シア……
またまた先週分です。
今週で何とか帳尻を合わせれるかもしれないので頑張ります。
では、どうぞ。
「え!?ど、どういうこと!?『ステータス鑑定(自己)』が使えないって……」
シアが自分のステータスが見えないからってことでマスターに取ってもらったスキルだってことは知ってる。
でも、それが使えないって……
「ご主人様からいただいた、とっても、とっても、大切な、スキルなのに……」
シア……
シアにとっての『ステータス鑑定(自己)』は私にとっての『モンスター言語(会話)』のようなものだ。
私はベルと話す都度このスキルを使い、マスターが助けてくれたことを思い出せる。
じゃあシアは……
一番苦しい、辛いところにいた私達をマスターが助け出してくれた、救い出してくれた、それを示す、形ある証であるスキルが、使えない……
今目の前で号泣しているシアを、マスターに会わせる顔が無いというシアをどうしておかしいと言えるか。
私だって、ベルと話せなくなったらきっとこうなる。
ベルと話せないこと自体が悲しい、辛いことなのはもちろん、マスターとの大切な思い出が無くなってしまうようで、今迄あったことが全て奪われるかのようで……
自分の両腕で自分の体を抱きしめるも体が震えてしまう。
とても……怖い。
「シアさん、落ち着いて下さい!まだスキル自体が無くなったと決まったわけではありません、使えない理由が『そもそもスキルが無くなったから』使えないのか、それとも何かしらの理由から『一時的に使用が制限されているから』使えないのかまだハッキリしていないんです、落ち込むにはまだ早いですよ!」
エフィーの言うことに私はハッとする。
そうだ、エフィーの言う通りだ。
シアが悲しんでいるのもきっとスキルを使えない、ということからスキル自体が無くなってしまったと思っているからだ。
私も使えないってことはスキルが無くなってしまったんじゃ、という先入観があったがエフィーが言うようにスキルが使えなくなるという要因は他にだって有り得る。
「エフィーの言う通りだよ、シア!まだまだ諦めるには早いよ!!」
私も自分自身を鼓舞する意味も込めてシアを元気づける。
「エフィー、カノン……」
エフィーの言う事に多少でも希望を見出してくれたのか、シアの表情にも少し元気が戻ったように見える。
「もう少し具体的に状況を把握しましょう。シアさん、『ステータス鑑定(自己)』を使えない以外に何かおかしなことはありませんか?どんな些細なことでも構いません」
「……おかしなこと、ですか……おかしなこと……」
おかしなこと、というくくりで言うと、流石に広すぎるのかな?
シアも涙を拭いながらちょっと考え込んでいるし。
「んーっと、じゃあさ、シアが『ステータス鑑定(自己)』を必要とした原因って里の何たらって儀式と関係してるんだよね?」
「……はい」
「それって結構特殊なことだと思うんだけど、今回の発情期っていうのもまたその里ならでは、つまり特殊なことなの?」
「……そんなことは、無い、と思います。狼人の女性ならこの時期には発情期を迎えるはずで、私の里でもそれは例外ではなかったはずです。実際に私もご主人様のお近くにいたりご主人様の何気ない仕草を見るだけで普段以上にドキドキして苦しくなりました」
「そうですね、仮にシアさんの里の女性がなる発情期が他の狼人の発情期と異なり、そして今回の問題の原因となるのでしたら、そもそもシアさんは『経験値蓄積』で困ってはいなかったでしょうから」
あー、なるほど。
エフィーの言う通りシアの発情期が直接的な原因でスキルが使えないんだったら『経験値蓄積』の段階で……あ!
「じゃ、じゃあさ、シア、今『ステータス鑑定(自己)』以外のスキルはどうなの!?他のスキルは使えるの!?」
「確かにそうですね……カノンさんのおっしゃるように他のスキルも使えないのか、それとも『ステータス鑑定(自己)』だけが使えないのかは重要な違いです。シアさん、どうですか?」
「……私のスキルは、使おうと思って使うスキルは『ステータス鑑定(自己)』だけですので、他のスキルがどうなのかを確信を持って言えるわけでは無いのですが……」
「はい、それでも構いません。今は少しでも考えるための情報が欲しいです、一緒に考えましょう、シアさん!」
「うん、間違ってても大丈夫、三人で一緒に考えよう、シア!!」
「二人とも……はい、本当にありがとうございます」
シアが人差し指を使って自分の涙を拭い、微笑む姿は同性である私から見ても見惚れてしまう位綺麗だった。
やっぱりシアは綺麗だな……
「……リンに戦闘を任せる前、つまり私が戦っていた時、確かにエフィーの言うように自分の能力が上がっていつもとは違うような調子になっていた感じでした。でも、その後、リンに任せていた時に軽く剣を振っていると、いつもとは違って手に馴染まないような、そんな違和感があったんです」
「それは……2本振ったのですか?」
「はい。1本振って何だかしっくりこなかったので2本振ってみましたが、どちらも普段とは違う違和感がありました」
えっと、今何でエフィーは振った剣の本数を尋ねてるんだろう?
