え!?
投稿遅れて申し訳ありませんでした。
今週分と来週分の投稿は恐らく不定期になってしまいますが最終的な話数は帳尻をちゃんと合わせますのでご容赦下さい。
魔窟内の探索を再開して程無く、俺達は終点へと辿り着いた。
そして、その最奥にいたものを目にした途端にクレイを除く俺、リゼル、ベルは言葉を失った。
「…………大きい」
クレイ一人だけが見たものの感想を述べる。
俺もゲームや漫画なんかで、更にはこっちの世界でも、ワイバーンやサクヤのモンスター型の姿を見ていたので見慣れている、そう思っていたんだが……
今この先にいるその存在はそんな考えなんて吹っ飛ばしてしまうほどに圧倒的で……
『こ、これは凄いな……』
「あ、ああ……」
やっとのことで捻りだしたであろうベルと俺の言葉も特に意味のあるものではなく本当にただの小学生の感想文レベルのもの。
それだけ凄いと感じたのだと言い訳させてほしい。
「ほへぇ……立派な“ダークドラゴン”じゃのぅ。我も初めて見た」
≪私も、です。まさか“3帝竜”の1体を実際に目にする日が来るとは……≫
リゼルも驚いてはいるが同じドラゴンだけあって俺達程ではないようだ。
それにしても何だかまたカッコいい単語が出てきたな。
ダークドラゴンって言うのはその見た目の黒さで言われればああそうか、位にはうなずけるんだが……
「リゼル、その“3帝竜”っていうのは……」
何とか言葉に出して尋ねる。
「ん?主殿は初めて聞くか?“3帝竜”」
「ああ、だから聞いてるんだが……」
「おお!?主殿が知らぬことを我が知っているのか!?ぐへへ……」
美人な顔してそんな下種い笑い声出すな。
くそっ、姉の方すら知っていることを知らないとは。
エフィーにちょくちょくこの世界について教えて貰ってはいるんだが……
今度ちゃんと時間を取って個人的に色々と教えてもらおうかな?
≪ドラゴンのことをドラゴンが知っているのは当たり前です。あまりお気になさらず≫
ああ、ファルは優しいなぁ。
後で撫でてやろう。
「むふふ、これは主殿に褒めてもらえるチャンス……我が主殿に……」
≪“3帝竜”とは古来よりこの世界にいる竜の中でもその強さ・存在そのものを讃えて3体の竜に付された総称です≫
「な、な!?ファ、ファルよ、我が……」
≪竜帝竜“カイザードラゴン”、光帝竜“ライトドラゴン”、そしてあそこにいるのが闇帝竜“ダークドラゴン”です≫
「へぇ~、そうなのか、確かにあれは帝竜と呼ばれるだけの貫録みたいなのはあるな。ありがとう、助かったよ」
≪いえ、お役にたてたのなら何より、です≫
「く、くぅ、ファルよ、どうして邪魔をしたんじゃ!?我が、我がようやく主殿に褒めてもらえる活躍の場ができたと思ったのに……」
リゼル(姉)は本当に悔しそうにして挙句目に一杯の涙を浮かべる始末。
おいおい、そこまでのことかよ……
「……リゼル、悲しい?」
「う、うるさい!主に気を使われるまでも無いわ!……ぐすっ、主殿に、主殿に……」
「そんな大げさな」
「我はファルのように賢くないし、我の知っていることで主殿の役に立って褒めて貰える、そう思って……ぐすっ」
あぁ、結局はそこに行きつくのか。
以前シアにも同じようなことを言われたことあったっけ。
有りがたいことだけど皆別にそこまで気にしなくてもいいのにな……
普段からグイグイ積極的に来る姿を見ている分こうして落ち込んでいる姿は色々とギャップがあって何だかんだで可愛いなぁ、と思った俺をとりあえず諌めてどうするか考える。
そして、手の甲を使って泣きじゃくる子供のように涙を拭っているリゼルに近づく。
「はぁ~。別に俺は役に立つかどうかでお前を判断なんかしていない。それにお前は他の皆とは違ってファルと二人で一つの体として活動してんだろ?」
「そ、そうじゃが……」
「なら別に気負う必要は無いと思うぞ?二人で頑張ってくれればいいんだ。一人で何とかしようと思う必要は無い。確かに二人の精神……んーっと、心は別人だが今は一つの体で動いてくれてるんだからそこのことで問題が出て来るんなら俺はリゼルという一人の人間として見るよ。……まあそれが正しいかどうかは置いといてな」
「主殿……」
「二人は融合する前の容姿こそそっくりだったができることはそれぞれ違うんだ。折角他には無い特殊な体をしてるんだからその利点を大いに生かせばいいじゃないか。開き直ったりしてさ?」
「開き直って……か?」
「ああ。『ファルの手柄は我のものじゃ!』とか何とか言ってさ」
「う、うむ……」
「……じゃ、そういうことで、さっきの説明もありがとな、助かったよリゼル」
リゼルの頭に手を置き軽くポンポンと撫でてやる。
いつものハチャメチャなテンションから忘れがちだが彼女の汗の酸っぱさだったり女の子特有の甘い匂いが混じって香る度この子も女の子なんだなと感じる。
≪姉じゃ≫
「ファル……」
≪姉じゃ、良かったですね。私は別に姉じゃを虐めたくて姉じゃの見せ場を奪ったわけでは無いです。姉じゃがたとえ知識としてしっていたとしてもこういうのは得手不得手と言うものがある、です。主様がこのようにおっしゃって下さっているわけですから私が説明した方がより主様の役に立てて、そしてより姉じゃの想いにも応えれる、そう思って……≫
