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「ふむ、あまりに唐突過ぎたかな?」

500年以上続く光の国、リューミラル王国。長い間その影を担ってきたクラウン家は政治・軍部・財務・司法と国の維持に欠かすことができないありとあらゆる部門に裏で関わり、それを文字通り影から支えてきた。国の行く末を左右するような重要な判断にも彼等の存在があったと言う。時には王の盾に、時には影武者になると言う命を張ったその貢献ぶりにはその存在を知る王国のどの重鎮達も頭が上がらず絶大な信頼を寄せた。


以上の話がディールさんから聴いた『クラウン家』という存在の概要だ。

それが……


「クラウン家が……滅亡!?」


ディールさんが言うかどうか逡巡した位の情報なのだからシキさんが布団から飛び出て来る位のインパクトがあってもおかしくない。

本当に信じられない、死んだと聞かされていた恋人が目の前に現れた、そんな驚愕した表情をするシキさんは口に手をあてて震えている。


「まあ驚くのも無理はない。だが肝心な“勇者召喚”の説明ができないからゴホッ……落ち着いてくれ」

「そんな!!落ち着け、なんて……」


ディールさんの諌めを聴かず興奮したままになるかと思ったが、動かずシキさんが落ち着くのを見ている俺とディールさんを捉えて状況を理解し座りなおした。


……予想外のことに驚き易い人ではあるがやはり状況の理解力や冷静さは備えているんだな。


「……すいませんでした。続けて下さい」

「うむ。私はだからそういったシキ君の直ぐに冷静に戻ってくれるところは評価しているよ。今後は驚かない域にまで達してくれるとこちらは有りがたいが」

「……はい、精進、します」


シキさんは目を伏せがちに話の腰を折ったことを俺にも謝罪する。


その際ギュッと布団の端を握って体を縮こませる。

さっきまでできる女の顔をしていたのにシュンとしちゃった。


「お気に為さらず。ディールさん」

「うむ」


一言答えて俺も話を促すことにしておく。

小さな声で「……ありがとう、ございます」と聞こえてきたがまあこれ以上は彼女自身の問題だ。



「全員自殺という事だから異常ではあるんだがそれだけならまだマシだった。そんなに単純に片づけることができる話ではないがゴホッゴホッ……クラウン家も王国に仕えるのが疲れたのか、とかで終らせることができた。だが、それをそうさせない理由があった。……爺さんの死体だけが何故か無くなっていたそうだ」

「……何ですか、それ。何かの怪談話ですか?」


ディールさんは俺の返しに「フフッ」っと笑い声を漏らしてくれる。

こういうコミュニケーションを取れる位にはディールさんも話が分かる人だ。


「いやいや、別にそういうことを言うつもりは無いよ。……要するに、だ。クラウン家以外の者の―第三者の意図が絡んでいる、ということだ」


俺も本気で怪談話と疑ったわけじゃないしそもそもディールさんってそういう非科学的なことは信じなさそうだ。

徹底的に調べてあげてそんなものは存在しないって証明しちゃいそうだし。


「なるほど、それで?」

「爺さん自身に後継者がいた訳じゃないがクラウン家の者は勿論他にもいた。だから別に爺さんが後継者を決めていなくても王国はとやかく言うことは無かった。ゴホッゴホッ……クラウン家の血が途切れることは無い……そんな国の慢心をこの事件が打ち砕いたことになるね」


打ち砕いたって……

何とも他人事のような言い方だな。


「ゴホッゴホッ……さて、これからが“勇者召喚”の補足になるけど、王国の影の立役者であるクラウン家が滅亡し、王国はとても浮き足立った。そこに第1王女であったシオン様の失踪が絡んだことも王国に追い打ちをかけた要因の1つだね」

「失踪していなければ特に問題とはならなかったでしょうけれど、失踪してしまったことこそが何かしらの関連を疑う事実になってしまったんですね」


ディールさんの話について行っていることを示すために自分で理解したことを話す。


「そうですね……シオン様がいなくなられて初めて色んな疑惑が浮かび上がって来ましたから」


シキさんにも今の話を聴いて思うところがあったようだ。


「うむ、そうだね。そして彼等に依存しきっていた王国が帝国の“勇者召喚”を受けて正常な判断などできるはずもなかった……挙句“勇者”という禁断の果実に飛びついたんだ……」

