ほう……
度々投稿が遅れて申し訳ありません。
先週分です。
今週分をまた直ぐにあげる、ということはできないと思いますが、ちゃんと帳尻は
合わせますのでご容赦下さい。
さて、以下とある短文を……
~彼は失意のどん底にいた。
「……まさか、身内から裏切りが出るなんて……俺の勘も鈍ったもんだぜ」
そうして自嘲気味に笑うも、彼の額からはうっすらとした一筋の汗が。
「が!?ぐわっ!?」
彼は自分を襲う苦痛に思わず表情を歪める。
くっ、これ、は……
どうやら、俺も、ここまでか……
この、危険を、皆に、知らせない、と……
「ごわぁ!?」
彼の考えなどどうでもいいと言うように痛みは容赦なく彼を襲う。
くっそ、ゴメン、皆……
もう、ダメみたいだ……
今迄、ありが……とう……
そうして作者はトイレへと駆けこむのであった~後書きへ
≪おおぅ、ブレスもいつもとは段違いの威力じゃ!!ファルよ、もっとじゃもっと!!≫
『姉じゃ、ブレスはそうポンポンと吐けるものじゃない、です』
「……リゼル、大きい」
『ふっふっふ、どうじゃ、クレイよ、主なんて目じゃないぞ、ん?』
『姉じゃ、別に姉じゃが威張ることじゃ……』
『わっはっは!!力が、力が漲ってくる!!』
『母さん、凄い、凄いよ!!』
……おかしなテンションで盛り上がっているドラゴン達はもう放っておこう。
「カノン、さっき抜いた剣なんだが……」
「え?うん、何、マスター?」
俺はカノンに魔剣を持つことを提案する。
どうせ俺達の中じゃカノン以外使えないんだ、とりあえずカノンに持たせておこう。
「うん。マスターが良いなら私はそれでいいよ」
「そうか、それで、契約は……」
鑑定して分かった契約についてもできるならやっといた方がいいだろう。
前提として、契約内容がおかしなものでない、という事ならばだが。
その話をして直ぐにカノンは魔剣に話しかける。
モンスターと話せる、という知識をすっぽり抜いてこの状況を見ると実にシュールだ。
可愛い女の子が独り、剣に話しかけている……
カノンが俺達と出会うまでを考えると……さぞ辛かったろうな……
まだ剣じゃなくベルというちゃんとした生き物だったから幾分マシ……いや、カノン本人にとってはそこは関係ないか。
「……え?何それ!?」
「ん?どうかしたか、カノン」
カノンが驚いた声を上げる。
「マスター、何かね、『契約……2体の強者との契りを示せ』って言われてさ」
「は?何じゃそりゃ」
「分かんない、だから何度もどういうことか聞いてるのにそればっかりで……もう、折角マスターが頼ってくれてるのに、なんなのよ……」
カノンは困った様子で魔剣に尚も話し続ける。
その顔からは若干焦りの色が。
うーん、ダークドラゴンから魔剣を抜いてくれただけで十分なんだが……
強者との契りを示せ、か……
カノンが慌てる程意味が分からないという事でもないが……
契約をするのに他のモンスターとの契約がいるってことなのか?
結構特殊だな。
しかも2体か。
厄介だ……
流石にスケルトンやトランバットでは無理だろう。
ゾンビムカデなら……ああ、でもあれは元々は小さくて、俺やカノンが送る闇の魔力にその能力が依存するって言うと強者って感じじゃない。
ラミアも決して弱いモンスターと言うわけでは無い……やってみないと分からない部分はあるが、しかし魔剣との契約に必要な条件を満たしてくれるかは疑問だろう。
となると……
俺は魔剣に話しかけ続けるカノンを心配そうに見つめているベルに目をやる。
ベルは一応あれでもケルベロスだ。
カノンの従者の中で一番有り得そうなのはベルだろう。
うーむ、とは言え、ベルの大きさは良く言って大型犬程度。
こんなんで大丈夫だろうか?
魔剣が言う『強者』が、レベルや能力値等可視的な強さを言うのならスケルトン達でも可能性は無くは無いが、その種の格や位なんかを意味するんならこの中じゃベルが妥当だろう。
ただ感覚的に俺が想像するのはこの両方を要求する、というもの。
まあ推測の域を出ないが、どれにしてもベルが当てはまればいいな位に考えているので、今現段階では魔剣の要求を満たすことはできないんじゃないだろうか?
