えっ!?俺……
「お兄、お帰り~!!」
孤島へと帰ってきた俺を迎えてくれたのはリンだった。
リン一人でのお出迎えと言うのは初めてだな、中々新鮮だ。
「ああ、ただいま。他は?」
「うん、もうユーリやレン達も帰って来てるよ?あんまり成果は無かったみたいだね。お兄は一人?お姉たちは?」
リンはピョンピョン跳ねて俺の後ろを覗く。
「アウッ」
そこにいるのは犬みたいに吠えるカエンのみ。
お座りしているカエンを撫でてやり、リンの質問に答える。
「ああ、皆はワープ先のディールさんの家に泊まって行くことになった。それで……皆いるってことでいいのか?少し話したいことがある」
「うん、いるよ?もうクレイさんは寝ちゃったけどねぇ~。レンとフェリアはサクヤンにご飯作ってもらって一緒に食べてるよ」
ほう、リンはサクヤのことを“サクヤン”と呼んでるらしい。
リンはクレイに似て結構自由だからな……
まあそこは本人たちの自由だから介入するつもりは無いが。
「分かった。じゃあ取りあえず食堂に行くか」
「うん、行こ行こ!!」
リンに腕をとられ、引っ張られながら我が家へと帰って行く。
リンはその際あえてその胸をムニュッと押し付けてくる。
くっ、悔しいがこの何とも言えん柔らかい感触は確かに気持ちいい。
だが、こうやって俺の反応を見て楽しむのがリンの常套手段だ。
コイツは本当に油断ならんからな。
意識を保つために機械のくせにカエンのモフモフした鬣をワシャワシャすることに集中してやった。
カエンの嬉しそうな「アォーン!!」という遠吠えとは反して、俺の行動にリンはやや不満げ。
少々唇を尖らせては「ちぇ~、つまんないの~」と不平を漏らす。
ふふっ、何でもお前の思い通りになると思うなよ。
育て親として優しくしてやりたい気もあるが世の中の厳しさを教えてやるのも俺の務めだ。
食堂に着くと、リンの言う通りフェリアとレンが二人でいたが、既に食事は済ませたようだ。
二人で何か会話している。
俺に気付いたレンが椅子から直ぐ様立ち上がる。
「あー!!お兄ちゃん、お帰り!!」
俺の下に駆けて来たレンは眠さを感じさせない笑顔を浮かべている。
クレイは寝てしまったというのに、レンは元気だな。
「おう、ただいま。まだ起きてたのか?」
「うん!!フェリアと色々話してた。お兄ちゃん一人?」
やっぱりそこは皆気になるのか。
「ああ。シア達はワープ先のディールさん宅にお泊りだ。それで、色々と話したいことがあるんだが……」
クレイがもう既に寝てしまったことを受けてどうするか考える。
クレイはあんまり話を聴いているかどうか分からないが、一人仲間外れにするのは良くない。
今ここにいないのは後シーナとユーリ、それにサクヤか……
どうしよう、若しかしたらもう他にも寝ている者もいるかも……と悩んでいたらフェリアがチラチラこちらを横目で見ているのが分かる。
……あれでコッソリ様子を窺っているつもりなのだろうか?
怪しすぎるだろ。
「僕、怪しい奴じゃないです」って自分から言う奴位挙動が怪しすぎる。
かと言ってここでフェリアに「どうした?」と声を掛けでもしたら、若しかしたらフェリアから罵声のお返しが来るかもしれない。
迂闊に声を掛けられない状況。
これまたどうするか悩んでいるとフェリアからアプローチが来る。
「……兄さん、お帰りなさいであります」
何だ、普通に挨拶をしたかっただけか。
脅かすなよ。
「おう、ただいま、フェリア」
「……“フェリア”?」
あれ?
普通に返しただけなのに何その反応!?
また!?また何かあるの!?
