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ここが北のワープ先……

今回は以前の2・3話と比べたら短いのでその点では問題ないかと。

短すぎるという程量が少ないということも多分ないと思います。


少なかったら……申し訳ありません。

「え!?」

「ぬおっ!?」

≪む。これは……≫

『ま、前が!』

「……うー……真っ暗」


ワープした途端、闇に視界を奪われる。

即座に生活魔法で明かりを灯そうとする……が、視界が明るくなることは無い。


「お、おい、どういうことだ!?全然明るくならないぞ!?」

「あ、主殿、これは何じゃ!?」

「分からん。魔法が発動している感覚はあるんだがどうしても明るくならない」


生活魔法ではダメなのかと火魔法を使ってみるも、効果は無く……


ここは声の響き様から判断すると……どうも洞窟状のものなのかな?


とりあえず壁か何かあればそこに手をつこうと思って、手を伸ばすと想像以上に柔らかい感触が手に。


ん?どうやら握ったりできる程の柔らかさのようだ。


力を入れるとむにゅっとした弾力が……え、むにゅ?


「……カイト、柔らかい?」


クレイの声がかかる。


「ん?あ、ああ、柔らかいが……」

「……クレイの胸、気持ちいい?」

「ああ。確かに気持ちいい……ってえ!?う、嘘っ、これ、クレイの胸なの!?す、すまん!!」


言われて直ぐに俺は手を引っ込める。

目の前の自分の手ですら見えないこの状況、クレイがどんな表情をしているかなんてわからない。


……この沈黙が辛い。

怒ってる、のかな?

事故だとは言え悪いことしたか……

でも……マシュマロなんて比べものにならない位……っといかんいかん。


「……ん、いい。ちょっと変な感触、だった。でも、クレイ、気持ち良かった。……もっと、触る?」


…………え?

今、なんて……


「ぬわー!!何でクレイの胸を触るんじゃ、主殿!?」


うわっ、ビックリした!