「エフィー……ごめん、質問なんだけど、1本と2本とでどういう差があるの?」
「はい、それはシアさんのスキルでどれが機能していないのかを判断するためには必要なことなんです。今の質問ですが、シアさんのスキルで剣の技能に関わるスキルが2つあったはずです。ですよね、シアさん?」
「はい。『剣術』と『二刀流』です」
「1本振って違和感を感じた、というだけでしたら分かることは極端に少なくなりますが、それに加えて2本振って違和感を感じたのでしたら『剣術』が機能していないのは確実です」
「ですが、私がそう感じた、というだけで実際にはそんなことはないという可能性もあるのでは?」
「はい、そうですね、その可能性は否めませんので推測の域を出ないというのは確かです。ただ、この推測を進めて行くと先ほど申した説明と整合性が取れるのです」
「え!?どういうこと?」
「『ステータス鑑定(自己)』だけが使用できないのだとすると、シアさんが受けられた儀式の影響を疑うところですが、それ以外にも機能していないスキルがあるのであれば『ステータス鑑定(自己)』を特別視するよりかはスキル全体に影響があることだと考えた方が妥当なんです。シアさん、『身体能力小上昇』もお持ちでしたよね、何か身体能力に違和感は?」
「うーん……それが申しわけないことに、身体的な運動能力にはあの前後で変わりがない、いや、むしろそっちの調子はいい方かと」
シアは本当に申し訳なさそうにそう告げる。
うーん、体に違和感が無いのは本来ならいいことなんだけどなぁ、でも殊今回に限っては違和感があった方が説明がしやすいんだけど……
ほら、エフィーも考え込んじゃってるし。
「……いえ、まだそのことに関しても説明が可能です。『身体能力小上昇』、上昇するのは『小』ですから、レベルが2、3上がれば違和感が無くなるほどに能力値も上昇します」
「え?でも、シアのレベルって……あ!!そっか!!」
「はい、カノンさんも気づかれたようですね。『経験値蓄積』すらも機能していない、そう考えるとシアさんのレベルが上がることもあり得ますし、『ステータス鑑定(自己)』が無くなっていないで、且つ制限されている状態だ、という仮説が立ちます」
「となると、全部のスキルが制限されていることに……」
「はい、そう考えることで一番最初にカノンさんにおっしゃっていただいた、シアさんの戦闘が凄かったのは単なるレベルアップなだけだ、という可能性も排除できます。とすると……シアさんが何かしらのスキルを取得、あるいはセカンドジョブの獣狂戦士が影響しているとして、そのどちらにしても、効果としてはドーピングみたいなもので、シアさんはパワーアップした反動として一時的にスキルの使用を制限されている。……どうでしょう、この説明は?」
……私はこれが正解だと思う。
この説明だと、エフィーが本当に最初に言っていた『私は一過性のものではないかと考えているんですが……』ということとも合致する。
……凄い。
エフィーはやっぱり凄いや。
私よりも年下なのに、私よりも遥かに多くのことを知っていて、色んなことに気付く。
最近は精神面でもとっても強くなってて、どっちが年上か分からなくなる位だ。
それでいてエフィーの笑顔は本当に可愛らしいからギャップもある。
……私って、何なんだろう。
シアみたいに強くないし、エフィーみたいに賢くもない。
容姿だって……
今のこれだって実質シアが状況を話して、エフィーが全て考えたようなもの。
私は何にもできなかった。
私はいらなかったんじゃないだろうか。
みんなで助け合って、協力し合ってマスターの役に立とうってことなのに、私はその前段階ですら足を引っ張っている。
こんなことで、マスターの役に立てるはずがない。
それどころか、マスターの役に立とうとするシアやエフィーの邪魔すらしかねない。
ダ、ダメだ。
考えれば考える程情けなくって、涙が出てくる。
シアを励まさなければいけないのに、私が泣いていちゃ……
「……さん、カノンさん!!」
エフィーが目の前でぴょこぴょこと跳ねて私の前で手を振っている。
「ゴ、ゴメンね」
「……カノンさん、大丈夫ですか?」
「カノン……カノンも悩み事、ですか?」
エフィーだけでなくシアにまで気を遣わせてしまった。
こんなんだから私は……