良くて1体だもんな。
必要なのは2体。
うーん、厳しい……あ、そうだ!
「あの、盛り上がっているところすいません」
『わっはっは……ん?何だい、何か困りごとかい?』
バカ笑いしていたダークドラゴンのお母さんに話しかける。
「うーん、困りごとと言うか何というか……この魔剣について何ですが、魔剣と契約するにはどうも強いモンスター2体と契約する必要があるそうなんです。魔剣と契約できれば詠唱無しに召喚できるというメリットがある以上できるのであればあの子に契約させてあげたいんです。それで……」
前進の無い交渉に焦っているカノンをチラッと見てからまた視線を戻す。
『契約、召喚……ああ、なるほど、それでかい……』
ん?『なるほど』?
俺の話を聴いた途端急激に熱が冷めたかのように得心したという素振りを見せる。
どういう事だろう。
『アンタの言ったことで納得したよ。どうして魔王がその魔剣を私に刺したまんまにしていたのか』
「どういうことですか?」
『その魔剣と契約していたら召喚できるだろう?』
「はい」
それは鑑定して確認したことだからハッキリとしている。
『わざわざ私に刺したまんまにしたのは魔剣に私の力を吸収させてそのまま殺してしまうつもりか、とも思ったけど、今思えばアイツはそんなたまじゃあない』
「……ずいぶんその魔王のことをお知りのようですが……」
『ああ……奴の名は“クラハルド・リ・タナトス”。孤高で変わり者な男さ』
……どのような関係かは分からなかったが、思わぬところで魔王の名前が判明した。
できれば魔王なんかとは関わり合いになりたくはないのが仮にそうなってしまったときに備えて情報を収集しておくことは有益だ。
知れることは知っておこう。
『そもそもアイツは独りを好む男なんだよ。だから私に差し向ける追手なんかもいないし、契約するだけの手下もいない、そして何よりあいつ自身がそれを必要としていない』
「成程……ということは本来なら刺しっぱなしにするつもりはなかったんでしょうか、その魔王は』
『だろうね。私が剣を刺された後の攻撃の反動で吹き飛んでしまって、そうして今に至るから』
この巨体を吹き飛ばすほどの威力の攻撃って……無茶苦茶だな魔王。
『まあ、そう言う事さ。……それで、アンタ達はその魔剣と契約するつもりなのかい?』
話が最初に戻る。
「はい。そのためには2体の強者との契約が必要らしくて」
『……すまないね、アンタには世話になったから契約してやりたいのは山々なんだが……』
……あれ?
結構期待していたんだが……
「その、何か理由でも?」
『……既にもう私は契約してるんだよ』
……ああー、なるほど。
まあ、それなら仕方ない、か。
ただ、契約を断られただけなのに、しかも俺との、ではなくカノンとの契約を、なのに……
……何だろう、この気持ち。
告白してないのに「もう、決めた人がいるから」ってフラれた気分だわ。
はぁ……
「そうですか。なら別に……」
『もう、あの人はいないんだけどね、それでも……』
……あれ?
この言い方だと……もうその人はこの世にはいないのかな?
それは悪いことしたか。
でもそれだとちょっと違和感があるよな。
死んだのに契約が継続しているって。
気持ちの意味で言っているのなら分かるんだが……
「その、野暮なことを聴いて申し訳ありませんがその方って……」
『……あの人は、もうこの世にはいないよ』
ああ、やっぱり。
『それでも、私が生きている限りはあの人との約束を守らないと』
「内容を、伺っても?」
『ああ。構わないさ。……まだ会ったことも無い、あの人の次の魔王を手伝ってあげる、それが契約の内容だね』
次の魔王……ってえ!?
「すいません、ということは……契約した方っていうのは」
『ああ、そうさ。魔王として最後まで戦って、そして死んでいった、立派な男さ』
そう語るダークドラゴンのお母さんは悲しむ、というよりはとても誇らしそうな顔だった。
いや、ドラゴンの表情なんて分からないよ?