至近距離から放たれたリゼルの声に驚く。

ここでデカい声出されると余計に焦るな。


「あのな、こんな自分の目の前ですら見えない状況だぞ。故意に選択して触れるわけないだろう。事故だ事故」

「な、なら、主殿、我はこっちじゃ!!こっちに来れば我の胸があるぞ?」

≪姉じゃ、そんな胸を持ち上げる素振りをしても恐らく全く見えて無いです≫

「だから、別に触ろうと思っていたわけじゃないんだよ。んなくだらないこと言ってないで今はこの状況を把握することに……」

「くっ!!主殿が来ないなら我がそっちに行く!!そこで待って……」

『痛っ!!こらっ、尻尾を踏むな!!』

「ぬ?スマン。踏んだか?ではこっちに……」


ドンッ


「痛っ、おい、あんまり動くな」

「そ、その声は主殿か!?これが…………主殿~!!」


ペタペと体をまさぐる音だけが響く。

だが別に俺はどこも触られてはいない。

これは……


「…………リゼル、ウザい」

「ぬわっ!?ク、クレイか?」

≪どうやら姉じゃは嬉々としてクレイさんを触っていたようですね、主様と間違えて≫

「だから、こんな状況じゃ誰が誰だかも分かりやしねぇんだよ。とりあえず落ち着いて……」

「くそっ、誰が好き好んで貴様など……折角主殿との触れ合いを……うがぁ!!」

≪姉じゃ……落ち着いてください≫

「こら、暴れんな……」



……はぁ~。

リゼルはどこにいても騒がしいな。



さて……



妹の助力もあって時間を挟みようやく姉が落ち着く。



まずは今の状況を把握することから始めることにする。

とは言え何も見えないし声だけが頼りの状況という事しかわからない。


だからか……


「……全く話が進まん」

≪今の居場所が全く分かりません。ここは……どこなんでしょう≫

「……うー、わかんない。……暗い?」


いや、それは分かってるんだよ。っていうか暗いどころの話じゃない。

何も見えないんだ。

今も感じるのはクレイとリゼルの声だけ。


俺は以前にこれよりも圧倒的な闇を経験したことがあるから大丈夫なんだが、二人は……


クレイはこういうの大丈夫そうだよな。

なんかどんな精神攻撃にもぼーっとしてそうだ。


リゼルは……


「ぐわ~!!何なんじゃここは!?これでは主殿が見えんではないか!!主殿、主殿!主殿を感じるためにもっと近寄っても構わんか?」

「……状況が無駄に混乱するからそのままでいてくれ」

≪姉じゃ、気持ちは分かりますが今は状況を把握することに専念してくださらないと……≫


……この二人もまあいつも通りか。


……はぁ、うちの女の子達は図太いなぁ。


……あれ?

ちょっと待て、もう一人、いやもう一匹……


「ベル、どうしたんだ、さっきから黙って」

『……カイト殿、光は灯らないん、だよな?』

「ん?……あ、ああ。さっきから生活魔法や火魔法、その他もろもろ試してみた。発動自体はするものの、一向に光がつかん」

『そうか…………それなら、もしかしたら』


ん?何か思い当たることでもあるのか?


『ここは……“死淵の魔窟”かもしれん』


ベルから何だかおどろおどろしい単語が出てくる。


「……何だ、そりゃ?」

≪“死淵の魔窟”、ですか!?……それが本当ならこれはマズイのでは?≫

『ああ、早く出た方が……』

「スマンが説明してくれんか?俺にはまだ何が何やらなんだが……」


名前からして危なそうってこと位は分かるが。

それ以上のことは全く。


「主殿もか?我も全く分からんぞ!!」


……くそっ、リゼル(姉)と一緒か。


『……“死淵の魔窟”。魔大陸の中でも特に危険だと言われているダンジョンだ』


魔大陸……それは流石に以前エフィーに話を聴いたことが有る。

確かエフィーが仲間になってあまり間もない頃だったなぁ……っと、それはいいか。


この世界は大きく分けて4つの大陸に分かれている。

俺が最初降り立って、主に活動していたところが一番広大な“ブレーン大陸”。

その東にある海に囲まれた比較的小さな“ホウセン大陸”。

ブレーン大陸からは西にある“ウルガ大陸”

そして、ブレーン大陸の南、ホウセン大陸の南西、ウルガ大陸の南東にあるのが件の“魔大陸”。


その名からも推測できるように魔族・特に強い魔物が主に活動している。

そして……


「おう、ここは魔大陸じゃったのか!なら近くに魔王なんかもおるんかえ?」


そう、魔族や魔物がいるんだから当然魔王が活動しているのもこことなる。

今もしかしたらそこにいるかもしれないのか……


『……いるかもしれないな。ここが“死淵の魔窟”なら、代々魔王が活動している魔都“ウラトナ”もそう遠くない』

「……ほぉ。ベル、詳しいな」

『……カノン様と出会ったのも、この大陸だったからな。上級の魔族にとっても“死淵の魔窟”は特別なところだ。カノン様も常々俺に話されていた』

≪“死淵の魔窟”は他の大陸から来る冒険者なんかが魔都に着くには必ず通らなければいけないところだと聞いたことが有る、です。あまりに危険だとして熟練の者達でも最低2~3組以上のパーティーで挑まなければ即座に命を落とす、とか≫



……マジか。

ってか何でそんな凄いところなのに俺にはその情報が入ってこないんだ?

