何で私……
今迄で一番の長さになってます。
お気を付け下さい。
さて、今回のお話は久しぶりに主人公以外の人の視点が主なお話です。
読んで行けば分かるかと思いますので。
前半は奴等が久しぶりに再登場します。後半はあの人たちが……
ではどうぞ。
===== ????視点 =====
~王都より北西30km 神託の都デウス 祈りの塔 地下の会場にて~
……はぁ。
思わず心の中でため息を吐く。
何で私なんだろ。
こればっかりはアイリさんの決断と言っても疑問が残る。
今この場にいるのは私以外基本七大クランという冒険者なら誰もが一目置く団体、その団長たちだ。
さっきの説明からすれば『ルナの光杖』と『オリジンの源剣』は団長不在とのことで私達のように代理を立てているようだがそのどちらの代理も凄いの一言に尽きる人達。
『オリジンの源剣』副団長“空術使いのティアーナ”さん。
その二つ名から分かる通り『時空魔法』を使える稀有な存在。
しかも『オリジンの源剣』に誘われたのは実際にはそっちでは無く優れた知略を買われてだと聞く。
更には何よりメッサ美人。
同じ女として最早嫉妬を覚えることすらおこがましい位の美女。
金髪長髪のスマート体型で巨乳。しかも強いとかどんな化物よ。
私は自分の慎ましやかな胸を触ってみる。
…………はんっ。
ヤバい、自分の雑魚さを鼻で笑いたくなるレベルだ。
そんな弱音を何とか追い出し、今度は対面にいらっしゃるお三方を拝見する。
その中で代理として今回の緊急合同会議を仕切る“暴虐非道のゲイル”さん。
先ほどのティアーナさんとは打って変わっておどろおどろしい二つ名を持っていらっしゃる。
顔や正確な体型は後ろに控えている他のお二人と同じように騎士団の団員達が着るような鎧―この人に限っては鮮やかな緑色―を着ているのでよくは分からない。
実際にお会いするのはこれが初めてなのだが私にとってはとても緊張する相手の一人だ。
と言うのも、この人については色んな噂を聞くのだ。
……そう、本当に色んな噂を。
ゲイルさんが椅子をひいて立ち上がる。
その一挙手一投足に注目する。
他の団長さんたちも同じように彼を見る。
会議の第一声は何を放つのか、どんな言葉遣いなのか……
期待と不安が入り混じった私を気にするなんてことは勿論無く、ゲイルさんの言葉により会議が、今――
「――あっ、じゃあ七大クラン緊急合同会議を始めたいと思います。いいですか皆さん?いいですよね?――ん、んん。では改めて……司会進行は僭越ながら私、『ルナの光杖』のゲイルが務めさせてもらいます。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」
腰低っ!!
やっぱりか!
やっぱり噂は本当だったんだ!!
『迷子の子供兄妹に飴をあげて一緒に親を探してあげた』とか『団員達とのコミュニケーションを大切にする』とか『ご近所付き合いも欠かさない』とか!!
メッチャいい人!!
こんないい人に何で“暴虐非道”みたいな二つ名が付くんだろう!?
あれかな、やっぱり敵には容赦ないってことなのかな!?
うーん、それはそうと……ゲイルさんって何だか声が……
鎧の中から話してるからそう聞こえるだけかもしれないけれど……
「――あの、フレアさん、フレアさん?」
「え?あっ、ひゃい!!」
ヤバい、私も声がおかしくなってしまった。
名前を呼ばれているのに気付かなかったようだ。
先ほども軽い自己紹介のようなものは各自でしていたが今は団長代理としての挨拶を求められているらしい。
私には難しい世界だ。
「すいません、改めまして私はフレアです。団長のアイリさんが休業なさるのでその代理としてここにいます。よろしくお願いします」
「へぇ~、アイリの代理って……“火竜姫フレア”がねぇ……」
『シルフの風羽』の団長さんがジロジロ私を見てくる。
うるさいなぁ、私だって別にそんな二つ名いらないし。
ニヤニヤすんな!
自分に合ってないのは自分が一番よく分かっている。
私の相棒、ファイアドラゴンの『ニーナ』についてがそこに入っているのは分かるが、『姫』とか自分でも笑けてくるわ。
そういう『姫』とか高貴なのはアイリさんが一番似合っているのに……
勝手につけられた私だって迷惑してるんだから放っといて欲しい。
「はい、よろしくお願いします。――では、最後『ウンディーネの水涙』グレイスさん、お願いします」
ゲイルさんが先を促す。
『シルフの風羽』の団長、ヴィオランさんについては私の2つ前に自己紹介していたので溢した言葉も特には触れないらしい。
「……くっ、くくっ、ははは……」
そこで、ヴィオランさんがクスクスと笑いだす。
何を言いたいかは私にも何となくは分かるがそこまで露骨にしなくても……
「……『ウンディーネの水涙』団長、グレイスだ。よろしく頼む」
「……くくく、はははは……」
「ええい、うるさいぞ、ヴィオラン!!」
「ははははっ、いや無理だって!!旦那、その頭!!」
ヴィオランさんの爆笑に場内はよく分からない空気になる。
彼が言うようにグレイスさんの頭は確かに……
「くっ、仕方ないだろう!!」
「いやいや、確かに禊したいってのは分かるけどさ、旦那のイケメン顔でボブカットはねえわ!」
そう、グレイスさんの頭は綺麗にボブになっている。
一度だけお会いしたことがあるがその時の男前からはもう想像できない程ボブのせいで台無しだ。
確か東の方からの風習だったと思う。
悪いことをした後に頭を丸めて反省するという意味でボブにする慣習がこの大陸にもついたんだったかな?
言わずもがな、それは先の『破壊の御手』討伐における件。
今回の会議における議題の一つでもある。
だが……まあ『ウンディーネの水涙』自体の処分については直ぐに終わるんじゃないかな?
だって……
「まあまあお二人とも。そのことについてはこれから話しあうんですから先走らなくても――では各自の紹介も済みましたし、話題に挙がりました『ウンディーネの水涙』の処分について話し合いたいのですが……」
「――待って頂けますかな」
「何でしょう、『シャドウの闇血』の副団長、マーズさん?」
ゲイルさんの話を止めた黒いローブを纏った中年風の髭男は隣にいる『シャドウの闇血』の団長、アルグネイラ・シャドウさんに聞き耳を立てて「はい、はい……」と頷く。
「我等が教祖様はどうして処分の対象が『ウンディーネの水涙』だけなのか、とおっしゃっています」
「……と、言いますと?」
ゲイルさんが尋ね返すとまたもや髭は団長さんに聞き耳を立てる。
……わざわざああやらないといけないのは面倒だろうけど見てる分には面白いな。
若干ウザいけどね。
それに、あの人は団長さんを呼ぶ際『団長』とは言わずに『教祖様』と呼んでいる。
うーん、私にとっては違和感バリバリなんだけど、他の皆さんは一切そこにはツッコまない。
『シャドウの闇血』の内部は他のクランとは違って少々特殊だということは良く聞く。
内部組織の統制の仕方ってのもその例に漏れないというだけなのだろうか?
確かに私達のクラン内でもアイリさんのことを『団長』と呼んだり『アイリさん』と呼ぶ者もいる。
呼び方なんてクランそれぞれでいいだろうと言えばそれまでなのだが……
『シャドウの闇血』内部では宗教団体のような規則でもあるのだろうか?
そうする方が結束が強くなるという効果もあるだろうが……面倒じゃない?
私達のクランでも規則はそりゃあるけど宗教団体ともなると意味が分からない規則だってあるはず。
バカにするわけじゃないけど「一日〇回お祈りを捧げる」とかやってられないでしょ。
「教祖様は、『シルフの風羽』も処分すべき対象に含めるべきではないか、とおっしゃっています。件の問題の加害者側であろう、とも」
「あれ!?そうだったんだ、俺達」
ヴィオランさんはあっけらかんとしている。
その態度に多少の怒りを覚えながらも様子を見守ることにする。
「何を白々しい、と――」
「はいはい、“教祖様が”だろ?」
「ちっ」
円形の大きな机越しにヴィオランさんと髭さんの間に火花が散るのが目に見えるようだ。
「確かに俺達『シルフの風羽』も参加してはいたさ。でも俺達は旦那に命令されて仕方なかったんだよ」
「何を言う!そんなことが――」
髭さんが否定しきる前にボブ男――もといグレイスさんが……
「……そうだ。今回の件は俺達『ウンディーネの水涙』が『シルフの風羽』を脅してやった。間違いない」
「貴様、何を!」
「ほらっ、旦那もこう言ってるし。それを反省してのく、くくっ……ボブ、くくっ、なんだろう?」
「ぐ、ぐぬぅ……」
ヴィオランさんの受け答えに髭さんは苦虫を噛み潰したような表情だ。
……それはいいんだけどもう教祖さんに聞き耳を立てなくてもいいのかな?
