2人目のSランク冒険者
あれが……あの全身ピカピカな鎧さんが2人目のSランク冒険者……
報告書では合同会議に欠席ってことだったが、今この人が言った『1週間探した』と言う言葉が本当ならディールさんを探すために欠席していたということになる。
よくよく考えると……ディールさんって本当に凄い人なんだな。
同じSランク冒険者が会議を欠席してまで探される存在。
しかも最強と呼ばれるクランの団長が、だ。
となると孤島のワープポイントが何でそのディールさんとピンポイントに会える所に繋がっていたのか、という疑問が尽きない。
うーむ、ディールさんの知恵を借りられればいいがそうなると孤島の存在や色んなことについて話さなければならないことになる。
今は……まだ、それは……
勿論潜んで考えを巡らせる俺を余所に会話は進む。
「君は七大クランの合同会議を欠席してまでこんなところに来たのかい?ゴホッゴホッ……もっと自分の存在の重要性を理解した方が良い」
「それはこっちの言葉です。あちこちに隠れ家をつくったり魔法を使って篩をかけるのをやめていただきたい。探す方の身にもなって欲しいものです」
「ふむ、勝手な言い草だね。ゴホッゴホッ……私がどこに家を造ってどこに隠れようと君達にとやかく言われる筋合いはないと思うんだが。それに、別に私は難しいことを課しているつもりは無い。更に言えば君本人が来なくても『三騎士』の誰かをゴホッ、寄越せばいいんじゃないのかい?恐らく彼等でもここまでこれたはずだ」
「……今回伺わせてもらったのはあなたに伺いたいことやお願いがあってのことです。いくら何でも私自身で来ます」
「……それはいいが七大クランの団長があまりホイホイ相手に『お願い』なんてゴホッゴホッ……使わない方が良いんじゃないかい?足元を見られるよ」
「……ご忠告ありがとうございます。これが七大クランの団長相手だったらそうしていたでしょうが……“死霊魔術師ディール”相手に隠し事は通用しない、あなたを知る者からしたら下手に探り合いなんてことをするのはかえって悪手です」
「フフッ、評価してもらえるのは有りがたいがその言い方だとそれ以外のクランなら舐めてかかるという風にも聞こえるね。まあそれは良いか……それで、用件は?」
ディールさんってそこまで評価されてるのか……
確かにディールさんって会って間もないのに何でも知ってて何でも分かるってイメージだわ。
だからこそさっきは何でも尋ねてしまったら自分の力にならないと思って色々と聴くことをグッと堪えたわけだが……
そういったディールさんの凄さが七大クランの団長レベルででも認識されてるって事実は本当に凄いの一言に尽きる。
さて、そんなディールさんへの用件とは一体……
「……それでは、主に3つあるのですが、先ず1つ目。これは完全にダメ元なんですが……」
ダメ元って言っちゃうんだ。
「それ程遠くない未来、王国を打倒しようという動きがあるのはご存じだとは思いますが……その戦いに参加してはいただけませんか?」
え、何それ?
革命・内乱が起こるってこと!?
こんな王国だからそれが起こるって言われても不思議じゃないが、わが祖国はそんなこととは無縁だったからな、それ自体が珍しい。
一発目から凄い情報なんだが……
俺が考える時間を与えないと言ったように鎧さんは続ける。
「既に北のソルテール帝国と話は付けています。王国内の幾つかの領主も説得して落としました」
うーん、話によっては革命・内乱、というより外患誘致ってことにも……
「流石だね、でもなら別に私がいなくても―」
「いえ、Sランク冒険者がいるのといないのとでは戦力的にも士気としても訳が違います。今、だからこそ七大クランも何とか纏めようと頑張っていますがやはり騎士を一人で3000人倒したという“紅鎧事件”を起こしたのがディールさん本人だと分かれば皆の士気も……」
おおう、エフィーが言ってたあれか!
やっぱりディールさんが1人で騎士3000人も倒したのは本当なんだ……
えげつねぇ……
「フッ、あれは私が無茶をしていた時の話さ。ゴホッ、今はもうあんな無茶できる年では無いよ」
「では、やはり……」
「ああ、正式な依頼として出されても御免だね。私は別に王国にいてもいなくても研究できる。だから王国に拘る必要は無いからね」
ディールさんはキッパリ断ったようだ。
研究がどこでもできると言ったが、一方でここはそこそこ王都からは近いというのはさっきのシキさんとの話で理解している。
ということは……ここにディールさんが隠れているのは、やっぱりユウさんを心配してのこと、なのかな?