しかもそれが事実だと何でそんなところと孤島が繋がっているのか……

天使達との共通項も一切見出せんし。


「……なるほど。それで、どうしてベルは今いるここがその“死淵の魔窟”だと?」


そうは言っても問題はそこだ。

ここが類似の場所という事も有り得る。

正確にここがどこだか判断できないと意味が無い。


『“死淵の魔窟”の殆どの空間は暗黒に覆われている。太古の大昔に“大精霊シャドウ”が光を嫌い施した自分の影だと言われているが実際のところはわからん』

「うーん、何だか遠い話じゃのぅ」

「まあそれは俺も思うが……」

「……シャドウ……6大精霊の1つ?」

「ああ。それが関係するかどうかは分からんがな」

『……この暗黒は特殊で、普通の明かり、もちろん魔法で灯した火なんかも受け付けない。どうやって明かりを点けるかは……』

≪……あ、今思い出したです。……ルナの光で固めた特殊な蝋にイフリートの炎を……とか何とか過去に耳に挟んだことが≫

「おお、ファルはスゴイのぅ、我はそんなこと一切聞いたことが無いのに……姉として鼻が高いな!!」

≪私は妹として少し恥ずかしいです。姉じゃはもっと世間を知って下さい≫


……うっ、俺も知らなかったからその言葉は耳が痛い。


それにしても……

イフリートの炎に、ルナの光で固めた蝋……あるよなぁ、そういうキーアイテム持ってないと進めないダンジョン。


結構終盤だからゲームじゃあんまり気にしなかったけど……


確かにその通りなら俺が色々試しても明かりが点かないことに一応の説明がつく。

何よりそれ以上の有益な情報が無いんだ。

今のところはそれを前提として話を進めるしかないだろう。


しかし、うーん、そうすると……

これ、もしその通りだとするとさ……ヤバくね?ワープの光すらもう分かんねえよ?