何となくそう感じただけ。
そうか、まあダークドラゴンも3帝竜って言われるくらいだ、魔王と契約してたっておかしくは無いか。
でも何だかこんがらがってきた。
魔王も複数いるかもっていう可能性は事前に知っていたが……
いや、その魔王がもう亡くなっているってことだからまだ一人だって可能性も。
「その次の魔王って言う方は今は……」
『まだ会ったことは無いよ。ただもう目覚めてはいる……らしい』
あらら、魔王1人説はあっけなく崩れ去ったな。
まあお母さんは会ったことが無いんだからそういった伝聞形式で言うのも無理はないか。
ふーむ、ということはお母さんと戦闘した魔王と、お母さんが亡くなった魔王から頼まれたということしか分からない謎だらけの魔王、2人の魔王が少なくともいるということか。
勇者は確か3人か……ううむ、面倒くさいことにならなければいいが。
「成程……分かりました。それじゃあ仕方……」
話を纏めようとする。
だが……
『済まなかったね、でも、その契約するための手伝いならできると思うよ』
ダークドラゴンのお母さんはそれを遮って提案をしてくれる。
『2体、強い奴と契約できればいいんだろ?なら1体はそこの犬っころで何とかなるね』
『な!?い、犬っころとは……』
ベルは自分に話が振られ驚いている。
『アンタ以外に犬に見える奴がいんのかい?』
『そ、それは……いないが……』
「そこはまあいいとして、ベルで1体は何とかなるんですね?」
『ああ、そのまんまじゃ絶対とは言えないが私が“加護”を与えよう。それなら確実だ』
『な!?か、“加護”をいただけるのか!?』
「ん?加護って……」
「旦那様、聖獣はこの人だ、と決めた1人に加護を与えることができます。加護を与えられたものは大きな力を得ると言われています。恐らくダークドラゴンさんがおっしゃっているのもそれと似たようなことかと」
俺が少し首を捻るとユーリが説明してくれる。
『そこのユニコーンが説明してくれたのとさして変わらないよ。まあドラゴンの中じゃあそれができるのは私や後、“ライトドラゴン”、“カイザードラゴン”の奴等位だけどね』
なるほど……加護か。
もしかしたら……それがクレイやユーリ達が人化したことと関係しているのかも。
まあ完全に推測のレベルだが。
兎も角、それをダークドラゴンのお母さんがベルに与えてくれるって言うわけか。
ベルも強くなれて、契約するのに必要な数にもなってくれる。
受けるかどうかは本人次第だが俺としては断る理由は無いな。
「ベル、どうする?」
『カノン様……』
カノンから尋ねられ、しばし考え込むも……
『有りがたく受けようかと思います。折角強くなってよりカノン様のお役に立てるのですから』
「ベル……うん、ありがとう」
カノンはさっきまで格闘していた魔剣を床に置いてベルを抱きしめて頭を撫でてやる。
うーん、主人と従者の深い絆を感じられる良い光景だ。
ただ、あの大型犬の体格になったベルをも窒息死寸前まで追い込むものを持っているとは……あれは最早凶器と言っても過言ではないだろう。
カノンめ、恐ろしい武器をその体に隠し持ってやがるな(いや一切隠せてないが)。
その後、ダークドラゴンのお母さんから加護を貰ったベルの体は更に大きくなることに。
最早大型犬なんて表現はベルに悪いだろう。
ライオンを模して造られたであろうカエンよりも遥かに大きく、そして風格というのか、オーラと言うのか、それが俺のイメージする“ケルベロス”と一致、いやそれ以上のものに。
頭は一つだったが最早そこは世界でそれぞれなんだと割り切ってもお釣りの来るくらいのカッコ良さだ。
『お、おお、これが……スゴイ、これなら、もっとカノン様のお役にたてる!!」
「うん、ベル、とってもカッコいいよ!!これからも一緒に頑張ってマスターを守って行こう!」
おおう、今度はちゃんとベルも大気にある酸素を体に取り込めているようだ。
それぐらいにベルも立派になったという事か。
人の姿には……なっていないがクレイの件もある。
速断する必要は無いだろう。
まあそれは置いといても、ベルは本当にカッコいいな。