「ファル、お主……」
うんうん、思いやりは大事なことだ。
同じ体で一人の人間として動いているのなら尚更お互いを想い合うのは重要になってくるだろう。
小学校での道徳の授業なんかははっきり言って理解しがたいところがあったがこういう風に自然に生まれる感情としてのものならいいんじゃないのかな。
二人の絆の強さも再確認できたしこれで一件落……
「ファル……って!!主だって普通に主殿に撫でてもらって嬉しそうに感じておったろう!!」
≪む、むむ!私だって主様に褒めてもらって嬉しくない訳ない、です!そのような言いがかりは語弊を……≫
「結局はそっちの想いが本命ではないか!!主殿の言い分じゃと別に我が説明したとてそこまで変わりは無いはずじゃ!!」
≪ぐっ……(いつもそれ位頭が回ってくれたら私も楽できるんですが)……≫
「ぐ、ぬわー!!ファルよ、そこになおらんか!!」
≪そこってどこです!?今は表に出てないから何もしようがないです!!全く、姉じゃは……≫
「何を!?」
≪何です!?≫
二人……いや、リゼルは独り芝居をしているかのように怒り始めてしまった。
これ、『念話』が無かったら本当におかしい奴見ているのと変わりないな。
……まあ仲が悪かったら喧嘩なんかしないだろうということでここは割り切って放置しておこう。
この先にいるダークドラゴンについてもどうするか考えないといけないしな。
俺達とはまだ距離があるからか相手からは気付かれていないようだが進むのなら当たり前に気づかれるのは避けられない。
そうなると戦闘の可能性も出てきてしまう。
ここが“死淵の魔窟”かもしれないということとクレイの話、更にはさっき教えてもらった“3帝竜”という情報をも総合して考えるとハッキリ言って勝ち目があるのかどうかさえ分からない。
間違いなくこのダンジョンのボス格だ。
さっき戦闘した“ウォリア・ドラゴン”もかなり強かったんだからその奥で待ち構えている“ダークドラゴン”の方が強敵だと推測する方が自然ではないだろうか。
んー……でもそれとは関係ないかもしれんが色々と気になることはある。
そもそもさっき戦った“ウォリア・ドラゴン”が『ドラゴン』というのがまず一番驚いた。
姿のベースは間違いなく人間だったし角や尻尾が無かったらドラゴンと気づく機会さえない位だ。
あんなドラゴンもいるんだな……
後ここがダンジョンだとして、ダークドラゴンがボスだとする。
そしてさっきの話からするとここには冒険者なんかも訪れる。
とすると、やっぱりボスだから戦闘はするんだろうけど仮にダークドラゴンが倒されたとしたらその後はどうなるんだろう?
つまりゲームみたいにまた新たなダークドラゴンがポップして復活するのか、それともダークドラゴンの繁殖力が異常なスピードで毎回倒されたら新しいドラゴンが待ち構えることになるのか、ということだ。
……うーん、問いを立てて解答を俺なりに考えてみたがどちらもあんまりピンとこない。
冒険者が先に進もうとする以上あのドラゴンと何かしらのイベント……あー、それかよく聴くお酒を飲ませたりして酔わせた上でドラゴンとの戦闘を避ける、みたいなことが冒険者達の間ではもしかしたら当然のことなのかもしれない。
ボスということに囚われすぎか。
そうだな、そう言う風に考えれば別に一応の説明はつくか。
ならもしかしたら戦闘するのも避けられるかも……
「……カイト」
「ん!?お、おう、どうした?」
クレイに服の袖をちょんちょんと引っ張られているのに気付く。
「……ダークドラゴン、苦しそう」
「え?苦しそうって……クレイ、分かるのか?」
ダークドラゴンと分かる位には距離を隔ててはいないが、だからと言ってあっちから気づかれない位には離れていると思う。
なのによく分かるな。
「……うん、ちょっとずつ、弱って行ってる」
弱って行ってる……ということは……
「さっきクレイが感じたのはじゃあダークドラゴンってことでいいんだな?」
「……うん」
まあボス格のモンスターと言ったらもう他には見当たらないし大体の予想はついていたが……
とすると、弱って行っているというのが何かのイレギュラーなのかな。
冒険者にでもやられたのか、あるいは……
『すんすん……カイト殿、血の臭いが……』
ベルが俺にそう告げる。
「状況からしてあのダークドラゴンのものか、それともダークドラゴンが返り討ちにした冒険者のものか……」
『いや、ここに人の血の臭いは一切しない。ということは……』
ダークドラゴンが怪我してて、それで弱って行っている……っていうことか。
なら追い打ちも可能……いや、それは流石に下種いか。
ま、選択肢の1つだな。
さて、それじゃあ……
「……カイト、剣、刺さってる」
クレイがボーっとした顔でそんな物々しいことを言う。
どんな視力してんだよ、そこまで見えんのか!?
「……どう、する?」
「……クレイは、どう思う?」
「……うーん、抜いて、あげる?」
いや、疑問形で聞かれても……
うーん、まあ、言わんとすることは分からんでもないが。
ダークドラゴンが弱っている原因を取り除いてやって、恩を売る、ひいてはここからの脱出に役立てる、なんてことも無くは無いが……そううまくいくもんかね?
