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シアの修行

初めてレビューを書いていただきました。

まさか自分が書くものにレビューを書いていただける日が来ようとは……感激です!



=====  シア視点  =====

ご主人様とレンが発たれてもう早2日。


私達はディールさんから課された課題を黙々とこなしていく日々を送っています。


それぞれ段階を踏んで修行を行っていくとのことですが私については第1段階はただひたすらユウさんとの打ち合い。


ディールさんに修行をお願いして、始めさせてもらった当初こそいなすのに苦労しましたが今は既に第3段階へと移行中です。


ちなみに第2段階はクレイやレンが使っている“闘気”と言うものを覚えることなのですが、それは既に第1段階の時から並行して行っていて、第3段階時点でも続けるとのこと。


第3段階はユウさんがいない際に私の相手をしてくれていた黒騎士とユウさん二人を相手にまたただひたすらの打ち合い。


黒騎士はもう少ししたらカノンとエフィーが二人で作るそうですが今はディールさんの従者である黒騎士をお借りして2対1の状況を繰り返しています。


ユウさんが話すには……


「黒騎士はね、その扱う多彩な魔法もさることながら近接戦闘、殊剣術や格闘技のレベルはモンスターの中でも最強レベルだからね。それでいて魔族と変わらない知能もある。ハッキリ言って戦いたくない相手だよ」

「……そうなんですか?」

「うん、黒騎士一体出てきただけでも冒険者ギルドとかだったら緊急事態招集かけるかどうかのレベルだし、僕達騎士だったら1個師団の出撃すらあり得るレベルだもん」


……それを聞くと私はそれ程までに強い相手と打ち合いをしなければいけないのですね。

でもそれでいいんです。

生半可な相手と打ち合って得た強さなど何一つご主人様の役に立ちませんから。


「では黒騎士との打ち合いの際は……」

「ああ、いや、黒騎士には剣の攻撃だけをお願いするつもりだよ?黒騎士に魔法を使わせたらこの森が危ないからね。……それに僕やシアちゃんはそんなことしなくても、剣での打ち合いを極めれば自然にそう言う事も出来る位の基礎能力になってる。小手先の技術よりかは純粋な力を身に着けた方が絶対良い……って、全部ディールさんの受け売りなんだけどね」

「……成程、その通りですね。私が今後ご主人様にお仕えするために必要なのは純粋な強さです」

「うん、そうだね。カイト君のためにも、絶対強くなろう!」

「はい!!」




ユウさん・黒騎士タッグとの打ち合いの後は黒騎士にルタル・プアと言う相手の身体能力を一時的に大幅に下げる魔法をかけてもらい、ユウさんと二人で孤島の中を黙々と走って行きます。

半周ごとにまた同じ魔法をかけ直してもらって走ること3周半。


魔法をかけてもらうと自分の体が鉛にでもなったかのように重くなってしまうのですが、ユウさんがどういう風に走ったら楽になるか、速く走れるかを“闘気”と言う観点から教えて下さり、一番最初こそそれだけで1日近く消費してしまったのですが今ではその3分の1もかからず済ませられるように。


勿論走り終わった後は疲労感が襲ってきますがそんなもので根を上げる程私達の覚悟は軽くは有りません。

その後もまた打ち込みを続け、単純な基礎トレーニングもこなしましていきました。


ずっと、この先ずっと、ご主人様のお傍にいるために、強く、もっと強く……







「……ふむ、そこそこ基礎はできてきているね。“闘気”もまだ発展途上ではあるが……やはり筋が良い。まだ期間はあるからこの先も続けては貰うが……」


それからまた4日後、ディールさんが私の修行の途中経過を見にいらっしゃいました。

やはり……まだ「そこそこ」止まり、ですか。


それではダメなのです。


私達一人一人が単独ででもご主人様をお守りできる、それ位に圧倒的にならなければ……

ご主人様が、安心して下さることなど、夢のまた夢です。


「ふむ、これなら行けるか。……シア君、第4段階へと修行を進めよう。これから私と共に闇市へ向かう」


闇市?

