ふぅ、疲れた……
遅ればせながら先週分です。
何とか帳尻を合わせることができないか奮闘中です。
一先ずは先週分をどうぞ。
今俺達は正規のルートを使わずに入手したキーアイテムを用いて、周りが照らされている魔窟内を歩いている。
行きよりも人数が増えたのは前回と同じだが今回は召喚も使ってるからな。
今回も疲れたという事に変わりはないが、色々収穫があったのもまた事実。
魔王について少し知れたし、戦力面でもかなりの強化がはかれた。
ベルが強くなったのはとても喜ばしいことだ。
カノンが影術や召喚に集中できることはもちろん、あの大きさならベルに乗って移動することだってできる。
夢が広がっていいじゃないか。
魔剣を使いこなせるようになればベルに乗って戦ってもらうことも……いやそれは流石に早計か。
それと、もう一体……
後ろを浮遊してついて来ているバグ野郎に視線を向ける。
すると、あれこれと今後のことについてジョーカーに説明しているカノンが視界に入ってくる。
ベルやジョーカーについてはもちろん頼もしいんだが一番頼もしいのはこの状況下ではカノンだろう。
ベルはまあ当たり前だとしても、カノンはあのジョーカーとコミュニケーションを取っているのだ。
さっき戦っていた時は真っ青な顔をしていたのに……
カノンは仲間になっちゃったらもう何でも大丈夫なのかな?
ゾンビムカデの時もそうだったし、細かなことは気にしない性格なのかもしれない。
……とは言ったものの、ジョーカーを細かいこととして割り切ってしまっていいものだろうか?
おどろおどろしい雰囲気・オーラはもちろんのこと、そのステータスがジョーカーをただならぬ存在であることを裏付けるものとなっている。
名前:ジョーカー
職業:死淵の魔窟の主
年齢:????
Lv120
HP:3600/3600
MP:8000/8000
STR(筋力):218
DEF(防御力):188
INT(賢さ):288
AGI(素早さ):201
LUK(運):2
『鎌術』、『闇魔法』、『MP回復速度3倍』、『物理ダメージ無効』、『ブレス吸収』、『のけ反り半減』、『魂狩』、『魂蘇』、『魂保管23639』、『死圧』、『破滅への足音』
魂狩:固有スキル。自分より“レベル”且つ“HP・MPを除く能力値の総和”が低い相手の魂を鎌で刈り取る。魂を刈り取られたものは残りのHPに関わらず即死する。
魂保管X:固有スキル。魂狩で刈り取った魂を保管しておくことができる。Xは保管した魂の総数を表す。
魂蘇:固有スキル。HPが0になると発動する。保管してある魂を1消費して蘇生する。
運のことも合わせて、戦闘中に覗いてしまった時はあまりのとんでもさに挫けそうになったが……
まあ今となってはその能力が俺達のものとなったのだ。
フッフッフ、どうせ死なないんだ、死ぬまでこき使って……ん、んん。
それにしても本当によく勝てたなぁ。
レベルなんて3倍近く離れてたのに。
ダークドラゴンのお母さんとウォリア・ドラゴンの協力のおかげだ。
犠牲なくジョーカーと契約できたんだからやっぱり今回の探索は大きな成果だと思う。
殺しても死なない相手なんて本当に……あれ?ちょっと待てよ……
ジョーカーってMP容量いっぱいあるよね?多分俺達の中でも群を抜いている。
そして、確かカノンが契約した魔剣の能力って……
魔剣オルフェス:『魔族』のみが扱える魔剣。切った相手のHP・MPを奪う。
これさぁ、カノンがMPに困ったら魔剣出してジョーカー切ればいいんじゃね?
それでスケルトンを蘇生させて、で、また困ったらジョーカー切ってMP補給。
うわっ、これ最強ループじゃん!!
……って一瞬思ったがよくよく考えてみるとスケルトンを何度も戦わせるのとジョーカーを戦わせるのってどっちの方が燃費としてはいいんだろう?