さて、どうした……
『き、貴様等……、母さんに、近寄る、な』
「な!?お、お前……」
俺達が歩いてきた方向から不意に声がしたと思い振り返ってそこにあった姿にギョッとする。
そこには右腕を痛々しそうに抑えて足を引きずっているさっきのウォリア・ドラゴンが。
あの氷の中から無理やり出てきたって言うのか!?
そんな力技で出られるほど軟な氷を作った覚えはないぞ!?
いや、そもそも身動きすら取れないよう……いや、今はそこはいい。
実際に出てきているんだ。
その対応を今は考えないと!
『母さんに……近寄る、な!!』
「母さん!?お前、一体何を……」
「グギャーーー!!!」
「うっ!?」
物凄い咆哮にたまらず耳を抑える。
ウォリア・ドラゴンもこれには驚いているようだ。
『……帰ったのかい……?』
さっきまでその大きな体を動かさずに静止していたはずのダークドラゴンが立ち上がっている。
動かなかった時の姿でさえ圧倒されたが……
ダークドラゴンのあまりの迫力にウォリア・ドラゴンのことも一瞬忘れて堪らず息をのむ。
『母さん、ゴメン、今すぐ魔王の手先を……』
その傷だらけの体を引きずってまで俺達になおも近づいてくる。
最早さっきまでの勢いも無い。
流石に今回は苦労しないだろう……コイツだけなら。
さっきからコイツが母さんと呼ぶ先を目で追うとそこにはダークドラゴンの姿が。
頭の中でこれまでのアイツの独り言や今の状況がどんどん繋がっていく。
レンとゴウさんというとんでも親子を見ているからな、ダークドラゴンとウォリア・ドラゴン、全く似ていないし生物学上ドラゴンと言う以外同じかどうかも定かではないがアイツが『母さん』と言う以上それを否定できないしまたその方向で仮説を立てても一応の納得のいくものができてしまう。
ダークドラゴンとウォリア・ドラゴンの間に繋がりがあるのであればアイツだけを相手にするだけでは済まないだろう。
怪我を負っているとはいえどちらの相手もするとなると……
『……いいさ、お前が勝てない程の相手なんだろう、通しなさい』
『母さん、でも!!』
『構わないよ。……さあ』
『……分かった』
ダークドラゴンの言葉に従って大人しく下がるウォリア・ドラゴン。
もう……決定的だな。
『済まなかった。……久方ぶりの訪問者だね、ここを訪れた用件は何だい?』
俺に向かってそう告げるダークドラゴン。
「……私達はここを目指して訪れた、というわけではありません。訳あって出口を求めてこのダンジョンの中を彷徨っていました」
『……そうかい』
「あなたと戦うつもりはこちらにはありません。できればここから出る方法をお教えいただければと思うのですが……」
『嘘を、つくな!!貴様等、魔王の手先で、母さんに止めを刺しに来たんだろう!?』
ウォリア・ドラゴンが俺の言葉に噛みついてくる。
『……いいんだよ、彼等は魔王の刺客なんかじゃあない』
おや?
どうやって誤解を解くか少々悩んでいたんだが……
意外なところから援護射撃が来る。
『え!?か、母さん、でも……』
『話をお聴き。……奴はそんな、刺客を放ってわざわざ私を殺しに来るようなたまじゃないよ』
『母さん……』
『何度も済まないね、この子は少し思い込みが激しくって。……ここを出る方法か。人間が出るなら明かりが必要だったはずだね。まだ残っているから持って行きなさい』
そう言ってダークドラゴンが首を動かす。
その視線の先には確かに山、とまではいかないが無造作に積まれた光り輝く蝋と見かけライターのようなものが。
あれが……
「いただいてもいいんですか?」
『それが無いと出れないだろう。それを取ってお行き』
とてもあっさりとした返答。
こんなんでいいの?
もっと荒々しいことになるかと思ってたんだけど……
ウォリア・ドラゴンと違って話が分かってくれて、こちらとしては有りがたいが……
取りに行ったらその隙をついて食べられる、みたいな罠の可能性も一応考えたが声の様子からしてどうやらそうでもないっぽい。
あちらも怪我を負っているんだから避けられる戦闘は避けたいのかも。
……クレイも特に警戒なく取りに行って何でも無いように一つ持ち帰ってくるし。
俺は礼を言ってクレイからそれを預かる。
「ありがとうございます。……その……」
『何だい?まだ何かあるのかい」
「……あなたのお腹に刺さっている、その剣は……」
さっきウォリア・ドラゴンの登場で遮られてどうするか決められなかったことをつい聞いてしまう。
『……余計なことを聞くんだね。何も聞かずにそのまま出て行くこともできるだろうに。……アンタ、お人好しとか言われないかい?』
「……すいません、気になってしまって。気に障ったのでしたら申し訳ない」
『……そうかい。まあいいさ。アンタ、名前は?』
「カイトと言います」
『そうかい。……これは1週間前、魔王との戦闘で刺されたものさ』
そう言って刀身のほとんどが突き刺さっている自分のお腹をちらりと見るダークドラゴン。
≪ドラゴンの体表は概して硬い鱗で覆われています。それが3帝竜ともなれば尚更でしょう。その体にあれだけ深く突き刺すとは……≫
「うむ……魔王……恐るべし、じゃな」
リゼルが言う事も分かる。
それが魔王から刺されたとものとなると……
「……辛く、ない?……クレイ、抜く?」
クレイが気遣ってダークドラゴンに尋ねる。
『……抜けないんだよ、一本は何とか抜けたのに、もう一本はどれだけ頑張っても!どれだけ力を入れても!くそっ!!』
ウォリア・ドラゴンが怒気や悲しみをはらんだ声でそう叫ぶ。
抜けない?っていうことはもう何度か試しているのか……
しかも元々はもう一本刺さってたのかよ。