一応女の子とのことだから俺の口からそう告げるのは控えるとしてもベルを見てもうただの犬だと思う者はいないだろう。
立派なケルベロスだ。
これなら文句なく契約に必要な1体となるだろう。
後1体……候補はいる。
だが……倒せるかどうかがそもそも分からん。
流石に賭けをするには分が悪いような気もする。
どうしたもんか……
『何だ、そんな難しい顔をして。1体条件がそろう奴が出たんだ、もっと喜べ』
俺を気遣ってか、ウォリア・ドラゴンが声をかけてくれる。
「まあ、そうなんですがね……」
『気のない返事だな。……いいか、お前は強い。俺じゃなければあの氷は壊せない、それ位お前は強いんだ。だから自信を持て』
別に自分が弱いことで悩んでいるわけでもないのだが……
「そう言えばあの氷どうやって壊したんですか?簡単に壊せるようなものではなかったと思うんですけどね」
リゼルやクレイに時間まで稼いでもらったうえで造った言わば必殺技だったんだが……
『だから言っているだろう?あれは俺じゃないと壊すなんて無理だ。俺は力だけが取り柄だけど、あの時は内側から力を入れる以外のことが一切できなかった』
『この子はもちろん戦闘能力はドラゴンだからそれ相応のものがあるけど、本当にスゴイのはやっぱりその力だね。こればっかりは私も、他のドラゴンも敵わないだろう』
『多分母さんでもあれは無理だと思うよ?……あの中にいた時はそれ位絶望的だったから……』
ほう、そこまで俺の氷魔法は凄かったのか。
何だか自信が出てきたな。
そうか、やっぱりあれはかなり有効なのか。
本当に力が自慢な奴じゃないと壊せない位の固さ、そして力を入れるということしかできない位の身動きのとれなさ。
……そうか。
「ありがとうございます。そのように言っていただけると私としても自信がつきます。ところで、“ジョーカー”についてなんですが……」
『な、なんだい!?カイト、アンタ、もう1体をアイツにしようと思っているのかい!?』
『な!?お前、それは止めておけ!!アイツは話し合いで何とかなるような奴じゃないし、何よりアイツは倒せない!!』
ああ、やっぱりそういう反応が返ってくるのか。
「別に勝算云々の話をしているわけでは無いんですが……」
≪主殿、大丈夫、なのか?≫
「マスター、マスターが危険なことは、嫌だからね?」
「……カイト、無茶、しちゃ……ダメ」
「旦那様、私の回復も生きている人にしか及びません。ですから……」
わぁお、皆から心配の声の嵐が。
まあ相手が相手だしね。
「心配してくれるのはありがたいし、俺も勝算のない試合はしない主義だ。だからこそどうするか決めるために確認したいことなんだが……」
「マスター……」
「……カイト……」
『主様……』
「旦那様……」
「はぁ、皆、そんな悲しそうな顔すんなよ。危険かどうか判断するために聞こうとしてるんだから、な?」
人間である以上撫でてやれる人の数は限られているがそれでもとりあえずは安心させてやるために近かったカノンとクレイを二つしかない俺の手を使って撫でてやる。
「そ、そんなことしたって……マ、マスターを心配するの、止めて、あげないんだからね」
「……ん…………カイト、無茶、しない?」
二人は撫でられてそれぞれ違った反応を示すも別に嫌がってはいないようだ。
ふぅ、良かった。
未だに女の子を撫でるのは慣れないなぁ。
「ああ、分かった。無茶はしない、むしろ、内容によってはまたクレイやリゼルにも前衛を……」
『分かったよ、いいさ、“奴”との戦闘は私とこの子が務めるよ』
『ああ、母さんと俺が二人で戦えば……もしかしたら』
思わぬ提案に皆大なり小なり驚いている。
俺もカノンの召喚を一応想定していたが確かにこの二人が戦ってくれるならスケルトン凡そ20体と比べるとカノンには申し訳ないがそりゃ安心だ。
「ですが……まだうまくいくかの採算すら確認できていないんですよ?」
『そうなんだけどね……でも相手があの“ジョーカー”でも、アンタがやるっていうと、不思議とイケるんじゃないか、って私は思うんだよ』
うーん、信頼してもらえるのは嬉しいんだが根拠なき自信や信頼は時として危険だからなぁ。