「……レンが挨拶した時はレンの名前を呼ばなかったのに、フェリアの名前だけどうして呼ぶでありますか?」
「え?あ、ああ。そう言えばそうだな。……でもそれは悪いことか?レンには申し訳ないかもしれないが別に意識して区別したわけじゃ……」
「あれでありますか?サクヤが言っていた“えろげー”や“ギャルゲー”なるものでありますか!?フェリアの名前を入れてヒロインにいやらしいことするでありますか!?その延長で兄さんは間違えてうっかりフェリアの名前を呼んでしまったでありますか!?」
「いやいや、どんだけ俺痛い奴なんだよ!?んなことしねぇわ!!現実と二次元の区別位つけてるっつうの!!ってかサクヤの奴何教えてんだ!!」
そんなことしたら先生をお母さんと呼んでしまった以上に恥ずかしい……ってか死にたくなるだろ普通。
レンとリンが変な誤解をしないよう語気を強めてしっかりと否定しておく。
ってかそもそもこの世界にはゲームが存在しないんだからそんなことしようもない。
……例えできてもしないが。
「……してくれない、でありますか」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないであります」
プイッと顔を逸らしてしまうフェリア。
……本当にフェリアはよく分からん。
「まあまあ、二人とも。……それで、お兄、話があるって言ってたけどどうする?私的には明日でもいいと思うんだけど。もうクレイさん寝ちゃったし、2度手間なっちゃうよ?」
「うーん、ボクも難しい話なら明日の方が良いと思う。シーナお姉ちゃんも疲れてたし」
リンとレンの意見はもっともか。
ここで無理して話そうとしても今の話だとシーナに無理させてしまうことになる。
どっちにしてもクレイが寝てしまってるんだ、明日の朝、食事の時に集まるだろうからその時にしよう。
「そうだな。明日の朝、ご飯の時にでも説明するよ。皆からの報告もその時でいいだろう。シーナやユーリ達にも会ったら伝えといてくれ」
そう告げた時、リンが小さくガッツポーズして「よし来た!!」と言ったように聞こえたが……まあそりゃ難しい話しをするのを先延ばしにできれば嬉しくもなる、か。
ユーリとかだったらそう言うことは早いうちに処理したがるだろうが、まあリンはそんな感じか。
そう思って気にしないことに。
「やったぁ!じゃあさ、じゃあさ、今から皆で遊ぼうよ!私ずっと留守番してて今日何もすることなかったんだ!!」
リンはやっぱり純粋に喜んでいたようだ。
でも今から遊ぶというのはまた突飛だな。
「今からか?遅いとは言わないまでも、結構暗くなってるぞ?」
「いいじゃんいいじゃん。ほんと暇だったんだから少し位付き合ってよぉ、別に明るさ関係ない遊びにするからさ、ね?お願いお兄ぃ~」
リンは胸の前で拳を握りブンブン振って遊びたいアピールしてくる。
こういうリンの仕草はあまり見ないし純粋に可愛いなと思う。
うーん、俺のせいで普段あまり構ってやれない分、こういう時に一緒にいてやるのも大切なことか。
別に遊ぶだけなら多少疲れるだけだし。
「よし、分かった。但し、危ないこと以外な」
そう言ってやると期待と不安が入り混じっていた表情が一転、一気に花開く。
本当に嬉しそうに笑顔を見せるリンを見ると言ってやってよかったなと改めて思う。
「やったぁ!!お兄最高、だから大好き!!」
「はいはい、分かった分かった」
「レンも一緒に遊ぶでしょ?」
「うん!!ボクも一緒にお兄ちゃんと遊ぶ!!」
レンは当たり前だと言うように俺の下へ来て既に楽しそうにして話す。
この二人がいると本当に賑やかになるし、こっちも明るい気持ちになれる。
そしてこの食堂にいる最後の一人……
やはりこちらをチラチラチラチラと……
女性の胸をチラ見する男ですらもっと上手く見るんじゃないかな?
これで本人はバレてないと思ってるんだから困ったものだ。
そしてリンとレンの「(お兄、お兄が誘ってやってよ。え?私?嫌だよ、気まずいもん)」、「(これってお兄ちゃんの誘い待ちだよね?ボクが誘わなきゃいけない訳じゃないよね?そうだよね?)」と訴えかけてくる視線。
くそっ、リンめ、お前の方が聖獣同士なんだから俺より仲良いだろうが!
レンに至っては殊空気を読むことに関してはかなりのもんだからそう言う流れに持って行こうとしている。
コイツ等……そう言う連携は戦闘の時とかに見せてくれればいいんだよ!