『今の俺達の臭いはあるが入り口の臭いはここに入って直ぐに途切れてしまった。どうやったら戻れるのか……』

≪……そうですね、戻り方が全く分からない、です。これは……マズイです≫

「?……どうしてじゃ?何がマズイのかえ?まっすぐ北に向かえばとりあえずは知っている大陸に戻れるのじゃろ?」

「……リゼル、俺達が話しているのはそっちの戻り方じゃない。……今ここからの脱出方法だ」

「……ほへ?」

≪……申しわけありません、主様。姉じゃがこんなんで≫


……はぁ。

頭が痛くなってくる。

半分は優しさでできてる頭痛薬かあなぬけ〇紐が欲しい……


サクヤを呼んでもいいがいきなりサクヤが横から消えたらレンが困るだろう。

召喚については話してあるがサクヤが増えて解決できるかもそもそも分からん。

出来る限りは最終手段とした方がいいだろう。


「……あっち……気配がする。……行ってみる?」

「え?クレイ、気配って……」


しかもこの状況じゃ言葉であっちって言われてもどっちか分かんねえよ。


「む!?クレイよ、また手柄の横取りか!!そうして主殿から褒めてもらう気じゃな!!むむぅ~、だったら主殿、我はそっちから何やら気配を感じるぞ?」

≪……主様、クレイさんがおっしゃった方を捜索して見ましょう≫

「……そうだな」

「な、な!?何故じゃ、主殿!!」

「仮にクレイの言っている方向とリゼルが言っている方向が一緒ならそのままクレイの言っている方向がリゼルの言う方にもなるんだからいいだろう」

「う、うむ……じゃ、じゃが」

≪違うのならクレイさんの勘と姉じゃの残念さという二つの根拠があります。姉じゃって方向も音痴でしたよね?……あの日の買い物のことを忘れたとは言わせないですよ≫

「ぐ、ぐぐ、ぐわぁ~!!」


……まあ要するに方向音痴の逆に行けばとりあえずは安心だな、ってことだ。

こういう時にはクレイの勘ってのも一応の根拠としていいだろう。



さて……



俺達はクレイとリゼルの言葉を根拠にダンジョンを進むことにする。


うーん、でもよく考えてみると『気配』って言っても結構漠然としてるよな。

この中を捜索している冒険者かもしれないし、一番有り得るのは普通にモンスター。


前者だったらこの中を捜索・または抜けるために入ったんだから、キーアイテムだって持ってるだろう。

何とか交渉して一緒に行動するかすればいい。

それ以外にドタバタする可能性もあるがまあこっちの方がまだマシだろう。


後者だったら……俺達からは見えないのに相手は見えている可能性がある。

これが一番最悪且つ有り得る可能性。


……まあ、クレイの直感を信じよう。

何だかんだクレイはこれで生きてきたんだ。


その御利益に預かろうではないか。



歩き始めて30分程経った。

特に何も……起こらな……


「痛い!!」

『おい、また踏んだぞ!!』

「……うー、ぶつかった」

≪これで6回目、ですか≫


訂正。

何も見えないことで起こる弊害以外は何も起こらない。

何にも遭遇しない、というのはある意味では幸運、ある意味では不運。


うーん、「気配が」って言ってたから結構近くだと思ってたんだが……

クレイは特に何も言わない。

どうしよう……


「……ん、気配、強くなった。……もうすぐ」


お!

困っていた矢先に後ろからクレイの声がかかる。

ほう、やっぱりすごいな、クレイは。

そう言うの感じるものなのか。

俺には全然なんだが。


「きえー!!我だってそれ位感じておるわ!あれじゃろ!?ちょっともわーっとしてて、ぶわーっとしてる、あ、あれじゃろ?」


……なんじゃそりゃ。


≪姉じゃ、嘘はいいです。私と感覚が一緒なんですから、姉じゃが何も感じ取っていないこと位バレバレです≫

「ぐっ、ファ、ファルよ、いらんことは言わんでいいんじゃ!全く、妹の頭が固いと姉は苦労するもんじゃなぁ」

≪……姉じゃ、あの買い物の時のこと、全部主様に……≫

「スマンかったぁー!!我が悪い!ファルはいつも全部正しいな、うん!我はそんなファルの姉で本当に良かった良かった!!」

≪姉じゃ……自分と言うものは無いんですか……≫



……ファルも頭が痛そうだな。

ファルを気遣う俺の優しさ以外の半分の成分が分かったら頭痛薬を造ってあげることができるだろうか?



クレイの言葉に従って進むこと更に30分。


すると……



「うっ、眩しっ!」

「ぬわっ!!ひ、光が!!」

「……うー」

『外に、出れたのか?』

≪ここは……どうやら、違うようです≫



ファルがいち早く状況の変化に気付いて言葉を発する。

彼女の言う通り確かに明るいところには出たが、外ではないようだ。


俺が初めてライルさんと潜入した洞窟なんかよりはよっぽど広い。


どうしてこの場だけ闇が及んでいないかは分からないが……


広さや闇が及んでいないことからしてこの場は一応重要な所ではあるんだろう。


さて、クレイが言っていた気配というのはここからなのだろうか?

何も……いないが。


「……この先に、違うでっかい気配が、する」


クレイが二つある内の一つの穴を指差してそう言う。

「違う」……ん?


「クレイが言うこの先にいる気配ってのはさっき言っていた気配とはまた別なのか?」

「……うん。さっきのは……あ」


クレイが今度は残りのもう一つの穴を指す。

そこから人が……いや、あれは……


『な、何だお前等!?』


良く見ると人ではないし、言葉も『モンスター言語』を使っているから解せている。

……何だあれは?

人、とは言えないしだからと言ってモンスターとも言えないどっちつかずの姿だ。


尻尾や翼が生えているしなんなら立派な爪や角もあってそこからしたらモンスターと言ってもいいだろうが、ベースは完全に人間なんだよなぁ。

かと言ってカノンのような魔族か、と聞かれたら素直に首肯はできない。


これは……


『さては……お前等魔王の手先だな!!ここまできやがったのか!!』


いきなり息巻いてそんなことを発する目の前に現れた生物。

魔王の手先って……


「いやいや、俺達は別にそんなんじゃ……」

『くそっ、そうはさせるか!!……俺が一人ででも……はぁー!!』


な!?