ご主人様が確かそのようなことになるかも、とおっしゃっていらっしゃいましたね。

ですが、まだ「そこそこ」なのに次の段階へ?


「もう大丈夫なの、ディールさん?」

「うむ、まあ第4段階と言ってもゴホッゴホッ……闘技場で勝ってもらうだけだ。最終段階に行くまでは今後も第3段階までは反復して継続してもらう」

「はぁ……それは分かったのですが、今から、ですか?」

「うむ、君は次の段階に進めば後は私がどうこうしなくてもユウに任せられる。そうすればゴホッ、君はもっと専門的、具体的に言えば剣術に特化した修行に入れて私もエフィー君やカノン君達に回せる時間も増える。だからできるだけ早い方が良い。それに……」


……そうですね、今はどちらかと言うと剣術に特化した修行、と言うよりそれに耐えうるだけの体作りという形です。

それは私だけでなくエフィーも、カノンも、リゼルも皆が行うべき共通したことですからディールさんが全部判断しなければなりません。


更に言えばユウさんは打ち合いの際も全力を出して下さってはいるんですが、その全力は『身体能力上の』全力であって、恐らく『スキルを使っての』全力ではありません。


ですから、ディールさんのおっしゃるように早く段階を進められるのなら私にとっても否はありません。

私の気が先走ってしまうということも、ディールさんが判断して下さるのでしたらその危険もございませんし。


「もしかすれば君達の仲間が増えることになるかもしれないんだ。それならできるだけ早い方が良かろう。……とまあ色々と斟酌するべき事情があるんだが一番は闘技場の日にちとエフィー君・カノン君の修行内容との兼ね合いだね」

「そうですか……ディールさんのおっしゃることはもっともですし、何より進めるのなら少しでも早く強くなりたいです」

「ふむ……逸る気持ちも多少はあるようだがきちんと自分をコントロールできているようだね。よし、では今から行くことにしよう。―そう言う事で、行ってくる、ユウ。留守番は頼んだよ?」

「うん、分かった。―シアちゃんなら絶対優勝できるから、あんまり緊張しなくても大丈夫だよ、頑張って!!」

「はい、ありがとうございます―行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」




案外あっさりと送り出されましたがディールさんのそう言った唐突なお出かけなんかには慣れているんでしょう。

そして何より、ディールさんの実力、人柄、それら全てにおけるお互いの厚い信頼……


私達もいつか、ご主人様とそう言う関係に……





ディールさんが召喚したドラゴンゾンビに乗って飛行すること凡そ4時間。

方角としては北東、ソルテール帝国からは真東に位置する小さな山脈の中……闇市はそこに存在しました。


大っぴらにできないとは言えこんなところに……


入り口にはフードを被った人間が何人もいて厳重に警備している様子でしたがディールさんが何か紙のようなものを手渡して「……死霊魔術師ネクロマンサーディールの紹介だ」と告げると一瞬空気が凍る気がしました。


フードの者達もたじろいだかのように感じたのですが直ぐに立て直して紙を確認し、私達二人を通してくれました。


ちなみに私もディールさん自身も顔ができるだけ見えないよう深いフードを被っているのですが後で先程の言葉の意図について尋ねますと


「私自身が来たと知られると面倒な輩が寄ってくる可能性もある。負けるつもりは一切ないし主催者側が漏らす心配も無いと思っていいが、それでも誰が聴いているか分からないからね。用心するに越したことは無いよ」


とおっしゃっていました。




中に進むと、孤島程あるんじゃないかと思ってしまうような広大なスペースに大勢の人間が。

山の中にこんな空間があることにも驚きですがこれだけの人数が集まるとは……

軽く3000以上はいるのではないでしょうか?


