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え!?それはどういう……

すいません、先週分です。


間に合わなかった……


素直に申しわけないです。


「な!?レ、レン、それはどういうことだ!?」


俺はレンに疑問をぶつける。

当たり前だが俺だけじゃなく、他の皆も驚いているようだ。


「え、えーっとね……」


レンは俺の尋ねる勢いに押されたのか、答えに詰まっているようだ。


「ソ、ソノ、レンさんのおっしゃったことは少し正しくナイデス」


それを見たサクヤが前に出て告げる。

そうか、確かにサクヤも一緒に情報収集に出ていたからな。


「正確ニハ団長の方が冒険者を休業なさるので、それで北の帝国での責任者さんを代理にスル、ということだったと」

「そうそう、それそれ!」


レンはサクヤが言ったことに同意する。


「代理って……」

「では、アイリ様は……」


カノンとシアも動揺しているようだ。


二人はそりゃ一度一緒に戦ったこともあったしそれだけ思うことも多いだろう。


「……アイリ……冒険者、辞める?」


今迄一人食事を続けていたクレイが悲しそうな表情をして俺に尋ねてくる。


最近ようやくクレイの感情の変化の機微を察してやれるようになってきた。

クレイだって一人の人間なんだから喜怒哀楽があるわけで、こっちがきちんと見てやればそれだけクレイがどんなことを想っているかも何となくでも分かってくるものだ。


ちなみに食事と言ったが、クレイは俺達の中では一番良く食べる。

それで、俺達が食事の後話をしている最中に一人だけ食事を続けている、ということもざらにある。


クレイののんびりとした性格からしてもクレイだし、ということでみんな納得しているし、それに何よりクレイが黙々と美味しそうに食べている姿を見て癒されている者がこの孤島では圧倒的多数なのだ(俺はあれが美味しそうに食べている表情だとわかるのに少なくない時間を要したが……)。


だから基本的にリゼルを除いてクレイがこの時間まで食事を続けていても文句を言う者はいない。


……っと、それはいいとして、今は不安そうにしているクレイを元気づけてやらんと。


「アイリさんは、辞めるんじゃなくて、ただお休みするだけだ。クレイだって疲れたり、大変な時はお仕事お休みするだろ?」

「……うん、クレイ、お休み、する」

「ああ、それと一緒だ。だから、心配するな。今は俺達にできることをしよう。そうすれば……きっとまた会えるから」

「……んー、分かった。クレイ、頑張る」


どうやらちゃんと分かってくれたようだ。

だが……最後、根拠のないことを言ってしまった。


いや、今はそこで落ち込むよりは、クレイに言った通りできることをしよう。

この子達を守るためにも、俺が落ち込んで何もできない、ということが一番ダメだと思う。


よし!


「ありがとう、サクヤお姉ちゃん、ボク、こういう外のことってあんまりよく分からなくって」

「イエ、その分レンさんは里に戻って色々と頑張って下さいマシタから。お気に為さらナイで下さい」

「えへへ、お父さんからちゃんと色々貰ってきたよ。ぼいらー?って言うの、これでちゃんとお風呂が造れるんだよね?」

「ハイ!無くても大丈夫なんデスがこれで楽に……」

「あの、すいません、もう少し先ほどのことについて伺いたいんですが」


エフィーが脱線しかけた話を戻す。


凄いな、エフィーは。

エフィーだってアイリさんとは顔を合わせて話したことだってあるだろうに、動揺を見せずに話の本質を聴こうとしている。


最近エフィーの成長っぷりは本当に目を見張るものがある……


「えーっと……」

「その代理の方についてと、その交代するまでの経緯についてを知っている限りでお願いします」

「あ、ハイ、分かりマシタ。……新たに団長代理に就任される方は北の帝国内での『イフリートの炎爪』の実質最高責任者である“フレア”さんと言う方で、19歳女性、現在Aランクの方です」

「それ以上は特にその女の人について情報は無かったと思うよ?」

「成程……では交代するまでの経緯についてはどうでしょう?いきなりだったんでしょうか?」

「ううん、それはそうじゃないはず。確か……騎士団っていうのがそのクランの本拠地に入ってきて、一度帰った後、近場にいた他の騎士団を引き連れてまた帰ってきたんだって」


何!?あの後またそんなことが!?