「う、ううん!大丈夫!ちょっとボーっとしてて」
「……カノンさん、大丈夫そうなお顔をしてませんでしたよ?カノンさんも何かあるんでしたら、お話してくれませんか?私はカノンさんの力にもなりたいです」
「そうですよ、カノンが私の困り事に一緒に悩んでくれたように私もカノンの困り事に一緒に悩みたいです」
「エフィー、シア……」
こんな私に、二人とも……ありがとう。
「ゴ、ゴメンね、二人とも、折角シアの話で目途が立ってきたところで」
「私こそ、すいません、自分のことばかりで、カノンのことを気にかけてあげられなくて」
「そ、そんなことないって!私だってシアと同じ状況になったら絶対そうなるもん!」
「確かにそうですね。私も多分シアさんと同じように頭が真っ白になると思います。……それで、カノンさんの悩み事と言うのは?」
「そ、その、大したことじゃないよ?……ただ、さっきエフィーの説明を聴いて、凄いなぁ、って思ったり、私って何の役にも立ってないなぁって思ったら、さ……何もできない自分が、とっても、情けなくって」
「カノン……」
「カノンさん……」
「ね、ねっ!?シアの悩みに比べたら全然大したことじゃないでしょ!?ほ、ほらっ、折角シアの悩みの……」
「カノン、私達は独りではありません」
「……へ?」
「カノンさん、私は回復魔法、攻撃魔法、補助魔法、後使う機会は少ないですが弓も使います。それでも、この全てが前衛の方がいないと基本成り立ちません。いつも叶わないこととは思いながらも自分の体を使ってご主人様をお守りできる前衛の方々をどれだけ羨んでいることか」
「エフィー……」
「確かにエフィーの言う通り剣を使ってご主人様をお守りできる、というのは代え難いことです。ですが私は削られたHPを自分で回復する手立てを持ちません。無い物ねだりだと分かっていても回復魔法を使えるエフィーを私だって羨ましく思うばかりです」
「シア……」
二人とも私を励ますために嘘をついている、というわけではなく本当にそう思っているらしい。
「それだけじゃありませんよ、カノンさんの召喚、とっても羨ましいです!」
「そうです、召喚だけじゃありません、モンスター達と会話できるのだってものすごいアドバンテージじゃありませんか、カノン!」
「え!?ま、まあ、そりゃ……」
「カノンさんにはカノンさんにしかできないことが有るんです。私とシアさんにはモンスターの動作を見ること以外にコミュニケーションをとることができません」
「……カノンがベルと話すことが出来なければ、私達はご主人様に何かおありになった際に、それを知るすべがないんですよ」
「…………」
「私達はそれぞれできることと、できないことがあるんです。私だって努力を怠るわけではありませんが、頭でエフィーに敵うとは思っていません。私には私の、カノンにはカノンのできることをすればいいんです」
「シア……うん」
「カノンさん、今回のことでもカノンさんの働きは十二分なものだったと思います。私だって一人で何もかも考えられるわけではありません。カノンさんが疑問をあげて下さらなければ、本当に自分の考えたことが正しいかどうかを検討する機会が無いんです。そう言う意味では分からないことや疑問があった際におっしゃっていただけるのはとても意味のあることなんですよ?だから、これからも、カノンさんにしかできないことで、私達に力を貸してください」
「エフィー……うん、ありがとう、二人とも。もう、大丈夫だよ」
本当に、ありがとう……
「それは良かった」
「はい。……それで、どうしましょうか。私自身は先ほどお話した仮説は結構自信があるんですが」
私のせいで脱線させていた元の話に戻る。
「そうだね、結局はそこだよ。無くなったわけでは無いんだったら一先ず安心ちゃあ安心だけど、それがいつ治るのかってのは分からないんだし……」
「うーん、発情期が過ぎるのを待ってどうなるかを見ればもっと条件を絞れるのですが……」
「……ご主人様に、お話しようかと、思います」
「え?」
「シアさん?」
「ご主人様が『鑑定』をお持ちである以上遅かれ早かれ分かることです。であれば早いうちにご主人様にお話ししておく方が良いでしょう。それに……」
シアはニコッと微笑んで私達を見る。
ああ、笑顔が眩しい!