『……力に関しては私が知っている中でこの子が一番強いんだ。そのこの子が抜けないんなら……もう無理なんだよ』
『母さん、まだあきらめたらダメだ!!“サラ”だって俺が何とか……』
『そうだね……私が死んだ後は“サラ”のこと、アンタに……』
『い、嫌だ!!母さん、俺達を置いて死なないで!!“サラ”も、俺も、まだまだ母さんがいないと……』
“サラ”という単語が何かよく分からなかったが二人のやりとりを良く見てみるとダークドラゴンの真後ろに小っちゃい子供ドラゴンが。
ダークドラゴンとは違って本当に苦しそうにしていて呼吸も荒い。
あの子が“サラ”か……
『言う事をお聴き。……こういうのは自分で分かるもんなんだよ。私はもう……長くは……』
『嫌だ!!……』
あー……
何だろうね。
行くとこ行くとこ面倒くさい事情を聞いてしまう俺も悪いんだけどさあ。
その度にちゃんとした重ーい話が待ちうけているってのも……ねぇ。
人間の間でさえ色々とゴタゴタが多いのに、今回はドラゴンか。
「あのー……」
『カイト、アンタまだいたのかい?さっさと外へでもどこにでも、ゴフッ』
『か、母さん!!くそっ、俺に、俺にもっと力が有れば……』
そう言われてもですね……滅茶苦茶行き辛い雰囲気ですよね、これ。
“ダーク”という名前から先入観を持ってしまうかもしれないが今このやりとりを見ている限りでは特に悪い印象は受けない。
むしろ汚い人間なんかよりはよっぽど健全な精神を持っていると思う。
はぁ……
『産みの親から捨てられて、しかもこんなどっちつかずの容姿だったから、人間にもドラゴンにもなりきれなかった俺を拾ってここまで育ててくれたのは母さんじゃないか!!俺、母さんに何も恩返しできてない!!だから死なないでよ、母さん!!』
『だからね、私が死んだあとは、お兄ちゃんとしてサラのことを……』
『死なないでよ、母さん!!』
ああもう、分かったから一々事情を付け足すな!
とりあえず事情を聞くにしても何かきっかけが欲しい。
俺はウォリア・ドラゴンも含めて鑑定を行う。
ふむ……ダークドラゴンは特に異常はない……のにどんどんHPとMPが減って行っている。
あの剣が原因か……
“サラ”と呼ばれたドラゴンは……ふむ、ダークドラゴンの子供だったのか。
ああ……なるほど。
この子もウォリア・ドラゴンが『守る』と言っていた対象なのかな。
あれ?
こっちは状態異常があるな。
『呪い』……か。
アイリさんのお母さんが掛けられていたのとは違ってモンスターとの戦闘で良くある普通の状態異常だ。
この状態異常なら俺の回復魔法でなんとかなるレベルだな。
何かこの状態異常を放置しているのに理由があるのかな?
特にないなら回復魔法使ってもいいけど……
後は抜けないとしてご近所で評判のあの剣か。
さて……
俺はまだ争っているダークドラゴンとウォリア・ドラゴンを放置して鑑定する。
刀身がグサッと刺さっているからどんな剣かはあんまり分からないが……
魔剣オルフェス:『魔族』のみが扱える魔剣。切った相手のHP・MPを奪う。
契約すると詠唱せずに召喚することができる。
STR+???? INT+???? AGI+???? 属性:闇
『魔剣』かぁ……まあ魔王が使ったって言うんだから魔剣なんてもんが出てきても驚きやしないが……
なるほど、定義を見てみたらそりゃどんなバカ力でも抜けないわ。
『魔族しか扱えない』って書いてあるもん。
ちゃんと説明書は読まないと……って『鑑定』を使って初めてわかることだからドラゴン達を責めることはできないか。
うーん、とりあえずは何とかなる目安は立つんだけど……それにはカノンの助けが必要か。
なら先ずは……
俺は回復魔法でまだダークドラゴンに泣きついているウォリア・ドラゴンを回復してやる。
……これでまた戦闘になったらヤバいよな。
そこの辺りは結構賭けな部分もあるがなんとか言いくるめないと。
『え!?き、貴様どういう……』
「さっき戦闘しておいてなんですが私を信用してください。別に毒なんて盛りませんから。ただの回復魔法です。じっとして」
『う、嘘を吐くな!お、俺を倒そうと……』
「暗闇を照らす道具はいただきましたがそもそも出口が分からないんです。ですから道案内が欲しいんですよ。そのためには……」
そう言って回復魔法をかけ続ける。
出口と言っても別にワープポイントまで行ければ問題ないんだけどね。
こう言っとかないと助ける理由が無くなってしまう。
『……その光の輝きは……ユニコーンの』
『え!?ユ、ユニコーン、だって!?コイツ、そんな、まさか……』
ダークドラゴンが俺の回復魔法を見るなりそう呟くと、それを拾ってウォリア・ドラゴンも驚いて俺を見る。
へぇー、光の輝きを見るだけで魔法の性質とか分かるもんなのかね。
『貴様、いやあなたはまさか……ユニコーンなのか!?』
そう来ましたか。
「いえいえ、私はユニコーンと契約しただけでユニコーン本人ではありません。この回復魔法はその恩恵、と言ったところでしょうか。ですから、そこで苦しそうにしているお子さんも助けてあげることができるかと」
『そ、そんなはずが!聖獣であるユニコーンと、契約!?今迄そんなこと……』
ああ、やっぱりこの世界では聖獣との契約って言ったら頭おかしい子扱いなのか。
実際にウォリア・ドラゴンの傷は治したんだけどまあそこまで信じられるわけでもないか。
「そうですね……言葉でいくら言われても実際に信じるのは難しいでしょう。ですから今現在苦しんでいるそのドラゴンのお子さんを治してご覧にいれようというご提案なんですが……まあインチキ臭い私に大切なお子さんをそう易々と預ける……」
『お願い……できるかい?』
『か、母さん!?』
あっれー?