分かったよ、俺がやればいいんだろ、もう……
「なあ、フェリアはどうする?一緒に遊ぶか、俺達と」
別に断ってくれるならそれでも良かった。
取りあえずフェリアに何か揚げ足を取られて罵声が降ってくることを避けられるよう言葉を選んだつもりだった。
だが、その時の俺は知らなかったのだ……フェリアが抱えている闇を……
「……“遊ぶ”」
「ん?遊ぶのがどうかしたか?」
「遊び、なんて、子供がやることであります」
フェリアは吐き捨てるかのようにそう告げる。
え?……フェリ、ア?……
フェリアは何か悪い物が憑依したかのようにまるで雰囲気が違った。
今迄のフェリアの罵声と言うのは確かに揚げ足を取ったり理不尽なものが多かったが、今回のそれはまるで違う。
本当にそれが憎々しいかのように語るフェリアを見て、俺は唖然とするしかなかった。
「フェリアは……人間の勝手な都合で遊びが何なのか……教えてもらう前に親と引き離されてしまったであります。何が勇者でありますか、何が聖獣でありますか!……フェリアは命の危機に晒され、それでも助けてくれるパパフェリアも、ママフェリアも……フェリアにはいないのであります」
「フェリ……ア……お前……」
「フェリアは何もできない、何も教えられていない状態で死の淵に立たされたのであります。……それを助けてくれたクレイさんや、フェリアに良くしてくれるシア姉さん達にはとても感謝しているでありますが……何の危険も無く育っておいて、惚けて“遊び”なんて単語を発する奴なんて……大っ嫌いであります!!」
フェリアはそれを最後に、食堂を飛び出て行った。
……フェリアの目に光ったもの、あれは……
「フェ、フェリア!!」
レンが少し遅れてフェリアの後を追う。
俺もそれを見て我に返り、同じように後を追おうとするが、リンが腕を取って引き留める。
「リン、離せ!!フェリアを追わないと!!」
「ダメ、今のお兄を行かせるなんてできないよ!!……お兄、とっても辛そうな顔してるよ?今のお兄が行っても多分逆効果になる。今はレンに任せて、少し落ち着こう、ね?」
リンがいつにも増して真剣な表情で告げるていることもあり、俺も少し冷静になる。
俺は、また……
「……悪い、怒鳴ったりして。折角リンが考えて止めてくれたのに」
「ううん、気にしないで。お兄の役に立てて私も嬉しいし。……さ、今は座ってゆっくり落ち着こう」
リンは木製の椅子をひいて俺に座るよう促してくれる。
こんな小さな気遣いでも、今の俺にはとても嬉しく感じる。
「ああ。ありがとう」
断る訳も無く、そのまま腰を下ろす。
リンも俺の隣に座る。
「……フェリアが、そんなに思い悩んでいたなんて、俺は、気づいてやれなかった」
別にリンに話しかけたわけでは無かったが、リンはそれを聞き取り答えてくれる。
「あんまりお兄は気にしないでいいと思うよ?お兄は考え過ぎな所とかあるし」
「そう言ってくれるのは嬉しいが……リンも、フェリアみたいに俺達人間を恨んでいるのか?」
「えっ、私?私は別にそう言うことは無いかなぁー……」
「そうなのか?……でも、実質的には人間のせいで、お前達は……」
「まあそう言われればそうなんだけどねぇ~。まあユーリやフェリアの奴がどう思ってるかは知らないけれど、私自身は別に気にしてないよ?だってそのおかげでクレイさんやお姉、それにお兄と出会えたんだから」
「……そう言ってくれるのは嬉しいが」
「まあさっきのフェリアがインパクト強かったから直ぐに納得するのは難しいかもしれないけれどね……あえて言うなら、そうだね……周りを恨むって言うには、私にとっては周りが優し過ぎたって感じかな?お兄を初め、クレイさんや、お姉、それにシア姉やエフィー姉、リゼルンもいるね!……だから、まあ私に限ってはお兄は気にしないでいいよ」
「そうか……ありがとう、リン」
「うん」
それからはお互い話さず沈黙していたが、それは嫌な間ではなく、心地よい温かな空気が俺達の間に流れていたように感じた。
