は尋常じゃない程に高い。それを使って戦っていると、必ずと言って良い程に相手はエフィー君を狙って攻撃を仕掛けて来るだろう」

「それが分かっているわけですから、彼女達を操って、対処する、というのでは?」

「ふむ、それもまた一つの手なんだけどね。私がハイ・スケルトンを選んだのはそこら辺と関わってくる。ゴホッゴホッ……私を攻撃しようと思っても、圧倒的な数のハイ・スケルトン達が死してもなお蘇っては壁となって立ちはだかるわけだ」


それに加えて、ハイ・スケルトンは知性も備えていますし、それを最終的にはディールさんが操る……

敵になった場合を考えると本当に恐ろしいですね。


「……ふむ、まあやはり一度見せようか」


? ディールさんはそう言って外へと向かいます。

私にもついて来るように促し、それに従い私もついて行きますが……何でしょう?





シアさん達が訓練している場とは異なり、普通に外に出てディールさんは私に告げる。


「エフィー君、君の最強の魔法を撃ってきたまえ。遠慮はいらん」

「え?魔法、ですか?」

「うむ。兎に角、百聞は一見に如かずだ。どれだけ言葉で説得しようと努めても、一度の実見には及ばんだろう」


いきなりのことで疑問無しとはいきませんが、ディールさん自身、そのことも含めて何かを私に見せたいようです。


であれば、一度それは飲み込んで、ディールさんの言う通りにしてみましょうか。


「……では、行きます!!」

「うむ」


『無詠唱』と『MPチャージ』を用いて私の今現在の最高の威力・効果を誇る魔法を精製する。


右腕を天に掲げ、次第に燃え盛る紅蓮の業火は巨大な一本の剣へと形成される。


「フランベルジュ!!」


何か球を投げつけるかのように手を振りおろし、炎剣をディールさん目がけて放つ。

魔法は轟音・うねりを上げて一直線に突き進む。


ディールさんは私の魔法を見て笑みを浮かべ、


「うむ、良い技だ。威力も速度も、全てにおいて申し分ない。これは少しだけ骨が折れるか――ふむ」


と言うと、左腕を炎剣に向けて突出す。


え!?ど、どういう……えっ、嘘っ!?



ディールさんの下まで到達したフランベルジュはしかし、その突き出している左腕の前に、まるで何かの見えない壁があるかのように阻まれ、それ以上進めないでいる。


そして、あろうことか次第に剣先がボロボロと崩れて行き、最終的にそれは全て魔力として大気へと還って行ってしまった。


ディールさんは「ふぅ」と一息ついて手首をぶらぶらとさせる。


「…………」


私は目の前で起こったことが信じられず、一切の声が出せないでいた。

その私にディールさんは特に何事も無かったかのようにごく普通に話しかけてくる。


「ふむ、別に慰めでも何でも無く、君の魔法は威力・精度、その他全てにおいて私の見たことのあるものの中でも上位に入るレベルの物だった」


……そうであってほしいです。

これだけは、ご主人様にも、シアさん、クレイさんにも通じると思っていた魔法でしたから……


「ゴホッ、ただ、私の使った秘密兵器が殊に、対魔法においては無敵なだけなんだ。魔力操作を極めし者にのみ体得できる極みの技―私命名だが、“マジックキャンセル”と言う。リッチ攻略の功績の6割はこれだね」

「それを……私も……」

「うむ、これはカイト君にも見せていない。これを会得した自分を想像してみればいい……自分は『無詠唱』やら何やらで凄い威力の魔法をバンバン放つ一方相手から来る魔法は全て魔力操作でどうとでもなるという圧倒的な力の理不尽を」




~回想終了~


“マジックキャンセル”……

私もあれを使えるようになれれば、六神人形シィドゥ・オ・ドールを操っているだけでなく、私自身の成長にもつながる。


そうすれば、仮に、六神人形シィドゥ・オ・ドールが何らかの理由で一緒に戦えなくなったとしても、私個人・一人ででも戦えるように。


……ご主人様、待っていてください!!




第3段階、つまり、スケルトン達の進化は何事も無く、とまでは行きませんでしたが、5日で何とかなった。


ディールさんからも合格を貰えたし、カノンさんも喜んでくれました。


ハイ・スケルトンに進化できたとのことでカノンさんはご主人様とお話していた『銃』という武器の検討を行うそうです。


ちなみにディールさんにもそのことをサクヤさんと共に話したそうですが、その際に出てきた爆弾と言う武器?を見て


「ふむ……私には銃より、このダイナマイトの方が都合が良いね。ハイ・スケルトンだけじゃなく、スケルトンでもこれを持たせて特攻させれば……」


と何やら不穏なことをおっしゃっていましたが……まあ大丈夫でしょう!