「あ、あれだ!!被害者側の『イフリートの炎爪』や『ノームの土髭』だって――」
「『ノームの土髭』は今回の議題には特に異論はない。しいて言うなら一番の被害者である『イフリートの炎爪』次第で――と言ったところだ」
『ノームの土髭』のテリムさんに振られて慌てて私も答えることに。
これは私が答えなきゃいけないところか。
自信ないけど、今は私がアイリさんの代理。
とりあえず……
「私達『イフリートの炎爪』としては今回の件は『ウンディーネの水涙』に然るべき処分が下るのであれば問題ありません」
「な、何を言っている!団長が脅され、その妹まで人質に取ろうとしたのであろう!?」
そんなに噛み付かないでよぉ。
私だってそこについては怒ってるんだけど、アイリさんもそこについてはもういいって言ってたんだもん。
~回想~
「フレア、『シルフの風羽』については机上にあげなくていいから」
「え?でも……いいんですか?エンリが危険に、さらされかけたのに」
「……そこについては私も思うところはあるけれど、裏であった色んなやりとりも会議については考慮しなければならないわ。勿論表には出せないけれどね」
私は戻ってきたばかりだからあまり詳しくは知らないが、どうやら『ルナの光杖』に働きかけて『ウンディーネの水涙』、『ノームの土髭』をヴォルタルカに連れてきたのは『シルフの風羽』だそうだ。
「それのおかげで騎士団を牽制できたのは事実。実際にあいつ等がそれでビビったのかは分からないけれどね。……『ルナの光杖』の団長と二人で話す機会があったんだけど……」
「え!?それは凄いですね、いつも鎧着た『三騎士』の誰か一人はくっ付いてるって噂なのに……」
「ええ、それだけ私個人に言いたいことがあったようよ。……兎に角、『ノームの土髭』についても取引があったそうよ。新しく団長になったテリムはクランを大きくすることに躍起になってるから、その援助をするって」
「『大きく』、ですか。成程、だから罰を与えて『他のクランを小さく』することには興味は無い、と」
「ええ、そういうことよ。私達も他の七大クランの力を間接的にでも借りれることにはメリットがある。私達が問題に挙げなければ『シルフの風羽』が処罰されることは恐らくないはず」
確かに常時であれ臨時であれ議決には過半数の賛成がいる。
つまり4つのクランの賛成が。
ただ、議題の内容に挙がっているクランには普通議決権がない。
当たり前だ、そのクランに議決権があったら直接に利害関係があるのだから有利な方に票を入れるに決まっている。
だから『シルフの風羽』も議題の対象になるか否かで否決・可決のし易さというのは異なってくる……というのが『シャドウの闇血』の考えなのだろう。
『ウンディーネの水涙』だけでなく、『シルフの風羽』についても加害者にしたい理由……
普通に考えたら戦力を削ぎたい、とかそれに伴って自分達の発言力を高めたい、とかなんだろうけど……
『シルフの風羽』、もしくはヴィオランさん個人に自由に動かれたら困ることでもある、のかな?
「その件はだから『ルナの光杖』にとってはあくまで前座に過ぎないのよ」
「はぁ……分かりました」
~回想終了~
「ほぉ~ら、彼等もそう言ってるじゃん。あれだよ?俺達は旦那の暴走を必死に食い止めた方なんだって。それが死者0って言う数字に出てるんじゃない」
「くっ……」
髭さんは押し黙る。
確かに今回死者がいなかったというのは普通に考えたら有りえないだろう。
『ルナの光杖』と連絡を取ってヴォルタルカに駆けつけたこともだが、こういったところも含めてアイリさんが「ヴィオランは食えない奴よ」と言う意味が分かってくる。
イケメンで食えない男とか……ははっ、私の駄目さを引き立てる意味しかないわ。
「えーっと、まあ兎も角、揉めるようならこれも議題に挙げますか?“『シルフの風羽』もこの議題に挙げるべきか”ということについて。勿論今の議論の内容を含めて、ですが」
ゲイルさん、本当に優しいな……
そんなことしなくても結果は目に見えてるだろうに。
それを賛成に持って行くには流石に無理あるでしょ。
バカな私でも分かるわ。
『シャドウの闇血』が賛成だとしても『シルフの風羽』・『ウンディーネの水涙』にはこの件について議決権が無い。
議決権があるのは5つのクランとなる。
議決権が少なくなることを踏まえて議決に必要な票数を下げるという事も考えの上ではあり得るだろうが今までその議題が可決されたことは無い。
だから『シャドウの闇血』を除く後3つが賛成に入れなければ可決されない。
『オリジンの源剣』がどう動くかは分からないけれど……この議論の流れだと流石に……無理だよね。
結果的に賛成1、反対4という票数に。
髭さんは悔しそうにしているがこっちにしたら面倒な手間を掛けさせられたという感想しかないな。
はぁ……面倒くさい……
そうして途中『シャドウの闇血』の反対もあったものの議論は進み、『ウンディーネの水涙』の処分についてはこの先10回の“会議”ではなく、“議題”での議決権の停止、またグレイスさんの4か月間の冒険者としての活動停止、そして活動金500万ピンス献金という内容に。
この結果もアイリさんから聴いていた内容と大方一致するものだ。
団長が活動できないという罰が有っても、どうせ『ルナの光杖』がサポートするから厳しいというものでもない。
こういった結果になるからこそグレイスさんも自分から……いや、それこそ『ルナの光杖』の団長さんがグレイスさんに働きかけたのかもしれない。
「〇〇という結果に落ち着かせる、グレイス君、君はだから自分から罪を認めるんだ!!」みたいな。
いや、全部(団長さんの口調も)想像だけど。
もしそうだとしたら……この会議は全て『ルナの光杖』の掌の上だという事になる。
流石、クラン中最高戦力と言われるだけある。
純粋な戦闘と言う意味での戦力もさることながら、こういった政治的な面でも圧倒的だ……
「ふう、これで一先ずは安心、ってとこか。――じゃ、今回の議題の本題にでも入りますか、ゲイルさんよ」
ヴィオランさんはそう言っているが上辺だけだろう。
こんなの出来レースなんだから。
「そうですね。では、『シャドウの闇血』と『破壊の御手』との関係について――」
「な!?ど、どういうことだ!?我等はそんなことは聞いていないぞ!!……っと教祖様が……」
思い出したかのように教祖様を出す。
今迄いなくても普通に済んでたじゃん。教祖様本当にいる?
っと、そんなことより……
髭さんは本当に驚いている。
それこそ教祖様を忘れる位……それはいいか。
臨時とは言え私達は事前に聴いていた通りだけど……
うっわぁ、『シャドウの闇血』、ハブられてるっぽい!
ご愁傷様……
「そうですか。なら流石に議題、と言う形にするのはマズイですかね。ではとりあえず話だけしまして、どうするかはその後、という事でどうでしょう」
特に異論は無いようだ。
私達もそこは同じ。
ただ……
「…………」
さっきから一言も発せず会議の行く末をティアーナさんの後ろで腕組みして見守っているこの中でただ一人のSランク冒険者―グリードさんがただただ純粋に怖い。
ハイエルフとは聞いていたがそれの神々しさとかは特にない。
髪も金髪ロン毛。
普通のエルフと大差ないように見える……部分もある。
なのに何なのあの顔の大きな傷!
冒険者やってたらそりゃ生傷の一つや二つ付いてる方が普通だろうけど普通に冒険者やっててもあんなガッツリ一生残るような深い傷顔に付くなんて聞いたこと無いよ!!