「二人が私のために頑張って考え出してくれたことを私は信じています。ご主人様にいただいたスキルが消えていないのであれば、私は何も恐れずご主人様とお会いできます」
「シアさん……分かりました。私も同席します」
「わ、私も一緒にいるよ!三人で行けばシアも心強いでしょ?」
「エフィー、カノン……はい、ありがとうございます」
優しい笑みを浮かべるシアと共に、私とエフィーはマスターの下へと向かうのだった。
===== カノン視点終了 =====
うーむ、微妙だな。
自分で作っといてなんだがあまりおいしいとは言えない。
口に運ぶ途中で手を止めて作った簡単なサンドイッチを見てみる。
形自体は別に不格好と言うわけでは無い。
食材が良くないのだ。
あまり贅沢は言うまいが、元の世界のような、新鮮な野菜や肉を使って調理できるわけではないのだから自然こうなるんだよ。
作るものがサンドイッチなら尚更手を加える部分が少ない分その出来栄えは食材の良し悪しに依拠するわけで。
こっちが正しいのであって、同じ食材を使ってどうやったらそんな魔界のマグマみたいなものができるんだよと言うようなヒロインや、ちゃっかり料理上手とかいう男の主人公がおかしいのだ。
男の主人公なんて大抵イケメンであって料理なんてできなくても結局はモテんだよ。
なのにああいうことされると料理できる男はモテる、なんて変な誤解する奴が増えてしまう。
考えてもみろ、どれだけ料理上手でもそれを作るのが不細工だったり油ギッシュなデブ・ハゲだったらそんなもん食いたいか?
後者は分かるが前者は別に……なんて甘い考えも捨てた方が良い。
女子共は結局は顔で判断する生き物なのだ……
どうして調理実習で卵を割るだけでサルモネラ菌と同じくらい警戒されないといけないんだ!?
イケメンサッカー部の渡辺の野郎は卵の殻取る時指入ってたのに何にも言われなかったじゃねえか!!
加熱処理をした後でも警戒される辺り俺は菌よりも危険視されているのかよ!!
後、食べないでも別に文句は言わないが他班にそれを持って行って「おすそ分け~、発酵させたらいい味出すから食べてみなよ」って言うの、やめろ!
それどこの納豆かチーズかワインだよ!
はぁ……結局得をするのはいつもイケメンでそれ以外は大小差はあるだろうが苦労をすることになるんだ。
今に始まったことではないが世の中理不尽なもんだ……
ガチャリ
ん?
静かな建物内に入り口の開く音が響く。
フェリアとリンは中で作業しているからエフィー達か?
俺は食べかけのサンドイッチを持ったまま入り口を目指す。
「おう、シア、エフィー、カノン、お帰り」
「あ、ご主人様……」
先頭にいたシアと目が合う。
ふむ、やはりパーティー機能や推測を働かせるよりは実際に目で見た方が確実だな。
「もう用事はいいのか、3人とも?」
「は、はい」
ふむ、何かしらの問題も3人で解決したのかもしれない。
とりあえずは何をしていたのか、というのは詮索しないでおこう。
あまり束縛するのは色んな面での阻害が働く。
自由にさせてやれるところは自由にさせてやろう。
「じゃあもう遅いから、何もないんだったら早く寝て……」
「あの、ご主人様……」
「ん?どうした、シア」
「ご主人様に、お話しなければならないことが、あります」
緊張した面持ちでそう告げるシア。
ん?何だろう……ちょっと怖いな。
後ろにいるエフィーとカノンもちょっと顔が強張ってるし。
「そうか。それは……」
「その、ね、帰ってくる前に話してたシアの戦闘や、スキルと関わる話なんだ」
カノンが恐る恐ると言ったふうに前に進みでる。
ああ、さっきの。
そう言えばシアのスキルを確認するって言っておいてまだできてなかったな。
帰ってきてシアと遭遇したのはこれが最初だから当たり前なんだが。
「ああ、あれか。……シアのスキルは確認した方が良いのか?」
そう言った時、生唾を飲み込む音が聞こえ、3人の顔がさらに強張るのが窺えた。
……もしかして、3人が話していたことはこれか?
