必要なものでもそろえるか。
またまた思っていた以上に長くなってしまいましたが書いてると面白くなってきたので切るの忘れてました。すいません。
「おめでとう、カイト。」
「ありがとうございます、これも偏にライルさんのおかげです。」
ライルさんははにかんで頬をかく。
「よせよ、俺はできることをしたまでだ。
これからも記憶がないことで不便なこともあるだろう。
いつでも俺を頼ってくれよ。」
「ありがとうございます、遠慮なくそうさせていただきます。
ライルさんはこれからどうなさるんですか?」
そうとはいっても俺はできる限り独りで何とかするつもりだ。
この場合そういわないと折角の好意を無下にしてしまう。
建前上は頼る気満々に見せて頼る必要が全然なかった、
という方が見てくれもお互いの気分としてもいいだろう。
まあ謙虚であることは日本人の美徳だが行き過ぎは
相手を信頼していないととられかねない。
要は自分のプライドの許す程度と相手への配慮を
どこらへんで調整するかだな。
「俺はこの後盗賊団についてを話し合うつもりだ。悪いな、一緒にいれるのはここまでだな。」
「いえ、気になさらないでください、最後に申し訳ありませんがおすすめの宿屋とかありますか?」
「ああ、それならここを出て左手に1~2分歩いたところに、
『ルージュ』ってところが左手にあるはずだ。そこなら宿代も安いしベッドもしっかりしてるし
俺はおすすめできるな!」
「わかりました、ありがとうございます。また街で見かけたときには声をかけてください。」
「おう、困ったことがあったら『フルール』って酒場に来い。
いつもはいないがそこにいることが多い。」
「はい、わかりました。それじゃあ失礼します。」
「おう。」
酒場なのに「花」か、「花がある」ってことかな?
よくわからんが。
※fleur=花・・・フランス語です。
俺はギルド会館を後にした。
ライルさんに教えてもらった通りに進むと確かに「宿屋 ルージュ」
という看板が置いてある建物があった。
あまり言いたくはないがお世辞にもきれいだとは言えない外装をしている。
これでライルさんの前情報とこの看板が無かったら宿屋だとはおそらく認識できなかっただろう。
安いって言ってたのはこのためか。
むぅ、仕方ない。他に知ってるところはないし一応ライルさんおすすめのところでもあるし
ここにするか。
俺は意を決して扉に手を取る。
中に入るとそりゃもうたまげた。
外の外装とからは似つかわしくないしっかりとしたつくり、
掃除が隅々まで行き届いていることを思わせるピカピカな壁や床。
これはしてやられた。
思考の落差を利用したうまいやり方だ。
あれだな、見た目残念な感じで油断させといて実は脱いだらすごいんです!
的なやつだな!
見事なギャップ萌だ。
うん、それはちょっと違うか。
カウンターにいたおねえさんが話しかけてきた。
「いらっしゃい。常連さん以外でうちに来てここまで驚かなかった人は初めてだよ!
みんな何かしらの変化はあるんだけどね、あんたはちっとも崩れなかったね。」
いや十分びっくりしたよ、そんなに顔に出なかったのかな?
でもポーカーフェイスってなんかかっこいいよね!
「いえいえ、十分驚かされましたよ、顔に出なかっただけです。
この外装と内装のつくりの落差は何か意図があるんですか?
客をふるいにかけてるとか。」
「あぁ、そんな考え方もあんのかい。今まで考えたこともなかったよ。
いや何、単純な話こうした方がお客さんの印象がいいんだよ。
きれいだな、ってことの方が強く印象づけられるんだろうね。」
「はぁ、すばらしい営業努力ですね。」
「あんがと、あたしはターニア。よろしく。」
「私はカイトです。冒険者をやってます。」
「そうかい、で、カイト、あんた一人で泊りだよね?