『私だって別に死にたくて言ってるわけじゃないさ、世話になったアンタやこの子を死なせるわけにもいかないんだ、うまくいきそうになかったら皆乗せて全力で飛んで逃げてやるさ。……だから、さ、とりあえずは確認したいことって言うのを言ってみな』
「……はい、分かりました。ありがとうございます。では……」
俺はダークドラゴンのお母さん、ウォリア・ドラゴンの心遣いに感謝して、ジョーカーのことについて確認する。
俺の想定通りなら……
その後、彼等の返答からある程度の見通しが立ったので俺達は入念に打ち合わせを行ってから難易度ベリーハードのダンジョン“死淵の魔窟”の主、“ジョーカー”攻略を開始することにした。
攻略と言っても“ジョーカー”は事前に聞いていた通りどこにでも現れる、裏を返せば特定のところに留まっているわけでは無いのでそもそも捜索することから始めなければならなかった。
これがまた面倒で、出現する場所には規則性が無く、偶然に左右されることが多いのだと。
そして、捜索するも、某電鉄ゲームのコンピューター最弱鬼の大きさ程度しかない俺の運のせいで全く遭遇できない。
もうこれ俺の背後にキングボ〇ビーついてんじゃね?って思う位に。
あれが出た時ほど萎えることは無いよね……苦労して集めた物件を次々に売らなければならないなんてまさに悲劇。
ってまあそれはどうでもいいとして、あれだよね、探し物って探そうとしたらかえって見つからないっていうこともあるし。
こういうのは気長にいくしかないか。
と思って気を取り直して捜索し続けること凡そ7時間。
それまでに雑魚敵と6度だけ遭遇したがその悉くが冗談じゃない程強かった。
って言ってもウォリア・ドラゴンとダークドラゴンが率先して戦闘してくれたから俺は特に何かしたというわけでは無い。
中身が無い幽霊体が鎧を着たリビング・アーマーとモンスターとカウントされるヴァンパイアが成長したヴァンパイア・ロード。
その強さに改めてこのダンジョンが“死淵の魔窟”だということを実感させられた。
ウォリア・ドラゴンが事前にダークドラゴンを守るために数を減らしていなかったとしたら、ウォリア・ドラゴンとダークドラゴンがいなかったら、と考えるとゾッとするな。
そして、休憩を挟んで捜索を再開しようとしたその時……ようやく探し求めていた“ジョーカー”がどこからともなくすぅっと姿を現した。
その姿を見た瞬間全身でその危険を感じ取った。
全体の大きさとしては2m強で、確かに大きさだけで行ったらダークドラゴンよりも小さく、その点で威圧感などは感じない。
骨の両の手で抱えるは死神が持っていると想像するような怪しく光る大きな鎌。
顔は笑った仮面をしているもそこから愉快な感情が感じ取れるわけもなく、それは不気味さしか物語らない。
足や胴体は無く、骨の腕も顔も繋がっていないのに何故か宙に浮いている。
羽織っている紫色のマントは風が皆無にもかかわらずビラビラと常にたなびいている。
まさに『死』そのもの。
1秒でも長くコイツと一緒の空間にいたくない。
率直に感じた俺の感想としてはそれがすべてだった。
皆を見てみると、クレイを除く皆の顔がうっすらと青ざめている。
大きな闇を体感したことのある俺ですら息苦しさを感じて仕方ないんだ、そうなったとしても仕方ない。
それに、これは事前に聞いていたことだ。
想定の範囲内ではある。
俺は皆を庇うようにその前に出て、ダークドラゴンとウォリア・ドラゴンはそのまた前に出る。
「じゃあ、頼みます、お二人とも」
『ああ』
『分かってるよ……はぁ!!』
ダークドラゴンは挨拶代わりにブレスをかましてやる。
リゼルとは違ってやはり本家、タメの動作がほとんどなくその大きな口から闇を一気に吐き出す。
ウォリア・ドラゴンも駆け出して、ジョーカーに殴り掛かる。
最初にブレスがジョーカーに直撃したように見えるも、そのマントの中にすべてが吸収されるかのように消え去っていく。
奴は何一つ動いていないしビクともしていない。
次にウォリア・ドラゴンの攻撃でようやく奴が動いたかと思ったが、それが一撃を加えることには至らず、鎌の柄の部分で受け止められてしまう。
あのパンチを受けても奴の体に衝撃が渡ったようには一切見えなかった。
……何だあれは?