全く聞く耳持たずかよ!


ちっ!


俺はすぐさま剣を抜き、クレイとリゼルも臨戦態勢に入る。



『はぁ!!パワーショット!!』



未だ俺達との間には距離があるのに奴は右拳を振りかざすそぶりを見せる。


が、その動作の後離れた位置で立っていたはずのクレイが攻撃を受け後ろに押される。

な、何だ今のは!?

クレイの後ろから見たからきちんとは分からなかったが……


俺のウィンドバーストに似ている、か?……でも、威力は桁違いだな。

俺の風魔法でクレイを押下がらせる程の威力があるものなんてない。



「……問題、無い」

『今のを防ぐか!?……ちっ、魔王の手先め』



どうやら今の攻撃には結構自信があったらしい。

威力も確かにかなりのものだし先手を打って放ったものだったからな。

クレイに防がれて奴が驚いているのがわかる。


≪姉じゃ、あれは流石に私達では防げるかどうか……≫

「うむ、分かっておる!うーん……そうじゃ!!『特性転用』で『機械』を使ってみるか!……はぁ!!」


リゼルは直ぐに判断を下しスキルを使用して駆け出す。

戦闘に関しては二人の能力を信頼しているので指示などは別に良いだろう。


クレイも体勢を立て直してリゼルと二人で攻撃に向かう。


「ベル、流石にお前の防御力じゃ一発かもしれん。遠距離攻撃に徹してくれ!」

『分かった!』


奴を鑑定したらレベルが63と出て、能力値もレベルに見合った高さを誇る。

特に攻撃力が半端ない。

クレイとリゼルが前衛を務めてくれるんなら俺は後ろから、ってことになるのかな?


奴の戦闘能力を考えたら長引かせるのは得策じゃない。

できるだけこっちも威力の高い攻撃で早々に終わらせる必要がある。


なら……




=====  リゼル視点  =====


主殿が何やら始めたようじゃ。

普段は詠唱などせんはずなのに……あの様子じゃと少々時間がかかりそうじゃ。

―ですね、主様が専念できるよう前衛は私達とクレイさんで果たしませんと―


うむ、クレイと、というのが何とも癪じゃが主殿のためには仕方あるまい。


『魔王の手先め、死ね!!』


さっきから魔王の手先だなんだとうるさい奴じゃな。

―姉じゃ、言葉が解せるですか?―

ん?そう言えばそうじゃな……ほほう!我もついに神の域に……

―いやいや、別に姉じゃは今までと何一つ変わってないです。進歩がなさ過ぎて逆に退化しているんじゃないかと心配、です―

むむ!?ファルは最近遠慮がなさ過ぎんか?我は悲しいぞ。

―姉じゃだから、です―

そうなのか?

んー、でもその通りだとすると……っと、考え事は後にせんと。



彼奴が我に迫ってくる。

さっきのクレイへの攻撃で彼奴が強いということは分かった。

だが我も引けん。


戟を構えて受け止めようとする。


『ふん、甘いわ!!』


じゃが彼奴は我の構えを見てから攻撃の方法を変える。

戟の前でその拳を鋭く切り替えては我の腹を狙ってくる。

普段ならそれを見て我も対応できると思うんじゃが……


彼奴の速さもあるのやもしれんが、特性を使ってから何だか体が重い、ような……

―太ったん、でしょうか?……こんなこと、主様には言えませんね……っと流石にマズ……―


ドスッ


我もこの一撃は覚悟したんじゃが……


『な!?な、なんだこの硬さは!?さっきの奴もそうだがコイツ等の強さ……くそっ、ただの手先じゃない、コイツ等、四天王クラスか!?』


避けたり受け止めることはあきらめて身構えていたんじゃが思ったような衝撃が来ん。


確かに攻撃を受けはした。

じゃが彼奴の攻撃で我がのけ反るなんてことは無く、まるで我の腹に…腹に……腹に…………

うわぁーん、ファルよ、どうしよう!?