「なるほど、そういうことですか。人は誰しもピンチの時にはヒーローを求めるものですから」

「とすると……クラウン家の事件は“勇者召喚”を行うために利用された、と考えられる可能性もあるわけですね」

「ああ。1人しか召喚されていない理由については分からないが2人召喚しようとしたのは2人の勇者でクラウン家の穴埋めと北の帝国の勇者に対抗するため―その2つの席を埋めたかったのだろう……まあざっとこんなところかな?」


ディールさんは自分の役目を終えて「ふぅ」と一息つく。

はぁ、なるほどなぁ。


報告書の存在だけでもディールさんがいないと知ることはできなかったし、この内容自体もディールさんの解説があってやっと本質が見えてくる。


今の王国がどんな状態か、正確に把握して初めて今後どうするか正しい判断ができるというものだ。


凄いな、ただただ感嘆の声が心の中で漏れる。

……これがSランク冒険者の実力か。



ディールさんは魔法で青白い炎を作って報告書を燃やす。

こんなこともできるんだ……

ボワッと音をあげて燃えカスだけが残り、それらを丁寧に片づけた後また語りかけてくる。


「これで今知っておくべき情報は知れたね。……さて、シキ君」

「は、はい!!」


ディールさんの真剣な声音を受けて一本の棒が通ったかのようにピンと背筋を伸ばすシキさん。

騎士団の一つの隊を預かると言っても相手はディールさん、やはり緊張はするんだろう。



「こういった王国の現状も踏まえて、今回君達が襲われた件、君はどう考えているんだい?」


ディールさんは至って真剣。

シキさんは記者会見で集中砲火を浴びるやらかしてしまった社長さんのように暗い顔だ。


ああ、これは……


「……ユウを命の危険に、さらしてしまいました。私の責任、です。私が―」


シキさんの謝罪はしかしディールさんの鋭い指摘に無情にも切り裂かれる。


「ほう?君が責任を取ってどうなるんだい?今後ユウが危険に遭わないと断言できるのか?それは凄い、一人の人間の安全が絶対的に保証できるのか、君は」

「い、いえ、それは…………できません」


咳一つ挟まずまくし立てるディールさんに圧倒されてか、正直にシキさんは告白する。


何だか可哀想にも思えるがどっちもユウさんのことが大事だからこそこうして真剣に話し合っているんだろう、安易に口を挟むのは避けるか。


「ふむ、ユウだって危険だという事は承知で騎士をしているんだ。だからそこは問題じゃない。……騎士団という正義を実現するための居場所が積極的に命を狙われる場所と化してしまったのだ」


そしてチラッと俺を視界に入れ……


「彼の冤罪のことも有る。だから最早そんなところにユウを置いておくわけにはいかないんだよ。……分かるね、シキ君」

「は、はい。それは分かります、ですが!!―」

「ふむ、何か勘違いしているようだが私は何も君達を引き離そうとしているわけでは無い。君達がユウと一緒にいたいという気持ちは十分分かっているつもりだ」

「はい、勿論です!!」

「私が言いたいのはその形が別に騎士に制限される必要は無いんじゃないか、ということだ。あの子が騎士になって今も続けているのは当時騎士団長で誘ってくれたシオン様への単なる義理立てと人助けができる職だからという理由だろう?シオン様が失踪して見つからない今、その義理立てを重く見る必要性は乏しいし人助けなんて別に騎士じゃなくてもできる。それこそ騎士になれる位には君達は優秀なのだから」


とてつもなくディールさんの言うところは理路整然としていてどこまでも正しい。

シキさんの感情面にも配慮してなされる説得に俺は深い感心さえ覚える。


知識だけではない、人間としての経験値も俺とは段違い。

この人の能力は全てにおいて……健康面以外において全て参考になるな。


「それは……おっしゃる意味はわかるのですが」

「確かにユウを追って辞めるという者も多く出て来るだろうしそれを考えると食い扶持をどう稼がせるかと言うのも上に立つ者としては悩むところだろうね……」


ディールさんはまたもや俺を視界に入れる。ん、今度は何だろう?

