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またハイ・スケルトンですか……

「また模擬戦ですか……」

「うむ、また模擬戦だ。ただ今回のものは先日のものとは異なる。今回はその鎧を着ている分まともに動くことすら中々に厳しかろう。ゴホッ……そこで、だ」


ディールさんはそう言って自分の右手を握って拳を作って見せる。


そして見る見る拳が黒いモヤモヤに包まれていく。

ドス黒い、禍々しいものが集まっているという感覚を覚えたが、ただ純粋に強いエネルギーがあの拳には集中していっているようにも思えた。


これは……魔力操作か。


「うむ、分かるだろうがこれは『魔力操作』を用いて私の魔力をゴホッ、右の手に集めた様子だ。―どれ」


そう言って近くにあった木を殴りつける。


あの細い、ともすればスケルトンとも見間違ってしまうような弱弱しいディールさんの体から放たれたとは思えない程の衝撃が木を襲った。


ディールさんの右腕の骨では無く、一撃でへし折れたのは木の方だった。

木はそのまま折れた部分から倒れて行く。


ドサンッ


…………おいおいマジかよ。


「ふむ、魔力を一点に集めて攻撃して見ても確かに威力は上がるし、何なら素早さを上げたり防御に使ったりと色々とできるのはできるのだが……ゴホッゴホッ……君が疑問に思っているエネルギーの変換と比べると圧倒的に変換効率、つまり燃費が悪いんだよ。それに上昇する能力もたかが知れてる」


たかが知れてるって……今木を折っておいてそれは流石に説得力に欠けるんじゃ……


「よく言われるのだが、この大陸は東に行けば行くほど魔法を使える者が少なくなって行って、西に行けば行くほど魔法を使える者は増える。ゴホッゴホッ……それが真実かどうかの議論は今は棚上げさせてもらうが……すると、東の者達は生き残るために『魔力操作』に対抗できる何かを考えなければいけなかった」

「はぁ……それが私の悩んでいる正体不明の」

「うむ。所謂“闘気”だね」


あー。

成程。

言われれば納得だ。


確かに良くファンタジーで出て来るな、“闘気”。

そうかそうか、やっと頭の中のモヤモヤが晴れた感じだ。


「シア君を初め、君の仲間にはちゃんと修行の流れを踏んで覚えてもらえるよう内容は組んであるんだがゴホッゴホッ……如何せんカイト君は時間があまりないからね、“闘気”についてはこのハイ・スケルトンスパーリングを通して覚えてもらえれば、位に思っていたんだが、どうやら嬉しい誤算だったようだ」

「ハハハ……猛毒の激痛もあってこの鎧、全然動かせなかったんですよ、力を上手く使わないとダメな状況だったものですから」


俺の口から乾いた笑い声がヘルムを通して響いた。


「ふむ、かなり厳しい内容だったからね、申し訳ない」

「いえいえ、そのおかげでかなり能力値的にも成長できましたし。やはり厳しい内容にしていただいたのは正解でしたよ」


本当にそう思っていたので正直に答える。


「そうかい。そう言ってくれると助かるよ―それで、“闘気”の説明に戻るが……」

「『魔力操作』はスキルとして存在するのに、“闘気”は無いんですね」


スキルポイントを使って取得できるスキルの欄に『闘気』なるものは無かった。


「ああ、そうだね。ゴホッ、さっきの説明からすると先に『魔力操作』のスキルが有って、それに対抗しようと生み出されたもの、だからね。『魔力操作』は魔法を使うことができる者を対象としている。一方で闘気は魔法を使うことができない者が基本・・その対象だ」

「ああー、なるほど。後者の方が圧倒的に多いわけですからもしスキルなんだとすると、皆が皆『闘気』のスキルを持ってしまいますね」

「うむ、それではわざわざスキルとなる価値が相対的にとは言え低くなる。ゴホッゴホッ……まあ神の目から見たらそんな説明方法になるんだろうね―まあ“基本・・”とつけたからには例外があるわけだが……」