さて、第3段階はスケルトンをハイ・スケルトンにすることに限って行う修行でしたが、ヴィヴィアンやラミアなど、他のモンスター達の進化については第4段階と並行して行うらしい。


第4段階はディールさん、カノンさん、サクヤさんと私で一つの大きな家を建てる、とのこと。


ご主人様が帰ってきた時、立派な家が在ったらさぞ喜んでくださることでしょう。


この『建てる』は私達が大工となるわけではなく実際の労働はモンスターや六神人形シィドゥ・オ・ドール達が担ってくれる。

その際私は彼女達を操らなければならないのも、修行という事なのだから勿論当たり前だ。


ディールさんは今迄に本当に数えきれないほどの隠れ家を1人で(モンスターを使ってではあるが)造ってきた経験があるし、「5階建も造れる」と豪語するサクヤさんの持つ知識と合わせればきっと素敵な家が造れるに違いない。


今ある私達の家も、無駄にならないよう別棟か何かに位置づけるとのことだし、家に使う材木も、シーナさんに『木魔法』を習得してもらうとディールさんが言っていた。


3つあるハイエルフの秘術の内の1つだと言っていたけど、それは読んだ100を超える本の中には無かったのでディールさん自身の知識ということだろう。


兎に角、修行という事でもあるし、何よりご主人様が帰って来られた際に、体を休められる所を造って出迎えて差し上げたい……




という事で、張り切って修行に臨もうと思ったところ、ディールさんから臨時の試験を課された。


シアさんが闇市へと向かって、カノンさんの妹達やオトヒメさん、セフィナさんと共に仲間になったレイナさんと模擬戦をして欲しい、と。


私がどれだけ操りつつ戦闘できるかを見るとともにレイナさんの実力も図りたい、と。


私の補佐をしてくれるとのことですし、ここ数日色々と話す機会はあったのですがその実力を見ることというのは無かったですね……


北のソルテール帝国の元少尉、そしてその後ギルドマスターもしていたとのことでしたし、その方を相手に今の自分がどれだけできるかを知りたいという気持ちは私にもある。


「私、か?別に協力を惜しむつもりは無いが……戦いと言う以上手加減はせんぞ?」


レイナさんの黒い眼帯の無い方―右のスカイブルー色をした目が鋭く私を射抜く。

レイナさんはここに来た際やはり私達と同じように簡易・質素な衣服しか身にまとっていなかったのでリゼルさんが服をあげていた。


リゼルさんの戦闘服は肩を大胆に出せるようなっていて、下はホットパンツ。

腰には何故か破れた服を巻いている。


大雑把に伸びた私と同じような白色の髪を後ろでポニーテールに結っているが、そこからですら隙の無さを窺わせる。


……その左腕には彼女から貰ったものでないと一目で分かる特殊な形のガントレットが。


指の部分はモンスターのそれのように先が鋭く尖っていて、甲には何かの紋様のついた灰色の水晶がはめ込まれている。

……何とも異様だ。


でも、別にそれで萎縮するなんてことは無い。


「ふむ、それでいいよ。君達の今の実力を知るために設けた模擬戦の機会だ。ゴホッ……エフィー君、君はあまり魔法の糸(マジックフィル)をつなげていないイツキ君かホムラ君を使いたまえ。2戦するから。レイナ君は……そうだね、その間1度でもエフィー君に触れることが出来たら、何か便宜を図ってやろう」


それは……イツキとホムラを使うことはいいんですが「触れることが出来たら」って……

その条件……


「……『触れることが出来たら』?私を舐めているのか?」

「フフッ、そう思われていると思うのなら実力でその評価は覆したまえ。ソルテールは実力主義な国だったのだろう?そこで少尉をしていたのならそれ位容易いことじゃないかい?」