そして、咳を挟み……


「ふむ、少し考えがあるんだが纏まるまでちょっと時間が欲しい。それにそろそろ夕食の時間だ。明日の朝またもう一度話そう。いいかい?」


ありゃ、もうそんな時間か?

そこまで話し込んでいた感覚は無いが……

まあ昼を食べるのが遅かったしそんなもんか。


それはそうと、ディールさんはしっかり朝昼晩食べる派らしい。

こっちに来て朝と夕二食しか食べないという人も決して少なくない数見てきたが……


だからこそこの世界では逆にそっちの方が少数派なのかもしれない。


「分かりました。私は勿論それで構いません」

「……はい」


普通に俺は答えたがシキさんはかなり堪えている様だ。

ディールさんもそれをしかと見ていたようで、しっかりフォローを入れる。


「ふむ、そう落ち込まなくてもいい、シキ君。ゴホッゴホッ……私も君達とユウが離れ離れにならない道を考える。今は切り替えて食事にしよう」

「はい。ありがとうございます、ディールさん」


シキさんはディールさんに深々と頭を下げて一人先に部屋から出て行った。


ディールさんはそれを見送ると俺に申し訳なさそうな表情を浮かべる。

ふぅ、難しい話じゃない分変化が分かりやすいな。


そしてディールさんはシキさんが出て行った先を見つめつつ口を開く。


「前の騎士団長―つまり第1王女であったシオン様がゴホッ、騎士団長を務めていた時も騎士団は男社会だという風潮だった。騎士団長が替わった今それは更に顕著になっている」


男社会だという風潮があるにもかかわらず騎士団長にまで上り詰める辺り、そのシオンと言う元王女様は

優秀だったんだろう。

クベルという人の弟子だという事もあるしな。


「じゃあユウさん達第10師団は『第10(・・)』ということもあってかなり肩身が狭いんじゃ……」

「ああ。……シオン様が騎士団長の時はユウ達は第2師団を任されていた。第1師団が慣例として人数が100人だという限界があったからこそゴホッゴホッ……ユウは第2師団の地位に落ち着いていたが実力的には第1でもおかしくはなかったと私自身、それにユウの仲間たちは思っているだろうね」


成程、ユウさんは部下想いなんだな、第1師団になったら人数は100人に制限されてしまう。

とするとそれ以上の人はユウさんと一緒にいることができないことになる。


甘いという意見もあるかもしれないがユウさんのやり方はそれはそれでアリなんじゃないかな。


「シオン様がいなくなって騎士団長が替わり、さっき言ったように更にユウ達女性騎士の居場所が狭まって自分達を排斥する声が高まると推測したんだろう、ゴホッ……ユウはだからその批判を抑えるために自分から第10師団に降格して今の地位に甘んじている」


はぁ~、ユウさんもそれなりのキレ者なんだなぁ……

ディールさんの娘さんというだけある。


「ユウがうまいことやっていたから強制的に辞めさせられるという事は無かったが……まあそう言った理由もあって彼女達が自ら辞めることについて文句を言われることは無いだろう。今迄話した裏の事情など知らずに騎士になりたいという者は幾らでもいるんだからね」

「なるほど……でも、何でそんなことを、私に?」


純粋な疑問をぶつけてみる。

情報は知っておくに越したことは無いのだが、やはり気になった。

単なる情報なら別に俺にだけ話す必要は無いんだし。


「……君には、知っておいて欲しいと思ったから、かな。役に立つかどうかは分からないがね。今は気にしないでくれ。さあ、私達も行こうか」


ディールさんは「フフッ」と笑みをこぼしてこの話は終わりだという風に歩き出す。

俺もそれ以上深く聞こうとはせず黙ってついて行った。




下に降りると既にユウさんがシアとカノンを連れて食事を作ってくれている所だった。

シアの手際を見てユウさんは少しだけ難しい顔をしていた。


シアは料理をさせても上手い。

この世界での大体のジャンルは作れるし、シア本人も作ることを苦には思っていないようなので料理を作ってもらうことも多い。


鼻歌混じりに尻尾をパタパタと振りながら料理する姿を見るといつも楽しみになる。

ここでもシアはその力量をいかんなく発揮してくれている様だ。


エフィーはディールさんから渡された本を1冊読み終えたところで自分がカノンの読んでいる本も読んで説明した方が早いと判断し、カノンから本を預かりそのもう1冊を読んでいる。