よくもこんなに集まりますね。


「世界には悪いことをしたいと思う人間の方が過半数を占めていると私は思っているよ。これでもいつもに比べたら少ない方さ。多い時だと万は超えるからね……行こうか」

「はい」


軽く周りの様子を見て再び歩き出すディールさんについて行きます。

これで……少ない方なんですか……




ディールさんについて歩くと多くの物が売られているのが目に入ります。

見たことのないような武器だったり、アイテムだったり……そして檻に入れられたモンスターや奴隷だったり。


ディールさんは


「多くは盗賊の盗品だよ。奴隷も人攫いに捕まってしまった者が多いね。正規に売れないものは全てここに流れてくる」


と解説してくれます。


私も、どこか一つでも間違えていればここにいたのかもしれない……

ご主人様と一緒にいさせていただくという今迄の当たり前がもしかしたら違っていたのかもしれない……

ご主人様のお近くにいるのはもしかしたら目が死んでいるあの女の子で、私では無かったかもしれない……


そんなことを思うと私自身の今いさせていただいている居場所というのがとてもありがたいものであると同時に、だからこそそれに安住せず強くならねばということを再確認できました。



何としても、強くなってご主人様に……




そうして20分程人混みの中を歩いて行くと、一角に全く人が寄り付かず閑散とした店舗に辿り着きました。

店主の後ろには天幕が張られていて、何があるのか確認できないよう工夫がされています。


そこは異様な雰囲気を放っていて個人的な感想で言えば何かしらの反応はしてもいいものの、誰もそこに対して反応しない、というか、いえ……『気づいていない』と言った方が正しいのかもしれません。


明らかにそこに店主は存在しているのに、それを誰も認識していないかのよう……


その店主にディールさんは近づいて行き、話しかけます。

どうやらここが最初の目的地のようです。


「……ふむ、ズール、久しぶりだね」

「これはこれは……ディール様。お久しぶりです」

「まだ誰も君に気付いていないのか?」

「はい。今回もあなたが……いえ、あなたが一番最初です」


店主も例に漏れずローブを被っていたのですが声からして女性ですかね、それが私を見るようにこちらに向き、そしてまたディールさんに向き合うよう戻ります。


「そうか……彼女はズール。私が贔屓にしている生き物専門の闇市の商人だ。ゴホッゴホッ……私の認識阻害の魔法についてのアイデアをくれたのも彼女でね。勿論内容次第だがここで今回も買おうとは思ってここに来た」


ディールさんが私に説明して下さると何となくですが先程からの他の客の違和感に思い至った気がしました。


「はっは、ご冗談を。私が客のふるいに使っているのをご覧になっただけで全ての理屈を理解されてしまったのです。こっちはたまったものじゃありませんよ」


なんて言いつつも豪快に笑いとばしてしまう辺り、何とも清々しいものを感じます。

この方ももうディールさんの凄さを認めているんでしょう。


「ふむ、それは悪かったね。ちゃんと質やサービスが良いという事も評価しているがだからちゃんと君を贔屓にしているだろう」

「はい、本当にディール様は私の大切なお得意様です。こちらもそのご期待に沿うため最大限の努力をさせていただきますよ」

「―で、ズール、今回のものは?」


ディールさんは直ぐに切り替え、本題に入ります。

店主さんもそれに応えるかのように話し始めます。


「……今回は大きく分けて3つですね。先ず1つ目は魔族です。男が1人、そして姉妹なのですが、それが3人」

「ほう?魔族か」

「はい。2つ目は奴隷ですね。こちらは目玉が二つに分かれまして、若い人魚の女が1人。かなり上質のようで、容姿・能力どちらに付いても文句は無いかと。―そしてもう1人は幼くして元北のソルテール帝国の少尉になり、奴隷になる前はギルドマスターをも務めていた人族の女です。こちらもその肩書に劣らずの容姿・能力かと」