「くっ!!」


レイナさんはディールさんの言葉を受け、少し怒って位置へと向かう。


ご主人様と戦ったその前の時とは異なり、ディールさんは特に何も弁解をするようなことはせず、かえってレイナさんを煽っているようにも……ああ、なるほど。


そこも評価する、ということか。



私もイツキ・ホムラを伴って反対側へと立つ。


「ふむ……それではエフィー君、ホムラ君はヒューマンモードで、イツキ君はモンスターモードで戦ってみてくれ」

「分かりました―では、先ずはホムラ、行きますか」

「はい、エフィー様」


左手の指から、ホムラに魔法の糸(マジックフィル)を伸ばして繋げる。


「……魔法人形マジックドールか」


レイナさんは冷静に分析しているようです。間違ってはいますが先程のこととはきちんと区別して冷静になれる、と言うのは流石ですね。


とは言え、レイナさんも私の戦闘スタイル自体はまだちゃんと理解していないようです。

それにそもそも魔法人形マジックドール六神人形シィドゥ・オ・ドール達は異なりますからね。



「はっ!!」



レイナさんはガントレットに付いている灰色の水晶に手をかざし、その紋様から光が灯った後、地面にそのまま両手を付く。


すると…………ん?


地面から何かの背丈を図る際のように手を段階的に上げて行くと、そこに土が集まって行き、私のフランベルジュみたいに剣を形作って行く。



鞘に納める前の払いをしてみると、普通の剣と差のないブンッという鋭い音を響かせる。


「ほう、土の剣、か」


ディールさんもそれを見て感心しているようだ。

……私も驚いた。


私の魔法は魔力を火へと変換してから、それを剣へと生成する2過程がある。

一方で今目の前でレイナさんが見せたものは、既に存在している土をそのまま剣へと変えるという1過程しかない。


……あれができれば魔力も節約できますし、便利ですね。


「フッ、私を舐めてかかると後悔するぞ、エフィー。『錬金術』の恐ろしさ、思い知るが良い――行くぞ!!」


レイナさんはは姿勢を低くして走り出す。

その駆け始めは褒められるべき勢いだし、それだけでも過去の彼女の経歴が真実であると思い知らされるのだが……


『錬金術』って言っちゃったらダメですよ!!

読んだ本の中にありましたし、能力分かっちゃうじゃないですか!!

何なんです、少尉とかギルドマスターとかしっかりした肩書きがあるのにうっかりさんですか!?


戦っているとはいえ仲間ですから私にはいいんですが、これがもし常習的だとなると……要改善ですね。




私はホムラを動かし、この突進に対応させる。


ホムラの武器はその小さな体からは全くの不釣り合いな紅蓮の刀身が輝く巨大な斧。

だがそれをまるで片手剣を使うかのように扱ってくれるので私としても操るのに助かる。


別に操らなくても彼女達はそれぞれ能力が突出して高いので普通に戦えるのだがそこはディールさんのように将来の私が操った方が総合的に強いと思ってもらえるようになるための投資だと思って今は我慢してもらう。