シアには『ステータス鑑定(自己)』があるのに俺にこういう話をしに来るのだから、それ相応の問題があったのかもしれない。
どんな問題なのかはまだよく分からんが3人の様子からするとシアと関連している、ということだけは確からしい。
「……はい、お願いします」
しばしの沈黙の後、シアの返答を得られたので俺は『鑑定』を使うことにする。
名前:シア
人種:獣人族(狼)
身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト
職業:1.剣士 2.獣狂戦士
性別:女
年齢:15歳
Lv45 状態異常:スキルキャンセル
HP:234/204(+30)
MP:75/58(+17)
STR(筋力):102(+24)
DEF(防御力):60(+18)
INT(賢さ):28(+15)
AGI(素早さ):88(+23)
LUK(運):21(+5)
『経験値蓄積』、『ステータス鑑定(自己)』、『剣術』、『身体能力小上昇』、『二刀流』、『ワーウルフ』
スキルポイント:109
……!?
シアが“スキルキャンセル”に罹患している!?
シアのレベルが上がっていることや話していた通り新たなスキルを持っていたこと以上に俺にはそこが衝撃的だった。
こ、これは……
「ご主人様、いかがでしたか?」
エフィーが俺の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「あ、ああ。……3人とも、驚かずに聞いてくれ。シアは確かにスキルを一つ、習得していたが……どういうわけか“スキルキャンセル”に罹患していた」
「“スキルキャンセル”……なるほど、何かしらの制御がかかっているとは思っていましたが“スキルキャンセル”でしたか。でもこれで……」
「凄い、凄い、エフィー凄い!!」
「やっぱりエフィーの言う通りでした!!」
「お、お二人とも、く、苦しいです……」
な、何だ!?
シアとカノンが驚喜してエフィーに抱き着く。
“スキルキャンセル”と聞いてもしかしたら驚いたり落ち込んだりするかもと思ったんだが予想に反した反応だった。
3人を見るなり、ある程度は予想できていたのかな?
それに今思えば“スキルキャンセル”と言っても俺達の中じゃあまり難病だという認識も無いか。
エリクサーが無くても、俺か、若しくはユーリが回復魔法をかければ治るんだもんな。
……そうか、まあ大事じゃなくて良かった。
とりあえず俺はシアが習得したスキルというのを鑑定してみることにする。
ワーウルフ:獣狂戦士を極めた歴戦の猛者のみが習得できるスキル。発動すると、レベル×6秒だけHP・MP・運を除くステータスが3倍になる。『バーサク』状態若しくは極度の精神不安状態に陥ると自動発動する。発動終了後は『スキルキャンセル』状態に陥り、540÷レベルの時間経つと治癒する。
これは、何とも……
俺は未だに喜び合っている3人に鑑定結果を告げる。
「ということは……あの時の戦闘ではスキルを習得した直後、発情期がきっかけで自動発動してしまったのでしょう」
「は、発情期!?え、誰が……」
そんな情報は俺には無かったので驚いて声を上げる。
「そ、その…………私、です、ご主人様」
シアが恥じらい、モジモジしながら消え入りそうな声で手を挙げる。
その顔は発情期ということでなのか、熟したリンゴのように真っ赤だ。
お、おう……シアか……
「ってことはシアは今も……」
「い、いえ、違います!!わ、私は別にご主人様のお声を聞くだけでエッチな気持ちになったりなどしていませんし、ご主人様の匂いを嗅ぐだけでクラクラしたりだなんて……」
「シア……自分から墓穴掘ってる」
「シアさんにしては珍しいですね……」
こういう場合、俺はどうすればいいんだ……
「ん、んん。……とりあえずだな、今日はもう遅いから、また明日にしよう。一応回復魔法でスキルキャンセルを解けるかどうかだけは確認しとくか」
一先ず俺は流すことにして回復魔法をシアにかけてやる。
「ん……あぁ…んぅ…ご主人、様ぁ」
敏感なのかは分からんが回復魔法かけてるだけなんだから色っぽい声を出すのは勘弁して欲しいんだが……
ステータスはっと……うん、治ってる。
「じゃあ、また明日……」
ぐぅ~
盛大にお腹の鳴る音がする。