それに右目の眼帯!!
何!?顔だけじゃなく目までやっちまってんですか!
怖いわ!ひたすら怖いわ!!
一番最初に紹介があったのだが正確には彼は『オリジンの源剣』の団員では無い。
なら何故ここにいるかと言うと、今の彼の仕事は『オリジンの源剣』の団員の護衛だそうな。
つまり今はティアーナさんを護衛中、と。
Sランク冒険者が護衛?何それ、オイシイノ?
美人でしかもSランク冒険者の護衛つきとか……はんっ、持ってる人はどこまで行っても持ってるわ……ぐすっ、泣けてくる。
……とまあ、冗談はさておき、私はアイリさん・エンリと出会えたことだけでも十分だけど。
兎に角、最初から一人だけ放ってるオーラが違う。
別に襲ったりしないから。
だからその怖い雰囲気放つのやめて欲しいんだけど!
実質的に会議に関係ないくせに圧力かけて来るの辞めてもらえませんかね!!
何、構ってほしいの!?
誰も構ってくれなくてイジけてんの!?
勝手に来といて拗ねるとか、性質悪っ!!
それとも何、魔眼でもあるんですか?
その眼帯の中にもう一人のグリードでもいて、それを押さえつけるのに必死なんですか、えぇっ?
…………ふぅ。
落ち着いた。
私のバカみたいな思考は勿論、表には出ていないはずなのでそんなことを気にする者はいず、ゲイルさんは話し始める。
「……今回、とある噂が入ってきました。“『シャドウの闇血』は非人道的なやり方で団員数を増やしている”という」
「心外ですな。我々がそんな野蛮なことをするわけないではないですか、と教祖様が」
ゲイルさんは髭さんの反応を見て続ける……って言っても鎧越しだから完全に私の推測なんだけどね。
「……失礼、“噂”、と申しましたが、それだけではないんです。いわゆるタレこみですね、それが複数ありました。情報源については秘匿させていただきますが内容の正確性についてはこういった公の場で使わせていただく位に信頼性が持てるものだと保証します」
「貴殿らの信頼と我等の信頼とでは異なるだろう!!そんなもの、根も葉もないただの噂を信じてどうするのだ!!……と教祖様が」
教祖教祖うるさいな。
「へぇ、じゃあお前達が信じてるって言う根拠の怪しい真祖様ってのもどうなんだろうな」
「な!?貴様ぁ、言うに事欠いて―」
「静まれぇーー!!」
「「「!?」」」
ゲイルさんの喝が言い争っていたヴィオランさんと髭さん(教祖様?どっちでもいいけど)を押し黙らせる。
今の、凄い迫力だったけど……
「ありがとうございます。我等が団長は同じ冒険者がこのように争われることを良くは思っていません。今現在、王国騎士団の蛮行が目立つ中我々は足並みを揃えて立ち向かうべき、そう考えていらっしゃる」
皆が彼の声に耳を傾けている。
あのグリードさんさえその視線の先に映っているのは鮮やかな緑をした鎧……うん、人じゃなくて鎧だ。
「だからこそ、疑いに留まるとおっしゃるのなら、それを晴らしていただいて、皆で協力し合えばよいでは有りませんか」
「そ、それは……」
「問題ないでしょう?そんな影すらない疑いなんでしたら、早いうちに晴らしていただければお互い楽です。それとも、隠さなければならないようなことでもおありなんですか?」
「ぐっ……」
うーん、言いたいことは分かるがその言い方は少し卑怯なんじゃないかな……
別に話題に挙がっている疑いが本当になかったとしても隠したいことの一つや二つ誰にだってある。
何だか職質をする騎士のような言い方だ。
確かに騎士みたいな鎧は着ているが……騎士?
まあそれは良いとして……『シャドウの闇血』もお粗末だな……
あの言い方は確かに卑怯だけど断り方なんていくらでもあるのに。
バカな私でもそれ位のあしらいはでるのになぁ。
これ、教祖様本当にどういう基準で教祖になったんだろう?
私にはただのお飾りにしか見えないんだけど……
「ふむ、何もないようなので一先ず話を続けさせていただきます。一応これは“議題”ではなく、単なるお話、ということでしたからね」
『シャドウの闇血』は誰一人として声を発せられない。
最早これは『ルナの光杖』の独壇場と化した。
団長がいないのに、である。
恐ろしい。
世の中本当に恐ろしいことばかりだ。
アイリさんとエンリと出会えて本当に良かった。
出会った人が違っていたら私は今頃どこかの漁船にでも乗せられてドナドナされていたかもしれない。
「さて、申しました疑惑の信憑性を上げる情報がもう一つあります。確か、『破壊の御手』に、ハーゲン、というハゲが……団員がいたとか」
あ、それは知ってる。
最近私の下に来た3人のエルフ達が元はそのハゲに虐げられていた子達だったはず。
確かそれを“カイト”って男性が……ああ、そこでもこの人が出て来るのか。
「そのハーゲンはそこそこ名の知れた魔物使いだったそうです。現在は冒険者同士での決闘に敗れ、あろうことかその後の履行を拒んで結局死んだそうですが」
「…………」
「ハゲは魔物使いとしては異常なモンスターの数を使役していたとか。一般的な魔物使いの調教方法であれば3~4匹が限度と聞きます。多くて6匹だとか。しかしハゲは最大で10匹。普段でも6匹は連れていたと」
もうゲイルさん、“ハーゲン”じゃなくて“ハゲ”って言ってる。
いや別にいいんだけどね。
「……調べたところ、ハゲは元は『シャドウの闇血』の団員だったらしいですね。『シャドウの闇血』の団員だったところを『破壊の御手』の団長ソトに引き抜かれたとか。……つまり、ハゲの異常な程の魔物の使役数も『シャドウの闇血』の非人道的な勧誘方法から来ているんじゃないですか?」
「成程なぁ……どうやってるかは知らないけど、『シャドウの闇血』さん方は洗脳がお得意だからねぇ」
ヴィオランさんが軽い口調で入ってくる。
「な!心外だ!!」
「ですが!!……ですが、疑いは更に強まりました。あなた方の疑いが消えない限り我々はあなた方と肩を並べて王国騎士団から身を守り合うことはできません」
「ふん!!我々だけでも騎士団など!」
「……あなた達にその気が無いのならそれでも構いません。確かにどう戦うかはそれぞれのクランの自由ですから。ですが、あなた達が不要な疑いを拭い去れないのですと私達にもその火の粉が降りかかってくるんです。同じ“クラン”として。――騎士団とはそう言う輩ですから」
「…………」
「となってくると、足を引っ張るあなた達を私達は敵とみなして攻撃せざるを得なくなってきます。……要するに、七大クランの残り6つ全てを相手にする自信がおありでしたらどうぞご自由に」
この一言が決め手となった。
議題という形にしなくても、『シャドウの闇血』は自ら自分達の本部、支部につき私達他の6クラン合同での調査団を派遣することを了承した。
今回の会議はリューミラル王国の数々の奇行を受けて、早々に七大クランの中に溜まっていた問題を片づけておこうという趣旨であったが、『ルナの光杖』は見事にその役目を果たしたのだ。
……団長無しで。
ハッキリ言ってゲイルさんの独り相撲だ。
まだ後ろに『三騎士』の二人が控えていたのに……
あれ?でも、『三騎士』って、アイリさんと個人的に話す、みたいな特別な時でもない限り、一人は団長さんに付いてるんじゃ……
七大クランの会議に参加できない位の大事な時なんだったら、一人くらい団長さんに付いていてもいいと思うんだけど……
実質的にゲイルさん一人で会議だって何とかなったんだし。
参加はできないけれど、それ位こっちを大事に思っている、とも取れなくはない……んだけど、何となく、違う感じが……
まあいいか。
大まかな議題については終わり、後は次回の日程だとか細かい事項について話しあった後お開きとなった。
帰り際、ゲイルさんが私達団長(代理も含めて)全員に「これは今回お集まりいただき、私のような若輩者の司会を我慢して下さった謝礼のようなものです。本当に深い意味は無いのでお受け取りいただければ。中身は全て一緒ですので後でお互いに尋ねあっていただいても一向に構いません……ああ、内容の真実性については、保証しますがどう使われるかはお任せします」と言って一枚の用紙を渡された。
何だろう……
私は秘書を待たせて一人になれるところを探して開く。
……こうして一人になったところを襲う、とかはないよね。
私が考え付く位だ、どうせ襲うならもっと強い人を倒せるようなトラップを考える。
さて、どんな内容が書かれているか……
『王国が隠したいのは……ズバリ、王国では禁忌とされている“勇者召喚”を行ったことです。恐らく北のソルテール帝国が勇者召喚したことがきっかけでしょう。北の帝国ではどうかは知りませんが、王国での勇者召喚は不備も多く、魔力過多の原因―それも莫大な―となり、自分達で禁忌扱いしています。今起こっている各地のモンスターの凶暴化、異常行動、数の異常繁殖もそれで説明できます。にも拘らず、王国は2人の勇者を召喚しようとしたそうです。ただ、召喚されたのは“ダイゴ・ソノハラ”という15歳の男性1人、ということです。……以上の情報をどう捉えどう使うかは各クランの自由です。では、失礼します。 ゲイル 』
……何だ、これは。
どうやってこの情報を入手したんだとか、“勇者召喚”?何それ、とかは今はどうだっていい。
王国が何かを隠したいがために色々としていたということは帝国にいた私もクランの連絡を通じて知っていた。
でも……それが……それが……
それが!!元をたどれば自分達が生み出した原因が禁忌を犯したことじゃないか!!