ダークドラゴンのお母さんからまたもや予想外の返答が。
もう少しこじれると想定していたのに……いや、まあいいことなんだよ、俺としては。
『……この子の病気を治すためにはもう、何にでも縋りたいんだよ。できる手は既に尽くした。“エリクサー”を持っている魔王にも頼みに行った。……ハッ、それがこの有様さ』
ダークドラゴンは自分に突き刺さった魔剣を見ては自嘲気味に微笑む……いや、何となくそう思っただけだけど。
『呪い』なら別に『エリクサー』なんて超高級品まで行かなくても街に売っているお祓い札かそれか教会に行っても、なんてことも考えたがそもそも彼らはドラゴンであって人間ではない。
普通に俺達と同じように便利品を入手できるわけでは無いのだろう。
『それに、私はその光はユニコーンが施す癒しの光と同じだと思うよ。だから……』
『母さん……うん。そうだね、一番に考えるべきは先ずは“サラ”の事だった。ゴメン』
『いいんだよ、それもまた、お兄ちゃんとして妹を想ってのことだろう。……カイト、お願いできるかい?』
「ええ。では、全てが成功した暁にはここからの脱出を手伝っていただく、ということでいいですか?」
こうしておけば俺達の安全も確保されるし、慈善事業と言うわけでは無くなる。
至って対等な約束だ。
『ああ。……頼めるかい?』
『……分かった。サラが治ったら必ず……』
ふぅ、ウォリア・ドラゴンからの約束も取り付けたし、後は俺達次第。
「分かりました。では……」
回復魔法をかけるべく子供のダークドラゴンもといサラへと近づいていく。
暑さにバテているかのようにへたり込んでいて、それでいて呼吸はとても荒い。
議論を詰めるよりも実際にすべきことって言うのはやっぱり現状を把握することだな。
鑑定で見てるとそんなにHPは逼迫した状況とは言えなくとも本人にとっては苦しいことに変わりは無いんだから治せるんだったら早く治してやることに越したことは無い。
「直ぐに治してやるからな、もう少しだけの辛抱だ」
「キュ、キュイー……」
かけてやった言葉に対する返答の鳴き声も弱弱しい。
急がないと……はぁっ、ヒール!!
手から放出された温かい光がサラを包み込む。
元々サラは大きな怪我があるわけではなく、悪いところと言ったら状態異常の『呪い』だけだったし俺の回復魔法の効果も上がっているからだろう、完治するのには数秒で足りた。
「キュ、キュー……キュ、キュイ!?キュイ、キュイキュイ!!」
元気になったサラは自分の体が本当に治っているのか確かめるなんてことはせず子供らしくはしゃぎ出す。
何を言っているのかは全く分からんが。
『本当に、本当に治ったのか。あんなに苦しそうだったのに……嘘のようだ』
『ああ、カイト、なんて礼をいえば良いか……ありがとう』
ダークドラゴンのお母さんはその立派な首を深々と上げ……あれ?ここは『下げ』だと思ってたんだけど。
これだと『深々と』って言う使い方がおかしいことになるから訂正しないといけなくなる。
うん、高らかに上げている。
≪ああ、あれは位や格の高いドラゴンが謝意を示すための動作、です≫
「あ、そうなの」
へー。
また知らない知識が。
これは本格的にエフィーに色々と教えてもらうことを現実的に考えないといけないかも。
『これで、心置きなく……』
「いやいや、次はあなたに刺さっている剣を抜かないと」
『死ねる……って、え!?』
「何を言ってるんですか。折角娘さん助けたのにお母さん死んじゃったら意味ないでしょう。だからまずはその傷口をふさぐ邪魔をしている剣を取り除きませんと止血すらできません」
『いや、しかしこれはこの子がどんなに力を入れたって抜けなかった剣で……やっぱり魔王にしか……』
鑑定が使えないって思っていた以上にこの世界では不便なんだな。
確かに魔王が使っていて力自慢の子が抜けないってなったらそういう先入観が入るって言うのも分かるが。
「確かに私にはその剣は抜けません。ですが、仲間にその剣を抜くことができる者がいます」
『な!?ほ、本当か!?』
ウォリア・ドラゴンが俺の発言に飛びついてくる。
「はい。そもそもその剣は『魔族』のみが扱える魔剣なんです。ですから魔王が使えてあなた達ドラゴンが使えなくても当然です」
『ど、どうしてそんなことを……』
鑑定を説明してもいいがそこは目に見えないものだし信じてもらえるかどうか怪しい、か……
……あ、そうか。
別にそこから信頼性を高めないといけないということはないのか。
それにどっちにしてもカノンに用件を伝えてもらうために誰かを召喚しないといけないんだから、今さっき見て話題に上ったユーリ(ユニコーン)を呼べば間接的にでも俺の信用度は上がるか。
よし。
俺は先ずベルを呼んでさっき貰ったアイテムを渡してカノンに伝えてほしいことを説明する。
そして、ダークドラゴン達にアイテムを使った際に被るデメリットは無いかを聞いておく。
『恐らくお前達が使った通路にモンスターはいない。俺が母さん達を守るためにこの中のモンスターはかなり狩ったがそっちの方には全然見当たらなかったからな。……だが、奴にだけは気をつけろ』
「奴……とは?」
『“ジョーカー”だ。あれはこのダンジョンの主だ。それでいてダンジョンのしがらみに囚われずここ以外のどこにでも現れる。個人的な意見だが、あれは魔王ですら恐らく勝てない』
え~、何それ。バグキャラ?
