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お前……

また滅茶苦茶長くなりました。

区切ってもいいんですが……

とりあえず今回のお話はこれで行きたいと思います。


何かご意見等ございましたらお送りいただければと思います。

「……本当に、久しぶりだね、海翔君」


金髪碧眼の少年は優しい目をして俺を見つめる。

その姿はとても懐かしく、だが、何度も見てきた様な感覚さえ思い起こさせる。

ああ、本当に……


「良くここまで辿り着いたね、流石だよ……それでこそ僕の最後の相手として倒し甲斐があるってもんだよね……行くよ!」

「何でいきなり戦闘モードでそんな話になんだよ!?ラスボスお前ってオチ!?」

「ああ、そうか、なるほど、これはちょっと今っぽくなかったかい?ならそうだね……世界の半分を君にくれてやるから、君の人生半分くれ!」

「誰もテメェと等価交換なんてしないからな!?『半分どころか……』なんて流れにもならないし、そもそも他のものと混じってるし!」

「僕のものにならないのなら帰れ」

「『乗らないのなら帰れ』みたいに言うんじゃねえよ!最早それは関係なくなってるわ!」

「……ふぅ、会わないうちにまたさらにツッコミがキレキレになってるね。的確に僕のボケにツッコんで行く。やっぱり僕達って相性がいいのかな……ベッドでの相性も……」

「言わせねえよ、それ以上は!?」


神様コイツは本当に相変わらずだな……

はぁ、さっきまで重い雰囲気でここまで来た俺達は何だったんだ……ってあれ?

ゴウさん達が何だか狼狽しているような……


「ああ、今僕達が話しているのはそのまんま日本語なんだ。『異世界言語(会話)』は発動してないから。この世界にとっては他言語になるから僕達が話している内容がわからずどうすればいいか分からないんだろうね」

「じゃあ、俺達が話していることはそのまんま俺達二人しか分かってないのか?」

「うん、そうなるかな……となると、二人っきりの内緒話だね♡」

「やめろ、ウィンクすんじゃねえ、気持ち悪い」

「もう、海翔君はつれないな」

「はぁ、しょうも無い話はいいんだよ。……で、これがどういうことか説明はあるのか?」


俺がため息交じりにそう尋ねると神様もそれに応えるように話し始める。


「そうだね……まず神様と言っても僕にもできることには一応限界と言うものが付きまとってくるんだ。そんな中君と今話せているのは数少ないこの世界へと介入することができる僕の3つの権利の内の1つがそれを可能としている。……ここまではいいかい?」

「……まあ、一応ついて来てはいる」


今回のことと今の話しに関係性があるのかは分からんが。


「それは良かった。……君はもうこの世界で異世界からきている人間が自分だけじゃない、ってことには気づいているよね?」

「……ああ」


サクヤの製作者のことだな。

残りの2つの権利ってのも気にはなるが、今は挙がっている話に集中しないと置いて行かれる。


「……この里を、ひいては天使と言う概念をこの世界に確立したのも、実は異世界人なんだ」

「……は?」


……またいきなりな話だな。

俺以外に一人、つまりサクヤの製作者という異世界人がいたんだから、他にもいる可能性は考慮していたんだが……

こうも直ぐにその可能性を確かめることができるとは。




それにしても、なるほど……そういうことか。

まだ日本人だ、とまで確定したわけでは無いが、かなりの蓋然性はある。

それだとカリンさんを見た時の既視感に一応の説明がつく。

天使は元々俺達日本人が祖先、ってことになるんだな。


「女性でね……機械マシンを作った男の子と言わば幼馴染の関係だったんだ、その子は」


幼馴染……

俺はその言葉に一瞬ドキッとする。

以前神様コイツが眠っている俺に話しかけてきた時にチラッとアイツの話が出ていた事を思い出す。


今更どうしようもない話ではあるが折角自分の命を使ってまで助けたんだ。

どうせなら何事も無く生きていて欲しいもんだが……


「その女の子は当初この世界にはいない天使として転生したんだけど……それが問題の発端だった」


ふむ、あまり面白い・楽しい話ではなさそうだな。

コイツがどうしてここにいるかというのはその権利の1つだという事は分かったのだが、それが今回の話とどう絡んでいるのかはやはりこれ以降を聴かないといけないらしい。

何となく話しぶりからしてもうその女性も生きてはいないだろうが、俺以外の転生者の情報を聴けるだけでも何か進展があるかもしれない。


「海翔君、男の子の方が何に転生したかは知ってるかい?」


神様が質問してくる。

コイツは神様である以上純粋に知らないから尋ねている、と言うわけでは無く俺の知識・理解の確認をしているんだろう。


「ああ……確か『ハーフエルフ』だったか?」

「そうだね……彼等の間に何が起こったか、分かるかい?」


いやいや、それだけの情報から推測しろってことか!?

結構無茶じゃ……いや、そうでもないか……


コイツから得た、二人が幼馴染だったという情報、当初この世界ではいない天使、それとあの製作者の話


~まあ今となってはアイツを守れた、それだけで良かったのかもしれない。本当に、自分でもそこら辺はもう良くわからないが~


これ等を総合して考えると……


「……うっすらとではあるが、分かったような気がする」

「多分大体君の考えていることと相違はないと思うよ。……簡単に言えば、この世界で受け入れられなかった天使の女の子のために、元からこの世界では忌避の対象とされていた『ハーフエルフ』という自分の種族を利用したんだ、彼は」

「…………」


……この場にエフィーやリゼルがいなくてホッとした。

いたら絶対何か言われてたな。

まあ俺のために言ってくれてると分かってはいるんだが……


「男のその後については本人が映像に残していたから大抵は分かってる。それで、女性の方は?」

「最初はもう酷い荒れようだったよ。女の子は男の子のことをずっと好きだったようだから、裏切られたように感じてしまってね……彼も罪だよねぇ、自分が狂人かのように演じて……ってどこかの海翔君と似たような話だね」


