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誰がついてくるか……

「……と言うわけで、1~2月程離れることになった」

「「「…………」」」


朝、食事を終えユーリ達とレン・サクヤの報告の後、俺が昨日の報告を終える。

どうやらダークドラゴンのお母さん達ですら“青い竜”が何なのかは分からなかったそうだ。


青と言ったら『アクアドラゴン』かそれか、エフィーの『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の一体が変形した時にもなる『リヴァイアサン』が連想されるがどちらも天使の里付近で視認された竜の情報とは異なる。


うーん、となると……何なんだろうな……

青い竜自体が目撃されたことは疑いようのない事実なのだからそこをひっくり返して考えるわけにはいかない。


とすると、やはり新種の竜、それか……


「―様、旦那様、少々よろしいでしょうか?」


おっと、しまった、ユーリに呼ばれていたようだ。

そりゃそうか、今の報告担当は俺なんだし。


「おう、何だ?」

「はい、旦那様のお話ですと、誰か一人は旦那様のお傍でお供することができる、ということですよね?」

「ああ、そうだな。でもまだ連れて行くかどうかも考えないといけないけど」

「それは駄目だよ!!絶対誰か一人はお兄ちゃんについて行かないと!!」


レンが机をたたいて立ち上がる。


「そうですね。旦那様のお力は十分理解していますがサポート役は必要でしょう」


ユーリはしっかりと俺を立てつつも自分の意見を主張することを忘れない。


「そうだよ、お兄ちゃん!!別にボクじゃなくてもいいけど、誰か一人くらいは……そもそもその『シキ』って人が役に立つかどうかすら怪しいじゃない!!やっぱり誰か一人はついて行かないと」


レンはともすれば「自分がついて行く!!」とも言いだしそうなところ、一方でちゃんと空気も読んで発言している。


本当は「ついて行きたい」って言いたいんだろうけど……我慢しちゃってるのかな。

一応ちゃんとディールさんとの取引の趣旨も説明したし、そのこと自体は納得してくれてるんだろう。


レンは不安そうにしながらもちゃんと話の趣旨に沿って意見を発している。


この子も日々成長してるんだな……


「まあ言いたいことは分かるが俺一人でもできることは結構あると思うぞ?そうなる可能性も踏まえてディールさんが取引を持ちかけて来たんだから」

「……ディール……とっても……強い」


おおう!?

クレイがしゃべった!!


いや、しゃべること自体はおかしかないんだけど……


眠そうにしていたのにディールさんの話題になった途端目がキリッとした。

こんなクレイ中々見ないからな……


ディールさんもクレイのことについては知っていたからその逆、つまりクレイがディールさんを知っていても不思議では無い。


そして、そのクレイが『強い』と言い切るのだ。しかも『とっても』と強調されて。

俺自身もディールさんが強いことは分かっていたが、クレイが認めるんだ、やはりディールさんの強さは本物なんだろう。


「ディール様が強いということは分かりますがそこは兎も角として……やはりどなたかお一人は旦那様のお供をつけたいと思います。シキさんが優れた方だとしてもやはり身内がいるのといないのとでは違いますから」


うーん、言いたいことは分かるんだけどね。

まあそうだな……別に誰か連れて行くことに反対って訳じゃないからそこは尊重しようか。


「分かった。まあそれも含めてディールさんところに行って決めよう。今回はできればシーナもサクヤも皆ついて来てくれ。俺がいない間皆お世話になるわけだから」

「私も、ですか。分かりました」

「かしこまりマシタ」


既にディールさんがエフィーの『六神人形シィドゥ・オ・ドール』を見ていること、ユーリが聖獣であることにも気づいていることを伝えてあるのでリンやフェリア、サクヤがついて行くことに否は無い。


シーナについても先程取引の内容を話したら「私も……若しかしたら、強くなれる、のかな」と呟いていたのでついてくること自体は本人も了承してくれる。



連れて行くのが誰になるかはまだ決まっていないが、連れて行くことについては決まった。


後は俺がいない間に有事のことが起こったらどうするか、とかゴウさん達天使やダークドラゴンのお母さん達にどう伝えておくか、みたいな事務事項を話し合い、それからディールさん宅に皆で向かうことに。