つまりカノンは事実上戦力外通告を受けたので集中するエフィーの邪魔をしないよう台所に逃げ込んだそうな。


カノンについては料理は下手と言うわけでは無い。

仲間になった最初こそ料理をあまりしたことが無かったので何度か覚悟を要したこともあったが今は一所懸命努力して上達し、俺も安心して食べられるようになった。


ユウさんも俺の存在に気付くと笑顔になり「あっ、もう少しでできるからちょっと待っててね、美味しいごはん作るから!」と張り切っていたので万が一にも紫色のマグマのような物体が食卓に並ぶことは無いだろう。


ディールさんも特に口を挟まないし……うん。



俺達より先に降りて行ったシキさんはと言うと外にいたリゼルと共に帰ってきた。

どうやら俺と共にあの不審者共と戦ったリゼルに礼を改めて言っていたようだ。


帰ってくる二人はそこそこ仲良くなっていた。

姉が表だったら多分こんな感じにはなってなかっただろうな……



そうして待つこと凡そ1時間……


待っている間に片付けを行った木の大きな楕円形のテーブルに並ぶ数々の料理。

作りたてで湯気を立てる肉を使ったコロッケのように揚げたもの。

森で採れたわけでは無いが野菜も保管できるらしく、それを使ったアッサリ風味のスープ。

そしてこの世界では高めの柔らかいパンが盛られた籠が中央に。


それ以外にも小さな一品ものが多数あり、食欲をそそる。


丁度エフィーも2冊目を読み終えたようなのだが料理には目もくれず興奮して俺とカノン、ディールさんに話しかけてきた。


「こ、これは凄いです!!これが本当なら……ご主人様と私とカノンさん次第で……凄いモンスターの軍ができるかもしれません!!」


おおう、こんな状態のエフィーは珍しい。


「え?そうなの?私、も、何かできることがあったの?」


カノンもさわりの部分くらいは読んだはずだがやはり理解としては不十分なんだろう、どういうことか聞き返している。


「はい、勿論!!モンスターの進化なんですから当然カノンさんの契約・召喚は必要不可欠です!!」

「そ、そう。……もっと、マスターの役に、立てるんだ……」

「まあまあ、エフィー君。そのことについては後にしよう。食事を食べてからでも遅くは無いよ」


ディールさんに促されエフィーも席に着くが興奮は未だ冷めない様だ。

それだけの内容だったんだろう……後で俺も読んでみるかな……


全員が着席したところでユウさんは少しそわそわしながら「さあ、食べて食べて!」と俺達に勧めてくれる。


ディールさんも同じように俺達を見て……


「ふむ、折角作ってくれたのだ、いただこうか。ゴホッゴホッ……では――」


言い切る前、突然ディールさんの表情が鋭く変わった。

ディールさんに注目していたのでその変化に皆が驚く。


一体……


何があったのか訝しむ俺達を余所にディールさんは立ち上がり様に皆に謝り、俺の名を告げる。


「済まない、急に二人で話さなければならないことを思い出した。カイト君、いいかい?」

「え?今、ですか?」

「ああ、できるだけ早い方が良かったことなんだ。悪いね」


至って真剣に話すディールさん。

別に冗談とかそう言う類では無いらしい。


なら仕方ないか。


「分かりました」

「ありがとう。――ユウ、シキ君、悪いが先に食べておいてくれ」

「はあ……分かりました」

「う、うん。分かったよ」

「では外に行こう」


ディールさんが二人に告げ、俺をチラッと見たことで俺も思い至り……


「シア、エフィー、カノン、リゼル、スマン、俺とディールさんに構わず先に食べてくれ」

「は、はい、かしこまりました」

「分かりました、ご主人様」

「う、うん、了解」

「分かりました。お先に失礼します」

≪了解じゃ、主殿≫


皆の返事を聴いた後、俺はディールさんに付いて外に出た。