……くそっ、二人がいないと油断した。


「彼女が違う人と結婚して、彼が亡くなった後、今も使えている権利の要件が満たされたから僕が彼女に事の真相を話してあげたんだ」

「それは……やっぱりその話し方からすると男が死ぬ前に伝えてやることはできなかったのか?」

「うん。……申し訳ないことこの上ないんだけどね」

「すまん、まあ、お前にはお前の事情ってもんがあんだろ。気にしないで続けてくれ」

「うん。……真実を伝えた後女の子は色々と悩んで、悩んで、悩んで。そうして出した結論が、折角彼が助けてくれた天使という種を守ること」

「『守る』……なるほど、それが『守護天使ガーディアン』と絡んでくんのか?」

「うん。ここで、今回のことが出て来るんだ」


ふぅ、やっと本題か。

確かに悲しい話だとは思うが悲劇なんてことは別にここでだけあるというものでもない。

元の世界であっても俺自身がそうだったが事故だって有り得るし、予想もしない病気にかかって死んでしまうことだってある。殺人事件に巻き込まれることだって。

本人たちが死んでいる以上どうしようもないんだし一々感傷に浸っているわけにもいかんしな、まあここはそこの辺りでとどめておこう。


「彼女は確かに天使の種を守って行こうと色々なことをしたんだけど、一方で天使の力の強大さも同時に理解していた」

「確かにな、『守護天使ガーディアン』は脅威だ。あんまり増やし過ぎると力バランスが崩れるってことか」

「うん。だから……この里で言われている『神の裁き』なるものが考え出されたんだ。あの子……レンって言ったっけ?その子が『守護天使ガーディアン』じゃないのもそのためだね」

「は!?えっ、ちょっと待て、それはどういう……」


レンが『守護天使ガーディアン』じゃないのは予定されていたことなのか!?

そんな、そんなことって……


「天使がその強大な力を濫用することのないよう、天使の良心を担保するため、1000年に1度、『神の裁き』と題して天使達の行いを観察、その後、力が適切に行使されうるかどうかを判断する」

「……色々と聴きたいことは有るんだが、先ず判断権者は誰なんだ?」

「確かにそこは気になるところだよね。……一応それは僕だね。とは言ってもちゃんと基準はその女の子から聴かされてるからそれが恣意的なものになっていないってことは保証するよ」


仮になってたとしてもコイツが判断権者なら文句の言いようがないんじゃないか?


「……それはレンを選定したこともか?」

「あ、それは完全にランダム。天使の中から無作為に選ばれることになってるんだ。それと『神の裁き』がどんな内容かも選定された天使や時代によって変わってるね」

「それで、お前がこの里に下りてきたのは……」

「要するに裁きを下すためってことになるね」

「……なら俺と話してないで天使達に結果を話してやらなくていいのか?」


まだ後ろでパニくっている天使達を一瞥してから俺はもう一度神様を見る。


「本来ならそうなんだろうけどね。……でも、折角海翔君と話せる機会だし、海翔君は転生者だから全部事情を話して、それで、海翔君から必要な部分だけ彼らに話して貰った方が上手いこと事が進むと思って」

「いいのかそれで?俺は……」

「今回の『神の裁き』の可否に大きく関わっていたと思うよ、海翔君は。それに個人的にも……話したいこともあったしね」

「神様……」

「海翔君、ずっと見てたよ。君がリンカの町で親友のためにやったことも、ヴォルタルカで二人の姉妹と母親のことを想ってやったことも、全部」

「…………」

「神様と言う立場上『正しい』とか『間違っていた』とか言ってあげることは避けたいと思う。そういうのは君自身が考えて導き出した答えの方が、偉い人なんかにこうだ、と言われて従うよりも重みがあるってことは分かっていると思うしね」

「ああ。確かにそうだな」

「だから君が旅立つ前に君に言ったこと、それを守れなかったことに胸を痛める必要は無いよ、そもそもお願いだからね」

「…………」

「君は、敵を作るのが本当に上手だね。人間の汚いところを本当によく理解していないとできない芸当だと思うよ」

「……別に俺はそれで自分が綺麗だ出来た人間だと主張する気は無いぞ?」

「うん、それは分かってるよ。……一方でそう言う君を好きだと言ってくれる人も沢山いる訳だよね」

「…………」

「要するにね……君次第で、君は独りにも、周りに仲間が沢山ってことにもなり得るわけだよ。だから、君には色々と考えて欲しいなぁって」

「……なるほどな、言いたいことは分かった」

「これも、またお願いっていう形になるのかな?……でも、僕はいつか海翔君も分かってくれるって信じてるから」

「……有りがたく参考にさせてもらうよ、そのお願い。……今直ぐってのは多分……」

「ああ、直ぐになんてことは言わないよ。急いで理解しないまま言葉の額面だけを捉えても意味が無いと思うから。君が大切な人達と、一緒に分かって行ってくれるのが一番だと思う」

「…………」

「それで、後もう一つ個人的に謝っておかないといけないことが有って……」

「……ん?ああ、裁きのことか?」

「それもあるんだけど……謝っておきたいっていうのは別件だよ」


ん?今度はかなり畏まった様子。

コイツがこんな態度になるなんて、何が出てくることやら……


「前にちゃんと伝えれたかどうか分からなかったけど、君が命を賭けて守った幼馴染の女の子のことなんだ」

「……何かあったのか?」

「んとね、面倒くさい話が絡んでくるから分かりやすくするために色々と掻い摘んで話すとね、僕のいわゆる政敵が僕の失墜を狙っていてね、君と幼馴染の件を利用しようと画策しているんだ」