名前からして怖いけどさぁ、そんな最強君置くんじゃねえよって話。
ああ、どうでもいいけどさ、『最強』と『無敵』って意味合いが変わってくるから場合によっては無敵君の方が……
……うん、本当にどうでもいいか。
それにしても『ダンジョンの主』か……
とすると、こちらにいらっしゃるダークドラゴンさんはいわゆる裏ボス的な方なのかな?
さっきのベルの、この空間には人間の血の臭いはしない、と言う趣旨の話からしたらここに来る冒険者はそもそも多くない、もしくはいないということが窺える。
まあ裏ダンジョンが直ぐに見つかって人が一杯ってなったら『裏』って言えるかどうか怪しいし。
じゃあなんであのキーアイテムがあるのかって話になるけど別にウォリア・ドラゴンがここから出稼ぎの如くダンジョン内を動いていたとしたら別におかしくも無い。
「魔王ですら勝てないって……」
『あれには“死”と言う概念が無いんだよ。どうやったらあれに勝てるのかは私にも分からない』
おおう、ダークドラゴンのお母さんのお墨付きか。
うーむ、流石にそんな奴と戦闘になったらカノンだけじゃ絶対にマズイよな?
念には念を入れて俺はもう一つアイテムを貰ってベルがカノンに召喚された後は入り口で待つことにする。
……これも恐らくはここに入ってきてお亡くなりになった冒険者の物だろう。
本来なら正当な順序を経て色々と苦労して初めて手に入れることができるものなんだろうが結構あっさりとゲットしちゃったね。
こういうのはダメだって言う人もいるかもしれないけれど……まあそういう頭の固い奴等は怒らせとけばいいんじゃね?
実際にゲームだって裏ワザがあるんだし、それにもらったのは死んだ人の物だ。
相続なんかで権利が承継されている、とかなら考えないといけないことも出て来るが、ダンジョンで冒険者が死ねばその持ち物の権利は基本誰のものでもなくなる。
強いて言えば初めて見つけた人のもの。
だから初めて見つけたダークドラゴンのお母さんやウォリア・ドラゴンからのお許しをいただけてるんだから気にする必要は無い。
そういうズルみたいなのが嫌なんだったら自分が使わなければいい話でそれを俺に押し付けるのは筋違いだ……って、俺は誰に言い訳してんだかな。
……とっても寂しい一人議論は終わったのでそれじゃあ始めますか。
俺はダークドラゴンのお母さんを助けるための行動を開始する。
「……契約者の名において命ずる。出でよ、ユーリ!!」
白い光の召喚陣からユーリが現れ……あれ?
「お呼びしていただきありがとうございます、旦那様。……やっと、やっと本来の姿で旦那様にお仕えすることができます」
召喚陣からは俺が予想していた幼い女の子ではなく、150cm後半の背をして、雰囲気おっとりとしたとても美しい女性が現れた。
……あれ?
俺間違えたかな?
ちゃんとユーリを呼んだよね!?
知らない間に見ず知らずの女性と契約してたってことは無いよね!?
「すいません、何だか呼ぶ人を間違えたみたいです。もう一度……」
「旦那様。私は紛れも無く旦那様にお救い頂いた聖獣のユニコーンで、そして旦那様の全てを愛して止まないユーリでございます」
いやいや、そんな日曜の夕方で暇な時に見るサ〇エでございます!みたいに言われても……
え、でもこれがあのユーリ!?
ユーリ達と離れてまだ一日経ってないのにまた大きくなったの!?
「本当に……ユーリ、か?」
「はい。旦那様が驚かれるのも無理はないかと。私達3人ともが再び成長するのにそう時間はかかりませんでした」
「そうだとしても早すぎないか?」
「そうですね……シアさんのお考えで先ずはリンのレベルを上げて、それから一気に私とフェリアのレベルをあげようという事になったのです……それで、その、思った以上にリンの雷が機械、と言うのですか?それに効果的でして」
そんなにリンの雷は凄かったのか。
まあ聖獣だからな。
俺の雷魔法なんかと比較にならなくてもおかしくはないか。
一応鑑定したら確かにユーリその人だった。
レベルは別れるときは18のままだったはずなのに今ではもう俺を超えて45と来た。
……天使の里付近の粗方の機械を倒しつくしたんじゃなかろうか。
でもそうか……
ってことはリンとフェリアも次に会うときにはまた成長した姿になってるんだな。
もう二回成長したし後あるとしたらメ〇進化とかかな?