アイリさんとエンリのお母さんにふっかけた嫌疑が禁忌だったのに?
信じられない……ふざけるな……
私の恩人達を、私の大切な人達を悲しませる元凶が……潰してやる……
そこまで考えてすぅっと私の頭の中に、アイリさんがかけてくれた言葉が呼び起こされる。
『フレア、代理とは言っても、クランを預かる身であることを忘れないで。頭に血が上っても冷静に。帝国における-責任者を務めるあなたが暴走するなんてことは滅多に無いでしょうけど……そうね、個人的な価値観だけでどうこうしてしまうと取り返しがつかないことになるから。あなたの判断一つで、クランの皆の人生が変わる、それ位に考えて頂戴。……今の私がこれ以上クランの団長をやっていると、もう、自分でも止められそうにないから』
少し、冷静になれた。
……そう言ってくれたアイリさんは悲しみや怒り、色んな感情が入り混じった表情をしていた。
ただ、そこからとても辛いんだということだけは恐らく誰が見ても分かる位にアイリさんは苦しんでいた。
あんなアイリさんを見たのはこれで2度目だった……
今の私からは多分想像もつかないだろうが、一応私も元は子爵の娘だった。
こんな言い方をすると養子か何かだったのかと思うかもしれないがそんなことは無い。
貧しくは無いがかと言って裕福だというわけでもないごく普通の領地を任された父と母、それに弟と私の4人でこれもまたごく普通の生活を送っていた。
子爵と言う身分があるのに気取らず、領民の立場になって治める父は領民からも慕われていたし私や弟も可愛がられた。
最近になって知ったことだが、年に一度の家族旅行で王都に遊びに行った際偶然外にお忍びで遊んでいた当時の第2王女様と出会い、密かに友達になって毎年その時期には二人で遊んだというのは今でも私の密かな自慢の1つだ。
そんなちょっぴり自慢を持つ私が12歳になったある日、今の私の大切な相棒で家族の一人、火竜の『ニーナ』と出会った。
父が私と弟を連れて領地を見回っていた時、近くの山にドラゴンが出たという知らせが衛兵さんたちから入った。
ごく普通の領地だと言ったが山が近くにあるというのは人によっては田舎だと考える人もいるかもしれないが……そこはまあいいや。
とにかく私達はその山に行ったのだと言ったら行ったのだ。
そこにいたのは傷だらけの火竜の親子(子の方がニーナね)。
どうやら冒険者に襲われたのを命からがら逃げて来たらしい(実際には違うかもしれないが当時の私達はそう判断した)。
母親の方はニーナを守って瀕死の状態。
もう助からない、父はそう判断し、母親に向かって叫びだした。
「君の息子か娘かは知らないが、とにかく、子供は絶対に助けてみせる!!だから私に君の子を任せて欲しい!!――ああ、いや、私にそういう趣味があるわけでは無いぞ、純粋なる善意だ!!それで……っと、とにかく早くしないとその子は手遅れになるぞ!!」
人間の言葉が通じるのかという疑問が当時の私にはふつふつと湧いて出たがそんなことはお構いなしに父は続ける。
「お前が迷っている間にも子供にしてやれることは沢山あるんだ!!人間に傷つけられ俺達を信じられないのも分かる、でも――」
そこで母竜のブレス。
父、必死の形相で回避。
衛兵さんたちや一緒に来た領民の方々「何やってんだ!」と父を怒る。
父や皆にとっては必死だったのだろうが、私にはそれは面白い喜劇か何かに思えた。
私もそれに参加したい、皆と同じ舞台に立ちたい、そんな大人にとっては迷惑極まりない遊び心のようなもので、私は領民の静止を振り切り火竜親子に近寄った。
父は「子供は危ないから下がっていなさい!」とか言って怒るのかな、とも思ったが私が近寄ると「フレア、父さんどうすればいい!?どうすればドラゴンに冒険者じゃないと分かってもらえる!?」と真剣に聴いてきた。
父にとっては大真面目な話なのだろうから、私は込み上げてくる笑いを必死にこらえて「やはり武器を持っていないという事を伝えることが何より重要だと思う」と伝えたところ、父はそれだ!と叫ばんばかりに脱ぎ出した。
想像して欲しい、普通とは言え一領主が娘の言葉を聞いた途端にドラゴンの前で脱ぎ出すというおかしな光景を。
もちろん領民にはあとで盛大に怒られることになるがそれはまあ後の話で……
結果的にそれもまた火竜の親にとっては私から見たら「自分の娘に裸の変質者が近寄ってきた!!」というシチュエーションになって2度目のブレスを浴びることになる。
これ以上人間の株を下げると信じてもらえないだろうと、父を放置して私は一人で火竜親子の下へ。
生物的には勿論異なるが、同じ女という事もあってか、私には何とかなるという良く分からない自信があった。
その虚構かも分からない自信を私は信じて火竜のお母さんに「今迄よく頑張ったね。疲れたでしょう?ゆっくり休んで。これからは私がその子を守るから」と思ったことをそのまま口にした。
近づいていく私に一度だけお母さんドラゴンは盛大に咆哮したが、私は恐れず、ただ彼女達の下に近づいた。
そして彼女の大きな頬を私の小さな手で一撫でしてあげると、クゥーン、と力なく鳴き声を上げ、彼女は静かに永遠の眠りについた。
その後はどう言った薬がドラゴンに効くんだ、とか獣医を呼べ!!とか皆でてんやわんやだったがなんだかんだニーナは助かり、私達は彼女を家族のように可愛がって育て、彼女も領民や私達家族、とりわけ私に懐いてくれた。
私がアイリさんとエンリと出会うことになったある事件が起こるのはその2年後になる。
人に懐くドラゴン、ということを聞きつけた当時侯爵だったイェルガーが自分の娘に、と父にニーナを渡すように言ってきたのだ。
私は勿論、弟もニーナもそれを拒否したし、父もそれを知恵を絞ってのらりくらりとかわしてくれていた。
業を煮やしたイェルガーは強硬策に打って出た。
何度も言うが私達の領地は普通なのだ。
普通であるからして、周りの町村との貿易に頼る部分も普通にある。
それを圧力をかけて止められたのだ。
ニーナを、家族を渡すしかないのか、という初めての絶望、挫折感溢れる腐りきった私が途方に暮れていた時に出会ったのが正しくアイリさんとエンリだった。
最初こそ父との話し合いでアイリさんはものすごい怖いオーラを放ってはいたものの、父が真正面からそれを受け止め、「俺のプライド一つで領民や家族を、ニーナを守れるのなら安いものだ」との言葉を聞いたアイリさんは私達を助けると決めて動いてくれた。
当時は相当やさぐれていたと思う、そんな私に天使のような笑顔で励ましてくれたのは勿論アイリさんの妹のエンリだった。
「わ~、可愛らしいドラゴンさんですね!名前は何て言うんですか?」
「……ニーナ」
「へ~、お名前もキュートです!……私はエンリって言います。よろしくお願いしますね、フレア」
「……うん」
「……心配ですか?」
「……え?」
「フレア、とっても辛そうな顔してましたから。でも大丈夫です!!姉さんは家族を大事にする人には基本優しいですから。だからこういった家族が絡む依頼にはめっぽう強いんですよ?」
「……そう……なの?」
「ええ。……だから、大丈夫です」
そうして、エンリに励まされつつも、私達はニーナとまた一緒にいることができるようになったのだ。
最初に言った通り、私はもう子爵の娘では無い。
要するに父は爵位を喪ったのだ。
新しい領主が替わった後不都合ができるだけ少なくなるようにアイリさんは裏で色々と動いてくれたし、しかも私達がその後も嫌がらせ等受けないよう北の帝国に逃げる手筈まで整えてくれた。
そのことについては特に私達家族の間で揉めるなんてことは無かった。
私達の間で、優先されるべきは家族と一緒にいられることだったからだと思う。
領民の皆さんにもアイリさんは話してくれていたようだ、夜逃げみたいな形になったが皆私達に去り際挨拶してくれた。
ニーナにも、だ。
父がやってきたことに改めて敬意を払おうと思った瞬間だった。