「ソノ際なんデスが、どういうわけか『ルナの光杖』が『ノームの土髭』と『シルフの風羽』、そして『ウンディーネの水涙』を引き連れてヴォルタルカの街に現れたそうデス」

「え!?『ルナの光杖』って七大クランの1つでしょ!?」

「それが、どうして……」


カノンもエフィーも驚いている。

実際俺だってその情報には驚かずにはいられない、それ位のものだ。

どういうことだ……


「それで、騎士?とクランの冒険者達が睨みあいになった時に、カッコいい鎧を着た人が前に進み出て“聞け、騎士共よ!!此度の王国の卑劣なやり方には『イフリートの炎爪』だけではない、我等七大クランの4つが納得しかねるものだ!!これ以上このような蛮行を積み重ねるようであれば我等の刃が貴様らに向くと思え!!”って言ったそうだよ?」


レンが大層なモノマネをする。


「ハイ、それで騎士たちは暫しの議論の後重鎮らしき男が“お、覚えていろよ!天才であるボクに恥をかかせたこと、あの男と一緒に後悔させてやるからな!!”と言ってそれで帰って行ったソウデス」


……それ、絶対あのキモ男君だ。


それはそうと、普通俺達冒険者はよっぽどガチガチの前衛職でもない限り重っ苦しい鎧なんて着ない。

でも、レンの話や『ルナの光杖』が他を引き連れてきたってこと、後、以前の戦いの中で見た『シルフの風羽』と『ウンディーネの水涙』の団員達の服装を総合して考えると、鎧を着て、前に進み出て大層なことを宣言した者っていうのは恐らく『ルナの光杖』の幹部クラス、もしくは団長本人と言ったところか。


『ノームの土髭』だけなら兎も角、『シルフの風羽』と『ウンディーネの水涙』や、挙句『ルナの光杖』まで出て来るなんて……

どういうことなんだろう?


「ふーむ、なるほど。……それにしても、北の帝国から、ですか……」

「ん?エフィー、何か気になったことでもあるのか?」


エフィーがグーにした手を口元に当てて何かを呟いていたので尋ねてみる。


「あー、いえ、確かに気になることはあるんですが、今の話題とは離れてしまうのでお気に為さらず」

「……そうか。分かった」


エフィーがわざわざ今は話すべきではないと判断して話すのを避けたのだから、今は聴くべきじゃないのだろう。

話すべきだと判断すればいずれ話してくれるだろうし。


「成程、分かった。色々と分からないこともあるだろうけど、あんまり深く踏み込み過ぎず今は分かっていることだけで何とかしよう。他に何かこの件で報告することはあるか?」

「イエ、特筆シテお話すべきことは以上かと」

「うん、ボクもだよ、お兄ちゃん」

「そうか、分かった。じゃあ他の報告を頼む」

「了解!」

「かしこまりマシタ」



それから二人から報告されたことは重要かと言ったら微妙なものだった。


まず報告されたのは最近モンスターの異常行動が目立つ、ということだがそれは一応自分の目でも見ているし、王国の様子がおかしい、というのもこれまたその行動自体を実体験している。


その次というのもまた微妙で、ギルドがモンスターの一斉討伐ということで『緊急事態招集』をかけるという“噂”がある、また王国も別に兵を募集する“噂”がある、というものだ。


もちろん情報は受け手によってどういう風に受け取るかは違うのだが個人的には噂止まりだとあまり重要視することはできない。


噂だと情報源が誰かということも分からな以上、その人に確認を取って真実性を担保するようなこともできないし、噂を話している人から聞いた、という話をレンとサクヤから聴いたので俺が聞いたのは少なくとも再々伝聞位になる。


そんな話を鵜呑みにすると情報に踊らされることになりかねない。

頭に入れて置く位に留めておくべきだろう。


他のは本当に最初のものと比べるとどうしても重要性と言う意味では後退せざるを得ない。


最近塩の値段の相場が上がっているだの、最近突然失踪する人が増えているだの……



まあ兎も角、一生懸命に情報収集してくれたことには変わりない。

それに、さっきチラッと言っていたが、レンは途中一度戻ってラクナ・アンジェを訪れ、父であるゴウさんから食材や薬草、何かの素材、そしてボイラーを貰ってきてくれたのだ。


最初見た時は俺の知っているものとは形の面でかけ離れていたんだが使い方に関してはサクヤが知っているらしい。


俺達が里を離れる時にできれば渡して欲しかったんだが、ゴウさんも俺との時間を経て思い直し、里の中にある機械の素材を調べ直してようやく使えるものとして見つけたものだったらしい。