「……俺が神様の予定を変えてしまった云々って話か?」

「うん、それで、詳しくは話せないけど君にまた迷惑かけるかも……」

「……そうか、まあ今ここで考えても俺にどうこうできることでもないんだろう。伝えてくれただけでも感謝するよ」

「海翔君……うん、そうだね、この話は終わりにしよう。それで、後は……事務的な話かな。この里の財政って結構逼迫してるらしいね」

「ああ、詳しくは知らんがそうらしいな」

「実はね……君なら何とかできるよ」

「え?何だそりゃ、いきなり。具体的にはどういう……」

「僕が出せるのはヒントだけなんだ。君なら詳しい話を聴いたらきっとわかると思う。頑張って」

「……はぁ、まぁ、分かった。何とか頑張ってみる」

「うん。それと……ああ、『守護天使ガーディアン』を持ってなかった子、あの子ももう大丈夫だから」

「大丈夫って……それはどういう……」

「『神の裁き』は合格。彼女に『守護天使ガーディアン』を贈っといたよ」


それは……まあ良かった。

これでレンも……



「……ちなみに合格じゃなかったらどうなってたんだ?」

「そこは別に天使全員を処刑だ、みたいな極端な罰はないかな。天使の種を守ることも彼女の願いではあったからね。ただ、そうだね……不合格だったら、裁きに関する全てのことを天使達は忘れる。そして……その代限りではあるけど、『守護天使ガーディアン』を剥奪する」

「……なるほど、そういうことか。とすると、今までの裁きの結果は……」


裁きに関する情報がほとんど残っていないことからすると……

恐らく……


「過去5回行われて……全部不合格だったね。まあ1000年に1度という頻度だから、その時その時で裁きの内容も変わってたんだけど」

「うーん、まあまだ引っかかることはあるがそんなもんなのかな」

「天使とは言っても人間だからね、全く彼女が考えた通りってわけにはいかなかったよ」


そりゃそうだろうな、何しろ1000年単位でのことだ。

全部思い通りってなったらそれはもう予知の域すら超えている。


「ふぅ、こんなところかな。どう?色々わかった?」

「ああ、おかげでかなり参考になったよ。助かった」

「そうかい、それは良かった。じゃあ……死んでくれるかい?」

「いきなりだな、おい!この流れでどうやったらそうなんだよ!?」

「……君は、多くを知り過ぎた」

「お前が話したんだろ!?勝手に話といてその仕打ちは理不尽すぎるわ!」

「いやー、ごめんごめん、別れが近づくと寂しさを感じて、つい、ね」

「お前その件好きだなぁ。……まあこれが最後ってわけじゃないんだろ?」

「うん、まあ海翔君がしっかりと進んで行けば……あ、そうだ!」


いきなり大きな声で何かを思いついたような仕草をする。


「何かあんのか?」

「もう一つだけアドバイスがあったんだ」

「そうなのか?……で、その内容は?」

「あんまり具体的なことは言えないけど……そうだね、今君の置かれている状況を何とかしたいと思うなら……『Sランク』」

「『Sランク』……それを頼れと?」

「いや、別に頼れとは言ってないよ。まあ何かしら状況を動かす鍵にはなるかもね」


Sランク……つまりはSランクの冒険者ってことだよな。

冒険者登録する時にチラッと耳にしたが、自分とは無関係のものと思っていた。

それが今、まさかこんなところで……


「……分かった。頭に入れとくよ」

「うん。……じゃあ」

「ああ、ありがとな、色々」

「海翔君……ぐすっ」

「いきなり泣くなよ」

「海翔君、僕のこと、忘れないでね?」


流石に忘れんだろ。


「ああ、分かった」

「僕のお願いも、忘れないでね」


それは一応『お願い』と言う形なんだが……


「分かった分かった」

「僕との結婚の約束も……」

「ああ!!もういいからさっさと行け!面倒くさい!!」

「ああん!海翔君のイケず」


……うざい。


「分かったよ、照れ屋だな、もう……じゃあ、しっかりね」

「ああ」


神様は優しい笑みを浮かべながら手を振り、次第にその像から光は乖離していって、姿は完全に見えなくなった。


「あ、天使達が合格したらあげてくれってお願いされて預かってた6体を贈るね。合格するまでにちょっと時間が経ってるから言うこと聴いてくれるか分からないけど、海翔君なら何とかなるよね?」


消えた後も尚そんな声が聞こえた。

……え?

6体!?

ここで『6』って言う数字が出てきたら恐らくあれだよな!?


神様アイツが消えて行ったところから新たに今度は6つの光の玉が天から降りてくるように現れる。

その光の玉は地上に降りると、次第に人の形を成し、それぞれがそれぞれの姿に。


赤、青、黄、緑、白、黒。


それらの色の髪と衣装を基調とした女の子が6人。


これが……『六神人形シィドゥ・オ・ドール』か!?


なるほど、幼馴染の女の子が、製作者が死んだ後『六神人形シィドゥ・オ・ドール』を見つけて、神様アイツに預けていたのか。


それはそうとアイツの言う通りだともしかしたら襲ってくるかもしれないのか。

そうと分かっていればここで待っている必要も無い。

先手必勝あるのみ。

こっちには機械マシンを強制停止できる頼もしい味方がいるんだ!


俺はすぐさまサクヤを召喚する。


召喚陣から現れたサクヤは今この状況に多少戸惑っている様子を見せる。


「サクヤ、緊急事態だ、目の前にいるのは『六神人形シィドゥ・オ・ドール』だ!強制停止を頼めるか!?」

「ハ、ハイ!!分かりマシタ!!……ハァー!!」


戸惑いを見せるものの、サクヤは俺の頼みに応えてすぐに6体の下に駆けだす。

そうして6体一人一人に鳩尾への右ストレートを……ってえ!?