「ふんっ!!」

「―っ!!」


レイナさんが鋭く一閃させた土の剣は盾のように構えたホムラの斧によって防がれる。

防がれたレイナさんはそれで怯まず、反撃を想定してホムラの死角になるよう横に跳んで突いてくる。


今のも相当洗練された動きで全く無駄が無い。

恐らくシアさんやリゼルさんなら対応できるだろうが、最近剣術を訓練し始めたカノンさんは難しいレベルだろう。


『錬金術』と言いながら近接戦闘をこのレベルでこなせるというのはやはり相当優れた人である証拠だ。


だがここで、操っていなければ避けられた、なんてことを言わせないためにも私がこれをかいくぐらなければいけない。


私は即座に糸を引いて、ホムラをバックさせる。

躱した後ホムラの反撃と共に私も独自に魔法を仕掛けてこの戦闘スタイルの利点を大いに活かす。


「爆砕斧!!」

「アクアソニック!!」

「ぐっ!!」


振りかざした斧に赤い光が集って行き、叩きつけるように振り下ろした斧を前に、レイナさんは急いで攻撃から防御に転換する。


だが一撃でその土の剣を葬り去り、更にその後地面をも穿って飛来する噴石の如くそれは彼女に襲い掛かる。

守る手だてが無くなって、レイナさんは両手をクロスさせて頭を庇う。


斧からの攻撃が止んだ一瞬の隙間を見逃さず、レイナさんはバック転で距離を取った後さっきのように地面をタッチして土を隆起させる。


それに阻まれて私の手から放たれた水の弾丸は追い打ちとはならず、土の壁を破壊するだけにとどまった。


……あれを防ぎますか。

ただのうっかりさんでは終わらない辺り、流石ですね。


レイナさんは攻撃が止んだのに、悔しそうな表情を浮かばせる。


「くっ、どういうことだ!?魔法人形マジックドール使いが戦闘中魔法を使うなんて聞いたことが無いぞ!?」


……普通ならそう言った相手の能力を見破ろうと奮闘するのも戦闘の中では大事なことなんですがそっちが自分から手の内バラしちゃったから……



~フフッ……死霊魔術師ネクロマンサーや人形使いが大成するうえでこれは本当に不可欠の要素だからね~


ディールさんが言っていたことを思い出す。

逆に『無詠唱』が無いとこの戦闘スタイルは出来ない、と。

まあその通りですね。


人形達を『操る』と、魔法を使うためにする『詠唱』は両立しないこと。


後者を『無詠唱』でクリアできているからこそ操りながらの魔法が可能となる。


……でも、本当に考えれば考えるだけこの戦闘スタイルは相手にとっては理不尽極まりない。


操るので両手が塞がっている、というのが一般的な人形使いだが、そもそも私はディールさんの教えでホムラを初め、一体操るのために必要な指は3本で済んでいるし右手は全部空いている。


人形使いを倒そうとすれば、その操っている本人を狙うと言うのは常套手段だが、それを魔法を使うという事で対抗される。


カノンさんのように近接戦闘もできるようになるわけでは無いが、私には元々そんな才能は無いからそれでいい。


ディールさんも


「君も私のように魔法だけを極めればいい。それだけで私をも凌駕する程の高見へと辿り着ける可能性が君にはある」


と言ってくれた。


だから、このスタイルを極め続ける。

シアさんやカノンさん、リゼルさん……皆さんが私と同じくご主人様のためとなる道を目指して下さるが、だからと言って四六時中全員が全員常にご主人様のお傍にいられるわけではない。


1人ででもご主人様をお守りできる、そのレベルにまで……




レイナさんは先手必勝で終わらせようとしたらしいですが、その見立てを直ぐに修正し、私の力に付いては棚上げで更に襲い掛かってきました。


普通なら能力が分からないと萎縮してしまうものですが、あえて危険を冒してまでも攻撃を仕掛けて来るとは……


自分がやられないという自信もあるのでしょうが、純粋に勇気があるともとれます。


中々できない行動に感嘆しながらも私はホムラで迎え撃つ。


「紅蓮旋斧!!」


レイナさんがまた創り出した土の剣はホムラの攻撃に無残に跡形もなく吹き飛ばされ、私はそのままホムラで追い打ちをかける。

わざわざさっきと同じように私が攻めなければいけない必要性はありませんから。


レイナさんは今度は両手を地に付いて先程よりも大きな土の壁を創り出すも、ホムラの斧の猛攻は止まらず、それすらも吹き飛ばしてレイナさんに襲い掛かる。



斧が彼女の喉元に突き付けられ、ディールさんの「そこまで」との静止の声がかかる。


「ふむ、上々だね。レイナ君も中々良かったよ。ゴホッゴホッ……期待以上のできだ。もう1戦行けるかい?」


私達に負けた後呆然としていながらも、ディールさんの言葉で我に戻る。


「あ、当たり前だ!!私は、私はまだ戦える!!」

「ふむ、では10分休んだ後もう1戦といこうか」


ディールさんは私達にポーションを渡して休むように促す。

レイナさんは大人しくそれに従い、片膝を立てて目を閉じる。


……あれは軍人の方特有の休み方、ですかね?