とするとそれこそユウさんさえ騎士じゃなければこんなところにいる理由は無いことになる。
「……分かりました。そうおっしゃるとは分かっていても残念です」
結構引き下がるのが早いな。
本当にダメ元だったんだろう。
それはそうと、やっぱり鎧さんの『声』、気になるな……
これならサクヤの機械音が混じった声の方が可愛げがある。
でもディールさんはそこにはツッコまないよな……
俺だけなんだろうか?
俺がヴォカロとかボイスチェンジャ―とか知ってるからこそ気づく……のかな?
かなり違和感あるんだけどな……
「ふむ、で、他は?」
「はい、2つ目なんですが……」
二人とも切り替えが早い。
いや、ディールさんは別にそう言うわけじゃないか。
淡々としているというか、何となく話す内容が予想できていたのかな?
驚きも全然ないし。
「これはお尋ねしたいことなんです。これが何とかなれば3つ目は無くなるんですが……『黒霧』、という男性冒険者を知っていますか?」
「『黒霧』?はて……聞いたこと無いね。何かの二つ名か通り名かい?」
ディールさんはそれを聴いてよく分からない、と言ったように首を傾げる。
本当に知らないのかすっ呆けているのかは分からないが……
……すいませんディールさん、それ……俺です。
レイスさんの兜が項垂れるようにガシャン、と下がる。
ディールさんが「聞いたとと無い」と言って落ち込んでるのかな?
表情が……そもそも顔が見えないから言動で判断するしかない。
ただ何で七大クランの団長が俺のことを……騎士団に逆らったってのを聴いて仲間にでも入れたいのか?
「はい、本名ではないそうです。……そっちの方が圧倒的に有名でして、ご存じないのでしたら仕方ないですね」
……やっぱり通り名・二つ名なんてあっても碌なこと無いな。
カッコいいとは思うがね。
でももし俺の本名を聴いたらディールさんはどうするんだろう。
答えちゃうのかな?
隠れて見て置け、という位だから知らないと言ってくれるとは思うんだが……
そのことを考えると背中にじわっと嫌な汗が。
少し緊張する俺を余所に、やはり話は進む。
「『黒霧』、か。ふむ、分かった。ゴホッ、そのことについては何か分かったら情報を提供しても構わないよ」
っ!?
ディールさんが答えると俺の体がビクッと反応してしまった。
すぐさま自分を鎮めて気配を消すことに徹する。
ふぅ……今のはちょっとマズかった。
気配を消し……ているわけではないがそのプロフェッショナルたる俺が話の内容に動揺するのは自分でもいただけない。
でもこれは一方でディールさんが本当に『黒霧』については知らないってことだ。
今どうこうなるわけじゃないだろう。
警戒は必要だが。
「そうですか、それは本当に助かります。彼についてちゃんとした情報がほとんどないんです」
「ふむ、まあゴホッゴホッ……あまり期待はしないでくれ」
「ハハッ、あなたのところに入ってくる情報は本当に多岐を極めますからね、そうは言っても多少は期待します」
「そうかい、まあいいが。……それで、最後は?」
ふぅ……話題が替わってくれて一安心だ。
「……前二つは申し訳ありませんがあまり期待はしていませんでした。……ですがこれはできれば色よい返事をいただきたい、言わば本題です」
内容からすれば真剣なんだろうがレイスさんが手を動かすたびに鎧がガシャガシャとうるさいから集中し辛い。
そもそも何であんな全身鎧着てんだ?顔や声すら判断できないからあのデカさじゃなければ性別すら判断できないところだ。
鑑定してみると『ルナの光鎧』と出る。
かなりレアものっぽい。
そりゃ団長クラスならそれ相応のものを使ってもおかしくは無いが……
「ふむ、で、それは?」
「……Sランク冒険者になるために必要な推薦、あなたにもして欲しい人がいるんです。直近であなた以外に私が個人的に話をした人物なんですが……勿論二人の内一人は私が引き受けます」
……ほう、お願いの内容自体は兎も角、Sランク冒険者になるためにはまずSランク冒険者2人の推薦が必要なのか。
でもそれだと1人目の人とか2人目の人は条件を満たせないことになるから条件は最初から最後まで同じだったわけでは無いんだろう。
「……『オリジンの源剣』の二人にはゴホッ……クラン同士の事情なんかも考えると頼み辛い、か。1人目は勿論6人目のヨミ君は行方が分からないしそのお鉢は自然私に回ってくる、と」
「お察しいただき感謝します」
ん?今のディールさんの言い方だとあの空白だった1人目のSランク冒険者は……いない、のかな?
