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報告書の内容は……

すいません、急にやることができてしまってこれから投稿が今回のように短発だったりすることが増えると思います。


以前のように量を一気に書くという時間が無くなってしまったので。

ですからその分切るのを多くしていくことになりそうです。

総合的に見ると……ペースが落ちる、というわけでは無いと思います。


量的にも何とか減らないよう頑張ります。

また何かあればご報告させていただきます。

「……ふぅ、ゴホッ、とりあえず報告書はこんなところか」

「「…………」」


ディールさんが報告書を読み終える。

俺とシキさんは互いに無言。

ディールさんは咳を一つ挟んで俺達の反応を見守る。


森の中にある家、その中の一室だからと言ってこの静謐がそのまま当たるというわけではあるまい。

俺とシキさんの中では当然考えている内容は異なると思う。

騎士と冒険者という異なった立場で聴いていた以上見方、それに伴ったこの報告書の内容の捉え方が違っていても不思議ではない。


更に言えば俺が冒険者としての活動をしていなくても驚くべき情報がこの中には含まれていたのだ。


先ず『シルフの風羽』の処分について。

『破壊の御手』の件で色々とやっておいてお咎めなし、というのはやはりどうしても引っかかる物があるが……この報告書の内容からすると、俺がヴォルタルカから離れた後『イフリートの炎爪』のために他のクランに働きかけて動いたということ、それが組むべき事情であるのは事実だ。


……あのメガネがボブカットにしたというのは報告書に書くべきだったかは少し疑問だが。


『シャドウの闇血』とのやりとりについては報告書の通り色々と考えられることはある。

チャラ男に動かれたくない、とかそもそも『シルフの風羽』の戦力を削りたい、とか。


それか、自分達が何か隠したいことが有るためにそうやって違う議論を打ち立て他のクランを矢面に立て非難した、とか。


後、『シャドウの闇血』の頭については良く考えた方が良いな。

実質議論を進めていたのは団長ではなく副団長だという報告だ。


そもそもディールさんの話では『黒法教』なる団体が宗教団体だということだが呼び方の問題がある。

団長の呼び名は“教祖様”で、普通それはそのまま頭を意味するが『シャドウの闇血』が『黒法教』と繋がっているというのが確かなら誰が頭か、というのは一概には決め辛い。


宗教団体で“教祖”とついたらそりゃそいつが頭だという思考に行きがちだが実質操っているのは違う奴だというのは有り得る話。

副団長が実際には頭のような役割を会議で担っていたというのがその一つの根拠となっている。


一方でそれすらダミーだということも。

だからそこについては慎重に判断しないと……



驚いたことと言えばあの“テリム”って人、『ノームの土髭』の団長になったんだ。

やっぱりクレイのことを俺から取り戻すために……はぁ~。

また気苦労が一つ増えそうだ。


あのハゲのことが話題に挙がったのにも驚いたがどうせアイツはもう殺したし、そこはもういい。



一番の驚きはやはり何と言っても……


「やはり一番気になるのは……ゴホッゴホッ……『ルナの光杖』からの情報、かな?」


ディールさんが首を少し右に傾げる。

その時に前髪は揺れ、隠れていた右目が露わになり、その鋭い両の目が俺を映す。

試している、わけでは無いだろう。

確認と言った方が正しいのかな。


自分なりに彼女の意図を考えて答える。


「そう、ですね。先ず各クランの団長格にしか配られていないという情報がどうしてここにあるのか、それは気になりますね」


少し惚けたような回答をしてみるとディールさんは「ははっ」と笑って視線を外してシキさん、戸、俺を順繰りに見回す。


「まあ、そうだね……だから誰か少なくとも1人は漏らしたという事になるね、この情報を」

「……使い方は自由、そう告げたそうですからね」


別に今のディールさんの言葉は回答を求めたものでは無かったろうがシキさんは律儀にもそれに応える。


「ああ。……だが、別に各クランの団長達が漏らしてないとしても、ゴホッ……この情報が漏れる可能性と言うのは存在する。単なる情報管理の杜撰ずさん、というのは考え辛いにしても0ではない。密偵が潜り込む、と言うのも難しいが不可能とは言わない。まあ一番可能性が高いのは……」