それから十数分後、リンが二人の様子を見に行って帰ってきた。
「うん、もう大丈夫だと思う。お兄、行ってあげて」
「ああ。わざわざありがとうな」
俺はリンに礼を言って、二人の居場所に向かう。
フェリア……待っててくれ……
そうして砂浜に駆け付けた俺が見たものは……
「フェリア、もう一回言うけど、あれは流石に言い過ぎだよ~、絶対お兄ちゃん誤解してる」
「た、確かにフェリアも、悪かった面も、無きにしも、有らず……のような気がしないでもありますが、あれは兄さんも悪いであります。……フェリアに……現実では無いとは言え、エッチなこと、しない、兄さんが……」
「いや、でも“大っ嫌い”はやっぱり駄目だよ!」
「うぐっ!…………やっぱり言い過ぎたでありましょうか?」
「うん。幾ら何でも“大っ嫌い”は無いよ。……まあ今は後でお兄ちゃんに謝るためにも、気分上げよう?」
「……分かったであります。……レン、ありがとうであります」
「ううん、気にしないで。……それでどうする?いつものやる?」
「……そうでありますな。気分を上げるにはやっぱりアレであります……よし!!―ジョーカー、いつものやるであります!!フェリアと遊ぶでありますよー!」
「おっ、ベルもヴィヴィアンもやる?『お兄ちゃんの良いところ言い合おうゲーム!!』」
「…………!!」
「ガウッ!!」
「グヮー!!」
「フフフ、ジョーカーも気合十分でありますか。でも、フェリアはこの遊びでは負ける気がしないのであります!!」
「フフン、ボクだって負けないよ?お兄ちゃんの良いところ、いーっぱい知ってるもん!!」
「いざ!!」
「勝負!!」
~30分後~
「ふぅ、ふぅ、引き分け、のようでありますな。レン、腕を上げたであります」
「ふふっ、フェリアこそ……」
「次は何して遊ぶであります?」
「うーん、次は『お兄ちゃんのカッコいいところを言い合おうゲーム!!』でどう?」
「むむっ!!それはわざわざフェリアの土俵に乗ってくれる、という解釈でいいのでありますか?」
「ふふん、それはこっちのセリフだよ!これ以上にボクの得意分野なんてないんだから!!」
「……………………」
「ガ、ガルゥ……」
「グヮ、グヮーン……」
「ではいざ!!」
「尋常に!!」
「「勝負!!」」
~更に30分後~
「くっ、また……」
「引き分け、のようだね」
「次は……」
「ガッ、ガウガウ!!ガウー!!」
「ん?ベル、なんて?」
「ああ、『そ、そろそろ良い時間だから、もうそろそろお開きにしても……』と言っているであります」
「ああ、そう言えばそうだね。もうかなり暗いから……」
「ガ、ガウーー」
「……………………」
「グヮーーー」
「よし、じゃあ最後、リアルおままごとをして、今日は終わりにしよう!」
「そうでありますな」
「ガ、ガガガウッ!?」
「…………!!?」
「グ、グヮー!?」
「じゃあいつも通り……今日はフェリアが兄さん役の番でありますからレンはお嫁さん役であります!!」
「うん、分かった!!ベルはポチ役、ヴィヴィアンはピーちゃん、ジョーカーはお兄ちゃんを好き過ぎて未練たらたらのヤンデレ元愛人役お願いね!」
「配役もバッチリであります!!さあ、目一杯遊ぶであります!!」
「うん!!」
~そして更に30分後~
ってえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
遊びの内容如何は兎も角―
「滅茶苦茶遊んでますやん!?」
落ち込んでたんちゃうんかい!?
変な関西弁出た!いや、関西人の人には申し訳ないけどもう無茶苦茶!!
何もかも色んなことが無茶苦茶だ!!
さっきのあれなんだったの!?
しかもよりにも依って遊び相手に何故“ジョーカー”を選んだ!
一番遊びに遠いだろコイツ!!
それに何で設定それなんだよ!!
ベルとヴィヴィアンペットなのに何でジョーカーだけヤンデレ元愛人!?
怖いわ!!ただひたすら怖ぇえわ!!