6人目の人と同じように行方不明……とかだったらディールさんは言ってくれてただろうし、となると根本的に先ず存在するかどうか怪しい、とか。
何となくだけどね。
「ふむ、言いたいことは分かったが、それはさっきの件とは話が変わってくるね。ゴホッ……さっきのは私が積極的にその人物を探す、と言うわけでは無いが推薦状を書くとなると私が積極的に何かをしないといけないことになる」
「はい、それは理解しています。ですから書いていただけることに対して―」
「ほう、対価として何かくれるって言うのかい?言っておくけど金には困ってないよ?ゴホッ、それこそ研究に必要な金位自分で何とかできる。同じSランク冒険者としてそれ位は分かるだろう?」
「……はい、ですからあなたにお願いごとと言うのは厄介なんです。何を対価とすればいいか定まらない」
おおう、手の内を明かしちゃった!
ディールさんも「フフッ」って笑っちゃってる。
でもそんな厄介な人に頼まないといけない位他の人に頼むというのは難しいんだろう。
やっぱりクラン同士の勢力争いとかも絡んでくるんだろうな……
その点ディールさんはクランに入ってはいないしこうやって頼み込んでもクランの争いとかにはならない。
個人的な貸し借りに消化できる。
レイスさん的にはこっちの方が良いんだろう。
でもなんでディールさんはその推薦するかどうかの対象を聴かないんだろう?
結構重要な関心事だと思うんだけど。
レイスさんが誰か言わないってことを組んであげてるのかもしれない。
普通なら言うと思うんだが……それを言わないんだから言いたくない事情でもある、とか。
さっき「直近で個人的に話した」って言ってたし、その『個人的に話したのが誰か』、ということを特定されたくないのかも。
「何か無いんですか?私が持っている物ではなくてもクランにある物でも構いません」
もうぶっちゃけまくりだな。
交渉事としてそれはどうなんだ。
それほどにディールさん個人を信用している、とか?
ディールさんなら必要以上にふっかけることはしない、みたいな。
それなら分かるんだがうーん……ん?
そうして考え込んでいるとディールさんが俺の隠れている茂みをチラッと見た。
え?何!?何ですか!?
ディールさんは気付かれないよう鎧に向き直り、ニヤッと笑みを浮かべ―
「そうだね……では私が言う3つの物を用意できればゴホッゴホッ……推薦状を書く、どうだい?」
おおう、3つも!
日本の昔のどこかのお姫様みたいに存在しない物を要求などしないだろうな?
「……その3つに依ります。私に準備できる物ですか?」
ああ、やっぱりレイスさんもそこは気になるんだ。
「うむ、最初の二つは恐らく君達のクランにあるだろう。先ず“ラックラビットの魔核”」
「確かにありますが……あんな物何に使うんですか?入手困難であるのは確かですがそれだけです。光りものが好きな貴族のマニアがこぞって欲しがり金にはなりますが、あなたのさっきの話しぶりからするとそういう使い方では……」
彼女が要求する1つ目を聴くとガシャンという音をあげて鎧が動き、考え込む素振りをしてブツブツ呟く。
「ほう?用途を教えるのも君のゴホッゴホッ……お願いなのかな?ならまた考え直さないといけないが―」
「い、いや、申し訳ない!用意するのは可能です!!それで、残り二つは……」
ディールさんがツッコんでくるなと仄めかすとガシャガシャ腕を振り慌てて謝罪する。
……レイスさん、面白いんだけど一々鎧うっさい。
「ふむ、2つ目は“ルナの光書”。君達のクランに3つある、と聞いたことが有ってね。それを一つ」
「……幾つあるかはお答えしかねますが……ディールさんは光魔法の素質でもおありで?」
「いや、私は無いよ?フフッ、別に私が使うとは限らないだろう」
「そうですね……」
「で、どうなんだい?」
「…………分かりました。お一つ用意させていただきます。それで、最後は……」
長いための後そう答える。
最初の1つ目と比べて結構悩んでいたようだが……
2つ目の方が価値があるのだろうか?