そう言ってまらディールさんは右の拳に何やら力を送り込んでいる。

今度はさっきほど禍々しいものではなく、オレンジ色に近い湯気のようなものが流れている。

見た目で分かるほどに拳に集まっているエネルギーはさっきよりも圧倒的に少ない。


「ふむ、カイト君も『魔力操作』と“闘気”を使えるように私も両方を一応使える。つまり私達は例外に当たるわけだ」

「はあ……先程の説明からすると、やはり魔力を操作して、よりも闘気を使った方が燃費はいいんでしょうか?」

「うむ。ちょっと見ていなさい……ふん!」


今度のディールさんのデモンストレーションの犠牲となったのは先ほど倒されたばかりの木だった。

てっきり対照実験のために近くの木を殴りつけるのかと思ったが……


ディールさんはそれで折れている木の内、倒れていない幹がまだ残っている方を殴りつけた。

アッパーカット風に殴りつけられた木は根っこごと地面から半分程吹き飛んだ。


全部じゃないにしても、この威力は目を見張るものがある。

っと、驚いているとディールさんは立ち眩みを起こしたかのように額を抑えて近くにあった木にもたれかかった。


俺が慌てて近づくと、ディールさんはそれを手で制して「少し加減を間違えた。カイト君も修行で実感したと思うがこれの扱いが未熟だったり、私みたいに使う頻度が少ないと加減が出来ず必要以上の力、つまりHPを持って行かれる」と言う。


……確かに、毒を飲んで初めてポーションに手を伸ばした際、かなりの虚脱感が俺を襲った。

その後も徐々にマシにはなって行ったもののやはり力を使って疲労感が押し寄せることは避けれなかった。


「知っての通り私は肉体派でも何でも無い。戦闘は他者ハイ・スケルトン任せだからね。“闘気”なんて滅多と使わない。まあそれでも『魔力操作』と併用すれば死霊魔術を一切使わず私単体でもAランク冒険者位なら勝てる……シーナ君にはこれをマスターしてもらって、それとハイエルフの秘術を教えようかと思っているんだが……」


ディールさんはいつもはあまり見せない辛そうな表情をしている。

本当に力の込め加減を間違えてしまったんだろうな。


それはそうと、またサラッと凄いこと言ってるよね。

「ハイエルフの秘術」だって。


「何でそれをあなたが知ってるんだ」って話だよ。

まあもう疲れるからツッコまないけどね。


「“闘気”の扱いについては私よりもクレイ君やレン君の方が巧いかもしれないね。……今からでもシーナ君の修行の一部はゴホッゴホッ……クレイ君に見てもらおうか……」


あ~、これまた納得だ。


成程なぁ。


クレイの圧倒的な強さも、レンが幼くまだ『守護天使ガーディアン』を持っていなかったのに自分の大きさの倍はあるんじゃないかと思ってしまう槍を使いこなせるのも、“闘気”の扱いに長けていたからか。


「まあクレイ君やレン君は既に達人の域に達しているから“闘気”を使わなくても十分に戦えるほどの基礎能力を有している。ゴホッゴホッ……シア君達にも覚えてもらうと言ったが、皆何もあの二人のレベルまで持って行ける必要は無い。覚えれば自然上達もするだろうから、何よりもまず覚えて、体に馴染ませることが重要なんだ」

「そこで私はこの鎧を着てのスパーリングと言うわけですか」

「うむ、そう言う事だよ」


ディールさん、復活早いな……



「君には試験までにその鎧を着ながら“闘気”を使わずに戦えるようになってもらう、は流石に贅沢だと思っていた。だが君はもう既に“闘気”を使える体になっている。だから目標はそっちにしよう」

「はい、分かりました」

「一先ずどこまでできるか様子見で3分×3回を1セットとして、ゴホッ……何セットやるかは1セット目を見てから決めよう」

「今回は本当に勝つ必要は無いんですよね?前回とは違って」

「うむ。今回は君の力を見るのが目的では無い。君の力を上げることが目的だからね―それ」


ディールさんの周りに召喚のための魔法陣が浮かび上がる。

そしてそこから呼び出された50体のハイ・スケルトン全員に魔法の糸(マジックフィル)を繋げる。


「私がハイ・スケルトン達を駆使して君を攻撃しまくる。カイト君は自分の力だけでそれを何とかしてくれ」

「自分の力だけ……」


これはつまりスキルは基本使うなということか。

特に前回の如くシア達のスキルを借りるという事は無しだ。


そうじゃないと修行の意味が無い。

今回は勝つことは目的では無いのだ。


地力を鍛える、それを怠らず続けて行けば後々他のスキルが活きてくる。

相乗的に互いが互いを引き上げてくれるようになる。


よし!!