……話が終わるとやはりクレイは眠たそうな顔に戻っていた。

クレイは元七大クランの団長ということで顔バレみたいな心配もあるが連れて行くとなるとやはりそこが心配だな……






ディールさん宅に着くと、何やらディールさんとシキさんが話し込んでいる模様。

シア達は見かけなかったがユウさんもいないし、恐らくもう既に修行を始めているのだろう。


ユーリ達にはしばらく待っていてもらい、俺はディールさん達の話に合流する。


「おはようございます。どうされたんですかお二人とも?」

「ああ、カイト君、おはよう」

「……おはようございます、タニモトさん」


ディールさんは普通に挨拶を返してくれるがシキさんの様子は暗い。

それをどうやらディールさんが説明してくれるようだ。


「ふむ、少し困ったことになってね。まあ何とかなると思うが」

「はぁ、困ったこと、ですか」

「うむ、ユウがいないことを良いことに、第10師団騎士の男女比を変えてやろうと言う動きが思った以上に早いんだよ」


ああ、なるほど。

そんなことになったら折角ユウさん達が頑張ったことが意味のないことに。

俺は別に正式に騎士になるわけでは無いから潜入が終わったら元の男がいない状態に戻るからな。


「そうですね。それは確かに困った感がありますね」

「ふむ、だからとりあえずシキ君に今すぐ王都に戻ってもらって対応案を考えてもらおうと話していたんだよ」

「……ディールさん、対応案と言ってもせいぜい3日、良くて4日です。私が戻ってから引き延ばせるのは。それまでにタニモトさんに来て頂かないと……」


俺が入れば男性騎士を入れる、というそのお偉いさん方の目標自体は先ずは達成できるわけだから、シキさん達としたら、入ってもらうのなら自分達に都合がいい・自分達と通じている人物おれの方が良いというわけか。


ディールさんはシキさんの言葉を受け、「ふむ……」と少し考えてから案を提供する。


「できれば1週間欲しいところだから私から考えを出そう。ゴホッゴホッ……誰か既存の騎士を君達のところに異動させる、というのではなく、臨時の騎士登用試験を行う、と言う風にしなさい。ユウはその期間休業、ということで。臨時である以上、上に通すのは難しいかもしれないがそこはユウが元々ピックアップしていた騎士を少なめにしても構わない。どうせカイト君が受かるんだ、募集期間ということで時間を稼ぐ方が重要だ」

「……確かにそうですね」

「え?確かに私が潜入するためには受からなければいけないでしょうけど……」

「安心しなさい。実力で受かってもらえるよう私がその期間で色々教えよう。ゴホッ、そう言えば誰か連れて行くか決めたかい?」

「あ、はい、誰かを『連れて行く』ということについては決めたんですが『誰を』というのは……」

「ふむ……成程。シア君たちはもう既に修行を始めているから……そうだね……」


ああ、やっぱりもうシア達は修行をスタートしていたのか。

でもどうやって説得したんだろう?


それとも特に衝突も無くあっさり離れるのを了承したのだろうか?

俺の恥ずかしい勝手な妄想で、もう普通にシア達は俺離れできていた……


それはそれでいいことなんだろう。

自分が必要とされなくなったような喪失感は確かにあるが一番の不幸はやっぱりあのリンカの町のような出来事が起こってしまうことだろう。


それを思うとシア達が俺に依存せずに生きてくれるのは良いことだ。

うん、そう言う風にプラス思考にしないとまた昨日みたいにダメダメ方向に考えてしまう。


そうだ、そう言う風に……


「……ほう、君は守護天使ガーディアンなのか」

「え?う、うん、そうだよ」


ディールさんが後ろで控えていたレンの前で興味深そうに何度も頷いている。

その声で思考を中断されたが、逆に良かったのかもしれない。


どっちにしろ切り替えは必要だ。

さて、今ディールさんの関心の対象はレンに移ったらしい。


「レンがどうかしましたか?」

「うむ。どの子がついて行けばカイト君にとってベストかと君の連れを見ていたんだが……レン君、と言ったね」

「うん」


レンはディールさんと言う未だあったことのない異質な存在に萎縮しているかのように映ったが、どうやら自分が守護天使ガーディアンということを説明していないのに言い当てたことに驚いている様子。


ディールさんはそれすらも見越して「あまり警戒しなくてもいい」と一言添えて今度は……


「ふむ……カイト君について行くのはレン君が良いと私は思うんだが」

「え?……ボク?」


ディールさんは咳を2,3挟み、俺に今の発言の趣旨を説明する。


「カイト君について行って騎士として潜入するわけだからある程度近接戦闘の能力があった方がいい。それに昨日の夜、ゴホッゴホッ……シア君達から聴いた話だとレン君はヴォルタルカの一件以降に仲間になったという事だから騎士にも、そして冒険者・クランの者達にも顔バレが少ない」

「……確かに、そうですね」

「クレイ君は知名度もあるから避けたい、と言う意味もあるが、ゴホッ、リゼル君の修行をクレイ君に任せたい。……ああ、今は私の知り合いにリゼル君を任せているが、その者は主に技術担当、クレイ君には近接戦闘を鍛えてもらいたい」