「ふむ、最初2つで結構無理を言ったからね。最後は簡単なものにしよう。“リバイバルスライム・シャイン”を50体、それ以外の5属性の“リバイバルスライム”を5体ずつ。それを3つ目としよう」
最初2つはやっぱり結構難しい物だったんだ。
「最後はそれでいいんですか?勿論今クランに準備があるわけではありませんが最初2つと比べるとかなり易しいですね」
「ふむ、私にも良心は存在するからね。ゴホッゴホッ……それで、どうする?1つ目は可及的速やかにお願いしたいが2つ目3つ目は用意出来次第でいい」
ディールさんは試すような視線で輝く鎧を見つめる。
1つ目が提示された際より長い沈黙を経て、レイスさんは顔を上げる。
「……それで、私は大丈夫です。お願いしても、宜しいですか?」
「うむ」
「ありがとうございます」
レイスさんは手を胸に当て騎士さながらの丁寧な礼をする。
オルゲールのを見ているしやり方は一切異ならないはずなのにとても綺麗な印象を受けた。
こっちの方が騎士っぽい。冒険者なのにね……本物の騎士は何してんだよ。
それからは俺に関係ないだろう受け渡しの方法や日時等事務的な話をしてレイスさんは去ることに。
その際……
「……隠しておいてなんですが誰を推薦して欲しいかは、聴かないんですか?」
やはり本人としても気にしていたんだろう。
ディールさんはその問いかけに対し、考え込む。
そして……
「……ふむ、推薦する対象が誰であろうと試験に受かれなければ意味が無い。君がわざわざ『三騎士』もつけずに頼みに来るくらいだ、ゴホッ……ある程度Sランクになれるという見込みのある、そしてなったとしても君と私にはデメリットにならない者なんだろう?」
「はい。その人物なら」
「私は誰がSランクになろうと自分のやりたいことをするだけだから対価さえしっかりといただけるのなら気にしないよ。それに……ゴホッ、君だけでは無く個人的に話した相手、というのにも気を使うのなら尋ねるべきでは無いと判断したまでだ。こんな遠いところまでわざわざ一人で来て私を見つけた褒美みたいなものだ」
「……ありがとうございます」
レイスさんはそう言ってまたさっきのような丁寧な礼をし、うるさい音を立てながら去って行った。
レイスさんが見えなくなり、音もしなくなって凡そ3分程して、ディールさんは「ふぅ」と一息ついて俺が隠れている茂みに近づいて来る。
結局バレることは無かったな。
「どうだい?面白い物が見れただろう?」
「はい、本当にびっくりしました。Sランク冒険者が来るなんて……」
「ふむ、私も驚いた。ガーゴイルの石像をスルーして入って来れる者などそういないからね」
「え?スルーって……」
「ん?ああ、石像に認識されない、という意味さ。ゴホッゴホッ……だから戦闘は無かったようだね。あの金ぴかで重苦しそうな鎧の能力さ」
鎧……鑑定した『ルナの光鎧』か。
「あれは2つとないレア物だ。光の力で色んな感覚を狂わせるという脅威の鎧だね。でもその分着られる者も限られる。あの鎧、顔が見えないだろう?」
「はい。……ああ、なるほど、着られる者が限られるからこそ、顔が見えなくてもその鎧を着ているその人がレイスさん本人だと断定できるわけですか」
「ああ、最初に着た者を記憶している、とか色々言われるがまあそういうことだね」
成程……感覚を狂わせる……
そうであればあの『声』も説明がつく、か。
声で人バレしないように狂わせてる、ってことだし。
「レイスさん、話からするにSランク冒険者を増やして戦力を増やせれば、とも考えているようでしたね」
復習するように話を最初の内乱・外患誘致(?)へと戻す。
「そうだね、推薦したという事実があればゴホッゴホッ……その人物が受かってSランクになってもそれを貸しとして仲間になってくれやすい。まあそれはレイス君本人の事情だが推薦される者もそれなりにSランク冒険者になりたいという事情もあるんだろう」
Sランク冒険者になりたい理由……まあお金とか地位とか色々と考えられるが……
「Sランク冒険者になれば色んなメリットがあるのは確かだね。免税とかギルドがかける招集に応じる必要が無くなる。ゴホッ……商人ギルドを筆頭に色んな部分での優遇も効くし、冒険者を認めている国ではその国自体からも幾つか権利を認めてもらえる」
「え?国もですか?」
「ああ、その多くは私が研究の必要性から認めさせたんだが……」
普通にサラッと言い流してるけど、この人、物凄いこと言ってるよ。
「まあ教えた通り、Sランク冒険者自体の数が圧倒的に少ないんだ。ゴホッゴホッ……その権利を認めても余りある位にSランク冒険者に媚を売っておくことは国としてはメリットがあるんだろう」
「はぁ、なるほどね……具体的には例えばどんなものが?」
「ふむ、クランに入っていればその者が許可しなければ基本そのクランの団員を逮捕できない、という権利とか。まあ言ってもゴホッ……一人の団員にしか適用できないし、一時的なものだからそこまで凄い物でもないが……」
クランも関わるのか!?