「とりゃ、テヤ!やぁー!!」

「ぐっ(ガクッ)」


一人、また一人とその的確な右ストレートの餌食になって行く。


えっ!?普通に実力行使なの!?

機械同士ミ〇カネットワークみたいに繋がってて機械的に機能をシャットダウンさせるとかそんなんじゃないの!?


「ふぅ。……終わりマシタ!ご主人サマ!!」


仕事を終えパタパタと駆けてくるサクヤ。


「強制停止って……ただの右ストレートなのか?」

「いえ、少し特殊な電磁波を発シテ動きを止めて、私の右拳カラ停止させる電流を流しつつ殴るんデス!!」


俺に質問してもらったことがそんなに嬉しかったのか、それとも強制停止する過程が楽しいからなのか、ニコニコとしながらサクヤは答えてくれる。


はぁ……

当たり前だが製作者の頭の中が俺には良くわからん。

今後もこんな意味の分からないこだわりがサクヤを介して垣間見えることが有ると思うと……


気が重くなってくるな。

よそう、今は目の前のことに集中だ。


俺はとりあえず停止した『六神人形シィドゥ・オ・ドール』をアイテムボックスに入れる。


ふぅ、色々有益な情報を聴けたし、過程は気にはなるものの『六神人形シィドゥ・オ・ドール』も手に入った。

さて、じゃあ天使達と話を……ってうぉ!?


俺が振り返るとそこには……


「ど、どうしたんですか、皆さん!?」

「知らなかったこととは言え、大変失礼なことを」

「本当に申し訳ありませんでした」

「「「申し訳ありませんでした!!」」」


天使達は皆胡坐をかいた後手と頭を地につけて一斉にそう告げる。

そう、皆俺に対しての態度がおかしいのだ。


「カイト、すまなった。まさかカイトが神の遣いだったとは……」

「そ、その、御遣い様、さ、先ほどは大変失礼な態度を、そ、その……」


ゴウさんや過激派筆頭のケンさんまで俺に頭を下げる始末。

これは……


「すいません、私はまだ何が何やら良くわかってないんですが。説明をお願いできますか?」

「皆がこうするのも自然だ。神の言語を解して、そうして俺達の目の前で対話して見せたのだから。最早神の遣いとしか言いようがない」


ああ!!

そう言えばあの話は全部日本語だったっけ!?

やべぇ、こんな恭しく接せられても面倒でしかないんだが……


「確かに会話はしてましたが……」

「俺達天使はカイトを神の御使いとみなし、その力になるという方針で決まった。カイト、俺達は必ずお前の力になるぞ」

「いえいえ、流石に私みたいな人間にそこまで下手に出なくても……」

「や、やはり御遣い様は俺の対応を怒っていらっしゃるのか!?ど、どうすれば……」


過激派筆頭がビクビクしてやがる。

別に怒ってないから!


くそっ、このままだとどこかのタイムスリップ三国志より酷いことに!

ちなみに俺は蜀が好き……っていやいや、そうじゃなくてだな!


一歩間違えると変な宗教団体が出来ちまう。

俺教祖とか嫌だよ!?

天使達は目の前で俺と神様アイツとの会話状況を見ちまった以上信じない訳にはいかないだろうし、あれを無かったことにするのもかなり困難を極める。


となると……


「ゴウさん、聴いてください。今迄黙っていて申し訳ありませんでしたが、私は国から追われている身です。ですから、皆さんに迷惑をかけることに……」

「国が敵なら尚更戦力がいるだろう。俺達天使は数は決して多くないが一人一人の質は種族の中でも最高水準だ。少数精鋭には最適だろう」

「いや、そう言う問題では……私が国から追われている、と言う内容自体は気にしないのですか?」

「……俺達は実際にカイトと接してカイトの人柄を見た。それに『神の裁き』でも俺達自身には何もなさらず神はお帰りになった。……カイトのおかげなんだろう?」

「それは……私のおかげかは兎も角、一応『神の裁き』の結果は合格だそうです。レンも何とかなるって」

「そうか……神は本当に俺達の行いを見ていたんだろう。俺達に与えられた『守護天使ガーディアン』という力が適切に行使されていたかどうか。……レンは神が俺達に試練を与えるために……」


……スゴイな、やっぱり感覚的に分かるものなのか。

ゴウさんはどう思ってるんだろうな。

自分の娘のことだからな、さっきは本音を見れたが……


「カイト、俺は今個人的には自分の娘を出しに使った神よりも、娘や俺達のために頑張ってくれたお前の方を断然信頼している」

「ゴウさん……」

「神のために、ということでも俺達は戦うだろうが俺も1人の人間で、1人の父親だ。近くにいて、分かりあえる者のために戦いたいという想いだってあるさ」


……見方によってはその考え方はマズいんじゃないかとも思うが、俺はそういう考え方は嫌いじゃない。


「カイトが国から追われているというのも、俺にはカイトが悪いことをしたとは到底思えん。無理に聞こうとは思わんがきっと何かしら事情があるんだろう」

「……もしかしたら、ゴウさん達天使を騙して利用するためにという事も……」

「それならそれで構わんさ。……カイト、俺達では不満か?」


ゴウさんが天使達に一度目を向けてから、改めて俺を見る。


「皆さん……こんなに強い方々に味方していただけるのならとても心強いです。……お願いできますか?」

「ああ、任せておけ。必ずお前の力になる、な、皆!」

「「「おおう!!」」」


天使達の声が轟く。

本当に頼もしい……


後は悪い宗教団体にならないよう気をつければバッチリだな。


さて……


「ゴウさん、話が纏まったところで一つお聞きしたいことが」

「ん?何だ?」

「この里の財源って結構逼迫してるんですよね?原因って……」


この話をするとゴウさんの顔が歪む。

とても怖い。


「うむ……去年まではとある機械を作って、それを下界に売りに行っていたんだ。それを主な財源としていた。だがそれをつくれる者が里の大量のお金を持ったまま失踪してしまったんだ」


そこは一応それっぽいことを話していたのを聞いたな。

神様アイツは話を聴けば何とかできる風に言っていたが……


「その機械って言うのは……」

「ん?ああ、一応一つ里にまだ残っているから見てみるか?」


あ、そうなの?