まあそういうことなら……


兎に角、これでカエンを使わずしてお風呂の完成を期待できる。

楽しみだな……





その後一度解散して、俺はとりあえず今後のこと、特に最後の西のワープ先について、考えを巡らせていた。


今迄調べたのは東・天使の里“ラクナ・アンジェ”付近の荒野、西・危険だと言われている魔大陸でも特に危ないとして忌避されている“死淵の魔窟”内部。


今のところ、相手のレベルが高い、強いという事位しか共通項が取り出せないでいる。

もっと分かることが有ればそれに備えて対策を練るなりして準備することもできるんだが……


「あれ?お兄一人で何してんの、考え事?」

「また1人でエッチいことでも考えていたでありますか、兄さん?」

「ん?リンにフェリアか?ようやく起きた、の、か……」


二人の声がしたと思って振り返ってみるとそこには俺の知らない人物が……って、そうか。

ユーリのことを思い出して一人で納得する。


そうだ、3人ともまた成長したんだったな。


リンはカノンとは異なり、西洋人のようなキラキラと輝く少し薄めの金髪を腰のあたりまで伸ばした長さの髪をしている。

出るところも出ていてニコニコとした笑顔は素直に綺麗だ・可愛いなと言う感想が漏れてくるもので、十分優れた容姿だと言える。



フェリアはと言うと、こちらはシアとほとんど同じ髪色をしているものの、その長さは異り、ショートカットとなっていて前髪の辺りにはシアにもらったのだろうか、ピンで髪を纏めている部分が窺える。


そしてその表情なのだが見方によれば凛としていてクールだという印象も無くは無いが俺からすればもうキリッとしているとかそんなことは関係なく単純に怖い。

これで後リンと比較して「うん、出るところはしっかりと出てないな!ちっぱ……」なんて言おうものならフェリアにどんな冷ややかな顔をして罵声を浴びせられることか……


「ん?どうしたの、お兄?」

「……ああ、いや、何でもない。それで、お前達、その姿は……」

「あ!気づいた、お兄!?どうどう、お兄が興奮してくれくれるようないやらしい身体つきになったと思わない?」


リンはそう言ってくねくねしながら体をすり寄せてくる。

特に自分の胸を強調してくっつけてくる辺りコイツは……


「こらっ、お前も聖獣とは言っても女の子だろ、そういうことをポンポン言ったりしない」

「ええ~?いいじゃんいいじゃん、こんなこと言うのはもちろん、お、に、い、だ、け、だよ?」


耳元で甘い声を出して囁く。

くそっ、またコイツは!


確かにこんなことをリンのように綺麗な女の子に言われたらドキッともするが一方でコイツは他の男にも同じことを言っていそうという想像が働くので怖い。


「リン、いつまで兄さんにくっ付いているでありますか?いい加減に離れるであります」


フェリアがどういうわけか助け船を出してくれるもリンは俺の傍でクスクスと笑っている。


「え~?別にフェリアにとやかく言われることじゃないと思うんだけどなぁ。これって、私とお兄の問題なんだしー」

「いや、俺たちの問題なんだったら俺が離れてくれって言ってるんだから離れてくれや」


フェリアに笑みを浮かべて反論したリンに俺はツッコみを入れる。


「お兄、そんなこと口では言っといて、体はこんなに……」

「ていっ」

「あ痛っ!」


そう言って俺の下半身に伸びかけた手を払ってリンにチョップする。


「ポンポン下ネタ使わない!女の子なんだったら尚更!」

「ちぇー、つまんないのぉ」


唇を尖らせて不平を述べるリン。

まあそこのところはとりあえずは分かってくれたようだ。


「……じゃあさ、じゃあさ、フェリアの容姿はどう、可愛いと思わない?」


リンの立ち直りはかなり早いようだ。


「まあそれ位なら……」


俺はリンに促されるままにフェリアのことをじっと見る。


「うっ……」


フェリアが少し身構えたような気がするが一先ず気にしない。

読めたぞ……

ここで変なことを言おうものなら、フェリアからの罵詈雑言を浴びせられ、リンがただただ楽しむだけのイベントとなり果てることになる。


慎重に言葉を選ばないと……


「……に、兄さん、いやらしい目でジロジロ見ないで欲しいであります」

「え、嘘っ!?この話題からしてそこは前提だからてっきりスルーしてくれるものだとばかり……」

「こ、これは視姦であります!フェリアは兄さんに視姦されているであります!!」

「いや、そんなつもりは一切ないから!それはお前の被害妄想であって……」

「『妄想』でありますか!?フェリアは兄さんに妄想で犯されるであります!?大きくなって女っぽくなったフェリアは今晩のおかずに使われるでありますか!?」

「いやいや、だからな、お前!そんな言葉尻だけを捉えずにもっと話を……」

「『尻』!?やっぱりフェリアは兄さんに妄想で犯されているであります!!『グへへ、良い尻してやがるぜ、ほらっ、もっとその尻振りやがれ!!』と妄想で兄さんに虐められるフェリアが目に浮かぶであります!!」