どっちにしても死なないモンスターを戦闘させることを前提としているんだから、効率のいい方で戦わせた方がお得だ。
うーん、普通にジョーカー1体で戦わせた方がいい気もするなぁ……
折角の閃きだったがまあそれはおいおいカノン自身が色々と試行錯誤してくれるか。
それに魔剣はただMPを奪うだけではなく『剣』として扱うのがそもそもの機能なんだから、カノンに使ってもらうためにも『剣術』を取得させておこう。
丁度俺もレベルが上がっていたからステータスを一度整理しておくか。
名前:カイト・タニモト
種族:人族
身分:冒険者 所有者(奴隷:シア エフィー カノン・ファーミュラス リゼル シーナ ヨウ・スイレン)
性別:男
職業:1.剣士 2.魔導師 3.クレリック
年齢:16歳
Lv.50
HP:209/179(+30)
MP:244/199(+45)
STR(筋力):83(+30)
DEF(防御力):70(+32)
INT(賢さ):75(+34)
AGI(素早さ):69(+37)
LUK(運):1(+5)
『能力値中上昇』、『異世界言語(会話)』、『異世界言語(筆記)』、
『生活魔法』、『剣術』、『ステータス操作』、『全魔法素質解放』、
『無詠唱』、『鑑定』、『偽装』、『レベルアップ時ボーナス』、
『パーティ恩恵(リーダー)+α』、『パーティ恩恵(メンバー)』、
『火魔法』、『水魔法』、『土魔法』、『風魔法』、『治癒魔法』、
『職業操作』、『隠密』、『経験値解放』、『氷魔法』、『雷魔法』、
『契約恩恵(主人)』、『契約恩恵(従者)』、『闇魔法』、
『索敵』、『古魔法』
スキルポイント:122
名前:カノン・ファーミュラス
人種:魔族(サキュバス)
身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト
職業:1.影使い 2.戦士
性別:女
年齢:14歳
Lv.41
HP:180/158(+22)
MP:237/197(+40)
STR(筋力):59(+17)
DEF(防御力):53(+17)
INT(賢さ):60(+17)
AGI(素早さ):55(+17)
LUK(運):21(+5)
『闇魔法』、『魅了』、『モンスター言語(会話)』、『MP中上昇』、『剣術』
スキルポイント:110
名前:リゼル (リーゼ ファル)
人種:天竜族(竜人)
身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト
職業:1.戦士 2.格闘家
性別:女
年齢:18歳
Lv43
HP:225/199(+26)
MP:92/76(+16)
STR(筋力):98(+21)
DEF(防御力):75(+18)
INT(賢さ):41(+15)
AGI(素早さ):76(+18)
LUK(運):21(+5)
『変身(竜)』、『解除(竜)』、『特性吸収(竜)』、『竜技』、『物理ダメージ小減少』、『水属性耐性』、『特性転用(5)』、『念話』
スキルポイント74
一気にレベルが上がったが、HPを削らずに倒しただけでこの上昇率か。
実際にジョーカーを倒せたら一体どれだけのレベルが……いや、普通に戦ってジョーカーを倒すというのは非現実的な話だ。
仲間になってくれた今、生産性の無い思考は止めておこう。
うーむ、スキルポイントが貯まってきたな。
一人1つ位は強いスキルを取れそうだから、また時間を取って何を取るか話し合うか。