ユーリは確かに言われれば面影は残っているがどっちかと言うとエフィーからは離れて行っている。
こういう時はエフィーの3年後や5年後なんかを先取りできる、とかなんだけど。
姉妹だ、と言われれば納得する容姿だが……
ユーリは長い白髪の先をポニーテールにして右肩から垂らしている。
服装も少し気になるところで、上下は胸と大事な部分を白い毛皮で隠しているだけ、手首足首の周りには白い動物の毛を模したシュシュのようなものをつけている。
うーん、少し露出し過ぎのような……
でもあんまし言い過ぎるのも口うるさいと思われたら嫌だし。
カノンもあのエロい服装すんのは孤島にいるときだけだしなぁ……
流石にそれはマズイんじゃ、位になるまではまあ各自の自主性を重んじますか。
角みたいなのもついてるけどこれは自分の角なのかな?
……今はそれはいいか。
「そうか。まあ積もる話は後にしよう」
「はい、そうですね。……では、旦那様、呼んでくださったご用件を」
「いや、別にユーリに積極的に何かをして欲しいというわけでは無いんだ」
「はい?とおっしゃいますと?」
「だからユーリは今回はしてもらうことはない……あ、ほら!」
話している途中でベルの周りが光り出したので俺はそれを指さしてユーリに教えてやる。
「……私は、ただカノンさんとベルさんの召喚の契機をつくるためだけに……呼ばれたのでしょうか?」
「いや、別にだけって訳じゃないんだけど……」
少し話の雲行きが怪しくなっていたのでフォローしようとした途端……
「ぐすっ、ぐすっ」
「お、おい、ユーリ」
ユーリはいきなり両手で顔を覆い尽くしてしまう。
「折角、折角、体も大きくなって、やっと旦那様のお役にたてる、そう思っていたのに」
「いや、あのなぁ……」
「お慕い申し上げる、旦那様からにすら、役に立たない、そうおっしゃられてしまって、私は、どうやってこの世知辛い世の中を、渡って行けば……しくしく」
……言葉でまんま「しくしく」言いやがる。
「……別に役に立たないと言っているわけでは……」
「旦那様以外の醜い男共に、私は肌を晒さなければ生きて行けないことになるのでしょうか!?それで旦那様のお役に立てるのでしたら、それでも…………ですが、願わくば、旦那様にだけこの白い肌を見ていただきたかった……しくしく」
「……………………」
「あの時助けて頂いたご恩を、何一つ返すことができないまま、私は旦那様の下を去らなければいけないのでしょうか!?こんな、こんな仕打ちって……しくしく」
「あー、もう、分かった、分かったから!……はぁ、これからカノンを迎えに行く。その時戦闘が有る可能性もあるから、ユーリは後衛を頼むな?」
「はーい♪かしこまりました、旦那様♪」
コイツ……
見た目おっとりしていてトロそうなのにこの計算ずくでの態度。
何なの!?ユニコーンなのに中身こんなんでいいのかよ!?
くそっ、フェリアには何だか嫌われてるっぽいし、リンはリンで一癖ありそうな感じだし。
これからの聖獣達とのコミュニケーションにかなり不安を覚えてきたな。
そこからはかなりスムーズに事が運んだ。
ベルが召喚されてから大体3時間位入り口で待っているとカノンがベルと共にやってきた。
俺達も入り口に行くのに今度は明かりが有ったので迷うことなく辿り着けたし、モンスター、殊話題に挙がった“ジョーカー”なるものとも遭遇しなかった。
「ここが……“死淵の魔窟”か。まさかこんな成り行きでここに来るなんてねぇ」
カノンもベルから話を聴いていたようでワープしてからは少し感慨深げな様子だったが、直ぐに真剣になる。
そうしてダークドラゴン達の元に戻る際にもモンスターとの遭遇は無かった。
カノンはダークドラゴンの存在にもまた驚いてはいたが、とりあえずは剣を抜いてもらうことにする。
「えーっと、この刺さっている剣を抜けばいいの、マスター?」
「ああ、俺もそこのウォリア・ドラゴンも無理だったがカノンなら抜けるはずなんだ」
「分かった。本当に辛そうだもんね、……うん、私が抜くよ……よっと」
ブスリッ
ワーオ、あきれる位あっさりと抜けたね!
カノンの顔もキョトンとしている。
「え?これでいいの?マスターが抜けなかったのに私がこんなに簡単に抜いちゃって……」
「いや、それでいいんだよ、カノン。良くやった」
「マスター……う、うん。ありがとう」
『嘘、だろ!?俺がどんなに力を入れても抜けなかった剣が、あんな華奢な女に……』
「よし、これで後は回復魔法を……」
『ダ、ダメだ!それは待ってくれ』
おりょ?