「お前なぁ、どんだけ俺のことゲスだと思ってんだよ!?んなこと絶対言わねえししねえよ!!」

「イーヤーであります!!フェリアはまだ若いのに兄さんに想像妊娠させられるであります!!」


……もうなんのこっちゃ。


「キャハハハ!!笑いすぎてお腹痛い、あ~、お腹痛いよ~!!」


リンは文字通り腹を抱えて笑ってやがる。

この野郎ぉ……


「……フェリア、リン、ご飯……?、何か、有った?」


丁度その時、クレイが建物から出てきて二人を呼ぶ。

そして大爆笑しているリンとよく分からない状態となっているフェリアを見てクレイも少々困った様子。


「な、何でもないよ、クレイさん」

「……?……」


よく分からず首を傾げるクレイ。

何でも無いって……テメェがそれを言うか。


「ほらっ、行くよ、フェリア」


そうしてリンは笑うのを必死に堪えてフェリアとクレイを連れて建物に入って行ってしまった。


そうして取り残された俺。



……はぁ……



=====  リン視点  =====


あ~、面白かった。

お風呂作りも楽しかったけど、やっぱりお兄と一緒にいると面白いことに事欠かないなぁ……


「……また、やってしまったであります。兄さんと話ができて、兄さんに大きくなった姿を見てもらって嬉しかったであります。なのに、なのにフェリアは……ぐすっ」

「……モグモグ……ゴキュ……フェリア、良い子良い子」

「ぐすっ、クレイさん、フェリア、また兄さんに……」

「……大丈夫、カイト、優しい」

「クレイさ~ん」

「……モギュモギュ……モギュモギュ」


中に戻ってきても食事に手を付けずに落ち込んでいるフェリアを、食事をまだ続けているクレイさんが慰めている。


今回は確かに私がふっかけたんだけど、根本が変わらなかったら別に私がふっかけなくてもどうせいつかはああなるんだし一緒のことだ。

フェリアも見た目ちゃんと可愛いのに、素直にならないからああいうことに……


ま、私としては見ていて面白いからそのままでも全然構わないんだけどねぇ~。



素直にならないと言ったらお姉もそうだけど、最近はどうもお兄に従順って感じだ。

それはそれでお姉の可愛い姿を見れて楽しいんだけど、お姉が素直にならずにいるところも可愛くて面白いんだよなぁ……


“素直に”、か。

人のことを言えるかどうか若干怪しいけれど……まあ、今はとりあえずお兄の傍で楽しい思いをさせてもらおう!

実際にそれが楽しいことも事実だし~。



「……モギュモギュ……モギュモギュ」


それにしてもクレイさん本当に良く食べるなぁ……

あれ、手に持ってるの、シア姉が作った『ドレアバイソンの肉の塩焼き』だよね?

一本500g位するのを朝に10本食べたって聞いたけどそれをまた6本も……


クレイさんが美味しそうに黙々と食べているところを見ている分にはこっちも癒されるし、クレイさんもお腹が満たされるわけだからいいんだけど……


まあ食材自体もクレイさんが自分で採ってくるんだし、誰も文句ないか!


はぁ、癒されるわぁ……



=====  リン視点終了  =====


俺は今、非常に困っている。

何に困っているかと聞かれると……更に返答に困ることに。


別にさっきのフェリアとリンとの間にあったことを引きずっているわけでは無い。



なら何を、と思うのだが……



俺は先ほど鑑定した、ウォリア・ドラゴンから貰った刀をもう一度鑑定してみることに。




妖刀・独歩血ひとりぼっち…太古の昔製作した魔王の魂が宿った妖刀。手にした者は更に孤独へと誘われると言われている。孤独に近い男のみが手にすることができる。刀の力はレベルに依り、手にする者の孤独に呼応して刀本来の力を解放する。

STR+50 AGI+50


Ⅴ:????

Ⅳ:????