―自分の知能を顧みず無理に何かに例えようとするからそうなる、です。身の丈に合った振る舞い方をしましょう―

我だって主殿に褒めて欲しいんじゃ!!『リゼルは賢いな、偉い偉い』って!!

―はぁ……腹にめり込むはずの拳が何か鉄板のようなものにでも遮られてそれ以上進まないみたいだ、とでも言っておけば……―

それじゃ!!

我が言おうとしていたのはまさにそれなんじゃ!!

やはりファルと我は姉妹じゃな、うん!


―そこを姉妹で済ますんですか……まあいいです。……ですが、これが特性『機械』の効果、ですか?使い道は考えないといけませんね―



「……ふん」

『ぐっ!』



動揺している隙を逃さずクレイが彼奴を襲う。

くっ、こ奴は我の手柄を悉く奪っていきおる。

―クレイさんも別にワザとそうしているわけでは……―

いいや、きっとこ奴はワザとやっておるんじゃ!

我が手柄をたてて主殿に褒められるのを恐れておるに違いない!!

―いやいや、クレイさんは姉じゃみたいな邪念を持っている人ではないと思う、です―


何故我では無くクレイを庇うんじゃ!

ファルよ、姉とクレイ、どっちが正しいと……

―少なくとも人間としてできているのはクレイさんだと思ってるです―

ぬわっ!?

……くっ、最近主殿と妹が冷たい……


―そんな落ち込まなくても、手柄をたてればもしかしたら主様が褒めて下さるかもしれませんよ?―

はっ!?

そうじゃ、今は主殿のために時間を稼ぐことが先決じゃ!

―その通りです。今はやるべきことを忘れないでください、姉じゃ―

うむ!!


クレイなどに負けてられん!

我等も行くぞ、ファルよ!!

―はい、です―


=====  リゼル視点終了  =====


上手いことリゼルとクレイが時間を稼いでくれたようだ。

それだけでなく二人だけでもかなり善戦している。

ベルの攻撃は目くらまし程度にはなっているが如何せん相手が強すぎてダメージを与えるには至っていない。


だから今は二人が何とかしてくれていることになる。

イメージも纏まったし、必要な魔力も練った。

よし……


後はタイミングだ。


「クレイ、リゼル!!」

「む!!主殿、もういいのか!?」

「……カイト、行ける?」


二人は奴から目を離さず後ろの俺に確認する。


「ああ。とりあえず……」

「……分かった……ん!」

「な!?クレイよ、また抜け駆けか!?わ、我だって分かって……」

≪姉じゃ、ボケている暇はありません。主様が攻撃できるよう隙をつくるです≫

「ええ~い、分かっておると言うておるに!……てやぁ!!」


二人が俺の意思を理解して即座に行動に移る。

有りがたい。


『くそっ、このままじゃ守れない。……力が、力が……力が!!……うぉーー!!』



ん!?何だか奴の様子がおかしい……

いや、最初から正常かどうかなんて知らないけどさ。


周りの空気もピリピリしていて……

奴からもただならぬ力が感じられる。

これは……ヤバい!


「二人とも、下がれ!!」


俺は焦って二人に指示する。


「じゃが……」

「……カイト……」

「いいから下がれ!!ちょうど隙になってる!!直ぐにでも放つから、早く!!」


相手の必殺技のタメなんか待ってられっか!

俺は別に正義のヒーローでも何でも無いんだよ。

折角あっちから隙を見せてくれてるんだからそれを利用しない手は無いだろう。


「わ、分かった!」

「……ん。了解」


二人はバックステップを踏んでベルがいる所まで下がる。


『うーがー!!』


感覚的にもう6割位は溜まっているだろうか。

速すぎだ!!くっ、もう是非もない。


行くぞ!!


さっきまで練っていた魔力の最後の部分を完成させる。


『MPチャージ』2倍!!