ダークドラゴンに回復魔法をかけようとしたところにウォリア・ドラゴンからのストップがかかる。
『母さんに回復魔法はダメだ!!』
『……済まないね、私の体は闇その物なんだよ。治癒の属性を持つ回復魔法を使われても回復しないんだ』
「何それ?ゾンビみたいにダメージ受けるとか?」
『母さんをゾンビ何かと一緒にするな!回復しないだけだ』
「え!?でもじゃあ、サラちゃんは……」
『まだこの子は子供だからね、体のつくりが普通何だよ。私はもう大人の竜』
「ドラゴンの体は成長につれてその特徴に特化していくんじゃ。つまりは多くの雛竜はどの竜でも大して差は無い、ということじゃな」
リゼルが解説を加えてくれる。
もうどちらが説明するかで揉めはしないようだ。
≪となると……ダークドラゴンさんはどうやって回復なさるんでしょうか?≫
『……私は普段回復しなければいけないほどのダメージを負わないから……』
うわー、強い奴特有の悩みだ。
いるよなぁ、傷は唾つけときゃ治る、位にしか考えてない強者……いや、普通に元の世界ではこんなパワフルな奴いないか。
うーん、じゃあどうしようか……
「マスター、闇魔法を使うときの魔力じゃダメなのかな?」
「それでもいいかもしれないけど……」
結構ドラゴンの傷は深い。
カノンの闇魔法も俺の闇魔法もそれなりの威力はあるだろうがドラゴンの元々の体の大きさもあってそれだけで治るかどうかは結構怪しい。
あんまり呑気に考えている暇は無いんだが……
「ダークドラゴンよ、自分のブレスではダメなのか?」
『バカかお前!?自分のブレスを自分にあてられる訳が無いだろう!!』
「むむ、バカとは何じゃバカとは!?バカと言った方がバカなんじゃ!!」
『何だと!?』
「何を!?」
ウォリア・ドラゴンの言う事は全くもってその通りなんだけど……悪い視点じゃないと思う。
「じゃあさ、他人からのブレスからなら行ける?」
『……それなら、母さんのブレス程の威力が無くても……どう、母さん?』
『ブレスなら行けなくはないけど……この子が大きくなる頃には、もう……』
そう言って娘のサラちゃんを見るお母さん。
サラちゃんはそれをよく分かっていないようでただただ俺の周りではしゃいでいる。
いや、そりゃそうだ。
別に何十年先の話をしてるんじゃないんだよ、こっちは。
そう思いたい気持ちは分かるけどそんな先まで待ってたらそりゃ死ぬわ。
「いや、別にサラちゃんの話をしているんではないんですよ。……リゼル、『特性吸収(竜)』でさあ」
≪……ああ、なるほど≫
リゼルは直ぐに俺の考えに気付いてくれる。
「すいません、コチラに考えがあります。ただ……」
俺はダークドラゴンのお母さんとウォリア・ドラゴンに趣旨を説明する。
『……なるほど。それが本当なら……』
『うん、これで、母さんを……』
二人からの了承も得られたので、直ぐに始めることに。
「じゃあ、リゼル、頼めるか?」
「はい。……では」
≪ふん!我はどうせ察しが悪いよーじゃ!ぷんぷん≫
ふむ、どうやら表裏入れ替わっているようだ。
後、ぷんぷんは止めてくれ。
リゼルはダークドラゴン、ついでに関係ないけどウォリア・ドラゴンから『特性吸収(竜)』を使ってそれぞれの特性を吸収する。
「では、行きます。『変身(竜)』!特性“闇”」
リゼルの体は黒い光、と言えば良いのか、その光に包まれて次第にその輪郭が巨大化していく。
そして、ダークドラゴンのお母さんそのものとまではいかないが元のリゼルの体からは想像もつかない程の巨躯へと変化していった。
『ふー。このスキルは初めてですからね、少しキツイです』
≪おお!!おおお!!!ファルよ、巨大化じゃ、巨大化!!我は大きくなったのじゃ!!≫
『姉じゃ、今は落ち着いて下さい。可及的速やかに実行しなければいけないことが……』
≪巨大化じゃー!!巨大化じゃー!!≫
ガキか。
『……はぁ。もう姉じゃは放置で。私一人で進めておきます。……すぅ』
リゼルは大きく息を吸い込む。
空気だけでなく魔力もリゼルの口に集まって行くことが目に見える。
『……はぁっ、ダークブレス!!』
リゼルの口から吐き出された闇がダークドラゴンの傷口を襲う。
これ、何の事情も知らなかったら普通に仲間割れしてるようにしか見えないけど……
ダークドラゴンの体に吐き出された闇が掃除機に吸い込まれるようにどんどん入って行く。
見た目グロッキーなものなのに何故か傷口が塞がって行くこの世界の不思議。
うーん、体のつくりがそうなのだ、と言われたらそうなんだけどね。
『おお、おおう!!私の体が、闇で、闇で渦巻いている!!凄いぞ、力が満ち溢れて行くようだ!!』
『母さん、俺も感じるよ!!これで、これで……』
話だけ聞いていると危ない人たちの会話のようにも聞こえるな。
『わっはっはっは』
お母さんそんな高笑いとかするキャラだったっけ?
ああもう、唾飛んでる。
ビシャッ
……俺の頭にお母さんの口から飛び出た唾液がだらりと垂れる。
思った以上に臭くは無いが顔にまで垂れてきた唾液に流石に萎えてくる。
某アンパンの紳士も力が出ないときはいつもこんな気分だったのだろうか?
その後も元気になったお母さん達はいつまでも仲良く幸せに暮らしたんだとさ。
めでたしめでたし。
色々あったけどまあ、ちゃんと治ったからいっか。
あまりよく分かっていないだろうクレイに「……辛く、ない?……クレイ、抜く?」を何度も言わせている妄想をした私はきっとダメ人間なんでしょう。
名称は明らかにしていませんが、明かりとなるキーアイテムもああいう方法で入手するのも個人的には有りだと思います。
後今回のお話で気になるかな、と思うのは何でしょうね……魔剣とかダークドラゴンのお母さんと戦闘したという魔王や、“ジョーカー”ですか?
魔剣の扱いについては恐らく次話で触れるかと。
魔王も……もしかしたら次話でチラッと触れることになるかな?
“ジョーカー”は……まあ、スゴイ危険と言われているダンジョンですからね、そんな滅茶苦茶モンスターもいていいんじゃないですかね。