一応そんな休み方がある、ということも知識として吸収しましたがやはり実際に見ると頭の入りが違います。


それに、彼女も休むべき時はきちんと休んでいますし……切り替えがきちんとできるというのは良い点ですね。






そして、10分後……



シーナさんと少し似ている容姿を持つ、土属性を司るイツキを呼び、準備させる。


レイナさんも準備ができたようで、だがディールさんが彼女を静止し、話しかける。


「ふむ、レイナ君、君はゴーレムは創れるかい?」

「……ああ、環境に依るが。水場ならアクアゴーレム、火山帯ならファイアゴーレム……ここなら普通のストーンゴーレムだ」

「ほう……数はどれ位?」


ディールさんの質問に、腕を組んで少し考え込むレイナさん。


「……あまり体調どうこうと言い訳はしたくないが、それでも体の良し悪しに依る。悪い時で10体、良い時で50体……まあ通常なら20~30だな」


それは中々凄いですね。

カノンさんやご主人様の契約・召喚とはまた違った良さがあります。


契約せずともその環境が有れば仲間を創り出せる……



ディールさんはそれを聴いて満足げに頷く。


「ふむ……今はそれで十分だ。まあ私がこれから見る以上、悪い時でも50体創れるようになってもらうが」

「なっ!?そ、そんなにか!?あれは1体創るのだけでも結構な神経を……」

「安心なさい。君も今よりも強くなれる。……まあエフィー君に敵うかどうかは保証しかねるがね。―さ、2戦目と行こうか」


レイナさんはディールさんの言葉にとても複雑そうな表情をしたが、切り替えて、ゴーレムを創り出す。


腕の水晶の紋様はさっきのよりも強い輝きを放ち、地面から土がどんどん集まって行き、次第にそれはゴーレムの形に。


凡そ5分程経つと、22体のゴーレムが姿を現す。

疲れた様子のレイナさんとは対称的に、そのゴーレムたちはいるだけでもかなりの圧迫感を与える。


……まあクレイさんを見ている分、普通の何の変哲もないゴーレムですし、本当にそこまでなんですけどね。



「ではイツキ、お願いしますね」

「はい!!エフィー様!!――ヒューマンモード解除、モード“ティラノサウルス”!!」


イツキはホムラとは少し違って、元気いっぱいに返事をし、そして変形する。


凡そ彼女の体の大きさとは似ても似つかない、巨大な1頭の竜が……


ご主人様がこれをご覧になった時、普段はお見せにならないような位興奮していらっしゃって


~おおう!?恐竜まで再現しやがったのか!ナイスだ製作者!!~


とおっしゃっていました。


『ティラノサウルス』というのは知識に無かったんですが、ご主人様曰く恐竜と言う種に当るそうです。


ゴーレムもモンスター達の中では相当大きな部類に属しますが、今目の前に現れたイツキのモンスターモードに、レイナさんはその片目を見開いて圧倒されている。


そりゃそうですよね、ゴーレムの何倍もある大きさで、しかも圧倒的なその迫力……


「な、何、だ、これは……」

「ふむ、サクヤ君が変形した姿も中々カッコいいが、私はイツキ君が変形した姿が一番好きだね」


ディールさんからもお褒めの言葉が。

イツキはそれに応えるかのようにその凶暴そうな口を広げて雄叫びを上げる。


「グギャーーーーー!!」

「う、うゎぁ!!」


レイナさんは怯えてしまい、頭を抱えてしゃがみこむ。


「ふむ、見たことも無いだろうし迫力がある分そうなってしまうのも無理はない、か。―レイナ君、大丈夫かい、戦えるか?」


ディールさんが気遣って声をかけると、恐る恐ると言ったように顔を上げ、


「……大丈夫、なのか?私を襲ったり……しない?」


と。


……あれ?

彼女、本当にレイナさんですか?


「うむ、今回の戦闘は“君”対“エフィー君”、と言うより“ゴーレム”対“エフィー君が操るイツキ君”、という構造だ。ゴーレムに危害はあるだろうが君本体を狙いはしない」

「そ、そうか……」


レイナさんはゆっくりと立ち上がり……


「エフィー、今度は負けないからな!!」


……さっきのは無かったことにするようです。


本人もあまりツッコまれたくないんでしょうから、私もその意図を組んであげることに。


「はい。お願いします」

「うむ、では始めようか」



ディールさんの合図でレイナさんは一斉にゴーレムたちに命令する。


「行け!!ゴーレムよ!!」


その命令でゴーレムたちはイツキに襲い掛かる。

私は今度は左手の指全てから糸を伸ばして繋げ、迎撃させる。


「グギャーーーーー!!」


イツキは回転し、迫ってきたゴーレム達をその尻尾だけで文字通り吹き飛ばしてしまった。


その一撃だけで攻撃を受けたゴーレムはノックアウト。


吹き飛んできたゴーレムたちを受け止めようとしたゴーレムすらもその勢いを押し殺せず、一緒に吹き飛んでしまう。


この一撃だけで残ったゴーレムはレイナさんの傍に控えていた2体に。

……単純な計算だ。


つまりは1撃で20体のゴーレムを葬り去ってしまった。

私も含め、レイナさん、それにディールさんですら唖然としてしまう。



ディールさんは直ぐに持ち直し、ハイ・スケルトンを呼び出して残っていたゴーレムの1体を攻撃させる。

不意を突いたこともあってゴーレムは確かにその攻撃は受けたものの、イツキの攻撃の時のようにボロボロにはならず、少し体が欠けてしまった位だ。


「ふむ……ゴーレム自体の精度に問題は無い、な。普通に堅い」



その後、私は100点満点の合格を貰い、第4段階の修行へと進むよう言い渡された。



=====  エフィー視点終了  =====

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