一泊二日朝夕食事つきで40ピンスだよ。お湯は一泊につき一回分無料、
それ以降は一回につき10ピンスね。」
うむ、確かに安いな。
「はい、じゃあとりあえず7日分お願いします。」
俺は小銀貨3枚を渡し、銅貨2枚を返してもらう。
「じゃ、そこに手かざして。一応やらないといけないことになってるから。」
と水晶っぽいものを指す。
「?というと?」
「盗賊は泊めれないからね、これで確認するんだよ。」
ああ、なるほど。
となると偽装がいるな。
俺は偽装を使って、手をかざす。
「・・・・・、うん。大丈夫みたいだね。ハイこれ鍵。
3階の303号室だから。夕食は5時から8時までに食堂に来て頼まないとだめだからね。
朝食は6時から8時。お湯はいつごろ持ってけばいい?」
「8時ごろにお願いします。」
「了解、じゃごゆっくり。」
俺は部屋へと向かった。
ふむ、部屋も申し分ないな。
広さは正確なことは言えんが10畳くらいか?
ベッドもきれいにメイクされている。
もちろんであるが風呂はない。
お湯の話した時点で大体予想はしてた。
そこはまあしゃあないか。
文明の違いだ。でもずっと入らないってのは精神的にキツイな。
男の俺でこれなんだから女性がこっち来たら発狂するんじゃないか?
ま、あの神様がへましなければ無いだろうが。
とりあえずしばらくの宿は確保できた。
次は必要なものをそろえよう。
何がいるかな?歯磨く道具に手ぬぐい的なものを幾つか、下着も複数枚欲しい。
服もこのままじゃちょっとまずいか?あからさまに見られることはないがここに来るまでに
そこそこ視線を感じたのは確かだ。
うん、服も買おう。
後は剣だな。安いものでもいいからとりあえず丸腰でモンスターと遭遇なんてことは
もう御免だ。
戦闘のことを考えるとお決まりのポーションとかってあんのかな?
あったら幾つか持っときたい。
幸いドラ(ピー)えもんから4次元ポケ(ドキュンドキュン)ット借りてるし。
隠しきれてないか、
申し訳ありません。
じゃ、気を取り直して買い物に行きますか。
「すいません、ってあれ?」
カウンターにはターニアさんとは違う女の子が座っていた。
「うん?どうされました?何かおかしなとこでもありました?」
「いえ、部屋はとても快適です、何も問題ありません。
ところでターニアさんっていらっしゃいますか?
お聞きしたいことがあったんですが。」
「お姉ちゃんですか?お姉ちゃんでしたら買い出しに出てます。
私でお答えできることでしたらお答えしますが。」
「はぁ、妹さんでしたか、これは失礼しました。
それでですね、私は冒険者になりたてで必要なものを買おうと思っているのですが
どこかいいところありませんか?」
「あっ、あなたですか、一見さんにもかかわらずここに全く驚かったという能面さんは?」
おい能面って!ターニアさん妹にそんな伝え方したのか。俺だって驚いてはいるって言ったのに。
しかも能面ってこの世界には無いんだからこの世界でそれに類することを言われてるってことだよな。
なんかそう考えると自分が変人な気がしてくる。
へこむなあ。
「ははっ、能面ほど無表情だったつもりはないんですが。ちゃんと驚いてはいたんですよ?」
そう空元気で返すと妹さんがあっ、と言って申し訳なさそうな顔をする。
「すいません。能面なんて言われて気分がいいはずありませんよね。
何も考えず・・・、無神経ですよね、私って。」
おぅい、なんかメッチャ落ち込んでるよ、この娘。
まさにドヨーンっていう効果音が出てきそうな位。
あっ、指で「の」書き出した!
「いやいや、そんなことないよ。能面って言われて喜ぶ人だって居るって!
だからそんなに落ち込まなくても大丈夫だよ!」
いやそんなおかしなやついないだろ!
でもここでこう言わないとどんどん落ち込んじゃうし、
ってかしゃべり方素が出かけてた。
「そうですか、そんな人いるんでしょうか?
私はそんなおかしな人いないと思います。
うん、やっぱり私は無神経な女なんだ・・・・。」
ああ、こいつめんどくせぇ!
そうだよ、いないよ?そんなアホみたいなやつ。
でもこのままじゃこの場が収まらん、ぐぬぬぅ。
しゃあない、笑いたければ笑え、ピエロ王に、俺はなる!