見れば何か分かるかもしれないからな。

お言葉に甘えて見せてもらおうか。


俺はゴウさんについて行ってその機械が有るところへと向かう。

里の奥に位置するそこは大きな蔵のようなところとなっていた。

扉は重厚に、鍵も何重にもなされている。


中へ入ると……


「こ、これは!?」

「これが『カイン』、あっちが『アクト』。あれが『サレ』だ。どうだ、何か分かっ……カイト?」

「ああ、いえ、すいません、少し驚いてしまって」

「まあ無理もない。あまり見んものだしな」


俺はそこで驚いているんではないんだが……


俺が目にしたものは、確かにここではあまり目にできないだろう機械。

だがそれは俺が元の世界ではそれなりに見たことが有ったものだった。


その一つは……俺が実際に買ったことのある物。

リンカの町での出来事を、そして、未だ目を覚まさない親友を思い起こさせる。


「……これは、延命に用いられる機械ですか?」

「良くわかったな。こんな複雑な外観をしているんだ。初見では分からないと思ったんだが」

「……これは一度自分で購入したことが有ります」


俺はその機械に触れながら、色々と感慨にひたる。

そうか……

天使の祖先は確かに日本人だ。

サクヤを作った男の製作者が理系だったんだ。

その幼馴染が理系だったとしてもおかしくは無いだろう。


そして、その先祖達にその技術が行き渡っていたとしても、それはそれで納得がいく。

『神の裁き』が不合格だったことで失われるのは裁きに関する記憶だけらしいからな、技術はきっちりと受け継がれていれば忘れられることは無い。


あんな技術力がどうしてこの世界に存在しているのか疑問に思ったこともあったが……

なるほどな。


でもこれを知ってどうすれば……


「材料はあるんだがやはり作り方も知らなければ実際に作る工程を試したことも無い。アイテムとは言ってもこれじゃあなぁ……」

「え?ゴウさん、今なんて……」

「ん?あーっと……アイテムと言ってもこれじゃあなぁ、か?それがどうした?」

「ゴウさん、これらは全て、『アイテム』なんですか!?」

「あ、ああ、そうだが……」


俺が食いつき気味に尋ねるとゴウさんは少し気押されたかのように答える。

そこまで威圧気味に尋ねたつもりは無いんだが……


アイテムでしかも材料がある……ならもしかしたら!

俺はすぐさま自分のスキルから『契約恩恵(主人)』、そして『アイテム創造』を見つけて鑑定する。



アイテム創造:今までに実際に手に入れたことのあるアイテムを、MP・材料を消費することを原則として創り出すことができる。

創り出すアイテムが高価・上級・希少であればあるほど必要となるものもそれに応じて変わってくる。

自己の強さに応じて1日に創り出せるアイテムの個数が増える。



なるほど……

上級ポーションを創った時のこともこれで説明がつくな。

ちゃんと『原則』って記述してやがるし。


なら、材料があれば今度は……


「ゴウさん、ゴウさんの話が正しければこれ、もしかしたら創れるかもしれません」

「な!?ほ、本当か!?」


今迄で一番驚いた顔を見せるゴウさん。

俺もその顔を見て驚く。


うん、ゴメン、普通に怖かった。


「材料さえ用意していただければ実験できるんですが……」

「あ、ああ、分かった直ぐ用意する」


そう言ってゴウさんは急いで出て行き、数分後、何人かの天使と壊れた機械マシンを幾つか担いで戻ってきた。


「これが……材料ですか?」

「ああ、作っていた奴はずっと作るために外に出て戦っていた。戻ってくるときもこれを持って帰ってきた。間違いない」


まあ機械を作るんだから機械を用いるのはおかしくは無いか。


とりあえず材料が揃えば今はいい。


俺はゴウさん達から受け取り上級ポーションを創った時のように『アイテム創造』を使う。


同じような過程を経たが、途中の選択で今度はちゃんと選択肢が増えていた。


俺は材料から創り出す方を選択し、そして……


「な、な!?カイト、これは……」

「ふぅ、どうやら成功したようです。1日に作り出せる数は限られていますが……これで何とかなりますかね?」

「カイト……だが……」

「ゴウさん、遠慮しないで下さい。私に協力して下さるのならその人たちの生活を何とかしたいと思うのは当たり前です」

「流石にそこまでお前に頼るわけには……」

「それじゃあ……私の仲間が偶にここに訪れた際も受け入れてあげてください。とてもいい子達なんで。お願いします」


俺はきちんと90度になるよう頭を下げ、自分なりに真摯に頼み込む。


「本当に、お前には何と礼を言えばいいか……里の長としても、レンの父親としてもお前には頼りっきりで……」


ゴウさんにつられて周りにいた天使達までもらい泣きする。

うーん、普段は泣かないであろう男泣きを見ると色々と考えさせられることがあるな。

ゴウさんに限って言えば娘のために、そして里のために色々と頑張っていたらそれだけ想いも募るだろう。


天使達も自分たちのために奮闘してくれている長が泣いたらグッと込み上げて来るものもあるか。


そんな彼等の力に、少しでもなれたのなら……良かったの、かな?