どこからか迷い込んできたバグキャラですか、彼は?
自分であんな体をしていて、彼は生きていて楽しいのでしょうか?
と、そんな意味のない自問をやめて、現実と向き合う。
不味いなぁ……事前に物理やブレス攻撃が効かないと聞かされていても実際に目で見ると果てしない絶望感が押し寄せてくる。
俺の考えなんて通用しないんじゃないだろうか?
『カイト、始めな!!』
『俺と母さんが必ずお前の準備が整うまで時間を稼ぐ!!』
そんな弱い気持ちになりかけていた俺を前衛で奮闘してくれている二人が鼓舞してくれる。
そうだ、折角命懸けで二人が頑張ってくれているんだ。
俺に攻撃が飛んきても打ち払えるようクレイとリゼルも傍で控えてくれている。
俺が何とかしないと……
「分かってます、始めますよ!皆、頼む!!……」
俺は普段しない詠唱をまねて集中し、魔力とイメージを練る。
頼むぞ、皆……
それからは集中を切らさない程度に戦闘の状況を把握しながら必要なイメージを固め、展開する準備を進めた。
戦況は予想に反して良好な状態だった。
流石3帝竜の一角だけあってダークドラゴンの攻撃は凄まじいものがあり、ウォリア・ドラゴンの攻撃も物理でダメージを与えるには至らなくても相手の動きを封じるには至るものだった。
一方でジョーカーの鎌裁きもまた凄まじくあの大きな鎌を骨の腕でなぜあんなブンブンと振り回せることができるのかと物理法則について疑問を差し挟みたくもなったが、思考がブレると考えるのを止めた。
チラッとHPを確認して、主にダークドラゴンの攻撃で徐々に減っていることも確認でき、大技をかまして後一発で0にできるところまで来た、と言う時には正直魔法の創造を止めかけた。
そして、ダークドラゴンの『ダークレイ!!』との叫びと共に終わりを迎えると思った俺の予想は見事に裏切られた。
ジョーカーはHPが0になっても倒れることは無く、黒いモヤモヤが即座に奴の体に集まっていき、そしてまた再び戦闘を始めたのだった。
その状況を見て、スキルかなにかが原因かと思って鑑定した時にはあまりに驚いてイメージが崩れかけたが寸でのところで踏みとどまり、最終の生成へと取り掛かる。
やっぱり普通に倒そうとするのはダメだ!
聞いていた通りアイツは死なない。
早く、早く……
よし、行ける!!
「二人とも!!行きます!!」
俺は準備が整ったことをジョーカーとの戦闘を繰り広げている二人に告げる。
『分かった!!一発で決めなよ!!……それっ!!』
『くっ、これ以上は、流石に!!……っらぁ!!』
二人はジョーカーから距離を取るべくダークドラゴンは翼を広げ、ウォリア・ドラゴンは後ろにバックステップを大きく踏んで飛び退く。
今だ!!