今度俺を捉える紅の左目は試すような、そんな感じがする。

鋭さを増すその瞳を見ていると自分の全てが見抜かれているかのように錯覚してしまう。


別にディールさんが俺を嵌めてどうこう、と言うわけでもないだろうにこんなことを思ってしまうほどに彼女の視線は緊張を増幅させた。


「……その『三騎士トリプルナイツ』の一人の、ゲイル本人が流した、という事でしょうか」

「……ああ。その通りだ」


少し間を溜められての正解告知はクイズで億万長者になる某番組を連想させた。

はぁ~良かった、心臓に悪いな、これ。



「情報が真にしろ偽にしろその情報源とされる『ルナの光杖』が流したと考えても彼等は一切ダメージは無いからね。ゴホッゴホッ……まあこの可能性は捨ててもいい。この情報を入手し私に知らせた者に確認を取ったら流した者は違うそうだ」


やはりただ単に『試すため』の『話』だったらしい。

ディールさんは満足げに頷いている。


そんなディールさんと安堵の表情をうっすらと浮かべているであろう俺をシキさんはよく分からない、と言ったふうに交互に見ている。


「ふむ、シキ君は詳しいことは知らないからこれだけゴホッ……の情報ではよく分からないだろうが、少し話したカイト君の冤罪と絡むことだよ。さっき言ったように冷静に判断が出来てるかの確認みたいなものだ。シキ君も普段冷静なのは評価しているがユウが絡むと熱くなりがちなのは改善すべきだね。ふむ……その点カイト君は大丈夫みたいだ」


ディールさんに評価されるのは嬉しいがシキさんはあまり納得いっていない様子。

顔には出していないが何となくそんな雰囲気が。


気持ちは分からんでもない。

今迄のことからシキさんがユウさんを個人的に信頼していること、大事に思っていることは確かだ。


その人について関係したことだったら気になるのは至極当然だろう。

でもだからと言って冷静に考えることがその人について軽んじている、と言うわけでは無いと俺は思う。

俺だって思う事位沢山ある。

アイリさん・エンリさんのお母さんに掛けられた嫌疑、それが禁忌だったのに王国は自分達自身がそれを犯しているではないか、そうして声を大にして非難してやりたい自分はちゃんといる。


ただそれを主張すべき時と抑える時、それを履き違えてはいけないというだけだ。


「王国が“勇者召喚”という禁忌を犯した理由については報告書にも書いてあるが北の帝国が一応引き金ではある。引き金ではあるのだが……」

「ん?何かあるんですか?」


彼女の顔の凡そ10分の1は前髪で覆われているのも合わさってディールさんの表情から何かを読み取るというのは、元の世界でやることが無く人間観察という、一歩間違えて解釈されるとストーカーとも採られかねない俺の趣味を持ってしても決して容易ではない。