Ⅲ:????

Ⅱ:孤独の道を進み始めし者(『光属性耐性』、『孤軍奮闘』、STR+5 DEF+5 INT+5 AGI+5)★

Ⅰ:????





俺はこれを見てどう反応すればいいんだ!?

どういうリアクションを取れば正解なんだよチクショー!!


まず魔剣が有る位だから妖刀があってもおかしくは無いが名前『独歩血ひとりぼっち』ってどんな当て字だよ!?

『独』と『歩』だけならまだ大丈夫だが『血』がつくだけでいきなり怖くなるわ!!


後Ⅱのところだけ能力が明かされていて★がついていることからして俺はⅡのレベルを解放したんだろうが喜んでいいのか悪いのかさっぱり分からん!!


これ以上のレベルを望むのなら今以上に孤独になれという事か!?

世界は俺に孤独になれって言ってるのか、えぇ!?



……はぁ。流石に冷静さを欠いてしまった。

が、それはそうと、鑑定をしてみると改めて思うところが出てくる。


ウォリア・ドラゴンがこれを抜いたという事は、アイツも俺に渡す以前にこの刀を使用できたということになる。

そして、最終的にはダークドラゴン母娘は助かったが一歩間違えればアイツは独りになったということだって十分にあり得たのだ。


ダークドラゴンのお母さんの話だと元の使用者は魔王で、その魔王は独りで戦っていたという。


オカルトの類は信じていないがこの説明が事実だとすると別に不思議がることもない。



妖刀と言う位だ、この刀を使い続けるともしかすると……



「ご主人様ぁ、いらっしゃいませんかぁ?」

「ご主人様、ご主人様……」


シアとエフィーが俺を呼ぶ声がして、俺は即座に刀をしまい考えを中断する。


この刀についてどうするかまだ決めてない段階でシア達にも話すと、心配して使用に消極的な意見しか出ないかもしれない。

俺自身もこの刀については現段階では好意的な印象を抱いていないがだからと言って直ぐに切り捨てるのはどうかと思う。


魔王も使っていたんだし、妖刀なんて大層な名称がついているんだ、力があるという事に関しては事実なんだろう。


今後国と言う大きなものと戦う可能性が決して少なくない現状、あの子達を守るためにはこういった力を得られる機会を無下にするのは得策ではない。


もちろんおかしなものだと分かれば使用を止めることも視野に入れるのは当然として、今後のためにもとりあえずは保留にしておくべきではないだろうか。


「どうしたんだ、二人とも?」


そう結論付けて俺を探していた二人の下へと近づいて行った。







二人について行った先にはカノンとリゼルが座り込んで何やら話をしていた。

ここに来るまでにシアとエフィーから聴いた話からすると、どうやら貯まったポイントを使って何か強いスキルでも取ろうかと話したことについて真剣に話し合ってくれていたようだ。


4人で話し合った上での一応の結論のようなものは出たので俺を呼んで……ということらしい。


確認のためにもう一度議論の内容を話してもらい、俺も多少意見を言って何のスキルを取るのが良いかについて議論を詰めて行く。


そうすること数十分……



「……じゃあ、それぞれのスキルについてはこれでいいな?」

≪うむ!!議論は尽くされたのじゃ!!これが今現状我等が出せる最上の……≫

「尽くされたって……確かにこの結論に異議が無いということについては分かるですが、姉じゃ、何か意味のある発言を一度でもしましたか?」

≪な!?ファルよ、それは心外じゃ!!≫

「まあまあお二人とも……ご主人様、私はこれで大丈夫かと」

「私もこれでいいと思うよ、マスター?」

「はい、私もリゼルやエフィー、カノン同様、これで問題ないかと」

「分かった。じゃあ各々のスキルはこれで取得しておく」


一応皆の賛同を得たので議論で得た結果を下にスキルを『ステータス操作』を用いて取得することにする。



シアは『トリプルジョブ』を取得することに。

俺のスキルの恩恵から『ダブルジョブ』の効果を得ているからか、俺がこの世界に来る前に『トリプルジョブ』を取得したポイントと変わらない60ポイントで取得することができた。


俺とエフィー、そしてシアはレベルが上がったこともあって上級のジョブに転職できるようになったので、そのことも踏まえてシアには剣豪、獣狂戦士、そして竜騎士ドラグーンナイトの3つのジョブに就いてもらうことにした。