爵位を失ったことも有って私達が払える金額がそれほど多くないと見てか、依頼に要したお金は決して少なくない額だったろうに、依頼人である私達から見て報酬は相当だとは言えない額――勿論少ないという意味で――だった。
そのことを依頼完了を告げに北の私達の新たな家まで来たアイリさんに尋ねると、「じゃあそうね……この帝国内で『エリクサー』について分かった情報があれば、私がこっちに来て顔を出した時に教えてくれない?それが追加分の報酬としましょう」と言われた。
勿論私達家族は総出で情報を集めた。
分かったことは直ぐに知らせたが、普通に暮らしている者にとっては手が届くレベルの代物ではないという事も分かってしまった。
私がどうしてアイリさんがそれほどまでに『エリクサー』を欲しがるのかを聴いた時、初めてアイリさんがあの辛そうな顔をしたのを見たのだ。
詳細な部分はボカしていたが、要するにアイリさんのお母さんの病気を治すためだという。
家族と話し合い、ニーナと協力して少しでもアイリさんの手助けができないかと思って私は冒険者になったのだ。
……今、『エリクサー』は入手できていないがアイリさんの願いはかなった。
なのに、またアイリさんは見ているこっちの方が苦しくなるような辛い顔をする。
それだけではない……
私達『イフリートの炎爪』皆の心の支えとなっているエンリさえも、あの笑顔を浮かべなくなった。
私達を気遣って浮かべる笑顔はもう笑顔なんて呼べない悲痛なものだ。
その元凶をぶっ潰したいとか、“カイト”っていう男性を早く探し出さなくてはという色んな想いが私の中では渦巻いているが、今はとにかく、私達皆があの姉妹にもらったものを返すときなのだ。
その先端に立つのが私でいいのかという疑問も無くは無いがまあそこはぐっと飲み込んで、与えられたことをしっかりとこなさなければ!!
意を新たにし、帰ろうかと外に待たせているニーナの下に戻ろうとしていたところ、家の影になっている所から何やらコソコソと聞かれてはいけないことを話しているような話し声が。
「……やっぱり見つからないか」
「はい。ヨミは今全力で探してるッス。……ヴィオランの旦那、やっぱりそっちはもういいんじゃ無いッスか?全然見つからないッスもん。それよりその“カイト”って方を先に探した方が……」
「うーん、確かに風来坊君も見つけないと、『オッサン』のことも有る。でも“ヨミちゃん”だっけ?そっちの方も頼まれてるから見つけないと……」
「そうなんスか?なら……!? 旦那、人が!!」
「え!?うそっ!」
私が覗こうかどうか躊躇っていると影からは『シルフの風羽』の団長さんが一人で出てくる。
「……誰かと思ったら『火竜姫フレア』ちゃんじゃん!どうしたの、こんなところで。カッコいい俺に会いにでも来てくれたの?」
「……ヴィオランさんお一人ですか?何やら話し声が聞こえたのですが」
「ははっ、何言ってんの、俺一人しかいないよ?何なら見てみれば?」
ヴィオランさんは堂々と家の影の方に手の平を向け促す。
私は促されるままに覗いてみるも……確かに誰もいない。
おかしいな、話し声は聞こえたんだけど。
しかも今の一瞬で隠れられる場所は無いし。
「ははは、だから言ったろう?」
「……確かに話し声は聞こえたんですが」
「あれじゃね?俺、最近独り言増えたって言われるし、多分それじゃない?」
「……こんな家の影になるようなところで、独りでコソコソといらっしゃって、そして独り言をボソボソと呟いてる、と」
「あっ、その冷たい眼差し止めて!俺は残念な子じゃないから!ちゃんと友達一杯いるから!!」
「……大丈夫です、分かってますから。ちゃんといますもんね、ヴィオランさんにも友達」
「ああ、今度は同情の目だ!!」
「……まあお互い色々と言えないこともあるでしょうが頑張りましょうね」
「まだ言うか!!……はぁ。ところで、どうそっちは?」
「……今、ついさっき『お互い言えないこともある』と言ったところなんですが」
「やっぱり綺麗な女性はガードが堅いねぇ」
「お世辞は結構ですよ。本当にダメージ以外残らないですから」
「世辞じゃねえんだけどなぁ……まあそこは良いか。――ヴォルタルカでのアイリや妹ちゃん、それに二人の母親のこと、正直言って想定外だった。もっと早くに王国の、殊騎士団の動きを察知できてれば『ルナの光杖』を初め、七大クランへの働きかけもスムーズに行って、駆けつけるのももっと早かったはずだ。それは済まないと思ってる」
「……私にそんなことを言われても」
「俺、一応『破壊の御手』のことに関しては加害者側だから。休業してるアイリ達に会うのって結構キツイんだ。今代理をしているフレアちゃん位じゃないと」
「…………」
「罪滅ぼしの意味もあるし、君たちが今血眼で探しているだろう“風来坊君”についての情報が入ったら必ず君たちにいの一番に伝えるよ」
私達が『血眼で探している』という情報からもそうだが、一応アイリさんから色々と聴いているので“風来坊君”というのが誰を指すのかは分かる。
「……それは、正直助かります」
「だろ?俺達も結構本気で探してるんだけど中々情報入んなくってさぁ。風来坊君、あれで結構食えない奴で、自分の情報を隠すのかなり上手いからなぁ」
アイリさんが『食えない奴』と言っていたヴィオランさんが『食えない奴』と言う辺り、“カイト”という男性は本当に食えない人間なんだろう。
アイリさんは勿論全力を持ってその男性を探させているし、私が引き継いだ後もそれは継続しているが、入ってくる情報は捜索されている対象については皆無に等しく、対象を探している人の情報の方が圧倒的に多い。
未だに王国から賞金がかかったという事実は無いのだが、第4師団の隊長がこれまた血眼で探している、個人的な資産も出す、という噂が流れて賞金稼ぎも多く乗り出しているらしい。
ギルドには多くの人間が尋ねに来る。
報告書にはよくその例えとして中年のダンディーな男と若い女の二人組が来るというのが挙げられるがそれらは全て探している側だ。
捜索されている本人の情報は入ってこない。
「じゃ。そういうことで。また何かあったら君に連絡入れるよ」
そう言ってヴィオランさんは去って行った。
私もそれ以上話すことは無かったので引き留めることも無くニーナと合流し、クランの皆と共に帰って行った。
そうして1週間後、アイリさんに自分に会いに来るよう指定されていた日が来た。
この日に全日空けるために逆算して仕事を片づけていたが量が半端なく多かった。
アイリさんはこんなことを毎日していたのか……
私はノックして中からドアが開くのを待つ。
出てきたのは予想に反してエンリの奴隷であるゼノであった。
ゼノについても事情は聞き及んでいる。
彼女も去って行った“カイト”という男性を想っていたそうだ。
それだけでなく彼が連れていた奴隷の一人が親しい仲だったという。
ゼノは騎士団が彼を捜索しに再来した際、一番前に出て「自分が一番彼に付いて知っている、だから連れて行くなら自分にしろ」と言ったそうだ。
そんな彼女の気丈さを想うと胸が痛む。
私を出迎えてくれたのも些細なことでも自分の主であるエンリを気遣ってであろう。
中にはアイリさん・エンリ姉妹とその母親であるルヴィアさん、そしてアイリさん達と同じように休んでいるリクさんの4人。
皆一様に雰囲気は暗い。
リクさんは個人的に彼と何かあるとは聞いていないが今回の件で思うところがあったようだ。
……二人のお母さんであるルヴィアさんはどういうわけか、嗚咽を漏らして泣いている。
それをアイリさんが傍で慰めている、そんな感じだ。
中に入ってきた私に気付いたエンリが椅子から立ち上がって私を出迎えようとしてくれる。
……やはりエンリの顔にあの笑顔は無い。
「……フレア、わざわざありがとうございます」
ああ、どうやったら私の大切な人に笑顔を取り戻してあげられるのだろう。
概していない人を探すよりかは存在する目障りな奴等を消す方が楽だ。
そりゃ騎士団と言ったら物凄い戦力だという事は理解しているがやらなければいけないことがハッキリとしている。
一方で人探しはどうだろう?