「“闘気”で足りない部分はできるだけ『魔力操作』の方で補ってくれ。そうすれば魔力の底上げにも繋がる」

「分かりました」


ハイ・スケルトン越しに声を張って答える。

そうだな、そっちも鍛えればMPの容量を上げることができる。


まあ第1には“闘気”のほうだろうが。


「よし、では、行くよ、カイト君」

「はい、お願いします!!」



そうしてハイ・スケルトンスパーリング第1ラウンドの開始を告げるゴングが鳴った。






最初はただただハイ・スケルトンから繰り出される攻撃を受けるだけでも至難の業だった。

何といっても鎧が重い。


先日の模擬戦とは比べものにならない位俺の動きは遅く、避ける、ということは闘気を使っても不可能でウェイトソードを振って防ぐ以外になすすべも無く、40秒も経てばハイ・スケルトンの波が押し寄せてきてそれに飲み込まれてしまった。


そこから魔力操作も解放して奮闘するのだが正直あの猛毒の修行の成果があっても直ぐに力を使い切ってしまう。


特に闘気は魔力操作に比べてまだまだ荒い。

HPの減りが早く、第1ラウンドは1分と50秒でノックアウトされた。


クレイとの契約の恩恵、そして鎧のただ一つの利点である防御力のおかげでハイ・スケルトンから受けるダメージは殆ど無いと言っても過言ではないのだが闘気の使い方が未だ雑なために持たない。


3分持たなかった事実に多少落ち込んでいるとディールさんがポーション・MPポーションを差し出し、飲むように勧めて励ましてくれる。


「ふむ、別に気に病む必要は無いよ。今できないからこそ訓練するんだ。ゴホッゴホッ……ユウなんて最初は1分と持たなかったんだ、それを考えると君は立派だよ」


でも、ユウさんがこの鎧を作ってもらったのは確か11歳……

その時と比較されてもなぁ。


まあ励ましてもらえるのに捻くれていても仕方ない。

素直に礼を述べておくことにする。


「ありがとう、ございます」

「うむ、大丈夫だ。今の立ち回りを見ていたら今日中には3分持つようになるよ」

「そうですか……そう言っていただけると頑張り甲斐が出てきます」

「その意気だ……ではもう一回、行こうか」

「はい!!」



2回目以降はその前の回の反省を活かせるよう、囲まれる前に動き、近づいて来る者を蹴散らすという方針に。


今の俺は闘気を使わなければハイ・スケルトン1体にも劣る位なので最初から全開で行かなければ囲まれて終わり。

ただその全開にしても効率よく、燃費よくしなければ3分経つ前に空っぽになって終わり。


そこを意識して消費するHPを極力抑え、それでも発揮できる力は最大限にまで引き上げれるようにすることを目標に動き回る。



2回目は2分3秒、3回目は2分9秒で1セット目を終了した。


順調に秒数は伸びてきているから後は回数をこなすだけ、というディールさんの言葉を受けてしんどいながらもやる気が出てきたところでディールさんから次は試験に向けた勉強をする、とのこと。


何だか水を差されたような気もしたが実際には流石に勉強無しで異国の試験を受かれる自信は無いのでそっちにも精を出す。



とは言ってもディールさんの教え方は非常に優れていて彼女が教えてくれることは本当に頭の中にスーッと入ってきて一度で理解して記憶できてしまった。


元の世界で法律については親、その知り合いがその手の方に多かったことも有ってそっちの方は忌避感無く吸収できたし単純な算術はできるので教えてもらうことなくパスできた。


なのでレンは勉強:修行=9:1だったが俺は3:7程で済むらしい。


最初のスパーリングでディールさんが思っていた以上の好成績を俺は出していたらしく、1日にあれを4~6セットで済ませても間に合うとのこと。



2セット目には2分30秒を超え、3セット目で2分53秒、そしてディールさんが言っていたように本日4セット目の最初で3分を耐えきった。


HPも闘気を洗練させていくにつれ少しずつだが上昇したし、『千変万化』の習熟度は今日の終わりには48%となっていた。



闘気を導入しました。



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