=====  ????視点  =====


ボクには今日、とっても嬉しい出来事が3つも起きた。


1つ目は病気で寝ていることが多かったお母さんが元気になったこと。

お母さんは元気になった体でボクを抱きしめてくれた。

お母さん、ちょっと体が細かったかな?でも、とっても温かかった……


2つ目は今まで嫌われていたと思っていたお父さんと仲良くなれたこと。

お父さんがあんなに怒っているところを初めて見たけど、あれってボクのために怒ってくれたんだよね?

お父さんに愛されてたんだって思ったらとっても心がポカポカした……


3つ目は……お兄ちゃんと出会えたこと、かな?

えへへ、ちょっとロマンチックに言い過ぎたね。

でも、本当にお兄ちゃんと会えたことはボクにとっては凄く、凄く、嬉しくって……何だか同じことばっかり言っちゃうな。

言葉にするのって難しいね。


兎に角、ボクは今日1日でとっても嬉しいこと3つも経験しちゃった。

お父さんが帰ってきた後一緒に確認したら『守護天使ガーディアン+α』って言うのがボクに付いてたけど、ボクにとってはそんなことよりも、何も無いボクをちゃんと肯定してくれた、お父さんとお母さん、それにお兄ちゃんとのことの方がずーっと大切。


今もお父さんとお母さんと3人でご飯を一緒に食べている。

こんな時間が来るなんて……


でも、そんな中で悲しいことも。


……明日、お兄ちゃんが帰っちゃうんだって。

また来てくれるって言ってたけど、お兄ちゃんと離れちゃうのは……やっぱり寂しいよ。


「レン、あんまり進んでいないようだが」

「どこか調子でも悪いの?」


お箸が止まっていたからかな、二人がボクを心配してくれる。


「ううん、ゴメンね、ちょっとボーっとしてた。とってもおいしいよ、ご飯」


心配させないようにご飯を口の中に入れる。

うん、別においしいってことは嘘じゃない。

本当にお母さんが作ってくれたご飯はおいしい。

今迄はお父さんが作ってくれていたけど、本当のことを言うとお母さんが作ってくれたご飯が食べたいって思うこともあった。

お父さんには悪いけど、やっぱりご飯はお母さんの方がうまいかな?


「レン、心配事があるんなら遠慮せず言うんだぞ?」

「……きっと明日カイトさんが帰っちゃうからじゃない?」

「え!?だが、別にカイトが永遠に来ないというわけでは無いだろう?また来てくれるって……」

「もう、女心が分かってない!あなた、女って言うのは大切な人とは少しでも長い時間一緒にいたいものなの!」

「そ、そうなのか?」

「当たり前じゃない!もう、私だってあなたと……」

「カリン……」

「あなた……」


娘の前でイチャイチャするのは止めて欲しいんだけどなぁ。

まあ仲が良いっていうのは悪いことじゃないよね?

それを今目の前でされるって言うのは問題だけど。


「ん、んんん」

「おっと」

「あら」


ちょっと咳払いすると二人は自分達の世界から戻ってきた。


「……そうか、レンもそう言う年頃か」

「ええ、レンだって女の子だもの。好きな人位できるわよ」

「……レン、カイトと一緒にいたいのか?」

「え!?う、ううん、ボクは……」


ボクは咄嗟にいつもしていたように首を横に振ってしまう。

でも本音を言ったらそりゃ……


「レン、正直に言って良いのよ?もう誰もあなたを責める人はいないし、お父さんもお母さんもあなたを守る。だから、ね?」

「ああ、お前には今まで少し厳しくし過ぎた。それなのにいきなりこんなことを言うのも何だがな、少し位我儘を言え。父親らしいことをしてこれなかった罪滅ぼしをしないと、またカイトに怒られてしまう」

「お母さん……お父さん……」


ボクが何か言ったら、二人に迷惑をかけないかな?

嫌われないかな?


「レン、レンが今考えていることは……多分違うと思うな」

「え?ボクが考えていることって……」

「迷惑がかからないかな、とか、嫌われちゃうんじゃ、とか思ってない?」


うっ……

ズバリと言い当てられてしまった。

流石お母さんだ。


「レン、親って言うのはね、いつまでたっても、自分の子が可愛いの。あなたが生まれて来てくれた時から今までも、そしてこれからもずっとそう。可愛い娘からかけられる迷惑なら、私は喜んでかけられるわ」

「で、でも、迷惑を掛けちゃうんだよ?それなのに……」

「今迄親らしいことをしてやれなかったのに言うのも申し訳ないがな……自分の娘に迷惑をかけられたのならそれはそれで俺達親としては嬉しいものなんだ」

「そうなの?」

「ええ。『ああ、この子に親として頼られてるんだなぁ』とか『この子の親でいられてるんだなぁ』ってその度に実感できるの。だから、遠慮はいらないわ。ただでさえあなたは今まで私達のために自分を押し殺してきたんだから」

「ああ、我儘くらい聴かせてくれ、レン」


本当に、いいのかな?