ある一つのところを探しても、探しつくせたとは言えない。
究極的には見つかるまで世界各地を探さなければ目的は達成できないのだ。
騎士団を倒せたとしても、この人達の表情は決して晴れないだろう。
くっ、“カイト”って人、本当に恨むよ!
「うんん、気にしないで、エンリ。それで、ここに私が呼ばれたのは……」
私がアイリさんに視線を向けるとアイリさんはエンリと入れ替わり私の下に。
逆にエンリはゼノを連れてルヴィアさんを支えに向かった。
「ゴメンね、フレア。あなたが一番忙しいだろうに呼び出したりして」
「いえいえ、私のことなんて気にしないで、今は自分達の体と心を気遣って上げて下さい。それが、クランの皆の願いですから」
「……ありがとう」
本当に久しぶりのアイリさんの笑顔。
当たり前だがまだ本調子とは行かないまでも、今はこれでも十分だ。
さて……
アイリさんから今回御呼ばれした事情説明があった。
勿論彼女達の雰囲気から目的の人が見つかったなんて明るい話では無かったが、違う方向で彼女たちなりに歩みを止めない展開となっているようだ。
最初聴いた時は“勇者召喚”のようにとんでも話かと思ったが、アイリさん達のお母さん、ルヴィアさんが大切に持っていた1輪の花が輝きだし、この郊外にある1本の大きな木付近に青白い光が灯ったそうだ。
花と共鳴しているようで、アイリさん達はすぐさまその光を辿ってその場所へと赴き、光っている正確な場所である地面を掘り返した。
するとそこには1本の刀と1枚の手紙が入った箱が。
それを読ませてもらうと……
『……ごめん、ルヴィア。君がこれを読んでるってことは、君に何かあった、それかこれから大変なことが起こりそうで、私を頼ってくれたんだよね?……だから、ごめん。私の助けを必要としてくれるのに、私は今、君の傍に駆けつけることができない。詳しくは話せないがまだ私にはやらなければならないことが有るんだ。これだけは……でも、必ず約束は守るから。今迄も十二分に頑張ってくれた君にこんなことを言うのは本当に心が痛むんだけど……私が帰るまでアイリとエンリのこと、頼む。~追記~一緒にあった刀を使って下さい。私の知り合いのところまで連れて行ってくれると思います。彼なら必ず力になってくれるでしょう』
と書いてあった。
ルヴィアさんはこれを読んで「本当に、久し、ぶりの、手紙、なのに、その最初に『ごめん』って……もっと他に、書くこと、無かったの……」と呟いていた。
……これを書いたのは二人のお父さんだ。
とは言うものの……どういうことだろう。
色々と引っかかることやこんがらがることが。
アイリさん達は元はここでは無いところに住んでいたが、引っ越してここに辿り着いたのだという。
なのに、こんなピンポイントなところに刀と手紙を埋めて隠して……
あたかも3人がここに来ることを知っていたかのようだ。
本当にどういう事だろう?
そうだと――
「よし!!」
「「「え!?(ビクッ)」」」
いきなりルヴィアさんは立ち直って声を上げる。
勿論いきなりのことだったので私達皆が驚かされた。
「えーっと、お母さん?」
「どうしたの、いきなり?」
「うん……辛いのは皆同じなのにお母さん、自分のせいでってずっと責めて、立ち直れなくて」
「お母さん、だから何度も言ってるようにこれはお母さんのせいなんかじゃないから!!」
「そうです!!3人でまた暮らせること、カイトさんが折角してくれたことを――」
「うん、だから、もう、お母さん自分を責めることはしない。そんなことしたら、カイト君がしてくれたことに対してとっても失礼だって。だから、その分のエネルギー全部、これからカイト君を探すこと、二人のためになることを頑張るために向ける」
「お母さん……」
「母さん……」
「それに、お父さんはやっぱり約束を守ろうと今も頑張ってくれてるんだよ。帰ってくるまで、二人のこと『頼む』って言われちゃったし。それなのに落ち込んでいる暇なんて、無いもんね!」
二人のお母さんというのが、その輝くような笑顔で証明される。
ああ、本当に二人が心の底から笑ったときそっくりだ。
少し無理をしているようではあるが元気になったというのは嘘ではないだろう。
「……うん」
「……そうですね」
「よし!!じゃあ、とりあえず、お父さんの知り合いって人に会ってみよう!力になってくれるって言うし、カイト君のことも何か進展があるかもしれない。それに、ついでにお父さんのことも聴けるかもよ?」
「フ、フフ……お母さん、お父さんのことはついでなんだね」
「お母さんやアイリとエンリがピンチの時に駆けつけてくれないお父さんなんて、ついででいいと思うな、お母さんは」
「そ、それは流石に父さんが可愛そうじゃ……」
二人も苦笑いを浮かべる。
さっきの辛そうな表情よりかは何百倍もいい顔になっている。
「それより今は皆カイト君の方が気になると思う。ゼノちゃんもそうだよね?」
「え!?あっ、いや、それは……」
いきなり話を振られたゼノは頷き辛そうだ。
フフッ、ゼノには悪いがそれでも、皆少しは元気になったようで何よりだ。
私達は必要最低限の準備を整えて刀と手紙が見つかった木まで行き、刀を使ってみることに。
具体的に『使う』と言ってもどうすればいいか最初はよく分からなかったがアイリさんが刀を鞘から抜いて何かを祈るように目を静かに閉じたのち、刀身だけでなく刀全体が青く輝き、あろうことかそれが1頭の体の長-い竜になってしまった!
全長で何十メートルあるのだろうか……先ずデカい。
そして、竜の体表は青く輝く鱗に覆われて、光が当たると綺麗な蒼を反射する。
二本の長い髭を伸ばし、その頭頂部には枝のように伸びた角が。
私達が驚きで声を失っていると、頭の中に何かが響いてくるような感覚を覚え、何だか竜が『乗れ』と言っているように思えた。
皆で顔を見合って、私を除く皆は頷き、恐る恐るその竜の細い体に1列になるようにまたがって行く。
私はと言うと自分の相棒であるニーナを呼んでニーナに乗ってついて行くことにした。
それを確認すると青い竜は浮き上がる。
ニーナと違って翼で浮き上がっているのではない。
どういう原理で浮いてんだ、コイツ!?
そうして浮き上がってからもまた驚かされることしかなかった。
ニーナの飛行速度は身内の贔屓目を抜いても速い方だと思っていた。
そりゃドラゴンだったらそれだけで大抵の飛行する生物、特に鳥類のモンスターとも対等以上に渡り合える。
だからこそ、ニーナが必死にならなければついて行けないと言うほどの飛行速度を誇る皆を乗せたあの青長い竜の速さは異常だと思えた。
それでいて皆は別に振り落されないために特別なことをしているわけでもなく跨って手でしっかりと体を掴んでいる位しかしていない。
何より翼が無いくせにニーナより速いという事実に腹が立ってくる。
この似非ドラゴンめ、いずれこの恨みは晴らしてくれよう……ニーナがね!!