「凍れ、完全凍結!!」
その大きな鎌を振り上げて追撃しようとするジョーカーを瞬時に氷が駆け上がる。
『……!?……』
流石のジョーカーも自分を襲う異変に気付いて動きが止まる。
俺達からしたら好都合だ。
ウォリア・ドラゴンの時は大技をかまそうとして氷には構わず攻撃を仕掛けようとしてきたので冷や汗ものであったがジョーカーはその動きを自ら止めてしまった。
体の凍るスピードは増し、全身が氷漬けになるのには瞬きを数回するを要しなかった。
『よし、良くやったよ、カイト!!』
『ふぅー、流石だな!!』
「ありがとうございます。……とは言え、本番はこれからですがね」
俺は労ってくれる二人と、未だ顔色が悪いカノンやユーリ達を置いて氷漬けになったジョーカーに近づいて行き、『パーティ恩恵(リーダー)+α』からリゼルの『念話』、カノンの『モンスター言語(会話)』を使って奴に話しかける。
「ジョーカー、どうだ、氷漬けになった気分は?」
『…………』
返答は返ってこない。
「初めて受ける魔法だろう?お前がどれだけ無敵でも、どれだけ死ななくても、動けなければどうしようもない」
そう、確かにジョーカーの能力や特徴など色々知っていることについて確認はしたが、主に俺が確認したかったのは単純にウォリア・ドラゴンよりも力が強いかどうかだ。
それで弱い、という回答が返ってきたのでこの作戦を決行することにした。
確かにウォリア・ドラゴンより力が弱かったとしても左程変わらずにまたジョーカーでも壊せるかも、という可能性も考えはしたが、それは無い、というダークドラゴンとウォリア・ドラゴンのお墨付きをもらったので変更は無かった。
俺はこの世界に来る前によくどうでもいいことを考えることが多かった。
どんな力が最強か、ということも平和なことで有名な日本では無意味な議論だったかもしれないが。
そこでよく死なない、あるいは死んでも蘇生できる能力という回答が出てきたが俺にはそれが疑問だった。
だってそうだとしてもこういう風に動けなくしてしまったらどうしようもないもんね。
「お前が動けなくても、確かに氷が溶けて再び動けるようになる、と言う可能性も無くは無いだろう。だから、俺はお前が負けを認めるまで何度だって凍らせてやる。何年経とうがお前が俺達に力を貸してくれると認めてくれるまで止めはしない。……さあ、根競べと行こうじゃないか」
俺は別に工場で倒れたペットボトルを立て直すだけの単純作業を延々とやってもいいぐらいに同じことを繰り返すことは得意だ(べ、別に人と接するのが嫌な訳じゃないからな!)が、もちろん本音としてはそんなつもりは毛頭ない。
ハッタリだ。
別にジョーカーをHPを削り取るという意味で倒す必要は無いんだ。
相手に負けを認めさせればそれでも勝ちは勝ちなんだから。
奴のスキルを見たうえで前者の意味で倒そうなんて考える気力が湧く奴がいるんなら是非ともそんな特異な思想をお持ちの方とは会ってみたいものだ。
後は奴に負けを認めさせれば……
「ジョーカー、お前の力を借りたいんだ、どうだろう?」
俺は『念話』を通じて語りかける。
直ぐにどうこうなるとは期待していなかったのだが、言葉ではない何かが『念話』を通じて俺に流れ込んできた。
これは……何とも複雑だな。
言語ではないし、ジョーカーが感じた何かの情景を想い浮かべる、というわけでもなかったのでどういうことかを理解するのに苦労した。
……力を貸してくれるらしい。
はぁ、案外あっさりしているな。
ジョーカーが自分を倒した方法と力に興味を示してくれたのならそれに越したことは無い。
ダークドラゴンとの契約ができなかったのは残念だが、別に彼らが今後俺達に協力してくれない、というわけでもないだろう。
それに、代わり、と言ったら申し訳ないが敵にだけはしたくないジョーカーを仲間にできたんだ。これ以上の贅沢は言うまい。
ふぅ、これで魔剣と契約させてやれるな。
「カノン、おいで」
「うん、マスター」
カノンはまだ顔色が良いとは言えないが、後は契約するだけなので我慢して頑張ってもらおう。
とりあえず念には念を入れて、ジョーカーの顔だけ溶かしてカノンとの契約を促し、カノンは契約を進める。
そして……
「……ふぅ、終わったよ、マスター」
「ああ、お疲れさん、良くやったよ、カノン」
ジョーカーが暴れ出すなんてことも起きず、滞りなく契約を終えたカノンを労ってやる。
「う、うん……でも、契約するまでは、全然マスターの役に立てなかった」