「ふむ……最後の3つ目は?」

「はい。最後はモンスターですかね。闇属性のスカルサウルスが2体、ブラッドデーモンのメスの亜種が1体、それと先程の人魚が連れと言っている、海の王者として名高いマーロワァンが1体」

「ほう……あのマーロワァンが……だがあれは純粋な、綺麗な海に定期的に入れてやらないと生きて行けないのだろう?ずっとこんな陸にいさせても大丈夫なのかい?」


マーロワァンは海自体を見たことがなくてもその存在は御伽話なんかにも何度も登場するとても有名な生き物です。


私が知っているのですと一番近いのはカエンの体がコバルトブルー色になったところに魚……と言うよりはやはり人魚の尾ヒレが付いてその手に大きな銛を持っている姿を二回り大きくしたもの、でしょうか?


まあ絵本で知った知識ですが……あれがあの小さな天幕の後ろにいるとは中々思えないのですがご主人様とディールさんのアイテムボックスの前例が有りますからね。


ディールさんも何もそこにはツッコみませんし、特に問題は無いのでしょう。


ディールさんが尋ねると、店主さんは少しばつが悪そうに頭を掻き、「お恥ずかしながら……」と話し始めます。


「おっしゃる通り、マーロワァンは今、とても弱っている状態ですね。綺麗な海と言ってもこの辺りは陸地ばかりですから、連れてくる前に一度だけ入れてやったんですが何しろそこからこの闇市までが遠かったので……ですから飼っていただけるのでしたら勿論お安くいたしますよ」

「ふむ……」


ディールさんはそこで私に向き直って二人で話せるよう声を落として話し出します。

店主さんも特に口を挟まないので、そこは問題ないのでしょう。


「私としては魔族は姉妹の方をと思っている。数よりも強い魔族1人の方が個人的には良いとは思うんだがそもそもその男魔族が姉妹よりも強いとは限らないし、ゴホッ……何よりカノン君に契約してもらうのには女性の方がやりやすかろう……どう思う?」

「はい、私もカノンの周りは女性の方が良いと思います―他はどうしましょう?」

「うむ、奴隷の内、人魚の方は能力もあるという事だ、普通にカイト君を守るための戦力にすればいい。二人目の方は軍事の経験もあるという事だからね、ゴホッ……エフィー君の補佐につけようか」

「そうですね。事務的なこともできそうですからエフィーの負担も減るでしょう」

「モンスターは全て買って闇属性のものはそのまま魔族の姉妹に、マーロワァンは人魚が連れと言ってるんだろう?ならそのまま人魚に世話させればいい。孤島の海は透き通っているから多分あそこなら条件を満たせるし、それでこちらの誠意も示せる」

「……成程、人魚に付いては分かったんですがその魔族達がモンスターを従えることができるのでしょうか?」


基本的には契約は契約内容が合意に達するものであればいいのですがモンスターの多くは自分よりも弱い者とは契約したがらない、とカノンやご主人様が言っていました。


闇市、と言う性質からも、その魔族の質が良いのであろうという事は推測できますが、同時にモンスター達の質も良いという事になります。


となると……やはり契約できるのかは心配になります。


「ふむ、そうだね、契約できなければカノン君にさせればいい。その際は弱いモンスターをその魔族達に幾らかあてがってゴホッ……確かに新たに鍛えなければいけない手間は増えてしまうね―ズール、魔族の姉妹について聴きたいんだが」


ディールさんは魔族の姉妹について情報を得るためにそこで店主さんの下に戻ります。

そして、店主さんが話されることに、私とディールさんは一瞬驚くことになったのです。


「はい、魔族の姉妹ですね……私に引き渡した者達と本人たちの話したことを前提としますが、彼女達は魔王“シャロワット・ノワール”の四天王の一人、“アイズ・ファーミュラス”の娘なんだとか」



魔族の女の子達、誰の事か分かりますかね?

一応随分前の話ですが、それと推測できる情報は書いてあるんですが……



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