剣豪は剣を使って戦闘する剣士の上位職。

シアは戦闘のセンスも抜群で能力値も高く、『ワーウルフ』のスキルもあるので変に小細工を弄するよりも純粋にその能力を活かせる職に就いてもらった方が良い。


竜騎士ドラグーンナイトについては、簡単に言えばシアには4人の中で一人だけ移動の手段が無いのだ。

エフィーもそうじゃないか、とも思ったが、エフィーが使用する『六神人形シィドゥ・オ・ドール』の中に、サクヤのように変形するとグリフォンになる者がいたらしい。


カノンは大きくなったベルが、そしてリゼルは自分自身が竜となって飛ぶことができる。


だからシアには何か移動のための足を持ってもらいたかったのだ(俺個人としてはシアが竜に乗って戦うというのはカッコいいなぁ、という想いも無くは無かったが)。


竜騎士ドラグーンナイトは竜に乗って戦うことができるのだが、その前提として竜と心を通わせることができるようになるのだと。

何かスキルの効果なのかと思って聞いてみたら、エフィー曰く「そのようなスキルは聞いたことが有りません。恐らくジョブについたらそれに適した能力値が見えはしなくても上昇しているのと同様にジョブに就いた効果かと」とのこと。



また、サクヤやリゼルを常にドラゴン状態にさせている訳にはいかないので、シアにはワイバーンを任せることにした。

それが決まると、シアに「ワイバーンに名前を付けてもよろしいでしょうか?」と尋ねられて初めてワイバーンに名前を付けていないことに気付いてそれについてもシアに任せることにして、「ワイバーン、これからはシアと一緒に戦ってもらうことが多くなる。よろしく頼むな」と言ってその後はシアに譲った。


「……ヴィヴィアン、これからあなたはヴィヴィアンです。よろしくお願いしますね、ヴィヴィアン?」

「グヮーン!!」


うん、シアならちゃんとうまくやってくれるだろう。




エフィーについては問答無用と言うかの如く90ポイントを使って『無詠唱』を取得することになった。

詠唱時間を無くすことができる恩恵がどれほどのものかは皆が俺を見て知っているので、後衛で魔法を使うエフィーがこれを取得してくれたら戦闘中適切な指示を期待できる場面が増えるだろうし単純に考えて魔法を打てる数が増え、それはエフィーが強くなることを意味する。


ジョブに就いては魔法使い系のスキルと治癒術師系のスキルを使える賢者、それと恐らく『六神人形シィドゥ・オ・ドール』を再起動させたのでなれるようになったのだろう、機械操者マシーンマスターというジョブに就いてもらった。


エフィーでさえもどんなジョブかは分からないそうだがまあ何かしらの意味はあるんだろう。

エフィー自身も就くことについては積極的になってくれているので反対する者はいなかった。




カノンには75ポイントを用いて『消費MP1/2』を。

魔剣はあるのだがまだ使い慣れていない以上、慣れるまでは召喚主体の戦い方になるだろうし、そうなると自然MPの消費については考えなければならない。


とすると、MPの容量自体を増やすかMPの消費量を減らすかの2択になってくるわけで……


そこで後者を選んだことになる。

というのはゲームでMPを回復するポーションは「MPの3割を回復する」と「MPを30回復する」という2タイプあると思うが、この世界では後者の回復方法が多いのだ。


レベルが上がればたとえ少なくても容量を上げることについては否定できないがやはりそっちの面を考慮して、後者を選ぶことにした。



リゼルは『戟術』と『体術』をポイントを使わず習得していたので、能力や技術を上げるスキルについてはいいだろうということになり、ポイントを使って増やすことができることが分かった『特性』を取得することに。