「ゴ、ゴメン……私、お腹、すいちゃって」
カノンがさっきのシアのようにまた恥ずかしそうに手を挙げる。
「すいません……帰って早々カノンさんを引っ張って連れて行ってしまったので」
「いやいや、全然問題ないって!リゼル達みたいに寝ちゃえば朝まで持つし、それに……」
ぐぅ~
またもや腹が鳴る。
カノンは顔を赤らめて大合唱を奏でる腹を両手で抑える。
「……う、うぅ、恥ずかしいよぉ……」
お腹が減っているんなら別に気にしなくても……
あ……
「腹が減ってるんなら、さっき俺が作ったサンドイッチの食べかけがあるんだが、いるか?」
そう言って話す間おいておいたサンドイッチを手に取る。
「マ、マスターのご飯の……食べ、かけ……」
「ご、ご主人様が、口をお付けになった……」
カノンとシアが唾を飲み込む音が聞こえた。
「ご主人様、実は私もお腹が空いていたのでそれは私がいただこうかと……」
「ちょ、ちょっとエフィー、抜け駆けはズルいです!!ご主人様、私も実は……」
「ふ、二人とも、ズルいよ、それはマスターが私にって……す、捨てるのも勿体ないし、しょ、しょうがないからやっぱり私が……」
おおう、自分で言っといてなんだが3人の食いつき様が凄い。
ようやくノリが分かるようになってきたのかもしれん。
そこまで言うなら俺も満を持して……
「そうか、3人ともか。まあ俺が口をつけたやつは流石に嫌だろう。また新しいの作るよ、待ってろ」
そう言って俺は食べかけのサンドイッチを口に放り込み簡易台所へと向かう。
孤島の皆は俺が作った料理でも食べてくれる数少ない味方だ。
「「「あ~」」」
後ろから3人の残念そうな声が聞こえたような気がしたが、きっと楽しみに待ってくれているんだろう。
ふっ、腕が鳴るぜ……って俺はそんなキャラじゃないか。
その後、3人分のサンドイッチを作って持って行くと、3人ともちゃんと食べてはくれたものの、何とも言えない顔をしていた。
やはり食材に問題があるのかもなぁ……
次の日の朝、食事の際にリンとフェリアは徹夜して風呂製作に凝っていたようでまだ起きてこなかったので他の起きているもの達だけで朝食を取った後各自の報告をすることになったのだが、シア達の報告が終わって、ようやく昨日の全体像が把握できた。
『ワーウルフ』のスキルも、本来なら諸刃の剣のような内容となっているんだが俺かユーリがいれば制限なんて無いに等しい。
実質『ワーウルフ』使ったらシアを誰か止められるのだろうか?
俺は自信ないなぁ。
クレイでも難しいかもしれない。
シアはやっぱり凄いなぁ……
俺達の報告も終わって、最後にレンとサクヤの報告になったのだがどうもレンがムスッとしている。
「レン、どうしたんだ?食事の時からあんまり機嫌が良くなさそうだが……俺の布団、寝辛かったか?あっ、やっぱり男の布団だと臭いとか……」
「……ふんだ、お兄ちゃんの布団はとってもいい匂いしててぐっすり眠れたもん!」
「そ、そうか、なら何を……」
「……どうせ、ボクはお兄ちゃんの奴隷だから、我儘なんて言わないもん!起きた時にお兄ちゃんの部屋だったのに隣にお兄ちゃんが一緒に寝てくれてなくても寂しくなんかなかったもん!ふん!!」
……え?そんなことで!?
「で、でもな、レンが寝てるんだから、俺は他のところで寝ないといけなかったからさ……」
「ふん!!」
……はぁ。
ダメだこりゃ。
「……悪かった。今度俺の部屋で寝るときは一緒にいてやるから、な?」
そう言ってやるとレンはちゃんと反応してくれる。
「…………本当?手、繋いでくれる?」
「ああ、約束だ」
「…………うん、ありがとう!お兄ちゃん」
まあそうだよな、レン位の年だと寂しくもなるか。
できるだけ傍にいてやれるようにしないといけないかなぁ……
そうして機嫌が直ったレンから報告された事は、俺達を驚かせるのに十分以上な内容であった。
「うーんとねぇ、外に行って分かった情報はいろいろあったけんだけど……先ず、イフリートの何たらっていう七大クランの団長さん?が替わったんだって」
※イケメンサッカー部の渡辺さん、本当にいらしたら申しわけありません。
シアはまだまだ発情期真っ盛りです(笑)。
レンは情報収集に出といて何でそこがハッキリしないんだよ!とも思うでしょうが山奥の奥の奥にいた天使ですしね……