「いやー、実は俺って能面とか言われたり自分の無表情いじられると無性にうれしくなるんだよね!
こう、こみ上げてくるものがあるっていうの?わかんないかなぁ、この気持ち。
今こうしてる時も自分の無表情さを考えるとなんかいても立ってもいられなくなるんだよ。
今の気持ちを表現するならどう答えます?って聞かれたら、今は自分の無表情さに酔いしれています(キリッ)って答えるね!だから君が落ち込む必要はないんだよ?」
やりきった。やりきってやったぞ、俺(泣)。
完全に話し方素出てるし。
もう何この変態。無表情いじられて喜ぶとかアブノーマルにもほどがあんだろ。
くそぅ、なんだよ自分の無表情さに酔いしれてるって、アホなの?アホなの、俺。
あぁ、これで生涯、変態として生きてかなくちゃいけなくなるんだな、と半ば
2度目の人生を悲観していると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、おかしな人ですね、自分から変態さん宣言するなんて。
でも、おかげで楽しかったです。すっかり立ち直れましたし。
あのー、私の、ためですよね?」
くっ、バレてる。俺の一世一代の一人道化がこうもやすやすと崩れ落ちるとは。
しかもこう直接自分のためにしてくれたんでしょって聞かれると返答に困る。
どういえばいいんだっけ、こういう時。
確か女性が求めてる答えを言ってはいけないんだっけ?
そうした方が婉曲的に伝わってより好感度が上がるんだったか。
道化もとい紳士の俺が間違うはずはない、よし。
「いやそんなことはないよ、本当に無表情をいじられるのがたまらないんだ、俺!」
よし、これで俺もリア充の第一歩を踏み出したはず。
「・・・・・・・・・。」
え、なに、この空気。
あれなんか違った?
いやそんなはずは・・・、
あ、いや、そんな踏みつぶした後の死にかけのGを見るような目で俺を見ないで!
「あの、何かおかしなところでもありました?」
「知りません!というかあなたの存在自体がおかしいことです。」
えぇ、うそーん。存在否定された。
もうツーン、って感じで横むいちゃった。
どうしよ、まだ当初の目的である店の情報聞き出せてないんだけど。
「あのー、すいません、できればお店のことだけでも教えていただけませんか?
でないと少々困ってしまうことに・・・・、」
「ターニャ」
「へ?」
「ターニャ、私の名前です。これから私を呼ぶときちゃんと名前で呼んでくれるなら
教えてあげても構いません。」
なんだ、びっくりした。
一応教えてはくれるんだ。
なら別にこちらから断るのもおかしいだろう。
「わかりました。では、ターニャさん。よろしくお願いします。」
俺はぺこりと頭を下げる。
「あっ、その言葉づかいも禁止です、さっきもっと砕けた感じだったじゃないですか。」
「えぇ、でもターニャさんもなんか丁寧な感じが・・・、」
「私はいいんです!それで、どうするんですか。ちゃんとしてくれないと教えてあげませんよ。」
「わかり、いやわかった。じゃ、よろしく、ターニャ。」
こういう時は男がおれなくてはいかんのだったな。
うん、俺の紳士としての技能は間違ってない。
なのにどうしてさっき怒っちゃったんだろう。
「はい、よろしくお願いします。カイトさん!」
「あれ?俺名前教えたっけ?」
「いえ、お姉ちゃんから聞きました。」
あらそう。
俺はその後、ターニャから聞いた店で必要品と武具を買ったのだった。
非常に残念なお知らせですが、ターニャちゃんをヒロインとして扱う予定は今はありません。
サブタイトル通り元々こんなに描写せずに買い物に焦点を当てようと思ってましたが書いていると知らず知らず進んでしまったので作者としては泣く泣くターニャちゃんに焦点を当てることにしました。
私はヒロインとして描こうと考えているキャラクターにはある一定性の法則をもたせようとしています。
今のところはその記述は一切していません。
今後彼女がヒロインの座を勝ち取り、下剋上を果たすかは私、作者と
読者の皆様方次第です、と申し上げて今回のお話を締めさせていただきます。