50ポイントを消費して『雷属性』を取得してもらうことになった。

どうしてこの属性を取得したかは、俺の『雷魔法』や『氷魔法』を想像すれば分かるかと思う。

つまり『サンダードラゴン』というのがこの世界にいるかどうか定かではないのだ。

すると、特性を吸収する機会もあるかどうかわからない。


従って、リゼルにはこうしてもらった次第だ。

まあどうして『氷属性』ではないんだ、と聞かれるとこれこそ遅いか速いかの違いで、ただ単にリゼルに聞いたらこっちを選択したと言うだけだ。


またポイントを貯めたら『氷属性』についても取るだろうから特に違いがあるとは思わない。



そして最後に俺はと言うと、45ポイントで『幸運』を、30ポイントで『属性付与』を、35ポイントで『装備貫通』を取得した。



幸運:運が30上昇し、そして幸運なことが起こるようになる。


属性付与:魔法を使って装備に属性を付与することができるようになる。属性を入れ替えるには魔法を解放するか、上書きすることが必要。

スキルの使用者が魔法を使えなければこのスキルは使用することができない。


装備貫通:このスキルを使用すると、相手の装備を貫通してダメージを与えることができるようになる。



『幸運』については言わずもがな、俺だって運を上げたいと思うことはあるんだ。

決してマンガやエロゲーみたいなラッキースケベが欲しいわけでは無い。


運が有れば今後避け得る争いも避けられるかもしれない、必要なアイテム・物資も入手できるかもしれない。

助けられる人も、助けられるかもしれない。


親友だって……



いや、そういうマイナス思考はよそう。

そういうことを二度と起こしたくないという教訓からこのスキルを得ようと思ったんだから。



『属性付与』についてはシアのことを想って取ったという部分が多いな。

確かにシアの武器、魔法剣には魔法を吸収して属性とする力があるが、武器そのものの性能と言う面から見たらあまり褒められた武器とは言えない。


今迄良い武器を買ってあげられたとは言えないので、このスキルを取得すればシアだけじゃない、他の皆にも武器に属性を付与して上げられる。


しかも文言的に武器に限らず防具に付与できる可能性だってあるからこのスキルを取得する意味は大きいだろう。



『装備貫通』については今後騎士との戦闘が多くなるかもしれない中、その騎士というのは立派な鎧を着ているのがほとんどでその時に防御力の上昇率が高い防具を無視してダメージを与えられる『装備貫通』があれば大いに役立ってくれるだろうとの配慮だ。