そこまでの権利を……
不逮捕特権……確か元の国では国会議員に憲法上認められていた権利だが、それはこの世界では意味合いは違ってくるだろう。
国会議員には会期とかが関わっていたはずだし、そもそも国の人だし。
「まあそれはクランに入ってない私にとっては関係ないことで、クランに入ってない者に認められる権利との対比として認めさせたものだからどうでもいいんだが」
はいまたスゴイ発言入りました~。
この人……サラッと言っちゃうな。
まあクランに入ってる者はそれがクランに入ってない者の権利に追加的に認められるってことだろう。
そうじゃないとおかしくなるし。
「ちなみにディールさんが認めさせた権利って……」
「ふむ、一般的なクランに入ってないSランク冒険者は大抵の犯罪は免責されることだが、私個人が認められた権利……聴きたい、かい?」
ディールさんはニヤッと悪い笑みを浮かべる。
……悪そうな顔してるよこの人。
「……やめておきます」
「ふむ、そうかい?それは残念」
残念言うな。
「話は変わるが君は私が要求した物が何か、知っているかい?」
ん?あの3つのこと?
「いえ、モンスター名については聞いたことが有るんですがそれ以外となると知りませんね」
「ふむ……ではここで教えておこう。1つ目の“ラックラビットの魔核”はその名の通りラックラビットというモンスターからとれる魔核だね。ゴホッゴホッ……そもそもラックラビット自体と遭遇できることが稀でね。その遭遇率は1000人の冒険者が一生探して1体と出会えるかどうかと言われている。だから自然その魔核はレア物だという事だね」
「はぁ、でもレイスさんのおっしゃりようだと……使い道があまりないようですが」
「そうだね。魔核は使い道において魔力を取り出せるという事と綺麗モノ好きのコレクターたちに売れる、と言うことを除いては基本無いね」
「では、一体……」
レイスさんには使い道を探られたくなかったようだが俺には答えてくれるようだ。
ならそこまで怪しい・後ろめたいことでもないのかも……
「ふむ、それには同期の魔王の能力が関わってくる」
え?魔王の能力を……ってまあ同期だったら能力を知っててもおかしくは無いか。
「ああ、『魔王』としての能力は知らないよ?その『魔族』としての能力だね。ゴホッゴホッ……そいつの一族は何かを“融合”するのに長けているんだ」
ああ、なるほど。
魔族の能力か。
カノンで言うと『影術』、みたいな。
「融合、という事はその魔核を何かに融合して使うんですか?」
「ああ、理解が早くて助かる。ゴホッゴホッ……その魔核を融合して使えばとても優れたスキルを得られる。魔王の奴に“融合石”と言うものを作ってもらってユウもそれを使ったことが有ってね。だから使い方についてはそれを予定している」
「はぁ……成程」
「2つ目については光魔法の素質を最適化……まあ難しいことはいいか。要するに光魔法の素質がある者が用いれば直ぐに光魔法が使えるようになる、というものだ」
え!?それは凄い……
その通りだとすれば例えばじゃあ俺が使えば練習とかきっかけとかいらずに『光魔法』覚えられるってことでしょ!
でもディールさん自身は素質が無いって言ってたし、ユウさんは鑑定した時に無いことは確認済み。
となると……俺の知らない人か?
「ふむ、3つ目についてはまだエフィー君が本を持っているわけだから分からないだろうが……一応この3つは君と関係するんだよ?」
「え?そうなんですか?」
「2つ目は君が使えば直ぐに『光魔法』が覚えられるだろう?」
な!?
何でそれを!?
俺が『全魔法素質解放』を持っていることを知っていないと……
「ふむ、さっきもどうして君が『隠密』を持っていることを知っているか、疑問に思ったんじゃないかい?」
「は、はい」
ディールさんはまるで全てのトリックを暴き終えそれを披露している名探偵かのようにズバズバと言い当てて行く。
ど、どういうことだ……
「ふむ、ではアドバイスしておこう。ゴホッ……私も若い頃はやってしまっていたミスだが……相手を鑑定した時『鑑定』が無いと安心して『偽装』を解かない方が良い。確かに『鑑定』系スキルを持つ者は本当に稀だからその癖をつけるのは結構しんどいが、常にスキルを隠す癖をつけないといつ誰に見られているか分からないからね」
俺はその言葉を聞いた途端直ぐさまディールさんを鑑定する。
……そこにはさっきの模擬戦中には無かった俺も持つ『鑑定』と『偽装』のスキルが。
他にも隠していただろうスキルが散見されたし、ステータス欄も見た時とは大きく異なっていた。
唖然とする俺を余所にディールさんが更に告げたことに、俺はまたもや頭を混乱させられることになる。
「……カイト君、私と取引しないかい?」