「えっ!?に、兄さん、何故ここに!?」
俺の大声のツッコミにフェリアは驚いている様だ。
俺はフェリアに近寄り肩をガシッと掴む。
「いや、“何故”はこっちの言葉なんだけど!?何故あんなこと言ったの!?フェリア滅茶苦茶遊んでるよね!なのに何で“遊び”をどうのこうのと……」
「……な、ななななななな何のことを言っているかよく分からないであります」
「いやいや、『いつものやるであります!!』とかノリノリで言ってたじゃん!!目逸らさないで、ちゃんと話して!!」
フェリアの目は泳ぎっぱなしなのでちゃんと向き合って話してくれるよう語気を強める。
「……兄さん、こんな夜中に独りで発狂しているでありますか。何がそこまで兄さんを追い詰め……」
「発狂してねぇよ!!後全部お前が原因!!……なあ、話してくれよ、フェリア、何であんな暗くなるようなこと言ったんだ?」
「そ、それは……きっと兄さんの勘違いであります」
「あんな盛大な嘘を俺の勘違いで済ませようとしてんの!?無理あるわお前!!」
「ぐっ!!……」
どうしても話してくれないフェリアにどうするか迷っていると……
「どう、お兄、フェリアとバカやってる?」
呑気な声で、しかも面白い物を見られると言った調子でやってきたリン。
その顔はいつものように、いやいつも以上にニヤニヤしてやがる。
コイツ……
「おい、どういうことだ、フェリアの奴、滅茶苦茶遊んでやがるじゃねえか!さっきは“遊びなんか”みたいに言ってたのに!!」
「やだなぁ、お兄。フェリアは遊ぶのが大好きなんだよ?時間が余ればこうしてモンスター達とコミュニケーションとることに積極的だし。しかもジョーカーが来た時はその風貌や威圧感から周りと馴染めるかどうか心配してモンスター達に声をかけて積極的に遊びに誘ってあげてたし」
何その話!
めっちゃ良い子!!
ジョーカーのことまで心配してあげるとかフェリア、無茶苦茶良い子!!
「はぁ……本当に人騒がせな。フェリアが俺に助けられたことが嫌だったり親がいないこととか色々思い悩んでいると思ったぞ」
「な!?そ、そんな、兄さんに助けてもらったこと、嫌だったなんてそんなはず、無いで、ありま―」
「え~、それは無いって、お兄、思い出してごらんよ、私達がまだ人の姿になる前で、お兄に助けられた後とか、お兄の部屋に寝に行った時―」
「リ、リン!!それ以上は黙るであります!!その口全部凍らされたいでありますか!?」
そう告げた瞬間、俺達の空気が瞬く間に冷たくなるように感じた。
寒いとまではいかないが、とてもひんやりとした空気に。
俺は慌ててフェリアを宥める。
「まあまあ、喧嘩はよそう。……兎に角、お前が思い悩んでたり苦しんでるとかじゃなくて良かった。もしそう言うことになったら俺……は嫌か。まあ姉代わりになってくれてるシアでも、クレイでも誰でもいい。話して溜めこむんじゃないぞ?後こういうことも今後は勘弁してくれたら助かる」
「な、なんで兄さんのことを嫌、だなんて……」
リンはフェリアの耳元にそっと近寄り俺に聞えないよう耳打ちする。
「ふふん、今まで素直にならなかったツケだねぇ~、フェリア。ちゃんと言っとかないと、お兄はどんどん勘違いしていくよ~?」
「くっ、分かって、いる、であります!!」
その様子を心配して見守る俺とレン。
だが俺とレンとは何を心配しているかが違うらしい。
さっきまでは何も介入してこなかったのに、レンがフェリアとコソコソ話し始めたあたりからそわそわしだした。
まあ女の子だからね。
色々あるのは分かるんだけど……
話が終わったのか、フェリアが俺に向き直って咳払いして話し始めた。
「コホン……べ、別に兄さんが嫌とか、嫌いとかではないであります。さ、さっきのは……さっきのは…………少し、恥ず、は恥ず、はは恥ずかしかったから、心にもないことを言ってしまった感も無くは無い、でありますからして……」
え?恥ずかしかった?
うそ!?それだけ!?
た、確かにフェリアは聖獣の姿の時はとても恥ずかしがり屋だったが、今、それがこんな風に……はぁ~。
「……分かった。今回のことが嘘だったとしても、俺もちょっとフェリアのことを知らな過ぎて誤解してしまった。もっと気を付けるよ」
「兄さん……わ、分かったであります。フェ、フェリアも兄さんに過労で倒れられても困るでありますから、仕方なしではありますが……何かあったら……ちゃんと言うであります」
フェリアの顔はもう紅葉を散らしたかのように真っ赤になっていて指や体もモジモジしてて……ああ、この子も女の子なんだな、と意味も分からない感想が生まれて来たが……まあ要するに可愛らしかった。
「ああ、ありがとう」
取りあえず、今日はもう遅いので遊びの内容には触れず、家に戻って夜を明かした。
ちなみに家に戻る途中ベルに泣いて感謝されたことはフェリアとレンには内緒だ。
すいません。若しかしたら途中まではまた暗ーい話になるのかな、と思われたかもしれませんが……まあこんな感じです。
ジョーカー……(泣)