俺のジョブについては今はどんなメリットがあるか分からない、全くの未知のジョブにつくというリスクは避けて無難なそれぞれの上位職につくことにした。

剣豪、メイジ、ビショップの3つだ。


純粋にメイジとビショップに就くメリットとしてはより強力な魔法が使える、というものだ。


まあ何か面白そうなジョブに就けることが分かったら一つをエフィーが就いた賢者にしてそれに就けばいい。



そうしてスキルについて話しあってから、午後、俺達は最後のワープ先の調査に向かうことに。


今回のメンバーは俺とシア、エフィー、リゼル、ベルの5人。


召喚できるクレイや聖獣達、サクヤは残して行っても直ぐに呼び出せるので残ってもらう。


シーナとサクヤについてはボイラーの設置も含めた風呂製作に取り組んでもらうことになるだろう。

クレイと聖獣達、そしてレンは出来ることをしてくれとは言ってあるが、恐らくまた里に行って色々としてもらうことに。


カノンはそれらを把握するために召喚を駆使してもらう。





今迄のことからして、次のワープ先も一筋縄じゃいかないかもしれない……

そう身構えて俺達が進んだ先にはなんとものんびりとした風景が待ち構えていた。


緑が生い茂っていて小鳥のさえずりなんかも聞こえてくる。

どうやら森の中のようだ。


少し探索してみてもモンスターと遭遇することもない。


肩すかしと言うか何というか……


……っと、そう思って数分の間歩いていると明らかに場違いに思える人間大をした4つの石像が置かれている開けた場所に出る。


形から何かを判断することはできなかったが、少なくともモンスターを模したものであることだけは窺えた。



≪これは……何とも怪しいのう。怪しさを素で表したかのような奴等じゃ≫

「そうですね。姉じゃですら怪しいと判断できる位に怪しい石像、です」


ほう、今回は表に出ているのは妹だし、姉も怪しいと分かっているようだ。

ふぅ、これなら今回は何か起こるようなことも……


ビービー


『しんにゅうしゃをかくにん。はいじょします』


そう告げるや否や石造の目に赤い光が灯り、石の翼を広げて石像は動き出した。


「おい、お前何をした!?」

「姉じゃ、今度は一体何を!?」

≪ぬわっ!?我は何もしておらん!!今我は表にはでておらんのじゃ!!何もしようがなかろう!!≫

「むむ!では一体何が原因で……」

「うーん、普通に感知されてしまったのではないでしょうか?とりあえずどうします、ご主人様」


エフィーが冷静に状況を判断して俺に確認を取る。


「一先ず排除するか。感知されたんなら逃がしてくれそうにはないし」

「かしこまりました。……『ワーウルフ』、発動!!」


俺とエフィーの応答を聞いてシアが一番に戦闘に出る。

スキルを発動すると、シアの周りの空気が変わったように感じ……

と思って瞬きをするかしないかの間に、シアは相手との間合いを詰めてその胴体を一刀両断にする。


剣の属性は雷のままなのに特に苦労する様子も無い辺り、本当に能力だけで圧倒しているようだ。


秒数にすると2,3秒もしないうちにシアは4体全部を切り伏せてしまった。


「ふぅ……」


シアが戻ってくる動作もまた一瞬のもので、呼吸ですら全く乱れていない。


圧巻だな……


「お疲れさん、シア。凄かったよ」

「あ、あぅ、ありがとう、ございます、ご主人様ぁ」


シアを労ってやるために撫でてやると、さっきまでは全く荒くなかったはずの呼吸がいきなり荒くなり始め、その顔も途端に真っ赤に変わって行く。


え!?やっぱり発情期だとこういうのはマズイの!?


「ス、スマンシア。少し無神経だったか」

「い、いえ……そんな、ことは」


そう答えるシアの様子はあまり正常とは言い難い。


「お疲れ様です、シアさん。……それで、ご主人様、この動く石像、私が調べてもよろしいですか?」


エフィーがそう申し出てくれるのは石像の調査の間シアを休ませようという気遣いも含まれているのだろう。


「ああ、頼む。俺とベルは周りの警戒をする。リゼルとシアはエフィーが必要になったらその手伝いを頼む」


リゼルにも休ませればシアだけが休むよりも罪悪感としては低くなるだろう。


『ああ、了解した』

「はい、分かりました」

≪うむ!!≫

「はい、ありがとう、ございます」




そうしてエフィーが調査を開始すること凡そ10分、変化があった。

エフィーから何か分かったとの申し出があったわけでは無い。


俺の『索敵』とベルの鼻に引っかかる人物が一人、現れたのだ。

その人物はどんどん俺達の下へと近づいて来る。


それを皆に告げて一時臨戦態勢を取るも、現れた理系の人が着るような白衣を纏った女性は特に気にする様子も無く、そして調べていた石像と自分が関係するという事を自ら告げる。


「ほう。私が創ったガーゴイルの石像を倒すからどんな奴かと思えば……まだかなり若いじゃないか。それにその服装からするに……騎士どもでもなさそうだな……ふむ、面白い」


そう言っても全く表情を変えることは無いその女性。


「あの、あなたは一体……」


俺がそう尋ねると今度は分かる位には驚いた顔を見せてくれる。


「ん?その言い方からすると、私のことを全く知らずにこんなところまで来たというのか?……それは

また何とも…………いいだろう、ついてきなさい。久しぶりの客だ、私の家へ案内しよう」

「え?あの、ついて来いと言われてもどこの誰か分からないような人について行くのは流石に……」

「あーっと、そうだったね、全くもってその通りだ。迂闊だったよ。……では自己紹介でもしようか。私はディール。一応Sランクの冒険者と研究者をしているよ」


アイリさんのことについてはあまり触れられませんでしたね。

代理人さんも一応Aランクです。


シアの3つ目のジョブについては賛否両論あるかもしれませんね……

すいません、個人的には主人公と同意見で、私もシアが竜に乗って戦う姿はカッコいいだろうなぁ、と思っています。


ところで、今回のお話でようやくSランクの冒険者の一人が!!


どうして孤島のワープ先がそのような場所に!?

Sランクの冒険者とは一体どのような能力の持ち主なのか!?

次話、その謎が全て明らかに!!……とはならないと思います。

すいません。



※全く話は変わるのですが、第4章が終わってしかるべき変化があったら本編のお話とは別に孤島のメンバー全員のステータスを開示したいと思っています。

『全員』というのは勿論クレイだったり、レンやサクヤ、聖獣達だったり、後はカノンの従者たちなんかについてもです。


ステータスはそれだけで紙幅をとるので、1人~3人位を本編で載せるのならまだしも、孤島にいるメンバー皆となると膨大な量となると思うのです。

そうなるとやはり見るだけで鬱陶しいとお思いになる方もいらっしゃるかと思いますので、本編とは別として位置付けて見たい方だけ見ていただけるようにすれば、ステータスですし、別に見なくても一応本編をお楽しみいただくことは可能ですし、そのような考慮から考えた次第です。


まあしかるべき変化というのは第4章の終わりには何となく分かるかと思いますし、それが何なのかは第4章の終わりには覚えていれば後書き等で申し上げますのでそうなのか程度に留めて置いていただければと思います。

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