「どう、マスター?強くなってた?」
どうやらジョーカーとの話は済んだようだ。
いつもステータスをいじる際は顎に手をあてて考え込む素振りをしている、と以前シアとエフィーにも言われたことが有るのでそこで気づいたのかな、カノンが話しかけてくる。
「ああ、シアとエフィーについては後で確かめるしかないが、少なくともカノンとリゼルはかなり強くなってるな」
「そう?良かったぁ……これでもっとマスターの力になれる……多分シアもエフィーも大丈夫だと思うよ、ね、ユーリ?」
何かを呟いた後、控えめに後ろで歩いているユーリに尋ねる。
「はい、そうですね……エフィー姉様もお強くなられていましたが、特にシアさんの鬼気迫る戦闘は圧巻でした」
「そうだよねぇ……シア、物凄い速さになって敵を切って行くんだもん、やっぱり凄いなぁ」
俺が呼ぶまで皆でレベル上げをしていてもらったが、やはりシアが凄かったらしい。
魔法剣を雷の属性にしていてもレベル差があったから少しだけ心配していたがどうやら杞憂だったようだ。
「ただ……あれはいきなり変わり過ぎではなかったでしょうか?シアさんはそのようなスキルをお持ちだったんですかね?」
ユーリは顎に人差し指を当てて疑問符を浮かべる。
「え?そう?んー、私はあんまり深くは考えなかったけど、そう言われてみると……そうだったような、そうでなかったような」
ユーリの疑問に対するカノンの答えは何とも頼りがいの無いものだ。
うーん、どうやらユーリはシアが凄かった理由を具体的な何かだと考えていて、カノンはただ調子が良かった、位の抽象的なものだと思っているようだ。
その場にいなかった俺としては何も言えないが、ユーリの言うように何かしら原因があるのならスキルでも取得したんじゃないか?
普通はレベルが上がった際に得られるスキルポイントで俺達はスキルを取得するわけだが、取得方法がそれに限られるわけでは無い。
シアが自分の力でスキルを得られたのだとしたら、それは喜ばしいことじゃないか。
後でシアと会ったら鑑定で確認でもしとくか。
その後1時間程かけて来た道を戻り、孤島へと帰ってきたときには既に辺りは真っ暗だった。
「…………(うとうと)…………」
「クレイさん、しっかり、後ちょっとで寝床、です」
クレイは最早ダウン寸前でリゼルが支えなければその場で寝てしまいそうな勢いだ。
≪ファルよ……我は、もう、ここまでのよう、じゃ……長い間、世話になったな、後は……任せた、ぞ≫
「姉じゃも意味の分からない小芝居はいいですから、頑張って下さい。姉じゃの眠気も私に影響する、です。ほら、しっかり」
ちゃっかり姉もダウン寸前だったようだ。
「あ!ご主人様、皆さん!!お疲れ様です」
「お帰りなサイマセ、ご主人サマ、皆サン!!」
エフィーとサクヤが駆け寄ってきて俺達の帰りを出迎えてくれる。
「すいませんご主人様。……ちょっとカノンさん、いいですか?こっちへ……」
「え!?エフィー、ちょ、ちょっと……」
お出迎え早々エフィーは俺に断りを入れてカノンを引っ張ってどこかへと連れて行ってしまう。
何か問題があったのだろうか?
ベルもついていこうとするがカノンに「大丈夫、ベルはもう休んで」と言われ、ジョーカーを従えて歩いて行った。
うーん、どうしたんだろう……
まあ俺に伝えるべきことだったら俺に言うか。
カノンを呼んだ辺り、俺に言い辛いこと……ん?