ああ、そうなんだ……

まあユウさんもシアの修行に加わってもらっているわけだし、ディールさん一人で担ってもらう必要は無い。


「……クレイ、リゼルの、担当?」


クレイは今の話をきちんと理解していたようだ、首を傾げて俺に確認してくる。


「ああ、そうらしい。皆が強くなるためなんだ、頼めるか、クレイ?」

「…………ん。分かった。クレイ、頑張る」

「ああ、ありがとう」


感謝の気持ちを込めてクレイを撫でてやる。

クレイは目を細めてされるがままに。

やはり分かり辛いがどうやら喜んでくれている様子。


「ユーリ君はその治癒能力を見込んでゴホッ……修行中の者の回復役を頼みたいと思っている」


まあユーリについてはそれが妥当だろうな。

俺とユーリが固まってしまったら誰かが修行中もしものことが有った時に困る。


俺とユーリは別れた方が良い。


「フェリア君とリン君には途中まではカノン君の手伝いをしてもらおうと考えているが……」


ディールさんはそこで視線をサクヤに移す。


「私は君が帰ってくるまでに何とかエフィー君の使うメカを6体から増やしたいと考えている。サクヤ君には私がメカの構造を理解する補助をしてもらおうと思うんだが、ゴホッゴホッ……その増やす属性は既存の属性との兼ね合わせも考慮して『氷属性』と『雷属性』が良いかと思うんだ」

「氷・雷……」

「ふむ、私はまだその属性の原理を完全には理解していないからそこから始めないといけないが……そもそもメカが大気のエネルギーを魔力へと変換しているのか、それともメカそのものに込められている既存の魔力を放っているだけなのかが分からん」

「ああ、なるほど、仮に後者だとすれば……」

「そうだね。後者だとすれば使いっぱなしで後は空になるまでは逐一私達のように魔力を使える者が補充してやらねばならないという事にゴホッ、なる。となると、聖獣二人の力が若しかしたら必要になるかもしれないのだよ」


メカたちを再起動させるために俺とエフィーは魔力を込めたし、その魔力が無くなったら動けなくなるとは言っていた。


俺達が送り込む魔力は生きることと魔法を使う事にも利用できるができれば後者の役割は俺達が食事を食べてエネルギーへと変換するように大気のエネルギーから補ってほしいわけだ。


本来ならメカたちが再起動するための魔力と言うのは異世界人かハーフエルフのものしか受け付けないが、ディールさんが調べ、研究して一から作るのだとしたらそこはすっ飛ばせる。


確かに再起動時、異世界人とハーフエルフ以外受け付けないが、ディールさんが研究すれば再起動時以外の魔力供給だけでもその制限を突破できるかもしれない。


それができれば純粋に氷・雷系統として俺よりも強い力を持つ二人に試してもらった方が良い。


まあ実験云々が無いにしてもカノンの手伝いもあるという事だ、二人はだから俺に付いてくる選択肢から外れる。


「そしてそちらにいるシーナ君は申し訳ないが今のままでは実力不足だ。残ってもらって私が鍛えよう」


ディールさんが配慮しつつもそう言い放つと、シーナは分かってはいたが悔しい、と言う表情に。


「……はい。よろしくお願いします」

「ふふっ、安心したまえ。私が見る以上、少なくともAランク冒険者に勝てるレベルには育てて見せるつもりだ。ゴホッ……強くなる覚悟があるのなら私は君に対しても閉ざす門戸は持ち合わせていないよ」


それを聴いたシーナは笑顔に、そして引き締まった顔になって挨拶し直す。


「はい!!よろしくお願いします!!」


その返事を聴いてディールさんは満足げに頷く。


「勿論ケルベロス君はカノン君の従者という事だからここに残ってもらわないとゴホッ……いけないね」

「ガゥッ!!」


ベルは『うむ!!カノン様が強くなられるために俺はお傍に控えよう!!』と言ってる。


そしてディールさんは俺達に向き直り……


「うむ。……と言うわけだ。消去法としてもやはりレン君にお願いしようと思う」

「なるほど、そういうことなら私もレンにお願いしようかと。―頼めるか、レン?」

「ボクが……お兄ちゃんについて行く……うん、分かった!!」


レンは一度かみしめるように自分がついて行くという事実を呟き、本当に満面の笑みでそう答える。

全員の中で一番幼いこともあってレンと離れることは心配だったがついて来てくれるのなら俺が守って……とは言っても近接戦においては若しかしたらレンの方が強いかもな。


能力値的にももう既に負けてるし。


この事実を受け、皆から「レンさん、旦那様のことを宜しくお願いしますね?」とか「レン、兄さんに無理させては絶対にダメであります!!」とか俺の方が心配されていることからもやっぱり皆の心配の対象は俺に向いているのかも。