一方で未だ力を溜めている(?)奴に俺は魔法を放つ。


このレベルまで造り上げるのはイメージをつくるのも大変だし『MPチャージ』も2倍まで練れば練る分強くなるがそれだけ時間もかかる。

これだと『無詠唱』意味ないんじゃないかとも思うが恐らく『無詠唱』があってこれだから『無詠唱』が無い奴が使うともっと時間がかかったと思う。

そこから考えるとやっぱりエフィーに6体を任せたのは正解だったな。



「食らえや、完全凍結アブソリュート!!」



サクヤとの契約もあるし、時間をかけてイメージも固めた。

威力も精度も十分のはず。



奴の足先から急激に凍り始める。

氷漬けにした後は指先の神経一つ1mmたりとも動かせないのが理想。

絶対零度にまで、なんてことは実際の理論等を知ってない以上想像で何とかするしかない、が、それでいい。


とりあえずは奴のモーションが振り切れる前に氷漬けにすれば必殺技なんかも発動せず終わる。

だからどっちも捨てることはできないが今追求するのはどっちかと言えば凍る『速さ』だ。


『死ねぇ!!ブルータルクロー!!』


凍って行く下半身を気にもせず奴は腕を振り上げ、そして下す動作に。

何でそんなにタイミング良く力が溜まんだよ、と当り散らしたくなるのを抑えて氷の精製に全力を注ぐ。


その間にも氷は奴の自由を奪うべくどんどんその体を登りつめて行く。

間に合うか!?



それは本当に瞬きする間もない程わずかな時間だった。

上半身、頭、そして腕が凍りきった。

腕もまたその時に振りおろし終わって、そのために氷の中からミシッという音がしたが、奴にとってはそれも後の祭りとなったようだ。


外から見たら氷は全長3m以上にもなり、ヒビ一つ見当たらない綺麗な結晶となっていた。

だがよーく見てみると、中の奴は最後物凄い必殺技か何かを放とうとしていたはずなんだが……どうも後ろの穴を通せんぼするかのように手を広げているようにも見える。


……気のせい、か?


「……ほへー、スゴイのぉ、主殿の魔法は」

≪本当ですね、これは……≫

「……カイト、凄い」

『流石だな、カイト殿』


皆が皆俺の魔法に感嘆をあげる。

『MPチャージ』をエフィーから使わせてもらったとは言え自分でも確かにスゴイ威力の魔法だと思う。

だが俺は未だに背中から冷や汗が止まらなかった。


魔法が間に合っていなかったら、どうなっていただろうか……


俺が魔法を放つために皆の前に出ていたから一番に攻撃を受けるのは俺だった。

それ自体は別に構わない。

もし、人間の体一つでは到底防ぎきれないような威力の技だったとしたら……


「……殿、主殿、どうかしたのか?顔色が優れんぞ?」

≪大丈夫ですか?何かさっきの戦闘で攻撃でも……≫

「……カイト、大丈夫?……元気、無い?」

『カイト殿が造った氷があるからひんやりしているのに、額から汗が出ているぞ?』

「いや、スマンスマン。ちょっと魔法に魔力を練り過ぎたみたいだ。一気にMPが減るとやっぱりキツイなぁ。ちゃんとMPポーション飲んでおくよ。皆はどうだ?必要な分出すから言ってくれ」


話をすり替えて誤魔化すことにする。


「そうか?なら良いが……ファル、どうじゃ?」

≪それほど魔力を使ったわけでは無いですが念のために回復しておいた方がいいかと≫

「了解」

『あまり無理はするんじゃないぞ?カイト殿、何かあったらいつでも言うんだぞ?』

「ああ。ありがとう」


ふぅ、どうやら誤魔化せ……


ギュッ


……え?