もし、我儘を言ってもいいのなら、ボクは……


「お父さん、お母さん、ボクは……」



=====  ????視点終了  =====



1日里で過ごして今日孤島に帰ることに。

ちなみにベルには先に帰らせた。

1日休むという事でもしかしたら心配しているかもしれないからな。

ベルからシア達に説明しといてもらえると帰ってからも俺からの説明が楽になる。


それと……休んでいる際にステータスを見ていたら一つとんでもないことが分かった。




……俺の砂粒ほどしかない運が下がっていた。

サクヤと契約した恩恵があったので実質的には±0なのだが、それでも元から少なかった運が下がることには堪えるものがある。


恐らく上級ポーションを創りだした際に引き換えにしたからだろう。

ただでさえ少ない運のせいで引き換えにする対象が運になったという可能性だってあるんだ。

悪循環的に運が今後引き換えになるということも有り得る。

定義を見たが、まだ完全に理解できたわけでは無いからな。

もう少し検討していく必要があるだろう。


はぁ、まあカリンさんの病気を治せたんだ、そこは良しとしよう。


今俺達は里の入り口で天使達に見送りをしてもらうところだ。


ゴウさん達は少し遅れるという事で今は他の天使達と話したりしながら待機中。

早く来て欲しいものだ。

と言うのも……


「御、御遣い様、本当に、昨日は、も、申し訳……」


さっきから過激派筆頭がしつこくずっとこの調子だ。

対応すんのも面倒くさくなる位なのだ。

この人も純粋に神様アイツのことを崇拝しているんだろう。

だからこうなるのも分からんではないが……ま、極端と言えば極端なんだがな。


「おおい!!皆!!」


お!

ゴウさんが大きな声で俺達を呼びこちらに近づいて来る。

やっと解放されるのか。


近づくにつれてその姿が鮮明になってくる。

おや?どうやらゴウさんとカリンさんだけじゃないらしい。


人の姿が4つある。


まあ実際にはその一人はレンだろう。

後の一人は……誰だあれは?


「スマン、準備が遅れてな」


ゴウさんが着き次第謝罪の言葉を告げる。


「お気になさらず。勝手に待っていただけですから。それで、準備って?」

「ああ。……カイト、一つ頼みがある」

「え?頼みですか?難しいものでなければ聴くのも吝かではありませんが……」


そう言うや否や、レンが前に進み出てくる。


「お兄ちゃん……ボクも一緒に連れ去……間違えた、連れて行って!!」

「おい、お前それワザとだろ。ワザと間違えただろう」

「お兄ちゃん、ボクも一緒に行きたい!!きっと役に立つから。お願い!!」

「カイトさん、レンも一緒にイキたがってるの。一緒にイッテあげてくれないかしら?」

「今度は母娘で連携ですか!?ニュアンス絶対に違いますよねそれ!?」

「ボク、まだ難しいことは良くわからないけれど……きっと役に立つから!」

「ここまで来て分からないと言っちゃうのか!?都合の悪い時だけそう言う使い方しやがってこの野郎!」

「カイト、何を焦っているのかよく分からないが……悪い話じゃないと思うぞ?」


くそっ、まさかゴウさんまで……


「レンはカイトのおかげで『守護天使ガーディアン』をつけた、最早この里の中で最強であることを誰も疑わんだろう」

「この子はもう里だけじゃないわ、この世界のどこでも恐らく通用する強さを備えてる。だからカイトさんの足を引っ張ることは無いと思うわ」


レンが強いという事は知っているしそれが『守護天使ガーディアン』を備えたとなると……まさに鬼に金棒だ。

別に役に立つ立たないは特に問題としていないんだが……


俺はレンに視線を合わせるために少し膝をかがめて話しかける。


「その、レン、折角カリンさんも元気になったんだし、ゴウさんとも上手くやり直せる機会ができたんだ。俺だって別に一生ここに戻ってこないわけではないぞ?またここに来る。だから別に俺についてくる必要は……」

「……じゃあお兄ちゃん……ボクをお兄ちゃんの奴隷にして!!」

「ああ、そうか、奴隷なら……え、奴、奴隷!?お前レン、何言ってんのか分かってんのか!?」

「うん。昨日お父さんとお母さんと一緒に全部ちゃんと話し合って決めたことだよ」

「ゴウさん、カリンさん、自分の娘がこんなこと言ってんですよ!?大丈夫なんですか!?」


俺はいきなりの爆弾発言に狼狽しながら二人に確認する。


「ああ、昨日3人で話し合った結果だ。……カイト、俺達はレンと『親子』として見えなくても強い絆、そして『守護天使ガーディアン』という一つの形ある繋がりがある。どちらも姿は異なれど切れない強いものだ」

「でもお兄ちゃんとは、兄妹っていう一つのものしかない」


……いや、別に実際の兄妹ではないんだが。


「なら、カイトさんとも一つ私達のような形ある絆を作れば!って話になって、そしたら……」

「ちょうどカイトとの話で昨日あっただろう。奴隷契約を行える者が里にいると。コイツがそうだ」


そう言ってゴウさんが連れてきた4人目を紹介する。


「奴隷契約なんて里では本当に久しぶりだったからな、コイツの準備に手間取って遅れてしまったんだ」


ああ、なるほど、それなら納得……ってなるか!


「ゴウさん、カリンさん、本当に分かってますか!?娘さんが他人の奴隷になるんですよ!?」

「ああ、そんなこと分かっているさ」

「ええ。普通なら絶対に許可なんてしないわ。でも……」


カリンさんはレンの頭を優しく撫でて微笑む。


「この子のお願いだったから。聴いてあげたくって」

「お願いって……」

「俺達はこの子に親らしいことを全くと言っていいほどしてやれなかった。だから我儘の一つくらい叶えてやりたいんだ」

「お父さん、お母さん……本当にありがとう」

「構わんさ。……それに、奴隷になると言っても、相手がカイトなら俺は全く問題無いと思っている」

「私もよ。カイトさん、私達だって娘が大切なの。変な相手だったらもちろんOKなんて出さないわ。あなただから大丈夫だって思ったの」

「だからカイト、もし迷惑でなければ、レンを連れて行ってやって欲しいんだが」


……ああ、そういう言い方されると断り辛いんだけどなぁ。

別に積極的に断わりたいと思っているわけでは無いが……


「……レン、俺は国から追われている身だ。俺についてきたらきっと辛いことや大変なことだって起きる。戦うことだって少なくないかもしれない。それなら、俺はまだこの里にいてくれた方が安全だと思うんだが……」