出る時……何か後ろから聞こえた気がしたがディールさんの神妙な様子が気になり直ぐにそのことは意識の外に……



「……カイト君に、出来立てを……食べて、欲しかったんだけどな」

「……そうですね、私もご主人様に、一番美味しい状態を召し上がって欲しかったです」

「……うん。そうだね……でもいきなりだったよね、どうしたんだろ?」





外はもう暗くなっていた。

森の中と言うことも有って光は月が放つもの以外は入ってこない。


そんな中ディールさんに付いて森を歩くこと1~2分。


ディールさんは立ち止まり……


「いきなり済まないね、今日は本当に訪問客が多いようだ」


その言葉でどういうことかを瞬時に飲み込む。

そしてディールさんは矢継ぎ早に告げる。


「そもそも私が使っている認識阻害というふるいを掻い潜るだけで十分評価すべきことなんだ。だからこそ君達にも興味が湧いたわけだが……今回の者は大物の様だ。君は『隠密』は使えるね?それを使って隠れていなさい。面白いものを見れるよ」

「え?あっ、はい。分かりました」


どうして俺が『隠密』を使えるのが分かったのか、という疑問を尋ねる時間は無く、俺がどうすべきかの指示が素早く出された。

今は状況を把握している彼女に従おう。


ディールさんの言い方だと危険だ、と言うわけではなさそうだし。



俺は言われたとおりディールさんから10m程離れたところにある茂みに身を潜める。

『隠密』も使うが、暗闇も俺が潜むのを助け、完璧だということが自分でも分かる。


この状態ではバレない、普段は慢心などなかなかしない俺でもこの状態の俺を見つけるのはスキルでも使わない限りは無理だと感覚的に分かった。



フッフッフ、消しているつもりは一切ないのに『気配を消す達人』、『尾行する刑事・探偵泣かせ』、『本気になった谷本を見つけるのは砂漠の中から一粒の砂金を見つけることより難しい』とまで言われた位だ。


今の俺の気配を感じ取るのは存在を認識してくれていたディールさんですら難しいのではないだろうか。

それ位の自信が湧いてくるぜ、フッ。


…………うん、別に自分で言ってて悲しくなんてならないよ?

ちょーっと目に何かゴミが入ったのかな?

ああ痛い痛い……ぐすっ。


目尻に溜まった俺の青春の光は暗闇の中で輝くことなく拭い去られる。

切り替えてディールさんの様子を窺っているとこの静かな森の中では不釣り合いなガシャン、ガシャンという音が近づいてきた。


夜の森の中という光が入り込み辛い状況が整っているこのような場所でこれまた不釣り合いな輝く光が先の音が近づくにつれディールさんに接近してくるのが見えた。



そうして見守っているとディールさんの存在に気付き、それは立ち止まり告げる。


「……ようやく、と言ったところですか。探しましたよ、ここまで来るのに1週間かかりました。……お久しぶりです、ディールさん」


この闇夜に光が反射して輝く鎧を着たそれは全身が黄金色に輝いていた。

文字通り全身だ。


頭の天辺からつま先まで……


こんな森の中、そんな鎧で来るのもどうかとは思うのだが、それ以上にその鎧の中から放たれた『声』に俺は違和感を覚えた。


鎧の中から発せられたのだから少しこもって聞こえる分には普通なのだろうが、それはまるでボイスチェンジャーでも使っているかのように中性的、というか特徴がない、というか……



俺がその『声』に考えを巡らせていると、ディールさんがその挨拶に返事をしたのだが、その返した挨拶から、彼女が言っていた『大物』ということや『面白いものが見れる』という意味が分かった。



「ふむ、わざわざこんなところまでそんな重っ苦しそうな鎧でご苦労なことだ。……『ルナの光杖』の団長にして同じSランク冒険者のレイス・ベルミオン君」

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