背中に柔らかな、そして温かい感触が。

腕が体の前に回されてより密着感が伝わってくる。


俺は慌てて振り返る。


「……カイト、無理しちゃ、ダメ」

「ク、クレイ、これは……」


クレイは顔まで俺の背中にピッタリとひっつけている。


「……カイト、頑張る、良くない。……もっと、力抜く。それまでクレイ、ギュッする」

「ぬわー!!ク、クレイ、お主何をしておる!!」

「……?…………ギュッ?」


クレイはよく分かっていないようで首を横に傾げる。


「そういうことを言うておるのではないわ!!ええい、主殿から離れんか!!」

「……いやー、クレイ、カイトギュッする」


そう言うとクレイは更に回した腕の力を強めて密着してくる。

ちょ、ちょ!


「わ、分かった、分かったって!クレイ、分かったから一端離れてくれ」

「……カイト、ギュッ、嫌?」


嫌かどうかの問題なのか!?

さっきと言ってることが……いや、それは今はどうでもいいんだよ!


密着しすぎて、む、胸の感触が……


「嫌とかじゃなくて、な?まだやることあるから。アイツが出てきたところも気にはなるが、今アイツの背にある穴とか調べないと」

「そうじゃそうじゃ!!羨ま……けしからん!!我等にはやらねばならんことがまだあるんじゃ、一人だけそんなことしているでない!!」

≪姉じゃ……危なかったですね、本音がちょびっと出かかってた、です≫

「ほら、な!?皆で出るためには先ずやらなければいけないことをしよう、クレイ。別に無理しちゃいないさ、ちゃんとさっきの戦闘でも二人を頼っただろう、な?」

「…………分かった。でも、無理しちゃ、ダメ」

「ああ。分かったよ」

「……ん。じゃあ……」


クレイはそれきり俺からすぅっと離れて行った。


でも、まだ背中にはクレイの温もりが残っていて……

もうちょっと、あのままでも……いや、やることが有るってのは事実だ。

休むのはちゃんと出れた後でいい。


さて……

気持ちを切り替えて探索しよう。


それぞれHPやMPを回復してから俺達は2つあるうちの1つ、奴の背中にある穴の方へと向かうことに。


「……こっちから、おっきな気配、する。……でも、ちっさくなってる」


クレイ曰くそう言う事らしい。

良くは分からんが何かしらのイベントが有りそうなところの方が今はかえって安心できる。

というのも何のイベントもないところだと普通に強いと言われている野良モンスターとのエンカウントしか期待できない。


どっちかというと外に出る希望が有りそうなのはイベント、つまりはクレイが言う大きな気配が感じられる方だ。

言い方からすると普通にボスでもいるのかな、と思うのだが「ちっさくなってる」ってのが一方で何だかそれだけではなさそうだ、と考える余地を残す言い方でもある。


本来なら面倒くさそうなことは避けたいが今回はそっちに積極的に行った方がいい根拠もある。

クレイもそこまで警戒はしていないし、必ずしも戦闘しなければならないということにはならないだろう。

なるのなら…………どうしよう。

流石に真っ暗の状態で戦闘、なんてことにはならないよな?

そんなボス戦聞いたことないし。


それに今戦ったコイツとの戦闘中も暗くなる、なんてことは無かったしそもそも最初から暗くは無かった。

その先にいるボスとの戦闘が真っ暗状態でスタートってのは中々に想像し辛い。

そんなことする位なら最初からこの空間も暗くして侵入者の生存率を下げた方がいいに決まっている。


まあ論理的に幾ら詰めたって実際にはそうではないってことだって少なくない。

それは逆の穴を目指したところで変わらないんだ。

つまりはどうしたところで想定外のことが起こる可能性と言うのは完全に排除しえないんだからぐだぐだ言ってないでとりあえずは進もうってことだ。





そうして俺達は外へと出るための手がかりを得るために穴の奥へと進んで行った。



一応戦闘した相手の種族というか、一応の正体というのは推測できる情報がお話の中には記述してはありますが別に次話で分かることになりますのでそこまでお気になさる必要は無いかと思います。

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