かと言って俺のように能面と揶揄される位に表情がおかしなことになっているわけでもない。

やはりそこは男性と女性という違いもあるのだろうか……っと、少し思考が逸れた。


うーん、ディールさんにしては引っかかる物言いだな。

分からなかったりすればちゃんと「これは推測だ」とかビシッと言ってくれるのに。


シキさんも先程の不満は飲み込んでディールさんが話すのを待っている。

ディールさんが言ったように普段は冷静に考えたり切り替えがちゃんとできる人なんだろう。

顔もキリッと引き締まってできる女性を体現化したかのよう。


……あの狐の耳が無ければ。


シアにしてもそうなのだが獣人の子の耳と言うのはこっちに来てそこそこ経った今でもまだ慣れない新鮮さがある。


そして今回は初見の狐さんだ。

尻尾は今は布団で覆い隠されているが耳は部屋の中じゃあ帽子類、それか兜・ヘルムでも被ってない限りはさらけ出されている。


日本人とは言っても狐を目にする機会と言うのは意外に少ないのだ。

だからこそ今目に入っているあの耳に注意が散漫になる。



……あっ、こっち向いた。

布団がもぞもぞと動く。

それに伴い狐耳もピクピク・パタパタと動く。


仄かに頬を赤く染めて睨みつけられる。

そして直ぐに顔をそむけてディールさんの方へ。



…………。

こういう感じの反応されるのが一番よく分からんから困る。


そうして思考と言う名の日帰り旅行から帰還する。

ディールさんはまだ少し考えているようだが彼女の中での一応の結論は出たようで俺達に軽く謝りまた話し始める。


「……うーん、ああ、いや、すまない。ゴホッ……少しどうするか迷っていたが話そう。確かに引き金となったのは帝国における“勇者召喚”だろうが本来の王国であれば別に対抗するように勇者を召喚することは無かったはずなんだ」


『勇者』……やっとのことで1人目の勇者が現れた。

“現れた”と言っても名前だけしか知らない訳だが。


ダイゴ・ソノハラ……恐らく『園原大吾』、日本人だろう。

召喚されてやってきたわけだから俺がいた時代、世界かはともかく、日本人であるのは多分決まりだ。


日本人ということに色んな感慨が湧かないでもないがそれ以上に召喚された勇者なんて厄介ごと以外の何物でもない。

これから聞くことはワクワク感と言うのは出来るだけ抑えて、対処するために知る、という心がけが必要だ。

よし、久しぶりに俺の危機管理センサーもビービー鳴っていることだ、気合を入れ直そう!


「……前の、騎士団長……元第一王女シオン・ロウ・リューミラル様のことですか?」


…………。

シキさんがこう言い放った時の俺は一体どんな顔をしていたであろう。

ただ一つだけ……あいも変わらずまた能面とバカにされるような無表情であってはくれるなと願うばかりだ。


前の騎士団長……えっ、姫様!?

確かに前の騎士団長が女性だってことは聞いてたさ!!

それでも!!それでも……シキさん、それはいきなりじゃない?


でも、あれ?

何か違和感が……


『え?あれじゃね?姫さんが騎士団長ってこと……』


いや、勿論姫さんが騎士団長ってことには驚いたよ?

でも今の驚きはそこじゃないんだ。


『だから、お姫さんが騎士ってことは姫騎士ってことだろ?あれだよ、高飛車な姫騎士が調子に乗ってオークとかゴブリンに――』


止めろ!!ってか誰だよお前!!

……何だよ、脳内おれかよ!!

黙ってろ、下種な俺!!


そういう事を思いついてしまう位には姫騎士という単語が俺の中で汚染されている事実を再認識するも、今はだからそこじゃないんだよ。


「ふむ、惜しいね。確かに失踪したとされるシオン様のことも含まれてはいるんだがゴホッゴホッ、そこじゃない」


失踪!?

ああ、そうだ、『元』という言葉だ!


そう言えばディールさんがさっき言ってたじゃないか。


~ふむ……ああちなみにカイト君、失踪というのは私や魔王と同期の奴だけではないんだよ。ユウや騎士団長と同期の者も居場所が分からない者が3人いる~

~まあその内一人はほぼ死亡扱いなんだが……~


あれらの情報を総合すると死亡扱いなのは今話題に挙がったシオンってお姫様。

ふーむ、ディールさんを筆頭に“クベル”って人の弟子は凄い人ばかりではある。

でも、こういう失踪とかが目立ってしまって……


……何とも闇が深そうだ。


ディールさんも渋った表情をしている。

今から話すことがそれだけ重いことなのだろうか?

それとも俺には思いもつかない他のことに思いを巡らせているのかも……


「…………クベルの爺さんが死んだというのは言ったと思うが、シオン様が失踪したという時期にクラウン家の者が全員自殺していたんだ。だから、事実上、クラウン家は滅亡した」



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