エフィーがカノンを連れて行った先を注視してみると、シア……らしき人物が木に身を隠してこちらの様子を窺っている。
多分……シアだと思う。
如何せん暗いからな……一応パーティー機能、それとエフィーがカノンを呼んだということと併せて考えたらこの場にいないシアだと思うんだが……
ただ、シアだとするとどうして隠れているのかっていうのが気になる。
シアなら一緒に出迎えてくれそうなもんなんだが……
シアだと思われる人影がビクッと体を振るわせて木の後ろに消えてしまった。
何だろう……よく分からん。
先日の調子の悪そうなシアの様子も重なって気にはなるが、まあそれも含めて今はエフィーとカノンに任せるか。
「エフィーさん、どうしたんでショウ……」
「まあ何かあるにしても今はエフィーに任せよう。サクヤ、他のメンバーは?」
「あ、ハイ!リンさんとフェリアさんはご飯の後、お二人でお風呂の製作に」
「え?風呂って……」
「造り方を説明シマシタラ、簡単な部分だったら自分達でもデキル、とお二人で」
聖獣なんて高貴な存在なんだし基本頭はいいのかもしれない。
けどさぁ、簡単な部分だったらできるって……
「そ、そうか。他は?」
「レンさんは最後までご主人サマのお帰りを待っているとおっしゃっていマシたが……ずっとうとうとされていたので若しかシタラ眠られたのかもシレマセン。シーナさんは一緒にお待ちになっていたと思いマスので、レンさんをお部屋に運ばれたんじゃナイでしょうか?」
成程……
遅くなってしまったからな、こんな暗い時間だ、レン位の年だと起きているのは辛いだろう。
「…………(こくっ……こくっ)…………」
≪……主殿ぉ……我は……我は……≫
「クレイさん、姉じゃ、部屋に戻って寝て下さい」
……こっちにもそんな精神年齢を備えた人物がいたようだ。
で、後はシアだが……まあ今の話で出てこない辺りやっぱりさっきのはシアで間違いないようだ。
「分かった。レンについては後で部屋に戻って確認しとくよ。……ほらっ、もう遅いから早く部屋に戻って寝ろ、二人とも」
「……んー、カイト、お休みー」
「ああ、お休み」
クレイはその細い体をよろけさせながら寝床へと向かっていく。
ユーリがその体を支えるように下から持ち上げて、共に歩いて行く。
……大丈夫か?
「申し訳ありません、主様。全く、姉じゃは最後まで……」
「いや、気にすんな、リゼルもお疲れさん」
「はい、ありがとうございます」
リゼルはクレイよりはしっかりとした足取りをしているがこちらも眠たそうだ。
妹はまだ大丈夫そうだったんだが、姉の眠気が妹に移るってどういう感覚なんだろうな……
「サクヤもこんな時間までお疲れさん」
「あ、ありがとうゴザイマス。私は機械デスから眠気についてはあまり強めに設定されていないのデスが……ご主人サマに労っていただけるなんて……とっても嬉シイデス」
「そうか、まあ一先ず今日も色々とあったから皆疲れていると思うし、各自の報告は明日にしよう」
「ハイ」
その後建物の中でサクヤと別れて自分の部屋に入る。
「……んにゅ、うみゅー……お兄ちゃん……大好き……」
「んー、どうしよう……え!?あっ、カイト様!」
中には俺の簡易ベッドに上体を預けて眠っているレンとそれをどうするかで困った様子のシーナが。
俺は声を小さく抑え、出迎えてくれるシーナに挨拶する。
「ただいま、シーナ。レンは……」
「はい、レンちゃんは……カイト様のお帰りをずっとここで待っていたんですが、2時間位前に眠っちゃって。レンちゃんの部屋に運ぼうかと思ったんですがお布団から離れなくって」
レンの方を見ると本当にガシッと俺の簡易ベッドにしがみ付いている。
シーナが試しにそおっと引きはがそうとしてみるが両手以外が宙に浮いた状態になっても離れはしない。
「シーナ、もういいよ。寝かせといてやれ」
「いいのですか?」
「ああ。シーナもお疲れさん。ゆっくり休んでくれ」
「……はい、分かりました。お休みなさい、カイト様」
「ああ、お休み」
シーナは一礼して部屋を出て行く。
その後、残された俺と可愛らしい寝顔を浮かべているレン。
試しにレンの体をゆっくりと抱き上げてみる。
今度はシーナの時と違ってレンの手は抵抗なく離れる。
おい……本当にコイツ寝てんのか?