「いや、そこで落ち込む必要は無いさ。一番キツイ前衛をしてくれたのはダークドラゴンとウォリア・ドラゴンだし、俺も凍らせる以外に特に何かしたというわけでもないんだ。カノンの役目は、契約をすること。そしてカノンはちゃんとそれを果たしたんだ。だから、今回のことは良くやったと俺は思うぞ、カノン」
「……うん、ありがとう、マスター」
その後、カノンは魔剣との契約も終えた。
契約内容は特になく、そんなメリットがあるからこそ契約に至るまでの条件が厳しいものだったのだろう。
ドラゴン達の住み家に戻ると、ダークドラゴンの子供であるサラちゃんが直ぐに俺の足元にかけてくる。
その姿にウォリア・ドラゴンはショックを受けているようだ。
『サ、サラ!?ど、どうしてお兄ちゃんじゃなくてカイトの方に!?……く、くそっ』
可哀想に……ゲームとかなら血が繋がっていない妹が兄を好きになるのは鉄板なんだが、ドラゴンの世界ではそう甘くはいかないようだ。
「キュイー、キュイキュイ!!」
色々とあったが孤島に戻る、その時になるとサラちゃんは悲し気な声を上げ俺から離れてくれない。まだ幼く、力も無いドラゴンだけあって、契約して連れて行くわけにもいくまい。
「大きくなったら一緒に冒険しような?また来るから」
「キュ、キュ!!キュイー!!」
『サラ、文句言っちゃだめだ。カイトはまた来てくれるって言ってるじゃないか』
「キュイ、キュキュイ!!キュイッキュイ!!」
『な!?サ、サラ、そんなこと言わないで、お兄ちゃんを嫌わないでくれ!!』
うーん、困った。
回復魔法かけてあげただけなのに、結構懐かれてしまった。
どうしよう……
と、俺がどうしようか困っていると、ダークドラゴンのお母さんがサラちゃんに話しかける。
『……サラ、サラが今カイト達について行くと、カイト達に迷惑がかかるんだよ。カイト達と一緒にいきたいんなら今よりも、もっと強くおなり』
「……キュキューー。キュ、キュイ?」
『ああ、私の娘なんだ。大丈夫、直ぐに強くなれるさ。それにカイト達もまた来てくれるって言ってるんだよ、なのに、その時に今の弱いままじゃ恥ずかしいと思わないかい?』
「……キュイ!!キュ……キュイ、キュキュキュ!!」
『ああ、頑張ろうね』
どうやらお母さんがサラちゃんを説得してくれたようだ。
流石お母さん。
「じゃあ、一先ず帰ります。色々とありがとうございました」
『ああ、こちらこそありがとうね。またいつでも来るといいよ』
「はい」
『ああ、そうだ、カイト、これを持って行け』
「ん?これは……」
ウォリア・ドラゴンから剣を一本手渡される。
刀身は真っ黒で少し傾けると妖しく不気味に輝く。
剣とはいったもののどこか妖刀を想起させるその刃。
うーむ、中々な業物と見える。
いや、そんな目利き俺にはできないけどね。
『母さんに刺さっていた剣の一本だ。俺達には必要のないものだからな、持って行ってくれ』
あー、なるほど。
魔王が刺した2本の内の1本ってわけか。
それを俺にくれるんだな。
「こっちは普通に使えるようですね」
『ああ、俺でも抜けたからな』
「分かりました。有りがたく持って行かせてもらいます。……では」
刀を仕舞い、俺達は挨拶を済ませて成長したベルと新たに仲間になった頼もしい死神さん、ジョーカーを引き連れて孤島へと帰って行った。
はい、前書きで意味の分からない文章があっていきなりで驚かれた方もいらっしゃるかと思いますが、単なる私の食あたりの話です(笑)。
本編とは何の関係もありません。
賞味期限の切れている豆腐を気付かずに食べてしまったことを今更ながら後悔しています。
最近はこういうことが無かったので油断しきっていました。私の勘も鈍ったものです。
夏ですし、食品が痛みやすくなっています。私はトイレに行った後整腸剤飲んだら普通に治りましたが、皆さんもお気を付け下さい。
さて、どうでもいい話は置いといて、本編のお話を。
一応“死淵の魔窟”編は終了です。
魔王の話が出てきましたね。
少々ボッチ感を臭わせる一人目の魔王、どうストーリーと絡んでくるか……
また、謎だらけではありますがもう一人魔王のお話が。
魔王だけあってどっちも絡まれたら面倒事は必至。
主人公、絡まれなければいいんですがね。
後、ジョーカーは普通にお仲間に。
ベルも立派なケルベロスとなり、魔剣との契約も済ませたとのことで、カノンの従者も充実してきました。
主人公が手に入れたもう1本の刀は近々どのようなものか分かると思います。
最後のワープ先、西には果たして何が待ち受けているのか……
次話は孤島に戻ってのお話ですので最後のワープ先捜索についてはその次かそのまた次になるかと思います。