それから飛行し続けること凡そ2時間。
かなり東に来たような気がする。
しかも相当標高も高い山の上の方。
雲まで下に見える程だ。
そして一つの大きな楕円形の陸地のようなところが見えてきたところ、竜はそこに着陸する。
皆を降ろした後、変身した時のように輝きだし、最初の刀身が蒼く光る刀に戻った。
……この変態竜め。
アイリさんは刀を鞘に仕舞い、私も降りたことを確認する。
ここは一体……
私達が現状を把握する間もなく、誰かが近寄ってくるのが窺え、身構える。
うっすらと霞がかっていてよくは見えないがどうやら人の様子。
何だか頭が異様にデカいような……あっ、何だ、笠か。
姿が見える位に近づいてきたその人は笠をクイッとあげて、お互いに顔が見えるようにし……
「……君達は……ああ、なるほど」
表れた、乱雑に伸びた銀髪を後ろで結っている30代位のシュッとしたイケメン男性は串のようなものを咥えながら話しかけてきた。
ニコニコしていながらもその眼光は鋭利な刃物のよう。
衣装は全く見たことが無いようなものだ。
古い、というのか、何と言うか……
昔父が子爵だった頃に来た商人が持っていたものをチラッと見たんだけど、えーっと……そう、着物だ!東の国にある衣装!
それに少し似ている。
でも無駄な部分は削いであって、ズボンもそれに合わせた機能性重視のものだ。
こちらもその着物チック。
足は貧しい人が履くような草履を少ししっかりとした造りにしたもの。
両の腰に何本もの刀を差している。
普通なら有りえない程の本数を、だ。
10……いや、20はあるんじゃないか?
うーん、変わった、人だな。
「あなたは一体……」
アイリさんが皆を代表するように不審者男性に誰何する。
「成程ねぇ……君がルージュの娘さん、アイリちゃんか。それで、そっちの子が妹のエンリちゃん。とすると……そちらがルージュの奥さん、ルヴィアさん、かな?」
「どうして、私達のことを……」
今度は自分達の名前を言い当てられたエンリが尋ねる。
「君達3人のことについてはルージュから聴いているよ。……初めまして、俺は灰根―あっと、逆の方が良いのか。……コホン、改めまして、俺はチトセ・ハイネって言います。一応数年前までは東の小さな島国で将軍って言う偉ーい職業についてましたが、今は絶賛隠居中です。君達のお父さんとは……まあ色々あった仲ですが、一応命の恩人と言う側面も無きにしも有らずではあるんだけれど……とまあ要するに親しい仲、なのかな。それでえーっと、会って早々悪いけど、刀を返してもらえると有りがたいんだけど……」
「あっ、はい、すいません」
アイリさんは言われて慌てて竜刀(命名:私)を返す。
男性嫌いのアイリさんがこんな風な感じなのは珍しいなぁ……
「お帰り、『青竜』……ああっと、これはね、君達のお父さんと魔族の知り合い、後研究者で今は確か……Sランクの冒険者っていうのをやってる人と最後俺の4人で協力して創ったオリジナルの刀なんだ。後はえー……そうそう、これもこれも」
そう言って何本も帯刀している刀の中で一際異様な雰囲気を放つ1本を抜いて私達に見せる。
「コイツは『朱雀』。もう他に2本あって、それは俺の子供に1本ずつ渡してあるんだけど、全部合わせて『四神刀』って言うんだ。懐かしいなぁ……っと、それはいいのか」
思い出したかのようにそう言って『スザク』と呼ばれた刀を仕舞い、私達に向き直る。
「君達が青竜に乗って俺の下に来たってことは何か困り事があったってことだよね?ルージュから聴いてます。それで――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
一人で捲し立てるチトセと名乗った男性にルヴィアさんが待ったをかける。
「ん?どうかしましたか……ああ、そりゃそうか、自分の旦那さんのことを知っている人がいたらそりゃ気になるか」
チトセさんは顎に手をあてて目を瞑り静かにそう呟いた。
何だろう、何でも思い込んでは自己完結してしまう人なんだろうか?
確かにルヴィアさんもここに辿り着く前にはあんなことを言っていたが、気にはなるだろう。
ただ、仮に理由がそうだったとしても、この人を止めたのがその理由だと一人で決めつけてしまうのは……うーん。
「俺がルージュに最後に会ったのは大体6年前になります。その時もアイツは『詳しい話をすることはできないが、やらなければいけないことがある。お前には迷惑をかけることになるが時が来たら私の大切な人に力を貸してくれないか?』と言ってきました」
「あの人は……その……元気、でしたか?」
「うーん、何となく切羽詰ってる感じはありましたけど、俺と色々と話すくらいの余裕はあったと思いますよ?必要なこと4割、貴方たち家族のこと5割、俺達知り合いのこと1割、と言ったところでしょうか」
「そうですか……何と言うか、申し訳ありません」
ルヴィアさんは言葉通り申し訳なさそうに頭を下げるがどこか嬉しそうな、ホッとしたような感情も混ざった表情をしている。
だろうな……
聞いた話では二人のお父さんはエンリが生まれてすぐに旅立ったってことだった。
それ以降の生死が分からなかったのが、少なくとも6年前までは生きていて、しかも自分達家族のことを心配していたという事実が分かったのだ。
妻として安心もするだろう。
「いえいえ、誰しも家族は大事ですからね。……それで、そろそろ本題に入りましょうか」
「「「……はい」」」
アイリさん、エンリ、そしてルヴィアさんがシンクロして頷く。
ようやく、ここに来た本当の目的が……
「……ふんふん、なるほどなるほど」
話すことに相槌を打ってはいるがアイリさんが話す邪魔をするでもなく時に要点を聞き返してこれでいいのか、と自分の理解が正しいかを確認する辺り、しっかりと聞いているようだ。
「だから、私達……」
「ふむ、君達がその“カイト”って男の子を探しているのは分かった。じゃあ最終の確認をするけど、俺がすることって言うのはその子を探し出すことでいいの?」
「え?それは、どういう、意味でしょうか?」
エンリがチトセさんの質問に戸惑う。
アイリさんも顔にこそ出さないものの受けた印象は同じようだ。
「うん、別に文句があるとかいちゃもんつけるとかそういうわけじゃないから最後まで聞いてくれるかな?」
「は、はい」
「わかり、ました」
「ありがとう。……俺はルージュに『君達の力になってあげて欲しい』って頼まれたから折角なら本当に君達のためになることをやってあげたい。これは、いいかい?」
「はい、分かります」
「私も大丈夫です」
アイリさんとエンリさんが理解していることを示し、それを確認すると「うん」と頷いてチトセさんは続ける。
「本当にその子を連れてきて万事解決ってことならそれでも良いんだけど……どうだい?本当に彼を探し出して連れて来たら全てが解決なのかい?」
「それは……」
「…………」
「騎士って言う強い力から彼を、君達のお母さんを、そしてクランの人達を守ってあげられる力をつけることこそ今の君達には必要なことなんじゃないかな?」
「「…………」」
「少し厳しいことを言うけれど、そもそも君達が強かったりクラン自体が強大で絶対的な存在だったりしたら、騎士たちはお母さんを連れて行こうとも、そしてその男の子が自分を犠牲にしてまで守ろうとすることも無かったんじゃないかい?」
「それは!!――」
「そ、そんなことは――」
「いいの、リク!!」
「いいんです、ゼノ!!」
リクさんとゼノが二人を庇おうとしたところ、アイリさんとエンリはそれを制する。
「続けて、下さい」
「お願いします」
「……うん。それで、俺がその男の子を連れて来るってことでもいいけど、連れてきた後、君達が何も変わらなかったらまた同じようなことが起こるかもしれない。でも、君達自身が強くなれば、君達自身も自分を守れる力が付くし、他の周りの人―殊に君達の大切な人だね―を守れるようにもなる。そうすればカイト君、だっけ?その子ももう自分を犠牲にしてまで君達を守ることも無くなるわけだよ。どうだい?この話を踏まえた上で、もう一度聞くけど、君達が望むことって、何だい?」
チトセさんは急かすことなく答えが出るのを待つ。
言っている意味は分かるし説得力もある。
ただ一つだけ私が個人的に引っかかることが有る。
本当にその“カイト”って人は二人が弱かったからそんなことをしたのだろうか?