この流れのままレンの部屋に連れて行ってやってもいいが本当に寝ている場合には起こしてしまうかもしれない。
そうなるのは忍びないので俺のベッドに寝かせて布団をかけてやる。
「……お兄、ちゃん……うんにゅ……いやん、ダメ、だよ……兄妹で、こんな……うみゅ」
何の夢を見てるんだコイツは。
とりあえずレンが俺のベッドにいるわけだから俺は自分の寝床を確保しないといけない訳だ。
どこでも寝れるっちゃあ寝れるが…………お腹すいたな。とりあえず何か食べよう。
===== カノン視点 =====
「ちょ、ちょっと、エフィー、帰って早々どうしたのさ!?……って、あれ、シア?」
「エフィー、カノン……」
エフィーに引っ張られて連れて行かれた先にはひっそりと木に隠れているシアが。
「ここまでくれば……ご主人様もいらっしゃいませんし。いいですね、シアさん?」
「はい。……すいません、二人とも」
「いえ、シアさんがお困りなんですから、協力するのは当然です」
……んーっと、状況を察するに何かシアに困りごとが有って私にも相談したいってこと、かな?
エフィーがわざわざ私をこっちに連れてきたってことはマスターに聞かせ辛い話なんだよね。
そうだったら……エフィーの言う通り力になってあげたいなぁ。
シアだって私達の大切な仲間だもん。
こうやって頼り合うって、頼られる私としても嬉しいし、一緒に解決に向かって努力できるんだもん、その人が大切な人だったらそりゃその人の力になりたいよ。
マスター……
「そうだよ、全然問題ないよ、シア。こうやって頼ってくれるのは嬉しいし」
「はい。こうやって私達の間で出来る範囲ででも未然に問題を解決しておくのは重要なことですから」
「で、何があったの?シアが困り事って……何かよっぽどのことだよね?」
さっきからふさぎがちなシアを見るとどんな話が出てくるのか……ちょっと怖いなぁ。
「……うーん、私は一過性のものではないかと考えているんですが……」
エフィーは何とも言えないような難しい表情でそう告げる。
エフィーがそう思うんならそうなんじゃないの……って、それで済むんならわざわざ私を呼んでこういう話をするわけない、か。
少なくともシアは困ってるわけだし……
「……もう、私、ご主人様にどんな顔をしてお会いすればいいか分からないです!!」
「え!?ちょ、ちょっと、シア!?」
シアが普段からは想像できないような様子で取り乱している。
嘘っ!?
シアがここまで乱れるなんて……
シアの言葉からするとやっぱりマスターには言い辛い内容なのかも。
私も何かへましちゃったらマスターには知られたくないからなぁ……
でも、リゼルならまだしも、シアだったら多少のミスは別にマスターは気にしないと思うけど。
うーん、それだけ、大ごと、なのかも……
「シアさん、落ち着いてください、大丈夫です」
「そうだよ、シアはいつだって頑張ってくれてるんだから、マスターだって分かってくれるって」
まだ事情をよく分かってないけれどこのままにしておくのはマズイよね?
私はエフィーと一緒にシアを宥める。
「シアさん、大丈夫です、大丈夫ですから」
「私達も一緒にいるから、ね?」
「私、私……」
それから数分間経って、シアが落ち着きだす。
シアが泣くのを見るのって珍しいよね。
つい最近マスターの前で二人で泣いたのを思い出すけれど今はあれとはまた違った状況でしょ。
……やっぱり、それだけ皆足を引っ張ったりしてマスターに嫌われるのが怖いんだよ。
私だってそう。
素直になれないことも多い分、後から自分の振る舞いを後悔することだって多い。
それも突き詰めたらその振る舞いでマスターに嫌われないかってことなんだと思う。
マスターはとっても優しい人だから、それだけ嫌われたときのことを考えると……私も頭が真っ白になる。
程度の差はあるだろうけど、シアは今、それ位困っているんだ。
いつも助けてもらってる分、私もシアの力にならないと!