「大変なんだったら尚更だよ!!……ボク、何もお兄ちゃんがしてくれたことにお返しできてない。お父さんから昨日聴いたよ。『守護天使ガーディアン』は大切な人を守るための力だって。お兄ちゃんがボクを守ってくれたように、ボクもこの力を大切な人―お兄ちゃん―を守るために使いたい!!」

「レン……」


レンの体は少しではあるが震えていた。

だが、昨日のような弱弱しい姿はそこには無く……

瞳は力強く俺の目をしっかりと捉えて離さない。


……もう、昨日とは別人だな。

まだ会って二日しか経ってないのに、その変化をしっかりと見て取れるほどにレンの雰囲気は違っていた。


この子はもう、守られるだけの弱い存在じゃないんだ。

確かに純粋な戦闘と言う意味での強さも際立つが、この子は心の強さでも十分成長して、しっかりとした芯を持っている。


別に一生この子を連れてここには戻らないという事でもない。

孤島との行き来もそこまで困難な距離でもないしな。


それになによりレン本人がここまで言ってくれてるんだ。

この子の想いもくんであげたい。


「……じゃあ、レン、一緒に来てくれるか?」

「お兄ちゃん……うん!!お兄ちゃん、大好き!!」

「うぉっ!」


レンの顔からは満面の笑顔の花が咲き、タックルが如き抱き着きを、俺は何とか受け止める。


≪……しょうがないのう、今だけじゃからな≫

「姉じゃ、優しいですね、立派です」

≪……まあ我はいい女じゃからな。心の器も広いんじゃよ≫

「えへへ。ありがとう、リゼルン。これから宜しくね」

≪な、何じゃ、その奇怪な呼び名は!?≫

「え~、いいじゃん、リゼルン、可愛いと思うよ、ボクは」

「か、可愛い……」

≪ほ、本当か!?主殿に好かれるか!?≫


自分の呼び名の基準がそれでいいのだろうか……


まあそれはそうと、また仲間が一人増えたな。


神様アイツからの助言もあったし、また戻ったら色々と考えなければならないことも増えたが……

まあ今位は素直にレンが仲間になってくれたことを喜ぶとするか。


「えへへ~……お兄ちゃん、大好き。(チュッ)」

≪ぬわ~!!まだ我もしていないことを、こんのぉ……≫

「あ、姉じゃ、立派な女性はどうしたんです!?」

≪んなもん知らんわ!今は目の前の障害を……≫

「悔しかったらリゼルンもしてみればいいじゃん」

≪ぐぬぬぅ~、わ、我だってそ、それ位……≫

「さ、流石にいきなり主様と、そ、その、接吻は……」

「できないんなら仕方ないよね。じゃあボクがお兄ちゃんと……」

≪こなくそぅ!!≫

「あ、姉じゃ、暴走は……」



……やっぱりもう少しだけ静かにしてもらえた方が嬉しいかもしれん。



その後俺はレンと奴隷契約を済ませた。


そして、別れの時が……


「お父さん、お母さん……行ってきます」

「ええ」

「ああ、気を付けてな……っとそうだ、カイト、これを持って行け」

「え?これは……」


ゴウさんは懐から大きな水晶を取り出して俺に手渡す。

お、重い……

ボーリング大ではあるがその重さはかなりのものだ。


よくもまあ平気な顔をしてこんなもの懐に入れて歩けるものだ。


「これは?」

「『水神の青玉』というものだ。いつでも水を貯め、また出すことができる。この里には一つあるからな。持って行ってくれ」

「え!?そんな貴重そうなものいいんですか!?いただいてしまって……」

「言っただろう、一つもう里にあるんだ。カイトが持って行ってくれた方が有用だろう。財源のことも考えて売ることも里では考えたが……これは俺達のご先祖が残してくれたものでな」

「だったら、余計にいただくわけには……」

「俺達はもう既にカイトと共に戦うと決めている。カイトに渡すんならと里の者達も納得しているんだ。カイトから貰ったものとは比べものにはならんだろうが……」

「……いえ、そんなことはありません。では有りがたくいただきます」


まだ水という事で生活に使う位しか思いつかないが、天使達のご厚意は有りがたい。


「あ、じゃあボクもお兄ちゃんに……はい!!」


レンもゴウさんに続いて何か俺に渡して……


「え?レン、これは……」

「ボクのお願いはもう叶ったから……お父さんと仲良しになれたし、それに、お兄ちゃんとも出会えた。だから、これはお兄ちゃんたちが使って」


俺とリゼル、サクヤはそれぞれ1本の花を受け取る。


「本当に、いいのか?」

≪レン、お主……≫

「レン……」

「レンさん……」

「うん!……まあ元はお兄ちゃん達のおかげで採れた花だけど……貰ってくれる?」

「……ああ、これも、貰っておくよ。ありがとな、レン」

「うん!えへへ……」

「じゃあ……ゴウさん、また」

「ああ。またな。レン、ちゃんとやるんだぞ」

「レン、どんどんカイトさんにアタックするのよ、あなたならきっと行けるわ!」

「うん。ボク、頑張るよ!!」


おい、何を頑張んだ。

この母娘は本当に……



俺達はその後レンとサクヤを新たに仲間として迎え、孤島へと戻って行った。



どうでしたでしょう。

以前天使の里編のオチが予測できたというご感想をいただいて少し不安でしたが……


今回は神様の登場で色々と情報が増えましたね。

仲間も増えました。

純粋な意味ではレンとサクヤを指しますが、天使達も彼の戦力に。


後、気になるかな、と思うのはやはり『Sランクの冒険者』ですかね。

何人いるのかも一応過去のお話に記述しています。


それが今後主人公とどう絡んで行くのか……

以降のお話をお待ちいただければ。

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