果たして二人が強くなったら同じことをしないという保障があるのだろうか?
水を差してしまっているようで、揚げ足を取っているだけのようで何だか自分の思考が少し嫌になってくるが、どうしても気になってしまったのだ。
うーん、私は――
そんな私を余所に……
「私が望むのは、今より強くなって、カイトを、お母さんを、クランの皆を守ること!」
「私も姉さんと同じです!カイトさんは私達が強くなって自分達で探し出します!!」
「うん、そうじゃないと、カイトを迎えに行っても胸を張れないし、意味が無いもの」
「はい!」
どうやら二人の答えが出たようだ。
うん、今は私のどうでもいい思考なんて放っとこう。
「……うん、なるほど。じゃあ、俺が君達を強くするってことで、いいんだね?」
「ええ、お願いします」
「はい、宜しくお願いします」
「うん、了解!それで、そこの二人はどうする?」
私と同じく二人を見守っていたリクさんとゼノにチトセさんはいきなり話を振る。
「え!?そ、それは……」
「その、それって……」
「うん、話を聴く限りじゃ君達二人も多分一緒に強くなりたそうだな、と思って。別に1人や2人増えた位で手間なんてそうそう変わらないよ?俺一人で見るわけじゃないし。――だろ、半蔵?」
シュタッ
「……半蔵、ここに」
うわっ!?
ビビった……
本当にどこからともなくいきなりチトセさんの傍に犬人の男性が表れて膝をついてる。
ここ……そんな隠れておく場所って無いんだけど……あれ?これ、何かデジャヴ……
「俺は剣術、殊に刀専門だから。まあ近接戦闘なら大体見てあげられるけれど、コイツに見てもらった方が良い人がいたらそっちに任せた方が効率いいし。それ位の見極めはしてあげるから心配いらないよ?で、どうする?」
「私も、強くなりたい……いや、強くなりたいです!!」
「私もです!!エンリ様と一緒に、カイト様をお迎えできるくらい、強く!!」
二人共、答えるのに時間を要さなかった。
それ位二人の決意も、やる気も本物なんだろう。
「うん、分かった」
「ゴメンね、お母さん、勝手に決めちゃって」
「すいません、母さん」
「ううん、気にしないで。お母さんは、二人が本当にやりたいことをしてくれたら嬉しいな、と思ってた。だからしっかり強くなって帰って来なさい!!それまでクランはお母さんとフレアさんが何とかするから!!」
「「えぇ!?」」
「え!?わ、私と、ですか!?」
いきなり話を振られて焦る私。
勘弁してよ、大切な人のお母さんを使うとか私そんな鬼になれないんだけど……
「お母さん、クランで働くの!?」
「母さん、それは、ちょっと……」
「二人のいない穴をお母さん一人で埋める、なんて無茶は言わない。大丈夫、フレアさんだっているんだから!アイリが良くほめてて優秀な子だって知ってるもん」
え!?褒められてたのは嬉しいけど私を当てにしてるの!?
私任せはちょっと自殺行為じゃ……
「……しょうがないなぁ。フレア、お願いできるかしら?」
アイリさんが困った表情を浮かべながらも私にお願いしてくる。
「えーっと……」
「フレア、母さんを任せてもいいですか?」
更にエンリからの追い打ち。
何、皆私を追い詰めて楽しい?
それが新しい遊びか何かなの!?
「フレア、私があなたを代理に選んだのは、何だかんだ言ってもあなたが家族想いで、クランの皆を大切にしてくれること、それが感情的な面。後、きちんとした上に立つ人の適性としてもあなたは冷静に物事を考えられるし、私が気づかないことに沢山気づける。適切な場面で適切な判断を下せる、そう言った面を評価してのことなの。だから、任せる身としては申し訳ないけど、自信を持ってやってくれればいいと思う」
おぉーう、逃げ道が塞がれてしまった。
まぁ、アイリさんに、そこまで言わせておいて「無理です、他をあたって下さい」は……言えないよね……
ええい、チキンで悪かったな!!
くそっ、嬉しいよ、嬉しいに決まってるじゃん!!
はぁ……仕方ない、頑張ってみるか。
「分かりました。強くなった皆が帰ってくるのを待ってます。ルヴィアさんと一緒にクランのことは何とかしますからそっちは任せて下さい」
「本当にありがとう、フレア」
「ありがとうございます、フレア」
「よし、じゃあ纏まったところでさっそく修行と行こうか。ああ、心配しないで、スパルタとかは俺はしない主義だから。……それと、フレアちゃんだっけ?修行が完了する頃に遣いを送るからその時まではクランの方に専念してね」
「あ、はい、分かりました。……じゃあ皆、頑張って」
そうして私は4人に激励を送った後、ルヴィアさんと共にニーナに乗ってヴォルタルカへと戻って行った。
はぁ、どうなることやら……
===== ????視点終了 =====
===== ????視点 =====
夜、修行が終わって4人が寝入った頃……
俺は半蔵に息子の清隆へ戻ってきた『青竜』を渡すように伝えてから、1本選んで刀を抜く。
「ああは言ったけど、俺個人が探してあげる位の協力はしてあげてもいい、かな?さて……情報と言ったら……あの人か……人を探すためにあの人を探さなければって……面倒だな。今回はどこら辺に隠れてるんだろう、大体何となくは分かるけど」
そして、怪鳥へと姿を変えた俺の刀に一枚の手紙をその足に括りつける。
「“ディールさん”を見つけてこれを渡してくれ。多分……王都の近く当たりなんじゃないかな、と思う。よろしく頼む、アルタイル」
「グワァー!!」
「うるさいうるさい!!今女の子4人が寝てんだから静かに、ね」
アルタイルは申し訳なさそうに一礼するとその巨大な翼を広げて飛び立って行った。
さて、直ぐに見つかればいいが……
===== ????視点終了 =====
お疲れ様でした。
どうでしょう、ぼんやり・うっすらとではあっても、何となくどういう風に物語が進んでいるかつかめて来たのではないでしょうか。
掴めていない、というなら……すいません。
純粋に私の描写不足です。
やっと七大クラン全部名前が出ました。
『オリジンの源剣』のティアーナさん今回名前だけしか出てないですがフレア個人としては会議が始まる前に各自での自己紹介があったようですのでもしかしたらその声とか口調とかも聴いているのかも……大丈夫です。今後も出てきますから。
ゲイルさんは……あんまりこの人についての言及はできません。
申しわけありません。
グレイス(メガネ)はもうただのボブです。
笑って上げて下さい(笑)。
それと、一人目の勇者がついに!!
まだ登場したわけではありませんがその名前もこのお話で分かりました。
もう死にはしましたがハゲもまた名前が挙がってきましたね。
物語が少しずつ動き出しています。
フレアさんのお父さんは今も健在ですので若しかしたら登場の機会もあるやも……
そして何といっても『チトセ・ハイネ』なる男。
青い竜の正体も分かったでしょうがコイツ自身の方が皆さんにとってはもしかしたら重要だとお思いかもしれませんね。
このお話でアイリさん・エンリさんのお父さん、『ルージュ』さんの位置づけが何となく分かっていただけたのでは、と思います。
色々と感想をいただけると有りがたいですが、一つご相談が。
どうでもいいことかもしれませんが皆さんは『騎士団』の『師団』の『長』について、どうお思いでしょうか?
具体的なお話としては例えば第4師団の隊長、オルゲールさんで言うと、オルゲール『隊長』とお話では言っていますがオルゲール『団長』もしくは『師団長』って言う方が良いでしょうか?
最近になって何だか違和感を感じ始めました。
最初はクランの団長との関係もあってややこしくなるから『隊長』の方が良いかな、と思っていたのですが、ディールさんの娘さん、ユウさんの自己紹介の時に「ん?」と引っかかる物を覚えまして。
この件につきましてもご意見いただけましたら幸いです。
個人的には『師団長』でも別に混乱は無かったかな、というのが本音です。
特にご意見無いようでしたらこのままいかせていただきます。