……と思って気合を入れ直したはいいんだけど、私はまだ何にも知らないんだよね。
ベルに呼ばれてマスター達のところに向かった後の話、なんだよね、恐らく。
「……その、私……」
「シアさん、一先ず私がカノンさんに説明します。私の説明でおかしなところがあったらその都度ご指摘下さい」
「……はい、お願いします、エフィー」
「はい、では……」
シアのことを気遣ってだろう、エフィーが代わりに話してくれるようだ。
さて、どんな話が出て来るのか……
「……へ?……発情、期?」
「はい、シアさんは今狼人の発情期に当たるそうです」
発情期って……確かに暗くてもシアの顔は上気しているかのように赤い。
泣いていたからという説明もできるだろうけど、まあシアも否定しないんだから実際はそうなんだろう。
発情期は……そりゃエフィーの言う通り一過性のものでしょ。
それが……シアの悩み?
でもそれだとマスターに顔向けできないっていうのとどう繋がるのか分からないんだけど。
「もちろんこれはこれからお話する問題の前提となることです」
あ、やっぱりこれが問題と言うわけじゃないんだ。
「……カノンさん、ベルに呼ばれてご主人様の下に向かうまでは私達と一緒にいたわけですが、シアさんの戦闘、覚えていますか?」
「ん?シアの戦闘……うん、ちゃんと覚えているよ?凄かったよね、流石シアだなって思った」
「私もシアさんの戦闘センスは素晴らしいものだと常日頃から思っていましたが、あれは今までの比ではない位圧倒的だったと思います。実際リンが大きくなるまでの戦闘は全てシアさんが受け持っていたわけですがその最後辺りは時間も3倍以上は短く済んでいたはずです」
す、凄いな、エフィーは。
私は時間の長短なんて全く気にしてなかったんだけど。
「で、でも、レベルが上がったって考えたら別に短くなってもおかしくは……」
「カノンさん、お忘れですか?『経験値蓄積』のスキルがあるのでシアさんはご主人様がいらっしゃる時にレベルを上げていただいているんですよ?」
「あ!そっか……」
確かシアもそのことでとっても苦労して、それで絶望していた時にマスターと出会って、その後……
シアにはちょっと申し訳ないけど、このお話大好きだな、私。
最初聞いた時は羨ましいって嫉妬しちゃったけど……マスターの優しさや、シアが救われて、嬉しくって、色んな想いの末、マスターのために頑張ろうって決意したことがとっても伝わってくるから……
えーっと、それで、シアのレベルが上がらないってことは……どういうことなんだっけ?
「ですから、シアさんの戦闘の技術がいきなり飛躍的に上昇するというのは考え辛いんです」
あ!これ、さっきユーリとマスターと一緒に話してたことだ!
じゃあ、やっぱりユーリが感じたことが正解だったんだよね。
はぁ。私ってつくづく周りが見えてないな……
「それじゃあさ、戦闘の時にシアが凄かったのって……」
「……はい。ここから今回の問題の核心になってきます」
「…………」
シアは尚も俯いたままで元気が無い。
「私が今考え得ることとしては2つあるんですが、まず1つ目としてはシアさんが戦闘中に何かのスキルを習得した、ということです。そして2つ目は申したように発情期が何かしらの関係を、と。シアさんのセカンドジョブは確か『獣狂戦士』だったはずです。何かしらの関係を持っていてもおかしくは無いかと」
「うん、2つシアの戦闘について説明ができるってことは分かった。それで……」
「はい。本来ならスキルを確認してそこで終わり、シアさんが悩むということもない、ということになるんです。ですが……」
「?、確認して何かおかしなことでもあったの?」
「それが……おかしなことが有ったか無かったか以前の問題なんです」
「え?それは、どういう……」
えーっと、よく分からないんだけれど……
「……ご主人様にいただいた、『ステータス鑑定(自己)』が……使え、ないんです」
「……え?」
シアの口から零れたその言葉を、私は直ぐには理解できなかった。
ジョーカーのステータスでもっと暴れてもいいかな、とも思ったんですが考えれば考える程バグキャラへと近づいていくのでここら辺で止めておきたいと思います。
カノンが意外と万能なステータスで剣も使えるようになりそうです。
後は……えーっと、本編は西のワープ先を調べる前に何やら一問題ありそうな雰囲気ですね。
どうなることやら……