はぁ……何だかな……


「……ちょっと待ってくれ」


と心の中で嘆息しているとディールさんから待ったがかかる。

え?一応……レンを連れて行くっていうのはディールさん発案なんだけど……


「どうしたんですか、ディールさん、そんなに深刻そうに……」

「ふむ、シキ君、試験内容の比率はどうだった?」

「え?あっ、はい!……確か、筆記が4割実技が6割、だったと」


いきなり振られてもちゃんと答えられる辺り、シキさんは優秀だな、とのんびり感想を漏らしているわけにもいかない。


ディールさんが深刻そうに考え込んでいる辺り、何かあるんだろう。


「……臨時の試験だから少しは割合も変えられるとは言え……筆記もあり、か」


あっ!!

俺はそこでディールさんの懸念の対象に思い至る。


「おい、レン!!」


ガシッといきなりレンの肩を掴む。

そして真剣な表情をしてレンを見つめてやると可愛らしく頬を朱に染めやがるもそこは無視。


「お前、確か字は書けたよな!?」

「え?う、うん……長の娘なんだから、今後必要になることも有るだろうって、算術と併せて一通りは……って、はっ!お兄ちゃん、問題ないよ!!ボクはいつでもお兄ちゃんの籍に入る準備はできてるから!!例え反対されても、お父さんだってボクが倒して見せるもん!!で、でも、何なら……お婿さんとして、里に、お兄ちゃんが来てくれても……」

「はいはい、それはお前が大きくなったらな」


モジモジと赤くなって見当違いのことを妄想しているレンは軽くあしらう。


はぁ~……良かった。

最悪の事態は避けれたか。



ディールさんの様子からすると恐らく文字が書けることは試験を受けるための最低条件だろう。

騎士になったら代筆なんてしている暇はないし、だから試験についても恐らく代筆は無い。


試験のために多少勉強しなければいけないとしてもそもそも字が書けなかったら絶望的だった。


「ふぅ……それを聴いて一先ず安心したよ。……じゃあゴホッ、勉学の方は一応教えても大丈夫、ということでいいんだね?」

「はい、多分大丈夫だと」


妄想の彼方に旅立っているレンの代わりに俺が答える。

やはりディールさんも同じことを考えていたようだ。


「それなら後は私が君達が受かるだけの知識を授けよう。レン君は実技で稼いでもらうが私が教えれば筆記などゴホッ……容易いものだ」


おおう、騎士の試験を容易いとか言いきっちゃうのか。

本当凄いね、ディールさんって。


「ではシキ君、そう言う事だから、今すぐ王都に戻って準備を進めなさい」

「……はい、分かり、ました」


返事においてシキさんは少し歯切れが悪い。

ディールさんはそれすらもどういうことか理解していたようで、すかさずフォローを入れる。


「安心なさい。必ず君達とユウとが離れ離れにならない道を見つけてみせる」


最早ディールさんは女神か何かなんじゃないかと思う。

その言葉を聞いたシキさんも複数の尻尾を揺らし、耳をパタパタさせて嬉しいですアピールをする。


「……しっかりとカイト君のサポートをすれば、ね」


……何だろう、天国にあげて地獄に落とす、は言い過ぎだろうが……ディールさんは本当に言葉の使い方が巧い。


「は、はい、承知しています。ユウと一緒にいるためなら何でもします!!必ずタニモトさんのお役にたって見せます!!―では」


それ以上は語らず、ディールさんが用意したヘルハウンドの進化系であるブラックドッグに乗って去って行った。


ディールさん曰くヘルハウンドはスピードに優れていて、ブラックドッグよりも早いが、ブラックドッグの方が総合的には強く、更に持久力も有るとのこと。



一息ついてディールさんは尚も動き続ける。


さっきの話からすると、ディールさんは皆の修行を見て、皆が寝静まった夜中にメカの研究をするという事になる。


……ディールさんはいつ休むんだろう。


もう少し休んだ方が、なんてことは言えないよな。

俺達のためにこうして動きに動いてくれてるんだから。


俺達が今できるのはそれに応えるために、修行を頑張ることだ。


カイトについて行くのはレンに決まりました。


取りあえず皆(シーナですら)修行パートに入りそうですが全員の修行を全て記述するという事は今は予定していません。


書くのは多分主要な部分だけですね。



六神人形シィドゥ・オ・ドール』がモンスターモードになった場合、どんな生き物になるかは既存の記述だと風属性がグリフォン、そして水属性がリヴァイアサンしか書いてないかと思います。


これは一応ステータスを公開する時に全部分かるように、というのを予定しています。


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